説明

サブマージアーク溶接装置及びサブマージアーク溶接方法

【課題】サブマージアーク溶接を立向き姿勢で施工する。
【解決手段】本発明のサブマージアーク溶接装置10は、開放する側部において被溶接物1に当接したときに自身と被溶接物1とによってその内部に形成される領域にフラックスを受け入れて保持するよう構成されたフラックス受け12と、フラックス受け12にフラックスを供給するフラックス供給手段24と、その先端が上記のフラックスが保持される領域内に配置され被溶接物1に向けて溶接ワイヤ34を供給する溶接トーチ32と、フラックス受け12を被溶接物1に当接させながら、フラックス受け12及び溶接トーチ321を被溶接物1の溶接線2の方向に沿って移動させる移動機構36と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立向き姿勢でのサブマージアーク溶接を施工することができるサブマージアーク溶接装置及びサブマージアーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接法は、粉状のフラックスをあらかじめ被溶接物(母材)の上に散布しておき、その中に溶接ワイヤを送給し、溶接ワイヤと被溶接物との間でアークを発生させ、このアーク熱によって被溶接物および溶接ワイヤを溶融接合する溶接法である。溶接中はアークが見えないので潜弧溶接法とも言われる。
【0003】
このようなサブマージアーク溶接法は、(1)大電流が使用できるので溶着速度が大きく高能率である、(2)溶け込みが深い、(3)アークがフラックスで覆われているため遮光が不要であり、また、溶接ヒュームがほとんど発生しないので、作業環境が良好である、(4)ビード外観が美しい、といった利点を有する。
【0004】
サブマージアーク溶接法に関する先行技術文献として、例えば、下記特許文献1〜4がある。
特許文献1及び特許文献2に開示された方法は、水平姿勢で設置された被溶接物の上にフラックスを散布し、被溶接物の上側から溶接トーチを対向させてサブマージアーク溶接を行なうものである。
特許文献3に開示された方法は、水平姿勢で設置された被溶接物の下側に、伸縮可能な筒状ホッパータンクを配置し、筒状ホッパータンクにフラックスを充填し、筒状ホッパータンクの底部を押し上げて、下方より被溶接物の溶接部にフラックスを供給し、サブマージアーク溶接を行なうものである。
特許文献4に開示された方法は、鉛直姿勢で設置されて溶接線が水平方向に延びる被溶接物(例えば、円筒形タンクの側板)に対して、溶接トーチを横向き姿勢で対向させて、サブマージアーク溶接を行なうものである。
【0005】
【特許文献1】特開平8−281437号公報
【特許文献2】特開2002−120068号公報
【特許文献3】特開平11−347735号公報
【特許文献4】特開昭63−63571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、原油タンクやLPGタンクなどの製造においては、現地で立向き姿勢での溶接が必要な場合がある。なお、溶接における「立向き姿勢」とは、溶接線が高さ方向に延びるような被溶接物を溶接する場合の姿勢をいう。
しかしながら、従来のサブマージアーク溶接法は、被溶接物の継手部(突合せ継手、開先継手、重ね合わせ継手、隅肉継手など)にフラックスを滞留させる必要上、溶接姿勢が、下向き姿勢(特許文献1及び特許文献2の方法)、上向き姿勢(特許文献3の方法)および横向き姿勢(特許文献4の方法)に限定されており、立向き姿勢には適用できなかった。
このため、立向き姿勢での溶接が必要な場合、立向き姿勢での溶接も可能な被覆アーク溶接法やガスシールドアーク溶接法により、溶接を行なっていた。サブマージアーク溶接法は、高能率である等の種々の利点を有することから、立向き姿勢への適用が強く要望されていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、サブマージアーク溶接を立向き姿勢で施工することができるサブマージアーク溶接装置及びサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置及びサブマージアーク溶接方法は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置は、立向き姿勢で設置されて溶接線が高さ方向に延びる被溶接物に対しサブマージアーク溶接を行なうための装置であって、側部が開放し、該開放する側部において前記被溶接物に当接したときに自身と前記被溶接物とによってその内部に形成される領域にフラックスを受け入れて保持するよう構成されたフラックス受けと、前記フラックス受けにフラックスを供給するフラックス供給手段と、その先端が前記領域内に配置され前記被溶接物に向けて溶接ワイヤを供給する溶接トーチと、前記フラックス受けを前記被溶接物に当接させながら、前記フラックス受け及び前記溶接トーチを前記被溶接物の溶接線の方向に沿って移動させる移動機構と、を備える。
【0009】
このように、フラックス受けが、側面が開放し、この開放する側面において被溶接物に当接したときに自身と被溶接物とによってその内部に形成される領域にフラックスを受け入れて保持するよう構成されているので、フラックス供給手段から供給されるフラックスを保持しておくことができる。また、溶接トーチが、上記の領域内に配置されているので、フラックス中でアークを発生させることができる。
このため、移動機構により、フラックス受けを被溶接物に当接させながら、フラックス受けと溶接トーチを高さ方向に延びる溶接線の方向に沿って移動させるとともに、フラックスの中で溶接トーチから供給される溶接ワイヤと被溶接物との間でアークを発生させることにより、サブマージアーク溶接を立向き姿勢で施工することができる。
【0010】
また、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置では、前記フラックス受けは、フラックスを保持する本体部と、該本体部の前記開放側に設けられた柔軟性のあるフラックス漏れ止め手段とを有する。
【0011】
このように、本体部の開放側に柔軟性のあるフラックス漏れ止め手段を有するので、フラックス受けが被溶接物に当接する際に、柔軟性のあるフラックス漏れ止め手段が適度に変形することにより、フラックス受けの開放側の端部と被溶接物との接触性がよくなり、両者の間からのフラックスの漏れを低減することができる。
【0012】
また、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置では、前記フラックス漏れ止め手段は、開放側に向って前記被溶接物の面に対して左右外側及び下側に広がる柔軟性のあるスカート部と、該スカート部を弾性的に支持する弾性部材とからなる。
【0013】
フラックス漏れ止め手段が、上記のように構成されたスカート部と弾性部材とからなるので、フラックス受けが被溶接物に当接する際に、弾性部材の作用によりスカート部が被溶接物に対して弾性的に押し付けられる。このため、スカート部と被溶接物との接触性がよくなり、両者の間からのフラックスの漏れを低減することができる。
【0014】
また、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置では、前記弾性部材は、前記スカート部のうち前記本体部の下側に設けられた部分において、前記被溶接物の面に対して左右方向の複数位置において前記スカート部を弾性的に支持するものである。
【0015】
このように、弾性部材が、スカート部のうち前記本体部の下側に設けられた部分において、被溶接物の面に対して左右方向の複数位置においてスカート部を弾性的に支持するものであるので、溶接ビードなどの被溶接物の表面の凹凸に対応してスカート部が変形する。したがって、スカート部と被溶接物との間からのフラックスの漏れを効果的に低減することができる。
【0016】
また、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置では、前記フラックス受けは、前記フラックス漏れ止め手段が前記被溶接物に当接したときに該被溶接物に当接する位置に設けられた回転自在の受けローラを有する。
【0017】
フラックス受けは被溶接物に当接しながら移動するが、このような受けローラを有するので、フラックス漏れ止め手段によりフラックスの漏れを低減しつつ、フラックス受けの移動を円滑に行なうことができる。
【0018】
また、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置では、前記移動機構は、前記フラックス受けを前記被溶接物に対して押圧する押圧装置を有する。
【0019】
このような押圧装置により、フラックス受けを被溶接物に対して押し付けるので、被溶接物に対してフラックス受けを位置付けした後も、適度の押付け力でもってフラックス受けを被溶接物に対して押し付けることができる。
【0020】
また、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置では、前記溶接トーチは、前記フラックス受けのうち前記開放側とは反対側の側部を貫通して設けられている。
【0021】
このように、溶接トーチをフラックス受けのうち開放側とは反対側の側部を貫通して設けることにより、溶接トーチを大きく曲げずに、フラックス受けを無駄に大きくすることなく、先端部がフラックス保持する領域内に位置するように溶接トーチを配置することができる。
【0022】
また、本発明にかかるサブマージアーク溶接装置では、前記移動機構は、前記溶接トーチの先端部を前記溶接線と交差する方向に往復動させるオシレート装置を有し、前記フラックス受けは、前記溶接トーチの往復動に伴う当該フラックス受けと当該溶接トーチとの相対位置の変化を許容できる程度の柔軟性をもつ。
【0023】
このようなオシレート装置を設けた場合、溶接トーチの往復動に伴ってフラックス受けと溶接トーチとの相対位置が変化するが、フラックス受けがその変化を許容できる程度の柔軟性をもつので、フラックス受けと溶接トーチとの間からのフラックスの漏れを防止しつつ溶接トーチの往復動を制限することなく円滑に行なわせることができる。
【0024】
また、本発明にかかるサブマージアーク溶接方法は、立向き姿勢で設置されて溶接線が高さ方向に延びる被溶接物に対しサブマージアーク溶接を行なう方法であって、前記被溶接物に溶接トーチを対向させるとともに、前記被溶接物と前記溶接トーチとの間に形成される空間にフラックスを保持した状態で、前記溶接トーチを前記溶接線の方向に沿って移動させて溶接を行なう、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、サブマージアーク溶接を立向き姿勢で施工することができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0027】
図1及び図2は、本発明の実施形態にかかるサブマージアーク溶接装置10を示す図である。図1は左側面図であり、図2は正面図である。
このサブマージアーク溶接装置10は、立向き姿勢で設置されて溶接線2が高さ方向に延びる被溶接物(母材)1に対しサブマージアーク溶接を行なうための装置である。ここで、「高さ方向」とは、鉛直方向のみならず鉛直方向と傾斜する方向をも含む概念である。したがって、本実施形態では図2に示すように、被溶接物1の溶接線2は鉛直方向に延びているが、本発明はこれに限られず、溶接線2が鉛直方向に対して傾斜する方向に延びる被溶接物の溶接に対しても適用することができる。
【0028】
このサブマージアーク溶接装置10は、フラックス受け12と、フラックス供給手段24と、溶接トーチ32と、移動機構36を、主たる構成要素として備えている。
図3は図2におけるフラックス受け12のI−I線断面図であり、図4はフラックス受け12の斜視図である。以下、図1及び図2に加え、この図3及び図4も参照して説明する。
【0029】
フラックス受け12は、一方の側部(被溶接物1に当接させる側部)が開放し、この開放する側部において被溶接物1に当接したときに自身と被溶接物1とによってその内部に形成される領域にフラックス11を受け入れて保持するよう構成されている。すなわち、図3に示すように、フラックス受け12がその開放側の側部で被溶接物1に当接したときに、フラックス受け12の開放側が被溶接物1で閉じられることにより、供給されるフラックス11を内部に保持し、被溶接物1の継手部(本実施形態では開先2の部分)に滞留させておくことができる。
なお、フラックスは、被溶接物および溶加材の酸化物等の有害物を除去し、被溶接物表面を保護し、又は溶接金属の精錬を行なう目的で用いる粉状の材料である。
【0030】
フラックス受け12は、フラックスを保持する本体部13と、本体部13の開放側に設けられた柔軟性のあるフラックス漏れ止め手段17とを有する。
本体部13は耐熱性に優れる材料からなるのが良く、本実施形態では、グラスウールやアラミド繊維で編まれた耐熱布、金属製網などからなる。
本体部13の上部は開放しており、上部からフラックス供給手段24から供給されるフラックスを受け入れ可能になっている。また、本体部13は、フレーム16に取り付けられており、このフレーム16で支持されることにより、その基本的な形状が保持されている。
【0031】
フラックス漏れ止め手段17は、スカート部18と弾性部材19とからなる。
スカート部18は、開放側に向って被溶接物1の面に対して左右外側及び下側に広がっている。以下、スカート部18のうち、本体部13の側部両側から広がる部分を「側部スカート部」と呼び、本体部13の下側から広がる部分を「下部スカート部」と呼ぶ。また、左右方向といった場合、被溶接物1の面に対して左右方向を意味するものとする。
【0032】
スカート部18は、耐熱性に優れる材料からなるのが良く、本実施形態では、グラスウールやアラミド繊維で編まれた耐熱布からなる。
弾性部材19は、スカート部18を弾性的に支持する部材である。より具体的には、弾性部材19は、フラックス受け12が被溶接物1に押し当てられたときに、スカート部18が被溶接物1側から受ける力を弾性的に支持する部材である。本実施形態では、弾性部材19は、側部スカート部を支持する側部弾性部材19aと、下部スカート部を支持する下部弾性部材19bとからなる。
【0033】
側部弾性部材19aは、本実施形態では、フレーム16のうちフラックス受け12の両側かつ開放側寄りで高さ方向に延びる部分に、高さ方向に間隔を置いて取り付けられた複数のコイルバネからなる。
下部弾性部材19bは、本実施形態では、フレーム16の下部に設けられた左右方向に延びる固定片20に、左右方向に間隔を置いて取り付けられた複数のコイルバネからなる。このように構成された下部弾性部材19bは、下部スカート部において、被溶接物1の面に対して左右方向の複数位置においてスカート部18を弾性的に支持する。
【0034】
なお、本発明における弾性部材19は、上述した形状及び配置に限られず、フラックス受け12が被溶接物1に押し当てられたときに、スカート部18が被溶接物1側から受ける力を弾性的に支持するという機能を達成できる範囲で種々の形状及び配置を採用できる。
【0035】
また、フラックス受け12は、フラックス漏れ止め手段17(ここではスカート部18)が被溶接物1に当接したときに被溶接物1に当接する位置に設けられた回転自在の受けローラ21を有する。本実施形態では、受けローラ21は、フレーム16のうち側部弾性部材19aが取り付けられた部分の上端部にそれぞれ設けられている。
【0036】
なお、本実施形態では、本体部13とスカート部18は、別々に製作した後に互いの端部を縫い合わせ連結したものであるが、当初から一体のものとして製作してもよい。
【0037】
フラックス供給手段24は、フラックス受け12にフラックスを供給するものであり、本実施形態では、フラックス受け12の上方に配置されフラックスの供給源となるフラックスホッパー25と、上端がフラックスホッパー25に接続され下端がフラックス受け12に臨むフラックス供給管26とからなる。
【0038】
フラックスホッパー25は後述する移動機構36の走行台車38にホッパー固定具27を介して固定されており、走行台車38の移動に伴って移動する。
フラックス供給管26の下端部は、管固定具28によってその位置が固定されている。管固定具28は、後述するオシレート装置46に固定されている。
また、管固定具28には、フラックス受け12の開放側に向って先端が尖った開先ならいピン30が取り付けられている。この開先ならいピン30は、溶接トーチ32の位置調節を行なう際に、溶接トーチ32の先端部を開先3の位置に合わせ易くするためのものである。
【0039】
溶接トーチ32は、被溶接物1に向けて溶接ワイヤ34を供給するものであり、その先端が、フラックス受け12と被溶接物1とによってその内部に形成される領域に配置されている。溶接トーチ32は管状のトーチボディー33を備えており、その他端に接続された図示しないワイヤ送給装置により供給される溶接ワイヤ34をトーチボディー33の内部を通して被溶接物1の継手部に供給する。
溶接トーチ32は、本実施形態では、フラックス受け12のうち開放側とは反対側の側部を貫通している。本体部13における溶接トーチ32が貫通する部分には、溶接トーチ32を軸方向に所定長さに亘って被覆するよう本体部13から外側に突出する突出部13aが設けられている。この突出部13aにより、貫通部分からのフラックスの漏れが防止される。
【0040】
移動機構36は、本実施形態では、溶接線2に沿った方向に敷設された走行レール37と、走行レール37上を自動走行する走行台車38と、走行台車38に設置された位置調節機構39と、フラックス受け12を被溶接物1に対して押圧する押圧装置43と、溶接トーチ32の先端部を溶接線2と交差する方向に往復動させるオシレート装置46とを備えている。
【0041】
本実施形態では、走行レール37はH型鋼であり、走行台車38はH型鋼のフランジをレールとして走行するようになっている。
位置調節機構39は、フラックス受け12及び溶接トーチ32の左右方向(図2で左右方向)の位置を調節する左右スライド40と、フラックス受け12及び溶接トーチ32と被溶接物1との距離を調節する上下スライド41とからなる。上下スライドの調節方向は、図1の左右方向である。
左右スライド40及び上下スライド41は、それぞれ調節つまみ40a,41aを有し、調節つまみ40a,41aを回転させることで位置調整を行なうことができる。
【0042】
押圧装置43とオシレート装置46は、ともに連結部材48に固定されており、連結部材48は位置調節機構39に固定されている。押圧装置43の先端部はフレーム16に固定されている。このように構成されているため、フラックス受け12を被溶接物1に対して適度の押し付け力でもって押し付けることができる。なお、本実施形態では、押圧装置43はスプリング44の弾性力を用いたものであるが、エアシリンダ装置又は油圧シリンダ装置であってもよい。
【0043】
オシレート装置46は、溶接線2と平行な軸線aを中心に首を振るように回動するヘッド部46aを有する。溶接トーチ32はこのヘッド部46aに固定されている。このようにオシレート装置46が構成されているため、溶接トーチ32を揺動させてその先端部を溶接線2と交差する方向(図2で左右方向)に往復動(オシレート)させることができる。溶接トーチ32の往復動に伴って、フラックス受け12と溶接トーチ32との相対位置が変化するが、耐熱布からなるフラックス受け12は、上記の相対位置の変化を許容できる程度の柔軟性をもっているため、溶接トーチ32の動きの弊害とはならない。
【0044】
なお、ヘッド部46aは回動するものに限られず、左右方向に水平に往復動するものであってもよい。また、オシレート装置46は、必要性に応じて選択的に装備されるものである。したがって、オシレート装置46を装備せず、溶接トーチ32を往復動させない構成であってもよい。
【0045】
以下、本実施形態にかかるサブマージアーク溶接装置10の動作について説明する。
位置調節機構39の左右スライド40の調節つまみ40aを回して、溶接トーチ32の先端が溶接線2を向く位置にくるように調節する。このとき、開先ピン30の先端が溶接線2を指すように調整すると、容易かつ正確に左右方向の位置を調節できる。また、上下スライド41の調節つまみ41aを回して、フラックス受け12が被溶接物1に当接するようにフラックス受け12の位置を調節する。このとき、ある程度の押付け力でもってフラックス受け12が被溶接物1に押し付けられるように調節する。こうすると、弾性部材19の作用によりスカート部18が被溶接物1に対して弾性的に押し付けられるため、スカート部18と被溶接物1との接触性がよくなる。
【0046】
フラックス供給手段24からフラックス受け12にフラックスが供給されると、フラックス受け12と被溶接物1とによって内部に形成された領域にフラックスが保持される。このとき、スカート部18が弾性部材19により弾性的に支持され、被溶接物1に対して接触性よく押し付けられているので、スカート部18と被溶接物1の間からのフラックスの漏れが低減される。したがって、サブマージアーク溶接を施工するのに十分な量のフラックスを被溶接物1の継手部(本実施形態では開先3の部分)に滞留させておくことができる。
【0047】
そして、移動機構36により、フラックス受け12を被溶接物1に当接させながら、フラックス受け12と溶接トーチ32を高さ方向に延びる溶接線2の方向に沿って移動させる。本実施形態では上方に移動させる。このとき、オシレート装置46により溶接トーチ32の先端を上述したように往復動させる。これとともに、フラックスの中で溶接トーチ32から供給される溶接ワイヤ34と被溶接物1との間でアークを発生させ、溶接を行なう。
【0048】
このように、サブマージアーク溶接装置10により、本発明にかかるサブマージアーク溶接方法を実施することができる。すなわち、本発明にかかるサブマージアーク溶接方法は、立向き姿勢で設置されて溶接線2が高さ方向に延びる被溶接物1に対しサブマージアーク溶接を行なう方法であって、被溶接物1に溶接トーチ32を対向させるとともに、被溶接物1と溶接トーチ32との間に形成される空間にフラックスを保持した状態で、溶接トーチ32を溶接線2の方向に沿って移動させて溶接を行なうものである。
【0049】
以下、本実施形態にかかるサブマージアーク溶接装置10の作用・効果について説明する。
本実施形態によれば、フラックス受け12が、側面が開放し、この開放する側面において被溶接物1に当接したときに自身と被溶接物1とによってその内部に形成される領域にフラックス11を受け入れて保持するよう構成されているので、フラックス供給手段24から供給されるフラックス11を保持しておくことができる。また、溶接トーチ32が、上記の領域内に配置されているので、フラックス11中でアークを発生させることができる。
このため、移動機構36により、フラックス受け12を被溶接物1に当接させながら、フラックス受け12と溶接トーチ32を高さ方向に延びる溶接線2の方向に沿って移動させるとともに、フラックス11の中で溶接トーチ32から供給される溶接ワイヤ34と被溶接物1との間でアークを発生させることにより、サブマージアーク溶接を立向き姿勢で施工することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、本体部13の開放側の端部に柔軟性のあるフラックス漏れ止め手段17を有するので、フラックス受け12が被溶接物1に当接する際に、柔軟性のあるフラックス漏れ止め手段17が適度に変形することにより、フラックス受け12の開放側の端部と被溶接物1との接触性がよくなり、両者の間からのフラックス11の漏れを低減することができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、フラックス漏れ止め手段17が、上記のように構成されたスカート部18と弾性部材19とからなるので、フラックス受け12が被溶接物1に当接する際に、弾性部材19の作用によりスカート部18が被溶接物1に対して弾性的に押し付けられる。このため、スカート部18と被溶接物1との接触性がよくなり、両者の間からのフラックス11の漏れを低減することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、弾性部材19が、スカート部18のうち本体部13の下側に設けられた部分において、被溶接物1の面に対して左右方向の複数位置においてスカート部18を弾性的に支持するものであるので、溶接ビードなどの被溶接物1の表面の凹凸に対応してスカート部18が変形する。したがって、スカート部18と被溶接物1との間からのフラックス11の漏れを効果的に低減することができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、フラックス受け12は被溶接物1に当接しながら移動するが、上記のような受けローラ21を有するので、フラックス漏れ止め手段17によりフラックス11の漏れを低減しつつ、フラックス受け12の移動を円滑に行なうことができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、押圧機構によりフラックス受け12を被溶接物1に対して押し付けるので、被溶接物1に対してフラックス受け12を位置付けした後も、適度の押付け力でもってフラックス受け12を被溶接物1に対して押し付けることができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、溶接トーチ32をフラックス受け12のうち開放側とは反対側の側部を貫通して設けることにより、溶接トーチ32を大きく曲げずに、フラックス受け12を無駄に大きくすることなく、先端部がフラックス11を保持する領域内に位置するように溶接トーチ32を配置することができる。
【0056】
また、上記のようなオシレート装置46を設けた場合、溶接トーチ32の往復動に伴ってフラックス受け12と溶接トーチ32との相対位置が変化するが、本実施形態によれば、フラックス受け12がその変化を許容できる程度の柔軟性をもつので、フラックス受け12と溶接トーチ32との間からのフラックスの漏れを防止しつつ溶接トーチ32の往復動を制限することなく円滑に行なわせることができる。
【0057】
なお、本実施形態では、被溶接物1の継手形状として、開先継手のものを対象としたが、本発明はこれに限られず、その他の継手形状(突合せ継手、重ね継手、隅肉継手)にも適用することができる。この場合、フラックス受け12の形状は、その機能を達成できるように、適用しようとする継手形状に適合するものとする必要がある。つまり、フラックス受け12は、被溶接物に当接したときに自身と被溶接物とによってその内部に形成される領域にフラックスを受け入れて保持するよう構成する必要がある。
【0058】
上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態にかかるサブマージアーク溶接装置の左側面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるサブマージアーク溶接装置の正面図である。
【図3】図2のI−I線断面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかるサブマージアーク溶接装置におけるフラックス受けの斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1 被溶接物
2 開先
3 溶接線
10 サブマージアーク溶接装置
12 フラックス受け
13 本体部
17 フラックス漏れ止め手段
18 スカート部
19 弾性部材
24 フラックス供給手段
32 溶接トーチ
34 溶接ワイヤ
36 移動機構
39 位置調節機構
43 押圧装置
46 オシレート装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立向き姿勢で設置されて溶接線が高さ方向に延びる被溶接物に対しサブマージアーク溶接を行なうための装置であって、
側部が開放し、該開放する側部において前記被溶接物に当接したときに自身と前記被溶接物とによってその内部に形成される領域にフラックスを受け入れて保持するよう構成されたフラックス受けと、
前記フラックス受けにフラックスを供給するフラックス供給手段と、
その先端が前記領域内に配置され前記被溶接物に向けて溶接ワイヤを供給する溶接トーチと、
前記フラックス受けを前記被溶接物に当接させながら、前記フラックス受け及び前記溶接トーチを前記被溶接物の溶接線の方向に沿って移動させる移動機構と、を備える、サブマージアーク溶接装置。
【請求項2】
前記フラックス受けは、フラックスを保持する本体部と、該本体部の前記開放側に設けられた柔軟性のあるフラックス漏れ止め手段とを有する、請求項1に記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項3】
前記フラックス漏れ止め手段は、開放側に向って前記被溶接物の面に対して左右外側及び下側に広がる柔軟性のあるスカート部と、該スカート部を弾性的に支持する弾性部材とからなる、請求項2に記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記スカート部のうち前記本体部の下側に設けられた部分において、前記被溶接物の面に対して左右方向の複数位置において前記スカート部を弾性的に支持するものである、請求項3に記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項5】
前記フラックス受けは、前記フラックス漏れ止め手段が前記被溶接物に当接したときに該被溶接物に当接する位置に設けられた回転自在の受けローラを有する、請求項2又は3に記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項6】
前記移動機構は、前記フラックス受けを前記被溶接物に対して押圧する押圧装置を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項7】
前記溶接トーチは、前記フラックス受けのうち前記開放側とは反対側の側部を貫通して設けられている、請求項1に記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項8】
前記移動機構は、前記溶接トーチの先端部を前記溶接線と交差する方向に往復動させるオシレート装置を有し、前記フラックス受けは、前記溶接トーチの往復動に伴う当該フラックス受けと当該溶接トーチとの相対位置の変化を許容できる程度の柔軟性をもつ、請求項7に記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項9】
立向き姿勢で設置されて溶接線が高さ方向に延びる被溶接物に対しサブマージアーク溶接を行なう方法であって、
前記被溶接物に溶接トーチを対向させるとともに、前記被溶接物と前記溶接トーチとの間に形成される空間にフラックスを保持した状態で、前記溶接トーチを前記溶接線の方向に沿って移動させて溶接を行なう、ことを特徴とするサブマージアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−307570(P2007−307570A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137252(P2006−137252)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】