説明

サーモグラフィに適する携帯型データ記憶媒体用受像層及び携帯型データ記憶媒体

転写サーモグラフィによって転写される情報(5)を受け取るための受像層(1)の作成及び携帯型データ記憶媒体におけるその使用が提案される。発明によれば、受像層(1)はキャリア層(2)及びアクセプタ層(3)の2つの層で形成され、一方は非晶質ポリエステル、例えばPETG,他方はPETGと10〜90重量%のスチレンポリマーの混合物の、2つの原材料を同時押出しすることによって作成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的はサーモグラフィ法を用いて携帯型データ記憶媒体にグラフィック情報を与えることである。特に、本発明は、バンクカード、運転免許証または身分証明書などの身元証明カードの熱応用個人化に関する。
【背景技術】
【0002】
熱転写法を用いて印刷することができる受像層をもつ携帯型データ記憶媒体が特許文献1によって知られている。特許文献1に説明されているデータ記憶媒体は身元証明書類の形態を有し、とりわけポリカーボネートまたはポチエチレンテレフタレート(PET)でつくることができるコア層に基づき、コア層の上には、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ABSコポリエステルまたは熱可塑性樹脂のような、透明材料からなるラミネート層が施される。ラミネート層上には、特に、D2T2(染料拡散熱転写)としても知られる、熱昇華による印刷に適する受像層が施される。受像層はポリ塩化ビニル(PVC)でつくられ、さらに多くの可能な代替材料、とりわけポリスチレン及びそのコポリマーが述べられている。提案されるカードによって、熱昇華による確実な印刷が可能になる。しかし、受像層に用いられるPVCには環境安全性及び再利用可能性の点で問題がある。さらにPVC被覆カードは耐久性が比較的低く、例えば身元証明カードなどの、長期使用への適性に悪影響を与える。
【0003】
特許文献2により、両面が変性ポリエステル(PETG)のカバー層で被覆された不透明コア層を有する多層データ記憶媒体が知られている。データはレーザを用いてPETG層に取り込まれる。特にレーザ印刷への適性を向上させるための添加剤をPETG層に添加することができる。それぞれの層はラミネートにすることで結合される。ラミネート加工機へのカバー層の付着を防止するため、カバー層の外表面に粘着防止剤が添加される。特許文献2において、カバー層は、粘着防止剤が添加されたPETG層と純PETG層の同時押出しによる2層ラミネートとしてつくられる。熱昇華によって与えられる印刷パターンの受取りに適する受像層が特許文献3によって知られている。提案される受像層はコア層を有し、コア層の上にはポリスチレンの熱絶縁層が施され、ポリスチレン熱絶縁層の上には次いで、染色可能な樹脂を含むアクセプタ層が配されている。受像層は特にICカードでの使用が目的とされている。
【0004】
さらに、いくつかの層をラミネートにすることによって形成され、層の内の少なくとも1つが少なくとも2つのタイプのプラスチックの同時押出しによってつくられる、多機能カード本体が特許文献4によって知られている。同時押出し層のための原材料として、とりわけ、PTEGが提案されている。
【0005】
さらに、高まる非PVCカードに対する需要を認識した、転写サーモグラフィを用いる印刷に適するプラスチックカードが特許文献5によって知られている。ABS,PETGまたはポリカーボネートに基づくコア層及び同じ材料に基づくが含有ABSの分量が少なくとも20重量%の重畳層を有するカードが提案されている。そのようなABS含有受像層は発明者等自身の試験で、熱昇華法と組み合わせて用いた場合に、満足できないことがわかった。
【0006】
パンチ穴開け中の材料の浮きの形成を避けるため及び温度安定性を向上させるための、PVC含有カードが将来環境保護の理由のためにほとんど受け入れられなくなるであろうことを考慮に入れた、カード材料の硬度を向上させるための提案が特許文献6によって知られている。PTEGとポリカーボネートを含み、PETGの10%から70%までの分量が他の材料で置換された、混合材料の使用が提案されている。置換材料として、とりわけAAS(メタクリレート−アクリル−スチレン)が述べられている。提案されている材料は良好な機械的特性を有するが、多層ラミネートカード体構造への適用は容易ではない。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0035590号明細書
【特許文献2】欧州特許第0734322B1号明細書
【特許文献3】特表2004-042358A号公報
【特許文献4】国際公開第02/41245A2号パンフレット
【特許文献5】特表2004-025743A号公報
【特許文献6】特許第11189708A号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、転写サーモグラフィ、特に熱昇華によって、層上にグラフィック情報を与えることができる、携帯型データ記憶媒体上の用途に適するポリエステルベースの受像層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、特許請求項1の特徴をもつ受像層及び特許請求項6の特徴をもつ受像層を備える携帯型データ記憶媒体のいずれによっても解決される。上記課題はさらに、独立特許請求項11にしたがう受像層を作成する方法及び独立特許請求項12にしたがう携帯型データ記憶媒体を作成する方法のいずれによっても解決される。
【0009】
本発明の受像層の特徴は、転写サーモグラフィ法を用いてグラフィック情報を確実にかつピクセル毎に与えることができ、熱転写法及び熱昇華法に等しく適するという事実である。転写サーモグラフィを実施するには従来機器を用いることができ、携帯型データ記憶媒体に適用するための特別な適合化は必要ではない。本発明の受像層には、熱転写法を用いた場合に、色テープが受像層に貼り付かないという利点がある。したがって、色テープから受像層上への望ましくない色転写をおこす、付着効果は生じない。よって、例えば針を用いる、ピクセル毎色転写を熱転写法でも行うことができる。熱昇華及び熱転写のいずれを使用する場合にも、明瞭で、制御された色転写がおこる。本発明の受像層の別の利点は、グラフィック情報の上に、グラフィック情報を保護するために、施されるカバー層も受像層に良く密着することである。キャリア層及びアクセプタ層を有する多層ラミネート構造により、本発明の受像層はデータ記憶媒体の作成に一般的なコア層にラミネートすることができる。受像層のラミネート形成特性はキャリア層で決定され、アクセプタ層の特性では決定されない。受像層は実質的に、良好な長期安定性を有する、PETGに基づくから、受像層は十分に再利用することができ、したがって環境に優しい。
【0010】
本発明の受像層は、純PETGの形態の第1の原材料及び少なくともPETGと10重量%のポリスチレンの混合物の形態の第2の原材料を同時押出しすることによって、特に有利な態様で作成することができる。同時押出しで作成されたシートは、いかなる特別な追加処置も施さずにさらに処理することができ、したがって本発明の方法の実施を容易にする。
【0011】
アクセプタ層に含有されるポリスチレンはスチレンコポリマー群からのスチレンポリマーであると便宜が良い。アクリロニトリルスチレンアクリル酸エステル(ASA)が特に好ましい。その使用は、アクセプタ層を比較的薄くしておくことができる、ラミネートとしての受像層の実施によって支援される。よって、まず第一に、ASAの色特性−ASAは若干黄色味を帯びた固有色を有する−の望ましくない影響を最小限に抑えることができる。
【0012】
以下で、図面を参照して本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、キャリア層2及びアクセプタ層3を有する2層受像層1を示す。アクセプタ層3の表面4上に、英数字及び/またはいずれかの形状の画像要素の形態のグラフィック情報5が与えられる。グラフィック情報5をもつ表面4の上に、簡明のために図では表面4から隔てられて示されている、カバー層6が配される。底面7側では、それだけが示されている携帯型データ記憶媒体のコア層10に受像層1が結合される。受像層1,カバー層6及びコア層10は個々に与えられて、適する結合技法を用いて結合される。一般に層1及び10は初めに、携帯型記憶媒体の形状寸法に整合するように切断され、次いで1つに合せられる、シートとして提供される。カバー層16も薄膜として存在することができ、あるいはラッカーの形態で施される。
【0014】
コア層10上に受像層1が施されている携帯型データ記憶媒体は一般に、従来の、身元証明情報あるいは発行者または使用者に割り当てられたその他の形象情報または文字情報が配されている、小切手保証カード、キャッシュカード、バンクカード、身分証明書、運転免許証、パスポートのためのデータシート、SIMカードまたは同等のICカード、スマートカードあるいは小切手保証カードフォーマットまたは別の通常のカードフォーマットのICカードである。携帯型データ記憶媒体は、少なくとも1つの平坦表面及び、例えばブレスレットのような、別途対応機能をもつ、その他の個人化用品も含むと解されるべきである。以下では、クレジットカードフォーマットの身元証明カードの形態の実施形態が携帯型データ記憶媒体の実施形態として用いられる。このタイプの身元証明カード及びそのようなカードの作成は、例えば、ダブリュー・ランクル(W. Rankl)及びダブリュー・エフィング(W. Effing)著,「ICカードハンドブック(Handbuch der Chipkarten)」,(ミュンヘン(Munich)),第4版,Hansa-Verlag,によって十分に知られている。そのようなカードは特に、1層でつくられるように設計できるが、いくつかの部分層のラミネートであることが好ましい、コア層10を有する。コア層10は、ポリカーボネートまたはポリエステルに基づくことが好ましく、一般に600μmの厚さを有する。
【0015】
グラフィック情報5は、転写サーモグラフィの方法によって色テープから表面4に転写される、着色ピクセルで形成される。例えば、エイチ・キップファーン(H. Kipphahn)著,「印刷用メディアハンドブック(Handbuch der Printmedien)」,(ハイデルベルグ(Heidelberg)),Springer Verlag,2000年,第5.6章,に説明されるような、従来の熱転写法または従来の熱昇華法が用いられる。グラフィック情報には、特に、カラー写真を含めることができる。
【0016】
キャリア層2の基材は非晶質ポリエステルであることが好ましい。可能な一材料は特に、PTEG、すなわち、例えば、上に挙げた特許文献2に説明されるような、変性ポリエチレンテレフタレートである。あるいは、キャリア層2は純ポリエステルまたはその他の変性ポリエステルでつくることができる。別の変形において、キャリア層2はポリカーボネートでつくることもできる。キャリア層2の厚さhは一般に100μmである。
【0017】
アクセプタ層3の原材料もPETGであるが、キャリア層2とは異なり、分量が少なくとも10重量%のスチレンポリマーが加えられる。特に、アクリロニトリルスチレンアクリル酸エステル(ASA)群からのスチレンポリマーが適している。アクセプタ層3内のスチレンポリマーの分量は90%までとすることができる。正確な混合比は用いられるスチレンポリマーの実化学特性に依存し、例えばASAが用いられる場合は、ASAに含まれる個々の成分の比に依存する。さらに、正確な混合比は、グラフィック情報5の転写に用いられる転写サーモグラフィ法−熱転写または熱昇華−に依存し、ピクセルの形成に用いられる着色材料に依存する。熱昇華が用いられる場合には、アクセプタ層3内の70重量%のスチレンポリマー分量がほぼ適当な値であることがわかった。アクセプタ層3の厚さhはキャリア層より薄く、一般に10μmである。
【0018】
シート及びカードの作成中の作業性を向上させるため、ここでは特にアクセプタ層3の貼り付きを避けるため、滑剤または粘着防止剤を特にアクセプタ層3だけでなく、キャリア層2にも、加えることができる。
【0019】
カバー層6は第一義的にはグラフィック情報5を保護するためにはたらく。カバー層6は透明であり、厚さhは薄く、一般に3〜25μmである。カバー層6は、グラフィック情報5が与えられた後に、熱と圧力を同時に印加することによって施される。カバー層6はグラフィック情報5が与えられた後、直ちに、例えば100〜190℃における通常の「箔押」プロセスで施されると便宜が良い。カバー層6の基材としては、「Topcoat」という商品名でデータカード(DATACARD)社から入手できるラッカーのような、ラッカーが挙げられる。例えば25μm厚の薄いPETフィルムを用いることもできる。
【0020】
受像層1は単一シートの形態のラミネートとして提供される。このシートは、少なくとも2基の押出機をもつ装置においてキャリア層2のため及びアクセプタ層3のための原材料の溶融ポリマー素材を同時押出しすることによって作成される。キャリア層2のための押出機からの溶融ポリマー素材及びアクセプタ層3のための押出機からの溶融ポリマー素材は単一ノズル内で結合される。あるいは、2つのノズルから出され、その後直ちに合せて圧延される。シートの作成のそれぞれの基本原理は既知であり、例えば、ジェイ・メンドウイック(J. Mendwick)著,「プラスチックシート(Kunststoff-Folien)」,(ミュンヘン),Carl Hanser Verlag,1994年,特に、第3.2.2章及び第3.2.8章に説明されている。さらに、2つのノズルによる押出し及びその後の圧延の原理は上に挙げた特許文献2にも説明されている。
【0021】
提案した受像層1を用いて、身元証明カードを以下のようにして作成することができる。一般にいくつかの個別層をラミネートすることによって作成された、コア層10が提供される。さらに、キャリア層2及びアクセプタ層3を同時押出しすることによって受像層1が作成されて、提供される。続いて、受像層1とコア層10が別のラミネート形成工程によって相互に結合され、結合はアクセプタ層3とコア層10の間にキャリア層2がおかれるような態様で確立される。ラミネート形成工程は、身元証明カードの作成に通常用いられるラミネート形成パラメータを守って実行される。続いて、そのようにして作成された身元証明カード本体上に、転写サーモグラフィによってグラフィック情報5が与えられる。その後、「箔押」工程においてカバー層6がグラフィック情報5をもつ表面4上に施される。
【0022】
アクセプタ層がPETGとスチレンポリマーとの混合物でつくられる、同時押出しによって作成された、PETGに基づく2層受像層1を用いるという基本概念は維持しながら、本発明は多くの適切な実施形態を可能にする。すなわち、受像層1をコア層10の両面に配置できることは当然であり、いずれの受像層1にもグラフィック情報5を与えることができる。さらに、キャリア層2及びアクセプタ層3もいくつかの層で形成することができ、そのようないくつかの層は同様に同時押出しされて2層構造にされる。さらに、一層高い硬度または一層強い弾性のような、ある望ましい材料特性を達成するための添加剤を個々の層に加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】携帯型データ記憶媒体に適用される受像層の断面を示す
【符号の説明】
【0024】
1 受像層
2 キャリア層
3 アクセプタ層
4 キャリア層表面
5 グラフィック情報
6 カバー層
7 受像層底面
10 コア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写サーモグラフィによる転写が可能なグラフィック情報を受け取るための受像層において、前記受像層(1)がキャリア層(2)及びアクセプタ層(3)のラミネートとして構成され、前記キャリア層(2)が実質的に非晶質ポリエステルからなり、前記アクセプタ層(3)が実質的にPETGと少なくとも10重量%のポリスチレンとの混合物からなることを特徴とする受像層。
【請求項2】
前記ラミネート(1)が同時押出しによって作成される単一シートとして形成されることを特徴とする請求項1に記載の受像層。
【請求項3】
前記アクセプタ層(3)に含有される前記ポリスチレンが、スチレンコポリマー群からのスチレンポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の受像層。
【請求項4】
総厚が80〜120μmであり、その内の5〜20μmの厚さ(h)が前記アクセプタ層(3)に割り当てられることを特徴とする請求項1に記載の受像層。
【請求項5】
前記アクセプタ層(3)に滑剤及び/または粘着防止剤が加えられることを特徴とする請求項1に記載の受像層。
【請求項6】
前記キャリア層(2)がポリカーボネートでつくられることを特徴とする請求項1に記載の受像層。
【請求項7】
コア層及び転写サーモグラフィによってグラフィック情報がその上に与えられる受像層を有する、多層構造の携帯型データ記憶装置において、前記受像層(1)がPETGのキャリア層(2)及びPETGと少なくとも10重量%のスチレンコポリマーとの混合物のアクセプタ層(3)のいずれをも有することを特徴とする携帯型データ記憶媒体。
【請求項8】
前記受像層(1)がポリエステルのコア層(10)上に配置されることを特徴とする請求項7に記載の携帯型データ記憶媒体。
【請求項9】
前記アクセプタ層(3)の表面(4)上に透明なカバー層(6)が施されることを特徴とする請求項7に記載の携帯型データ記憶媒体。
【請求項10】
転写サーモグラフィによって与えられるグラフィック情報を受け取るための受像層を作成する方法において、PETGの第1のポリマー溶融体及びPETGと少なくとも10重量%のスチレンコポリマーとの混合物の第2のポリマー溶融体が同時押出しされてラミネートを形成することを特徴とする方法。
【請求項11】
転写サーモグラフィによってグラフィック情報を与えることができる携帯型データ記憶媒体を作成する方法において、
−ポリエステルベースまたはポリカーボネートベースのコア層(10)を提供する工程、
−PETGを実質的に含む第1の原材料を提供する工程、
−PETGと少なくとも10重量%のポリスチレンとの混合物を含む第2の原材料を提供する工程、
−前記2つの原材料を同時押出しして受像層(1)を形成する工程、
−アクセプタ層(3)と前記コア層(10)の間にキャリア層(2)がおかれるように、前記受像層(1)及び前記コア層(10)をラミネートにする工程、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−546558(P2008−546558A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516242(P2008−516242)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005798
【国際公開番号】WO2006/133953
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(596007511)ギーゼッケ ウント デフリエント ゲーエムベーハー (47)
【氏名又は名称原語表記】Giesecke & Devrient GmbH
【出願人】(507412139)スカノ マネージメント+サーヴィシーズ アーゲー (1)
【氏名又は名称原語表記】SUKANO MANAGEMENT+SERVICES AG
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】