説明

サポーター

【課題】 着用者の腹部を前方から後上方に押圧して、前腹部に位置する腹直筋に反発力を働かせ、腹直筋に繋がる腹部のインナーマッスル(特に、腹横筋、内腹斜筋)に収縮力を働かせて、着用者のインナーマッスルを鍛錬することができるサポーターを提供する。
【解決手段】 サポーター100は、着用者の安静立位の体幹側面視における上前腸骨棘201と第5腰椎301とを結ぶ線分に沿って、当該着用者の腰部を包囲する本体部10と、本体部10における着用者の左右の上前腸骨棘201間に対応する部分に配設される袋状の収納部20と、収納部20に収納され、気体を注入して体積を増加させる膨張部30と、を備え、膨張部30が、着用者の第5腰椎301に向けて、当該着用者の腹腔を押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、日常生活において無意識に着用者の腹筋を鍛錬し、着用者の腰痛の予防効果を得ると共に、着用者の腰椎の安定性を向上させ、腰痛を持つ着用者への除痛効果を得ることのできるサポーターに関する。
【背景技術】
【0002】
体幹は書いて字のごとく「体の幹」であり、四肢運動を行うための安定性及び支持性を担っている重要な部位である。「幹」が不安定であれば、腰痛の原因になるばかりでなく、四肢の筋力発揮不足や運動遂行能力の低下など、リハビリテーションを行う上でも体幹機能は重要である。
また、体幹トレーニングは、リハビリテーション分野以外に、高齢者の体力アップや転倒予防、スポーツ選手のパフォーマンス向上、ダイエットなどで幅広く応用されている。
【0003】
体幹トレーニングの中では、特に、腹筋群に対するトレーニングが重要であり、近年、腹部の深層筋(ローカルマッスル、インナーマッスル、コアマッスル)について着目されている。
また、ローカルマッスルの中でも最深層に位置する腹横筋は、腹腔内圧を上昇させ、胸郭の固定に寄与し、体幹の安定性作用を有し、腹横筋トレーニングによって、腰痛の消失及び予防効果があるとされる。
【0004】
なお、腹横筋については、効果的な腹横筋の収縮の条件を検討した報告は散見されるが、腹横筋を意識した収縮自体を日常生活で行うことが少なく、さらに深層に位置するため、視覚的に収縮を感じることや、表層からの触診も困難である。
また、腹直筋や外腹斜筋などの腹部の浅層筋(グローバルマッスル、アウターマッスル)を抑制させながら、腹横筋のみを選択的に収縮することは重要であるが、指導には困難なことが多い。
【0005】
なお、腰痛は、図10に示すように、腰椎の前彎や骨盤の前傾による脊椎のアライメントが変化して(症例A:腰椎の前彎、症例B:骨盤の前傾)、椎間板の内圧の上昇、腹筋の低下(背筋の過緊張)、椎間板ヘルニア又は脊柱管の狭窄症などを原因にすることや、胸腰椎の後彎による脊椎のアライメントが変化して(症例E:高齢者における腰椎の円背)、椎体の圧迫骨折又は老人性の円背を原因にすることや、脊椎の不安定性により、すべり症又は脊柱管の狭窄症を原因にする。
【0006】
このため、腰痛の予防及び除痛には、脊椎の安定性が必要であり、腹部や腰部における筋力トレーニングや腰部にサポーターを着用することによる保存療法が考えられる。
なお、筋力トレーニングとしては、図10に示す症例A及び症例Bに対して、腹筋を強化するトレーニングが効果的であり、図10に示す症例Eに対して、背筋を強化するトレーニングが効果的である。
【0007】
例えば、従来の空気ポンプとセットの身体矯正具は、両端着脱自在からなるベルトの腹部に空気袋体を有する手段と、空気袋体の一端には切欠口を有する注入口を取着する手段と、注入口に嵌脱自在のボ−ルストッパ−入り注入空気ポンプをセットする手段と、空気袋体に空気を封入して腹部を圧迫して矯正する空気ポンプとセットの身体矯正具である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−5207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の空気ポンプとセットの身体矯正具は、ベルトを腹に巻いて使用するのであるが、体幹に対して垂直に巻かれており、この状態で空気袋体に空気を封入することでは、腹腔内圧を上昇させるのに不十分であり、最深層に位置する腹横筋を鍛錬することが困難であるという課題がある。
【0010】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、サポーターの着用者に対して、腹横筋を鍛錬し、着用者の腰痛の予防効果を図ると共に、着用者の腰椎の安定性を向上させ、腰痛を持つ着用者への除痛効果を得ることができるサポーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るサポーターにおいては、着用者の安静立位の体幹側面視における上前腸骨棘と第5腰椎とを結ぶ線分に沿って、当該着用者の腰部を包囲する本体部と、本体部における着用者の左右の上前腸骨棘間に対応する部分に配設される袋状の収納部と、収納部に収納され、気体を注入して体積を増加させる膨張部と、を備え、膨張部が、着用者の第5腰椎に向けて、当該着用者の腹腔を押圧するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係るサポーターにおいては、着用者の腹部を前方から後上方に押圧して、前腹部に位置する腹直筋に反発力を働かせ、腹直筋に繋がる腹部のインナーマッスル(特に、腹横筋、内腹斜筋)に収縮力を働かせて、着用者の腰部のインナーマッスルを鍛錬することができ、着用者の腰痛の予防効果を図ると共に、着用者の腰椎の安定性を向上させ、腰痛を持つ着用者への除痛効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は第1の実施形態に係るサポーターの裏地面を示す図であり、(b)は図1(a)に示すサポーターの表地面を示す図であり、(c)は図1(a)に示す収納部に収納する膨張部を示す斜視図であり、(d)は図1(a)に示す収納部に膨張部を収納し膨張部に気体を注入したサポーターの裏地面を示す図であり、(e)は図1(a)に示す収納部を取り除き支持部を露出させたサポーターの裏地面を示す図であり、(f)は図1(a)に示す収納部に収納する膨張部の他の例を示す斜視図である。
【図2】(a)は安静立位における骨盤傾斜角を説明するための体幹側面図であり、(b)は図1に示すサポーターの着用状態を示す右側前方からみた斜視図であり、(c)は図1に示すサポーターの着用状態を示す右側後方からみた斜視図であり、(d)は図1に示すサポーターの着用状態を示す右側面図である。
【図3】(a)は着用者の腰部を輪切りにした状態を示す断面図であり、(b)は図1に示すサポーターを着用した状態における着用者の腰部を輪切りにした状態を示す断面図である。
【図4】超音波測定器による測定部位を説明するための説明図である。
【図5】腹筋群の超音波画像の一例を示す説明図である。
【図6】(a)はサポーターの着用有無による外腹斜筋の筋厚の測定結果を示すグラフであり、(b)はサポーターの着用有無による内腹斜筋の筋厚の測定結果を示すグラフであり、(c)はサポーターの着用有無による腹横筋の筋厚の測定結果を示すグラフである。
【図7】(a)は被験者1における腹筋トレーニング及びサポーターの着用による腹横筋の筋厚の測定結果を示すグラフであり、(b)は被験者2における腹筋トレーニング及びサポーターの着用による腹横筋の筋厚の測定結果を示すグラフである。
【図8】(a)は背臥位におけるサポーターの着用有無による腹横筋の筋厚の測定結果を示すグラフであり、(b)は側臥位におけるサポーターの着用有無による腹横筋の筋厚の測定結果を示すグラフであり、(c)は坐位におけるサポーターの着用有無による腹横筋の筋厚の測定結果を示すグラフである。
【図9】(a)は経時的変化における外腹斜筋の筋厚の測定結果を示すグラフであり、(b)は経時的変化における内腹斜筋の筋厚の測定結果を示すグラフであり、(c)は経時的変化における腹横筋の筋厚の測定結果を示すグラフである。
【図10】悪い姿勢の類型を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係るサポーター100は、腰用のサポーターとして用いられるもので、図1及び図2に示すように、着用者の安静立位の体幹側面視(図2(a)、図2(c)参照)における上前腸骨棘201と第5腰椎301とを結ぶ線分に沿って、当該着用者の腰部を包囲する本体部10と、本体部10における着用者の左右の上前腸骨棘201間に対応する部分に配設される袋状の収納部20と、を備える。
なお、安静立位の体幹側面視における骨盤(上前腸骨棘201と上後腸骨棘202とを結ぶ線分)は、図2(a)に示すように、上後腸骨棘202を通る体幹に垂直な基準線Hに対して、およそ12°前方に傾いている。また、安静立位の体幹側面視における上前腸骨棘201と第5腰椎301とを結ぶ線分は、図2(a)に示すように、基準線Hに対しておよそ15°〜20°前方に傾いている。
【0015】
また、本体部10は、図1(d)及び図1(e)に示すように、収納部20に収納され、気体を注入して体積を増加させ、着用者の第5腰椎301に向けて当該着用者の腹腔を押圧する膨張部30と、着用者の腹部に対して膨張部30の外側に配設され、膨張部30への気体の注入に伴って着用者の腹部側に膨張部30を膨張させる板状の支持部40と、を備える。この支持部40は、膨張部30が着用者の腹部に対して前方に膨張することを抑制し、着用者の腹部を効率よく押圧することができる。
【0016】
このように、本実施形態に係るサポーター100は、本体部10が着用者の背部(腰痛の好発部位である第5腰椎301近傍)及び腸骨200を支持したうえで、膨張部30が前腹部(左右の上前腸骨棘201の間)から着用者の第5腰椎301にかけて斜め上方に腹腔を押圧することにより、腸骨200内部の臓器の側方への移動が抑制され、腸骨200内部の臓器に加わった圧力を斜め上方に伝播することができる。
【0017】
特に、上前腸骨棘201近傍は、筋肉の走行が上外側となっており、安静立位の体幹側面視における筋肉の走行方向は、基準線Hに対しておよそ15°〜20°前方に傾いている。このため、安静立位の体幹側面視における上前腸骨棘201及び第5腰椎301を結ぶ線分の方向と上前腸骨棘201近傍の筋肉の走行方向とが一致しており、膨張部30による前腹部の圧迫により、上前腸骨棘201近傍の筋肉を効率的に作用させることができる。
【0018】
なお、本実施形態に係る本体部10は、帯状体で形成され、当該帯状体の両端の異なる面に配設される一対の係着部を備えているが、帯状帯に限られるものではなく、腹巻のような円筒状であってもよい。
【0019】
また、本実施形態に係る係着部は、面ファスナー(ループ51、フック52)を用いているが、本体部10の両端部分を係着できるのであれば面ファスナーに限られるものではなく、例えば、ボタン、ドットボタン、スナップ、フック、尾錠、ファスナー(ジッパー、チャック)、尾錠、前かん、又は、スピンドルストッパなどを用いてもよい。
【0020】
また、本実施形態に係る本体部10は、着用者に当接しない表地面(図1(b)参照)における一端側(一端部11)に面ファスナーのループ51が配設され、着用者に当接する裏地面(図1(a)参照)における他端側(他端部12)に面ファスナーのフック52が配設されているが、フック52を表地面に配設させてループ51を裏地面に配設させてもよい。また、本体部10は、表地面におけるループ51を配設する側を一端側(一端部11)から他端側(他端部12)に変更して配設させ、裏地面におけるフック52を配設する側を他端側(他端部12)から一端側(一端部11)に変更して配設させてもよい。
【0021】
収納部20は、一対の係着部(ループ51、フック52)を対向して係着させた場合に、本体部10の両端の重畳部分における一端側(一端部11)の最内面に配設される。
また、膨張部30への気体の注入口31は、本体部10の両端と支持部40(図1(e)参照)とにそれぞれ配設される貫通孔60を介して、露出する(図2(c)参照)。
【0022】
また、本体部10の他端側(他端部12)に配設される貫通孔60は、本体部10の長手方向に沿って並設される複数の貫通孔60からなることにより、着用者のウエストサイズに合わせて膨張部30の注入口31を挿通させる貫通孔60を変えることができ、ウエストサイズの異なる任意の着用者に対してサポーター100を対応させることができる。なお、本実施形態においては、3つの貫通孔60を並設させているが、貫通孔60の数は3つに限られるものではない。
【0023】
なお、本実施形態に係る本体部10は、収納部20を配設する一端部11と、係着部を介して一端部11に対向させる他端部12と、着用者の背部に当接させる背当部13と、着用者の安静立位の体幹側面視における上前腸骨棘201と第5腰椎301とを結ぶ線分に沿うように背当部13及び一端部11又は他端部12を連結する左右の傾斜部14と、から構成される。
【0024】
また、本実施形態に係る本体部10は、一端部11及び傾斜部14、他端部12及び傾斜部14、並びに、背当部13及び傾斜部14間に、杉綾テープ1を当てて縫製し、それぞれを連結すると共に、ポリエステル及びポリウレタン製のふち巻きテープ2で周縁部を挟み込み縫い付けて一体にしたものである。
【0025】
また、本実施形態に係る一端部11は、表地面の係着部(ループ51)としてナイロン製のクイックロン(登録商標)を用い、中敷の支持部40としてポリプロピレン製のベルポーレンを用い、裏地面の収納部20としてポリエステル及びポリウレタン製の2WAY生地21を用いた層からなり、中敷のベルポーレンにより、サポーター100の長手方向L及び短手方向Sの伸縮性をほぼ無くしたものである。
【0026】
また、一端部11の裏地面の収納部20は、開口部となる2WAY生地21の縁(断ち目)を上タックゴム22で挟み込み縫い付け、2枚の2WAY生地21を重ね合わせたものであり、2WAY生地21の上タックゴム22近傍には、一対の面ファスナー(23a、23b)を縫製している。
【0027】
また、一端部11における表地面の係着部(ループ51)及び中敷の支持部40には、貫通孔60があり、貫通孔60には、ポリアセタール(POM)製のプラハトメが嵌装されている。
【0028】
なお、本実施形態に係る他端部12は、表地面としてナイロン製のループ面のクイックロン(登録商標)を用い、中敷としてポリプロピレン製のベルポーレンを用い、裏地面の係着部(フック52)としてナイロン製のクイックロン(登録商標)と裏地面の他の領域としてナイロン製のB面フレンチパイルとを用いた層からなり、中敷のベルポーレンにより、サポーター100の長手方向L及び短手方向Sの伸縮性をほぼ無くしたものである。
【0029】
また、他端部12における表地面、中敷及び裏地面(他の領域)には、貫通孔60があり、貫通孔60には、ポリアセタール(POM)製のプラハトメが嵌装されている。
【0030】
また、本実施形態においては、ポリエステル及びポリウレタン製のパワーネットを背当部13に用い、ポリエステル製のダブルラッセルを傾斜部14に用いることで、サポーター100の長手方向Lの伸縮性を与えると共に、サポーター100の短手方向Sの伸縮性を抑制したものである。
【0031】
なお、傾斜部14は、経編機により横糸1振りの経編で編み立てられる編生地(以下、経編生地と称す)からなり、経編生地の編み立て方向をサポーター100の長手方向Lとすることで、長手方向Lの伸縮性を与えると共に、サポーター100の短手方向Sの伸縮性を抑制したものである。
【0032】
ここで、経編は、縦方向(編み立て方向)に編目を作っていき、1本ずつ平行に並べられた数多くの経糸(整経糸)を用い、これをそれぞれ結合させて編地を作る。
【0033】
結合方法には、様々な種類があるが、代表的なものとして、隣同士の経糸を互いに絡ませ合いながら全体として編地を作る方法や、経糸のそれぞれ1本ずつで、独立した多くの鎖編をつくり、これに対して別に用意したもう一組の経糸を挿入して、鎖編の数本ずつを取り纏めながら横方向に連絡し、全体として編地を形成する方法が挙げられる。
【0034】
また、経編は、ほつれ難く、横方向(編み立て方向に垂直な方向)の伸びが少ないうえに、高生産性があり、編幅が大きいなどの特徴がある。
【0035】
膨張部30は、図1(c)に示すように、略球状の空気袋32に円筒状の注入口31を連結した形状であるが、この形状に限られるものではなく、例えば、膨張部30(空気袋32)を収納部20に収納し、サポーター100を装着して膨張部30(空気袋32)に気体を注入した場合に、図1(f)に示すように、膨張部30(空気袋32)が、着用者の臍下から離間するにつれて断面積が小さくなる形状であってもよい。この形状により、着用者の腹部を押圧する膨張部30(空気袋32)が臍下に近いほど広く、押圧力が斜め上方に作用することになり、より確実に、着用者の第5腰椎301に向けて着用者の腹腔を押圧することができる。
【0036】
なお、本実施形態に係るサポーター100は、例えば、以下の手順により着用する。
まず、着用者は、収納部20に膨張部30を入れ、支持部40の貫通孔60及び係着部(ループ51)の貫通孔60から膨張部30の注入口31を引っ張り出し、収納部20の一対の面ファスナー(23a、23b)を係着させる。
【0037】
そして、着用者は、本体部10の背当部13を着用者の背部(第5腰椎301近傍)に支持させたうえで、本体部10を一端部11側から着用者の腰部に巻回させた後に、他端部12側から着用者の腰部に巻回させて、他端部12の貫通孔60から膨張部30の注入口31を引っ張り出し、他端部12のフック52を一端部11のループ51に係着させる。この場合に、収納部20内の膨張部30(空気袋32)は、着用者の前腹部(左右の上前腸骨棘201間)に位置することになる。
【0038】
そして、着用者は、膨張部30の注入口31から図示しないポンプ(例えば、空気入れ)により気体(例えば、空気)を注入して、着用者の腹部を前方から圧迫する。
なお、本実施形態に係るサポーター100は、一対の係着部(ループ51、フック52)を対向して係着させた場合に、収納部20が本体部10の両端の重畳部分における一端側の最内面に配設され、膨張部30への気体の注入口31が本体部10の両端と支持部40とにそれぞれ配設される貫通孔60を介して露出することにより、膨張部30の注入口31が前方に突出しており、サポーター100の着用状態において、膨張部30への気体の注入を容易に行うことができる。
【0039】
このように、本実施形態に係るサポーター100は、着用者の腹部を前方から後上方に押圧して、図3に示すように、前腹部に位置する腹直筋401に反発力を働かせ、腹直筋401に繋がる腹部のインナーマッスル(特に、腹横筋402、内腹斜筋403)に収縮力を働かせて、着用者の腰部のインナーマッスルを鍛錬することができる。
【0040】
つぎに、本実施形態に係るサポーター100の作用効果を検証した結果を説明する。
第1の実験では、13名の被験者(健常成人、全例男性、平均年齢22.5±4.9歳)の腰に、サポーター100を着用させた場合(以下、着用時と称す)と着用させない場合(以下、非着用時と称す)とにおいて、安静立位(足幅は肩幅、視線は前方)における腹筋群の筋厚を測定した。
【0041】
なお、着用時の圧迫強度(膨張部30への気体の注入)は、被験者の主観でややきついと感じる程度とした。
【0042】
また、測定では、測定機器として超音波診断装置(株式会社日立メディコ製「MyLabFive」)を使用して0.1mm単位で測定し、呼吸の影響を避けるため、測定のタイミングを呼気最終時に統一した。
【0043】
また、測定部位は、右前腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部分とし、測定筋は、図4及び図5に示すように、外腹斜筋(External Oblique muscle:EO)、内腹斜筋(Internal Oblique muscle:IO)、腹横筋(transverse abdominal muscle:TrA)とした。
【0044】
さらに、測定値の統計は、非着用時の安静立位における各測定筋の筋厚と、着用時である腹部圧迫(Abdominal Pressure:AP)時の安静立位(以下、AP立位と称す)における各測定筋の筋厚とを、対応のあるt検定(平均値の差の検定)を用いて解析し、p値(有意確率)が5%(=0.05)未満を「有意差あり」とした。
測定結果を下表1及び図6に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
外腹斜筋(EO)は、表1及び図6(a)に示すように、非着用時(安静立位)の筋厚が9.25mmであり、着用時(AP立位)の筋厚が10.7mmであり、有意差を認めなかった(P=0.17)。
また、内腹斜筋(IO)は、表1及び図6(b)に示すように、非着用時(安静立位)の筋厚が12.5mmであり、着用時(AP立位)の筋厚が13.9mmであり、有意差を認めた(P<0.05)。
また、腹横筋(TrA)は、表1及び図6(c)に示すように、非着用時(安静立位)の筋厚が6.4mmであり、着用時(AP立位)の筋厚が8.2mmであり、有意差を認めた(P<0.001)。
【0047】
すなわち、着用時(AP立位)では、腹横筋(TrA)及び内腹斜筋(IO)の筋厚が有意に増大していることがわかる。これは、着用者の腹部が、前方から適度な圧迫を受け、その刺激がドローイン(腹部凹まし)トレーニングと同様の状況が無意識化で行われている状況となっていると推測できる。
【0048】
第2の実験では、2名の被験者の腰に、サポーター100を着用させた場合(着用時)の安静立位における腹横筋の筋厚と、サポーター100を着用させない場合(非着用時)の他のトレーニング(腹筋トレーニング)後の安静立位における腹横筋の筋厚と、を測定した。
なお、着用時の圧迫強度及び測定方法は、第1の実験と同様である。
測定結果を下表2及び図7に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2及び図7に示すように、本実施形態に係るサポーター100を着用することは、腹横筋を鍛錬するうえで、通常の腹筋トレーニングよりも効果的であることがわかる。
【0051】
第3の実験では、1名の被験者の腰に、第1の本実施形態に係るサポーター100を着用させた場合(着用時)と着用させない場合(非着用時)とにおいて、背臥位、側臥位又は坐位における腹横筋の筋厚を測定した。
なお、着用時の圧迫強度及び測定方法は、第1の実験と同様である。
測定結果を下表3及び図8に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3及び図8に示すように、本実施形態に係るサポーター100を着用することは、様々な姿勢において、腹横筋が増大することがわかる。
【0054】
第4の実験では、1名の被験者の腰にサポーター100を着用させる前(非着用時)の安静立位における腹筋群を測定すると共に、同一の被験者の腰に、3週間(月曜日から金曜日までの週5日間であり、各日とも午前9時から午前12時までの3時間)、サポーター100を着用させ、デスクワークや軽作業程度の仕事を行わせた場合において、3週間経過後に、安静立位における腹筋群の筋厚を測定した。
【0055】
なお、着用時の圧迫強度及び測定方法は、第1の実験と同様である。
また、測定部位は、腋窩線上及び臍部外側17.5cmとし、測定毎に場所が変化しないようにした。
測定結果を下表4及び図9に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
表4及び図9に示すように、本実施形態に係るサポーター100を着用することは、外腹斜筋、内腹斜筋及び腹横筋の筋厚が、経時的変化で増加傾向にあることがわかる。
【0058】
以上のように、本実施形態に係るサポーター100は、サポーター100を着用することにより、腰痛の好発部位である第5腰椎301を支持する外的サポートに加え、腹筋群(特に、腰部のインナーマッスル)の膜厚が増大し、内的サポート(筋力によるサポート)が可能になるという作用効果を奏する。
【0059】
また、本実施形態に係るサポーター100は、サポーター100を着用することにより、腹横筋を鍛錬するうえで通常の腹筋トレーニングよりも効果的であり、様々な姿勢においても腹横筋が増大し、日常生活において無意識のうちに腰部のインナーマッスルを鍛錬することができるという作用効果を奏する。
【0060】
延いては、本実施形態に係るサポーター100により、腰痛を持つ着用者への除痛効果(腰椎の安定性の向上)による日常生活の手助けや、着用者の腰痛の予防効果(腰部のローカルマッスルトレーニングの効果)や、ウォーキング又はエクササイズなどのトレーニングの補助や、腹横筋トレーニングによるダイエット及び美容効果や、スポーツのパフォーマンスの向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 杉綾テープ
2 ふち巻きテープ
10 本体部
11 一端部
12 他端部
13 背当部
14 傾斜部
20 収納部
21 2WAY生地
22 上タックゴム
30 膨張部
31 注入口
32 空気袋
40 支持部
51 ループ
52 フック
60 貫通孔
100 サポーター
200 腸骨
201 上前腸骨棘
202 上後腸骨棘
301 第5腰椎
401 腹直筋
402 腹横筋
403 内腹斜筋
H 基準線
L 長手方向
S 短手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の安静立位の体幹側面視における上前腸骨棘と第5腰椎とを結ぶ線分に沿って、当該着用者の腰部を包囲する本体部と、
前記本体部における前記着用者の左右の上前腸骨棘間に対応する部分に配設される袋状の収納部と、
前記収納部に収納され、気体を注入して体積を増加させる膨張部と、
を備え、
前記膨張部が、前記着用者の第5腰椎に向けて、当該着用者の腹腔を押圧することを特徴とするサポーター。
【請求項2】
前記請求項1に記載のサポーターにおいて、
前記着用者の腹部に対して前記膨張部の外側に配設され、前記膨張部への気体の注入に伴って前記着用者の腹部側に前記膨張部を膨張させる板状の支持部を備えることを特徴とするサポーター。
【請求項3】
前記請求項2に記載のサポーターにおいて、
前記本体部が、帯状体で形成され、当該帯状体の両端の異なる面に配設される一対の係着部を備え、
前記収納部が、前記一対の係着部を対向して係着させた場合に、前記本体部の両端の重畳部分における一端側の最内面に配設され、
前記膨張部への気体の注入口が、前記本体部の両端と前記支持部とにそれぞれ配設される貫通孔を介して、露出することを特徴とするサポーター。
【請求項4】
前記請求項3に記載のサポーターにおいて、
前記本体部の他端側に配設される貫通孔が、前記本体部の長手方向に沿って並設される複数の貫通孔からなることを特徴とするサポーター。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれかに記載のサポーターにおいて、
前記膨張部が、前記着用者の臍下から離間するにつれて断面積が小さくなる形状であることを特徴とするサポーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−94336(P2013−94336A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238497(P2011−238497)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(500294888)株式会社 アドヴァンシング (26)
【Fターム(参考)】