サイフォンによる吸引力発生装置、吸引力発生方法及び真空圧密地盤改良工法
【課題】水と気体の流れが分離せずにサイフォンの原理に従う吸引力を効率的に発生可能な吸引力発生装置及び吸引力発生方法、さらに、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供する。
【解決手段】この吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる鉛直管1と、鉛直管と上部で接続する水平管2と、を有し、鉛直管の下端1a側と、水平管2側との間の水位差ΔHにより、水平管から鉛直管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用し、水平管から鉛直管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置3と、その供給された水が鉛直管1の上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制する逆流抑制装置8と、を備える。
【解決手段】この吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる鉛直管1と、鉛直管と上部で接続する水平管2と、を有し、鉛直管の下端1a側と、水平管2側との間の水位差ΔHにより、水平管から鉛直管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用し、水平管から鉛直管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置3と、その供給された水が鉛直管1の上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制する逆流抑制装置8と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイフォンによる吸引力発生装置、吸引力発生方法及びこの吸引力発生装置または吸引力発生方法を用いた真空圧密地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸引力を発生させて、水を吸引し排水する装置として、真空ポンプを用いた吸引装置が知られている。従来の技術では、例えば、軟弱地盤内に鉛直ドレーンを打設後、真空ポンプによる吸引装置を用いて、負圧を作用させて地盤内を減圧することによって、地盤の圧密を促進する方法が用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-328550号公報
【特許文献2】特開2001-226951号公報
【特許文献3】特開2002-138456号公報
【特許文献4】特開2003-261929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の真空ポンプによる吸引装置では、真空ポンプの能力のみに頼って吸引を行っている。この従来の吸引装置によれば、真空ポンプの能力以上に圧密を促進する吸引力を作用させることができない。このため、従来の軟弱地盤の真空圧密地盤改良方法において真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用しなければならなかった。
【0005】
また、真空ポンプの力と、水面位置の差による力とを利用した吸引装置に関し、水面下の地盤の間隙水の吸引を目的にした水底軟弱地盤の減容化工法が提案されている(特許文献4参照)。この従来技術は、水面が、間隙水を吸引対象の地盤より高い位置にあることにより、水圧による圧縮力が作用して、間隙水を搾り出すものであり、改良対象の地盤が水中にあるとともに、地盤面位置が、排水部(減圧室)の水位よりも低い位置にあるという条件の下でのみ適用できるものである。この従来方法は、改良対象の地盤が陸上にあることを想定するものでなく、改良地盤面の天端位置から導かれるホースは、減圧室の側面に結合される形態としている。
【0006】
大きな吸引力を作用させる条件では、溶存空気等の気化や通水管の気密漏れ部から流入する空気の存在を考慮しなければならないが、この従来方法の形態を単純に変更して、上部から鉛直に管をつなげるだけでは、水と気体の流れが分離してしまうため、サイフォンの原理に従う吸引力は働かない。すなわち、陸上域の地盤を対象にした場合には、従来の技術によれば、真空ポンプの能力以上の吸引力を発揮させることはできなかった。
【0007】
また、サイフォンの原理に従う吸引力を利用する場合、設置される排水路の最上部の位置が、吸引・排水したい水の水位より高い場合、その高低差分を揚水しなければならないため、吸引力の損失が生じる問題を解決する必要がある。
【0008】
本発明は、水と気体の流れが分離せずにサイフォンの原理に従う吸引力を効率的に発生可能な吸引力発生装置及び吸引力発生方法を提供することを目的とする。また、排水路の最上部と吸引・排水対象の水の水位との間に高低差がある場合でも、吸引力の損失を抑制しながら吸引力を効率的に発生可能な吸引力発生装置及び吸引力発生方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管側との間の水位差により、前記第2の管から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、前記第2の管から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置と、前記供給された水が前記第1の管の前記上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制する逆流抑制装置と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この吸引力発生装置によれば、第2の管で空気混入率の大きい水を吸引して排水する場合でも、サイフォン機能維持装置により排水経路内に水供給を行うことで、さらに排水経路内に供給された水が逆流抑制装置により第1の管に向けて効果的に流れることで、第1の管内の空気混入率を低下させることができるとともに、第1の管内を流下する水の流速を増加させることができる。このため、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持することができる。このように、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができるから、サイフォンによる吸引力を効率的に発生させて利用できる。なお、第1の管の下端から排水される水をサイフォン機能維持装置に送ることで排水経路内への水供給を行うようにしてもよい。
【0012】
上記吸引力発生装置において、吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低く高低差のある条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水管を通して排水し、前記高低差のある排水経路内を気体で充満させることで前記高低差による吸引力の損失を解消する吸引力損失解消装置を備えることが好ましい。吸引対象の水の水位面が第2の管の最上部の位置よりも低い場合、その高低差によって吸引力の損失が生じるが、この対策として、高低差のある排水経路前の水を汲み上げて排水することで、高低差のある排水経路内に、液体に比べて密度が著しく小さい気体が負圧状態で充満することにより、吸引力の損失を防ぐことができるとともに、第1の管の下端側と第2の管側との間の水位差によりサイフォン機能による吸引力を作用させることができる。なお、第2の管の最上部とは、第2の管が水平に配置されている場合には、その水平高さ位置部分、また、第2の管が傾斜や段差等のために高低差を持つ場合には、そのもっとも高い位置部分である。
【0013】
なお、上述の高低差のある排水経路は、鉛直経路または傾斜経路から構成できる。また、汲みあげた水は前記排水管を通してサイフォン機能維持装置に送ることで上述の水供給に供されることが好ましい。
【0014】
前記吸引力損失解消装置内への空気流入を防止するために前記排水管に逆止弁を設けることが好ましい。これにより、排水管を通して吸引力損失解消装置内に空気が流入しないため大気圧が伝達せず、吸引力損失解消装置内が大気圧となって吸引力損失解消装置の機能が低下することを防止できる。
【0015】
また、前記水供給位置よりも下流側の前記排水経路内に水が飽和するように設けられた段差や傾斜管等からなる水飽和経路を備えることが好ましい。水が飽和している水飽和経路が緩衝効果を持つため、吸引力が急激に増大した場合においても気体が充満している排水経路内の気体の急激な膨張に伴う気体の流入を抑えることができる。これにより、サイフォンをより安定的に機能させることができる。
【0016】
また、前記逆流抑制装置は、流量調整弁、段差経路、傾斜経路及び狭窄経路のうちの少なくともいずれか1つを有することが好ましい。これにより、排水経路内に供給された水を第1の管に向けて効果的に流すことができる。
【0017】
上記吸引力発生装置は真空ポンプによる動力装置を併用することが好ましい。これにより、サイフォン機能が停止した場合に、その再開を容易に行うことができるとともに、サイフォン機能のみでは不足する吸引力を補うことができる。
【0018】
上記目的を達成するための吸引力発生方法は、上部から下部に向けて延びる第1の管の下端側と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管側との間の水位差により、前記第2の管から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力を作用させる吸引力発生方法であって、前記第2の管から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するとともに、前記供給された水が前記第1の管の前記上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制するようにしたことを特徴とする。
【0019】
この吸引力発生方法によれば、第2の管で空気混入率の大きい水を吸引して排水する場合でも、排水経路内に水供給を行うことで、さらに排水経路内に供給された水がその逆流が抑制されることにより第1の管に向けて効果的に流れることで、第1の管内の空気混入率を低下させることができるとともに、第1の管内を流下する水の流速を増加させることができる。このため、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持することができる。このように、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができるから、サイフォンによる吸引力を効率的に発生させて利用できる。なお、第1の管の下端から排水される水を排水経路内への水供給に再利用するようにしてもよい。
【0020】
上記吸引力発生方法において、吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低く高低差のある条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水し、前記高低差のある排水経路内を気体で充満させることで前記高低差による吸引力の損失を解消するようにすることが好ましい。吸引対象の水の水位面が第2の管の最上部の位置よりも低い場合、その高低差によって吸引力の損失が生じるが、この対策として、高低差のある排水経路前の水を汲み上げて排水することで、高低差のある排水経路内に、液体に比べて密度が著しく小さい気体が負圧状態で充満することにより、吸引力の損失を防ぐことができるとともに、第1の管の下端側と第2の管側との間の水位差によりサイフォン機能による吸引力を作用させることができる。なお、汲みあげた水は排水経路内への水供給に再利用することが好ましい。また、第2の管の最上部とは、第2の管が水平に配置されている場合には、その水平高さ位置部分、また、第2の管が傾斜や段差等のために高低差を持つ場合には、そのもっとも高い位置部分である。
【0021】
上記目的を達成するための真空圧密地盤改良工法は、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする。
【0022】
この真空圧密地盤改良工法によれば、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法によるサイフォン機能の吸引を併用することで地盤改良における真空圧密を促進させることができ、盛土による載荷の縮小や省略を図ることができるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、従来の真空圧密工法に比べて吸引力が増加し、かつ、吸引力を効率よく加えることができるため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0023】
上記目的を達成するための別の真空圧密地盤改良工法は、上述の吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低い条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水管を通して排水し、高低差のある前記排水経路内を気体で充満させることで前記吸引力の損失を防ぐようにした吸引力発生装置または吸引力発生方法を用い、真空ポンプにより減圧可能な密閉室内に前記第1の管の少なくとも下端側を配置し、前記密閉室内を減圧することによる負圧を前記サイフォン機能による吸引力に加えて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行う際に、前記密閉室を地表面に設置することを特徴とする。
【0024】
この真空圧密地盤改良工法によれば、第1の管の少なくとも下端側が配置された密閉室内を減圧することによる負圧をサイフォン機能による吸引力に加えて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことで、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現できる。さらに、軟弱地盤における吸引し排水する対象の水の水位面が第2の管の最上部よりも低い条件において、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法により、水が第2の管における排水経路に流入する前に排水管を通して排水し、高低差のある排水経路内を気体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体で充満させることで吸引力の損失を抑制できるので、密閉室を地表面に設置しても、サイフォン機能による吸引力を発生させて真空圧密による地盤改良に利用することができる。また、密閉室を地中部に設置しなくてもよいので、地盤改良コストを低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の吸引力発生装置及び吸引力発生方法によれば、水と気体の流れが分離せずにサイフォンの原理に従う吸引力を効率的に発生させることができる。また、排水路の最上部と吸引・排水対象の水の水位との間に高低差がある場合でも、吸引力の損失を抑制しながら吸引力を効率的に発生させることができる。
【0026】
本発明の真空圧密地盤改良工法によれば、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1の吸引力発生装置において吸引力損失解消装置がない場合に発生する吸引力損失を説明するための図である。
【図3】図1の吸引力発生装置におけるサイフォン機能による水と空気との気液2相流を説明するための模式図(a)及び水と空気との気液2相流を実現できない状態を説明するための模式図(b)である。
【図4】図1の逆流抑制装置として水平管に段差経路を設けた吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図5】図1の逆流抑制装置として水平管に狭窄経路を設けた吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図6】図1の吸引力発生装置においてサイフォンが正常に機能している状態を概略的に示す部分図(a)及びサイフォンが途切れた状態を概略的に示す部分図(b)である。
【図7】図4の吸引力発生装置において排水経路内の圧力が変動した場合の対策として水平管に水飽和経路を設けた例を示す図である。
【図8】第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【図9】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの変形例を示す部分図である。
【図10】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの別の変形例を示す部分図である。
【図11】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの別の構成例を概略的に示す図である。
【図12】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムのさらに別の構成例を概略的に示す図である。
【図13】本実施例で用いた実験装置を概略的に示す図である。
【図14】本実施例の予備実験において吸引力損失解消装置を作動させないケース(高低差部が水で飽和されている)で測定した各作用圧力の時間変動を示すグラフである。
【図15】本実施例の実験において水供給装置から供給される水の逆流割合が3%程度でかつ水供給量を30L/分としたケースで測定した各作用圧力の時間変動を示すグラフである。。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0029】
〈第1の実施形態〉
図1は第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【0030】
図1の吸引力発生装置は、上部から下部に向けて鉛直方向に延びる第1の管である鉛直管1と、鉛直管1の上部で水平方向に延びる第2の管である水平管2と、水平管2に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置3と、サイフォン機能維持装置3から供給された水の逆流を抑制する逆流抑制装置8と、を備える。水平管2を通して鉛直管1の下端1a側に向けて排水経路が形成される。鉛直管1及び水平管2は金属製またはプラスチック製の円筒管からなる。
【0031】
図1のサイフォン機能維持装置3は、水平管2の上部に配置されて水を貯留するタンク4と、タンク4の底部と水平管2との間に設けられ水供給位置5aで水平管2に接続する水供給管5と、水供給管5の途中に設けられたバルブ6と、を備え、タンク4内の水を、バルブ6を開くことで水供給管5を通して方向bに流して水供給位置5aから水平管2の排水経路内に供給する。
【0032】
図1の逆流抑制装置8は、サイフォン機能維持装置3の水供給位置5aと水平管2の先端2aとの間に、すなわち、水供給位置5aよりも上流側(水の流れ方向cと反対側)に配置された流量調整弁を有し、タンク4から供給された水の逆流(水平管2内の水の流れ方向cと反対方向への流れ)を抑制するようになっている。
【0033】
逆流抑制装置8の流量調整弁は、バルブの開口量の調整により流量の調整が可能なものが好ましく、水平管2内の水の流れ方向cと反対方向へ流れる水の流量を所定量に調整し制限することができる。
【0034】
図2は図1の吸引力発生装置において吸引力損失解消装置がない場合に発生する吸引力損失を説明するための図である。図2のように、最上部にある水平管2の位置でサイフォンによる負圧が大きく働くが、水平管2の先端2a側に連結管2bを介して、水平管2の下方に別の水平管2cを配置し、吸引対象の水位面H3が下方の水平管2cの位置近傍であり、水平管2の位置よりも低い場合、水平管2と水位面H3との高低差Δhに応じて負圧の損失、すなわち、吸引力の損失が生じる。換言すると、その高低差Δhに相当する分を揚水しなければならないため、吸引力の損失が生じる。
【0035】
この吸引力損失の解消のため、図1の吸引力発生装置は、水が水平管2における排水経路に連結管2bを通して流入する前に排水管38を通して方向jに排水し、高低差のある連結管2b内の排水経路を気体で充満させることで吸引力の損失を解消する吸引力損失解消装置35を備える。
【0036】
図1のように、吸引力損失解消装置35は、揚水ポンプ37及び排水管38を設置した密閉容器36を有し、密閉容器36の入口部に排水対象の水位面H3の水が存在する密閉空間とつながる入口管34を接続し、出口部に水平管2の先端2aと連結管2bを介してつながる出口管39を接続する。排水対象の水が入口管34から密閉容器36内に供給され、この水が揚水ポンプ37により排水管38を通して方向jに排水され、排水管38の先端38aからサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給される。なお、水平管2の先端2aに連結される連結管2bは、鉛直方向に配置してよいが、傾斜して配置してもよい。また、入口管34は、例えば、後述の図8等の鉛直ドレーン材31に接続部33等を介して接続される。
【0037】
密閉容器36からの揚水ポンプ37による排水により、密閉容器36内の水位が下げられるため、出口管39につながる連結管2b及び連結管2bにつながる水平管2の排水経路内において、液体に比べて密度が著しく小さい気体が負圧状態で水平管2に向けて方向aへと流れて充満することにより、排水経路の高低差Δhの揚水に係る負圧(吸引力)の損失を抑えることができる。このように、図1の吸引力発生装置が吸引力損失解消装置35を備え、高低差Δhのある排水経路前の水を汲み上げて排水することで、高低差Δhのある排水経路内に、液体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体が充満し、吸引力の損失を解消することができる。
【0038】
また、吸引力損失解消装置35の密閉容器36に接続された排水管38の途中に逆止弁38aを設けることで、排水管38を通して吸引力損失解消装置35の密閉容器36内に空気が流入しないようにすることが好ましい。これにより、密閉容器36内に大気圧が伝達せず、吸引力損失解消装置35の密閉容器36内が大気圧となって吸引力損失解消装置35の機能が低下してしまうことを防止できる。
【0039】
図1のように、鉛直管1の下端1aが水中にあるとき、その排水位面H1と水平管2内の水位面H2との間の水位差ΔHに起因するサイフォン機能により水平管2の先端2a側から鉛直管1の下端1a側に向けて吸引力が発生する。このとき、吸引対象の水位面H3と水平管2との間に高低差Δhがあっても吸引力損失解消装置35により吸引力の損失を解消することができる。かかるサイフォン機能により水が水平管2内を水平方向cに流れて鉛直管1内を鉛直方向dに流れる。なお、図1の排水面が鉛直管1の下端1aに達していないときは、鉛直管1の下端1aと水平管2の先端2a側の水位面H2との間の水位差に起因するサイフォン機能により鉛直管1の下端1a側に向けて吸引力が発生する。
【0040】
図3は、図1の吸引力発生装置におけるサイフォン機能による水と空気との気液2相流を説明するための模式図(a)及び水と空気との気液2相流を実現できない状態を説明するための模式図(b)である。
【0041】
水平管2内に気体が含まれる条件においてサイフォンの原理に従って吸引力を作用させるためには、鉛直管1内において水と気体を分離させず、一体的に流下させなければならない。すなわち、図3(a)のように、水平管2内において方向cに空気と水とが分離して流れても、鉛直管1内においては空気が多数の気泡Bとして取り込まれ、気液2相流として一体的に方向dに流下することで、鉛直管1内においてサイフォンの原理が成立し、水位差ΔHによる吸引力が発生する状態となる。なお、図3(b)のように、水平管内で空気と水とが分離して流れ、鉛直管内でも水と空気が分離して流下すると、サイフォンの原理が成立せず、水位差による吸引力が発生しない状態となる。
【0042】
サイフォンの原理に従う吸引力により排水を行う場合、溶存酸素等の気化や管等における気密漏れ部から空気の流入が生じることから、サイフォン機能を維持するためには、上述のように、鉛直管1内で気体の流れと液体の流れとの分離を防ぎ、図3(a)のように気液2相流(気泡混合流)を形成させなければならない。そして、水平管2を通過する水と空気の流れが鉛直管1内で気液2相流となってサイフォン機能が働きやすくするためには、鉛直管1内の空気混入率を減じるとともに鉛直管1を流下する水の流速を増加させることが必要である。
【0043】
図1の吸引力発生装置では、サイフォン機能維持装置3から排水経路内に水を供給することで、鉛直管1内の空気混入率を減じることができかつ鉛直管1を流下する水の流速を増加させる効果があらわれ、サイフォン機能を安定的に働かせることができる。また、排水経路に高低差Δhがあっても吸引力損失解消装置35により高低差Δhのある排水経路内に、液体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体が充満することで吸引力の損失を防ぐことができる。さらに、サイフォン機能維持装置3からの水供給位置5aの上流側に逆流抑制装置8を設けることで、サイフォン機能維持装置3から供給される水が水平方向cと反対方向に流れにくくなり鉛直管1に向かって効果的に流れるため、水平管2の先端2a側の高低差のある排水経路内を気体で充満させたまま、鉛直管1内に気液2相流を安定的に形成させることができる。
【0044】
以上のように、図1の吸引力発生装置によれば、サイフォン機能維持装置3から水が水平管2内に供給されることで、また、水平管2内に供給された水が逆流抑制装置8により鉛直管1に向けて効果的に流れることで、水平方向cに吸引されて流れる水は空気混入率が低くなるとともに、鉛直管1内を流下する水の流速が増加する。このため、鉛直管1内では、気体の流れと液体の流れとが分離せず、水と気体が混合した気液2相流が安定して形成され、サイフォンが機能できる。さらに、排水経路に高低差Δhがあっても吸引力損失解消装置35により吸引力の損失を解消することで吸引力を維持することができる。このようにして、サイフォン機能を維持してサイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができる。
【0045】
また、図1のサイフォン機能維持装置3において水平管2における空気量に応じて、サイフォン機能維持装置3から供給する水の量をバルブ6によって調整することで水流量すなわち流速を管理し、空気を水とともにスムーズに流下させることができる。
【0046】
また、図1の吸引力損失解消装置35は、吸引力損失防止のために密閉容器36内から汲みあげた水をサイフォン機能維持装置3のタンク4に送ることにより、水を有効利用でき、また、鉛直管1内への水の供給量を増やし、空気混入率を低下させるとともに、流下する流速を増加させて、鉛直管1内でサイフォンを機能しやすくする効果を奏する。
【0047】
なお、図1の吸引力損失解消装置35では、密閉容器36に流入する水量と同等またはそれ以上に揚水ポンプ37による排水が行われる場合、密閉容器36内は気体と液体が分離された状態となる。このとき、高低差を有する排水経路内は液体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体で充満されるため、負圧(吸引力)の損失が生じず、吸引力損失解消装置35が完全に機能している状態となる。一方、密閉容器36に流入する水量が揚水ポンプ37による排水量よりも多い場合、密閉容器36内は水で飽和された状態となる。このとき、高低差を有する排水経路(連結管2b)内に水が残り、その排水経路内の水位は密閉容器36に流入する水量により変動するが、その排水経路内の水位分の負圧損失が生じるため、吸引力損失解消装置35が部分的に機能している状態となる。上述のように、吸引力損失解消装置35において吸引力損失機能を完全に発揮させるためには、揚水ポンプ37の排水能力を常に密閉容器36に流入する水量と同等またはそれ以上として密閉容器36内で気体と液体とを分離させることが好ましいが、気体と液体が分離していなくとも負圧損失機能を部分的には発揮させることができる。
【0048】
次に、本実施形態の吸引力発生装置の原理、すなわち、サイフォンを機能させる条件について説明する。浮力による気泡の上昇速度νaは、浮力と抗力のつりあいにより、次の式(1)によって評価できる。
【0049】
νa=[8gra/(3CD)]0.5 (1)
【0050】
ここで、raは気泡の半径であり、気泡の大きさは最大で管径の1/2となりえる。また、CDは抗力係数であり、0.5で与えられる。
【0051】
また、管の通水断面積をAとすると、気泡の最大半径ra(max)は、次の式(2)で表すことができる。
【0052】
ra(max)=(A/π)0.5 (2)
【0053】
また、鉛直管に流入してくる水の流量がQのとき、鉛直管を流下する水の流速νwは、次の式(3)で評価できる。
【0054】
νw=Q/A (3)
【0055】
上記式(3)は、水平管から流入してくる流量に対して、鉛直管の内径を小さくし、通水断面積を小さくすると、または、排水経路内に水を供給して流量を増加させると、流速が増加することを示している。
【0056】
ここで、鉛直管内において、鉛直管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaとなるような条件を設定することにより、気泡が水の流れに連行され、気液混相流(気液2相流)が形成されるためサイフォンが機能する。
【0057】
上記条件(νw>νa)を成立させるために次のような方法・手段が考えられる。
(1)空気混入率を低下させ、形成されうる気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える(式(1)(2))。
(2)鉛直管を細くする、または、供給する水の量を増加させて、水の流下速度を上昇させる(式(3))。
【0058】
本実施形態の吸引力発生装置は、上記(1)(2)を利用する構成を有するものである。なお、上記(2)の効果を高めるために、鉛直管1の内径を水平管2の内径よりも小さくして鉛直管1の通水断面積を水平管2の通水断面積よりも小さくしたり、鉛直管1の途中に内径が鉛直管下方に向けて漸減する漸減部を設けるようにしてもよい。
【0059】
次に、図1の吸引力発生装置の逆流抑制装置8に関する別の二例について図4,図5を参照して説明する。図4は図1の逆流抑制装置として水平管に段差経路を設けた吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。図5は図1の逆流抑制装置として水平管に狭窄経路を設けた吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【0060】
図4の例は、図1の逆流抑制装置8の流量調整弁の代わりに、逆流抑制装置として段差を有する段差経路8aをサイフォン機能維持装置3の水供給位置5aと水平管2の先端2aとの間に設けたものである。水平管2は、先端2a側が若干高く、段差経路8aを介して水供給位置5a側が若干低くなっている。水平管2の途中に設けた段差経路8aにおいてサイフォン機能維持装置3から供給された水が逆流しにくくなり、逆流を抑制することができる。これにより、サイフォン機能維持装置3の水供給位置5aから供給された水が鉛直管1に向かって効果的に流れる。なお、段差経路8aの代わりに、段差経路8aの部分を傾斜経路に構成してもよく、同様にサイフォン機能維持装置3から供給された水の逆流を抑制できる。
【0061】
図5の例は、図1の逆流抑制装置8の流量調整弁の代わりに、逆流抑制装置として内部断面積を小さくして狭くした狭窄経路8bをサイフォン機能維持装置3の水供給位置5aと水平管2の先端2aとの間に設けたものである。水平管2の途中に設けた狭窄経路8bにおいてサイフォン機能維持装置3から供給された水が逆流しにくくなり、逆流を抑制することができる。これにより、サイフォン機能維持装置3の水供給位置5aから供給された水が鉛直管1に向かって効果的に流れる。なお、狭窄経路8bは、図5のように水平管2の鉛直方向上部に設けることが好ましいが、これに限定されず、鉛直方向中間または下部に設けてもよい。
【0062】
また、図4,図5において、逆流抑制装置として、さらに図1のような流量調整弁を段差経路8a,狭窄経路8bの近傍に設けてもよい。
【0063】
次に、図1,図4,図5の吸引力発生装置において排水経路内の圧力が変動した場合の問題及びその対策について図6,図7を参照して説明する。図6は、図1の吸引力発生装置においてサイフォンが正常に機能している状態を概略的に示す部分図(a)及びサイフォンが途切れた状態を概略的に示す部分図(b)である。図7は、図4の吸引力発生装置において排水経路内の圧力が変動した場合の対策として水平管に水飽和経路を設けた例を示す図である。
【0064】
図1の吸引力発生装置において、図6(a)のように、連結管2b等の高低差のある排水径路内が負圧状態の気体で充満されているとき、気体が方向aに流れるとともに、水平管2から水と空気が方向cに流れ、鉛直管1で気液2相流となって鉛直方向下向きdに流れてサイフォンが正常に機能する。
【0065】
ここで、逆流抑制装置8の上流側の高低差のある水平管2,連結管2b、出口管39から構成される排水経路内が気体で充満された状態で圧力pが変動すると、気体の体積Vがボイルの法則(pV=一定)にしたがって変化してしまう。
【0066】
例えば、サイフォンの吸引力が瞬間的に増加すると、高低差のある排水経路内の気体が方向aに急速に流れて急激に膨張する。その結果、図6(b)のように、気体が水平管2からサイフォンを機能させる鉛直管1内へ大量に流入し、鉛直管1内で水と空気が分離する不飽和状態が広がってサイフォンが途切れて中断しやすくなってしまう。
【0067】
上述のようなサイフォン機能の中断防止対策として、図7の例は、図4の吸引力発生装置においてサイフォン機能維持装置3の水供給位置5aよりも下流側の水平管2に水飽和経路9を設けたものである。水飽和経路9は水供給位置5aよりも下流側で水平管2が上部に若干高くなる段差から構成されている。すなわち、水平管2は、先端2a側と比べて段差経路8aで若干低くなったまま水の流れ方向cに略水平に水供給位置5aの下流側へと延び、水飽和経路9で若干高くなってから鉛直管1の上部に接続するようになっている。
【0068】
図7のように、サイフォン機能維持装置3が水供給位置5aから排水経路内に水を供給する一方、上述のように吸引力が急激に増大したために排水経路内で方向aから流れてきた気体が急激に膨張すると段差経路8aから方向cへと流れ込む。その結果、段差経路8aよりも下流側の排水経路で水位Hが低下した状態となるが、水は、水飽和経路9の段差に当たり、この段差で飽和状態となることで空気が水の中に取り込まれて混合した状態となって鉛直方向上向きc’に流れる。このため、鉛直管1の上部から空気の混合した水が気液2相流を維持した状態で鉛直管1内を流れ落ちることによりサイフォン機能が途切れず中断しない。
【0069】
上述のように、水飽和経路9は、水と空気の流れに対する緩衝効果を有し、水平管2内において吸引力(負圧)が急激に増大した場合、排水経路内に充満した気体が急激に膨張することに伴う気体の鉛直管1への流入を抑えることができる。このため、サイフォンをより安定的に機能させることができる。なお、図7の水飽和経路9は、図1,図5の吸引力発生装置に適用することで同様の効果を得ることができる。
【0070】
サイフォンを吸引力として用いる場合、従来、水に空気が混入することで容易にサイフォンが途切れてしまうことが問題となり、サイフォンを併用した真空圧密工法では空気混入量が多い場合サイフォン機能が容易に低下してしまうのに対し、本実施形態の吸引力発生装置によれば、鉛直管1内で気液2相流を形成してサイフォン機能を発揮させるととともに、排水経路の最上部と吸引・排水したい水の水位との間に高低差のある場合においてもサイフォンの吸引力が失われることなく吸引・排水を効果的に行うことができる。
【0071】
〈第2の実施形態〉
図8は第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【0072】
図8の真空圧密地盤改良システム100は、鉛直通水管11と水平通水管12とを有し図1とほぼ同様に構成された吸引力発生装置と、真空減圧装置30と、を備える。水平通水管12は、鉛直通水管11と鉛直通水管11の上端で接続されている。なお、鉛直通水管11と水平通水管12は、図1,図2の吸引力発生装置の鉛直管1,水平管2と同様の構成であってよい。
【0073】
真空圧密地盤改良のために鉛直ドレーン材31が、軟弱地盤G内の間隙水を吸引するように地表面Sから軟弱地盤G内に打設され、鉛直ドレーン材31の上端に接続される不透気部32の下端が地下水位面H3よりも深い位置にある。なお、鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内に必要に応じて複数本打設され、不透気部32や接続部33とともに、例えば、特許文献2〜4に開示された構成とすることができる。
【0074】
図8の真空圧密地盤改良システム100の吸引力発生装置は、図1と同様のサイフォン機能維持装置3を備え、サイフォン機能維持装置3のタンク4内の水がバルブ6を開くことで水供給管5を通して水供給位置5aで水平通水管12内に供給されるようになっている。
【0075】
さらに、図8の吸引力発生装置は、図1と同様の逆流抑制装置8と吸引力損失解消装置35とを備える。吸引力損失解消装置35の密閉容器36の入口管34は、不透気部32と接続部33とを介して鉛直ドレーン材31と接続している。密閉容器36は地表面Sに設置され、改良対象の地盤G内の地下水位面H3よりも高い位置にある。水平通水管12は密閉容器36よりも高い位置にあるが、密閉容器36の出口管39は、バルブ12a,連結管12bを介して水平通水管12と接続している。
【0076】
図8のように、真空減圧装置30は、鉛直通水管11が延びて鉛直通水管11からの水が溜まるように地中部に設けられた密閉室21と、密閉室21内を減圧する真空ポンプ25と、密閉室21内に溜まった水を方向eに排水管23を通して排出する揚水ポンプ22とを備える。排水管23はサイフォン機能維持装置3のタンク4まで延び、その先端23aからタンク4に排水することで、密閉室21に溜まった水を再利用する。
【0077】
図8の真空減圧装置30では真空ポンプ25により密閉室21の内部が減圧されることで、真空減圧装置30が減圧(負圧)発生源として機能する。このため、図8の真空圧密地盤改良システム100によれば、真空ポンプ25による吸引力と、水平通水管12と鉛直通水管11とによるサイフォン機能に起因する吸引力とを発生させることができるので、真空ポンプ25の能力以上の大きな吸引力を得ることができる。また、サイフォン機能が停止した場合などに、真空ポンプ25により、その再開が容易である。
【0078】
また、水平通水管12と改良対象の地盤G内の地下水位面H3との間に高低差があっても、図8の吸引力損失解消装置35により、密閉容器36内の水を排出し、連結管12bを通して排水経路内が、液体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体で充満され、高低差のある排水経路において揚水に係るエネルギーの損失を抑えることで、水平通水管12と鉛直通水管11とによるサイフォンに起因する吸引力の損失を解消できる。
【0079】
図8の真空圧密地盤改良システム100による真空圧密地盤改良工法の工程について説明する。
【0080】
(1)真空ポンプ25により減圧を発生させる真空減圧装置30の密閉室21を密閉する。改良対象の軟弱地盤内に打設された鉛直ドレーン材31を吸引力損失解消装置35の入口管34に接続し、出口管39を連結管12bを介して水平排水管12と接続する。
【0081】
(2)水平通水管12のバルブ12a及び鉛直通水管11の下端1a側のバルブ11aを閉じておく。
【0082】
(3)鉛直通水管11、水平通水管12を水にて満管状態とした後、鉛直通水管11のバルブ11aとサイフォン機能維持装置3のバルブ6を開放して通水し、鉛直通水管11内でサイフォン機能が働く状態にする。
【0083】
(4)密閉室21内に流入する水を、揚水ポンプ22により排水し、排水管23を通してサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給する。
【0084】
(5)真空ポンプ25により徐々に密閉室21内の圧力を減じ、圧力が目的の値まで減少した時に水平通水管12のバルブ12aを開放するとともに、吸引力損失解消装置35の揚水ポンプ37を作動させる。これにより、水平通水管12の最上部の水位面H2と密閉室21内の水位面H1との水位差ΔH(=H2−H1)に起因するサイフォン機能による吸引力に、真空ポンプ25による吸引力を併用して、軟弱地盤G内の間隙水を方向mに鉛直ドレーン材31を通して吸引し、入口管34を通して方向fに密閉容器36内へ流れる。
【0085】
(6)鉛直ドレーン材31や各管の継手部分等から流入する空気量と水量とに応じてサイフォン機能維持装置3のバルブ6及び逆流抑制装置8の流量調整弁の各開閉を調整し、サイフォンが途切れないようしてサイフォン機能を維持する。なお、排水管23を通したサイフォン機能維持装置3のタンク4への水供給量は、バルブ24aの開閉を調整し外部排水管24を通して外部に適宜排水することで調整する。
【0086】
上述のようにして、軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで地盤圧密を促進することができるが、このとき、真空減圧装置30の真空ポンプ25で密閉室21内を減圧することによる吸引力に加えて、水平通水管12内の水位面H2と密閉室21内の水位面H1との間の水位差ΔHに起因するサイフォン機能による吸引力が発生し、これらの吸引力により軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで軟弱地盤Gを圧密するので、この真空圧密を、真空ポンプ25のみで吸引する場合と比べて水位差ΔHに起因する吸引力が加わる分だけより大きな吸引力で行うことができる。
【0087】
サイフォンを吸引力として用いる場合、水に空気が混入することで容易にサイフォンが途切れてしまうことが問題となり、サイフォンを併用した真空圧密地盤改良工法では空気混入量が多い場合、サイフォン機能が容易に低下してしまうのに対し、本実施形態によれば、サイフォン機能維持装置3による水平通水管12への水供給により、また、水平通水管12内に供給された水が逆流抑制装置8により鉛直通水管11に向けて効果的に流れることにより、鉛直通水管11中の混入空気量を減じるとともに、鉛直通水管11内を流下する流速を増加させてサイフォン機能を持続させることができる。これにより、吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることができる。
【0088】
さらに、水平通水管12と改良対象の地盤G内の地下水位面H3との間に高低差が存在しても、吸引力損失解消装置35により吸引力の損失を解消することができるので、吸引力が低下せずに効率よく軟弱地盤に加えることができる。
【0089】
従来の真空圧密地盤改良工法によれば真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用していたのに対し、本実施形態のようにサイフォン機能による吸引力を併用し、しかもサイフォン機能を持続させて吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることで、盛土による載荷を縮小したり省略できるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を期待することができる。また、従来の工法に比べて吸引力が増加し、かつ、吸引力を効率よく加えることができるため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0090】
なお、揚水ポンプ22は、揚程差10m以上の高揚程タイプが好ましく、密閉室21を地中深く設置し、水位差ΔHの確保のため密閉室21内の水位面H1を水平通水管12に対しより低くした場合でも、密閉室21内の貯留水を排水できる。
【0091】
また、前述したように、細い鉛直通水管を使用して流下速度を速くする方が、サイフォンは機能しやすい。排水量を十分に確保しながら、空気が混入した水に対してサイフォン機能を維持できる条件を満足するために、図9のように、内径の異なる複数の鉛直通水管41,42,43を図8の密閉室21内に配置し、バルブ41a,42a,43aを介して水平通水管12に連結することで、流入水量に応じて、バルブ41a〜43aの開閉により、好ましい鉛直通水管を迅速に選択できるようにしてもよい。これにより、空気が混入した水でも排水量を十分に確保しつつサイフォン機能を維持することができる。
【0092】
また、図8の真空圧密地盤改良システム100において図4,図5,図7の吸引力発生装置を適用してもよく、上述と同様の効果を得ることができる。この場合、図4の逆流抑制装置8の段差経路8aを、径の異なる複数の鉛直管51,52,53から構成してもよい。すなわち、水平通水管12の上部に、図4の水平管2の先端2a側を構成する水平通水管12cを配置し、水平通水管12と水平通水管12cとの間に複数の鉛直管51,52,53をバルブ51a,52a,53aを介して配置する。サイフォン機能維持装置3から水平通水管12への供給水量に応じて、バルブ51a〜53aの開閉により、逆流抑制効果の高い鉛直管51,52,53を迅速に選択できるようにしてもよい。
【0093】
次に、第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの別構成の二例について図11,図12を参照して説明する。図11は第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの別の構成例を概略的に示す図である。図12は第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムのさらに別の構成例を概略的に示す図である。
【0094】
図11の例は、図8の真空圧密地盤改良システム100と同様の構成であるが、真空減圧装置30の密閉室21を、地中部内ではなく、地表面S1上に設置したものである。なお、吸引力損失解消装置35の密閉容器36も地表面S1上に設置されている。
【0095】
図11の真空圧密地盤改良システムによれば、水平通水管12と改良対象の地盤G内の地下水位面H3との間に高低差が存在しても、吸引力損失解消装置35により水平通水管12の排水経路内における吸引力の損失が解消されるので、図8と同様にサイフォン機能による吸引力を併用した真空圧密地盤改良工法を実施することができるとともに、密閉室21を地表面S1上に設置することができる。このため、真空減圧装置30の密閉室21を地中部内に設置するコストが不要となり、真空圧密地盤改良のコスト減に寄与できる。
【0096】
図12のものは、図11の真空圧密地盤改良システムと基本的に同様の構成であるが、地盤改良対象域と真空減圧装置30との間に堤防や盛土等の山形状の障害物Jが存在する場合の構成例である。
【0097】
図12のように、地盤改良対象域の軟弱地盤G内に打設された鉛直ドレーン材31の近くに吸引力損失解消装置35を設置し、堤防や盛土等の山形状の障害物Jの上部に水平通水管12とサイフォン機能維持装置3を設置し、さらに、真空減圧装置30を地盤改良対象域に対し山形状の障害物Jの反対側の地表面S上に設置したものである。吸引力損失解消装置35と水平通水管12とは傾斜した連結管12bによって連結されている。
【0098】
図12の真空圧密地盤改良システムによれば、水平通水管12や連結管12bを山形状の障害物Jを越えるように配置することで、地盤改良対象域と真空減圧装置30との間に堤防や盛土等の山形状の障害物Jが存在する場合でも、サイフォン機能による吸引力を併用した真空圧密地盤改良工法を実施できる。すなわち、水平通水管12が山形状の障害物Jの上部に配置されたため水平通水管12と改良対象の地盤G内の地下水位面H3との間に高低差が存在しても、図11と同様に吸引力損失解消装置35により水平通水管12の排水経路内における吸引力の損失が解消されるので、サイフォン機能による吸引力を併用した真空圧密地盤改良工法を実施できる。また、密閉室21を地表面S1上に設置することができるため、真空減圧装置30の密閉室21を地中部内に設置するコストが不要となり、真空圧密地盤改良のコスト減に寄与できる。
【実施例】
【0099】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0100】
実験概要
上述のようなサイフォン機能の発揮および吸引力損失低減に及ぼす効果を検証するために図13に示す実験装置により実験を行った。
【0101】
図13の実験装置を用いて以下の手順で実験を行った。
ステップ1:鉛直通水管の下部と逆流抑制装置の各バルブを閉じた後、水供給装置(サイフォン機能維持装置)のバルブを開けて水を注入し、水平通水管および鉛直通水管を水で飽和させる。
ステップ2:鉛直通水管のバルブを開け、サイフォンを機能させた後、真空ポンプを用いて徐々に密閉室内の圧力を下げる。
ステップ3:逆流抑制装置のバルブを若干開くとともに、吸引力損失解消装置内の揚水ポンプを作動させる。
ステップ4:水平通水管の頂部、密閉室内および高低差部底面での作用圧力をそれぞれ計測するとともに、水供給装置から供給される水量および鉛直通水管に向かう流量を計測する。
【0102】
実験結果
【0103】
予備実験として、吸引力損失解消装置内の揚水ポンプを作動させず、高低差のある排水経路を水で満たし、鉛直通水管内におけるサイフォン機能の純粋な成立条件を調査した。
【0104】
図14は、予備実験において吸引力損失解消装置を作動させないケース(高低差部が水で飽和されている)で測定した各作用圧力の時間変動を示すグラフである。
【0105】
鉛直通水管内でサイフォンが機能すると、水頭差による吸引力が発揮されるため、水平通水管内では密閉室内よりも高い負圧が作用する。サイフォン機能により、水平通水管内で、−90kPa以上の負圧が作用すると、溶存空気が気化し、空気の体積が増加することによりサイフォンが機能しにくくなることが判明した。
【0106】
鉛直通水管の内径を3cmとした今回の実験条件では、サイフォン機能維持装置(水供給装置)からの供給流量が15L(リットル)/分以上のとき、鉛直通水管内で気泡混合流が形成され、サイフォン機能を維持することができた。この場合、鉛直通水管内において、鉛直通水管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaの条件が成立し、気泡混合流が形成される。
【0107】
ただし、鉛直通水管内でサイフォンが機能している場合においても吸引力損失解消装置を作動させず、高低差部が水で飽和されているケースでは、図14に示すように、水平通水管の頂部で高い負圧が発生するが、高低差を揚水するためにエネルギーが使われることから、高低差部の底面位置では負圧の損失が生じる。負圧の損失量は高低差部の高低差1.5mの水頭に相当する15kN/m2程度である。
【0108】
次に、逆流抑制装置のバルブの開閉を調整しながら、吸引力損失解消装置を作動させ、鉛直通水管内におけるサイフォン機能の成立性および高低差部の気体充満による吸引力損失解消効果を調査した。
【0109】
実験の結果、鉛直通水管内にサイフォンを機能させながら、高低差部を気体で充満させるためには、(1)水供給装置から十分な水を供給するとともに、(2)逆流抑制装置のバルブの開閉を調整して水が逆流するときの流量を少なくすることが重要であることが判明した。本実験では、逆流抑制装置のバルブをわずかに開口して、水供給装置から供給される水の逆流割合が3%程度となるように調整した場合、サイフォン機能の成立と吸引力損失解消とを同時に成立させる水供給量は、30L/分程度以上が必要であった。
【0110】
また、逆流抑制装置のバルブの開口量を増やし、水供給装置から供給される水の逆流割合が5〜10%程度となるように調整した場合、サイフォン機能の成立と吸引力損失解消を同時に成立させる水供給量は、40L/分程度以上が必要であった。供給する水の逆流が大きい場合は、それに応じて水供給装置からの水の供給量を増加させることが必要であるが、水の供給装置や揚水ポンプに過大な負担がかかり、実現性が難しくなる。
【0111】
図15は、本実験において水供給装置から供給される水の逆流割合が3%程度でかつ水供給量を30L/分としたケースで測定した各作用圧力の時間変動を示すグラフである。
【0112】
図15から、サイフォン機能の成立により水平管頂部で高い負圧が発生するとともに、高低差部が気体で充満されているため高低差部の底面位置においても吸引力の損失が生じていないことがわかる。
【0113】
なお、内径3cmの鉛直通水管を用いた本実験でサイフォン機能の成立と吸引力損失解消とを同時に成立させる水の限界供給量を、鉛直通水管を流下する流速が一致するように内径5cmの鉛直通水管を用いた条件に換算すれば、83L/分であり、また、内径10cmの鉛直通水管の条件に換算すれば、333L/分である。
【0114】
以上のように本発明を実施するための形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図8において、サイフォン機能維持装置3の水の供給部分(タンク4)については、工場等で作製されるタンクではなく、掘削や地盤沈下により形成される凹型地盤を利用してもよい。
【0115】
また、本発明による吸引力発生装置を真空圧密地盤改良システムに適用したが、これに限定されず、他の装置・システム・他の工法に適宜適用してよく、同様の効果を得ることができる。また、鉛直管(鉛直通水管)、水平管(水平通水管)は、円筒管以外であってもよく、例えば角筒管でもよい。
【0116】
また、図1,図2,図8のサイフォンによる吸引力発生装置では、第1の管を鉛直管(鉛直通水管)として、第2管を水平管(水平通水管)として配置したが、本発明はこれに限定されず、水位差により第2の管から第1の管の下端側に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する構成であれば、それらの配置形態はいずれでもよく、例えば、第1の管、第2の管は傾斜等していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明による吸引力発生装置及び吸引力発生方法によれば、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理による吸引力を安定して持続的に発生させることができるので、真空ポンプに頼らずにサイフォンの自然エネルギーを極力使用可能となり、電力等のコストを削減可能となる。
【0118】
本発明による真空圧密地盤改良工法によれば、サイフォン機能による吸引力を併用することで盛土による載荷の縮小・省略が可能となり、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮できる。
【符号の説明】
【0119】
1 鉛直管
1a 鉛直管の下端
2 水平管
3 サイフォン機能維持装置
5a 水供給位置
8 逆流抑制装置
8a 段差経路
8b 狭窄経路
9 水飽和経路
11 鉛直通水管
12 水平通水管
21 密閉室
22 揚水ポンプ
25 真空ポンプ
30 真空減圧装置
31 鉛直ドレーン材
35 吸引力損失解消装置
36 密閉容器
37 揚水ポンプ
38 排水管
38a 逆止弁
100 真空圧密地盤改良システム
G 軟弱地盤
Δh 高低差
ΔH 水位差
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイフォンによる吸引力発生装置、吸引力発生方法及びこの吸引力発生装置または吸引力発生方法を用いた真空圧密地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸引力を発生させて、水を吸引し排水する装置として、真空ポンプを用いた吸引装置が知られている。従来の技術では、例えば、軟弱地盤内に鉛直ドレーンを打設後、真空ポンプによる吸引装置を用いて、負圧を作用させて地盤内を減圧することによって、地盤の圧密を促進する方法が用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-328550号公報
【特許文献2】特開2001-226951号公報
【特許文献3】特開2002-138456号公報
【特許文献4】特開2003-261929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の真空ポンプによる吸引装置では、真空ポンプの能力のみに頼って吸引を行っている。この従来の吸引装置によれば、真空ポンプの能力以上に圧密を促進する吸引力を作用させることができない。このため、従来の軟弱地盤の真空圧密地盤改良方法において真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用しなければならなかった。
【0005】
また、真空ポンプの力と、水面位置の差による力とを利用した吸引装置に関し、水面下の地盤の間隙水の吸引を目的にした水底軟弱地盤の減容化工法が提案されている(特許文献4参照)。この従来技術は、水面が、間隙水を吸引対象の地盤より高い位置にあることにより、水圧による圧縮力が作用して、間隙水を搾り出すものであり、改良対象の地盤が水中にあるとともに、地盤面位置が、排水部(減圧室)の水位よりも低い位置にあるという条件の下でのみ適用できるものである。この従来方法は、改良対象の地盤が陸上にあることを想定するものでなく、改良地盤面の天端位置から導かれるホースは、減圧室の側面に結合される形態としている。
【0006】
大きな吸引力を作用させる条件では、溶存空気等の気化や通水管の気密漏れ部から流入する空気の存在を考慮しなければならないが、この従来方法の形態を単純に変更して、上部から鉛直に管をつなげるだけでは、水と気体の流れが分離してしまうため、サイフォンの原理に従う吸引力は働かない。すなわち、陸上域の地盤を対象にした場合には、従来の技術によれば、真空ポンプの能力以上の吸引力を発揮させることはできなかった。
【0007】
また、サイフォンの原理に従う吸引力を利用する場合、設置される排水路の最上部の位置が、吸引・排水したい水の水位より高い場合、その高低差分を揚水しなければならないため、吸引力の損失が生じる問題を解決する必要がある。
【0008】
本発明は、水と気体の流れが分離せずにサイフォンの原理に従う吸引力を効率的に発生可能な吸引力発生装置及び吸引力発生方法を提供することを目的とする。また、排水路の最上部と吸引・排水対象の水の水位との間に高低差がある場合でも、吸引力の損失を抑制しながら吸引力を効率的に発生可能な吸引力発生装置及び吸引力発生方法を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管側との間の水位差により、前記第2の管から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、前記第2の管から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置と、前記供給された水が前記第1の管の前記上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制する逆流抑制装置と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この吸引力発生装置によれば、第2の管で空気混入率の大きい水を吸引して排水する場合でも、サイフォン機能維持装置により排水経路内に水供給を行うことで、さらに排水経路内に供給された水が逆流抑制装置により第1の管に向けて効果的に流れることで、第1の管内の空気混入率を低下させることができるとともに、第1の管内を流下する水の流速を増加させることができる。このため、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持することができる。このように、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができるから、サイフォンによる吸引力を効率的に発生させて利用できる。なお、第1の管の下端から排水される水をサイフォン機能維持装置に送ることで排水経路内への水供給を行うようにしてもよい。
【0012】
上記吸引力発生装置において、吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低く高低差のある条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水管を通して排水し、前記高低差のある排水経路内を気体で充満させることで前記高低差による吸引力の損失を解消する吸引力損失解消装置を備えることが好ましい。吸引対象の水の水位面が第2の管の最上部の位置よりも低い場合、その高低差によって吸引力の損失が生じるが、この対策として、高低差のある排水経路前の水を汲み上げて排水することで、高低差のある排水経路内に、液体に比べて密度が著しく小さい気体が負圧状態で充満することにより、吸引力の損失を防ぐことができるとともに、第1の管の下端側と第2の管側との間の水位差によりサイフォン機能による吸引力を作用させることができる。なお、第2の管の最上部とは、第2の管が水平に配置されている場合には、その水平高さ位置部分、また、第2の管が傾斜や段差等のために高低差を持つ場合には、そのもっとも高い位置部分である。
【0013】
なお、上述の高低差のある排水経路は、鉛直経路または傾斜経路から構成できる。また、汲みあげた水は前記排水管を通してサイフォン機能維持装置に送ることで上述の水供給に供されることが好ましい。
【0014】
前記吸引力損失解消装置内への空気流入を防止するために前記排水管に逆止弁を設けることが好ましい。これにより、排水管を通して吸引力損失解消装置内に空気が流入しないため大気圧が伝達せず、吸引力損失解消装置内が大気圧となって吸引力損失解消装置の機能が低下することを防止できる。
【0015】
また、前記水供給位置よりも下流側の前記排水経路内に水が飽和するように設けられた段差や傾斜管等からなる水飽和経路を備えることが好ましい。水が飽和している水飽和経路が緩衝効果を持つため、吸引力が急激に増大した場合においても気体が充満している排水経路内の気体の急激な膨張に伴う気体の流入を抑えることができる。これにより、サイフォンをより安定的に機能させることができる。
【0016】
また、前記逆流抑制装置は、流量調整弁、段差経路、傾斜経路及び狭窄経路のうちの少なくともいずれか1つを有することが好ましい。これにより、排水経路内に供給された水を第1の管に向けて効果的に流すことができる。
【0017】
上記吸引力発生装置は真空ポンプによる動力装置を併用することが好ましい。これにより、サイフォン機能が停止した場合に、その再開を容易に行うことができるとともに、サイフォン機能のみでは不足する吸引力を補うことができる。
【0018】
上記目的を達成するための吸引力発生方法は、上部から下部に向けて延びる第1の管の下端側と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管側との間の水位差により、前記第2の管から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力を作用させる吸引力発生方法であって、前記第2の管から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するとともに、前記供給された水が前記第1の管の前記上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制するようにしたことを特徴とする。
【0019】
この吸引力発生方法によれば、第2の管で空気混入率の大きい水を吸引して排水する場合でも、排水経路内に水供給を行うことで、さらに排水経路内に供給された水がその逆流が抑制されることにより第1の管に向けて効果的に流れることで、第1の管内の空気混入率を低下させることができるとともに、第1の管内を流下する水の流速を増加させることができる。このため、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持することができる。このように、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができるから、サイフォンによる吸引力を効率的に発生させて利用できる。なお、第1の管の下端から排水される水を排水経路内への水供給に再利用するようにしてもよい。
【0020】
上記吸引力発生方法において、吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低く高低差のある条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水し、前記高低差のある排水経路内を気体で充満させることで前記高低差による吸引力の損失を解消するようにすることが好ましい。吸引対象の水の水位面が第2の管の最上部の位置よりも低い場合、その高低差によって吸引力の損失が生じるが、この対策として、高低差のある排水経路前の水を汲み上げて排水することで、高低差のある排水経路内に、液体に比べて密度が著しく小さい気体が負圧状態で充満することにより、吸引力の損失を防ぐことができるとともに、第1の管の下端側と第2の管側との間の水位差によりサイフォン機能による吸引力を作用させることができる。なお、汲みあげた水は排水経路内への水供給に再利用することが好ましい。また、第2の管の最上部とは、第2の管が水平に配置されている場合には、その水平高さ位置部分、また、第2の管が傾斜や段差等のために高低差を持つ場合には、そのもっとも高い位置部分である。
【0021】
上記目的を達成するための真空圧密地盤改良工法は、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする。
【0022】
この真空圧密地盤改良工法によれば、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法によるサイフォン機能の吸引を併用することで地盤改良における真空圧密を促進させることができ、盛土による載荷の縮小や省略を図ることができるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、従来の真空圧密工法に比べて吸引力が増加し、かつ、吸引力を効率よく加えることができるため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0023】
上記目的を達成するための別の真空圧密地盤改良工法は、上述の吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低い条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水管を通して排水し、高低差のある前記排水経路内を気体で充満させることで前記吸引力の損失を防ぐようにした吸引力発生装置または吸引力発生方法を用い、真空ポンプにより減圧可能な密閉室内に前記第1の管の少なくとも下端側を配置し、前記密閉室内を減圧することによる負圧を前記サイフォン機能による吸引力に加えて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行う際に、前記密閉室を地表面に設置することを特徴とする。
【0024】
この真空圧密地盤改良工法によれば、第1の管の少なくとも下端側が配置された密閉室内を減圧することによる負圧をサイフォン機能による吸引力に加えて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことで、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現できる。さらに、軟弱地盤における吸引し排水する対象の水の水位面が第2の管の最上部よりも低い条件において、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法により、水が第2の管における排水経路に流入する前に排水管を通して排水し、高低差のある排水経路内を気体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体で充満させることで吸引力の損失を抑制できるので、密閉室を地表面に設置しても、サイフォン機能による吸引力を発生させて真空圧密による地盤改良に利用することができる。また、密閉室を地中部に設置しなくてもよいので、地盤改良コストを低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の吸引力発生装置及び吸引力発生方法によれば、水と気体の流れが分離せずにサイフォンの原理に従う吸引力を効率的に発生させることができる。また、排水路の最上部と吸引・排水対象の水の水位との間に高低差がある場合でも、吸引力の損失を抑制しながら吸引力を効率的に発生させることができる。
【0026】
本発明の真空圧密地盤改良工法によれば、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1の吸引力発生装置において吸引力損失解消装置がない場合に発生する吸引力損失を説明するための図である。
【図3】図1の吸引力発生装置におけるサイフォン機能による水と空気との気液2相流を説明するための模式図(a)及び水と空気との気液2相流を実現できない状態を説明するための模式図(b)である。
【図4】図1の逆流抑制装置として水平管に段差経路を設けた吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図5】図1の逆流抑制装置として水平管に狭窄経路を設けた吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図6】図1の吸引力発生装置においてサイフォンが正常に機能している状態を概略的に示す部分図(a)及びサイフォンが途切れた状態を概略的に示す部分図(b)である。
【図7】図4の吸引力発生装置において排水経路内の圧力が変動した場合の対策として水平管に水飽和経路を設けた例を示す図である。
【図8】第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【図9】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの変形例を示す部分図である。
【図10】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの別の変形例を示す部分図である。
【図11】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの別の構成例を概略的に示す図である。
【図12】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムのさらに別の構成例を概略的に示す図である。
【図13】本実施例で用いた実験装置を概略的に示す図である。
【図14】本実施例の予備実験において吸引力損失解消装置を作動させないケース(高低差部が水で飽和されている)で測定した各作用圧力の時間変動を示すグラフである。
【図15】本実施例の実験において水供給装置から供給される水の逆流割合が3%程度でかつ水供給量を30L/分としたケースで測定した各作用圧力の時間変動を示すグラフである。。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0029】
〈第1の実施形態〉
図1は第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【0030】
図1の吸引力発生装置は、上部から下部に向けて鉛直方向に延びる第1の管である鉛直管1と、鉛直管1の上部で水平方向に延びる第2の管である水平管2と、水平管2に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置3と、サイフォン機能維持装置3から供給された水の逆流を抑制する逆流抑制装置8と、を備える。水平管2を通して鉛直管1の下端1a側に向けて排水経路が形成される。鉛直管1及び水平管2は金属製またはプラスチック製の円筒管からなる。
【0031】
図1のサイフォン機能維持装置3は、水平管2の上部に配置されて水を貯留するタンク4と、タンク4の底部と水平管2との間に設けられ水供給位置5aで水平管2に接続する水供給管5と、水供給管5の途中に設けられたバルブ6と、を備え、タンク4内の水を、バルブ6を開くことで水供給管5を通して方向bに流して水供給位置5aから水平管2の排水経路内に供給する。
【0032】
図1の逆流抑制装置8は、サイフォン機能維持装置3の水供給位置5aと水平管2の先端2aとの間に、すなわち、水供給位置5aよりも上流側(水の流れ方向cと反対側)に配置された流量調整弁を有し、タンク4から供給された水の逆流(水平管2内の水の流れ方向cと反対方向への流れ)を抑制するようになっている。
【0033】
逆流抑制装置8の流量調整弁は、バルブの開口量の調整により流量の調整が可能なものが好ましく、水平管2内の水の流れ方向cと反対方向へ流れる水の流量を所定量に調整し制限することができる。
【0034】
図2は図1の吸引力発生装置において吸引力損失解消装置がない場合に発生する吸引力損失を説明するための図である。図2のように、最上部にある水平管2の位置でサイフォンによる負圧が大きく働くが、水平管2の先端2a側に連結管2bを介して、水平管2の下方に別の水平管2cを配置し、吸引対象の水位面H3が下方の水平管2cの位置近傍であり、水平管2の位置よりも低い場合、水平管2と水位面H3との高低差Δhに応じて負圧の損失、すなわち、吸引力の損失が生じる。換言すると、その高低差Δhに相当する分を揚水しなければならないため、吸引力の損失が生じる。
【0035】
この吸引力損失の解消のため、図1の吸引力発生装置は、水が水平管2における排水経路に連結管2bを通して流入する前に排水管38を通して方向jに排水し、高低差のある連結管2b内の排水経路を気体で充満させることで吸引力の損失を解消する吸引力損失解消装置35を備える。
【0036】
図1のように、吸引力損失解消装置35は、揚水ポンプ37及び排水管38を設置した密閉容器36を有し、密閉容器36の入口部に排水対象の水位面H3の水が存在する密閉空間とつながる入口管34を接続し、出口部に水平管2の先端2aと連結管2bを介してつながる出口管39を接続する。排水対象の水が入口管34から密閉容器36内に供給され、この水が揚水ポンプ37により排水管38を通して方向jに排水され、排水管38の先端38aからサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給される。なお、水平管2の先端2aに連結される連結管2bは、鉛直方向に配置してよいが、傾斜して配置してもよい。また、入口管34は、例えば、後述の図8等の鉛直ドレーン材31に接続部33等を介して接続される。
【0037】
密閉容器36からの揚水ポンプ37による排水により、密閉容器36内の水位が下げられるため、出口管39につながる連結管2b及び連結管2bにつながる水平管2の排水経路内において、液体に比べて密度が著しく小さい気体が負圧状態で水平管2に向けて方向aへと流れて充満することにより、排水経路の高低差Δhの揚水に係る負圧(吸引力)の損失を抑えることができる。このように、図1の吸引力発生装置が吸引力損失解消装置35を備え、高低差Δhのある排水経路前の水を汲み上げて排水することで、高低差Δhのある排水経路内に、液体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体が充満し、吸引力の損失を解消することができる。
【0038】
また、吸引力損失解消装置35の密閉容器36に接続された排水管38の途中に逆止弁38aを設けることで、排水管38を通して吸引力損失解消装置35の密閉容器36内に空気が流入しないようにすることが好ましい。これにより、密閉容器36内に大気圧が伝達せず、吸引力損失解消装置35の密閉容器36内が大気圧となって吸引力損失解消装置35の機能が低下してしまうことを防止できる。
【0039】
図1のように、鉛直管1の下端1aが水中にあるとき、その排水位面H1と水平管2内の水位面H2との間の水位差ΔHに起因するサイフォン機能により水平管2の先端2a側から鉛直管1の下端1a側に向けて吸引力が発生する。このとき、吸引対象の水位面H3と水平管2との間に高低差Δhがあっても吸引力損失解消装置35により吸引力の損失を解消することができる。かかるサイフォン機能により水が水平管2内を水平方向cに流れて鉛直管1内を鉛直方向dに流れる。なお、図1の排水面が鉛直管1の下端1aに達していないときは、鉛直管1の下端1aと水平管2の先端2a側の水位面H2との間の水位差に起因するサイフォン機能により鉛直管1の下端1a側に向けて吸引力が発生する。
【0040】
図3は、図1の吸引力発生装置におけるサイフォン機能による水と空気との気液2相流を説明するための模式図(a)及び水と空気との気液2相流を実現できない状態を説明するための模式図(b)である。
【0041】
水平管2内に気体が含まれる条件においてサイフォンの原理に従って吸引力を作用させるためには、鉛直管1内において水と気体を分離させず、一体的に流下させなければならない。すなわち、図3(a)のように、水平管2内において方向cに空気と水とが分離して流れても、鉛直管1内においては空気が多数の気泡Bとして取り込まれ、気液2相流として一体的に方向dに流下することで、鉛直管1内においてサイフォンの原理が成立し、水位差ΔHによる吸引力が発生する状態となる。なお、図3(b)のように、水平管内で空気と水とが分離して流れ、鉛直管内でも水と空気が分離して流下すると、サイフォンの原理が成立せず、水位差による吸引力が発生しない状態となる。
【0042】
サイフォンの原理に従う吸引力により排水を行う場合、溶存酸素等の気化や管等における気密漏れ部から空気の流入が生じることから、サイフォン機能を維持するためには、上述のように、鉛直管1内で気体の流れと液体の流れとの分離を防ぎ、図3(a)のように気液2相流(気泡混合流)を形成させなければならない。そして、水平管2を通過する水と空気の流れが鉛直管1内で気液2相流となってサイフォン機能が働きやすくするためには、鉛直管1内の空気混入率を減じるとともに鉛直管1を流下する水の流速を増加させることが必要である。
【0043】
図1の吸引力発生装置では、サイフォン機能維持装置3から排水経路内に水を供給することで、鉛直管1内の空気混入率を減じることができかつ鉛直管1を流下する水の流速を増加させる効果があらわれ、サイフォン機能を安定的に働かせることができる。また、排水経路に高低差Δhがあっても吸引力損失解消装置35により高低差Δhのある排水経路内に、液体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体が充満することで吸引力の損失を防ぐことができる。さらに、サイフォン機能維持装置3からの水供給位置5aの上流側に逆流抑制装置8を設けることで、サイフォン機能維持装置3から供給される水が水平方向cと反対方向に流れにくくなり鉛直管1に向かって効果的に流れるため、水平管2の先端2a側の高低差のある排水経路内を気体で充満させたまま、鉛直管1内に気液2相流を安定的に形成させることができる。
【0044】
以上のように、図1の吸引力発生装置によれば、サイフォン機能維持装置3から水が水平管2内に供給されることで、また、水平管2内に供給された水が逆流抑制装置8により鉛直管1に向けて効果的に流れることで、水平方向cに吸引されて流れる水は空気混入率が低くなるとともに、鉛直管1内を流下する水の流速が増加する。このため、鉛直管1内では、気体の流れと液体の流れとが分離せず、水と気体が混合した気液2相流が安定して形成され、サイフォンが機能できる。さらに、排水経路に高低差Δhがあっても吸引力損失解消装置35により吸引力の損失を解消することで吸引力を維持することができる。このようにして、サイフォン機能を維持してサイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができる。
【0045】
また、図1のサイフォン機能維持装置3において水平管2における空気量に応じて、サイフォン機能維持装置3から供給する水の量をバルブ6によって調整することで水流量すなわち流速を管理し、空気を水とともにスムーズに流下させることができる。
【0046】
また、図1の吸引力損失解消装置35は、吸引力損失防止のために密閉容器36内から汲みあげた水をサイフォン機能維持装置3のタンク4に送ることにより、水を有効利用でき、また、鉛直管1内への水の供給量を増やし、空気混入率を低下させるとともに、流下する流速を増加させて、鉛直管1内でサイフォンを機能しやすくする効果を奏する。
【0047】
なお、図1の吸引力損失解消装置35では、密閉容器36に流入する水量と同等またはそれ以上に揚水ポンプ37による排水が行われる場合、密閉容器36内は気体と液体が分離された状態となる。このとき、高低差を有する排水経路内は液体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体で充満されるため、負圧(吸引力)の損失が生じず、吸引力損失解消装置35が完全に機能している状態となる。一方、密閉容器36に流入する水量が揚水ポンプ37による排水量よりも多い場合、密閉容器36内は水で飽和された状態となる。このとき、高低差を有する排水経路(連結管2b)内に水が残り、その排水経路内の水位は密閉容器36に流入する水量により変動するが、その排水経路内の水位分の負圧損失が生じるため、吸引力損失解消装置35が部分的に機能している状態となる。上述のように、吸引力損失解消装置35において吸引力損失機能を完全に発揮させるためには、揚水ポンプ37の排水能力を常に密閉容器36に流入する水量と同等またはそれ以上として密閉容器36内で気体と液体とを分離させることが好ましいが、気体と液体が分離していなくとも負圧損失機能を部分的には発揮させることができる。
【0048】
次に、本実施形態の吸引力発生装置の原理、すなわち、サイフォンを機能させる条件について説明する。浮力による気泡の上昇速度νaは、浮力と抗力のつりあいにより、次の式(1)によって評価できる。
【0049】
νa=[8gra/(3CD)]0.5 (1)
【0050】
ここで、raは気泡の半径であり、気泡の大きさは最大で管径の1/2となりえる。また、CDは抗力係数であり、0.5で与えられる。
【0051】
また、管の通水断面積をAとすると、気泡の最大半径ra(max)は、次の式(2)で表すことができる。
【0052】
ra(max)=(A/π)0.5 (2)
【0053】
また、鉛直管に流入してくる水の流量がQのとき、鉛直管を流下する水の流速νwは、次の式(3)で評価できる。
【0054】
νw=Q/A (3)
【0055】
上記式(3)は、水平管から流入してくる流量に対して、鉛直管の内径を小さくし、通水断面積を小さくすると、または、排水経路内に水を供給して流量を増加させると、流速が増加することを示している。
【0056】
ここで、鉛直管内において、鉛直管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaとなるような条件を設定することにより、気泡が水の流れに連行され、気液混相流(気液2相流)が形成されるためサイフォンが機能する。
【0057】
上記条件(νw>νa)を成立させるために次のような方法・手段が考えられる。
(1)空気混入率を低下させ、形成されうる気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える(式(1)(2))。
(2)鉛直管を細くする、または、供給する水の量を増加させて、水の流下速度を上昇させる(式(3))。
【0058】
本実施形態の吸引力発生装置は、上記(1)(2)を利用する構成を有するものである。なお、上記(2)の効果を高めるために、鉛直管1の内径を水平管2の内径よりも小さくして鉛直管1の通水断面積を水平管2の通水断面積よりも小さくしたり、鉛直管1の途中に内径が鉛直管下方に向けて漸減する漸減部を設けるようにしてもよい。
【0059】
次に、図1の吸引力発生装置の逆流抑制装置8に関する別の二例について図4,図5を参照して説明する。図4は図1の逆流抑制装置として水平管に段差経路を設けた吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。図5は図1の逆流抑制装置として水平管に狭窄経路を設けた吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【0060】
図4の例は、図1の逆流抑制装置8の流量調整弁の代わりに、逆流抑制装置として段差を有する段差経路8aをサイフォン機能維持装置3の水供給位置5aと水平管2の先端2aとの間に設けたものである。水平管2は、先端2a側が若干高く、段差経路8aを介して水供給位置5a側が若干低くなっている。水平管2の途中に設けた段差経路8aにおいてサイフォン機能維持装置3から供給された水が逆流しにくくなり、逆流を抑制することができる。これにより、サイフォン機能維持装置3の水供給位置5aから供給された水が鉛直管1に向かって効果的に流れる。なお、段差経路8aの代わりに、段差経路8aの部分を傾斜経路に構成してもよく、同様にサイフォン機能維持装置3から供給された水の逆流を抑制できる。
【0061】
図5の例は、図1の逆流抑制装置8の流量調整弁の代わりに、逆流抑制装置として内部断面積を小さくして狭くした狭窄経路8bをサイフォン機能維持装置3の水供給位置5aと水平管2の先端2aとの間に設けたものである。水平管2の途中に設けた狭窄経路8bにおいてサイフォン機能維持装置3から供給された水が逆流しにくくなり、逆流を抑制することができる。これにより、サイフォン機能維持装置3の水供給位置5aから供給された水が鉛直管1に向かって効果的に流れる。なお、狭窄経路8bは、図5のように水平管2の鉛直方向上部に設けることが好ましいが、これに限定されず、鉛直方向中間または下部に設けてもよい。
【0062】
また、図4,図5において、逆流抑制装置として、さらに図1のような流量調整弁を段差経路8a,狭窄経路8bの近傍に設けてもよい。
【0063】
次に、図1,図4,図5の吸引力発生装置において排水経路内の圧力が変動した場合の問題及びその対策について図6,図7を参照して説明する。図6は、図1の吸引力発生装置においてサイフォンが正常に機能している状態を概略的に示す部分図(a)及びサイフォンが途切れた状態を概略的に示す部分図(b)である。図7は、図4の吸引力発生装置において排水経路内の圧力が変動した場合の対策として水平管に水飽和経路を設けた例を示す図である。
【0064】
図1の吸引力発生装置において、図6(a)のように、連結管2b等の高低差のある排水径路内が負圧状態の気体で充満されているとき、気体が方向aに流れるとともに、水平管2から水と空気が方向cに流れ、鉛直管1で気液2相流となって鉛直方向下向きdに流れてサイフォンが正常に機能する。
【0065】
ここで、逆流抑制装置8の上流側の高低差のある水平管2,連結管2b、出口管39から構成される排水経路内が気体で充満された状態で圧力pが変動すると、気体の体積Vがボイルの法則(pV=一定)にしたがって変化してしまう。
【0066】
例えば、サイフォンの吸引力が瞬間的に増加すると、高低差のある排水経路内の気体が方向aに急速に流れて急激に膨張する。その結果、図6(b)のように、気体が水平管2からサイフォンを機能させる鉛直管1内へ大量に流入し、鉛直管1内で水と空気が分離する不飽和状態が広がってサイフォンが途切れて中断しやすくなってしまう。
【0067】
上述のようなサイフォン機能の中断防止対策として、図7の例は、図4の吸引力発生装置においてサイフォン機能維持装置3の水供給位置5aよりも下流側の水平管2に水飽和経路9を設けたものである。水飽和経路9は水供給位置5aよりも下流側で水平管2が上部に若干高くなる段差から構成されている。すなわち、水平管2は、先端2a側と比べて段差経路8aで若干低くなったまま水の流れ方向cに略水平に水供給位置5aの下流側へと延び、水飽和経路9で若干高くなってから鉛直管1の上部に接続するようになっている。
【0068】
図7のように、サイフォン機能維持装置3が水供給位置5aから排水経路内に水を供給する一方、上述のように吸引力が急激に増大したために排水経路内で方向aから流れてきた気体が急激に膨張すると段差経路8aから方向cへと流れ込む。その結果、段差経路8aよりも下流側の排水経路で水位Hが低下した状態となるが、水は、水飽和経路9の段差に当たり、この段差で飽和状態となることで空気が水の中に取り込まれて混合した状態となって鉛直方向上向きc’に流れる。このため、鉛直管1の上部から空気の混合した水が気液2相流を維持した状態で鉛直管1内を流れ落ちることによりサイフォン機能が途切れず中断しない。
【0069】
上述のように、水飽和経路9は、水と空気の流れに対する緩衝効果を有し、水平管2内において吸引力(負圧)が急激に増大した場合、排水経路内に充満した気体が急激に膨張することに伴う気体の鉛直管1への流入を抑えることができる。このため、サイフォンをより安定的に機能させることができる。なお、図7の水飽和経路9は、図1,図5の吸引力発生装置に適用することで同様の効果を得ることができる。
【0070】
サイフォンを吸引力として用いる場合、従来、水に空気が混入することで容易にサイフォンが途切れてしまうことが問題となり、サイフォンを併用した真空圧密工法では空気混入量が多い場合サイフォン機能が容易に低下してしまうのに対し、本実施形態の吸引力発生装置によれば、鉛直管1内で気液2相流を形成してサイフォン機能を発揮させるととともに、排水経路の最上部と吸引・排水したい水の水位との間に高低差のある場合においてもサイフォンの吸引力が失われることなく吸引・排水を効果的に行うことができる。
【0071】
〈第2の実施形態〉
図8は第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【0072】
図8の真空圧密地盤改良システム100は、鉛直通水管11と水平通水管12とを有し図1とほぼ同様に構成された吸引力発生装置と、真空減圧装置30と、を備える。水平通水管12は、鉛直通水管11と鉛直通水管11の上端で接続されている。なお、鉛直通水管11と水平通水管12は、図1,図2の吸引力発生装置の鉛直管1,水平管2と同様の構成であってよい。
【0073】
真空圧密地盤改良のために鉛直ドレーン材31が、軟弱地盤G内の間隙水を吸引するように地表面Sから軟弱地盤G内に打設され、鉛直ドレーン材31の上端に接続される不透気部32の下端が地下水位面H3よりも深い位置にある。なお、鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内に必要に応じて複数本打設され、不透気部32や接続部33とともに、例えば、特許文献2〜4に開示された構成とすることができる。
【0074】
図8の真空圧密地盤改良システム100の吸引力発生装置は、図1と同様のサイフォン機能維持装置3を備え、サイフォン機能維持装置3のタンク4内の水がバルブ6を開くことで水供給管5を通して水供給位置5aで水平通水管12内に供給されるようになっている。
【0075】
さらに、図8の吸引力発生装置は、図1と同様の逆流抑制装置8と吸引力損失解消装置35とを備える。吸引力損失解消装置35の密閉容器36の入口管34は、不透気部32と接続部33とを介して鉛直ドレーン材31と接続している。密閉容器36は地表面Sに設置され、改良対象の地盤G内の地下水位面H3よりも高い位置にある。水平通水管12は密閉容器36よりも高い位置にあるが、密閉容器36の出口管39は、バルブ12a,連結管12bを介して水平通水管12と接続している。
【0076】
図8のように、真空減圧装置30は、鉛直通水管11が延びて鉛直通水管11からの水が溜まるように地中部に設けられた密閉室21と、密閉室21内を減圧する真空ポンプ25と、密閉室21内に溜まった水を方向eに排水管23を通して排出する揚水ポンプ22とを備える。排水管23はサイフォン機能維持装置3のタンク4まで延び、その先端23aからタンク4に排水することで、密閉室21に溜まった水を再利用する。
【0077】
図8の真空減圧装置30では真空ポンプ25により密閉室21の内部が減圧されることで、真空減圧装置30が減圧(負圧)発生源として機能する。このため、図8の真空圧密地盤改良システム100によれば、真空ポンプ25による吸引力と、水平通水管12と鉛直通水管11とによるサイフォン機能に起因する吸引力とを発生させることができるので、真空ポンプ25の能力以上の大きな吸引力を得ることができる。また、サイフォン機能が停止した場合などに、真空ポンプ25により、その再開が容易である。
【0078】
また、水平通水管12と改良対象の地盤G内の地下水位面H3との間に高低差があっても、図8の吸引力損失解消装置35により、密閉容器36内の水を排出し、連結管12bを通して排水経路内が、液体に比べて密度が著しく小さい負圧状態の気体で充満され、高低差のある排水経路において揚水に係るエネルギーの損失を抑えることで、水平通水管12と鉛直通水管11とによるサイフォンに起因する吸引力の損失を解消できる。
【0079】
図8の真空圧密地盤改良システム100による真空圧密地盤改良工法の工程について説明する。
【0080】
(1)真空ポンプ25により減圧を発生させる真空減圧装置30の密閉室21を密閉する。改良対象の軟弱地盤内に打設された鉛直ドレーン材31を吸引力損失解消装置35の入口管34に接続し、出口管39を連結管12bを介して水平排水管12と接続する。
【0081】
(2)水平通水管12のバルブ12a及び鉛直通水管11の下端1a側のバルブ11aを閉じておく。
【0082】
(3)鉛直通水管11、水平通水管12を水にて満管状態とした後、鉛直通水管11のバルブ11aとサイフォン機能維持装置3のバルブ6を開放して通水し、鉛直通水管11内でサイフォン機能が働く状態にする。
【0083】
(4)密閉室21内に流入する水を、揚水ポンプ22により排水し、排水管23を通してサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給する。
【0084】
(5)真空ポンプ25により徐々に密閉室21内の圧力を減じ、圧力が目的の値まで減少した時に水平通水管12のバルブ12aを開放するとともに、吸引力損失解消装置35の揚水ポンプ37を作動させる。これにより、水平通水管12の最上部の水位面H2と密閉室21内の水位面H1との水位差ΔH(=H2−H1)に起因するサイフォン機能による吸引力に、真空ポンプ25による吸引力を併用して、軟弱地盤G内の間隙水を方向mに鉛直ドレーン材31を通して吸引し、入口管34を通して方向fに密閉容器36内へ流れる。
【0085】
(6)鉛直ドレーン材31や各管の継手部分等から流入する空気量と水量とに応じてサイフォン機能維持装置3のバルブ6及び逆流抑制装置8の流量調整弁の各開閉を調整し、サイフォンが途切れないようしてサイフォン機能を維持する。なお、排水管23を通したサイフォン機能維持装置3のタンク4への水供給量は、バルブ24aの開閉を調整し外部排水管24を通して外部に適宜排水することで調整する。
【0086】
上述のようにして、軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで地盤圧密を促進することができるが、このとき、真空減圧装置30の真空ポンプ25で密閉室21内を減圧することによる吸引力に加えて、水平通水管12内の水位面H2と密閉室21内の水位面H1との間の水位差ΔHに起因するサイフォン機能による吸引力が発生し、これらの吸引力により軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで軟弱地盤Gを圧密するので、この真空圧密を、真空ポンプ25のみで吸引する場合と比べて水位差ΔHに起因する吸引力が加わる分だけより大きな吸引力で行うことができる。
【0087】
サイフォンを吸引力として用いる場合、水に空気が混入することで容易にサイフォンが途切れてしまうことが問題となり、サイフォンを併用した真空圧密地盤改良工法では空気混入量が多い場合、サイフォン機能が容易に低下してしまうのに対し、本実施形態によれば、サイフォン機能維持装置3による水平通水管12への水供給により、また、水平通水管12内に供給された水が逆流抑制装置8により鉛直通水管11に向けて効果的に流れることにより、鉛直通水管11中の混入空気量を減じるとともに、鉛直通水管11内を流下する流速を増加させてサイフォン機能を持続させることができる。これにより、吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることができる。
【0088】
さらに、水平通水管12と改良対象の地盤G内の地下水位面H3との間に高低差が存在しても、吸引力損失解消装置35により吸引力の損失を解消することができるので、吸引力が低下せずに効率よく軟弱地盤に加えることができる。
【0089】
従来の真空圧密地盤改良工法によれば真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用していたのに対し、本実施形態のようにサイフォン機能による吸引力を併用し、しかもサイフォン機能を持続させて吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることで、盛土による載荷を縮小したり省略できるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を期待することができる。また、従来の工法に比べて吸引力が増加し、かつ、吸引力を効率よく加えることができるため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0090】
なお、揚水ポンプ22は、揚程差10m以上の高揚程タイプが好ましく、密閉室21を地中深く設置し、水位差ΔHの確保のため密閉室21内の水位面H1を水平通水管12に対しより低くした場合でも、密閉室21内の貯留水を排水できる。
【0091】
また、前述したように、細い鉛直通水管を使用して流下速度を速くする方が、サイフォンは機能しやすい。排水量を十分に確保しながら、空気が混入した水に対してサイフォン機能を維持できる条件を満足するために、図9のように、内径の異なる複数の鉛直通水管41,42,43を図8の密閉室21内に配置し、バルブ41a,42a,43aを介して水平通水管12に連結することで、流入水量に応じて、バルブ41a〜43aの開閉により、好ましい鉛直通水管を迅速に選択できるようにしてもよい。これにより、空気が混入した水でも排水量を十分に確保しつつサイフォン機能を維持することができる。
【0092】
また、図8の真空圧密地盤改良システム100において図4,図5,図7の吸引力発生装置を適用してもよく、上述と同様の効果を得ることができる。この場合、図4の逆流抑制装置8の段差経路8aを、径の異なる複数の鉛直管51,52,53から構成してもよい。すなわち、水平通水管12の上部に、図4の水平管2の先端2a側を構成する水平通水管12cを配置し、水平通水管12と水平通水管12cとの間に複数の鉛直管51,52,53をバルブ51a,52a,53aを介して配置する。サイフォン機能維持装置3から水平通水管12への供給水量に応じて、バルブ51a〜53aの開閉により、逆流抑制効果の高い鉛直管51,52,53を迅速に選択できるようにしてもよい。
【0093】
次に、第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの別構成の二例について図11,図12を参照して説明する。図11は第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの別の構成例を概略的に示す図である。図12は第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムのさらに別の構成例を概略的に示す図である。
【0094】
図11の例は、図8の真空圧密地盤改良システム100と同様の構成であるが、真空減圧装置30の密閉室21を、地中部内ではなく、地表面S1上に設置したものである。なお、吸引力損失解消装置35の密閉容器36も地表面S1上に設置されている。
【0095】
図11の真空圧密地盤改良システムによれば、水平通水管12と改良対象の地盤G内の地下水位面H3との間に高低差が存在しても、吸引力損失解消装置35により水平通水管12の排水経路内における吸引力の損失が解消されるので、図8と同様にサイフォン機能による吸引力を併用した真空圧密地盤改良工法を実施することができるとともに、密閉室21を地表面S1上に設置することができる。このため、真空減圧装置30の密閉室21を地中部内に設置するコストが不要となり、真空圧密地盤改良のコスト減に寄与できる。
【0096】
図12のものは、図11の真空圧密地盤改良システムと基本的に同様の構成であるが、地盤改良対象域と真空減圧装置30との間に堤防や盛土等の山形状の障害物Jが存在する場合の構成例である。
【0097】
図12のように、地盤改良対象域の軟弱地盤G内に打設された鉛直ドレーン材31の近くに吸引力損失解消装置35を設置し、堤防や盛土等の山形状の障害物Jの上部に水平通水管12とサイフォン機能維持装置3を設置し、さらに、真空減圧装置30を地盤改良対象域に対し山形状の障害物Jの反対側の地表面S上に設置したものである。吸引力損失解消装置35と水平通水管12とは傾斜した連結管12bによって連結されている。
【0098】
図12の真空圧密地盤改良システムによれば、水平通水管12や連結管12bを山形状の障害物Jを越えるように配置することで、地盤改良対象域と真空減圧装置30との間に堤防や盛土等の山形状の障害物Jが存在する場合でも、サイフォン機能による吸引力を併用した真空圧密地盤改良工法を実施できる。すなわち、水平通水管12が山形状の障害物Jの上部に配置されたため水平通水管12と改良対象の地盤G内の地下水位面H3との間に高低差が存在しても、図11と同様に吸引力損失解消装置35により水平通水管12の排水経路内における吸引力の損失が解消されるので、サイフォン機能による吸引力を併用した真空圧密地盤改良工法を実施できる。また、密閉室21を地表面S1上に設置することができるため、真空減圧装置30の密閉室21を地中部内に設置するコストが不要となり、真空圧密地盤改良のコスト減に寄与できる。
【実施例】
【0099】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0100】
実験概要
上述のようなサイフォン機能の発揮および吸引力損失低減に及ぼす効果を検証するために図13に示す実験装置により実験を行った。
【0101】
図13の実験装置を用いて以下の手順で実験を行った。
ステップ1:鉛直通水管の下部と逆流抑制装置の各バルブを閉じた後、水供給装置(サイフォン機能維持装置)のバルブを開けて水を注入し、水平通水管および鉛直通水管を水で飽和させる。
ステップ2:鉛直通水管のバルブを開け、サイフォンを機能させた後、真空ポンプを用いて徐々に密閉室内の圧力を下げる。
ステップ3:逆流抑制装置のバルブを若干開くとともに、吸引力損失解消装置内の揚水ポンプを作動させる。
ステップ4:水平通水管の頂部、密閉室内および高低差部底面での作用圧力をそれぞれ計測するとともに、水供給装置から供給される水量および鉛直通水管に向かう流量を計測する。
【0102】
実験結果
【0103】
予備実験として、吸引力損失解消装置内の揚水ポンプを作動させず、高低差のある排水経路を水で満たし、鉛直通水管内におけるサイフォン機能の純粋な成立条件を調査した。
【0104】
図14は、予備実験において吸引力損失解消装置を作動させないケース(高低差部が水で飽和されている)で測定した各作用圧力の時間変動を示すグラフである。
【0105】
鉛直通水管内でサイフォンが機能すると、水頭差による吸引力が発揮されるため、水平通水管内では密閉室内よりも高い負圧が作用する。サイフォン機能により、水平通水管内で、−90kPa以上の負圧が作用すると、溶存空気が気化し、空気の体積が増加することによりサイフォンが機能しにくくなることが判明した。
【0106】
鉛直通水管の内径を3cmとした今回の実験条件では、サイフォン機能維持装置(水供給装置)からの供給流量が15L(リットル)/分以上のとき、鉛直通水管内で気泡混合流が形成され、サイフォン機能を維持することができた。この場合、鉛直通水管内において、鉛直通水管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaの条件が成立し、気泡混合流が形成される。
【0107】
ただし、鉛直通水管内でサイフォンが機能している場合においても吸引力損失解消装置を作動させず、高低差部が水で飽和されているケースでは、図14に示すように、水平通水管の頂部で高い負圧が発生するが、高低差を揚水するためにエネルギーが使われることから、高低差部の底面位置では負圧の損失が生じる。負圧の損失量は高低差部の高低差1.5mの水頭に相当する15kN/m2程度である。
【0108】
次に、逆流抑制装置のバルブの開閉を調整しながら、吸引力損失解消装置を作動させ、鉛直通水管内におけるサイフォン機能の成立性および高低差部の気体充満による吸引力損失解消効果を調査した。
【0109】
実験の結果、鉛直通水管内にサイフォンを機能させながら、高低差部を気体で充満させるためには、(1)水供給装置から十分な水を供給するとともに、(2)逆流抑制装置のバルブの開閉を調整して水が逆流するときの流量を少なくすることが重要であることが判明した。本実験では、逆流抑制装置のバルブをわずかに開口して、水供給装置から供給される水の逆流割合が3%程度となるように調整した場合、サイフォン機能の成立と吸引力損失解消とを同時に成立させる水供給量は、30L/分程度以上が必要であった。
【0110】
また、逆流抑制装置のバルブの開口量を増やし、水供給装置から供給される水の逆流割合が5〜10%程度となるように調整した場合、サイフォン機能の成立と吸引力損失解消を同時に成立させる水供給量は、40L/分程度以上が必要であった。供給する水の逆流が大きい場合は、それに応じて水供給装置からの水の供給量を増加させることが必要であるが、水の供給装置や揚水ポンプに過大な負担がかかり、実現性が難しくなる。
【0111】
図15は、本実験において水供給装置から供給される水の逆流割合が3%程度でかつ水供給量を30L/分としたケースで測定した各作用圧力の時間変動を示すグラフである。
【0112】
図15から、サイフォン機能の成立により水平管頂部で高い負圧が発生するとともに、高低差部が気体で充満されているため高低差部の底面位置においても吸引力の損失が生じていないことがわかる。
【0113】
なお、内径3cmの鉛直通水管を用いた本実験でサイフォン機能の成立と吸引力損失解消とを同時に成立させる水の限界供給量を、鉛直通水管を流下する流速が一致するように内径5cmの鉛直通水管を用いた条件に換算すれば、83L/分であり、また、内径10cmの鉛直通水管の条件に換算すれば、333L/分である。
【0114】
以上のように本発明を実施するための形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図8において、サイフォン機能維持装置3の水の供給部分(タンク4)については、工場等で作製されるタンクではなく、掘削や地盤沈下により形成される凹型地盤を利用してもよい。
【0115】
また、本発明による吸引力発生装置を真空圧密地盤改良システムに適用したが、これに限定されず、他の装置・システム・他の工法に適宜適用してよく、同様の効果を得ることができる。また、鉛直管(鉛直通水管)、水平管(水平通水管)は、円筒管以外であってもよく、例えば角筒管でもよい。
【0116】
また、図1,図2,図8のサイフォンによる吸引力発生装置では、第1の管を鉛直管(鉛直通水管)として、第2管を水平管(水平通水管)として配置したが、本発明はこれに限定されず、水位差により第2の管から第1の管の下端側に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する構成であれば、それらの配置形態はいずれでもよく、例えば、第1の管、第2の管は傾斜等していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明による吸引力発生装置及び吸引力発生方法によれば、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理による吸引力を安定して持続的に発生させることができるので、真空ポンプに頼らずにサイフォンの自然エネルギーを極力使用可能となり、電力等のコストを削減可能となる。
【0118】
本発明による真空圧密地盤改良工法によれば、サイフォン機能による吸引力を併用することで盛土による載荷の縮小・省略が可能となり、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮できる。
【符号の説明】
【0119】
1 鉛直管
1a 鉛直管の下端
2 水平管
3 サイフォン機能維持装置
5a 水供給位置
8 逆流抑制装置
8a 段差経路
8b 狭窄経路
9 水飽和経路
11 鉛直通水管
12 水平通水管
21 密閉室
22 揚水ポンプ
25 真空ポンプ
30 真空減圧装置
31 鉛直ドレーン材
35 吸引力損失解消装置
36 密閉容器
37 揚水ポンプ
38 排水管
38a 逆止弁
100 真空圧密地盤改良システム
G 軟弱地盤
Δh 高低差
ΔH 水位差
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管側との間の水位差により、前記第2の管から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、
前記第2の管から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置と、
前記供給された水が前記第1の管の前記上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制する逆流抑制装置と、を備えることを特徴とする吸引力発生装置。
【請求項2】
吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低く高低差のある条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水管を通して排水し、前記高低差のある排水経路内を気体で充満させることで前記高低差による吸引力の損失を解消する吸引力損失解消装置を備える請求項1に記載の吸引力発生装置。
【請求項3】
前記吸引力損失解消装置内への空気流入を防止するために前記排水管に逆止弁を設けた請求項2に記載の吸引力発生装置。
【請求項4】
前記水供給位置よりも下流側の前記排水経路内に水が飽和するように設けられた水飽和経路を備える請求項2または3に記載の吸引力発生装置。
【請求項5】
前記逆流抑制装置は、流量調整弁、段差経路、傾斜経路及び狭窄経路のうちの少なくともいずれか1つを有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項6】
真空ポンプによる動力装置を併用する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項7】
上部から下部に向けて延びる第1の管の下端側と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管側との間の水位差により、前記第2の管から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力を作用させる吸引力発生方法であって、
前記第2の管から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するとともに、
前記供給された水が前記第1の管の前記上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制するようにしたことを特徴とする吸引力発生方法。
【請求項8】
吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低く高低差のある条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水し、前記高低差のある排水経路内を気体で充満させることで前記高低差による吸引力の損失を解消するようにした請求項7に記載の吸引力発生方法。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の吸引力発生装置または請求項7または8に記載の吸引力発生方法を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする真空圧密地盤改良工法。
【請求項10】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の吸引力発生装置または請求項8に記載の吸引力発生方法を用い、
真空ポンプにより減圧可能な密閉室内に前記第1の管の少なくとも下端側を配置し、前記真空ポンプにより前記密閉室内を減圧することによる負圧を前記サイフォン機能による吸引力に加えて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行う際に、前記密閉室を地表面に設置することを特徴とする真空圧密地盤改良工法。
【請求項1】
上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管側との間の水位差により、前記第2の管から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、
前記第2の管から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置と、
前記供給された水が前記第1の管の前記上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制する逆流抑制装置と、を備えることを特徴とする吸引力発生装置。
【請求項2】
吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低く高低差のある条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水管を通して排水し、前記高低差のある排水経路内を気体で充満させることで前記高低差による吸引力の損失を解消する吸引力損失解消装置を備える請求項1に記載の吸引力発生装置。
【請求項3】
前記吸引力損失解消装置内への空気流入を防止するために前記排水管に逆止弁を設けた請求項2に記載の吸引力発生装置。
【請求項4】
前記水供給位置よりも下流側の前記排水経路内に水が飽和するように設けられた水飽和経路を備える請求項2または3に記載の吸引力発生装置。
【請求項5】
前記逆流抑制装置は、流量調整弁、段差経路、傾斜経路及び狭窄経路のうちの少なくともいずれか1つを有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項6】
真空ポンプによる動力装置を併用する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項7】
上部から下部に向けて延びる第1の管の下端側と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管側との間の水位差により、前記第2の管から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力を作用させる吸引力発生方法であって、
前記第2の管から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するとともに、
前記供給された水が前記第1の管の前記上部の反対側に向けて流れる逆流を抑制するようにしたことを特徴とする吸引力発生方法。
【請求項8】
吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低く高低差のある条件において、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水し、前記高低差のある排水経路内を気体で充満させることで前記高低差による吸引力の損失を解消するようにした請求項7に記載の吸引力発生方法。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の吸引力発生装置または請求項7または8に記載の吸引力発生方法を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする真空圧密地盤改良工法。
【請求項10】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の吸引力発生装置または請求項8に記載の吸引力発生方法を用い、
真空ポンプにより減圧可能な密閉室内に前記第1の管の少なくとも下端側を配置し、前記真空ポンプにより前記密閉室内を減圧することによる負圧を前記サイフォン機能による吸引力に加えて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行う際に、前記密閉室を地表面に設置することを特徴とする真空圧密地盤改良工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−127378(P2011−127378A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288628(P2009−288628)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
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