説明

サイレントチェーン

【課題】サイレントチェーンに高荷重の引張り張力が加わって連結ピンが撓んだ場合でも、全てのインナープレートのピン孔に連結ピンを均等に接触させることができ、特定のインナープレートのピン孔と連結ピンとが摩耗することを抑制し、それに伴って、チェーン摩耗伸びを抑制することができるサイレントチェーンを提供すること。
【解決手段】サイレントチェーン1は、ガイド列6及び非ガイド列7に配置された一対のピン孔3を有するインナープレート4,5が、ピン孔3に遊嵌された連結ピン10で無端状に連結されてなる。ガイド列6の両最外に配置されたガイドプレート9の一対のピン孔8にそれぞれ嵌合固定された連結ピン10,10は、中央部10aが相互に接近する方向に湾曲している。引張り張力を受けて撓んだ連結ピン10は略真直ぐになり、全てのインナープレート4,5のピン孔3に均等に接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車(例えば、自動車エンジンのカムスプロケットとクランクスプロケットとに懸回するタイミングチェーン)、産業用機械等の動力伝達、搬送機械等に用いられるサイレントチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の歯及び一対のピン孔を有する多数のインナープレートをそれぞれガイド列及び非ガイド列に配置し、該ガイド列の両最外にガイドプレートを配置して連結ピンで無端状に連結して形成されたサイレントチェーンが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図6に従来のサイレントチェーン11の一例を示す。図6はサイレントチェーンに低荷重の引張り張力が作用しているとき(初期状態)のサイレントチェーン11の要部説明図である。サイレントチェーン11は、一対の歯(図示略)及び一対のピン孔12を有するインナープレート13,14が、ガイド列15及び非ガイド列16にそれぞれ配置され、ガイド列15に配置された各インナープレート13と、非ガイド列16に配置された各インナープレート14とが交互に指組状に組み合わされると共に、ガイド列15の両最外に歯のないガイドプレート17,17が配置されて連結ピン19で連結されて無端状に形成される。この場合、インナープレート13,14の各ピン孔12,12には連結ピン19が遊嵌(すきま嵌め)され、両最外のガイドプレート17のピン孔18には連結ピン19の両端部が嵌合固定(しまり嵌め)される。この連結ピン19は、長手方向に亘って外径が同じ断面円形の丸型ピンである。
【0004】
上記のように、サイレントチェーン11は、各インナープレートが交互に配置されている構造上、図6に示すように、非ガイド列16に配置されるプレート(インナープレート14)の総数がn枚(例えば4枚)、ガイド列15に配置されるプレート(インナープレート13とガイドプレート17)の総数がn+1枚(例えば5枚)となっている。このように、ガイド列15に配置されるプレート数が非ガイド列16のプレート数より多いので、ガイド列15と非ガイド列16とで強度の均衡を保つため、ガイド列15に配置されるプレート13,17の板厚が非ガイド列16のプレート14より薄くなっている。
【特許文献1】特許第3384556号公報(特に、段落番号0002の記載参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サイレントチェーン11は動力伝達の際、長手方向に高荷重の引張り張力を受けるため、図7に示すように、連結ピン19には曲がりが発生し僅かに湾曲する。湾曲した連結ピン19は、ガイド列15の中央寄りに配置されているインナープレート13a,13aのピン孔12に接触すると共に、非ガイド列16の両最外に配置されているインナープレート14a,14aのピン孔12に接触する。そのため、サイレントチェーン11に引張り張力が加わると、ガイド列15では中央寄りのインナープレート13a,13aに高い応力がかかるが、両最外寄りのインナープレート13,13には低い応力しかかからない。一方、非ガイド列16では両最外に配置されているインナープレート14a,14aには格別高い応力が集中してかかり、中央寄りのインナープレート14には低い応力しかかからない。その結果、それぞれのインナープレートにかかる負荷が異なるため、インナープレート毎の応力バランスが悪く、特に非ガイド列のインナープレート毎の応力バランスが悪い、という問題がある。
【0006】
さらに、非ガイド列16の両最外に配置されている特定のインナープレート14a,14aは、格別高い応力を集中して受けるため、サイレントチェーン11がスプロケットに巻き付いて屈曲するとき、ピン孔12内周面と連結ピン19との当たり面に過度の面圧が加わって両者が摩耗し、チェーン摩耗伸びや破断が発生する、という問題がある。
【0007】
上記問題を解消すべく、非ガイド列16の両最外のインナープレート14a,14aの板厚を他のインナープレート14より厚くするとサイレントチェーン自体の質量が増大する共に材料を多く使用しなければならない、という問題がある。
【0008】
また、従来のサイレントチェーン11をエンジンのタイミングチェーンとして使用した場合、上記のような問題があるため、エンジンの燃費が悪くなり、騒音性も悪化し、環境に悪影響を与えると共に、高出力のエンジンには高強度、すなわち質量の大きいサイレントチェーンを使用しなければならず、材料を多く使い燃費も悪くなる、という問題がある。
【0009】
ちなみに、従来のサイレントチェーン11をタイミングチェーンに使用して不良になったときの状態を調べてみると、連結ピン19が引張力を受ける方向に曲がり湾曲していると共に、破断部位が90%以上の割合で非ガイド列16両最外の特定のインナープレート14a、14aに発生し、摩耗量測定結果でも該インナープレート14aのピン孔12の摩耗が他のインナープレート13,13a,14等に比べて大きくなっている。ということは、連結ピン19に曲がりが発生した場合でも、全てのインナープレート13,13a,14,14aのピン孔12に均等に接触していれば、高荷重の引張り張力がサイレントチェーン11に加わってもそれぞれのインナープレート13,13a,14,14aにかかる負荷を均等にすることができ、それに伴って、特定のインナープレート14a,14aのピン孔12や連結ピン19の局部的摩耗、チェーン摩耗伸び、破断を抑制できる、ということである。
【0010】
そこで、本発明は、前記従来技術の問題を解決し、サイレントチェーンに高荷重の引張り張力が加わって連結ピンが撓んだ場合でも、全てのインナープレートのピン孔に連結ピンを均等に接触させることができると共に、インナープレート毎の応力バランスを良好にすることができ、サイレントチェーンの強度低下を防止すると共に、特定のインナープレートのピン孔と連結ピンとが摩耗することを抑制し、それに伴って、チェーン摩耗伸びを抑制することができるサイレントチェーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に係る本発明は、一対の歯及び一対のピン孔を有する多数のインナープレートが、チェーン長手方向に交互に位置をずらせてガイド列及び非ガイド列にそれぞれ配置されると共に、一対のピン孔を有するガイドプレートが前記ガイド列の両最外に配置され、前記インナープレートの各ピン孔に断面円形の連結ピンが遊嵌され、該連結ピンの両端部が前記ガイドプレートのピン孔に嵌合固定されてなるサイレントチェーンにおいて、前記ガイド列の両最外に配置されたガイドプレートの一対のピン孔に両端部が嵌合固定されたそれぞれの連結ピンは、中央部が相互に接近する方向に湾曲しているサイレントチェーン、という構成としたものである。
【0012】
請求項2に係る本発明は、請求項1に係る本発明のサイレントチェーンにおいて、前記各インナープレートのピン孔は内径が全て同じ大きさである、という構成としたものである。
【0013】
請求項3に係る本発明は、請求項1又は請求項2に係る本発明のサイレントチェーンにおいて、前記連結ピンは、チェーンに加わった引張り張力により撓んで略真直ぐとなり、前記各インナープレートのピン孔に均等に接触する、という構成としたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によれば、一対の歯及び一対のピン孔を有する多数のインナープレートが、チェーン長手方向に交互に位置をずらせてガイド列及び非ガイド列にそれぞれ配置されると共に、一対のピン孔を有するガイドプレートが前記ガイド列の両最外に配置され、前記インナープレートの各ピン孔に断面円形の連結ピンが遊嵌され、該連結ピンの両端部が前記ガイドプレートのピン孔に嵌合固定されてなるサイレントチェーンにおいて、前記ガイド列の両最外に配置されたガイドプレートの一対のピン孔に両端部が嵌合固定されたそれぞれの連結ピンは、中央部が相互に接近する方向に湾曲しているので、サイレントチェーンに高荷重の引張り張力が加わって連結ピンが撓んだとき、該連結ピンが略真直ぐになるため、全てのインナープレートのピン孔内周面と連結ピンとの面圧を均等にして両者の摩耗を抑制することができる。その結果、チェーン摩耗伸び及び特定のインナープレートの破断を防止することができると共に、チェーンの摩耗伸びによる騒音発生を抑制することができる。
【0015】
請求項2に係る本発明のサイレントチェーンによれば、請求項1に係る発明の奏する効果に加えて、前記各インナープレートのピン孔は内径が全て同じ大きさであるので、ガイド列に配置されるインナープレートを統一規格にすると共に、非ガイド列に配置されるインナープレートを統一規格にすることができ、その結果、サイレントチェーンの製作を簡素化することができる。
【0016】
請求項3に係る本発明のサイレントチェーンによれば、請求項1または請求項2に係る発明の奏する効果に加えて、前記連結ピンは、チェーンに加わった引張り張力により撓んで略真直ぐとなり、前記各インナープレートのピン孔に均等に接触するので、サイレントチェーンに高荷重の引張り張力が加わったとき、全てのインナープレートには均等な負荷がかかり、インナープレート毎の応力バランスを良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例を図1〜図5に基づいて説明する。図1はサイレントチェーンの一部を示す平面図、図2はサイレントチェーンの一部を示す正面図、図3の(A)はインナープレートの正面図、(B)はガイドプレートの正面図、図4は低荷重の引張り張力が作用しているとき(初期状態)のサイレントチェーンの要部説明図、図5はサイレントチェーンが高荷重の引張り張力を受けて連結ピンが略真直ぐになったときの要部説明図である。
【0018】
図1〜図3に示すように、サイレントチェーン1は、一対の歯2及び一対のピン孔3を有する多数のインナープレート4,5が、チェーン長手方向に交互に位置をずらせてガイド列6及び非ガイド列7にそれぞれ配置されると共に、一対のピン孔8を有するガイドプレート9がガイド列6の両最外に配置され、インナープレート4,5の各ピン孔3に断面円形の連結ピン10が遊嵌(すきま嵌め)され、該連結ピン10の両端部がガイド列6の両最外に配置されたガイドプレート9、9のピン孔8に嵌合固定(しまり嵌め)されて無端状に形成されている。
【0019】
サイレントチェーン1は、前記従来のサイレントチェーン11と同じように、ガイド列6に配置されるプレート(インナープレート4とガイドプレート9)の数が非ガイド列7のプレート(インナープレート5)の数より多い。ガイド列6と非ガイド列7とで強度の均衡を保つため、ガイド列6に配置されるプレート4,9の板厚が非ガイド列7のプレート5より僅かに薄くなっている。なお、この実施例では、インナープレート4、5の数をそれぞれ4枚、5枚のものとして図示して説明しているが、インナープレート4、5はこのような数に限らず適宜である。
【0020】
ガイド列6に配置されるインナープレート4、及び非ガイド列7に配置されるインナープレート5は、図3(A)に示すように、一対の歯2及び一対のピン孔3を有する外郭形状が同じもので、ピン孔3の内径は、全て同じ大きさである。また、ガイド列6の最外に配置され連結ピン10に固定されるガイドプレート9は、図3(B)に示すように、一対のピン孔8を有するが、歯を備えていない。
【0021】
サイレントチェーン1を構成する連結ピン10は、図4に示すように、長手方向に亘って外径が同じ断面円形の丸型ピンであり、僅かに湾曲している。そして、ガイド列6の両最外に配置されたガイドプレート9の一対のピン孔8,8に両端部が嵌合固定されたそれぞれの連結ピン10,10同士は、その中央部10aが相互に接近する方向に僅かに湾曲している。この湾曲している連結ピン10の曲率半径Rは、高荷重の引張り張力がサイレントチェーン1に加わって撓んだときに真直ぐになる程度であればよい。
【0022】
上記構成からなるサイレントチェーン1の作用効果は次のとおりである。サイレントチェーン1が高荷重の引張り張力を受けて撓んだ連結ピン10は、図5に示すように、略真直ぐになってガイド列6及び非ガイド列7に配置された各々のインナープレート4,5のピン孔3に均等に接触するため、全てのインナープレート4,5のピン孔3内周面と連結ピン10との面圧が均等になり、両者3,10の摩耗を抑制することができると共に、従来のような特定のインナープレート5が破断することを防止することができる。それに伴って、チェーン摩耗伸び、チェーンの摩耗伸びによる騒音発生を抑制することができる。また、各々のインナープレート4,5には均等に負荷がかかるため、全てのインナープレート4,5毎の応力バランスを良好にすることができ、サイレントチェーンの強度低下を防止することができる。
【0023】
また、インナープレート4とインナープレート5とは、ピン孔3の大きさ及び外郭形状が同じで、板厚が異なるだけなので、ガイド列6に配置されるインナープレート4を統一規格とすることができると共に、非ガイド列7に配置されるインナープレート5を統一規格とすることができ、その結果、サイレントチェーン1の製作工程の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明実施例のサイレントチェーンの一部を示す平面図である。
【図2】サイレントチェーンの一部を示す正面図である。
【図3】(A)はインナープレートの正面図、(B)はガイドプレートの正面図である。
【図4】低荷重の引張り張力が作用しているときのサイレントチェーンの要部説明図である。
【図5】サイレントチェーンが高荷重の引張り張力を受けて連結ピンが略真直ぐになったときの要部説明図である。
【図6】従来のサイレントチェーンを示し、低荷重の引張り張力が作用しているときの要部説明図である。
【図7】サイレントチェーンが高荷重の引張り張力を受けて連結ピンが撓んだときの要部説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 サイレントチェーン
2 一対の歯
3 一対のピン孔
4 ガイド列のインナープレート
5 非ガイド列のインナープレート
6 ガイド列
7 非ガイド列
8 一対のピン孔
9 ガイドプレート
10 連結ピン
10a 連結ピンの中央部





【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の歯及び一対のピン孔を有する多数のインナープレートが、チェーン長手方向に交互に位置をずらせてガイド列及び非ガイド列にそれぞれ配置されると共に、一対のピン孔を有するガイドプレートが前記ガイド列の両最外に配置され、前記インナープレートの各ピン孔に断面円形の連結ピンが遊嵌され、該連結ピンの両端部が前記ガイドプレートのピン孔に嵌合固定されてなるサイレントチェーンにおいて、
前記ガイド列の両最外に配置されたガイドプレートの一対のピン孔に両端部が嵌合固定されたそれぞれの連結ピンは、中央部が相互に接近する方向に湾曲していることを特徴とするサイレントチェーン。
【請求項2】
前記各インナープレートのピン孔は、内径が全て同じ大きさであることを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン。
【請求項3】
前記連結ピンは、チェーンに加わった引張り張力により撓んで略真直ぐとなり、前記各インナープレートのピン孔に均等に接触することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のサイレントチェーン。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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