サーマルプリンタ
【課題】解像度の高いサーマルヘッドを使用する場合に、より良質な印字結果が得られるようにする。
【解決手段】グレーズ層114上に発熱抵抗体113が形成されたサーマルヘッド111の姿勢を、グレーズ層114がプラテン121に当接する所定の基準姿勢と、サーマルヘッド111のグレーズ層114よりも用紙搬送方向上流側の部分とプラテン121の軸心を通る水平面との鉛直方向距離を基準姿勢での距離よりも離した傾斜姿勢とに変位させるようにした。
【解決手段】グレーズ層114上に発熱抵抗体113が形成されたサーマルヘッド111の姿勢を、グレーズ層114がプラテン121に当接する所定の基準姿勢と、サーマルヘッド111のグレーズ層114よりも用紙搬送方向上流側の部分とプラテン121の軸心を通る水平面との鉛直方向距離を基準姿勢での距離よりも離した傾斜姿勢とに変位させるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドによって感熱紙に直接印字する又は受容紙に熱転写インクリボンのインクを用いて転写印字するサーマルプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラベルプリンタ等としてサーマルプリンタが広く普及している。サーマルプリンタは、感熱紙にサーマルヘッドを用いて選択的に熱を印加して直接発色させる方式と、サーマルヘッドによって熱転写インクリボンに所定の熱エネルギを加えて受容紙に熱転写インクリボンのインクを熱転写する転写方式とがある。特許文献1には、一つのプリンタに多種のサーマルヘッドを搭載できるようにした技術が開示されている。
【0003】
熱転写プリンタで使用される受容紙および熱転写インクリボンについても、複数種類のものがある。例えば、受容紙としては、一般的な上質紙系、ラフ紙、コート紙等があり、さらに、耐水性の合成紙、PET系、PP系等もある。また、熱転写インクリボンとしては、ワックスを主成分としたワックスインクリボン、耐候性、保存性等を向上させたワックスとレジンとの混合系のセミレジンリボン、耐擦過性、耐溶剤性のレジンリボン等がある。
【0004】
これらは、使用目的に応じて適宜組み合わされる。例えば、安価な印字物を求める場合には、200dpiのサーマルヘッドに、安価なワックスインクリボンと汎用の上質紙系とが組み合わされて使用される。また、ある程度の耐擦過性等を求める場合には、ワックスレジンリボンにコート紙等が組み合わされて使用される。この場合、印字が擦れてしまう判読不能状態となることが嫌われるので、解像度は300dpi程度となる。さらに、耐擦過性等と共に極小サイズを求める場合には、レジンリボンに合成紙等が組み合わされて使用されて、解像度は600dpi程度が要求される。
【0005】
【特許文献1】特開2003−334985公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、サーマルヘッドの解像度が高くなるに従い、グレーズ層の形状は小さくなり発熱抵抗体の長さも短くなる。そのため、サーマルヘッドの発熱抵抗体とプラテンとの接触状態が悪くなり易く、良質な印字結果を得ることが困難になる傾向がある。従来、サーマルヘッドを水平方向に位置調節することで印字画質の最適化が図られているが、このような位置調節では充分な効果は得られていない。
【0007】
本発明の目的は、解像度の高いサーマルヘッドを使用する場合に、より良質な印字結果が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のサーマルプリンタは、グレーズ層上に発熱抵抗体が形成されたサーマルヘッドと、前記グレーズ層に対向配置されて当該グレーズ層との間を用紙が案内されるプラテンと、前記サーマルヘッドを、前記グレーズ層が前記プラテンに当接する所定の基準姿勢と、前記サーマルヘッドの前記グレーズ層よりも用紙搬送方向上流側の部位と前記プラテンの軸心を通る水平面との鉛直方向距離を前記基準姿勢での当該距離よりも離して前記グレーズ層が前記プラテンに当接する傾斜姿勢とに変位させる変位機構と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グレーズ層上に形成された発熱抵抗体とプラテンとの接触状態が良好になるため、解像度の高いサーマルヘッドであっても、より良質な印字結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明の基本的な考え方を熱転写プリンタについて説明する。なお、考え方は感熱紙を用いる直接発色方式と同じである。
【0011】
図6は、サーマルヘッドTHとプラテンPLとの関係を示す模式図である。サーマルヘッドTHの基板部分には、二酸化ケイ素を主成分としたグレーズ層GLが形成されている。そして、グレーズ層GLの表面上には、発熱抵抗体HEが形成されている。発熱抵抗体HEの発熱によって熱転写インクリボンRIのインクが受容紙REに転写される。
【0012】
受容紙REを6インチ/secで搬送してサーマルヘッドTHで印字しようとする場合、1ライン印字する時間は、
サーマルヘッド解像度 1ラインの印字時間
200dpi 0.83msec
300dpi 0.56msec
600dpi 0.28msec
となる。
【0013】
つまり、サーマルヘッドTHの解像度が高くなるに従って1ライン印字する時間が短くなるので、解像度が高くなるに従いサーマルヘッドTHの熱応答性が速いことが必要とされる。そして、サーマルヘッドTHの熱応答性を速くするためには、サーマルヘッドTHのグレーズ層GLの高さや幅を小さくする必要がある。
【0014】
図7は、サーマルヘッドTHを概略的に示す模式図である。図7には、200dpi、300dpi、及び、600dpiのサーマルヘッドTHが示されている。図7に示すように、解像度の違いによってサーマルヘッドTHの発熱抵抗体HEの長さは異なり、また、グレーズ層GL幅も異なる。
【0015】
サーマルヘッドTHの仕様の一例を示すと、
サーマルヘッド グレーズ層 グレーズ層 グレーズ層 発熱抵抗体 印字周期
解像度 幅 高さ 曲率 長さ
(μm) (μm) r(mm) (μm) (msec)
200dpi 1000 40 3.1 132 0.83
300dpi 700 25 2.5 110 0.56
600dpi 500 25 1.3 70 0.28
となる。
【0016】
次に、上記のサーマルヘッドTHを使用した場合の、プラテンPLとの接触ニップ幅を測定した。測定は、グレーズ層GLの表面にインクを塗布し、受容紙REとして上質紙を搬送して削れ量を測定することにより行った。
【0017】
その結果は、
サーマルヘッド ニップ幅 片側の余裕
解像度 (μm) (μm)
200dpi 370 119
300dpi 267 79
600dpi 168 49
となった。
【0018】
ここで、「片側の余裕」とは、ニップ幅から発熱抵抗体HEの長さを引いた片側あたりの長さを示す(つまり、片側の余裕=(ニップ幅−発熱抵抗体長さ)/2)。
【0019】
上記の結果から解像度が高くなるに従い、サーマルヘッドTHの当たりは厳しくなり、プラテンPLとの当たり関係は、公差を厳しくしなければならないことがわかる。
【0020】
次に、図7で示した3種類の解像度のサーマルヘッドTHを一台の熱転写プリンタに載せ変えて、印字画質評価のための第1の試験を行った。
【0021】
図8は、第1の試験状態を示す模式図である。印字画質が最高点になる調整位置からサーマルヘッドTHをプラス方向(図8中左方向)と、マイナス方向(図8中右方向)とに0.1mmずつ変化させて、最高点の印字画質を100点満点として印字画質を評価した。評価結果を図9に示す。
【0022】
図9は、第1の試験の評価結果を示すグラフである。図9に示すグラフから、サーマルヘッドTHの解像度が高く、グレーズ層GLの幅が小さい(曲率が小さい)方が、サーマルヘッドTHの位置変化によるマージンが狭くなり、プラス方向及びマイナス方向への位置調整が困難になることがわかる。
【0023】
また、図9に示すグラフから、サーマルヘッドTHをプラテンPLの位置に対してわずかにマイナス方向(図8中右方向)に位置調整した方が、印字画質のマージンがあることがわかる。
【0024】
以上のことから、同じひとつの熱転写プリンタ(即ち、プラテンPLの径、プラテンPLの硬度、及び、サーマルヘッドTHの押圧力が同じ場合)であっても、搭載するサーマルヘッドTHのグレーズ層GLの幅、グレーズ層GLの高さ、及び、発熱抵抗体HEの長さが異なるとニップ幅が変わり、印字画質が好適な位置も変化することがわかる。
【0025】
次に、サーマルヘッドTHを一台の熱転写プリンタに水平方向以外に変位させて搭載して、印字画質評価のための第2の試験を行った。
【0026】
図10は、第2の試験状態を示す模式図である。図10中では、受容紙REと熱転写インクリボンRIとを省略して示している。
【0027】
第2の試験は、まず、グレーズ層GLがプラテンPLに当接するサーマルヘッドTHの姿勢を基準姿勢とし、サーマルヘッドTHをこの基準姿勢から用紙排出方向に傾けた姿勢(傾斜姿勢)にして印字画質を評価することにより行った。つまり、傾斜姿勢は、グレーズ層GLがプラテンPLに当接している姿勢であって、さらに、サーマルヘッドTHのグレーズ層GLよりも用紙搬送方向上流側の所定の部位とプラテンPLの軸心を通る水平面との鉛直方向距離が、基準姿勢でのこの距離よりも遠くなった姿勢である。
【0028】
第2の試験は、基準姿勢でのサーマルヘッドTHを通る水平な基準面を設定し、そして、基準姿勢での基準面と傾斜姿勢での基準面とによって形成される角度が、0度、1度、2度、3度となるようにして行った。以下、この角度をヘッド角度と称することがある。ヘッド角度=0度は、基準姿勢であることを示す。
【0029】
そして、第2の試験では、各々のヘッド角度で、所定の熱転写インクリボンRIと受容紙REとの組合せ「A」「B」「C」「D」についての印字画質を評価した。評価結果を図11に示す。
【0030】
図11は、第2の試験の評価結果を示すグラフである。図11に示すグラフから、いずれの組合せについても、ヘッド角度が1度から2度の範囲内が最も良好な印字画質が得られたことがわかる。
【0031】
特に、図11に示すように、印字画質が他の組合せ(「A」「B」「C」)よりも劣る「D」の組合せでは、サーマルヘッドTHの角度が2度近辺で、格段の印字画質の向上が見られたことがわかる。
【0032】
以上のことから、サーマルヘッドTHの種類によっては、ヘッド角度をつけた方が、印字画質が良好となる場合があることがわかる。
【0033】
図12は、ヘッド角度がついた状態のサーマルヘッドTHとプラテンPLとを拡大して示す側面図である。なお、熱転写インクリボンRIについて省略している。
【0034】
図12に示すように、受容紙REの搬送のために回転運動するプラテンPLは、サーマルヘッドTHのグレーズ層GLによって受容紙REを介して押圧されている。これにより、プラテンPLは、グレーズ層GLとの当接開始部分で盛り上がり(盛上部分PLa)、グレーズ層GLの形状に従い傾斜し(傾斜部分PLb)、さらに、排出される受容紙REに押圧されて平坦となっている(平坦部分PLc)と考えられる。
【0035】
このようにヘッド角度がついた状態では、グレーズ層GLは、プラテンPLの傾斜部分PLbに食い込むようにして当接しているものと考えられる。これにより、発熱抵抗体HEとプラテンPLとの接触状態が良好になり、印字画質が向上するものと考察される。
【0036】
本発明は、以上の知見に基づくものである。次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0037】
[第1の実施形態]
まず、本発明の第1の実施の形態について図1ないし図3に基づいて説明する。
【0038】
図1は、熱転写プリンタ101を概略的に示す断面図である。熱転写プリンタ101では、熱転写インクリボン131と受容紙141とが搬送されて、ヘッド保持部を構成するブラケット112に保持されたサーマルヘッド111と、回転自在に保持されたプラテン121との間を案内される。サーマルヘッド111は、発熱抵抗体113が頂点部に形成されたグレーズ層114を有する。グレーズ層114とプラテン121とは対向配置されている。サーマルヘッド111は、ブラケット112と共に付勢部材117によってプラテン121に向けて押圧されている。
【0039】
受容紙141は、受容紙が巻回されて形成された受容紙ロール142から、受容紙供給ローラ143及びプラテン121によって搬送力を受けて搬送される。
【0040】
熱転写インクリボン131は、インクリボンが巻回されて形成されたインクリボンローラ132から、インクリボン案内ローラ133により搬送力を受けてプラテン121上を受容紙141と同じ速度で搬送される。熱転写インクリボン131は、後述するように受容紙141に熱転写された後に、インクリボン巻取ローラ134に巻き取られて回収される。
【0041】
そして、サーマルヘッド111が通電されて発熱抵抗体113が発熱すると、サーマルヘッド111から熱転写インクリボン131に熱エネルギが印加され、受容紙141に熱転写インクリボン131のインクが転写される。このようにして印字が行われる。インクが熱転写された受容紙141は、図示しない切断機構で所定の長さに切断され印刷物として排出される。
【0042】
図2は、第1の実施の形態のサーマルヘッド111とブラケット112とを示す側面図である。サーマルヘッド111は、ネジ115によって固定されてブラケット112に保持されている。そして、図2に示すように、サーマルヘッド111が固定されているブラケット112の用紙排出方向の上流側の端部には、プラテン121(図1及び図3参照)の軸心と平行なシャフト151がブラケット112に対して回転自在に設けられている。シャフト151の両端部には、角丸の長方形状を有する一対の回転体152が固定されている。図2中では、シャフト151の両端部に設けられた回転体152のうち、一方のみを示している(図3及び図4も同様)。
【0043】
図3は、第1の実施の形態におけるヘッド角度の変化状態を示す側面図である。ブラケット112の用紙排出方向の上流側の端部の位置には、回転体152を所定の回転位置で保持するための回転体保持部153が配置されている。回転体保持部153は、シャフト151の両端に一対で設けられた回転体152に対応させた位置に一対で設けられている。なお、図3中では、回転体保持部153の一方のみを示している。
【0044】
回転体保持部153の上面には、回転体152の長手方向の長さを有する上段溝154が形成されている。そして、回転体保持部153における上段溝154の下方位置には、この上段溝154に連続させて下段溝155が形成されている。下段溝155の長さは上段溝154よりも短くなっており、回転体152の短手方向の長さを有する。
【0045】
このため、図3(a)に示すように、回転体152は、立てられた状態(長手方向を垂直にした状態)で回転体保持部153の下段溝155に嵌まり込んで位置保持される。このとき、サーマルヘッド111は、基準姿勢となっており、ヘッド角度は0度である。
【0046】
一方、図3(b)に示すように、回転体152は、寝かせられた状態(長手方向を水平にした状態)で回転体保持部153の上段溝154に嵌まり込んで位置保持される。下段溝155は上段溝154よりも狭いため、回転体152は、上段溝154に嵌まり込んだ状態では、下段溝155に落ち込むようなことはない。
【0047】
ここで、シャフト151の中心であるシャフト中心151aと、回転体保持部153の底面であるカム保持部底面153aとの距離Dについて説明する。図3(b)に示すように、回転体152が上段溝154に嵌まり込んだ状態での距離D(距離Db)は、図3(a)に示すように、回転体152が立てられて下段溝155に嵌まり込んだ状態での距離D(距離Da)よりも長い。
【0048】
そして、図3(b)に示すように、回転体152を回転体保持部153の上段溝154に保持させた状態にすると、ブラケット112(サーマルヘッド111)の先端位置は同じであるのに対して、距離Dが長くなるので(距離Da<距離Db)、シャフト中心151aの位置は上昇する。これにより、サーマルヘッド111は、傾斜姿勢となる。こうして、サーマルヘッド111にヘッド角度がつく。
【0049】
このとき、図3(b)に示す状態におけるヘッド角度は、1度以上2度以下である。これにより、良質な印字結果を得ることが可能となる。
【0050】
そして、第1の実施形態によれば、ヘッド角度をつけた場合での印字結果が良質でない場合に、ヘッド角度を0度に戻すことも可能となる。つまり、本実施の形態では、印字に適したヘッド角度を選択することができる。
【0051】
ところで、従来は、商品要望毎に熱転写プリンタ101を開発していた。つまり、ユーザが要求する受容紙141、熱転写インクリボン131、サーマルヘッド111の解像度の組合せに応じて、試作、評価、及び、量産試作を経て、熱転写プリンタ101が量産されていた。そして、熱転写プリンタ101の仕様が異なる場合には、その仕様に応じた熱転写プリンタ101を一から開発を行っていた。そのため、開発期間の長期化、開発コスト増、商品価格アップ等を招いていた。
【0052】
しかしながら、第1の実施形態によれば、熱転写プリンタ101に搭載されるサーマルヘッド111のヘッド角度を、良好な印字結果が得られる角度にすることができるので、サーマルヘッド111の他の筐体等の各部を共通化させて熱転写プリンタ101を開発することができる。これにより、熱転写プリンタ101の開発期間を短くしたり、開発コストを大幅に削減したりすることができる。
【0053】
なお、サーマルヘッド111の種類によって印加エネルギが異なるため、如何なる解像度のサーマルヘッド111が搭載されたのかについては、熱転写プリンタ101が認識する必要がある。このようなサーマルヘッド111の認識手段としては、例えば、コネクタピンを2ピン認識用として、1ピン2ピンともにGND接続の場合は200dpi、1ピンがGND接続で2ピンがオープンの場合は300dpi、1ピンがオープンで2ピンがGND接続の場合は600dpi、というようにする。これにより、熱転写プリンタ101の制御部は、搭載されたサーマルヘッド111の種類を認識することができる。
【0054】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について図4に基づいて説明する。
【0055】
図4は、第2の実施の形態のサーマルヘッド111とブラケット112とを示す側面図である。図1ないし図3に基づいて説明した第1の実施の形態と同一の部分については同一の符号で示し、その説明も省略する。
【0056】
本実施の形態では、図4に示すように、ブラケット112におけるサーマルヘッド111が取り付けられる面(以下、ヘッド取付面112aとする)に、厚みを有するヘッド取付面部材116が取付自在となっている。ここで、ヘッド取付面112aには凹部112bが形成されていて、ヘッド取付面部材116には、この凹部112bに嵌まり込む形状の凸部116aが一体的に設けられている。そして、ヘッド取付面部材116の凸部116aがヘッド取付面112aの凹部112bに圧入されることによって、ヘッド取付面部材116はヘッド取付面112aに対して取り付けられる。
【0057】
図4に示すように、ヘッド取付面112aにヘッド取付面部材116が取り付けられた状態で、さらに、サーマルヘッド111をネジ115によって固定させてブラケット112に保持させることにより、本実施の形態のサーマルヘッド111は、ヘッド角度がついた状態となる。図4に示す状態におけるヘッド角度は、1度以上2度以下である。これにより、良質な印字結果を得ることが可能となる。
【0058】
また、第2の実施形態では、厚みを異ならせた別のヘッド取付面部材116をヘッド取付面112aに取り付けることによって、複数種類のヘッド角度とすることができる。
【0059】
そして、第2の実施形態でも、ヘッド角度をつけた場合での印字結果が良質でない場合に、ヘッド角度を0度に戻すことも可能となる。その場合、ヘッド取付面部材116をブラケット112から取り外した状態にして、サーマルヘッド111のヘッド取付面112a側の面全体をヘッド取付面112aに接触させて、ネジ115によって固定する。つまり、本実施の形態では、適したヘッド角度を選択することができる。
【0060】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について図5に基づいて説明する。
【0061】
図5は、第3の実施の形態のサーマルヘッド111とブラケット112とを示す側面図である。図1ないし図3に基づいて説明した第1の実施形態及び図4に基づいて説明した第2の実施形態と同一の部分については同一の符号で示し、その説明も省略する。
【0062】
本実施の形態では、ヘッド取付面112aがプラテン121の中心を通る水平線に対して用紙排出方向に傾いている。この傾きは、1度以上2度以下である。そして、本実施の形態のブラケット112にサーマルヘッド111を保持させることにより、サーマルヘッド111にはヘッド角度がつくことになる。このとき、ヘッド角度は、1度以上2度以下となる。これにより、本実施の形態によっても、良質な印字結果が得られることになる。
【0063】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について図13に基づいて説明する。
【0064】
図13は、第4の実施の形態を示す側面図である。第4の実施形態は、第1の実施形態(図3等参照)のように、サーマルヘッド111の姿勢だけではなく、サーマルヘッド111とプラテン121との用紙搬送方向の位置関係をも最適化するものである。なお、サーマルヘッド111の角度を1度〜2度傾けることにより良質な印字結果が得られることは上述した。
【0065】
図13(a)は、サーマルヘッド111の傾斜角度が0°であって、タグ紙(受容紙又は感熱紙がタグ紙の場合)が使用される場合を示す。傾斜角度が0°の場合には、前述したように回転体152は縦長にされて回転体保持部153の下段溝155にセットされ、発熱抵抗体113(図13中図示せず)は、プラテン121のセンター位置に位置している。
【0066】
そして、図13(b)に示すように、良質な印字結果を得るために、回転体152を横長にして回転体保持部153の上段溝154にセットする。すると、サーマルヘッド111の傾斜角度が2°にされる。ここで、上段溝154は、シャフト151の位置が距離Δyだけ用紙排出方向にシフトするように設けられている。そして、シャフト151の位置が距離Δyだけ用紙排出方向にシフトすると、発熱抵抗体113の位置はプラテン121のセンターに対して距離Δy1だけシフトする。大阪シーリング印刷株式会社製のタグ紙(IS160)を使用した場合、発熱抵抗体113のシフト距離Δy1が0mm〜0.4mm程度の場合に比較的良い印字結果が得られ、0.25mm程度が最適であった。この数値はサーマルヘッド111の傾斜角度にもよる。例えば、傾斜角度が1°の場合、発熱抵抗体113のシフト距離Δy1は、−0.1〜+0.3mm程度が良好であり、0.1mm程度がより好ましかった。傾斜角度が0°の場合は±0.2mm程度が良好であり、0mmがより好ましかった。そして、シャフト151のシフト距離Δyについては、このような発熱抵抗体113のシフト距離Δy1となる値にすれば良いことになる。
【0067】
図14は、第4の実施の形態を説明する模式図である。図14に基づいて、回転体152が上段溝154にセットされた場合と回転体152が下段溝155にセットされた場合とについて説明する。シャフト151から発熱抵抗体113までの長さをRとする。また、シャフト151と発熱抵抗体113とを結ぶ線が、発熱抵抗体113を接点としたプラテン121の接線に対してなす角度をθとする。さらに、回転体152が横長にされた場合のサーマルヘッド111の傾斜角度を2°とする。発熱抵抗体113がプラテン121に当たる位置が不変であるとすると、シャフト151のY方向(図13参照)へのシフトは、距離Δy=R(cosθ−cos(θ+2°))だけ必要とされる。そして、前述したように、タグ紙を使用する場合には、発熱抵抗体113のシフト距離Δy1が0mm〜0.4mm程度である場合に印字結果が良好であるので、シャフト151が距離Δyだけシフトし、更に用紙排出方向に所定距離(距離αとする)だけシフトした位置に位置付けられるように上段溝154を設ける。具体的には、距離αが+0.25mmの場合に最適となった。ラベルを使用する場合は、タグ紙を使用する場合とは異なり、距離αが−0.3mm〜+0.1mmの範囲である場合が好ましく、0mm付近である場合がより好ましかった。印字結果が良好となる距離αについては、サーマルヘッド111の圧力や角度に応じて変化させる。なお、熱転写の場合であっても感熱紙の場合であっても、同様である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】熱転写プリンタを概略的に示す断面図である。
【図2】第1の実施の形態のサーマルヘッドとブラケットとを示す側面図である。
【図3】第1の実施の形態におけるヘッド角度の変化状態を示す側面図である。
【図4】第2の実施の形態のサーマルヘッドとブラケットとを示す側面図である。
【図5】第3の実施の形態のサーマルヘッドとブラケットとを示す側面図である。
【図6】サーマルヘッドとプラテンとの関係を示す模式図である。
【図7】サーマルヘッドを概略的に示す模式図である。
【図8】第1の試験状態を示す模式図である。
【図9】第1の試験の評価結果を示すグラフである。
【図10】第2の試験状態を示す模式図である。
【図11】第2の試験の評価結果を示すグラフである。
【図12】ヘッド角度がついた状態のサーマルヘッドとプラテンとを拡大して示す側面図である。
【図13】第4の実施の形態を示す側面図である。
【図14】第4の実施の形態を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0069】
101…熱転写プリンタ、112…ブラケット(ヘッド保持部)、112a…ヘッド取付面、113…発熱抵抗体(発熱抵抗体)、114…グレーズ層、116…ヘッド取付面部材、121…プラテン、131…熱転写インクリボン、141…受容紙(用紙)、151…シャフト、152…回転体、153…回転体保持部、154…上段溝、155…下段溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドによって感熱紙に直接印字する又は受容紙に熱転写インクリボンのインクを用いて転写印字するサーマルプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラベルプリンタ等としてサーマルプリンタが広く普及している。サーマルプリンタは、感熱紙にサーマルヘッドを用いて選択的に熱を印加して直接発色させる方式と、サーマルヘッドによって熱転写インクリボンに所定の熱エネルギを加えて受容紙に熱転写インクリボンのインクを熱転写する転写方式とがある。特許文献1には、一つのプリンタに多種のサーマルヘッドを搭載できるようにした技術が開示されている。
【0003】
熱転写プリンタで使用される受容紙および熱転写インクリボンについても、複数種類のものがある。例えば、受容紙としては、一般的な上質紙系、ラフ紙、コート紙等があり、さらに、耐水性の合成紙、PET系、PP系等もある。また、熱転写インクリボンとしては、ワックスを主成分としたワックスインクリボン、耐候性、保存性等を向上させたワックスとレジンとの混合系のセミレジンリボン、耐擦過性、耐溶剤性のレジンリボン等がある。
【0004】
これらは、使用目的に応じて適宜組み合わされる。例えば、安価な印字物を求める場合には、200dpiのサーマルヘッドに、安価なワックスインクリボンと汎用の上質紙系とが組み合わされて使用される。また、ある程度の耐擦過性等を求める場合には、ワックスレジンリボンにコート紙等が組み合わされて使用される。この場合、印字が擦れてしまう判読不能状態となることが嫌われるので、解像度は300dpi程度となる。さらに、耐擦過性等と共に極小サイズを求める場合には、レジンリボンに合成紙等が組み合わされて使用されて、解像度は600dpi程度が要求される。
【0005】
【特許文献1】特開2003−334985公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、サーマルヘッドの解像度が高くなるに従い、グレーズ層の形状は小さくなり発熱抵抗体の長さも短くなる。そのため、サーマルヘッドの発熱抵抗体とプラテンとの接触状態が悪くなり易く、良質な印字結果を得ることが困難になる傾向がある。従来、サーマルヘッドを水平方向に位置調節することで印字画質の最適化が図られているが、このような位置調節では充分な効果は得られていない。
【0007】
本発明の目的は、解像度の高いサーマルヘッドを使用する場合に、より良質な印字結果が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のサーマルプリンタは、グレーズ層上に発熱抵抗体が形成されたサーマルヘッドと、前記グレーズ層に対向配置されて当該グレーズ層との間を用紙が案内されるプラテンと、前記サーマルヘッドを、前記グレーズ層が前記プラテンに当接する所定の基準姿勢と、前記サーマルヘッドの前記グレーズ層よりも用紙搬送方向上流側の部位と前記プラテンの軸心を通る水平面との鉛直方向距離を前記基準姿勢での当該距離よりも離して前記グレーズ層が前記プラテンに当接する傾斜姿勢とに変位させる変位機構と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グレーズ層上に形成された発熱抵抗体とプラテンとの接触状態が良好になるため、解像度の高いサーマルヘッドであっても、より良質な印字結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明の基本的な考え方を熱転写プリンタについて説明する。なお、考え方は感熱紙を用いる直接発色方式と同じである。
【0011】
図6は、サーマルヘッドTHとプラテンPLとの関係を示す模式図である。サーマルヘッドTHの基板部分には、二酸化ケイ素を主成分としたグレーズ層GLが形成されている。そして、グレーズ層GLの表面上には、発熱抵抗体HEが形成されている。発熱抵抗体HEの発熱によって熱転写インクリボンRIのインクが受容紙REに転写される。
【0012】
受容紙REを6インチ/secで搬送してサーマルヘッドTHで印字しようとする場合、1ライン印字する時間は、
サーマルヘッド解像度 1ラインの印字時間
200dpi 0.83msec
300dpi 0.56msec
600dpi 0.28msec
となる。
【0013】
つまり、サーマルヘッドTHの解像度が高くなるに従って1ライン印字する時間が短くなるので、解像度が高くなるに従いサーマルヘッドTHの熱応答性が速いことが必要とされる。そして、サーマルヘッドTHの熱応答性を速くするためには、サーマルヘッドTHのグレーズ層GLの高さや幅を小さくする必要がある。
【0014】
図7は、サーマルヘッドTHを概略的に示す模式図である。図7には、200dpi、300dpi、及び、600dpiのサーマルヘッドTHが示されている。図7に示すように、解像度の違いによってサーマルヘッドTHの発熱抵抗体HEの長さは異なり、また、グレーズ層GL幅も異なる。
【0015】
サーマルヘッドTHの仕様の一例を示すと、
サーマルヘッド グレーズ層 グレーズ層 グレーズ層 発熱抵抗体 印字周期
解像度 幅 高さ 曲率 長さ
(μm) (μm) r(mm) (μm) (msec)
200dpi 1000 40 3.1 132 0.83
300dpi 700 25 2.5 110 0.56
600dpi 500 25 1.3 70 0.28
となる。
【0016】
次に、上記のサーマルヘッドTHを使用した場合の、プラテンPLとの接触ニップ幅を測定した。測定は、グレーズ層GLの表面にインクを塗布し、受容紙REとして上質紙を搬送して削れ量を測定することにより行った。
【0017】
その結果は、
サーマルヘッド ニップ幅 片側の余裕
解像度 (μm) (μm)
200dpi 370 119
300dpi 267 79
600dpi 168 49
となった。
【0018】
ここで、「片側の余裕」とは、ニップ幅から発熱抵抗体HEの長さを引いた片側あたりの長さを示す(つまり、片側の余裕=(ニップ幅−発熱抵抗体長さ)/2)。
【0019】
上記の結果から解像度が高くなるに従い、サーマルヘッドTHの当たりは厳しくなり、プラテンPLとの当たり関係は、公差を厳しくしなければならないことがわかる。
【0020】
次に、図7で示した3種類の解像度のサーマルヘッドTHを一台の熱転写プリンタに載せ変えて、印字画質評価のための第1の試験を行った。
【0021】
図8は、第1の試験状態を示す模式図である。印字画質が最高点になる調整位置からサーマルヘッドTHをプラス方向(図8中左方向)と、マイナス方向(図8中右方向)とに0.1mmずつ変化させて、最高点の印字画質を100点満点として印字画質を評価した。評価結果を図9に示す。
【0022】
図9は、第1の試験の評価結果を示すグラフである。図9に示すグラフから、サーマルヘッドTHの解像度が高く、グレーズ層GLの幅が小さい(曲率が小さい)方が、サーマルヘッドTHの位置変化によるマージンが狭くなり、プラス方向及びマイナス方向への位置調整が困難になることがわかる。
【0023】
また、図9に示すグラフから、サーマルヘッドTHをプラテンPLの位置に対してわずかにマイナス方向(図8中右方向)に位置調整した方が、印字画質のマージンがあることがわかる。
【0024】
以上のことから、同じひとつの熱転写プリンタ(即ち、プラテンPLの径、プラテンPLの硬度、及び、サーマルヘッドTHの押圧力が同じ場合)であっても、搭載するサーマルヘッドTHのグレーズ層GLの幅、グレーズ層GLの高さ、及び、発熱抵抗体HEの長さが異なるとニップ幅が変わり、印字画質が好適な位置も変化することがわかる。
【0025】
次に、サーマルヘッドTHを一台の熱転写プリンタに水平方向以外に変位させて搭載して、印字画質評価のための第2の試験を行った。
【0026】
図10は、第2の試験状態を示す模式図である。図10中では、受容紙REと熱転写インクリボンRIとを省略して示している。
【0027】
第2の試験は、まず、グレーズ層GLがプラテンPLに当接するサーマルヘッドTHの姿勢を基準姿勢とし、サーマルヘッドTHをこの基準姿勢から用紙排出方向に傾けた姿勢(傾斜姿勢)にして印字画質を評価することにより行った。つまり、傾斜姿勢は、グレーズ層GLがプラテンPLに当接している姿勢であって、さらに、サーマルヘッドTHのグレーズ層GLよりも用紙搬送方向上流側の所定の部位とプラテンPLの軸心を通る水平面との鉛直方向距離が、基準姿勢でのこの距離よりも遠くなった姿勢である。
【0028】
第2の試験は、基準姿勢でのサーマルヘッドTHを通る水平な基準面を設定し、そして、基準姿勢での基準面と傾斜姿勢での基準面とによって形成される角度が、0度、1度、2度、3度となるようにして行った。以下、この角度をヘッド角度と称することがある。ヘッド角度=0度は、基準姿勢であることを示す。
【0029】
そして、第2の試験では、各々のヘッド角度で、所定の熱転写インクリボンRIと受容紙REとの組合せ「A」「B」「C」「D」についての印字画質を評価した。評価結果を図11に示す。
【0030】
図11は、第2の試験の評価結果を示すグラフである。図11に示すグラフから、いずれの組合せについても、ヘッド角度が1度から2度の範囲内が最も良好な印字画質が得られたことがわかる。
【0031】
特に、図11に示すように、印字画質が他の組合せ(「A」「B」「C」)よりも劣る「D」の組合せでは、サーマルヘッドTHの角度が2度近辺で、格段の印字画質の向上が見られたことがわかる。
【0032】
以上のことから、サーマルヘッドTHの種類によっては、ヘッド角度をつけた方が、印字画質が良好となる場合があることがわかる。
【0033】
図12は、ヘッド角度がついた状態のサーマルヘッドTHとプラテンPLとを拡大して示す側面図である。なお、熱転写インクリボンRIについて省略している。
【0034】
図12に示すように、受容紙REの搬送のために回転運動するプラテンPLは、サーマルヘッドTHのグレーズ層GLによって受容紙REを介して押圧されている。これにより、プラテンPLは、グレーズ層GLとの当接開始部分で盛り上がり(盛上部分PLa)、グレーズ層GLの形状に従い傾斜し(傾斜部分PLb)、さらに、排出される受容紙REに押圧されて平坦となっている(平坦部分PLc)と考えられる。
【0035】
このようにヘッド角度がついた状態では、グレーズ層GLは、プラテンPLの傾斜部分PLbに食い込むようにして当接しているものと考えられる。これにより、発熱抵抗体HEとプラテンPLとの接触状態が良好になり、印字画質が向上するものと考察される。
【0036】
本発明は、以上の知見に基づくものである。次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0037】
[第1の実施形態]
まず、本発明の第1の実施の形態について図1ないし図3に基づいて説明する。
【0038】
図1は、熱転写プリンタ101を概略的に示す断面図である。熱転写プリンタ101では、熱転写インクリボン131と受容紙141とが搬送されて、ヘッド保持部を構成するブラケット112に保持されたサーマルヘッド111と、回転自在に保持されたプラテン121との間を案内される。サーマルヘッド111は、発熱抵抗体113が頂点部に形成されたグレーズ層114を有する。グレーズ層114とプラテン121とは対向配置されている。サーマルヘッド111は、ブラケット112と共に付勢部材117によってプラテン121に向けて押圧されている。
【0039】
受容紙141は、受容紙が巻回されて形成された受容紙ロール142から、受容紙供給ローラ143及びプラテン121によって搬送力を受けて搬送される。
【0040】
熱転写インクリボン131は、インクリボンが巻回されて形成されたインクリボンローラ132から、インクリボン案内ローラ133により搬送力を受けてプラテン121上を受容紙141と同じ速度で搬送される。熱転写インクリボン131は、後述するように受容紙141に熱転写された後に、インクリボン巻取ローラ134に巻き取られて回収される。
【0041】
そして、サーマルヘッド111が通電されて発熱抵抗体113が発熱すると、サーマルヘッド111から熱転写インクリボン131に熱エネルギが印加され、受容紙141に熱転写インクリボン131のインクが転写される。このようにして印字が行われる。インクが熱転写された受容紙141は、図示しない切断機構で所定の長さに切断され印刷物として排出される。
【0042】
図2は、第1の実施の形態のサーマルヘッド111とブラケット112とを示す側面図である。サーマルヘッド111は、ネジ115によって固定されてブラケット112に保持されている。そして、図2に示すように、サーマルヘッド111が固定されているブラケット112の用紙排出方向の上流側の端部には、プラテン121(図1及び図3参照)の軸心と平行なシャフト151がブラケット112に対して回転自在に設けられている。シャフト151の両端部には、角丸の長方形状を有する一対の回転体152が固定されている。図2中では、シャフト151の両端部に設けられた回転体152のうち、一方のみを示している(図3及び図4も同様)。
【0043】
図3は、第1の実施の形態におけるヘッド角度の変化状態を示す側面図である。ブラケット112の用紙排出方向の上流側の端部の位置には、回転体152を所定の回転位置で保持するための回転体保持部153が配置されている。回転体保持部153は、シャフト151の両端に一対で設けられた回転体152に対応させた位置に一対で設けられている。なお、図3中では、回転体保持部153の一方のみを示している。
【0044】
回転体保持部153の上面には、回転体152の長手方向の長さを有する上段溝154が形成されている。そして、回転体保持部153における上段溝154の下方位置には、この上段溝154に連続させて下段溝155が形成されている。下段溝155の長さは上段溝154よりも短くなっており、回転体152の短手方向の長さを有する。
【0045】
このため、図3(a)に示すように、回転体152は、立てられた状態(長手方向を垂直にした状態)で回転体保持部153の下段溝155に嵌まり込んで位置保持される。このとき、サーマルヘッド111は、基準姿勢となっており、ヘッド角度は0度である。
【0046】
一方、図3(b)に示すように、回転体152は、寝かせられた状態(長手方向を水平にした状態)で回転体保持部153の上段溝154に嵌まり込んで位置保持される。下段溝155は上段溝154よりも狭いため、回転体152は、上段溝154に嵌まり込んだ状態では、下段溝155に落ち込むようなことはない。
【0047】
ここで、シャフト151の中心であるシャフト中心151aと、回転体保持部153の底面であるカム保持部底面153aとの距離Dについて説明する。図3(b)に示すように、回転体152が上段溝154に嵌まり込んだ状態での距離D(距離Db)は、図3(a)に示すように、回転体152が立てられて下段溝155に嵌まり込んだ状態での距離D(距離Da)よりも長い。
【0048】
そして、図3(b)に示すように、回転体152を回転体保持部153の上段溝154に保持させた状態にすると、ブラケット112(サーマルヘッド111)の先端位置は同じであるのに対して、距離Dが長くなるので(距離Da<距離Db)、シャフト中心151aの位置は上昇する。これにより、サーマルヘッド111は、傾斜姿勢となる。こうして、サーマルヘッド111にヘッド角度がつく。
【0049】
このとき、図3(b)に示す状態におけるヘッド角度は、1度以上2度以下である。これにより、良質な印字結果を得ることが可能となる。
【0050】
そして、第1の実施形態によれば、ヘッド角度をつけた場合での印字結果が良質でない場合に、ヘッド角度を0度に戻すことも可能となる。つまり、本実施の形態では、印字に適したヘッド角度を選択することができる。
【0051】
ところで、従来は、商品要望毎に熱転写プリンタ101を開発していた。つまり、ユーザが要求する受容紙141、熱転写インクリボン131、サーマルヘッド111の解像度の組合せに応じて、試作、評価、及び、量産試作を経て、熱転写プリンタ101が量産されていた。そして、熱転写プリンタ101の仕様が異なる場合には、その仕様に応じた熱転写プリンタ101を一から開発を行っていた。そのため、開発期間の長期化、開発コスト増、商品価格アップ等を招いていた。
【0052】
しかしながら、第1の実施形態によれば、熱転写プリンタ101に搭載されるサーマルヘッド111のヘッド角度を、良好な印字結果が得られる角度にすることができるので、サーマルヘッド111の他の筐体等の各部を共通化させて熱転写プリンタ101を開発することができる。これにより、熱転写プリンタ101の開発期間を短くしたり、開発コストを大幅に削減したりすることができる。
【0053】
なお、サーマルヘッド111の種類によって印加エネルギが異なるため、如何なる解像度のサーマルヘッド111が搭載されたのかについては、熱転写プリンタ101が認識する必要がある。このようなサーマルヘッド111の認識手段としては、例えば、コネクタピンを2ピン認識用として、1ピン2ピンともにGND接続の場合は200dpi、1ピンがGND接続で2ピンがオープンの場合は300dpi、1ピンがオープンで2ピンがGND接続の場合は600dpi、というようにする。これにより、熱転写プリンタ101の制御部は、搭載されたサーマルヘッド111の種類を認識することができる。
【0054】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について図4に基づいて説明する。
【0055】
図4は、第2の実施の形態のサーマルヘッド111とブラケット112とを示す側面図である。図1ないし図3に基づいて説明した第1の実施の形態と同一の部分については同一の符号で示し、その説明も省略する。
【0056】
本実施の形態では、図4に示すように、ブラケット112におけるサーマルヘッド111が取り付けられる面(以下、ヘッド取付面112aとする)に、厚みを有するヘッド取付面部材116が取付自在となっている。ここで、ヘッド取付面112aには凹部112bが形成されていて、ヘッド取付面部材116には、この凹部112bに嵌まり込む形状の凸部116aが一体的に設けられている。そして、ヘッド取付面部材116の凸部116aがヘッド取付面112aの凹部112bに圧入されることによって、ヘッド取付面部材116はヘッド取付面112aに対して取り付けられる。
【0057】
図4に示すように、ヘッド取付面112aにヘッド取付面部材116が取り付けられた状態で、さらに、サーマルヘッド111をネジ115によって固定させてブラケット112に保持させることにより、本実施の形態のサーマルヘッド111は、ヘッド角度がついた状態となる。図4に示す状態におけるヘッド角度は、1度以上2度以下である。これにより、良質な印字結果を得ることが可能となる。
【0058】
また、第2の実施形態では、厚みを異ならせた別のヘッド取付面部材116をヘッド取付面112aに取り付けることによって、複数種類のヘッド角度とすることができる。
【0059】
そして、第2の実施形態でも、ヘッド角度をつけた場合での印字結果が良質でない場合に、ヘッド角度を0度に戻すことも可能となる。その場合、ヘッド取付面部材116をブラケット112から取り外した状態にして、サーマルヘッド111のヘッド取付面112a側の面全体をヘッド取付面112aに接触させて、ネジ115によって固定する。つまり、本実施の形態では、適したヘッド角度を選択することができる。
【0060】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について図5に基づいて説明する。
【0061】
図5は、第3の実施の形態のサーマルヘッド111とブラケット112とを示す側面図である。図1ないし図3に基づいて説明した第1の実施形態及び図4に基づいて説明した第2の実施形態と同一の部分については同一の符号で示し、その説明も省略する。
【0062】
本実施の形態では、ヘッド取付面112aがプラテン121の中心を通る水平線に対して用紙排出方向に傾いている。この傾きは、1度以上2度以下である。そして、本実施の形態のブラケット112にサーマルヘッド111を保持させることにより、サーマルヘッド111にはヘッド角度がつくことになる。このとき、ヘッド角度は、1度以上2度以下となる。これにより、本実施の形態によっても、良質な印字結果が得られることになる。
【0063】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について図13に基づいて説明する。
【0064】
図13は、第4の実施の形態を示す側面図である。第4の実施形態は、第1の実施形態(図3等参照)のように、サーマルヘッド111の姿勢だけではなく、サーマルヘッド111とプラテン121との用紙搬送方向の位置関係をも最適化するものである。なお、サーマルヘッド111の角度を1度〜2度傾けることにより良質な印字結果が得られることは上述した。
【0065】
図13(a)は、サーマルヘッド111の傾斜角度が0°であって、タグ紙(受容紙又は感熱紙がタグ紙の場合)が使用される場合を示す。傾斜角度が0°の場合には、前述したように回転体152は縦長にされて回転体保持部153の下段溝155にセットされ、発熱抵抗体113(図13中図示せず)は、プラテン121のセンター位置に位置している。
【0066】
そして、図13(b)に示すように、良質な印字結果を得るために、回転体152を横長にして回転体保持部153の上段溝154にセットする。すると、サーマルヘッド111の傾斜角度が2°にされる。ここで、上段溝154は、シャフト151の位置が距離Δyだけ用紙排出方向にシフトするように設けられている。そして、シャフト151の位置が距離Δyだけ用紙排出方向にシフトすると、発熱抵抗体113の位置はプラテン121のセンターに対して距離Δy1だけシフトする。大阪シーリング印刷株式会社製のタグ紙(IS160)を使用した場合、発熱抵抗体113のシフト距離Δy1が0mm〜0.4mm程度の場合に比較的良い印字結果が得られ、0.25mm程度が最適であった。この数値はサーマルヘッド111の傾斜角度にもよる。例えば、傾斜角度が1°の場合、発熱抵抗体113のシフト距離Δy1は、−0.1〜+0.3mm程度が良好であり、0.1mm程度がより好ましかった。傾斜角度が0°の場合は±0.2mm程度が良好であり、0mmがより好ましかった。そして、シャフト151のシフト距離Δyについては、このような発熱抵抗体113のシフト距離Δy1となる値にすれば良いことになる。
【0067】
図14は、第4の実施の形態を説明する模式図である。図14に基づいて、回転体152が上段溝154にセットされた場合と回転体152が下段溝155にセットされた場合とについて説明する。シャフト151から発熱抵抗体113までの長さをRとする。また、シャフト151と発熱抵抗体113とを結ぶ線が、発熱抵抗体113を接点としたプラテン121の接線に対してなす角度をθとする。さらに、回転体152が横長にされた場合のサーマルヘッド111の傾斜角度を2°とする。発熱抵抗体113がプラテン121に当たる位置が不変であるとすると、シャフト151のY方向(図13参照)へのシフトは、距離Δy=R(cosθ−cos(θ+2°))だけ必要とされる。そして、前述したように、タグ紙を使用する場合には、発熱抵抗体113のシフト距離Δy1が0mm〜0.4mm程度である場合に印字結果が良好であるので、シャフト151が距離Δyだけシフトし、更に用紙排出方向に所定距離(距離αとする)だけシフトした位置に位置付けられるように上段溝154を設ける。具体的には、距離αが+0.25mmの場合に最適となった。ラベルを使用する場合は、タグ紙を使用する場合とは異なり、距離αが−0.3mm〜+0.1mmの範囲である場合が好ましく、0mm付近である場合がより好ましかった。印字結果が良好となる距離αについては、サーマルヘッド111の圧力や角度に応じて変化させる。なお、熱転写の場合であっても感熱紙の場合であっても、同様である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】熱転写プリンタを概略的に示す断面図である。
【図2】第1の実施の形態のサーマルヘッドとブラケットとを示す側面図である。
【図3】第1の実施の形態におけるヘッド角度の変化状態を示す側面図である。
【図4】第2の実施の形態のサーマルヘッドとブラケットとを示す側面図である。
【図5】第3の実施の形態のサーマルヘッドとブラケットとを示す側面図である。
【図6】サーマルヘッドとプラテンとの関係を示す模式図である。
【図7】サーマルヘッドを概略的に示す模式図である。
【図8】第1の試験状態を示す模式図である。
【図9】第1の試験の評価結果を示すグラフである。
【図10】第2の試験状態を示す模式図である。
【図11】第2の試験の評価結果を示すグラフである。
【図12】ヘッド角度がついた状態のサーマルヘッドとプラテンとを拡大して示す側面図である。
【図13】第4の実施の形態を示す側面図である。
【図14】第4の実施の形態を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0069】
101…熱転写プリンタ、112…ブラケット(ヘッド保持部)、112a…ヘッド取付面、113…発熱抵抗体(発熱抵抗体)、114…グレーズ層、116…ヘッド取付面部材、121…プラテン、131…熱転写インクリボン、141…受容紙(用紙)、151…シャフト、152…回転体、153…回転体保持部、154…上段溝、155…下段溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グレーズ層上に発熱抵抗体が形成されたサーマルヘッドと、
前記グレーズ層に対向配置されて当該グレーズ層との間を用紙が案内されるプラテンと、
前記サーマルヘッドを、前記グレーズ層が前記プラテンに当接する所定の基準姿勢と、前記サーマルヘッドの前記グレーズ層よりも用紙搬送方向上流側の部位と前記プラテンの軸心を通る水平面との鉛直方向距離を前記基準姿勢での当該距離よりも離して前記グレーズ層が前記プラテンに当接する傾斜姿勢とに変位させる変位機構と、
を備えるサーマルプリンタ。
【請求項2】
前記変位機構は、
前記サーマルヘッドの前記グレーズ層とは反対側の面が取り付けられて当該サーマルヘッドを前記基準姿勢にするヘッド取付面と、前記ヘッド取付面に取り付けられる前記サーマルヘッドと当該ヘッド取付面との間に挟まれて当該サーマルヘッドを前記傾斜姿勢にするヘッド取付面部材と、を有するヘッド保持部を備える、
請求項1記載のサーマルプリンタ。
【請求項3】
前記変位機構は、
前記サーマルヘッドの前記グレーズ層よりも用紙搬送方向上流側の位置に設けられた前記プラテンと平行なシャフトと、
前記シャフトを前記サーマルヘッドが前記基準姿勢となる高さと前記サーマルヘッドが前記傾斜姿勢となる高さとに選択的に位置保持する調整機構と、
を備える請求項1記載のサーマルプリンタ。
【請求項4】
前記調整機構は、
前記シャフトに設けられた一方向に長い回転体と、
長手方向を鉛直方向にした状態の前記回転体の下端部分が嵌まり込んで前記サーマルヘッドを前記基準姿勢にする下段溝と、当該下段溝と連続的に形成されて長手方向を水平にした状態の前記回転体が嵌まり込んで前記サーマルヘッドを前記傾斜姿勢にする上段溝とを有する回転体保持部と、
を備える請求項3記載のサーマルプリンタ。
【請求項5】
前記調整機構は、
前記シャフトに設けられた回転体と、
前記サーマルヘッドの姿勢に応じて、前記プラテンと前記サーマルヘッドとの用紙搬送方向位置関係が特定位置に誘導されるように前記回転体を保持する回転体保持部と、
を備える請求項3記載のサーマルプリンタ。
【請求項6】
前記サーマルヘッドを通り前記サーマルヘッドが前記基準姿勢の場合に水平な基準面と前記サーマルヘッドが前記傾斜姿勢の場合の前記基準面とがなす角度は、1度以上2度以下である、
請求項1乃至5いずれか一記載のサーマルプリンタ。
【請求項1】
グレーズ層上に発熱抵抗体が形成されたサーマルヘッドと、
前記グレーズ層に対向配置されて当該グレーズ層との間を用紙が案内されるプラテンと、
前記サーマルヘッドを、前記グレーズ層が前記プラテンに当接する所定の基準姿勢と、前記サーマルヘッドの前記グレーズ層よりも用紙搬送方向上流側の部位と前記プラテンの軸心を通る水平面との鉛直方向距離を前記基準姿勢での当該距離よりも離して前記グレーズ層が前記プラテンに当接する傾斜姿勢とに変位させる変位機構と、
を備えるサーマルプリンタ。
【請求項2】
前記変位機構は、
前記サーマルヘッドの前記グレーズ層とは反対側の面が取り付けられて当該サーマルヘッドを前記基準姿勢にするヘッド取付面と、前記ヘッド取付面に取り付けられる前記サーマルヘッドと当該ヘッド取付面との間に挟まれて当該サーマルヘッドを前記傾斜姿勢にするヘッド取付面部材と、を有するヘッド保持部を備える、
請求項1記載のサーマルプリンタ。
【請求項3】
前記変位機構は、
前記サーマルヘッドの前記グレーズ層よりも用紙搬送方向上流側の位置に設けられた前記プラテンと平行なシャフトと、
前記シャフトを前記サーマルヘッドが前記基準姿勢となる高さと前記サーマルヘッドが前記傾斜姿勢となる高さとに選択的に位置保持する調整機構と、
を備える請求項1記載のサーマルプリンタ。
【請求項4】
前記調整機構は、
前記シャフトに設けられた一方向に長い回転体と、
長手方向を鉛直方向にした状態の前記回転体の下端部分が嵌まり込んで前記サーマルヘッドを前記基準姿勢にする下段溝と、当該下段溝と連続的に形成されて長手方向を水平にした状態の前記回転体が嵌まり込んで前記サーマルヘッドを前記傾斜姿勢にする上段溝とを有する回転体保持部と、
を備える請求項3記載のサーマルプリンタ。
【請求項5】
前記調整機構は、
前記シャフトに設けられた回転体と、
前記サーマルヘッドの姿勢に応じて、前記プラテンと前記サーマルヘッドとの用紙搬送方向位置関係が特定位置に誘導されるように前記回転体を保持する回転体保持部と、
を備える請求項3記載のサーマルプリンタ。
【請求項6】
前記サーマルヘッドを通り前記サーマルヘッドが前記基準姿勢の場合に水平な基準面と前記サーマルヘッドが前記傾斜姿勢の場合の前記基準面とがなす角度は、1度以上2度以下である、
請求項1乃至5いずれか一記載のサーマルプリンタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−132144(P2009−132144A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239440(P2008−239440)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]