説明

サーマルプリンタ

【課題】 プラテンとサーマルヘッドとによる押圧を印刷用紙へ均一に付与可能なサーマルプリンタを提供する。
【解決手段】 サーマルプリンタは、印刷用紙21に対して印刷を実行する印刷部7を有するサーマルヘッド6と、印刷部7と対向するように設けられ、印刷用紙21をサーマルヘッド6との間に挟持し、回転することによって印刷用紙21を搬送するプラテンローラ10とを備えている。挟持した印刷用紙21へ押圧を付与するため、プラテンローラ10の円筒内にサーマルヘッド6と平行且つ対向するように固定されている磁気回路部15が、サーマルヘッド6の回路形成部8との間で磁気回路Mを形成し、サーマルヘッド6をプラテンローラ10側へ磁力によって吸引する。磁力による吸引力Fにより、印刷用紙21へ均一な押圧を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用紙へ熱を与え発色させて印刷するサーマルヘッドと、サーマルヘッドと印刷用紙を挟持しつつ搬送するプラテンとを備えるサーマルプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーマルプリンタは、プラテン軸に設けられているプラテンを回転させ、プラテンと印刷用紙との摩擦力によって印刷用紙を搬送している。プラテンと印刷用紙との摩擦力を確保するために、プラテンには、ゴムなどの弾性部材が使用されている。さらに、サーマルヘッドはバネなどの付勢部材によりプラテン側へ加圧されながら、印刷用紙と接触している。この構成において、プラテン軸が回転を開始する場合および回転を停止する場合などに、弾性を有するプラテンの表面が慣性により歪んで、プラテン軸の回転と同期化された回転をしない。そこで、サーマルプリンタには、プラテンの表面に接して回転する回転部材により、印刷用紙を搬送するプラテンの表面の動きを捉え、捉えた動きに基づく印刷用紙の搬送状態を判断しつつ、サーマルヘッドで印刷する機構が用いられている(たとえば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−28632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では、サーマルヘッドによる印刷を、印刷用紙の搬送に同期化させることは可能であるが、濃淡のないより鮮明な印刷を行うために、サーマルヘッドを加圧している所定の位置に配置されたバネの押圧力を調整して、印刷用紙への押圧を印刷用紙の幅方向にほぼ均一に亘り付加することは困難である。また、摩擦力を確保するためにバネ力を増加させると、バネ力のバラツキで弾性部材のプラテンが撓んだ状態となり、押圧がいっそう不均一になる。さらに、プラテンが長尺(印刷用紙の幅が長い)になると、撓みがより顕著となり、鮮明な印刷が得られない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、プラテンとサーマルヘッドとによる押圧を印刷用紙へ均一に付与可能なサーマルプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のサーマルプリンタは、印刷用紙に対して印刷を実行する印刷部を有するサーマルヘッドと、印刷部と対向するように設けられ、印刷用紙をサーマルヘッドとの間に挟持し、回転することによって印刷用紙を搬送する円筒形のプラテンと、プラテンの円筒内にサーマルヘッドと対向するように固定され、サーマルヘッドとの間で磁気回路を形成し、サーマルヘッドをプラテン側へ磁力によって吸引する磁気回路部と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
このサーマルプリンタによれば、磁気回路部がサーマルヘッドとの間で磁気回路を形成し、磁力によってサーマルヘッドを吸引する。磁気回路部は、プラテンの円筒部を挟んでサーマルヘッドの印刷部と対向して設けられており、所定の位置に限らず対向するいずれの部分においても、同じ磁束密度の磁気回路を容易に形成する。そのため、磁気回路部とサーマルヘッドとの間の磁力の強さをほぼ均一に設定することが可能である。従って、サーマルヘッドが磁気回路部によってプラテン側へ吸引されると、装着された印刷用紙の幅に対して、サーマルヘッドの印刷部とプラテンとにより、幅方向に亘りほぼ均一な押圧を付与することが可能である。このように、印刷部と印刷用紙との接触部分がほぼ均一な押圧状態であるため、濃淡のムラ等のない良好な印刷が可能である。
【0008】
この場合、磁気回路部は、磁気回路を形成するための磁石部と、磁石部を略一体に収容する回路フレームと、を有していることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、磁気回路部は、磁気回路を形成すると共に、磁石部を回路フレームへ略一体に収容した構成であり、磁石部単体の磁気回路部より磁石部と回路フレームとが互いに補完し合って剛性を高めることが可能である。従って、歪みや撓み等が生じ難くなり、磁気回路部の全域に渡りプラテンを介してサーマルヘッドとの距離をより均一に保つことが可能である。これにより、磁気回路部とサーマルヘッドとの間の磁力の強さもより均一に設定することが可能である。
【0010】
この場合、サーマルヘッド側には、磁気回路部と対向する位置に、磁気回路を形成するための高透磁材による回路形成部を有することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、サーマルヘッドと磁気回路部とにより磁気回路をより確実に形成するために、サーマルヘッド側にパーマロイなどの高透磁材を用いて回路形成部を設けてある。回路形成部の設置により、回路形成部と磁気回路部とによる磁気回路が安定して形成され、磁気回路部によるサーマルヘッドの吸引がより確実に行われる。
【0012】
この場合、プラテンは、両端部が軸支可能な構成であり非磁性材によって形成されている円筒部と、円筒部の少なくとも一部の印刷用紙を挟持する部分に形成され、印刷用紙に対する摩擦係数が非磁性材より大きい外周面層と、を有することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、プラテンの円筒部は、アルミニウムなどのように両端部が軸支可能な強度を有する非磁性材で形成されており、磁気回路による磁力の影響を受けることなく回転可能である。さらにアルミニウムの円筒部は、強度を有し、変形、撓みなどが生じにくい。また、円筒部の印刷用紙を挟持して接触する面には、外周面層としてゴム等のコーティング層又は円筒層を形成することにより、非磁性材に比べて印刷用紙との摩擦力を増加させることが可能である。コーティング層は、薄い層であり、コーティング層自体の変形等がほとんどなく、プラテンと印刷用紙との摩擦力の増加が図れるだけでなく、確実に印刷用紙の搬送が可能である。
【0014】
この場合、磁気回路部のサーマルヘッドに対向する対向面は、円筒部の内面と摩擦力が生じないように内面に沿って間隙を設けて固定されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、磁気回路部の対向面は、円筒部内面に沿って間隙を有し、プラテンと接することによる摩擦力でプラテンの回転を規制しないように設定されている。磁力の影響の排除に加え、摩擦力の影響も排除して、プラテンへの印刷用紙搬送以外の負荷を軽減可能である。
【0016】
この場合、磁石部が永久磁石、または、電磁石であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、永久磁石を用いることにより、磁気回路を形成して磁力を得るための電気的な付加装置などが不要であり、磁気回路部のコンパクト化およびメンテナンスを容易にすることが可能である。一方、電磁石を用いることにより、磁気回路の形成をオンまたはオフにする制御が可能になり、印刷用紙セット時など磁力の影響を排除した状態で作業などが行える。
【0018】
本発明のサーマルプリンタは、印刷用紙に対して印刷を実行する印刷部を有するサーマルヘッドとの間に印刷用紙を挟持し、回転することによって前記印刷用紙を搬送する円筒形のプラテンと、プラテンの円筒内にサーマルヘッドと対向するように設けられ、サーマルヘッドとの間で磁気回路を形成し、サーマルヘッドをプラテン側へ磁力によって吸引する磁気回路部と、を有するメインフレームと、サーマルヘッドが設けられ、回動可能な状態でメインフレームに軸支されているヘッドフレームと、メインフレームに設けられ、プラテンの両端部を軸支する軸受部と、磁気回路部を軸受部およびプラテンの円筒内を貫通して延在するようにメインフレームに固定する固定部材と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
このサーマルプリンタによれば、印刷用紙をセットしてヘッドフレームを閉じると、ヘッドフレームに設けられているサーマルヘッドが、サーマルヘッドに対向してプラテンの円筒内に固定部材で固定されている磁気回路部の磁力によって吸引される。印刷用紙は、サーマルヘッドが吸引されることによる押圧が付与されて、プラテンへ押し付けられる。サーマルヘッドは、メインフレームに対して回動可能に取り付けられており、主に磁力の強さに応じた押圧を印刷用紙へ付与可能である。そして、磁気回路部は、プラテンを介してサーマルヘッドと対向するいずれの部分においても、同じ磁束密度の磁気回路を形成し、サーマルヘッドとの間の磁力の強さを印刷用紙の幅方向に亘りほぼ均一に設定することが可能である。従って、サーマルヘッドは、印刷用紙に対してほぼ均一な押圧を付与可能である。これによりサーマルヘッドによって濃淡のムラ等のない良好な印刷が可能である。
【0020】
この場合、印刷部と、プラテンと、磁気回路部とは、印刷用紙へ印刷する際に、互いが平行に延在している配置構成であることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、印刷時は、印刷部が磁気回路部へ吸引されることによる押圧によって、印刷用紙をプラテンに押し付けて印刷を行う。押圧は、印刷部を有するサーマルヘッドと回路形成部との間の磁力によるものであり、サーマルヘッドと回路形成部とが平行に配置されていれば、両者間の磁力がほぼ均一となり、印刷用紙への押圧もほぼ均一に付与可能である。また、円筒形のプラテンが印刷部および磁気回路部と平行に配置されることにより、プラテンの回転時に、印刷部または磁気回路部と部分的に接触して回転負荷が増加することを防止可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施形態について、図面に従って説明する。実施形態では、印刷用紙に熱を与え発色させて印刷を行うサーマルヘッドと、サーマルヘッドとの間に印刷用紙を挟持しつつ回転して印刷用紙を搬送するプラテンとを備えたサーマルプリンタを例にして説明する。
(実施形態)
【0023】
図1は、サーマルプリンタの主要部を示す断面図である。サーマルプリンタ1は、メインフレーム2と、ヘッドフレーム3とを備える構成で、ヘッドフレーム3は、ヘッド支持アーム4に支持され、ヘッド支持アーム4は、メインフレーム2に設けられているアーム軸5によって回転可能に軸支されている。図1は、ヘッドフレーム3が閉じられている場合を示している。このヘッドフレーム3には、印刷用紙21へ印刷を行う発熱体から成る印刷部7を有するサーマルヘッド6が設けられており、ヘッドフレーム3が開けられている時に、メインフレーム2とサーマルヘッド6との間に、アーム軸5の方向から感熱式の印刷用紙21を挿入してセットすることが可能である。ヘッドフレーム3の開閉機構は、サーマルプリンタ1が組み込まれる機器に依存するため、図示していない。
【0024】
メインフレーム2は、サーマルヘッド6の印刷部7に対向して配置され、印刷部7と協働して印刷用紙21を挟持する円筒形のプラテンローラ(プラテン)10と、プラテンローラ10に直結するプラテン歯車11と、プラテン歯車11と噛み合う駆動歯車12と、駆動歯車12へ回転力を付与する搬送モータ13と、プラテンローラ10の円筒内に印刷部7と対向するように固定されている磁気回路部15と、サーマルプリンタ1を制御する制御部20とを有する。
【0025】
磁気回路部15は、磁気回路Mを形成するための磁界を発生させるネオジウム磁石(磁石部)17と、ネオジウム磁石17を略一体に収容する回路フレーム16と、回路フレーム16の印刷部7と対向する一端面に形成されているギャップ部18とを有する。また、サーマルヘッド6内に形成されギャップ部18と対向する位置には、磁気回路Mをより確実に形成するためのパーマロイ(高透磁材)の回路形成部8が形成されている。そして、サーマルヘッド6と磁気回路部15との間に存するプラテンローラ10は、磁気回路Mの形成を妨げないように非磁性材であるアルミニウムで形成されている。また、ギャップ部18は、非磁性材であるベリリウム銅(BeCu)によって封止されている。
【0026】
このような構成において、印刷用紙21は、サーマルヘッド6の印刷部7とプラテンローラ10とによって挟持され、挟持された印刷用紙21には押圧が付与される。この押圧は、プラテンローラ10を介して、磁気回路部15とサーマルヘッド6の回路形成部8とで形成される磁気回路Mによる磁力によって、サーマルヘッド6が磁気回路部15へ吸引されることにより生じる。サーマルヘッド6は、磁力によってプラテンローラ10に当接するように吸引され、プラテンローラ10との間に挟持された印刷用紙21へ幅方向に亘り吸引力Fによる押圧を付与する。印刷用紙21は、印刷部7へ押し付けられ、印刷部7が発する熱によって印刷がなされる。印刷後、プラテンローラ10が回転して印刷用紙21を搬送し、順次、次の印刷が行われる。
【0027】
この磁気回路Mの形成について、さらに、詳細に説明する。ネオジウム磁石17は、ネオジウム磁石17のN極からS極の方向に磁界を形成し、磁気回路部15およびサーマルヘッド6の回路形成部8の間においては、N極、回路フレーム16、印刷部7、回路形成部8、回路フレーム16、S極の順にループをなして磁気回路Mを形成する。このため、磁気回路Mが形成される磁気回路部15と回路形成部8には、他部より磁界が集中し、強い磁界により互いに引き付けあう磁力も強いものになる。ネオジウム磁石17を有する磁気回路部15は、この磁力による吸引力Fによって、サーマルヘッド6をプラテンローラ10へ当接するように吸引する。
【0028】
また、磁気回路部15の回路フレーム16による磁気回路は、N極、回路フレーム16、ギャップ部18、回路フレーム16、S極のループとなり、特に、ギャップ部18に磁界が集中して、ギャップ部18近傍における磁力が強力になっている。従って、ギャップ部18に対向させて、サーマルヘッド6の印刷部7を配置することにより、印刷用紙21に印刷を行う印刷部7の部分に、印刷部7をプラテンローラ10へ吸引する磁力が強く作用する構成となる。
【0029】
プラテンローラ10および磁気回路部15と、印刷部7および回路形成部8とは、印刷用紙21に対して対向するように配置されており、いずれの部分の断面も図1に示すような同じ断面である。即ち、プラテンローラ10、磁気回路部15、印刷部7および回路形成部8は、平行に延在している。このような配置により、印刷部7と回路フレーム16との間のギャップ部18近傍での磁力の強さは、プラテンローラ10を介して、いずれの部分においてもほぼ一定であり、印刷用紙21のプラテンローラ10と印刷部7とで挟持されている部分は、ほぼ均一な押圧で印刷部7と接している。従って、印刷部7は、印刷用紙21の各部分に対して同等な熱を付与でき、濃淡の無い鮮明な印刷が可能である。
【0030】
なお、ネオジウム磁石17は、ネオジウム、鉄、ボロンを主成分として成型焼結された磁石であって、割れや欠けが生じ難いため機械加工性に優れ、また、磁気特性が高いため小さいサイズであっても磁力の強い磁石である。
【0031】
次に、このような印刷機構を主要部として備えたサーマルプリンタ1の全体構成について説明する。図2は、サーマルプリンタの外観を示す斜視図である。この斜視図は、ヘッドフレーム3が閉じられている状態を示している。また、図3は、印刷用紙への印刷状態時を示す断面部を含む外観を示す斜視図である。図3の断面部は、図2のA−A’部分の断面である。サーマルプリンタ1は、図2に示すように、U字形のメインフレーム2と、メインフレーム2の立ち上がり部のそれぞれに、ヘッド支持アーム4およびアーム軸5によって、回転可能に取り付けられているヘッドフレーム3とを備えている。ヘッドフレーム3には、図3に示すように、印刷部7を有するサーマルヘッド6が設けられ、サーマルヘッド6は、印刷用紙21の全幅より長く延在している。
【0032】
そして、メインフレーム2は、印刷部7と対向し、印刷部7との間に印刷用紙21を挟持して延在するプラテンローラ10と、プラテンローラ10内部に設けられ印刷部7と対向して延在する磁気回路部15とを有する。また、プラテンローラ10の一端に、搬送モータ13からの回転を伝達するプラテン歯車11が、プラテンローラ10と一体に設けられている。
【0033】
これらプラテンローラ10と磁気回路部15とを、メインフレーム2へ取り付ける工程について説明する。図4は、プラテンローラおよび磁気回路部の組み立て構成を示す斜視図である。メインフレーム2は、U字型をしており、その両立ち上がり部にはプラテンローラ10を軸支する軸受部23、25を有する。軸受部23は、駆動歯車12および搬送モータ13が設けられる側である。また、プラテンローラ10は、軸受部23、25と係合しプラテンローラ10を回転可能にするための軸部22、24を有する。軸部22は、プラテン歯車11が設けられている端部側である。
【0034】
最初に、軸部22と軸受部23および軸部24と軸受部25がそれぞれ係合するように、メインフレーム2へプラテンローラ10を取り付ける。次に、プラテンローラ10の円筒内へ磁気回路部15を挿入し、軸受部23、25を塞ぐように磁気回路部15の両端部へ固定部材19を装着する。固定部材19は、磁気回路部15の断面形状が掘り込まれている凹部を有し、凹部は、磁気回路部15がプラテンローラ10内の印刷部7に対向する位置へ保持可能に形成されている。そして、固定部材19をメインフレーム2へネジ止めして、磁気回路部15を固定する。
【0035】
以上のような構成のサーマルプリンタ1において、印刷用紙21のセット、搬送および印刷の過程について簡単に説明する。まず、図2に示すような閉じられている状態のヘッドフレーム3を開き、印刷用紙21をメインフレーム2のアーム軸5側から挿入し、サーマルヘッド6とプラテンローラ10との間まで引き出してセットする。次に、ヘッドフレーム3を閉じると、印刷用紙21は、サーマルヘッド6の印刷部7とプラテンローラ10とによって押圧を付与され挟持される。挟持された印刷用紙21は、印刷部7によって印刷される。
【0036】
印刷用紙21の全幅に渡り印刷が行われた後、印刷用紙21は、印刷部7とプラテンローラ10とにより狭持された状態のまま、プラテンローラ10の回転により次の印刷位置まで搬送される。プラテンローラ10は、付与されている押圧により、印刷用紙21との間に摩擦力が生じ、プラテンローラ10が回転すると、摩擦力によって印刷用紙21を搬送する。こうして印刷用紙21へ順次印刷が行われる。
【0037】
次に、印刷用紙21へ印刷を行う印刷部7の構成について説明する。図5は、サーマルヘッドの印刷部の詳細を示す断面図である。磁気回路部15のギャップ部18に対向するサーマルヘッド6には、略半円状に突起した印刷部7が配置されている。印刷部7は、磁気回路部15のギャップ部18に対向するように位置し、ヘッドフレーム3に設けられているアルミナ基板32の表面に略半円状に突起して形成されている蓄熱部であるガラス質のグレース33と、グレース33を覆うように形成されている発熱体34と、発熱体34に重ねて形成されている電極35と、印刷用紙21へ熱を付与するため電極35が形成されていない発熱体34の開口部37と、発熱体34および電極35を覆って印刷部7を保護する保護膜36とを有する。
【0038】
印刷部7は、図3に示すように、印刷用紙21の全幅を印刷可能な長さで形成されており、サーマルヘッド6の場合、発熱体34の開口部37が1mmあたり8個設けられている。つまり、各開口部37が1ドットを印刷し、例えば200mm幅の印刷用紙21の一行は、1600個の開口部37によるドットの印刷で構成されている。開口部37が多い印刷部7を用いれば、ドット密度の高い繊細な印刷が可能である。また、略半円状に突起している印刷部7の形状は、突起していない印刷部に比べて印刷用紙21の印刷する部分へ確実に押圧を付与でき、濃淡のバラツキ等の無い優れた品質の印刷が可能である。
【0039】
ここで、印刷部7による印刷の手順を簡単に説明する。サーマルプリンタ1の制御部20は、印刷内容をドットによって印刷するために、印刷部7の該当する発熱体34を所定温度まで発熱させる電圧を電極35へ一定時間印加する。電圧を印加された発熱体34の開口部37からの熱により、印刷用紙21へ1ドットが印刷される。ドットの印刷後、発熱体34への電圧印加が停止され、発熱体34は、冷却される。制御部20は、1600個の発熱体34へ順に電圧を印加する周期を1ミリ秒(ms)として制御でき、1秒間に1000個のドットの印刷が可能である。即ち、200mm幅の印刷用紙21の一行すべてにドットを印刷する時間は、1.6秒であり、1秒間に125mmの印刷が可能なサーマルプリンタ1である。印加周期等は、使用するサーマルヘッド6によって所望の印刷にあったものを選択可能である。
【0040】
そして、印刷用紙21を搬送するプラテンローラ10は、図5に示すように、アルミニウムで形成されている円筒部30と、円筒部30を覆って印刷用紙21と接する面に形成されているゴムのコーティング層31とを有する。円筒部30とコーティング層31とは、共に非磁性材であり、磁気回路部15とサーマルヘッド6の回路形成部8との間に位置しても、磁気回路部15と回路形成部8とによる磁気回路Mの形成を妨げない。ゴムのコーティング層31は、アルミニウムの円筒部30より印刷用紙21に対する摩擦係数が大きく、プラテンローラ10の回転に同期して確実に印刷用紙21を搬送可能である。この場合、コーティング層31の他にゴムから成る薄い円筒状部材でもよい。
【0041】
また、印刷部7に対向する磁気回路部15の一端面である対向面38は、プラテンローラ10の円筒部30の内面に沿って間隙を有して固定されている。この間隙を有することにより、円筒部30の内面と対向面38とは、互いに接触してプラテンローラ10の回転を妨げる摩擦力が生じることがなく、搬送モータ13の負荷増を防ぐことが可能である。
【0042】
次に、サーマルプリンタ1の制御系統について説明する。図6は、サーマルプリンタの制御部の構成を主に示すブロック図である。サーマルプリンタ1は、ホストコンピュータ45などの印刷を指示する装置に接続されており、ホストコンピュータ45は、サーマルプリンタ1で印刷する文書等をアプリケーション等によって作成し、作成した印刷データをサーマルプリンタ1へ送信する。
【0043】
サーマルプリンタ1の制御部20は、ホストコンピュータ45から送信される印刷データを受信する通信インタフェース50と、サーマルプリンタ1を制御するプログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)52と、ホストコンピュータ45から送られて来る印刷データなどを一時的に記憶しておくRAM(Random Access Memory)53と、ROM52に記憶されているプログラムに基づき各種の制御を実行するCPU(Central Processing Unit)51とを有する。ROM52は、プログラム等の書き込みができ、電源がオフ状態であっても、プログラム等を記憶しておくことが可能なフラッシュROMなどであることが好ましい。
【0044】
また、制御部20は、印刷用紙21を搬送するプラテンローラ10を回転させるために駆動歯車12に連結されている搬送モータ13を制御する搬送制御部56と、印刷用紙21に印刷するサーマルヘッド6を制御する印刷制御部57とを有する。印刷制御部57は、サーマルヘッド6に設けられている印刷部7の電極35へ電圧を印加して、発熱体34の発熱および冷却を制御する。発熱体34の温度制御により、印刷用紙21へのドットが均一な濃さで印刷可能である。
【0045】
これら、制御部20を構成する通信インタフェース50、CPU51、ROM52、RAM53、搬送制御部56、印刷制御部57は、バス58を介して相互に接続されている。
【0046】
以上、本発明を具体化したサーマルプリンタ1を例にした実施形態について説明した。この実施形態の効果をまとめて記載する。
【0047】
(1)ネオジウム磁石17を有する磁気回路部15が、プラテンローラ10を介して、対向するサーマルヘッド6との間で均一な磁気回路Mを形成し、磁力によってサーマルヘッド6をプラテンローラ10側へ吸引する。これにより、印刷用紙21に対して、サーマルヘッド6とプラテンローラ10とで印刷用紙21の幅方向に亘りほぼ均一な押圧を付与することが可能である。サーマルヘッド6と印刷用紙21とがほぼ均一な押圧状態であれば、サーマルヘッド6の発熱体34の熱が均一に印刷用紙21へ付与でき、濃淡のムラ等のない良好な印刷が可能である。
【0048】
(2)プラテンローラ10は、非磁性材による円筒形をしており、円筒内部に設けられている磁気回路部15と、円筒外部に設けられているサーマルヘッド6の回路形成部8とが、プラテンローラ10を介して対向する配置であっても、プラテンローラ10の影響を極小にして、磁気回路Mを形成可能である。印刷用紙21を搬送するプラテンローラ10内に、磁気回路部15を形成する構成のため、サーマルプリンタ1のコンパクト化に寄与する。
【0049】
(3)プラテンローラ10を構成するゴムのコーティング層31又は円筒状部材は、アルミニウムの円筒部30より印刷用紙21に対する摩擦係数が大きく、プラテンローラ10の回転に同期して印刷用紙21を搬送可能である。
【0050】
(4)プラテンローラ10の円筒部30は、従来のプラテンより大きな径の円筒形であり、印刷用紙21との接点部が広く安定しており、より確実に印刷用紙21の搬送が可能である。また、アルミニウムの円筒部により剛性を有しており、プラテンローラ10の変形、撓みなどが抑制でき、印刷用紙21により均一な押圧が付与可能である。
【0051】
(5)メインフレーム2の軸受部23、25にプラテンローラ10の両端部22、24が回転可能に軸支され、プラテンローラ10内部を貫通して配置された磁気回路部15が軸受部23、25を塞ぐように設けられている固定部材19によって固定される構成により、プラテンローラ10の回転を妨げることなくプラテンローラ10内部へ磁気回路部15を固定可能である。
【0052】
(6)サーマルヘッド6側にパーマロイ材の回路形成部8を設置することにより、サーマルヘッド6と磁気回路部15とによる磁気回路Mが安定して形成され、磁気回路部15によるサーマルヘッド6の吸引がより確実に行われる。
【0053】
(7)磁気回路部15に永久磁石であるネオジウム磁石17を用いることにより、磁気回路Mを形成して磁力を得るための電気的な付加装置などが不要であり、制御装置類の簡素化が図れる。
【0054】
(8)サーマルヘッド6は、メインフレーム2に対して回動可能なヘッドフレーム3に取り付けられており、サーマルヘッド6の印刷部7の全域においてほぼ均一に作用する磁力による吸引力Fによってプラテンローラ10側へ吸引される。この構成により、サーマルヘッド6は、磁力以外の影響をほぼ排除し吸引力Fによる押圧を印刷用紙21へほぼ均一に付与可能である。
【0055】
(9)円筒形のプラテンローラ10がサーマルヘッド6の印刷部7および磁気回路部15と平行に配置されることにより、プラテンローラ10の回転時に、印刷部7または磁気回路部15と部分的に接触して回転負荷が増加することを防止可能である。
【0056】
(10)サーマルヘッド6の印刷部7の発熱体34形状は、略半円状に突起しており、そのほぼ中央に磁気回路Mを形成することで、発熱体34に接する印刷用紙21の印刷する部分へ確実に押圧を付与でき、濃淡のバラツキ等の無い優れた品質の印刷が可能である。
【0057】
また、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、次のような変形例が挙げられる。
【0058】
(変形例1)磁石部は、永久磁石ではなく、電磁石であっても良い。電磁石を用いても、磁気回路Mの形成が永久磁石と同様に可能である。また、電磁石を用いることにより、磁気回路部15による磁気回路Mの形成をONまたはOFFにする制御が可能であり、磁力の影響を排除して、印刷用紙21のセットなどの作業を行うことが可能になる。この場合、制御部20には、ONまたはOFF可能な磁気発生回路を有し、電磁石に電流を印加する。
【0059】
(変形例2)プラテンローラ10の円筒部30は、アルミニウムなどの非磁性金属だけではなくポリカーボネイトなどの剛性を有するプラスティック材であっても良い。同様に、コーティング層31もゴムに限定されず、円筒部30より印刷用紙21との摩擦係数が大きい材料であれば良い。素材の選択肢が広がり設計の自由度が増す。
【0060】
(変形例3)磁石部に用いる永久磁石は、ネオジウム磁石17だけではなく、フェライト磁石、サマコバ磁石、アルニコ磁石等であっても良い。いずれもネオジウム磁石17に比して磁気特性が若干劣るが、錆びにくく温度特性に優れている。磁石部の構成における永久磁石の選択肢が広がる。
【0061】
(変形例4)サーマルヘッド6の回路形成部8は、印刷部7近傍のアルミナ基板32内に埋め込まれるように形成されているが、アルミナ基板32の表面の一部をなすように形成されていても良い。アルミナ基板32の作成が容易である。また、図5では薄膜タイプのサーマルヘッド6の例を示したが、厚膜タイプでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
サーマルプリンタの利用例として、POS端末に組み込まれて、ホストコンピュータからの印刷命令により、レシート印刷を実行する例、電子黒板に組み込まれて、黒板の記載内容を印刷する例、およびファクシミリに組み込まれて、通信内容の印刷を行う例などが挙げられ、多様な用途に用いられる可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】サーマルプリンタの主要部を示す断面図。
【図2】サーマルプリンタの外観を示す斜視図。
【図3】印刷用紙への印刷状態時を示す断面部を含む外観を示す斜視図。
【図4】プラテンローラおよび磁気回路部の組み立て構成を示す斜視図。
【図5】サーマルヘッドの印刷部の詳細を示す断面図。
【図6】サーマルプリンタの制御部の構成を主に示すブロック図。
【符号の説明】
【0064】
1…サーマルプリンタ、2…メインフレーム、3…ヘッドフレーム、4…ヘッド支持アーム、6…サーマルヘッド、7…印刷部、8…回路形成部、10…プラテンローラ、13…搬送モータ、15…磁気回路部、16…回路フレーム、17…磁石部としてのネオジウム磁石、19…固定部材、20…制御部、21…印刷用紙、22、24…軸部、23、25…軸受部、30…円筒部、31…コーティング層、32…アルミナ基板、33…グレース、34…発熱体、35…電極、36…保護膜、37…開口部、38…対向面、F…吸引力、M…磁気回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷用紙に対して印刷を実行する印刷部を有するサーマルヘッドと、
前記印刷部と対向するように設けられ、前記印刷用紙を前記サーマルヘッドとの間に挟持し、回転することによって前記印刷用紙を搬送する円筒形のプラテンと、
前記プラテンの円筒内に前記サーマルヘッドと対向するように固定され、前記サーマルヘッドとの間で磁気回路を形成し、前記サーマルヘッドを前記プラテン側へ磁力によって吸引する磁気回路部と、を備えていることを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載のサーマルプリンタにおいて、
前記磁気回路部は、前記磁気回路を形成するための磁石部と、
前記磁石部を略一体に収容する回路フレームと、を有していることを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のサーマルプリンタにおいて、
前記サーマルヘッドは、前記磁気回路部と対向する位置に、前記磁気回路を形成するための高透磁材による回路形成部を有することを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のサーマルプリンタにおいて、
前記プラテンは、両端部が軸支可能な構成であり非磁性材によって形成されている円筒部と、
前記円筒部の少なくとも一部の前記印刷用紙を挟持する部分に形成され、前記印刷用紙に対する摩擦係数が前記非磁性材より大きい外周面層と、を有することを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項5】
請求項4に記載のサーマルプリンタにおいて、
前記磁気回路部の前記サーマルヘッドに対向する対向面は、前記円筒部の内面と摩擦力が生じないように前記内面に沿って間隙を設けて固定されていることを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項6】
請求項2に記載のサーマルプリンタにおいて、
前記磁石部が永久磁石であることを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項7】
請求項2に記載のサーマルプリンタにおいて、
前記磁石部が電磁石であることを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項8】
印刷用紙に対して印刷を実行する印刷部を有するサーマルヘッドとの間に前記印刷用紙を挟持し、回転することによって前記印刷用紙を搬送する円筒形のプラテンと、前記プラテンの円筒内に前記サーマルヘッドと対向するように設けられ、前記サーマルヘッドとの間で磁気回路を形成し、前記サーマルヘッドを前記プラテン側へ磁力によって吸引する磁気回路部と、を有するメインフレームと、
前記サーマルヘッドが設けられ、回動可能な状態で前記メインフレームに軸支されているヘッドフレームと、
前記メインフレームに設けられ、前記プラテンの両端部を軸支する軸受部と、
前記磁気回路部を前記軸受部および前記プラテンの円筒内を貫通して延在するように前記メインフレームに固定する固定部材と、を備えていることを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項9】
請求項8に記載のサーマルプリンタにおいて、
前記印刷部と、前記プラテンと、前記磁気回路部とは、前記印刷用紙へ印刷する際に、互いが平行に延在している配置構成であることを特徴とするサーマルプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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