説明

サーマルヘッド及びその製造方法

【目的】 印刷動作中の静電破壊を防止して優れた印画結果を得られるサーマルヘッド及びその製造方法を得る。
【構成】 ヘッド基板表面に、所定ピッチで並ぶ複数の発熱抵抗体と、隣り合う一対の発熱抵抗体を導通接続する折り返し電極と、この折り返し電極を介して隣り合う一対の発熱抵抗体に通電する個別電極とコモン電極とを備えたサーマルヘッドにおいて、ヘッド基板表面に、さらに、複数の発熱抵抗体と折り返し電極と個別電極を囲むグランド接地用のグランド配線を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば熱転写型プリンタに搭載されるサーマルヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルヘッドは、ヘッド基板表面の蓄熱層上に、通電により発熱する多数の発熱抵抗体と、全発熱抵抗体に共通電位を与えるコモン電極と、各発熱抵抗体に個別に導通接続した個別電極と、これら発熱抵抗体、コモン電極及び個別電極を覆う絶縁性耐磨耗保護層とを備え、発熱抵抗体の熱をインクリボンまたは被印画物に与えることで印画動作する。
【0003】
上記コモン電極は、従来一般に、複数の発熱抵抗体の配列方向にライン状に延びたライン電極部と、このライン電極部から抵抗長方向に延びて個別電極とは反対側の端部で各発熱抵抗体に接続する配線電極部とにより形成されている。このようなコモン電極の配線電極部と個別電極とが発熱抵抗体の抵抗長方向に一直線状に配置される直線電極型のサーマルヘッドに対し、近年では、折り返し電極型のサーマルヘッドも提案されている。
【0004】
折り返し電極型のサーマルヘッドでは、例えば隣り合う一対の発熱抵抗体で一つの印刷ドットが構成される。各印刷ドットにおいて、一対の発熱抵抗体の一端部は折り返し電極で接続され、一方の発熱抵抗体の他端部はコモン電極の配線電極部に接続され、他方の発熱抵抗体の他端部は個別電極に接続されている。複数の発熱抵抗体、折り返し電極、コモン電極及び個別電極は、絶縁性耐磨耗保護層によって覆われる。この折り返し電極型によれば、直線電極型よりも電極配置スペースを狭くでき、高記録密度化に有利である。
【特許文献1】特開2002−46297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記折り返し電極型のサーマルヘッドでは、電極(折り返し電極、コモン電極の配線電極部、個別電極)の幅寸法が従来の直線電極型よりも狭く規定されており、印刷動作中の静電破壊(ESD)対策が問題となっている。印刷動作中は、圧接するヘッドとインクリボン(または印刷媒体)との摩耗により静電気が発生しやすく、この静電気による電撃(静電気放電)をサーマルヘッドが受けると、ヘッド基板表面を覆う絶縁性保護層の絶縁性が破られてヘッド基板表面に大電流が瞬間的に流れ、発熱抵抗体の抵抗値が変化したりショートを引き起こしたり等の不具合が生じ、最悪の場合には印画結果に悪影響を与える。電極幅(配線幅)が狭いと、静電耐圧も低くなるので、小さな静電気放電が起きても受けるダメージは大きかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、印刷動作中の静電破壊を防止して優れた印画結果を得られるサーマルヘッド及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、静電気放電により生じた大電流を逃がすグランド配線をヘッド基板表面に設ければ、印刷動作中の静電破壊を防止できることに着目してなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、ヘッド基板表面に、所定ピッチで並ぶ複数の発熱抵抗体と、隣り合う一対の発熱抵抗体を導通接続する折り返し電極と、この折り返し電極を介して隣り合う一対の発熱抵抗体に通電する個別電極とコモン電極とを備えたサーマルヘッドにおいて、ヘッド基板表面にはさらに、複数の発熱抵抗体と折り返し電極と個別電極を囲む、グランド接地用のグランド配線を設けたことを特徴としている。
【0009】
上記サーマルヘッドは、ヘッド基板に隣接させてプリント回路基板を備える。プリント回路基板には、個別電極を介して印刷ドットを選択的に通電する複数の駆動ICと、コモン電極に所定のコモン電位を与える電源部と、グランド配線をグランド接地するグランド部とを設けることが実際的である。この場合、コモン電極は、ヘッド基板のプリント回路基板に臨む縁部で複数の発熱抵抗体の配列方向にライン状に延び、プリント回路基板の電源部から給電されるライン電極部を有し、グランド配線は、ヘッド基板のプリント回路基板側に臨む縁部を除く周縁部に沿わせて形成されていることが好ましい。
【0010】
グランド配線及びコモン電極のライン電極部は、静電気放電により生じた電流が該グランド配線またはコモン電極のライン電極部を介して逃げやすいように、折り返し電極及び個別電極の幅寸法よりも大きな幅寸法で形成されていることが好ましい。
【0011】
折り返し電極、コモン電極、個別電極及びグランド配線は、同一の導体材料で形成することができる。この導体材料としては、例えばAl導体膜を用いることができる。
【0012】
グランド配線とヘッド基板表面の間には、一対の発熱抵抗体と同一材料からなる抵抗体膜が介在していることが好ましい。ヘッド基板表面には蓄熱層が形成されているのが実際的であり、上記抵抗体膜が介在することにより、この蓄熱層とグランド配線との密着性が高まる。
【0013】
本発明は、製造方法の態様によれば、ヘッド基板表面に、複数の発熱抵抗体、折り返し電極、個別電極及びコモン電極を形成するための第1抵抗体パターンと、この第1抵抗体パターンにより形成される複数の発熱抵抗体と折り返し電極と個別電極を囲むための第2抵抗体パターンとを形成する工程と、第1抵抗体パターン及び第2抵抗体パターンの上に導体膜を形成し、該第2抵抗体パターン上に形成した導体膜をグランド配線として得る工程と、第1抵抗体パターンの発熱抵抗体形成エリア上の導体膜を除去し、所定ピッチで並ぶ複数の発熱抵抗体と、隣り合う一対の発熱抵抗体を接続する折り返し電極と、この折り返し電極を介して隣り合う一対の発熱抵抗体に通電する個別電極とコモン電極とを形成する工程と、グランド配線をグランド接地する工程とを有することを特徴としている。
【0014】
第1抵抗体パターンのコモン電極形成エリアは、ヘッド基板表面の一縁部に臨ませて形成することが好ましく、第2抵抗体パターンは、この第1抵抗体パターンのコモン電極形成エリアを除くヘッド基板表面の周縁部に沿わせて形成することが好ましい。
【0015】
第2抵抗体パターンの幅寸法は、第1抵抗体パターンの幅寸法よりも大きく規定することが好ましい。
【0016】
また本発明方法は、別の表現によれば、ヘッド基板表面に、所定ピッチで配置された複数の発熱抵抗体と、隣り合う一対の発熱抵抗体を導通接続する折り返し電極と、この折り返し電極を介して隣り合う一対の発熱抵抗体に通電する個別電極とコモン電極と、複数の発熱抵抗体、折り返し電極及び個別電極を囲むグランド接地用のグランド配線とを有するサーマルヘッドを製造する方法であって、フォトリソグラフィ技術を用いて、折り返し電極、個別電極及びコモン電極と同時にグランド配線を形成し、このグランド配線をグランド接地することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、静電気放電により生じた大電流はヘッド基板表面のグランド配線を介してアースに落ちるので、印刷動作中の静電破壊を防止でき、優れた印画結果の得られるサーマルヘッド及びその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1及び図2は、本発明を適用したサーマルヘッドの全体構成を示す模式平面図及び断面図である。本サーマルヘッド1は、発熱回路部を有するヘッド基板2と、このヘッド基板2の発熱回路部を制御するためのプリント回路基板20とを独立に備えている。
【0019】
ヘッド基板2は、Siやセラミック材料、金属材料等からなる放熱性に優れた基板であり、基板表面に例えばガラス等の断熱材料からなる蓄熱層3を有している。蓄熱層3は、ヘッド基板表面全体に均一な膜厚で形成された平面グレーズ層である。蓄熱層3の上には、図1の左右方向に微小間隔をあけて一列に並んだ複数の発熱抵抗体4が形成されている。各発熱抵抗体4は、Ta2N又はTa−SiO2等のサーメット材料を用いて蓄熱層3の上に部分的に形成された第1抵抗体パターン41の一部である。各発熱抵抗体4の表面は絶縁バリア層5により覆われている。絶縁バリア層5は、例えばSiO2、SiON、SiAlON等の絶縁材料により形成されていて、各発熱抵抗体4の平面的な大きさ(抵抗長L、幅寸法W)を規定している。隣接する発熱抵抗体4の間には、蓄熱層3が露出するギャップ領域αが存在している。本実施形態では、隣接する一対の発熱抵抗体4(4a、4b)により1つの印刷ドットDが形成され、複数の印刷ドットDは、各発熱抵抗体4の通電方向と直交する方向(図1の左右方向)に配列されている。
【0020】
各印刷ドットDを構成する一対の発熱抵抗体4a、4bは、互いの抵抗長方向の一端部が折り返し電極6により接続されていて、一方の発熱抵抗体4aの抵抗長方向の他端部には個別電極7が接続され、他方の発熱抵抗体4bの他端部にはコモン電極8が接続されている。折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8は、Al導体膜で形成されており、数百μs程度のごく短い周期で大電流を与えて発熱抵抗体4をオン(通電)/オフ(非通電)する高速印刷動作にも対応可能である。
【0021】
本実施形態では、複数の発熱抵抗体4、折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8により、発熱回路部が構成されている。
【0022】
折り返し電極6は、各印刷ドットD毎に設けられ、平面U字形状をなして一対の発熱抵抗体4a、4bを接続している。個別電極7は、複数の印刷ドットDを個別に通電するための電極であって、各印刷ドットD毎に設けられている。この個別電極7は、発熱抵抗体4a側とは反対側の端部にワイヤーボンディング用の電極パッド7aを有しており、ワイヤーボンディングによりプリント回路基板20に接続されている。コモン電極8は、複数の印刷ドットDに共通電位を与える電極である。このコモン電極8は、ヘッド基板2のプリント回路基板20に臨む縁部で印刷ドットDの配列方向にライン状に延び、同配列方向の両端から給電されるライン電極部8aと、このライン電極部8aから抵抗長方向に延出して隣接する2つの印刷ドットDの発熱抵抗体4bを接続した複数のY字電極部8bとを有している。ライン電極部8aは、コモン電極抵抗を抑えるためにY字電極部8bよりも大面積で形成され、その両端位置でワイヤーボンディングによりプリント回路基板20に接続されている。上記折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8のY字電極部8bは、発熱抵抗体4(4a、4b)の幅寸法Wと略一致する幅寸法で形成され、それぞれの発熱抵抗体4側の端部が絶縁バリア層5上にオーバーレイしている。
【0023】
本実施形態では折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8と蓄熱層3の密着性を高めるべく、図2に示されるように折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8と蓄熱層3の間に第1抵抗体パターン41を介在させているが、発熱抵抗体4以外の領域では第1抵抗体パターン41を省いてもよい。また折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8は、Alに限らず、Cr、Ta、Mo、W、Ti等の高融点金属材料、該高融点金属材料を含む合金材料、Alを含む合金材料、Cu及びCuを含む合金材料のいずれかにより形成することができる。
【0024】
上記ヘッド基板2の基板表面(蓄熱層3の上面)には、さらに、複数の発熱抵抗体4、折り返し電極6及び個別電極7を囲むグランド接地用のグランド配線9が設けられている。グランド配線9は、一定の幅寸法WGを有する直線状のAl導体パターンであり、静電気放電によりヘッド基板表面(蓄熱層3の上面)に大電流が生じた場合に、該大電流を、発熱回路部(複数の発熱抵抗体4、折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8)の外側へ逃がすバイパス電流経路を形成する。このグランド配線9は、ヘッド基板表面のプリント回路基板20に臨む縁部を除く周縁部に沿わせて配置されており、プリント回路基板20に臨む端部9a、9bでワイヤーボンディングによりプリント回路基板20に接続されている。グランド配線9の幅寸法WGは、折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8のY字電極部8bの幅寸法Wよりも十分大きく設定されている。具体的に本実施形態では、例えば折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8のY字電極部8bの電極の幅寸法Wを25μmとし、グランド配線9の幅寸法WGを、発熱回路部の電極の幅寸法Wの約3倍に相当する、80μmとしてある。
【0025】
本実施形態では、折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8と同様に、図2に示されるようにグランド配線9と蓄熱層3の間に第2抵抗体パターン42を介在させて該グランド配線9と蓄熱層3の密着性を高めているが、発熱抵抗体4以外の領域では抵抗体パターンを省いてもよい。またグランド配線9は、Alに限らず、Cr、Ta、Mo、W、Ti等の高融点金属材料、該高融点金属材料を含む合金材料、Alを含む合金材料、Cu及びCuを含む合金材料のいずれかにより形成することができる。
【0026】
上記発熱回路部(複数の発熱抵抗体4、折り返し電極6、個別電極7、コモン電極8)及びグランド配線9を含むヘッド基板2の基板表面は、ボンディング部(個別電極7の電極パッド7a、コモン電極8のライン電極部8a及びグランド配線9の端部9a、9b)を除いて、絶縁性耐磨耗保護層10により覆われている。絶縁性耐磨耗保護層10は、SiO2やSiAlON等の絶縁材料により形成されており、プラテンローラとの接触による摩擦等から発熱回路部とグランド配線9を保護する。
【0027】
プリント回路基板20はヘッド基板2に隣接して設けられている。このプリント回路基板20には、所定ピッチ間隔で並んだ複数の駆動IC21と、この複数の駆動IC21の両側を挟んで配置された一対の電源部Vccと、この一対の電源部Vccを挟んで配置された一対のグランド部GNDとが備えられている。複数の駆動IC21は、各印刷ドットDの発熱抵抗体4aへの通電/非通電を切り替えるスイッチング素子であり、ワイヤーボンディングによりヘッド基板2の個別電極7にそれぞれ接続され、個別電極7を選択的に通電する。図1はサーマルヘッド1の構造を簡略的に示したものであり、実際の電極パッドと駆動ICを結ぶワイヤーは約50μm程度と非常に微小間隔で設けられている。一対の電源部Vccは、ワイヤーボンディングによりヘッド基板2のコモン電極8のライン電極部8aの両端位置にそれぞれ接続されており、コモン電極8を介して複数の印刷ドットDに共通電位を与える。一対のグランド部GNDは、ワイヤーボンディングによりヘッド基板2のグランド配線9の端部9a、9bにそれぞれ接続されており、グランド配線9をグランド接地する。
【0028】
プリント回路基板20の複数の駆動IC21、一対の電源部Vcc及び一対のグランド部GNDとヘッド基板2のボンディング部(個別電極7の電極パッド7a、コモン電極8のライン電極部8aの両端位置及びグランド配線9の端部9a、9b)は、封止樹脂11により封止されている。
【0029】
上記構成のサーマルヘッド1は、複数の駆動IC21により折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8を介して複数の印刷ドットD(一対の発熱抵抗体4a、4b)を選択的に発熱させ、印刷ドットDの熱をインクリボンまたは印刷媒体に与えることにより、印刷動作する。印刷動作中は、ヘッド基板2とインクリボンまたは印刷媒体が圧接しているため、該ヘッド基板2とインクリボンまたは印刷媒体との摩耗により静電気が生じる。ヘッド基板2は、静電気による電撃(静電気放電)を受けると、絶縁性耐磨耗保護層10の絶縁性が破られて基板表面(蓄熱層3の上面)に瞬間的に大電流が生じる場合があるが、上述したようにヘッド基板2の基板表面にはグランド配線9が設けられているから、基板表面に生じた大電流の大部分はグランド配線9に流れ込み、グランド配線9を介してプリント回路基板20のグランド部GNDに落とされる。これにより、発熱回路部(複数の発熱抵抗体4、折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8)には静電気放電による大電流がほとんど流れない。したがって、印刷動作中に静電気放電が生じても、ヘッド基板2の発熱回路部が静電破壊される確率は低減する。
【0030】
次に、図3〜図7を参照し、本実施形態によるサーマルヘッド1の製造方法、特にグランド配線9の製造工程について説明する。
【0031】
先ず、図3に示すように、蓄熱層3を有するヘッド基板2の上にTa2N又はTa−SiO2等のサーメット材料からなる抵抗体膜4’を全面的に成膜し、抵抗体膜4’の上に、形成すべき発熱抵抗体の抵抗長Lを規定する絶縁バリア層5を形成する。絶縁バリア層5で覆われた抵抗体膜4’の領域は、後に複数の発熱抵抗体4となる。
【0032】
次に、図4に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて抵抗体膜4’及び絶縁バリア層5の一部を除去し、発熱回路部(複数の発熱抵抗体、折り返し電極、個別電極及びコモン電極)を形成するための第1抵抗体パターン41と、この第1抵抗体パターン41により形成される複数の発熱抵抗体、折り返し電極及び個別電極を囲むための第2抵抗体パターン42とをそれぞれ形成する。ここで、第1抵抗体パターン41には、絶縁バリア層5で覆われて平面的な大きさ(抵抗長L、抵抗幅W)が規定された複数の発熱抵抗体4と、隣り合う一対の発熱抵抗体4a、4bの一端部を接続する折り返し電極形成エリア41Aと、一方の発熱抵抗体4aの他端部に接続する個別電極形成エリア41Bと、他方の発熱抵抗体4bの他端部に接続し且つヘッド基板2の基板表面の一縁部で発熱抵抗体4の配列方向にライン状に延びたコモン電極形成エリア41Cとを設ける。第2抵抗体パターン42は、複数の発熱抵抗体4、折り返し電極形成エリア41A及び個別電極形成エリア41Bを囲むように、ヘッド基板表面のコモン電極形成エリア41Cを除く周縁部に沿わせて形成する。この第2抵抗体パターン42の幅寸法WGは、第1抵抗体パターン41(発熱抵抗体4、折り返し電極形成エリア41A、個別電極形成エリア41B及びコモン電極形成エリア41Cの一部)の幅寸法Wよりも大きく規定する。
【0033】
続いて、フォトリソグラフィ技術を用いて、図5に示すように、第1抵抗体パターン41及び第2抵抗体パターン42の上にAl導体膜31、32をそれぞれ形成する。この工程により、第2抵抗体パターン42上に形成された第2Al導体膜32がグランド配線9になる。このグランド配線9は、後工程で第1抵抗体パターン41上に形成される折り返し電極、個別電極及びコモン電極のY字電極部の幅寸法Wよりも十分に大きい幅寸法WGを有するので、静電気放電により基板表面に大電流が生じたときには、上記折り返し電極、個別電極及びコモン電極のY字電極部よりもグランド配線9に電流が流れ込みやすくなっている。第2抵抗体パターン42は、グランド配線9と蓄熱層3との密着性を高める密着層として機能するが、省略も可能である。
【0034】
続いて、図6に示すように、絶縁バリア層5上の第1Al導体膜31をエッチング等により除去する。これにより、絶縁バリア層5が露出し、第1Al導体膜31は、各印刷ドットDを構成する一対の発熱抵抗体4a、4bを導通接続する折り返し電極6と、各発熱抵抗体4aに個別に接続する個別電極7と、複数の発熱抵抗体4bに共通に接続するコモン電極8とに分割される。これら折り返し電極6、個別電極7、コモン電極8及び複数の発熱抵抗体4により、本実施形態の発熱回路部が構成される。
【0035】
上記折り返し電極6、個別電極7、コモン電極8及びグランド配線9は、Al導体膜に限らず、Cr、Ta、Mo、W、Ti等の高融点金属材料、該高融点金属材料を含む合金材料、Alを含む合金材料、Cu及びCuを含む合金材料のいずれかにより形成することができる。また、折り返し電極6、個別電極7、コモン電極8及びグランド配線9は、同一材料で形成されていなくてもよいが、同一材料であれば同時に形成できるので製造容易である。
【0036】
続いて、図7に示すように、各個別電極7の発熱抵抗体4との接続側とは反対側の端部に電極パッド7aをそれぞれ形成し、ヘッド基板2のボンディング部を除く基板表面(露出している蓄熱層3、絶縁バリア層5、折り返し電極6、個別電極7、コモン電極8のY字電極部8b及びグランド配線9)を絶縁性耐磨耗保護層10で覆う。ここで、ヘッド基板2のボンディング部は、個別電極7の電極パッド7a、コモン電極8のライン電極部8a及びグランド配線9の端部9a、9bである。絶縁性耐磨耗保護層10は、SiO2やSiAlON等により形成することができる。
【0037】
続いて、ワイヤーボンディングにより、ヘッド基板2のボンディング部とプリント回路基板20をそれぞれ接続する。具体的には、個別電極7の電極パッド7aと駆動IC21をそれぞれ接続し、コモン電極8のライン電極部8aの両端位置を一対の電源部Vccにそれぞれ接続し、グランド配線9の端部9a、9bを一対のグランド部GNDにそれぞれ接続する。ワイヤーボンディング後は、ヘッド基板2のボンディング部(絶縁性耐磨耗保護層10で覆われていない個別電極7の電極パッド7a、コモン電極8のライン電極部8a及びグランド配線9の端部9a、9b)及びプリント回路基板20の駆動IC21、電源部Vcc、グランド部GNDを封止樹脂11により封止する。
【0038】
以上により、図1及び図2のサーマルヘッド1が得られる。
【0039】
以上の本実施形態によれば、発熱回路部を有するヘッド基板表面上に、複数の発熱抵抗体4と折り返し電極6と個別電極7とコモン電極8のY字電極部8bを囲むグランド配線9が設けられているので、このグランド配線9を介してヘッド基板表面のアースを確保することができる。よって、サーマルヘッド1の印刷動作中に静電気放電が生じても、静電気放電により生じた大電流はヘッド基板表面のグランド配線9を介してアースに落ちるので、発熱回路部の静電破壊を防止でき、良好な印画結果を得ることができる。
【0040】
本実施形態では、ヘッド基板2のグランド配線9がプリント回路基板20のグランド部GNDにワイヤーボンディングされてグランド接地されているが、グランド配線9とグランド部GNDは同―基板上に設けられていてもよい。
【0041】
また本実施形態では、ヘッド基板表面が平面グレーズからなる蓄熱層3で形成され、複数の発熱抵抗体4、折り返し電極6、個別電極7及びコモン電極8により発熱回路部が構成されているが、蓄熱層3及び発熱回路部の構成は上記に限定されず、種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明によるサーマルヘッドの全体構成(絶縁性耐磨耗保護層及び封止樹脂を除く)を示す模式平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う模式断面図である。
【図3】同サーマルヘッドの製造工程の一工程を示す(a)平面図、(b)断面図である。
【図4】同サーマルヘッドの製造工程の一工程を示す(a)平面図、(b)断面図である。
【図5】同サーマルヘッドの製造工程の一工程を示す(a)平面図、(b)断面図である。
【図6】同サーマルヘッドの製造工程の一工程を示す(a)平面図、(b)断面図である。
【図7】同サーマルヘッドの製造工程の一工程を示す(a)平面図、(b)断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 サーマルヘッド
2 ヘッド基板
3 蓄熱層
4 発熱抵抗体
4’ 抵抗体膜
5 絶縁バリア層
6 折り返し電極
7 個別電極
7a 電極パッド
8 コモン電極
8a ライン電極部
8b Y字電極部
9 グランド配線
9a、9b 端部
10 絶縁性耐磨耗保護層
11 封止樹脂
20 プリント回路基板
21 駆動IC
31、32 Al導体膜
41 第1抵抗体パターン
41A 折り返し電極形成エリア
41B 個別電極形成エリア
41C コモン電極形成エリア
42 第2抵抗体パターン
D 印刷ドット
GND グランド部
L 抵抗長
Vcc 電源部
W、WG 幅寸法
α ギャップ領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド基板表面に、所定ピッチで並ぶ複数の発熱抵抗体と、隣り合う一対の発熱抵抗体を導通接続する折り返し電極と、この折り返し電極を介して前記隣り合う一対の発熱抵抗体に通電する個別電極とコモン電極とを備えたサーマルヘッドにおいて、
前記ヘッド基板表面にはさらに、前記複数の発熱抵抗体と前記折り返し電極と前記個別電極を囲む、グランド接地用のグランド配線を設けたことを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項2】
請求項1記載のサーマルヘッドにおいて、前記ヘッド基板に隣接させてプリント回路基板を備え、このプリント回路基板には、前記個別電極を介して前記印刷ドットを選択的に通電する複数の駆動ICと、前記コモン電極に所定のコモン電位を与える電源部と、前記グランド配線をグランド接地するグランド部とを設けたサーマルヘッド。
【請求項3】
請求項2記載のサーマルヘッドにおいて、前記コモン電極は、前記ヘッド基板表面の前記プリント回路基板に臨む縁部で前記複数の発熱抵抗体の配列方向にライン状に延び、前記プリント回路基板の電源部から給電されるライン電極部を有し、
前記グランド配線は、前記ヘッド基板の前記プリント回路基板側に臨む縁部を除く周縁部に沿わせて形成されているサーマルヘッド。
【請求項4】
請求項3記載のサーマルヘッドにおいて、前記グランド配線の幅寸法は、前記折り返し電極、前記個別電極及び前記コモン電極の幅寸法よりも大きいサーマルヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のサーマルヘッドにおいて、前記折り返し電極、前記個別電極、前記コモン電極及び前記グランド配線は、同一の導体材料で形成されているサーマルヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のサーマルヘッドにおいて、前記グランド配線と前記ヘッド基板表面の間には、前記一対の発熱抵抗体と同一材料からなる抵抗体膜が介在しているサーマルヘッド。
【請求項7】
請求項6記載のサーマルヘッドを製造する方法であって、
ヘッド基板表面に、前記複数の発熱抵抗体、前記折り返し電極、前記個別電極及び前記コモン電極を形成するための第1抵抗体パターンと、この第1抵抗体パターンにより形成される前記複数の発熱抵抗体、前記折り返し電極及び前記個別電極を囲むための第2抵抗体パターンとを形成する工程と、
前記第1抵抗体パターン及び前記第2抵抗体パターンの上に導体膜を形成し、該第2抵抗体パターン上に形成した導体膜を前記グランド配線として得る工程と、
前記第1抵抗体パターンの発熱抵抗体形成エリア上の導体膜を除去し、所定ピッチで並ぶ複数の発熱抵抗体と、隣り合う一対の発熱抵抗体を接続する折り返し電極と、この折り返し電極を介して前記隣り合う一対の発熱抵抗体に通電する個別電極とコモン電極とを形成する工程と、
前記グランド配線をグランド接地する工程と、
を有することを特徴とするサーマルヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のサーマルヘッドの製造方法において、前記第1抵抗体パターンのコモン電極形成エリアは前記ヘッド基板表面の一縁部に臨ませて形成し、前記第2抵抗体パターンは、前記第1抵抗体パターンのコモン電極形成エリアを除く前記ヘッド基板表面の周縁部に沿わせて形成するサーマルヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項7または8記載のサーマルヘッドの製造方法において、前記第2抵抗体パターンの幅寸法は、前記第1抵抗体パターンの幅寸法よりも大きく規定するサーマルヘッドの製造方法。
【請求項10】
ヘッド基板表面に、所定ピッチで配置された複数の発熱抵抗体と、隣り合う一対の発熱抵抗体を導通接続する折り返し電極と、この折り返し電極を介して前記隣り合う一対の発熱抵抗体に通電する個別電極とコモン電極と、前記複数の発熱抵抗体、前記折り返し電極及び前記個別電極を囲むグランド接地用のグランド配線とを有するサーマルヘッドを製造する方法であって、
フォトリソグラフィ技術を用いて、前記折り返し電極、前記個別電極及び前記コモン電極と同時に前記グランド配線を形成し、このグランド配線をグランド接地することを特徴とするサーマルヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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