説明

サンプル採取器

【課題】所定の位置のスラッジや液体を採取でき、スラッジ等に他の物質が混入することを防ぐことができるサンプル採取器を提供する。
【解決手段】流動性を有する物質中に浸漬され、物質の採取に使用される採取器であって、中空な内部空間2hを有し、下端に外部と内部空間2hとを連通する下部開口部2aを有する本体部と、本体部2内に配設されており、本体部2の下部開口部2aを開閉する下部弁3と、下部弁3の開閉を制御する下部弁開閉制御部とを備えており、下部弁開閉制御部が、下部弁3の弁体3aを、本体部2の下部開口部2aを閉じるように付勢する付勢手段13と、外部から力を加えることによって、下部弁3の弁体3aを本体部2の下部開口部2aから離間させる離間手段とからなり、下部弁3によって本体部2の下部開口部2aが閉じられると内部空間2hが密封され、内部空間2hが密封された状態で物質中に浸漬されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル採取器に関する。火力発電所や石油プラント等に設けられている大型オイルタンクには大量の重油等のオイルが貯蔵されているが、貯蔵されているオイルには、通常、不純物や水分等が混入している。オイルがタンク内に貯蔵されている間に、不純物はスラッジとしてタンク底部に堆積し、また、水分もタンク底部に堆積する。タンク底部に堆積したスラッジはフロート式タンクのフロートの損傷を引き起こす可能性があり、また、底部に堆積した水分はタンク内面の腐食を速める。このため、火力発電所等では、堆積したスラッジの性状を分析するため、また、どの程度スラッジや水分が堆積しているかを調べるために、タンク内のスラッジや水分の採取を定期的に行っている。
本発明は、かかる大型オイルタンク内に堆積したスラッジや水分を採取するためのサンプル採取器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からスラッジ等のサンプルを採取する器具が開発されている(従来例1,2:特許文献1,2)。
従来例1,2の器具は、いずれも上下貫通した円筒状の部材と、その円筒状部材の下端のみを開閉する弁とを備えているため、円筒状部材の下端を開いた状態でオイル内に投入し、その後、弁を閉じてから器具を引き上げれば、円筒状部材内に溜まったオイルやスラッジ等を採取することができる。
しかし、上記の器具では、円筒状部材の軸方向の長さ分のスラッジが層状になって回収されるため、円筒状部材からスラッジを取り出せばスラッジが混ざってしまい、所望の深さのスラッジのみの成分を調べることはできない。そして、構造上、所定の深さのスラッジだけを回収することは困難である。
また、スラッジを収容した器具を引き上げるときに、その途中で容器が傾けば、円筒状部材内のスラッジが、容器が傾いた位置のオイルと置換されてしまう可能性がある。すると、採取されたスラッジがオイルによって希釈されてしまうため、採取されたサンプルの正確な調査を行うことができない。
【0003】
かかる問題の生じないサンプル採取器具として、特許文献3(従来例3)に記載された技術がある。
従来例3の技術は、上端付近に液体出口を有するシリンダと、シリンダ内を滑るように動くピストンと、シリンダの上端から突出しているピストン棒と、シリンダの下端にある液体サンプル導入口と、導入口を通して前記シリンダに液体サンプルを流入させるが、逆の流れは阻止するバルブと、ピストン中の少なくとも1個の液体を通すバイパス路と、バイパス路を上向きに液体に通すが逆の流れは阻止するパイプとを有する液体サンプル採取装置である。
この液体サンプル採取装置では、ピストンの下面とシリンダの底との間にきれいな油(清浄油)を充填した状態でオイル内に投入するから、所定の位置まで移動する間にオイルなどがシリンダ内に浸入することを防ぐことができる。
そして、所定の位置まで液体サンプル採取装置が移動すると、ピストンをシリンダの底に向けて移動させることによって、清浄油を、ピストンの下面とシリンダの底との間から、ピストンの上面と頂部カバーとの間に移動させ、その後、ピストンを上昇させる。すると、ピストンの上面と頂部カバーとの間の清浄油を液体出口から外部に排出することができ、その代わりに、ピストンの下面とシリンダの底との間に何も入っていない空間が形成される。この空間は負圧になるから、液体サンプル導入口からシリンダの底近傍のオイルがピストンの下面とシリンダの底との間の空間に吸引される。したがって、この液体サンプル採取装置によれば、シリンダの底近傍のオイルだけを回収することができる。
【0004】
しかるに、従来例3の技術では、清浄油を利用して、所定の位置まで移動する間にオイルなどがシリンダ内に浸入することを防いでいるため、充填されていた清浄油がシリンダ内に残留し、かかる清浄油がスラッジ等の回収されたサンプルに混入する可能性は否定できない。すると、サンプルの調査を正確に行えない可能性がある。
しかも、ピストンを作動させて清浄油をシリンダから排出するのであるが、シリンダ周囲がスラッジに囲まれている場合には、シリンダ周囲の圧力に対抗して清浄油を排出しなければならず、シリンダ周囲の圧力は非常に大きいので、清浄油を排出することが困難であり、スラッジの採取に適用することは事実上不可能である。
【0005】
【特許文献1】特公昭63−11230号
【特許文献2】特公昭63−42733号
【特許文献3】特開昭56−33526号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、所定の位置のスラッジや液体を採取でき、スラッジ等に他の物質が混入することを防ぐことができるサンプル採取器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のサンプル採取器は、流動性を有する物質中に浸漬され、該物質の採取に使用される採取器であって、中空な内部空間を有し、下端に外部と前記内部空間とを連通する下部開口部を有する本体部と、該本体部内に配設されており、該本体部の下部開口部を開閉する下部弁と、前記下部弁の開閉を制御する下部弁開閉制御部とを備えており、該下部弁開閉制御部が、前記下部弁の弁体を、前記本体部の下部開口部を閉じるように付勢する付勢手段と、外部から力を加えることによって、前記下部弁の弁体を前記本体部の下部開口部が開くように移動させる開口手段とからなり、前記下部弁によって前記本体部の下部開口部が閉じられると前記内部空間が密封され、該内部空間が密封された状態で物質中に浸漬されるものであることを特徴とする。
第2発明のサンプル採取器は、第1発明において、前記本体部が、その上端に外部と前記内部空間とを連通する上部開口部を有しており、該本体部内に、前記上部開口部を開閉する上部弁と、前記上部弁の開閉を制御する上部弁開閉制御部とを備えており、前記上部弁開閉制御部が、前記下部開口部が開かれた後、前記上部開口部が開くように該上部弁の開閉を制御するものであることを特徴とする。
第3発明のサンプル採取器は、第1発明において、前記本体部の上部開口部は、該本体部を貫通する貫通孔であり、前記上部弁の弁体が、前記上部開口部に摺動可能、かつ、液密に挿入されており、前記上部弁の弁体と前記下部弁の弁体とを連結する連結部材が設けられており、該連結部材は、前記上部弁の弁体が前記本体部の上部開口部から離脱する方向に移動すると、前記下部弁の弁体が前記下部開口部から離間するように前記上部弁の弁体と前記下部弁の弁体とを連結するものである
ことを特徴とする。
第4発明のサンプル採取器は、第3発明において、前記本体部の下部開口部は、該本体部を貫通する貫通孔であって、その中心軸が前記上部開口部の中心軸と平行となるように形成されており、該連結部材が、前記本体部の上下開口部の中心軸と平行になるように配設された軸部材であることを特徴とする。
第5発明のサンプル採取器は、第1発明において、前記本体部が、前記下部弁によって前記内部空間が密封された状態において、該内部空間内を減圧する減圧手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、サンプル採取器を物質中の所定の位置に配置し、離間手段によって下部弁を開いて本体部の内部空間とを連通させれば、下部開口部の位置における物質を内部空間内に回収することができる。また、サンプル採取器を物質中の所定の位置に配置するまでの間は、付勢手段の付勢力により下部弁が本体部の内部空間を密封しており、また、物質を回収後、離間手段の作用を停止すれば、再び付勢手段の付勢力により下部弁が本体部の内部空間を密封することができる。よって、サンプル採取器を物質の所定の位置に配置させたり、また、その位置からサンプル採取器を回収したりするときに、内部空間内に回収した物質が他の位置の物質と置換されたり混合したりすることがないから、採取されたサンプルの正確な調査を行うことができる。
第2発明によれば、上部弁が開けば、本体部の内部空間内の空気を上部開口部から外部に排出することができるから、下部開口部から内部空間への物質の回収を迅速に行うことができる。しかも、上部開口部は下部開口部が開いた後で開くので、上部開口部近傍の物質が内部空間に侵入することを防ぐことができる。
第3発明によれば、上部弁の弁体を移動させるだけで、下部弁の弁体も作動させることができるから、特別な上部弁開閉制御部を設けなくてもよくなるので、採取器の構造を簡単にすることができる。
第4発明によれば、上部弁の弁体と下部弁の弁体を軸部材によって連結しているだけであるから、下部弁を作動させる構造をより簡単な構造とすることができる。
第5発明によれば、減圧手段によって内部空間内が減圧されているので、内部空間内への物質の回収を容易かつ迅速に行うことができる。しかも、下部弁が開けば、内部空間内に物質を吸引するような力を発生させることができるから、流動性の低い物質であっても、より確実かつ迅速に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1(A)は本実施形態のサンプル採取器1の概略説明図であり、(B)は本実施形態のサンプル採取器1によるサンプル採取状況の説明図である。同図に示すように、本実施形態のサンプル採取器1は、略筒状の本体部2を備えている。この本体部2は、その内部が中空な空間(以下、内部空間2hという)になっており、後述するように、その内部空間2h内にスラッジ等の物質を収容できる構造となっている。
この本体部2の下端には、内部空間2hと外部との間を連通する貫通孔である下部開口部2aが形成されており、この下部開口部2aを開閉する下部弁3が設けられている。
一方、本体部2の上端には、内部空間2hと外部との間を連通する貫通孔である上部開口部2bが形成されており、この上部開口部2bを開閉する上部弁4が設けられている。
【0010】
図1において、符号3aは、下部弁3の弁体を示している。この弁体3aは、その下面に外周面から中心軸に向かって傾斜したテーパ面3sが形成されている。一方、下部開口部2aの上端部には、弁座3bが設けられており、この弁座3bには、Oリング等の貫通孔を有するパッキンP2が設けられている。このパッキンP2は、その貫通孔の中心が下部開口部2aの中心軸上に位置するように配設されている。
また、図1に示すように、弁体3aの上面と本体部2の上部内面との間には、例えばバネ等の付勢手段13が設けられている。この付勢手段13は、弁体3aを本体部2の上部内面から離間するように付勢するもの、言い換えれば、弁体3aを弁座3bに向かって接近するように付勢するものである。
すると、弁体3aは、通常、そのテーパ面3sを弁座3bに押し付けられた状態に保持されるから、下部開口部2aは閉じられた状態となる。しかも、弁座3bにはパッキンP2が設けられているから、弁体3aのテーパ面3sとパッキンP2との間が液密・気密に保持され、本体部2の内部空間2hと外部との間が気密・液密に遮断されるのである。
【0011】
なお、パッキンP2は、弁体3aのテーパ面3sが弁座3bに押し付けられたときに、本体部2の内部空間2hと外部との間を液密・気密に保つことができるものであればよく、特に限定されない。
さらになお、付勢手段13はバネに限られず、弁体3aを本体部2の上部内面から離間するように付勢するものであればよく、特に限定されない。例えば、図4に示すように、一対の筒状部材13a,13bを組み合わせて形成されたシリンダ13Bを付勢手段として使用してもよい。この場合、筒状部材13aを筒状部材13bに対して進退可能に挿入しておき、筒状部材13aが筒状部材13bから突出するように付勢するガスやバネ等を筒状部材13b内に封入しておけば、弁体3aを本体部2の上部内面から離間するように付勢しておくことができる。この場合には、シリンダ13Bを複数本、弁体3aを下部開口部2aの中心軸に対して回転対称な位置に配設しておけば、シリンダ13Bから弁体3aに加わる力に偏りが生じず下部弁3の液密性・気密性を高く保つことができるので、好適である。
【0012】
図1に示すように、前記下部弁3の弁体3aの上面には、軸部材である連結部材7の下端が固定されている。この連結部材7は、その中心軸が下部開口部2aの中心軸と同軸となるように配設されている。
【0013】
この連結部材7の上端には、上部弁4の弁体5の下端が連結されている。この弁体5は、柱状の軸部5aと、軸部5aの下端に設けられたテーパ部5bとを備えており、上部開口部2b内に配設されている。
図1に示すように、上部弁4の弁体5の軸部5aは、その断面が上部開口部2bと略相似形であって、かつ、その断面積が上部開口部2bの断面積よりも小さくなるように形成されている。
また、上部弁4の弁体5のテーパ部5bは、軸部5aとの境界5cでは、その断面が軸部5aと同一形状・同一断面積となるように形成されているが、下方に向かうに従って断面積が小さくなるように形成されている。
【0014】
そして、弁体5の側面と上部開口部2bの内面との間には、上部弁4のパッキンP1が設けられている。このパッキンP1は、下部弁3がパッキンP2に押し付けられた状態において、弁体5の軸部5aがパッキンP1の位置に配置された状態、言い換えれば、軸部5aとテーパ部5bの境界5cがパッキンP1よりも下方に位置するように配設されている。
このパッキンP1は、弁体5を上部開口部2bの軸方向(図1では上下方向)に移動可能に保持するものであり、パッキンP1が設けられている位置に弁体5の軸部5aが配置されると軸部5aの外面と上部開口部2bの内面との間を気密・液密に保つが、パッキンP1が設けられている位置に弁体5のテーパ部5bが配置されるとテーパ部5bの外面とパッキンP1との間に隙間ができるように形成されたものである。例えば、パッキンP1としてOリング等を使用する場合には、その貫通孔の断面積が、弁体5の軸部5aの断面積よりは小さいが、テーパ部5bの断面積よりも大きいものが使用される。
【0015】
このため、上部弁4の弁体5の軸部5aをパッキンP1の位置に配置しておけば、パッキンP1と弁体5によって本体部2の内部空間2hと外部との間が気密・液密に遮断しておくことができる。つまり、上部開口部2bを閉じておくことができるのである。
そして、上部弁4の弁体5を移動し、パッキンP1の位置に弁体5のテーパ部5bを配置すれば、言い換えれば、軸部5aとテーパ部5bの境界5cがパッキンP1よりも上方に位置するように弁体5を移動させれば、弁体5のテーパ部5bがパッキンP1の位置に配置され、弁体5とパッキンP1との間に隙間ができる。しかも、この状態では上部弁4の軸部5aと上部開口部2bの内面との間にはパッキンP1が存在しないから、本体部2の内部空間2hと外部との間が連通される。つまり、下部開口部2bを開くことができるのである。
【0016】
なお、パッキンP1は、弁体5を上部開口部2bの軸方向移動可能に保持し、かつ、パッキンP1が設けられている位置に弁体5の軸部5aが配置されると軸部5aの外面と上部開口部2bの内面との間を気密・液密に保つが、パッキンP1が設けられている位置に弁体5のテーパ部5bが配置されるとテーパ部5bの外面とパッキンP1との間に隙間ができるように形成されたものであればよく、特に限定されない。
【0017】
図1に示すように、前記本体部2の上端には、本体部2を吊り下げるためのホルダー2Sが設けられている。このホルダー2Sには、コントロールケーブル10のアウターケーシング11の一端が固定されており、アウターケーシング11内に配設されているケーブル12の一端は、前記上部弁4の弁体5の軸部5a上端に固定されている。
このため、コントロールケーブル10の他端において、ケーブル12の他端を引っ張れば上部弁4の弁体5は上方に引っ張られ、ケーブル12を引っ張る力に応じた量だけ、付勢手段13の付勢力に抗して上方に移動する。連結部材7によって、上部弁4の弁体5と下部弁3の弁体3aは相対的な移動が固定された状態で連結されているので、下部弁3の弁体3aも上部弁4の弁体5とともに上方に移動する。すると、下部弁3の弁体3aが弁座3bに設けられているパッキンP2から離間するから、下部開口部2aを通して本体部2の内部空間2hと外部との間を連通させることができるのである(図2(A))。
【0018】
また、下部弁3の弁体3aが弁座3bに押し付けられている状態では、上部弁4の弁体5の境界5cがパッキンP1よりも下方に位置しているから、下部弁3の弁体3aがパッキンP2から離間しても、しばらくはパッキンP1の位置に上部弁4の弁体5の軸部5aが配置されたままであり、上部開口部2bは閉じられている。
下部弁3の弁体3aがパッキンP2から離間してから、さらに上部弁4の弁体5を上方に移動させれば、やっと弁体5の境界5cがパッキンP1より上方に移動し、弁体5のテーパ部5bがパッキンP1の位置に配置された状態となり、上部開口部2bを通して本体部2の内部空間2hと外部との間が連通される(図2(B))。
つまり、本実施形態のサンプル採取器1は、下部開口部2aが開いた後、上部開口部2bが開くように構成されているのである。
【0019】
なお、パッキンP1は、下部弁3の弁体3aが弁座3bから離間した後、弁体5の境界5cがパッキンP1より上方に移動するような位置に配設されていればよく、採取する物質の種類や粘度、採取する位置における圧力等に合わせて、下部開口部2bと上部開口部2aの開口タイミングのズレが適切なタイミングとなる位置に配設すればよい。
【0020】
さらになお、下部開口部2aと上部開口部2bを開閉させる、下部弁3、上部弁4の構造は上記のごとき形状・構造に限定されず、下部開口部2aが開いてから上部開口部2bが開くように構成されているのであればよい。
例えば、図5に示すように、下部弁3を、その弁体3aが下部開口部2aに挿入離脱可能な形状に形成し、弁体3aが下部開口部2aに挿入されたときに、パッキンP2によって弁体3aの外周面と下部開口部2aの内面との間が気密・液密に保持されるようにしてもよい。
また、図6に示すように、下部弁3の弁体3aと上部弁4の弁体5が一体の略筒状に形成されていてもよい。この場合には、弁体3aと弁体5との間に、弁体5のテーパ部5bのごとき括れ部を設けてもよいし、図6に示すように、弁体の表面から凹んだ溝5hを設けてもよい。すると、テーパ部5bや、溝5hが設けられている位置がパッキンP1の位置に配置されると、上部開口部2bを通して本体部2の内部空間2hと外部との間が連通させることができる。
【0021】
上記のコントロールケーブル10が特許請求の範囲にいう離間手段であり、このコントロールケーブル10、付勢手段13、上部弁4の弁体5、連結部材7が特許請求の範囲にいう下部弁開閉部である。
また、上記のコントロールケーブル10とパッキンP1が特許請求の範囲にいう上部弁開閉制御部である。
【0022】
つぎに、本実施形態のサンプル採取器1によるサンプル採取作業を説明する。
図1(B)において、符号Tは、火力発電所や石油プラント等に設けられている大型オイルタンクを示しており、符号OLは、大型オイルタンクT内に貯蔵されている重油等のオイルを示しており、符号Sは、大型オイルタンクTの底に溜まったスラッジを示している。
【0023】
まず、コントロールケーブル10を繰り出して、サンプル採取器1を大型オイルタンクTに投入し、オイルOL中に浸漬する。すると、サンプル採取器1は自重によってオイルOL中を沈降する。このとき、コントロールケーブル10には、サンプル採取器1の重量が加わるが、コントロールケーブル10のアウターケーシング11内のみを保持しておけば、ケーブル12には力が加わらないので、サンプル採取器1は、下部弁3および上部弁4によって本体部2の下部開口部2aおよび上部開口部2bが閉じられたまま、オイルOL中を沈降する。
【0024】
サンプル採取器1が、所定の深さ、例えば、サンプル採取器1全体がスラッジSに浸漬された状態となるまで沈降すると、コントロールケーブル10のアウターケーシング11を固定して、サンプル採取器1の沈降を停止させる。
なお、サンプル採取器1の位置は、繰り出したコントロールケーブル10の長さにより判断することができる。
【0025】
サンプル採取器1の沈降を停止させ、ついで、コントロールケーブル10のケーブル12を引っ張ると、上部弁4の弁体5が上方に移動し、それとともに、下部弁3の弁体3aも上方に移動する。すると、下部弁3の弁体3aのテーパ面3sがパッキンP2から離間して、下部開口部2aが開口するから、下部開口部2aを通して本体部2の内部空間2hと外部、つまり、タンクT内部が連通される。本体部2の内部空間2hは大気圧であるが、下部開口部2aの位置におけるスラッジSにはタンクT内のオイルOLの圧力が加わっているため、下部開口部2aを通ってスラッジSが本体部2の内部空間2hに流入する(図2(A))。
【0026】
下部開口部2aが開口してからも上部弁4の弁体5および下部弁3の弁体3aを上方に移動させ、上部弁4の弁体5の境界5cがパッキンP1より上方に移動すると、テーパ部5bの外面とパッキンP1との間には隙間ができ、上部開口部2bが開口する(図2(B))。
このとき、スラッジSの流入によって本体部2の内部空間2hの空気は加圧圧縮されており、その圧力が非常に高くなっているため、上部開口部2bが開口しても、上部開口部2bの位置にあるスラッジSは内部空間2h内に流入できず、内部空間2hの空気が上部開口部2bを通って外部に排出される。すると、内部空間2hの空気が減少した分だけ、スラッジSが下部開口部2aから内部空間2h内に流入するから、十分な量のスラッジSを内部空間2h内に収容することができる。
【0027】
十分な量のスラッジSが内部空間2h内に回収されたら、コントロールケーブル10のケーブル12を引っ張る力を除去する。すると、付勢手段13の付勢力によって下部弁3は下方に移動され、その弁体3aのテーパ面3sがパッキンP2に押し付けられ、下部開口部2aは閉じられた状態となる。
このとき、上部弁4の弁体5も下方に移動されるから、上部弁4の軸部5aがパッキンP1の位置まで移動し、上部開口部2bは閉じられた状態となり、再び本体部2の内部空間2h内は外部から気密・液密に遮断される。
最後に、コントロールケーブル10を引き上げれば、サンプル採取器1を回収できる。
【0028】
上記のごとく、本実施形態のサンプル採取器1によれば、サンプル採取器1をタンクT内のオイルOLやスラッジSなどのサンプリングしたい物質中の所定の位置に配置し、コントロールケーブル10を操作して下部弁3を開き、本体部2の内部空間2hと外部との間を連通させれば、下部開口部2aの位置における物質を内部空間2h内に回収することができる。
また、サンプル採取器1が所定の位置に配置するまでの間は、下部弁3および上部弁4によって本体部2の内部空間2hが密封されているから、物質の所定の位置に配置させるまでの間に、本体部2の内部空間2hに物質が侵入することを防ぐことができる。そして、物質を回収後、コントロールケーブル10の操作を停止すれば、再び下部弁3および上部弁4によって本体部2の内部空間2hを密封することができるから、サンプル採取器1を回収したりするときに、本体部2の内部空間2hに回収した物質が他の位置の物質と置換されたり混合したりすることがない。よって、本体部2の内部空間2hに回収された物質の正確な調査を行うことができる。
【0029】
なお、回収する物質がスラッジS等の場合、流動性はあるものの粘性が大きい可能性があり、かかる場合には、下部開口部2aが開口してもスラッジSが本体部2の内部空間2hに流入しなかったり、所定の量を回収するまでの時間が長くなったりする恐れがある。そこで、本体部2に減圧弁等の減圧手段20を設けておき、サンプル採取器1をタンクT内に投入する前に本体部2の内部空間2hを真空状態に近づけておけば、下部開口部2aが開いたときに、本体部2の内部空間2h内にスラッジSなどが吸引されるから、粘性が大きいスラッジS等であっても内部空間2h内への回収を、より確実に、容易かつ迅速に行うことができる。
【0030】
また、付勢手段13にバネを使用した場合には、下部弁3の弁体3aを上方に移動させる量が大きすぎた場合、バネがまっすぐ縮まずにくの字の折れ曲がってしまう可能性がある。そこで、図1に示すように、本体部2の上部内面と下部弁3の弁体3aの上面との間には、リフト量規制部材6を設けておき、下部弁3の弁体3aの上面がリフト量規制部材6と接触するまでしか上昇できないようにしておけば、上記のごとき問題を防ぐことができる。
なお、バネに代えてシリンダ13Bを付勢手段13とすれば、下部弁3の弁体3aを上方に移動させる量が大きすぎても折れ曲がってしまうことがないので、リフト量規制部材6は設けなくてもよい。そして、図6に示すように、下部弁3の弁体3aと上部弁4の弁体5の中間に突起上部7dを設ければ、バネの長さを短くできるから、下部弁3の弁体3aを上方に移動させたときに、バネが折れ曲がることを防ぐことができる。
【0031】
さらに、図3に示すように、本実施形態のサンプル採取器1が、下端部はスラッジSに浸漬されているが、上端部はオイルOL内に位置している場合、下部開口部2aが開口した後上部開口部2bが開口すると内部空間2hの空気が上部開口部2bを通って外部に排出されるが、上部開口部2b付近のオイルOLの方がスラッジSよりも流動性が高いので、下部開口部2aを通って侵入するスラッジSが内部空間2h内を充満するまえに、上部開口部2bを通ってオイルOLが内部空間2h内に侵入してしまう可能性がある。そこで、かかる位置にサンプル採取器1を配置しなければならない場合には、リフト量規制部材6の長さを調整し、下部弁3の弁体3aが、パッキンP2からは離間するが上部開口部2bは開口しない高さまでしか上昇できないようにしておけば、上記の問題が生じることを防ぐことができる。
【0032】
なお、この場合には、上部開口部2bから本体部2の内部空間2h内の空気を排出することができないので、前記減圧手段20を設けておき、本体部2の内部空間2hを真空状態に近づけておけば、スラッジSを確実に回収することができる。
さらになお、上部開口部2bを開かない状態で使用するのであれば、上部開口部2bおよび上部弁4を設けずに、コントロールケーブル10のケーブル12を、直接、本体部2の内部空間2h内において下部弁3の弁体3aの上面に固定してもよい。この場合には、コントロールケーブル10のケーブル12用のケーブル孔を本体部2に設け、このケーブル孔にケーブル12を通すことになるが、ケーブル孔に、本体部2の内部空間2hと外部を液密に遮断でき、しかも、ケーブル12を摺動自在かつ液密に保持することができるパッキンを設ければよい。
【0033】
なお、本実施形態のサンプル採取器1では、下部弁3の弁体3a、上部弁4の弁体5、連結部材7は、その中心軸が同軸上に位置する場合を例示しているが、これらの中心軸は、必ずしも同軸上に位置していなくてもよく、これらの中心軸が互いに平行となるように配設していれば、上部弁4の弁体5および下部弁3の弁体3aに、本実施形態のサンプル採取器1と実質同様の動きをさせることができ、上部開口部2bと下部開口部2aを開閉させることができる。
さらになお、本実施形態では、下部弁3の弁体3aと上部弁4の弁体5との間を軸部材からなる連結部材7によって連結しているが、下部弁3の弁体3aと上部弁4の弁体5を連結する方法は特に限定されず、本実施形態のサンプル採取器1と同様に、上部弁4を移動させるだけで下部弁3も作動させることができる構造とすれば採取器の構造を簡単な構造とすることができるので、好適である。例えば、上部弁4の弁体5を上方に移動させたときに、リンク機構を介して下部弁3の弁体3aが上方に移動するような構造としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のサンプル採取器は、大型オイルタンク内のスラッジ等の採取や地下タンク内に収容されている発電機用燃料油等への混入水の採取、飲料水タンク内のヘドロ等の採取にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(A)は本実施形態のサンプル採取器1の概略説明図であり、(B)は本実施形態のサンプル採取器1によるサンプル採取状況の説明図である。
【図2】サンプル採取時における下部弁3および上部弁4の作動状況を説明した図である。
【図3】他の実施形態のサンプル採取器1の概略説明図である。
【図4】他の実施形態のサンプル採取器1の概略説明図である。
【図5】他の実施形態のサンプル採取器1の概略説明図である。
【図6】他の実施形態のサンプル採取器1の概略説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 サンプル採取器
2 本体部
2a 下部開口部
2b 上部開口部
2h 内部空間
3 下部弁
3a 弁体
4 上部弁
5 弁体
7 連結部材
20 減圧手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性を有する物質中に浸漬され、該物質の採取に使用される採取器であって、
中空な内部空間を有し、下端に外部と前記内部空間とを連通する下部開口部を有する本体部と、
該本体部内に配設されており、該本体部の下部開口部を開閉する下部弁と、
前記下部弁の開閉を制御する下部弁開閉制御部とを備えており、
該下部弁開閉制御部が、
前記下部弁の弁体を、前記本体部の下部開口部を閉じるように付勢する付勢手段と、
外部から力を加えることによって、前記下部弁の弁体を前記本体部の下部開口部が開くように移動させる開口手段とからなり、
前記下部弁によって前記本体部の下部開口部が閉じられると前記内部空間が密封され、該内部空間が密封された状態で物質中に浸漬されるものである
ことを特徴とするサンプル採取器。
【請求項2】
前記本体部が、その上端に外部と前記内部空間とを連通する上部開口部を有しており、
該本体部内に、前記上部開口部を開閉する上部弁と、
前記上部弁の開閉を制御する上部弁開閉制御部とを備えており、
前記上部弁開閉制御部が、
前記下部開口部が開かれた後、前記上部開口部が開くように該上部弁の開閉を制御するものである
ことを特徴とする請求項1記載のサンプル採取器。
【請求項3】
前記本体部の上部開口部は、該本体部を貫通する貫通孔であり、
前記上部弁の弁体が、前記上部開口部に摺動可能、かつ、液密に挿入されており、
前記上部弁の弁体と前記下部弁の弁体とを連結する連結部材が設けられており、
該連結部材は、
前記上部弁の弁体が前記本体部の上部開口部から離脱する方向に移動すると、前記下部弁の弁体が前記下部開口部から離間するように前記上部弁の弁体と前記下部弁の弁体とを連結するものである
ことを特徴とする請求項2記載のサンプル採取器。
【請求項4】
前記本体部の下部開口部は、該本体部を貫通する貫通孔であって、その中心軸が前記上部開口部の中心軸と平行となるように形成されており、
該連結部材が、前記本体部の上下開口部の中心軸と平行になるように配設された軸部材である
ことを特徴とする請求項3記載のサンプル採取器。
【請求項5】
前記本体部が、
前記下部弁によって前記内部空間が密封された状態において、該内部空間内を減圧する減圧手段を備えている
ことを特徴とする請求項1記載のサンプル採取器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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