説明

ゴーシェ病の治療方法

【課題】遅発型ゴーシェ病の治療用薬剤及び治療法の提供。
【解決手段】β−グルコセレブロシダーゼの変異体の薬理学的シャペロンとしての活性を有するアンブロキソール、ブロムヘキシン、又はその誘導体。治療法は、治療を必要としている患者に上記組成物を治療効果に有効な量を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴーシェ病の治療のための小分子化合物の使用に関する。
【0002】
本願は、35 U.S.C. § 119(e)に基づく仮出願の優先権主張を伴った出願である。また、2007年9月17日出願の米国出願第60/972,968号明細書、2008年2月12日出願の米国出願第61/065,550号明細書、2008年2月13日出願の米国出願第61/065,684号明細書で開示された内容は資料として本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
リソソーム貯蔵障害(LSD)は、グリコスフィンゴリピド、グリコーゲン、ムコ多糖及び糖タンパク質等の様々な基質の代謝異常を要因とする疾患群である。外因性又は内因性の高分子化合物の代謝は通常リソソームで行われ、通常は分解酵素により段階的に制御される。例えば、β−グルコセレブロシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼはグリコスフィンゴリピドの異化反応に関与する。
【0004】
たとえ一つであっても異化(分解)作用酵素の活性が欠損した場合、その代謝工程に異常が生じ、その結果、特定の基質が蓄積することとなる。リソソーム代謝工程の一部であるβ−グルコセレブロシダーゼ酵素(「GCase」又は「Gcc」とも記載する)はラクトシルセラミドの末端グルコース残基を開裂させる。1残基又は2残基以上のアミノ酸の変異によるGCaseの欠陥により、ゴーシェ病として知られるLSDを引き起こす。ゴーシェ病においては、変異アミノ酸に応じて、様々なGCase変異体がラクトシルセラミドの開裂活性を減少させ、ほとんど失活、又は完全に失活させる。この疾患の重篤性は、残存する酵素活性の相対的なレベル及び基質の蓄積結果の度合いと関係する。
【0005】
現在のところ、ゴーシェ病患者は、患者一人あたり年間約300000米ドルの費用をかけて高価な酵素置換治療法を使用して、又は、非特異的な基質合成抑制療法を使用して治療されている。これらの治療においては、酵素欠損そのものの治療は行われず、むしろ、全てのガングリオシドの合成レベルを減少させることで、基質の蓄積に対処している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゴーシェ病患者を治療するための、有効でより低廉な方法が必要である。本発明は、当該需要に応えたものである。
【0007】
ブロムヘキシン及びその代謝産物であるアンブロキソールは、粘着性粘液又は過度の粘液を伴う呼吸器疾患の治療に使用される去痰改善剤及び粘液溶解薬である。これらはその構造を変化させることで粘液の粘度を減少させる。ブロムヘキシンもアンブロキソールも、リソソーム貯蔵障害の治療に関係する活性についてはこれまで知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴーシェ病疾患を有する個体に対する薬剤と治療に関し、アンブロキソール、ブロムヘキシン又はそれらの製薬上許容される塩の当該個体への有効量の投与を含む。本発明は、又、ゴーシェ病疾患を有する個体に対する治療方法に関し、アンブロキソール誘導体、限定されるものでは例えば、そのエナンチオマー、アナログ、エステル、アミド、プロドラッグ若しくはアンブロキソール代謝物、又は、その製薬上許容される塩の個体への有効量の投与を含む。ある実施形態例においては、パーキンソン病疾患を有する個体も対象となる。
【0009】
本発明のある実施形態例においては、アンブロキソール又はその製薬上許容される塩を個体に投与する。ある実施形態例によれば、その塩は塩酸塩である。本発明の別の側面においては、ブロムヘキシン又はそれらの製薬上許容される塩を個体に投与する。ある実施形態例によれば、その塩は塩酸塩である。さらに本発明の別の側面においては、アンブロキソール誘導体又はその製薬上許容される塩を個体に投与する。ある実施形態例によれば、その塩は塩酸塩である。
【0010】
本発明は又、アンブロキソール、ブロムヘキシン、アンブロキソール誘導体、及び、それらの製薬上許容される塩からなる群から選択される化合物を治療に対する有効量を製薬上許容される賦形剤と共に含んだゴーシェ病治療のための組成物に関する。
【0011】
本発明は、ゴーシェ病疾患を有する個体の治療方法に関し、
当該方法は、
(a)アンブロキソール;
(b)ブロムヘキシン;
(c)表1及び表2に示したアンブロキソール誘導体、及び、
(d)(a)〜(c)いずれか一つの製薬上許容される塩
から成る群から選択されるいずれか一つの化合物を個体に有効量投与することを含み、
当該アンブロキソール誘導体は、β−グルコセレブロシダーゼの薬理学的シャペロン活性を有するβ−グルコセレブロシダーゼ阻害剤である。本発明の一の実施形態例においては、個体はパーキンソン病疾患も有している。
【0012】
一実施形態例においては、アンブロキソールの塩酸塩、又は、アンブロキソール誘導体の塩酸塩を患者に投与する。本発明の一の実施形態例においては、誘導体はシクロヘキサン環を含む。本発明の一の実施形態例においては、誘導体はアミン基を含む。本発明の一の実施形態例においては、誘導体は少なくとも二つの臭素基を含む。
【0013】
本発明は、グルコセレブロシダーゼの安定な構造を誘導する方法に関し、
当該方法は、グルコセレブロシダーゼを、
(a)アンブロキソール;
(b)ブロムヘキシン;
(c)アンブロキソール誘導体、及び、
(d)(a)〜(c)いずれか一つの製薬上許容される塩
から成る群から選択されるいずれか一つの化合物に接触させることを含む。
【0014】
一実施形態例においては、酵素は試験管中(in vitro)で接触させる。別の実施形態例においては、酵素は生体中(in vivo)で接触させる。一実施形態例においては、グルコセレブロシダーゼは、野生型グルコセレブロシダーゼ、変異型グルコセレブロシダーゼ、及び、遺伝子工学的に設計されたグルコセレブロシダーゼから成る群から選択される。
【0015】
本発明は、ゴーシェ病治療のための組成物に関し、
当該組成物は、
(a)アンブロキソール;
(b)ブロムヘキシン;
(c)アンブロキソール誘導体、及び、
(d)(a)〜(c)いずれか一つの製薬上許容される塩
から成る群から選択される化合物を治療に対する有効量を製薬上許容される賦形剤と共に含む。一実施形態例としては、上記誘導体はシクロヘキサン環を含む。一実施形態例としては、上記誘導体はアミン基を含む。一実施形態例としては、上記誘導体は少なくとも二つの臭素基を含む。一実施形態例としては、上記組成物は表1及び2に列挙された化合物を含む。
【0016】
本発明は、アンブロキソール又はその誘導体化合物を含んだゴーシェ病治療のための薬剤に関する。一実施形態例としては、上記化合物は、シクロヘキサン環、アミン基、又は、少なくとも二つの臭素基を含むアンブロキソール誘導体である。一実施形態例としては、上記化合物は、表2に示された化合物又はその製薬上許容される塩である。一実施形態例としては、上記化合物は、アンブロキソール、ブロムヘキシン、又は、その製薬上許容される塩である。
【0017】
本発明は、表1に示される化合物又はその製薬上許容される塩を含むゴーシェ病治療のための薬剤に関する。
【0018】
本発明は、アンブロキソール又はその誘導体化合物を含むグルコセレブロシダーゼの安定な構造を誘導するための薬剤に関する。一実施形態例としては、上記化合物は、アンブロキソール、ブロムヘキシン、又は、その製薬上許容される塩である。
【0019】
本発明は、表1に示される化合物又はその製薬上許容される塩を含む、グルコセレブロシダーゼの安定な構造を誘導するための薬剤に関する。一実施形態例としては、グルコセレブロシダーゼは、野生型グルコセレブロシダーゼ、変異型グルコセレブロシダーゼ、又は、遺伝子工学的に設計されたグルコセレブロシダーゼである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本願明細書中では以下の略号及び短縮形を使用する。
「ABX」はアンブロキソールを示す。
「GCase」はβ−グルコセレブロシダーゼを示す。
「PC」は薬理学的シャペロンを示す。
【0021】
I.定義
本願明細書及び請求項で使用する単数を示す名詞は、文脈に明らかに明示してある場合を除き、複数をも示す。
【0022】
表現「治療する」及び「治療」は予想される重篤な病状を軽減及び/又は病気の進行を遅らせることを意味する。さらに、これらの表現は、既存の病状を改善して、更なる病状を防止、改善し、又、病状の原因となる代謝を防止改善することも含む。
【0023】
表現「有効量」とは、個体の治療に使用する場合、治療に有効な効果を得られる化合物の量を示す。
【0024】
ここで使用される(治療の対象としての)「個体」とは、哺乳類、時にヒトではない霊長類、例えば類人猿と猿、及び、さらに特定するとヒトを意味する。
【0025】
用語「単離された化合物」とは、実質的に、天然に存在する化合物のコンタミネーションもしくは細胞組成物がないこと、又は、合成に使用した試薬もしくは合成の副生成物がないことを意味する。「単離された」又は「コンタミナーションがないこと」は技術的に純粋(均一)を意味しないが、それを治療に使用でき得る程度には十分に純粋な化合物であることを意味する。
【0026】
ここで使用される用語「誘導体」化合物は、臭素化されていない化合物の臭素化化合物のような、第一化合物由来の第二化合物を示す。例えば、ブロムヘキシンはアンブロキソール誘導体である。
【0027】
II.本発明の化合物
現行のゴーシェ病治療は高価であり、又、症状を抑制しているにすぎず、病気の原因を治療している訳ではない。反対に、本発明においては、化合物を「薬理学的シャペロン」として使用し、低いコストで特異性の高い治療を患者に提供することができる。
【0028】
アンブロキソール、アンブロキソール誘導体、ブロムヘキシン、及び、それらの製薬上許容される塩は薬理学的シャペロン(PC)であり、より詳しく説明すると、リソソームへ輸送させることができる及び/又はリソソーム中に蓄積させることができる変異酵素の量を増幅させるものである。代表的なアンブロキソール誘導体を下記の表2に示した。これらの化合物は、小胞体に変異酵素が蓄積することで生じるリソソーム中の酵素触媒活性が減少した変異酵素により特徴付けられるリソソーム貯蔵障害疾患の治療に使用することができる。小胞体に変異酵素が蓄積することで生じるリソソーム中の酵素触媒活性が減少した変異酵素により特徴付けられるリソソーム貯蔵障害疾患の治療に使用することができる他の化合物は、アンブロキソール誘導体と共に、GCase薬理学的シャペロン活性を有する表1に示されるGCase阻害剤も含む。
【0029】
アンブロキソールは、トランス−4−(2−アミノ−3,5−ジブロモベンジルアミノ)シクロヘキサノールの化学名でも知られており下記の化学構造を有する。
【化1】

【0030】
別の実施形態例では、本発明は、アンブロキソールの製薬上許容される塩を含んだゴーシェ病治療のための薬剤である。ある実施形態例では、その塩は塩酸塩である。
【0031】
ブロムヘキシンは、2−アミノ−3,5−ジブロモ−N−シクロヘキシル−N−メチルベンゼンメタンアミンの化学名でも知られており下記の化学構造を有する。
【化2】

【0032】
別の実施形態例では、本発明は、ブロムヘキシンの製薬上許容される塩を含んだゴーシェ病治療のための薬剤である。ある実施形態例では、その塩は塩酸塩である。
【0033】
本発明の別の実施形態例では、アンブロキソール誘導体の製薬上許容される塩を含む。
【0034】
本発明は、さらに別の実施形態例では、GCaseに対する阻害活性を有する化合物を含むゴーシェ病治療のための薬剤に関する。表1にはGCase阻害剤として定義される化合物が示されており、これらは薬理学的シャペロンとしても作用する。
【0035】
【表1−1】

【0036】
【表1−2】

【0037】
【表1−3】

【0038】
【表1−4】

【0039】
【表1−5】

【0040】
【表1−6】

【0041】
【表1−7】

【0042】
【表1−8】

【0043】
【表1−9】

【0044】
【表1−10】

【0045】
表2は、種々のアンブロキソール誘導体とその変形を示したものであり、IC50の値を併記する(単位はμモル、基質として、0.3mMのMUbGlcを使用したアッセイから得られた結果である)。これらの誘導体はヒトのβ−グルコセレブロシダーゼに対する活性を有していることが示されている。
【0046】
表2に示されているように、トリブロモフェニルプロピオン酸のような化合物はGCaseに対する阻害活性が低いが、その一方で、より可撓性のあるシクロヘキサン環の形で第二の疎水基を有している化合物は良い阻害剤である。アンブロキソールと比較して、ブロムヘキシンは阻害活性において2倍の減少を示す。よって、より可撓性の疎水環成分を有するアルキルアミンを有するジブロモフェニル誘導体は、GCaseに対する阻害活性を有する候補となる。従って、本発明は、別の実施形態例において、アンブロキソール誘導体に関し、当該誘導体はより可撓性のある疎水環成分を有するアルキルアミンを含む。
【0047】
【表2−1】

【0048】
【表2−2】

【0049】
a.本発明の化合物の製造
本発明の化合物は有機合成分野における当業者に既知の方法により製造することができる。例えば、引例により本願に完全に組み込まれる米国特許出願公開第2004/0242700にはアンブロキソールの製造方法が示されている。
【0050】
b.本発明の化合物の塩
酸性及び塩基性の官能基(例えば、アミン、カルボキシル基など)を典型的に有する化合物においては、このような官能基は必ずしも遊離塩基の形でなくてもよい。本発明の化合物においては、化合物の塩の形も含むことを意図する。従って、活性剤の塩、特に、アンブロキソール及びブロムヘキシンの塩は、本発明の範囲内である。好ましい塩としては、製薬上許容される塩である。又、アンブロキソール誘導体の塩も、本発明の範囲内である。
【0051】
用語「塩」は、遊離の酸又は遊離の塩基の付加塩も含む。用語「製薬上許容される塩」は、製薬上適用される時に有用性のある範囲で毒性プロフィールを有する塩をも示す。製薬上許容されない塩でも高い結晶性などの性質を有する場合があり、それは、本発明の実施において、例えば、治療用化合物の精製や合成の過程において有用である。
【0052】
適切な製薬上許容される付加塩は、無機酸又は有機酸から製造できる。無機酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ水素酸、硝酸、炭酸、硫酸及びリン酸である。適切な有機酸としては、脂肪酸、脂環式酸、芳香酸、アルアリファチック(araliphatic)酸、複素環式酸、カルボン酸及びスルホン酸であり、例えば、有機酸は、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4−ヒドロキシ安息香酸酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(embonic)酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、酸性トリフルオロメタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β−ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸、シュウ酸、マロン酸及びガラクツロン酸から選択される。製薬上許容される付加塩の例としては、例えば、過塩素酸塩及びテトラフルオロホウ酸塩である。これらの酸性塩の全ては、アンブロキソール又はブロムヘキシンを例えば適切な酸と化合物を反応させて得ることができる。
【0053】
アンブロキソールの製薬上許容される塩基性付加塩は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属を含んだ金属塩類、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムと亜鉛などの遷移金属金属塩である。製薬上許容される塩基性付加塩としては、例えば、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)及びプロカインなどの塩基性アミンから選択される有機塩である。製薬上許容される付加塩の例としては、例えば、リチウム塩及びシアン酸塩である。これらの塩基性塩の全ては、アンブロキソール又はブロムヘキシンを例えば適切な酸と化合物を反応させて得ることができる。
【0054】
c.薬剤組成物
ある実施形態例においては、本発明は、アンブロキソール、ブロムヘキシンなどのアンブロキソール誘導体、及び、その製薬上許容される塩の治療に対する有効量を製薬上許容される賦形剤と共に含んだゴーシェ病治療のための組成物に関する。別の実施形態例においては、本発明は、アンブロキソール、アンブロキソール誘導体、及び、その製薬上許容される塩の治療に対する有効量を製薬上許容される賦形剤と共に含んだゴーシェ病及びパーキンソン病両方の治療のための組成物に関する。さらに別の実施形態例においては、本発明は、アンブロキソール誘導体、又は、限定されるものではないが、そのエナンチオマー、アナログ、エステル、アミド、プロドラッグ若しくはアンブロキソール代謝物、又は、その製薬上許容される塩の個体への有効量を製薬上許容される賦形剤と共に含んだゴーシェ病治療のための組成物に関する。タイプIのゴーシェ病がパーキンソン病と関連があることは、すでに報告されており、それによれば、2つの疾患には遺伝的関連性があることが示唆されている(Intern Med. (2006) 45(20):1165-1167)。
【0055】
別の実施形態例においては、本発明はGCaseのPC活性を示す表2に示されたGCase阻害剤又はその製薬上許容される塩の治療に対する有効量を、製薬上許容される賦形剤と共に含んだゴーシェ病治療のための組成物に関する。さらに別の実施形態例においては、本発明はGCaseのPC活性を示す表2に示されたGCase阻害剤又はその製薬上許容される塩の治療に対する有効量を、製薬上許容される賦形剤と共に含んだゴーシェ病及びパーキンソン病両方の治療のための組成物に関する。
【0056】
活性薬剤(アンブロキソール、アンブロキソール誘導体、表1に示された化合物、及び、その製薬上許容される塩)は、製薬上許容されるキャリアーと共に薬剤組成物の形で投与すれば良い。そのような活性成分は製剤中に0.1〜99.99重量%含まれている。「製薬上許容されるキャリアー」は、製剤の他の成分と相溶性があり、投与を受ける者に対して有害でないあらゆるキャリアー、希釈液、又は賦形剤を意味する。
【0057】
活性薬剤は、製薬上許容されるキャリアーと共に投与方法及び一般的な薬理学的な方法を選択して投与することが好ましい。活性薬剤は、薬理学の分野で一般的な方法に従った投薬形態により投与すれば良い。例えば、アルフォンソゲナーロ(Alphonso Gennaro)らのRemington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Edition (1990), Mack Publishing Co., Easton, PAを参照すれば良い。例えば、投与形態としては、タブレット、カプセル、溶液、非経口溶液、トローチ、坐薬又は懸濁液である。アンブロキソールの経口投与、局所投与、坐薬及び非経口投与薬の例は、ブロムヘキシン、他のアンブロキソール誘導体、又は、GCaseのPC活性を示すGCase阻害剤にも有用であり、その例は、国際公開2005/007146号パンフレットの実施例1〜8、及び米国特許出願公開第US2005/00148747号明細書の該当箇所に記載され、これらは資料として本件明細書に組み込まれる。
【0058】
別の実施形態例においては、アンブロキソール、ブロムヘキシン、アンブロキソール誘導体、GCaseのPC活性を示すGCase阻害剤、及び、その製薬上許容される塩は、ゴーシェ病治療のための薬剤の合成に使用される。
【0059】
非経口投与のためには、活性薬剤を、水、油(特に、植物油)、エタノール、食塩水、水性デキストロース(ブドウ糖)及び関連する糖溶液、グリセロール、又は、例えばプロピレングリコール若しくはポリエチレンエチレングリコールなどのグリコールなどの適切なキャリアー又は希釈剤と混合すれば良い。非経口投与のための溶液は、活性薬剤の水溶性塩を含むことが好ましい。安定剤、抗酸化剤、及び、防腐剤を添加しても良い。好適な抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸とその塩類、及びEDTAナトリウムである。好適な防腐剤としては、ベンザルコニウム塩化物、メチルまたはプロピルパラベン及びクロロブタノールなどである。非経口投与のための組成物は、水性又は非水溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョンの形態であって良い。
【0060】
経口投与のためには、タブレット、カプセル、錠剤、粉、顆粒、又は他の経口に適した形態で、一つか二つ以上の活性のない個体成分と組み合わせると良い。例えば、フィラー、バインダー、湿潤剤、崩壊剤、溶液抑制剤、吸収促進剤、湿潤剤、吸収剤又は平滑剤などの一つか二つ以上の賦形剤と組み合わせると良い。あるタブレットの実施形態例によれば、活性薬剤は、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール及び澱粉と組み合わせて、通常の方法でタブレットに成形されると良い。
【0061】
組成物は、活性薬剤を各々約1〜500mg、より典型的には10〜100mg単位で含有する単位用量の形態で形成することが好ましい。ここで、「単位用量の形態」(unit dosage form)とは、物理的に、ヒトや他の動物への投与単位として適切な単位を言い、各々の単位は、好適な薬理学的な賦形剤と合わせて、所望の治療効果を生じるのに計算された活性薬剤があらかじめ定められた量を含んでいる。
【0062】
本発明の薬剤組成物は、活性成分の放出を遅く又は制御(徐放)するために、例えば、所望の放出速度を実現するためにその割合を変化させたヒドロプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル類、浸透性膜、浸透圧システム、多層膜コーティング、微粒子、リポソームや微小球体などを使用して、成形しても良い。
【0063】
一般には、放出制御された薬剤すなわち徐放性薬剤は、所望の期間、その薬理学的活性を一定に保つために活性成分の放出を可能とする薬剤組成物である。このような投与形態は予め定められた期間体内に薬剤を供給でき、それにより、一般の制御された投与方法よりも長い期間、治療に必要な量の薬剤量を維持することができる。
【0064】
米国特許第5,674,533号明細書には、末梢性鎮咳薬であるモグイスチン(moguisteine)の液体投与形態での徐放性薬剤組成物が開示されている。米国特許第5,059,595号明細書には、器質性精神障害治療のための胃耐性タブレットの使用による徐放性薬剤組成物が開示されている。米国特許第5,591,767号明細書には、強力な鎮痛作用による非ステロイド性の抗炎症剤、商品名ケトロラック(ketorolac)の投与を制御するための徐放性液体リザーバ経皮パッチが開示されている。米国特許第5,120,548号明細書には、膨潤性ポリマーを含んだ徐放性薬剤輸送デバイスが開示されている。米国特許第5,073,543号明細書には、ガングリオシド−リポソームビヒクルによって保持される栄養要因を含んでいる徐放性薬剤が開示されている。米国特許第5,639,476号明細書には、疎水性アクリル経ポリマーの水性分散によるコーティングを有する安定固体の徐放性薬剤が開示されている。生分解性微少粒子が徐放性薬剤に使用されることが知られている。米国特許第5,354,566号明細書には、活性薬剤を含んだ徐放性粉末薬剤が開示されている。米国特許第5,733,566号明細書には、抗寄生虫組成物を放出する重合性微少粒子の使用が開示されている。
【0065】
活性成分の徐放は、様々な因子、例えば、pH、温度、酵素、水、若しくは他の生理学的条件、又は、化合物により刺激すれば良い。薬物放出には様々な機構が存在する。例えば、ある実施形態例においては、徐放成分は膨潤し、患者への投与の後、活性成分を放出するのに十分大きな多孔質開口部を形成すれば良い。本発明の文書中の用語「徐放成分」は、薬剤組成物中において活性成分を徐放する、ポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル類、浸透性膜、リポソーム及び/又は微小球体などの化合物を指す。別の実施形態例においては、徐放成分は生分解性であり、体内の水性環境、pH、温度又は酵素への露出により分解が誘導される。別の実施形態例においては、ゾルゲルを使用すれば良く、活性成分は室温では固体であるゾルゲルマトリックスに組み込まれる。このマトリックスは、ゾルゲルマトリックスのゲル形成できるほど体温が高い患者、好ましくは哺乳類に埋め込まれ、それにより患者に活性成分を放出する。
【0066】
経鼻的に、又は吸入によって投与するのに適した本発明の化合物の組成物は、患者の好みに応じられる。
【0067】
本発明の化合物は、典型的には乾燥粉末の形態(単独、又は、無水物若しくは、好ましくは一水和物であるラクトース、マンニトール、デキストラン、ブドウ糖、マルトース、ソルビトール、キシリトール、フルクトース、ショ糖若しくはトレハロース又はリン脂質などとの混合成分粒子との乾燥ブレンド等の混合物として)で経鼻的に、又は吸入によって投与されてもよく、乾燥粉末の吸入器、加圧容器からのエアロゾル、ポンプ、スプレー、噴霧器(好ましくはキメの細かい噴霧を発生させることができる電気流体力学噴霧器)又はネブラ(nebulae)により投与することもでき、ジクロロフルオロメタンのような安定促進剤を使用してもしなくても良い。
【0068】
加圧容器からのエアロゾル、ポンプ、スプレー、噴霧器、又は、ネブラ(nebulae)は、例えば、エタノール(任意に水性エタノール)又は、活性成分を分散、溶解、若しくは、拡散させるのに適した好適な代替試薬、溶液としての安定剤及び任意にトリオレインソルビタン又はオリゴ乳酸などの界面活性剤を含む活性成分の溶液又は懸濁液を含有する。
【0069】
粉末中又は懸濁液中で使用する前に、吸入により送達されるのに適したサイズにまで薬剤生成物を微少化する(典型的には5μm未満)。これは、例えば、スパイラルジェットミル(spiral jet milling)、流動層ジェットミル(fluid bed jet milling)、ナノ粒子を形成するための超臨界流体抽出(supercritical fluid processing)、高圧ホモジナイゼーション又は噴霧乾燥などの適切な粉砕方法により行うことができる。
【0070】
キメの細かい噴霧を発生させることができる電気流体力学を使用した噴霧器中で使用される適切な溶液製剤は、一動作につき1μgから20mgの本発明の化合物を含むことができ、その動作容量は、1μL〜100μLである。典型的な製剤は、本発明の化合物、プロピレングリコール、滅菌水、エタノール、及び塩化ナトリウムを含む。プロピレングリコールの代わりの代替可能な溶媒としては、グリセロール及びポリエチレンリコールである。
【0071】
吸入器に使用するためのカプセル、ブリスター(blisters)、及び、カートリッジ(例えば、ゼラチン又はHPMC製)は、化学式(I)のニコチンアミド誘導体、ラクトースまたは澱粉などの適切な粉末ベース、並びにL−ロイシン、マンニトール又はステアリン酸マグネシウムなどの機能調整剤(performance modifier)を含むように調剤できる。
【0072】
吸入/鼻腔吸入投与のための製剤は、即時及び/又は制御放出するように調剤できる。制御放出製剤には、遅延放出、継続放出、パルス放出、二重徐放、ターゲット放出、プログラム放出などが含まれる。放出保持又は徐放は、例えば、ポリ(D,L−乳酸−コ−グリコール酸)を使用することで得ることができる。
【0073】
III.本発明の化合物の活性
β−グルコセレブロシダーゼ(GCase)のような酵素の安定分子構造を誘導できる機能的化合物は、リソソームへの輸送のために適した構造に酵素を安定化させることによる、酵素のための「薬理学的シャペロン」として提供される。ある実施形態例によれば、本発明の化合物は、リソソームへの輸送のために野生型酵素の安定分子構造を誘導することができる。ある実施形態例によれば、本発明の化合物は、リソソームへの輸送のために変異型酵素の安定分子構造を誘導することができる。また、別の実施形態例によれば、本発明の化合物は、リソソームへの輸送のために遺伝子工学的に設計された酵素の安定分子構造を誘導することができる。
【0074】
ここで使用する「野生型酵素」とは、酵素遺伝子がコードする酵素のアミノ酸配列を有する酵素のことを指す。また、ここで使用する「遺伝子工学的に設計された」(engineered)とは、これに制限されるわけではないが、組み換えタンパク質生産、部位特異的変異導入、化学修飾、試験管内でのグリコシル化、及び、生体内でのグリコシル化などの一以上の技術により改変された酵素を指す。ここで使用する「変異型」酵素とは、野生型酵素の配列と一以上のアミノ酸が異なる酵素のことを指す。変異型酵素は、野生型酵素と同じ数のアミノ酸を有していても良く、又、野生型酵素よりも少なくとも1アミノ酸が少なくても多くても良い。変異型酵素は、天然物でも、上記に示した遺伝子工学により設計合成されても良い。
【0075】
本発明の一実施形態例としては、化合物を有効量使用することで安定構造を誘導することができる。酵素の阻害剤のいくつかは、酵素の触媒中心を占有することが知られており、それにより試験管内でその構造を安定化する。それら阻害剤は、天然酵素、野生型酵素、又は、例えば、これらに限定されるわけではないが、細菌細胞、昆虫細胞、植物細胞、及び、哺乳類の細胞などから得られる組み換えにより生産された酵素と結合できる。このような化合物は、生体中で酵素を適切なフォールディングへと誘導するPCとしても働き、それにより、小胞体の質制御システムによる分解から変異型酵素を保護(rescue)する。
【0076】
本発明のある実施形態例としては、アンブロキソール、アンブロキソール誘導体、若しくは、表1に示したようなGCaseのPC活性を示すGCase阻害剤、又は、その製薬上許容される塩は、シャペロンとしての機能特性を有しており、ここではまたGCaseに対するPCとして示される。ここで使用する「薬理学的シャペロン」とは、本発明の化合物が、生体分子の膜を通じた又は細胞内(subcellular)コンパートメントへの輸送を促進及び/又は増進させる能力を有していることを意味する。特に、本発明の薬理学的シャペロンは、リソソームへのGCaseの輸送を促進又は増進させることができる化合物である。又、別の実施形態例においては、上記に挙げた化合物は、GCaseに関して阻害活性を有する。
【0077】
PCはそのターゲット酵素を安定化し(例えば、アンブロキソールのGCase又は変異型GCaseの安定化)、安定構造へと誘導し、それにより、小胞体関連分解システムに入ることを回避することができる。GCaseに結合でき、GCaseのリソソームへの輸送を促進できる本発明の化合物の能力は、実施例に詳細を示したGCaseアッセイにより試験することができる。本発明のある実施形態例によれば、化合物の結合アッセイ及び/又はGCaseシャペロンアッセイは、単離した線維芽細胞中でのGCase活性をアッセイすることで実施できる。
【0078】
どのような特定の理論又は反応のメカニズムに拘束されるものではないが、アンブロキソール及びブロムヘキシンは、変異型GCaseのための特定の分子ガイドとして作用し、リソソーム中でのGCase活性を強化する。小胞体のpHで少なくともアンブロキソールは変異型GCaseに低アフィニティーで結合し、それにより、GCaseの適切なフォールディングを促進する。適切なフォールディングを促進することにより、アンブロキソールによるリソソームへのGCaseのシャペロン作用を促進する。リソソーム中でのアンブロキソールは、リソソームのpHではGCaseに非常に低アフィニティーでしか結合できないので、GCaseから解離する。さらに、リソソーム中に蓄積された、GCaseの天然の基質であるグリコセロブロシド(glucocerobroside)の濃度が高いため、結合平衡がシフトし、GCaseからアンブロキソールが解離する。
【0079】
IV.本発明の化合物を使用した治療方法
アンブロキソール、アンブロキソール誘導体、GCaseのPC活性を示す表1に示したGCase阻害剤、又は、その製薬上許容される塩は、ゴーシェ病の治療のために使用され、それによりリソソーム中でのGCase活性を増大させることができる。リソソーム中へのGCaseの輸送が増大することで、リソソーム中でのGCaseの濃度が高くなり、リソソーム中でのGCase活性を増大させる。(変異のない)野生型GCaseと比較してGCase活性が低くゴーシェ病の特徴を形成するような変異型GCaseなどのような変異のあるGCaseでさえも、リソソーム中への輸送により、リソソーム内でのGCase活性を増大させることができる。
【0080】
そこで、ある実施形態例においては、上記に示した化合物をゴーシェ病の治療のために投与する。本発明の方法は、上記化合物又は化合物を含んだ薬剤組成物を治療の必要な個体に有効量投与することを含む。
【0081】
ゴーシェ病とは、グリコスフィンゴリピドの蓄積を症状とする患者の状態のことである。この疾患は、グリコスフィンゴリピドの異化作用を司るGCase酵素の欠陥により生じるものである。ゴーシェ病に罹患した患者のリソソーム中のGCase活性を増大させることにより、蓄積されるグリコスフィンゴリピドの異化を促進し、それにより病気を治療することができる。従って、本発明の化合物により治療が必要な患者は、ゴーシェ病の一つか二つ以上の徴候を有する患者である。
【0082】
ある実施形態例においては、ゴーシェ病の治療をうけるべき患者は、GCaseをコードする遺伝子の変異により特徴付けられる。その酵素の変異は、V15L、G46E、K79N、R119Q、P122S、R131L、K157Q、N188S、Y212H、F213I、F216V、F216Y、F251L、R257E、P289L、A309V、H311R、W312C、Y323I、G325R、C342G、R353G、R359X(末端)、S364T、N370S、L371V、G377S、V394L、V398F、P401L、D409H、D409V、P415R、L444P、R463C、G478S、及びR496Hからなる群から選択される。別の実施形態例においては、患者は、GCaseをコードする遺伝子の二つ以上の変異であり、(L444P、A456P、V460V)(D140H、E326K)、及び、(H255Q、D409H)からなる群から選択される変異により特徴付けられる。さらに、別の実施形態例においては、患者は、GCaseをコードする遺伝子の挿入型変異、欠損型変異、切断型変異、若しくはフレームシフト型変異又はこれらの組み合わせにより特徴付けられ、これらの変異は以下より成る群から選択される:
1.84GG(グアニン挿入)、
2.イントロン2のスプライス部位の変異(IVS2DS+1G−A)、その結果、エクソン2がスキップされる、
3.GCaseをコードする遺伝子中の1bp欠損(ゲノムDNA配列中の1023のCが欠損)、
4.GCaseをコードする遺伝子中の55bp欠損(ゲノムDNA配列中のヌクレオチド5879−5933の欠損)、
5.ホモ接合性259C−T転移(ゲノムDNA配列中の1763)、
6.ゲノムDNA配列中のホモ接合性1bp欠損、その結果、フレームシフトが生じ、エクソン6のタンパク質の中途(premature)切断、
7.GCaseをコードする遺伝子中イントロン10のスプライス部位の最初の位置でのGからAへの置換、その結果、IVS10の最初の11塩基対の挿入、及び、エクソン11の最初の11塩基対の欠損。
【0083】
ある実施形態例においては、ゴーシェ病の治療をうける患者は、GCaseをコードする遺伝子の変異により特徴付けられ、その結果の酵素変異はN370S及びL444Pから成る群から選択される。
【0084】
別の実施形態例においては、本発明の化合物は、ゴーシェ病及びパーキンソン病の両方を罹患した患者のゴーシェ病治療に使用する。その方法は、上記化合物、又は、ここに示した化合物を含んだ薬剤組成物を、その治療が必要な個体に有効量投与することを含む。
【0085】
ある実施形態例においては、本発明の方法は、ゴーシェ病疾患を有する個体に対する治療方法に関し、アンブロキソール、ブロムヘキシン又はそれらの製薬上許容される塩の有効量を個体への投与することを含む。別の実施形態例においては、本発明は、ゴーシェ病及びパーキンソン病の両方を罹患した個体に対する治療方法に関し、アンブロキソール、ブロムヘキシン又はそれらの製薬上許容される塩の有効量を、個体へ投与することを含む。ある実施形態よれば、製薬上許容される塩は塩酸塩である。別の実施形態例においては、本発明の方法は、ゴーシェ病を患う個体に対する治療方法に関し、アンブロキソール誘導体、GCaseのPC活性を示すGCase阻害剤又はその製薬上許容される塩の有効量を個体へ投与することを含み、塩は塩酸塩である。別の実施形態例においては、本発明の方法は、ゴーシェ病及びパーキンソン病の両方を罹患した個体に対する治療方法に関し、アンブロキソール、GCaseのPC活性を示すGCase阻害剤又はその製薬上許容される塩の有効量を個体へ投与することを含み、その製薬上許容される塩は塩酸塩である。
【0086】
特定の疾患や症状に効果のある本発明の治療化合物の量は、その疾患や症状の性質により決定され、一般的な治療技術により決定される。さらに、任意に、適切な投与量を同定するために試験管内でのアッセイを行っても良い。使用する製剤の正確な量は投与ルート並びに病気、疾患及び症状の重篤度により決定され、医者の判断や患者の状況によって決定される。
【0087】
V.本発明の化合物の投与
好ましい実施形態例においては、本発明の化合物は経口で患者に投与される。しかしながら、当該化合物は、直腸投与、肺投与、舌下投与、非経口投与を含むあらゆる方法で投与しても良い。非経口投与としては、静脈投与、筋肉内投与、動脈投与、腹膜投与、鼻腔投与、膣内投与、嚢内投与(例えば、膀胱内投与)、皮内投与、経皮投与、局所投与、又は、皮下投与などを含む。
【0088】
GCaseのリソソームの十分な輸送を導くことができる薬剤の存在量を一定に保持するために、典型的には、治療は少なくとも一日に一回行われ、典型的には一日を通じて等間隔に一日あたり一回、二回、三回又は四回の治療を行う。しかしながら、当業者であれば患者に合わせて治療計画を改善することは可能であり、化合物の投与も一日一回よりも少なくても良い。
【0089】
治療においては、一又は二以上の本発明の化合物を、同時に、同じ投与又は異なった投与方法で、又は、異なった回数、投与しても良い。本発明の化合物はゴーシェ病及び/又はパーキンソン病の治療に使用する他の薬剤と組み合わせて処方しても良い。このような組み合わせを使用する場合、治療においては、本発明の化合物及び従来の薬剤は、同時に、同じ投与方法又は異なった投与方法で、又は、異なった回数、投与しても良い。選択した従来の薬剤の量は、使用する化合物の種類、並びに、投与方法及び投与回数によって決定することとなる。
【0090】
治療は、治療が必要な期間行えば良い。化合物が有益な治療効果を示さない場合、治療は中止されるが、典型的には、疾患が継続している間は、治療は無制限に継続するであろう。治療している医師は患者の反応を元にして、治療がどのように増加させるか、減少させるか、中断するかを決定する。
【0091】
ゴーシェ病の治療に有益な治療効果を得るための本発明の化合物の特定の投与量は、当然のことながら、患者の身長、体重、年齢、性別、疾患の性質及びステージ、疾患の悪性度、及び、化合物の投与方法を含めた個々の患者の状態により決定する。
【0092】
例えば、一日あたりの投与量は、約0.02〜50mg/kg/日であり、より好ましくは約0.1〜10mg/kg/日である。症例によっては、これらの範囲外の量を使用する必要があり、このような場合、これらより多量の又は少量の投与量を処方しても良い。一日あたりの投与量は、一日あたり2〜4回の同量の分割投与など、分割しても良い。静脈投与の好適な投与量は、一般に、体重1kgあたり活性化合物を約20〜500μgである。
【0093】
本発明は、一又は二以上の本発明の製剤組成物の成分を含んだ一又は二以上の内容物を含んだ薬剤パック又はキットを提供することもできる。ヒトへの投与物への製造、使用又は販売する機関の承認を反映し、薬剤又は生物学的製品を管轄する政府機関によって定められる形態にこれらの内容物を任意に反映することもできる。
【0094】
本発明によれば、上記又は下記の実施例に示した通り、臨床、化学、細胞、組織化学、生化学、分子生物学、細菌学及び組み換えDNA技術分野の当業者の一般的技術を適用することもできる。このような技術は文献に十分に開示されている。
【0095】
本発明はここに示したアッセイと方法に限定されるわけではなく、適宜他の方法やアッセイを含むものとする。当該分野の通常の知識を有する者であれば、他の方法やアッセイであっても、ここで示された手順を実施することができる。
【0096】
ここに示した説明及び以下の実施例によって、さらなる説明を要することなく、当該分野の通常の知識を有する者であれば、本発明の化合物を製造及び使用することができ、請求項に記載した方法を実施することができる。従って、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態例を示すものにすぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0097】
実施例:本発明の化合物による野生型β−グルコセレブロシダーゼ及びゴーシェ病変異型β−グルコセレブロシダーゼへのシャペロン作用
GCase活性及び機能研究のアッセイ条件
ここに説明する実験は、本発明の化合物が存在するとき及び存在しないときのGCaseの活性及び機能に関するものであり、GCaseとしては、イミグルセラーゼ(imiglucerase)(商品名CEREZYME、Genzyme社製)を使用して行った。細胞物質は、野生型GCaseを発現する線維芽細胞溶解物から単離して得た。又、それとは別に、GCase中でのN370S/N370S又はF213I/L444P置換をエンコードする遺伝子型を有するゴーシェ病患者の細胞系から単離した。
【0098】
酵素活性の定量測定は、人工基質4−メチルウンベリフェリル(methylumbelliferyl)2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グリコピラノイド(MUGlc)を使用した蛍光アッセイにより行った。反応は、室温で15〜30分行い、当量の酵素のアリコート(25μL、20mMのクエン酸リン酸緩衝液でpH5.5、0.4%タウロデオキシコール酸(taurodeoxycholate)(TC))及び基質のアリコート(25μL、20mMのリン酸クエン酸でpH5.5、MUGlcを1.6mM)を使用した。4倍量(200μl)の過剰の0.1MのMAP、pH10.5を添加し、分光蛍光光度計を使用し、蛍光により、それぞれのアッセイで放出されるMU−フルオロフォア量を測定した。測定した活性は、未処理のGCaseコントロールに対する割合(%残留活性)、又は、未処理の細胞からの溶解物と比較した蛍光の増大倍量(活性の相対的増加量)のいずれかとして相対蛍光単位(FU)で表した。
【0099】
患者の線維芽細胞の融合性培地を24穴プレートで培養した。DMSO又は試験化合物と共に5日間線維芽細胞を処理した後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、氷上、30分間、0.4%のTCを含んだ20mMのクエン酸リン酸緩衝液(pH5.5)を使用し、溶解した。GCase活性は、精製酵素用の上記と同じプロトコールを使用し、細胞溶解物の25μlアリコート中で分析した。
【0100】
アンブロキソール存在下でのGCaseの熱安定性
図1は、3μM、6μM、及び24μMの濃度のアンブロキソール存在下での、GCaseの熱変性カーブを示したものである。アンブロキソールは、野生型(WT)GCaseの熱変性を減少させることができ、50℃における半減期は、20μMの濃度の場合の3倍以上増加している。これらのデータにより、アンブロキソールの濃度の増加と共にGCaseの熱変性が減少し、これにより、アンブロキソールがGCaseに結合している証拠が示された。
【0101】
GCaseを、増加させたアンブロキソールの濃度又はDMSO(コントロール、化合物溶媒)の存在下で、50℃で時間を変化させてインキュベートした。4℃に維持したサンプルと同様に、50℃でインキュベーションした後に残存していたGCase活性のフラクションはDMSOだけを含んでいるサンプルと比較して濃度が増加したアンブロキソールを含むサンプルで増加した。アンブロキソールの最も高い濃度の存在下でのGCase活性の増加は、3倍以上であった。
【0102】
アンブロキソール及び他のGCase阻害剤の存在下でのGCase活性の速度論的分析
速度論的分析によれば、アンブロキソールは10μMのKiにおいてGCaseの拮抗阻害剤であることが示された。GCaseの阻害剤としてのアンブロキソールのIC50は、27μMであった(図2)。ブロムヘキシンのIC50は、60μMであった。
【0103】
既知のGCase阻害剤であるイソファゴミン(isofagomine)活性とアンブロキソールの活性を比較するために、さらに実験を行った。アンブロキソール及びイソファゴミン(isofagomine)の両方は、野生型(WT)GCaseの熱分解を減少させることができ、20μMの濃度、50℃におけるGCase半減期を、3倍以上増加させた。意義深いことに、小胞体のpHにおいて、アンブロキソールは異常なフォールディングのGCaseに対してイソファゴミンよりもより低いアフィニティーで結合しており、そのためアンブロキソールは適切なGCaseフォールディングを促進し、その結果リソソームへのGCase輸送を促進している。リソソーム中では、アンブロキソールはリソソーム中のpHではGCaseに対して非常に小さいアフィニティーで結合しているため、GCaseから解離する。さらに、リソソーム中に蓄積されたグリコセロブロシド(glucocerobroside)も又、アンブロキソールを解離させる。いずれの特定の理論にも拘束されないが、アンブロキソールはイソファゴミン(isofagomine)よりリソソーム中でトラップされ難く、従って、アンブロキソールによる長期の治療によって、アンブロキソールがGCase阻害剤になるような濃度でリソソーム内に蓄積し、反対にゴーシェ病を引き起こす危険性は、イソファゴミン(isofagomine)より低い。
【0104】
4.5、5.0、5.5、6.0、6.5及び7.0を含んだ複数の異なるpH値で、さらにGCaseの活性をアッセイした。判断の基準としては、リソソームのpHは酸性であり(pH<5.5)、小胞体は中性附近である。図3に示したように、アンブロキソールは、酸性条件においては、GCaseを僅かしか阻害しない。
【0105】
この知見は、薬理学的シャペロン(PC)としてのアンブロキソール及びその誘導体の役割をサポートする。PCがそのターゲットタンパク質を安定化し(例えば、GCase又は変異型GCaseのアンブロキソール安定化)、酵素が小胞体関連分解システムを好適に回避できるようにするためには、PCは中性pHにおいて適切なレベルの結合アフィニティーを有する必要がある。中性pHにおいて酵素−リガンド複合体が形成され、次に酵素が適切な細胞小器官(この場合、酸性リソソーム)へ輸送された後の、アフニティーの低下は、酵素または変異型酵素の天然基質によって阻害性PCの解離を容易にすることができる点で利点を有する。
【0106】
ここに示したデータは、アンブロキソールのGCaseへのアフィニティーが、低pHリソソームと組み合わせることにより無視できるほど僅かであること、並びに、GCaseのアンブロキソールへのアフィニティーが、そのロケーションにおいてアフィニティーが最も良くなる中性pHのER中では最大になることを示している。従って、ここに示したデータは、アンブロキソールがGCaseに対して素晴らしい治療効果を有する薬理学的シャペロンであることを示している。
【0107】
GCaseの薬理学的シャペロンとしてのアンブロキソール
細胞内のGCase活性レベルを測定する前に、野生型GCaseを発現する線維芽細胞をアンブロキソールで5日間処理した。アンブロキソールがGCase活性及び野生型GCaseレベルの両方を、未処理の細胞よりも1.5倍以上促進することが見出された(図4)。GCase活性及び酵素レベルの更に大きな増加が、N370S/N370S及びF213I/L444Pをエンコードする遺伝子型に関するゴーシェ病の原因となる、ゴーシェ病線維芽細胞系において観察された(図5)。60μMのアンブロキソール存在下で、GCase活性及びGCase濃度は、ゴーシェ病患者から単離した未処理の線維芽細胞系の活性及び濃度と比較して、それぞれ約3倍及び2.5倍であった。タイプIのゴーシェ病患者は、ノーマルの約10〜15%の残留酵素を有する。ここに示したデータによれば、他のリソソーム貯蔵障害と同様に、GCase活性の比較的小さな増加のみが、この疾患の治療の臨床的伸展を達成するのに必要であることが明らかである。
【0108】
N370S/N370S置換を含むゴーシェ病線維芽細胞系の免疫組織化学的蛍光染色を図6に示した。アンブロキソール存在下でのGCaseとLamp−1の共局在は、GCaseのトラフィッキング及びリソソームへの輸送が回復され保持されていることを示す。変異型GCaseの活性及びトラフィッキングの回復は、薬理学的シャペロンベースの治療戦略の最終到達点である。
【0109】
まとめると、アンブロキソール及びその誘導体を含むここで示した化合物は、GCaseの熱分解を減少させ、GCaseのリソソーム中への薬理学的シャペロンとして作用する。それゆえ、それらは、ゴーシェ病に罹患した患者の治療に使用することができ、又、パーキンソン病も罹患しているゴーシェ病患者の治療にも使用することができる。
【0110】
ここで引用した特許、特許文献及び文献に開示された内容は、本明細書に完全に組み込まれる。
【0111】
本発明は特定の実施形態例に関連して開示されているが、本発明の思想の範囲内で当該技術分野の他の当業者による本発明の他の実施形態例及び変形も、本発明の請求の範囲に示された範囲内に含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】アンブロキソール存在下での、GCaseの熱変性カーブを示したものである。これらのデータは、アンブロキソールの濃度が増加するとGCaseの熱分解が減少することを示している。
【図2】アンブロキソールの濃度を増加させた場合のGCase(商品名CEREZYME)活性を示すものであり、このアッセイにより、アンブロキソールのIC50を2.7μMと決定した。
【図3】アンブロキソール存在下で、複数の異なるpHでのGCase活性を示した。25μMアンブロキソールは、酸性条件においては、僅かしかGCase活性を阻害できないことを示している。
【図4】図4a及び図4bを含む図4は、アンブロキソール(図中、ABXと略記した)が、アンブロキソールで前処理した線維芽細胞中で野生型GCaseの活性と濃度の両方を上昇させたことを示す。図4aは、蛍光アッセイにより決定したGCase活性を示し、図4bは、濃度計で決定したGCaseのタンパクレベルを示す。
【図5】図5a及び図5bを含む図5は、アンブロキソール(図中、ABXと略記した)が、最も多いタイプI型のゴーシェ病でしばしば発生するミスセンス変異のセットであるN370S/N370S又はF213I/L444Pを含むゴーシェ病線維芽細胞系中で、変異型GCaseの活性とタンパクレベルの両方を強化していることを示す。図5aは、蛍光アッセイにより決定したGCase活性を示し、図5bは、濃度計で決定したGCaseのタンパクレベルを示す。
【図6】変異型GCaseのトラフィッキングのアンブロキソール(図中、ABXと略記した)による抑制を示す。N370S/N370Sミスセンス変異を含むゴーシェ病線維芽細胞系を、多クローン性のウサギ抗GCase抗体及びマウス抗Lamp−1(リソソーム膜結合タンパク質)抗体により免疫組織化学的蛍光染色した。細胞核染色は、4’−6’−ジアミジノ−2−フェニルインドールを使用して行った。GCaseとLamp−1の共局在は、アンブロキソール「ABX」存在下でリソソームに生じ、イソファゴミン(isofagomine)「IFG」存在下ではより少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンブロキソール又はその誘導体である化合物を含むゴーシェ病治療のための薬剤。
【請求項2】
化合物がシクロヘキサン環、アミン基、及び2つ以上の臭素原子を含むアンブロキソール誘導体である請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
化合物が表2に記載の化合物、又は、それらの製薬上許容される塩である請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
化合物が、アンブロキソール、ブロムヘキシン、又は、それらの製薬上許容される塩である請求項1に記載の薬剤。
【請求項5】
表1に記載の化合物、又は、それらの製薬上許容される塩を含むゴーシェ病治療のための薬剤。
【請求項6】
グルコセレブロシダーゼの安定構造を誘導するための薬剤であって、アンブロキソール又はその誘導体を含む薬剤。
【請求項7】
化合物が、アンブロキソール、ブロムヘキシン、又は、それらの製薬上許容される塩である請求項6に記載の薬剤。
【請求項8】
グルコセレブロシダーゼの安定構造を誘導するための薬剤であって、表1に記載の化合物、又は、それらの製薬上許容される塩を含む薬剤。
【請求項9】
グルコセレブロシダーゼが野生型グルコセレブロシダーゼ、変異型グルコセレブロシダーゼ、又は、遺伝子工学的グルコセレブロシダーゼである、請求項6〜8の何れか一項に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−137933(P2009−137933A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−135368(P2008−135368)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.2007年11月26日、http://www.lysosomaldiseasenetwork.org/ldn_world_symposium_2008_program.shtml 2.2008年1月14日、http://www.sciencedirect.com/science
【出願人】(508132676)
【氏名又は名称原語表記】THE HOSPITAL FOR SICK CHILDREN
【住所又は居所原語表記】555 UNIVERSITY AVENUE,SUITE 5270,TORONTO,ONTARIO M5G 1X8,CANADA
【出願人】(508155077)マクマスター・ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】MCMASTER UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】1280 MAIN STREET WEST,HAMILTON,ONTARIO L8S 4L8,CANADA
【Fターム(参考)】