説明

シアノシステインを介した切断の自動反応装置

【課題】タンパク質切断回収装置を自動化する。
【解決手段】一般式(1)で示されるタンパク質には、R2部分にタグ配列を含んでいることから、タグ配列部分を介して、タグ配列と強固に結合するアフィニティ担体を利用し、担体上に固定化することにより、一般式(1)で示されるタンパク質を固相状態で取り扱うこととし、適切な溶液を通液して、還元反応、シアノ化反応、および切断反応を行わせ、切断反応の結果生成した目的産物であるR1部分だけは、アフィニティ担体には結合できず回収するようにしたタンパク質切断回収装置。
R1−C−X−R2 (1)
(ここで、R1はシステイン残基以外で構成される任意のアミノ酸残基の連鎖で構成されるアミノ酸配列を、Cはシステイン残基を、Xは、システイン以外の任意のアミノ酸残基を、R2は、タグ精製に用いられるシステイン残基を含まず、タグ精製に用いられるペプチドもしくはタンパク質配列を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の製造、生産用の装置に関し、特に、断片化タンパク質の精製に用いる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の製造において多くの場合は、組み換えDNA技術などを用いて、製造しようとするタンパク質をコードする遺伝子を生物から分離したり、分離した遺伝子を変異させたり、もしくは、遺伝子を人工的に合成したりして、得られた遺伝子を適切な遺伝子発現系を用いて、宿主生物内もしくは分泌の仕組みを用いて培地中に発現・蓄積させることが行われる。このような製造方法を用いた場合、目的とするタンパク質は、目的外のタンパク質もしくはその他もろもろの生物由来および宿主生物を培養するための培養液由来などの成分を多く含んだ状態で得られる。従って、目的とするタンパク質を不純物が含まない状態で利用することを試みた場合、各種不純物を取り除く操作、すなわち、精製という操作が不可欠となってくる。
【0003】
タンパク質は、20種のアミノ酸残基を構成単位とするポリマーであるため、その配列は無限にあり、それぞれが異なった物性を有する。従って、一般的には、タンパク質の精製を考えるとタンパク質ごとに精製方法を変える必要があることになる。このことを回避する方法として、目的とするタンパク質のアミノ末端もしくはカルボキシ末端に、特殊なアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはポリペプチド(これを以下「精製タグ配列」と称する)、を結合させ、精製タグ配列の物性を利用した精製方法の共通化(これを以下「タグ精製」と称する)、が図られており、広く用いられている。
精製タグ配列としては、特定の化合物と結合し得る配列、すなわちアフィニティータグ配列が利用される。そのような配列としては、ポリヒチジンよりなる、ヒスタグ、V5タグ、Xpressタグ、AU1タグ、T7タグ、VSV−Gタグ、DDDDKタグ、Sタグ、CruzTag09、CruzTag22、CruzTag41、Glu−Gluタグ、Ha.11タグ、KT3タグ等がある。
以下に、各種タグとそのタグを認識結合するリガンドとの組み合わせの一例を示している。
<タグ> <リガンド>
グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GTS) グルタチオン
マルトース結合タンパク質(MBP) アミロース
HQタグ ニッケル
Mycタグ 抗Myc抗体
HAタグ 抗HA抗体
FLAGタグ 抗FLAG抗体
【0004】
タグの利用は、目的タンパク質の精製には有効ではあるが、目的タンパク質の利用を考えると、タグ配列が融合していることが問題となり、必要に応じてタグ配列部分を特異的に除去する必要がある。また、切断除去反応後には、切断されたタグ配列と目的タンパク質が混在することから、目的タンパク質だけを分離精製する必要がある。この様な精製は、取り扱う量が少量、すなわち、実験室レベルの量であれば、ゲルろ過クロマトグラフィーなどで、分子サイズで分けることが多く、特に問題とならないが、産業用に大量に取り扱う場合は、スケールアップなどの点で問題が多く、労度とコストの面で改良すべき点が多い。また、用いる切断反応によりその対策には各種問題が生じる。
発明者らは、既に、シアノシステインを介した切断反応を利用して、目的のタンパク質と精製タグを含む余分な部分を切り分けることを行っており(特許文献1〜4参照)、特許文献3においては、その際、切断反応後に精製タグを含むタンパク質の除去に精製タグを認識して結合する担体の利用が有効であることを示している。しかしながら、シアノシステインを介した切断反応およびその後の分離精製工程は、複数の工程からなり、簡便であるとは言えず、その利用拡大において難がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3950495号公報(特開平10−45796号)
【特許文献2】特開2008−266219号公報
【特許文献3】特開2008−280259号公報
【特許文献4】特開2008−115151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、シアノシステインを介した切断反応を活用した目的タンパク質の製造方法の効率化を目的に、まず、前提条件として、
一般式 R1−C−X−R2 (1)
ここで、R1はシステイン残基以外で構成される任意のアミノ酸残基の連鎖で構成されるアミノ酸配列を、Cはシステイン残基を、Xは、システインおよびリジン以外のアミノ酸残基を、R2は、システイン残基を含まず、タグ精製に用いられるペプチドもしくはタンパク質配列を表す、
で、表されるタンパク質を用いて、シアノシステインを介した切断反応により、R1で表される、システインを全く含まないタンパク質を製造する方法に限定し、その製造方法を自動的に行う装置を開発することにより、上記問題が解消できるものと考え、本発明の装置を発明するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般式(1)で示されるタンパク質を入手後、シアノシステインを介した切断反応を実行し、R1であらわされる目的タンパク質部分を、R1−C−X−R2から切断・分離精製するためには、
1.適切な緩衝液に溶解して、唯一存在するシステイン残基が空気酸化などの酸化を受けている可能性があることから、適当な還元剤を添加して反応を行うことにより、システイン残基のSH基をシアノ化できる状態にする。
2.還元後、反応液中に残っている還元剤及び還元剤由来の反応生成物を除去する。
3.シアノ化試薬を用いて、システイン残基のSH基をシアノ化する。
4.シアノ化試薬を除く。
5.切断反応を効率よく行わせる溶液条件(pH)を弱アルカリ側に変更する。
6.切断反応終了後に切断生成産物であるR1と、R2を含むタンパク質断片、副生成物、未反応物とを分離して精製する。
の操作を行う必要があり、煩雑な工程となっている。
本発明者らは、鋭意研究の上、上記工程における煩雑さの大きな要因が、均質な溶液状態で、反応溶液の交換操作にあると考え、反応を固相状態、すなわち一般式(1)であらわされるタンパク質を、精製タグ配列を利用して、精製タグ精製に用いられるアフィニティ担体に結合させることにより、不溶化(固相状態にする)ことで、反応溶液の交換が容易になることを考案し、この考案に基づき、上記工程の自動化が達成できるとの着想を得るに至った。
すなわち、一般式(1)で示されるタンパク質には、R2部分にタグ配列を含んでいることから、タグ配列部分を介して、タグ配列と強固に結合するアフィニティ担体を利用し、担体上に固定化することにより、一般式(1)で示されるタンパク質を固相状態で取り扱うことができること、また、還元反応、シアノ化反応、および切断反応を行わせるには、適切な溶液を通液することが行わせることができること、さらに、切断反応後には、R2部分を含む配列がアフィニティ担体に結合するが、切断反応の結果生成した目的産物であるR1部分だけは、アフィニティ担体には結合できず、溶液に回収され、切断と精製が同時に行わせることができることを考案し、これらの考案に基づき、一連の操作を自動的に行わせる装置を作成し、その動作が考案どおり作動することを確認し、本発明を完成するに至った。
本発明のタンパク質切断回収装置は、一般式(1)
R1−C−X−R2 (1)
ここで、R1はシステイン残基以外で構成される任意のアミノ酸残基の連鎖で構成されるアミノ酸配列を、Cはシステイン残基を、Xは、システインおよびリジン以外のアミノ酸残基を、R2は、システイン残基を含まず、タグ精製に用いられるペプチドもしくはタンパク質配列を表す、
で、示されるタンパク質鎖の切断において、該タンパク質配列中に唯一存在するシステイン残基をシアノ化することにより自発的に生じる切断反応と、該切断反応により精製した一般式(1)において示されるタンパク質配列のうちR1部分で示される切断産物の回収を同一装置内で行わせることを特徴とする。
また、本発明のタンパク質切断回収装置は、さらに、上記一般式(1)で示されるタンパク質鎖の切断において、R2で示されるタグ配列部分を特異的に結合する不溶性担体を用いて、該タンパク質を該不溶性担体に結合させた状態で、該タンパク質に唯一存在するシステイン残基のシアノ化反応を行わせ、タンパク質をシアノ化させた後、シアノシステイン残基を介した自発的切断反応を行わせ、切断により生じた一般式(1)で示される該タンパク質のR1部分が、前記不溶性担体から遊離する唯一の切断産物であることを利用して回収する操作を行わせることを特徴とする。
また、本発明のタンパク質切断回収装置は、さらに、上記一般式(1)で示されるタンパク質鎖の切断において、R2で示されるタグ配列部分を特異的に結合する不溶性担体を有するアフィニティカラムと、アフィニティカラムに通液する溶液を収容した複数の容器と、溶液切り替えるための複数のバルブと、通液用のポンプと、バルブの切り替えを制御する制御装置とを備え、制御装置は、一般式(1)で示されるタンパク質の溶液をアフニティカラムに通液してR2で示されるタグ配列部分を不溶性担体と強固に結合させることにより一般式(1)で示されるタンパク質をアフィニティカラムに吸着させ、シアノ化試薬溶液をアフィニティカラムに通液してアフィニティカラムに吸着している一般式(1)で示されるタンパク質のシステイン残基のSH基をシアノ化した後、切断用タンパク質溶液を通液してシアノシステイン残基を介した自発的切断反応を行わせ、切断により生じた一般式(1)で示される該タンパク質のR1部分を前記不溶性担体から遊離させることにより、R1部分で示される切断産物を精製タンパク質として、元のタンパク質及びR1以外の切断反応産物とを分けて回収するようにバルブを切り替え制御することを特徴とする。
また、本発明のタンパク質切断回収装置は、さらに、上記一般式(1)で示されるタンパク質鎖の切断において、R2で示されるタグ配列部分がヒスチジン残基の連鎖であり、かつ、不溶性担体を有するアフィニティカラムがニッケルキレートカラムであることを特徴とする。
本発明に用いられるタグ配列としては、特定の化合物と結合し得る配列、すなわちアフィニティータグ配列が利用される。そのような配列としては、ポリヒチジンよりなる、ヒスタグ、V5タグ、Xpressタグ、AU1タグ、T7タグ、VSV−Gタグ、DDDDKタグ、Sタグ、CruzTag09、CruzTag22、CruzTag41、Glu−Gluタグ、Ha.11タグ、KT3タグ等が利用可能であり、それぞれのタグ配列に最適なアフィニティカラムが市販品として利用できる。このことから、タグ配列の種類により本発明が制限を受けないことは明白である。なお、これらのタグ配列のうち、ヒスチジン残基の連鎖よりなる、いわゆる、ヒスタグ配列とこの配列を特異的に強く認識結合するニッケーキレートカラムの組み合わせが、単純で且つ利便性が高い。ポリヒスチジンのタグとしては、4以上のヒスチジンの連鎖であることが望ましいが、より望むらくは、6ヒスチジン以上の連鎖が、好適であり、10ヒスチジン以上の連鎖は、使用できるが、経済性等の観点で、特に望まれるものではないことを付記する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、煩雑だったタグ部分の切断反応とその後の精製操作を、同一の装置で、自動的に行うことが可能となり、タンパク質製造の効率化に大きく寄与する。
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明の一般性は、実施例に用いられた条件等によって制限を受けないことは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の装置の概要を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施例で用いた容器1〜8の溶液の概要とその組成を示した図である。
【図3】図3は、本発明の実施例での各操作ステップに応じてバルブV1〜V6を切り替え制御するための操作プログラムを示した図である。
【図4】図4は、実験1〜3の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の装置の概要を示す図である。図1において、1,2,3,4,5,6,7,8は、溶液を入れる容器を示し、V1,V2,V3,V4,V5,V6は、流路を制御する切り替えバルブ、Pは送液用ポンプ、Cは、タグ配列を認識して結合するアフィニティ担体を入れた分離カラムをそれぞれ示している。流路の切り替えを示すために、図中の符号a,b,c,d,e,f,gと矢印とでバルブを切り替えた時の通液方向を示している。バルブV1〜V9は、図示しない制御装置によりバルブの切り替えをプログラムすることにより、通液の開始から分離終了まで、自動的に行わせることができる。
なお、図1に示した容器及び切り替えバルブの構成は、後述する実施例で詳細を記載するタグ配列としてポリヒスチジンを用いた際の最少構成を示しており、容器1と容器2との間に、適宜、容器と切り替えバルブを追加することで、より多様な反応条件に対応することが可能である。
また、図2は、後述する、実施例で用いた、容器とそれらの使用目的及び容器中の溶液の具体例を示すものであるが、容器の数および溶液等の内容については、用いる反応条件等により適宜変更が必要であり、図2によって本発明は制限を受けない。
図3は、後述する実施例で用いた図2の容器・溶液の具体例で構成される装置における、バルブのV1〜V6の切り替えの操作プログラムを示した図であって、図3に例示するような操作手順に従ってバルブ操作を行うことにより、切断およびその後の精製操作を自動的に行うことができる。
一般式(1)におけるR2部分にポリヒスチジンをタグ配列として含む場合は、図1のカラムとして、ニッケルキレートカラムを用い、図2の容器番号1〜4の容器には、それぞれ図2に示す組成の溶液を入れ、容器番号5の容器には、還元処理としてジチオトレイトールを含ませた溶液に溶解したタンパク質容積を入れ、容器番号6の容器には、用いられるニッケルキレートカラムの容量の2倍から10倍量の切断反応用の溶液を入れ、図3に示す手順により、バルブを切り替えることで、60〜80%の収率で一般式(1)におけるR1部分のタンパク質を精製回収できる。
【実施例】
【0011】
図1の概要図で表される反応・分離精製装置の構成を満たす装置の実施において、必要な部品としては、市販のものを購入して、装置の作製を行った。本装置を構成する部品としては、Pの送液ポンプは、GE Healthcare社のP−1ポンプを、V1,V2,V3,V4,V5のバルブとしては、高砂電気工業社のMTV−3−NM6NAを、V6のバルブとしては、フロム社の回転バルブModel 401−74を、Cのアフィニティカラムとしては、キアゲン社製のニッケルキレート担体、Ni−NTA Superflow担体、50mLを、GE Healthcare社のKKカラムに充てんしたものを、1,2,3,4,5,6,7,8で表現される容器としては、通常のガラスビーカーを、各装置をつなぐ配管としては、通常の耐圧チューブを、選択もしくは切り替え信号を伝え作動させるための制御装置としては、PanasonicのFP−XC14Tを、それぞれ、用いて作製した。なお、本実施例で用いた構成部品については一例であり、図1に示した流路及びその切り替えを自動的に行うための機能を持つものであれば、どのような部品を用いても本発明の構成を達成できることは自明であり、構成部品によって本発明が制限は受けない。
【0012】
一般式(1)に該当するタンパク質として、既に本発明者らが作製しているタンパク質の配向制御固定化に適したタンパク質で且つ抗体結合能を有するタンパク質(ProA3Dと称する、特許文献4(特開2008−115151)に記載のプラスミドpAA3Tにコードされている組み換えタンパク質)を用いた。ProA3Dは、天野エンザイム社から、「IBP−“AMANO”−2」という品名で製造販売されており、本実施例においては、IBP−“AMANO”−2(天野エンザイム社製、乾燥品の形で供給)を購入し、そのまま以下の操作に用いた。このタンパク質のR2部分の配列は、6個のアスパラギン酸残基の連鎖の引き続く、6個のヒスチジンの連鎖により構成されており、後半の6個のヒスチジン残基の連鎖の部分をタグ配列として利用できるタンパク質である。
購入したIBP−“AMANO”−2(天野エンザイム社製)を1g秤量し、これを、洗浄用緩衝液である0.5MNaClを含む10mMリン酸緩衝液,pH7.0、1Lに溶解した。溶解したタンパク質溶液中のタンパク質量を測定したところ、0.75mg/mLの濃度であった。この値は、天野エンザイムから提供されている試料中のタンパク質含量値である0.75mgタンパク質/mgと一致する値であった。
このようにして調整したタンパク質溶液を、50mL,200mL及び500mLに分け、それぞれの容量のタンパク質溶液を用いて、作製した装置を用いた分離・精製実験を行った。
容器番号1の容器には、タンパク質溶液に0.1Mのジチオトレイトール(DTT)溶液を、1/100容量加えたもの(実験1においては、0.5mL、実験2においては、2mL、実験3おいては、5mLをそれぞれ加えた)を用いた。
容器番号2の容器には、0.5Mイミダゾール、0.5MNaClを含む10mMリン酸緩衝液,pH7.0の組成の溶液を、容器番号3の容器には、0.5MNaClを含む0.1Mリン酸緩衝液,pH9.5の組成の溶液を、容器番号4の容器には、1mMNTCB,0.5MNaClを含む10mMリン酸緩衝液,pH7.0の組成の溶液を、容器番号5の容器には、1mMDTTで処理した切断用タンパク質溶液,pH7.0の組成の溶液を入れた。容器番号6の容器には、あらかじめ、250mL(5カラム容量分)の0.5MNaClを含む10mMリン酸緩衝液、pH9.5の組成の溶液を入れ、容器ごと37℃の恒温槽に保持した。
上記各容器1〜6の溶液の組成をまとめて図2に示す。
【0013】
上記のように、各溶液をセットし、図3に示すプログラムに従って装置を作動させた。
反応終了後、容器6及び容器7に回収されたタンパク質溶液を、10mMリン酸緩衝液,pH7.0に対して透析し、回収されたタンパク質の容量とタンパク質濃度を測定した。また、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動により純度の測定、およびLC−MSによる分子量の測定を行った。
測定結果を、図4に示す。図4における実験1,実験2,実験3は、図3で示した実験1,実験2,実験3に対応したものである。図4の測定結果によれば、回収率が65から80%の範囲で、切断した産物が得られたが、シアノシステインを介した切断反応の効率と同等の効率であり、自動化による反応の低下は認められなかった。精製・回収されたタンパク質の純度はほぼ均一であり、精製タグの無いタンパク質が選択的に溶液中に回収されたことを示している。また、得られたタンパク質の分子量は、LC−MSの測定で、配列から計算される分子量とほぼ一致しており、目的の位置で正しく切断が行われたことを示している。
以上のことから、作製した装置が、正常に作動したことが確かめられた。また、この装置の有効性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、上記一般式(1)R1−C−X−R2で表現されるタンパク質からR1部分だけを分離精製することに適用できる。
【符号の説明】
【0015】
1〜8 容器
V1〜V6 バルブ
P ポンプ
C アフィニティカラム
a〜g 通液方向を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
R1−C−X−R2 (1)
ここで、R1はシステイン残基以外で構成される任意のアミノ酸残基の連鎖で構成されるアミノ酸配列を、Cはシステイン残基を、Xは、システインおよびリジン以外のアミノ酸残基を、R2は、システイン残基を含まず、タグ精製に用いられるペプチドもしくはタンパク質配列を表す、
で、示されるタンパク質鎖の切断において、該タンパク質配列中に唯一存在するシステイン残基をシアノ化することにより自発的に生じる切断反応と、該切断反応により精製した一般式(1)において示されるタンパク質配列のうちR1部分で示される切断産物の回収を同一装置内で行わせることを特徴とするタンパク質切断回収装置。
【請求項2】
前記一般式(1)で示されるタンパク質鎖の切断において、R2で示されるタグ配列部分を特異的に結合する不溶性担体を用いて、該タンパク質を該不溶性担体に結合させた状態で、該タンパク質に唯一存在するシステイン残基のシアノ化反応を行わせ、タンパク質をシアノ化させた後、シアノシステイン残基を介した自発的切断反応を行わせ、切断により生じた一般式(1)で示される該タンパク質のR1部分が、前記不溶性担体から遊離する唯一の切断産物であることを利用して回収する操作を行わせることを特徴とする請求項1記載のタンパク質切断回収装置。
【請求項3】
前記一般式(1)で示されるタンパク質鎖の切断において、R2で示されるタグ配列部分を特異的に結合する不溶性担体を有するアフィニティカラムと、アフィニティカラムに通液する溶液を収容した複数の容器と、溶液切り替えるための複数のバルブと、通液用のポンプと、バルブの切り替えを制御する制御装置とを備え、
制御装置は、一般式(1)で示されるタンパク質の溶液をアフニティカラムに通液してR2で示されるタグ配列部分を不溶性担体と強固に結合させることにより一般式(1)で示されるタンパク質をアフィニティカラムに吸着させ、
シアノ化試薬溶液をアフィニティカラムに通液してアフィニティカラムに吸着している一般式(1)で示されるタンパク質のシステイン残基のSH基をシアノ化した後、
切断用タンパク質溶液を通液してシアノシステイン残基を介した自発的切断反応を行わせ、
切断により生じた一般式(1)で示される該タンパク質のR1部分を前記不溶性担体から遊離させることにより、R1部分で示される切断産物を精製タンパク質として、元のタンパク質及びR1以外の切断反応産物とを分けて回収するようにバルブを切り替え制御することを特徴とする請求項2記載のタンパク質切断回収装置。
【請求項4】
前記一般式(1)で示されるタンパク質鎖の切断において、R2で示されるタグ配列部分がヒスチジン残基の連鎖であり、かつ、不溶性担体を有するアフィニティカラムがニッケルキレートカラムであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項記載のタンパク質切断回収装置。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−275237(P2010−275237A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129895(P2009−129895)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新機能抗体創製技術開発/高効率な抗体分離精製技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】