説明

サイトカインの除去方法および除去装置

【課題】血液または血漿を浄化する治療において、シリカゲルを用いて、血液または血漿等の液体中に含まれるサイトカインを効率的に除去することができる方法および装置ならびにそれらに好適に用いられる除去剤を提供する。
【解決手段】血液または血漿の導入口および排出口が設けられ、粒径150μm以上3mm以下の球状体であり、孔径15nm以上500nm以下の気孔を有するシリカゲルが収容された容器と、前記血液または血漿の導入口および排出口と連結された流路の一部に接続された循環ポンプとを備えたサイトカイン除去装置を用いて、サイトカインを含有する血液または血漿を流通させ、前記容器から排出される血液または血漿中のサイトカインを減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液または血漿中に存在するサイトカインを効率的に除去するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病気のメカニズムが次々と分子レベルで解釈されるようになり、分子をターゲットとする新しい治療法が開発されるようになってきた。
例えば、生体防御機構の恒常性維持に必須のIL‐1(インターロイキン‐1)、IL‐6、IL‐8やTNF‐α(腫瘍壊死因子)等の分子は、生体内における様々な炎症症状を引き起こす因子であり、炎症性サイトカインと呼ばれている。また、IL‐10、TGF‐β等の炎症症状を抑制する働きをするサイトカインは、総称して抗炎症性サイトカインと呼ばれている。
【0003】
炎症性サイトカインは、その制御機構の逸脱が、様々な炎症性疾患の病態に深く関わっており、また、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインとのバランスが崩れると、自己免疫疾患等の疾患を引き起こすことが分かってきた。
前記バランスが崩れた状態には、SIRS(systemic inflammatory response syndrome:全身性炎症反応症候群)という強い炎症性サイトカインが優位な状態と、このSIRSと作用−反作用の関係にあるCARS(compensatory anti‐inflammatory response syndrome)という抗炎症性サイトカインが優位である強い免疫抑制状態とがある。
SIRSの場合は、血液中の炎症性サイトカインが上昇し(高サイトカイン血症)、動員されたサイトカインによる2段攻撃によって、組織構成細胞が障害を受けることにより、MODF(multiple organ dysfunction syndrome:多臓器不全)が誘導される。
一方、CARSの場合は、IL‐10を中心とした抗炎症性サイトカインが優位になり、抗炎症性サイトカインの誘導が増強される。これにより、免疫応答が抑制され、生体防御能力の欠落による細菌感染によって、組織構成細胞が損傷し、臓器の感染症が誘発され、この場合も、MODFに陥る。
【0004】
したがって、これら炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインとの均衡、特に、サイトカインの低値における均衡が維持されることにより、臓器の損傷を防止することができるとされている。
このため、SIRSによる炎症性疾患を治療する方法としては、抗炎症性サイトカインの外、免疫細胞の核内での炎症性サイトカイン合成遺伝子であるmRNAの転写を阻害するステロイド等の抗炎症薬や、炎症性サイトカインに特異的に結合して、その機能を阻害するモノクローナル抗体等の中和抗体や、炎症性サイトカインの働きを阻害する可溶性受容体や拮抗物を用いる抗サイトカイン療法が行われている。
【0005】
また、SIRSおよびCARSの発症および増悪の病態生理に深く関与している炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインを血液浄化法によって、血液中から除去しようとする試みも行われている。
サイトカインの除去を企図した血液浄化法としては、持続的血液濾過、持続的血液透析、持続的血液濾過透析(CHDF:continuous hemodia filtration)、持続的血漿交換、高分子吸着材による血漿吸着等の様々な方法がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開平7−80062号公報
【特許文献2】特開2002−360690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した抗サイトカイン療法のうち、SIRSに対する一般的な抗炎症薬であるステロイドは、その有用性が認められる一方、創傷治癒の遅延、血糖管理の困難性、免疫能力の低下に伴う感染性合併症、また、悪性腫瘍の手術における癌の成長を助長するという重大な副作用が懸念されるため、手術期におけるステロイドの使用は禁忌されている。
また、炎症性サイトカインであるIL‐1やTNF‐αに対する中和抗体は、満足できるほどの効果は得られておらず、また、受容体拮抗物による治療も、生存率の改善を図るまでには至っていない。
【0007】
また、持続的血液濾過透析をはじめとする血液浄化法は、不織布等からなるフィルタを用いて血液または血漿中のサイトカインを除去するものであり、フィルタの閉塞や除去すべきサイトカイン種に対応するフィルタの孔径および材質の選定、クリアランス等、フィルタの設計において、考慮すべき事項が多い。
さらに、フィルタによる除去は、アルブミン等の血液中の有用物質も同時に除去されてしまう可能性が高いという課題も有していた。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、血液または血漿を浄化する治療において、シリカゲルを用いて、血液または血漿等の液体中に含まれるサイトカインを効率的に除去することができる方法および装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るサイトカインの除去方法は、シリカゲルに、血液または血漿を接触させて、前記血液または血漿中に含まれるサイトカイン量を減少させることを特徴とする。
このように、本発明は、シリカゲルを用いて、血液または血漿中のサイトカインを吸着除去するものである。
なお、本発明でいうサイトカインとは、炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの両方を含むものである。
【0010】
また、本発明に係るサイトカインの除去方法は、シリカゲルが収容された容器内に、サイトカインを含有する血液または血漿を流通させ、前記容器から排出される血液または血漿中のサイトカインを減少させることを特徴とする。
このように、シリカゲルを用いて、体外において、サイトカインを含む血漿または血液を、前記シリカゲルと接触するように流通循環させることにより、サイトカイン濃度を低減させることができる。また、このシリカゲルは、アルブミン等の有用物質の除去抑制効果も備えている。
【0011】
上記方法において用いられるシリカゲルは、粒径150μm以上3mm以下の球状体であり、孔径15nm以上500nm以下の気孔を有していることが好ましい。
サイトカインの吸着除去性、生体適合性、取扱い容易性等の観点から、上記のようなシリカゲルが、サイトカイン除去剤として好適に用いられる。
【0012】
また、本発明に係るサイトカイン除去装置は、血液または血漿の導入口および排出口が設けられ、シリカゲルが収容された容器と、前記血液または血漿の導入口および排出口と連結された流路の一部に接続された循環ポンプとを備えていることを特徴とする。
上記のような装置によれば、血液または血漿流通循環装置において、生体外で上記サイトカイン除去方法を好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0013】
上述したとおり、本発明に係るサイトカインの除去方法、除去装置および除去剤を用いれば、血液または血漿等の液体中に存在するサイトカインを効率的に除去することができ、ひいては、多臓器不全患者の病状の寛解や延命にも寄与することができる。
また、上記除去方法、除去装置および除去剤は、サイトカインの除去だけでなく、血液中の肝炎ウイルスやアンモニア、ビリルビン等の有害物質を除去することができる一方、有用物質であるアルブミン等の濃度低下は抑制されるため、血液透析をはじめ、血漿交換、吸着療法等の体外循環による血液浄化治療に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係るサイトカインの除去方法は、シリカゲルに、サイトカインを接触させて、血液または血漿中に含まれるサイトカインを吸着除去するものである。
上記のようなシリカゲルによる吸着除去によって、サイトカイン量を効果的に減少させることができる。
【0015】
前記除去方法において除去剤として用いられるシリカゲルは、血液または血漿とともに生体内に侵入することがないように、充填される容器等から流出しないことが必要であり、流出防止のためのフィルタの孔径よりも大きいサイズの球状体であることが好ましい。取扱い容易性等の観点からも、粒径150μm以上3mm以下であることが好ましく、より好ましくは、粒径200μm以上1mm以下である。
また、前記シリカゲルの性状は、孔径15nm以上500nm以下の気孔を有しているものであることが、サイトカイン除去効果の観点から好ましい。
このようなシリカゲルとしては、富士シリシア化学株式会社製のキャリアクト(CARiACT)等の市販品を用いることができる。
【0016】
上記のようなシリカゲルからなるサイトカイン除去剤は、優れたサイトカイン除去効果を示すだけでなく、血漿成分において有用なアルブミン等の吸着は抑制され、しかも、肝炎ウイルスやアンモニア、ビリルビン等の有害物質の除去効果も認められる。
【0017】
また、本発明に係る他の態様のサイトカインの除去方法は、シリカゲルが収容された容器内に、サイトカインを含有する血液または血漿を流通させ、前記容器から排出される血液または血漿中のサイトカインを減少させるものである。
この方法によれば、本発明に係るサイトカイン除去剤を用いて、体外において、高濃度のサイトカインを含む血液または血漿等の液体を、前記シリカゲルと接触するように流通循環させることにより、サイトカイン濃度を低減させることができる。
【0018】
前記サイトカインの除去方法においては、血液または血漿の導入口および排出口が設けられ、シリカゲルが収容された容器と、前記血液または血漿の導入口および排出口と連結された流路の一部に接続された循環ポンプとを備えている本発明に係るサイトカイン除去装置を用いることが好ましい。
上記装置は、生体外における血液または血漿等の液体流通循環装置であり、前記シリカゲルの吸着除去能を発揮させるため、該シリカゲルからなる除去剤に、サイトカインを含む血液または血漿等の液体を接触させる構成とする。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
孔径15nmの気孔を有する粒径1mmの球状シリカゲル(CARiACT Q−15)を直径18mmのカラムに充填し、このカラムを、循環ポンプを備えた血漿回路に設置した。
この回路に、C型肝炎血漿70ccを15ml/minで灌流し、一定時間毎に溶液を採取し、IL‐6、IL‐10およびアルブミンの濃度を測定した。
【0020】
[実施例2〜4]
孔径30nm(実施例2:CARiACT Q−30)、50nm(実施例3:CARiACT Q−50)、100nm(実施例4:CARiACT Q−100)の気孔を有する粒径1mmの球状シリカゲルを用い、実施例1と同様の方法で、C型肝炎血漿を灌流し、IL‐6、IL‐10およびアルブミンの濃度の経時変化を測定した。
実施例1〜4について、図1にIL‐6、図2にIL‐10、図3にアルブミンの各濃度の経時変化をグラフとして示す。
【0021】
図1〜図3のグラフから分かるように、いずれのシリカゲルを用いた場合にも、アルブミンの除去抑制効果を維持しながら、シリカゲルの吸着作用により、サイトカインを除去することができることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例に係るIL‐6の濃度の経時変化を示したグラフである。
【図2】実施例に係るIL‐10の濃度の経時変化を示したグラフである。
【図3】実施例に係るアルブミンの濃度の経時変化を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカゲルに、血液または血漿を接触させて、前記血液または血漿中に含まれるサイトカイン量を減少させることを特徴とするサイトカインの除去方法。
【請求項2】
シリカゲルが収容された容器内に、サイトカインを含有する血液または血漿を流通させ、前記容器から排出される血液または血漿中のサイトカイン量を減少させることを特徴とするサイトカインの除去方法。
【請求項3】
前記シリカゲルが、粒径150μm以上3mm以下の球状体であり、孔径15nm以上500nm以下の気孔を有していることを特徴とする請求項1または請求項2記載のサイトカインの除去方法。
【請求項4】
血液または血漿の導入口および排出口が設けられ、シリカゲルが収容された容器と、前記血液または血漿の導入口および排出口と連結された流路の一部に接続された循環ポンプとを備えていることを特徴とするサイトカインの除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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