説明

ゴルフクラブ用シャフト

【課題】 ゴルフボールの飛距離を大幅に伸ばすことのできるゴルフクラブ用シャフトを提供する。
【解決手段】 バット端(11B)からチップ端(11A)に向けて外径が漸減する円管状をなすゴルフクラブ用シャフト(11)において、チップ端から530mmを越える部位までの間には撓りを減少し抑制する補強層(11C)を形成することにより、チップ端から530mmを越える部分の振動数を補強層を形成しない場合に比して高くする。補強層は強化繊維の引張弾性率が245GPa以上のプリプレグシートを2プライ以上巻回して形成されるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブ用シャフトに関し、特に同一速度でスイングしてもゴルフボール打撃の瞬間におけるヘッドスピードを増大させてゴルフボールの飛距離を伸ばすことのできるようにしたシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ競技中にゴルフボールの飛距離が大きく伸びると、次のショットを楽に行え、スコアアップにつながる。ゴルフボールの飛距離はゴルフボールの初速、打ち出し角及びスピン量に依存することが知られ、ゴルフボールの初速はゴルフボール打撃の瞬間におけるヘッドスピードによって決まる。ヘッドスピードはシャフトの軸線方向における曲げ剛性の分布に依存するとされている。
【0003】
通常、ゴルフクラブ用のシャフトは先端(チップ端)側から後端(バット端)側に向けて外径が漸増した円管状に製作されている。従来、チップ端とバット端との間における軸線方向の曲げ剛性の分布を種々調整することにより所望の撓りを確保するようにしたシャフトが種々提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0004】
ところで、曲げ剛性はシャフト材料のヤング率Eとシャフトの慣性モーメントIとの積EIで示される特性であるが、曲げ剛性の分布を測定する場合には長さLのスパンを有する一対の支点の上にシャフトを載置し、中間の測定点においてシャフトの中心軸線に直交する方向に任意の撓み量δを生じさせる時の荷重Wを測定し、次の式から求めることが行われている。
EI=(1/48)×WL3/δ
【0005】
【特許文献1】特開2003−199854号公報
【特許文献2】特開2003−199855号公報
【特許文献3】特開2002−224256号公報
【特許文献4】特開平11−76479号公報
【特許文献5】特開平10−127838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の測定方法によって得られる曲げ剛性の分布は静的な特性であり、ダウンスイング時におけるシャフトの動的な挙動を必ずしも正確に反映していない。
【0007】
つまり、特許文献1〜5記載のゴルフクラブ用シャフトでは先調子、中調子、手元調子といったシャフトの撓り具合を調整しているものの、実際にゴルフボールを打撃する瞬間のシャフトの動的な挙動はいずれのシャフトもあまり相違せず、期待したほどヘッドスピードが向上していないのが実情であった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み、ゴルフボールを打撃する瞬間のヘッドスピードを向上できるようにしたゴルフクラブ用のシャフトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明に係るゴルフクラブ用シャフトは、バット端からチップ端に向けて外径が漸減する円管状をなすゴルフクラブ用シャフトにおいて、チップ端から530mmを越える部位までの間には撓りを減少し抑制する補強層が形成されることにより、ダウンスイング時におけるチップ端から530mmを越える部分の振動数が上記補強層を形成しない場合における振動数に比して高くなっていることを特徴とする。
【0010】
本件発明者らはシャフトの動的な挙動について実験を繰り返したところ、次のようなことを知見するに至った。即ち、ゴルフクラブのダウンスイングを開始すると、図6に示されるように、シャフトSはクラブヘッドH及びシャフトSの慣性力に起因してシャフトSの中間部位を中心としてヘッドHの遅れ側に大きく湾曲し、ダウンスイングの途中で一旦真っ直ぐな状態ST1に戻り、その後ヘッドHの進み側に湾曲し、そのシャフトSがヘッドHの進み側に湾曲した状態でヘッドHがゴルフボールBと衝突する。
【0011】
すると、図7の(b)に示されるように、ヘッドHとゴルフボールBが衝突した瞬間IPにシャフトSは衝突に起因する衝撃力を受けて真っ直ぐな状態に瞬間的に戻った後ヘッドHの遅れ側に湾曲し、その状態でゴルフボールBがヘッドHから離れて飛球する。つまり、シャフトSがヘッドHの進み側から瞬間的ではあるが、元の真っ直ぐな状態に戻ってさらにヘッドHの遅れ側に湾曲する時間的な遅れが生じ、この時間的な遅れがヘッドスピードを低下させる原因になっていることを究明するに至った。
【0012】
次に、本件発明者らはチップ端から従来の一般的なシャフトにおいてシャフトが最も湾曲する点(キックポイント)を越える部位までの間に補強層を形成してその部分を撓り難くしたシャフトを試作し、その動的な挙動について実験を行った。チップ端から従来の一般的なシャフトにおいてシャフトが最も湾曲する点(キックポイント)を越える部位までの間を補強層によって撓り難くすると、ダウンスイング時に補強層を形成した部分の振動数(慣性力に起因してヘッドの遅れ側に湾曲し真っ直ぐな状態に戻りさらにヘッドの進み側に湾曲し真っ直ぐな状態に戻るという挙動の振動数)が補強層を形成しない場合の振動数に比して高くなる。つまり、ゴルフクラブのダウンスイングを開始すると、図5に示されるように、シャフトSはクラブヘッドH及びシャフトSの慣性力に起因してシャフトSの中間部位を中心としてヘッドHの遅れ側に湾曲した後、一旦真っ直ぐな状態ST1に戻り、さらにヘッドHの進み側に湾曲し、再び真っ直ぐな状態ST2になった後、次にヘッドHの遅れ側に湾曲し、真っ直ぐな状態ST3に戻った瞬間IPにヘッドHがゴルフボールBと衝突する。
【0013】
すると、図7の(a)に示されるように、ヘッドHとゴルフボールBが衝突した瞬間にシャフトSは衝突に起因する衝撃力を受けるが、チップ端から従来の一般的なシャフトにおいてシャフトが最も湾曲する点を越える部位までの間が撓り難くなっているので、シャフトSはほぼ真っ直ぐな状態のままでゴルフボールBがヘッドHから離れて飛球する。つまり、シャフトSがヘッドHの進み側から遅れ側まで湾曲する時間的な遅れが生ずることなく、ゴルフボールが打撃されて飛球し、プレイヤーのスイングスピードがそのままヘッドスピードに反映できることとなる。
【0014】
従来の一般的なシャフトではキックポイントがチップ端から480mm〜520mmの部位に設定されることが多い。そこで、補強層はチップ端から530mmを越える部位までの間に形成するのがよい。
【0015】
シャフトの製造方法にはシートワインディング法や3軸ブレイディング法など、種々な方法が知られているが、本発明に係るゴルフクラブ用シャフトを製造する場合にはシートワインディング法が最適である。本件発明者らが試作と実験を繰り返したところ、補強層は、強化繊維の引張弾性率が245GPa(25tf/mm2)以上、好ましくは294GPa(30tf/mm2)以上のプリプレグシートを2プライ以上巻回して形成されるのがよいことが確認された。
【0016】
ここで、シートワインディング法とは強化繊維のシートマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグをマンドレルに加圧しながら巻回し、シャフトを製作するという方法である。シャフトの特性に応じて強化繊維の方向をマンドレルの軸線に対して傾斜させることも行われている。
【0017】
プリプレグの強化繊維は炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化シリコン繊維などを採用することができる。また、プリプレグのマトリックス樹脂にはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体例に基づいて詳細に説明する。図1及び図2は本発明に係るゴルフクラブ用シャフトの好ましい実施形態を示す。シャフト11はチップ端11Aからバット端11Bに向けて外径が漸増した円管状をなし、チップ端11A側はクラブヘッド10のホーゼル(又はネック)10Aに差し込まれてクラブヘッド10に連結され、バット端11B側にはグリップ12が外嵌される。
【0019】
このシャフト11のチップ端11Aからバット端11Bまでの長さL0は1100mmに設定され、シャフト11のチップ端11Aから550mmまでの部位L1には撓りを軽減し抑制する補強層11Cがシャフト11の外周側に形成されている。
【0020】
本例のシャフト11を製造する場合、図1に示すように、第1ないし第5の主プリプレグシート20〜24、バイアスプリプレグシート25、26及び補強用プリプレグシート27、28を準備する。これらのプリプレグシート20〜28は例えば炭素繊維強化シートにエポキシ樹脂を含浸して製作されている。補強用プリプレグシート27、28は強化繊維の引張弾性率が245GPa(25tf/mm2)以上、好ましくは294GPa(30tf/mm2)以上の繊維強化シートが用いられている。
【0021】
なお、第1ないし第5の主プリプレグシート20〜24及びバイアスプリプレグシート25、26については補強用プリプレグシート27、28と同一のシート素材を用いてもよく、要求されるシャフト11の硬さなどに応じて他のシート素材を用いることもできる。また、補強用プリプレグシート27、28は長さ550mmの1枚のシートとすることもできる。
【0022】
また、第1、第2のプリプレグシート20、21は強化繊維の方向がシャフト11の中心軸線に対して+45°及び−45°に配向するように切断され、その巻き位相が180°ずれるように貼り合わされている。
【0023】
まず、マンドレルMの先端側にバイアスプリプレグシート25を炭素繊維の方向がマンドレルMの中心軸線と平行になるように例えば3プライ(3層)巻き付けた後、その上から第1、第2の主プリプレグシート20、21を例えば6プライ(6層)だけ巻き付ける。この第1、第2の主プリプレグシート20、21によってシャフト12のねじれが抑制される。
【0024】
次に、マンドレルMの先端側にバイアスプリプレグシート26を炭素繊維の方向がマンドレルMの中心軸線と平行になるように例えば3プライ(3層)巻き付けた後、第3〜第5の主プリプレグシート22〜24を炭素繊維の方向がマンドレルMの中心軸線と平行になるように例えば6プライ(6層)巻き付け、こうしてシャフト素形状を製作する。この第3〜第5の主プリプレグシート22〜24によってシャフト11の曲げ強度が確保されるとともに、プリプレグシート間の層間剥離が軽減され抑制される。
【0025】
その後、マンドレルMの第1の主プリプレグシート20の巻き付け開始端から200mmの位置を開始位置とし、この開始位置から350mmの位置(開始端から550mmの位置)まで補強用プリプレグシート27を炭素繊維の方向がマンドレルMの中心軸線と平行になるように2プライ以上、例えば3プライ(3層)巻き付ける。
【0026】
最後に、補強用プリプレグシート28を炭素繊維の方向がマンドレルMの中心軸線に対して平行になるようにマンドレルMの第1の主プリプレグシート20の巻き付け開始端から巻き付けを開始し、マンドレルMの第1の主プリプレグシート20の巻き付け開始端から200mmの位置まで2プライ以上、例えば3プライ(3層)巻き付ける。
【0027】
プリプレグシート20〜30のマトリックス樹脂が硬化した後、マンドレルMを引き抜くと、例えば1170mmの寸法のシャフト素材が得られる。
【0028】
得られたシャフト素材を所定の寸法、例えば1100mmの長さに切断し、チップ端11Aをクラブヘッド10のホーゼル(又はネック)10Aに差し込んで取付け、シャフト11のバット端11Bにクリップ12を外嵌すると、ゴルフクラブが得られる。
【0029】
プレイヤーがゴルフクラブGのグリップ12を握り、スクエアーに構えてアドレスし、バックスイングし、トップの位置からダウンスイングを行うと、ゴルフクラブGは図3に示されるような動きとなる。
【0030】
そこで、グリップ12の後端を中心としてゴルフクラブGの挙動を図示すると、図5に示されるようになる。図5において、シャフトSはクラブヘッドH及びシャフトSの慣性力に起因してシャフトSの中間部位を中心としてヘッドHの遅れ側に湾曲するが、チップ端から550mmまでの部分が撓り難いので、湾曲は従来の一般的なシャフトに比して小さい。その後、ダウンスイングの途中で一旦真っ直ぐな状態ST1に戻り、次にヘッドHの進み側に湾曲し、再び真っ直ぐな状態ST2になった後、次にヘッドHの遅れ側に湾曲し、真っ直ぐな状態ST3に戻った瞬間IPにヘッドHがゴルフボールBと衝突する。
【0031】
この時、シャフト11のチップ端11Aから550mmの部位までの間を補強層11Cによって撓り難くしているので、この部分の振動数は補強層11Cを形成しない場合の振動数に比して高くなる。
【0032】
本例のシャフト11の撓りA及び撓りの復帰速度Vを図4に示す。図中、IPがインパクトの瞬間である。また、従来の一般的なシャフトの撓りBもあわせて示している。なお、本例では補強用プリプレグシート27、28を設けていないシャフトを従来の一般的なシャフトとしている。
【0033】
本例のシャフトではシャフト11のチップ端11Aから550mmの部位までの間の振動数が補強層11Cを形成しない場合の振動数に比して高くなっているので、シャフト11全体の撓りAの周期も従来の一般的なシャフトの撓りBの周期に比して短い。
【0034】
すると、図7の(a)に示されるように、ヘッドHとゴルフボールBが衝突した瞬間にシャフトSは衝突に起因する衝撃力を受けるが、補強層11Cによって撓りが減少され抑制されているので、実質的に真っ直ぐな状態のままでゴルフボールBがヘッドHから離れて飛球した後、シャフト11の補強層11Cを形成した部分はヘッドHの遅れ側に湾曲しながらフォロースルーとなる。つまり、シャフトSがヘッドHの進み側から遅れ側に湾曲する時間的な遅れが生ずることなく、ゴルフボールが打撃されて飛球し、プレイヤーのスイングスピードがそのままヘッドスピードに反映できることとなる。
【0035】
本件発明者らの実験によれば、ヘッドスピードが40m/secの場合に約1.57m/secだけスピードアップすることが確認された。
【0036】
図8は第2の実施形態を示し、図において図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。第2の実施形態では補強用プリプレグシート27、28を第1、第2のプリプレグシート20、21と第3〜第4の主プリプレグシート22〜24の間に巻き付けるようにしている。このように補強層11Cは必ずしもシャフト11の外周側に設ける必要はなく、シャフト素形材の中間層に形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るゴルフクラブ用シャフトの好ましい実施形態における製造工程を模式的に示す図である。
【図2】上記実施形態のシャフトを備えたゴルフクラブの1例を示す図である。
【図3】ゴルフクラブのスイング中におけるゴルフクラブの状態の変化を示す図である。
【図4】上記実施形態におけるシャフトの撓り及び撓りの復帰速度の変化、従来の一般的なシャフトの撓りの変化を示す図である。
【図5】上記実施形態におけるダウンスイング時のシャフトの撓りの例を示す図である。
【図6】ダウンスイング時の従来の一般的なシャフトの撓りを例を示す図である。
【図7】クラブヘッドとゴルフボールとが衝突する前後のシャフトの撓りの例を詳細に示す図である。
【図8】第2の実施形態における製造工程を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 クラブヘッド 11 シャフト
11A チップ端 11B バット端
11C 補強層 12 グリップ
27、28 補強用プリプレグシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バット端からチップ端に向けて外径が漸減する円管状をなすゴルフクラブ用シャフトにおいて、
チップ端から530mmを越える部位までの間には撓りを減少し抑制する補強層が形成されることにより、ダウンスイング時におけるチップ端から530mmを越える部分の振動数が上記補強層を形成しない場合における振動数に比して高くなっていることを特徴とするゴルフクラブ用シャフト。
【請求項2】
上記補強層は、強化繊維の引張弾性率が245GPa以上のプリプレグシートを2プライ以上巻回して形成されている請求項1記載のゴルフクラブ用シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−252574(P2007−252574A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80100(P2006−80100)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(504073067)
【出願人】(506019337)
【出願人】(506019348)
【出願人】(591250400)株式会社グラファイトデザイン (2)
【出願人】(500055935)
【Fターム(参考)】