説明

シアリルα(2→6)ラクトース含有化合物及びその使用

【課題】本発明は、ウィルス特にインフルエンザの感染を効果的に阻害する化合物の提供を目的とする。
【解決手段】次式(I)、


(式中、Aは、酸素、窒素、カルボニル又は硫黄を含んでもよい炭化水素鎖を示し、Bはシアリルラクトース誘導体を示す)で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、及びこれらシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物を有効成分として含む抗ウィルス剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアリルα(2→6)ラクトース含有化合物、及び該化合物を有効成分として含くむ医薬及び治療方法に関する。より詳細には、シアリルα(2→6)ラクトースのダイマー、シアリルα(2→6)ラクトース結合水溶性ポリマー及びシアリルα(2→6)ラクトース結合デンドリマー及びこれらの化合物を有効成分して含む抗インフルエンザウィルス剤、並びに、これらの化合物を含むインフルエンザの予防及び/又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウィルスは、その内部に存在する8本の一本鎖RNAに変異が導入されやすく、その結果、従来効果を示していたワクチン等に対する耐性ウィルスが生じるやすい。このようなインフルエンザウィルスの性質から、毎年のようにインフルエンザウィルスによる感染症が流行し、これによる死者も少なからず生じている。インフルエンザウィルスによる感染には、宿主細胞に対する接着と脱離が重要であり、それには異なる2種類の糖タンパク(ヘマグルチニンとシアリダーゼ)が作用している。
このようなインフルエンザウィルスの性質に着目して、いくつかのインフルエンザ治療剤が製造されており、インフルエンザ感染症の流行を抑止する上で一定の効果を上げてきた。これらの製剤としては、例えば、インフルエンザ膜タンパク質のイオンチャンネル阻害剤(シンメトレル(アマンタジン))やシアリダーゼの阻害剤(タミフル(リン酸オセルタミビル)とリレンザ(ザナミビル))が、インフルエンザの特効薬として処方されている。しかしながら、これらの特効薬は何れも天然物とは異なるため、その耐性ウィルスの出現が危惧されており、近年、シンメトレルやタミフルに対する耐性ウィルスが出現した事例の報告もある。そのため、変異性の高いインフルエンザウィルスによる感染症に対して、効果を持続し得る医薬の開発が望まれている。
【0003】
インフルエンザウィルスの表面に存在する糖タンパク質のヘマグルチニンは、感染対象である細胞表面に存在する糖タンパク質のシアル酸残基を結合する性質を持っており、この性質を利用して細胞へ感染することが知られている。ヒト由来のインフルエンザウィルスのヘマグルチニンは、シアル酸とガラクトースがα(2→6)結合したものだけを認識することが知られており、シアル酸とガラクトースがα(2→6)結合した糖鎖部分を利用すれば、インフルエンザの感染を効果的に阻害することができるとの予測のもとにインフルエンザ感染予防に関する研究が活発に行われている。これまでに、いくつかの予防手段となり得る化合物が報告されているが(特許文献3)、現段階では未だに実用段階に至ったものは少ない。
【0004】
これまでに、発明者らは、各種糖鎖含有カルボシランデンドリマー化合物に関する知見に基づいて(非特許文献1)、インフルエンザウィルス等のウィルス表面に存在するヘマグルチニンを特異的に接着し、生体に対するウィルス感染を防止し得る物質として、シアリルラクトース含有デンドリマーを開示した(特許文献2)、生体内における適合性および安全性に優れたアミド結合を介して糖鎖を結合するデンドリマー(特許文献3)、及びシアリルラクトサミン結合デンドリマー(特許文献4)の開示も行っている。
【0005】
【非特許文献1】Matsuokaら,Bull.Chem.Soc.Jpn.,71:2709-2713 1998
【特許文献1】特開2008−31156
【特許文献2】国際公開公報WO02/02588
【特許文献3】特開2003−212893
【特許文献4】特開2006−257028
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、インフルエンザの感染を阻止すべく、多くの研究が精力的に行われてきたが、感染阻害効果が高く、また、コスト面においても安価に容易に提供できる化合物及び該化合物を含む製剤を提供するには至っていない。
従って、本発明は、ヒトインフルエンザウィルスの感染を有効に阻害し、安価かつ容易に製造することができる化合物の提供、及び該化合物を含有する抗インフルエンザ予防薬及び/又は治療薬、さらには、インフルエンザ感染の予防手段等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究を行った結果、シアリルα(2→6)ラクトース含有化合物、特に、シアリルα(2→6)ラクトースのダイマーが効果的にインフルエンザの感染を予防し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
インフルエンザウィルスのヘマグルチニンと結合し、その感染を阻害し得る化合物はこれまでにもいくつか知られているが、通常は、これらの化合物をできるだけ高密度にクラスター化して、阻害効果を高める方向で検討が行われていたが、本発明においては、意外にも、比較的低分子であるシアリルα(2→6)ラクトースのダイマーが効果的にインフルエンザによる感染を阻害し得ることが見出された。従って、本発明によって、インフルエンザ感染の阻害化合物の開発を、比較的低コストかつ容易に行う手段が提供されることになる。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式(I)
【化6】


[式中、Aは、酸素、窒素、カルボニル又は硫黄を含んでもよい炭化水素鎖を示し、Bは下記の式(II)の置換基
【化7】


(ただし、Rは水素、ベンジル基又はアセチル基であり、Rは水素、金属原子又はメチル基を表す)のいずれか]で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、並びに該化合物及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物に加えて薬理学上許容される担体を含有することを特徴とする感染症、特に、インフルエンザウィルスによる感染症の予防又は治療のための抗ウィルス剤、あるいは、予防又は治療のための用途を提供する。
【0009】
また、本発明は、次式(III)
【化8】


(式中、Rは、水素、ベンジル基又はアセチル基であり、Rは、水素、金属原子又はメチル基を示し、m及びnは1以上の整数であって、同一でも相違なってもよい)で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、並びに該化合物及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物に加えて薬理学上許容される担体を含有することを特徴とする感染症、特に、インフルエンザウィルスによる感染症の予防又は治療のための抗ウィルス剤、あるいは、予防又は治療のための用途を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、 次式(VI)
【化9】


(式中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素、窒素又はカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yは下記の式(V)の置換基、
【化10】


(ただし、Z1及びZ2は酸素又は硫黄であって、同一又は異なってもよい)若しくは他の官能基であって少なくとも1つは式(V)の置換基を示し、kは0〜2の整数であり、lは0〜2の整数であり、jは0又は1の数を示し、jが0のときは3−lは1である)で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物、並びに該化合物及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物に加えて薬理学上許容される担体を含有することを特徴とする感染症、特に、インフルエンザウィルスによる感染症の予防又は治療のための抗ウィルス剤、あるいは、予防又は治療のための用途を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシアリルラクトース誘導体結合化合物は、抗ウィルス活性、特に、抗インフルエンザ活性を有することから、有効な抗インフルエンザウィルス剤の有効成分として利用することができる。
【0012】
本発明のシアリルラクトース誘導体結合化合物のうち、シアリルラクトース誘導体ダイマーは製造が容易であり、かつ、安価に製造することができるため、抗インフルエンザ剤の安定な供給を行うことができる。
【0013】
本発明の抗ウィルス剤は、インフルエンザによる感染症の予防又は治療の用途に用いることができる。用途としては、例えば、医薬としての点鼻薬の他、インフルエンザ感染に対する衛生用品として口腔又は喉に塗布又はスプレーするための、塗布剤又はスプレーの有効成分として使用することができる。あるいは、空気清浄機のフィルター又はマスクのカーゼ等に、活性を保持するような形態で塗布又は充填することにより、空気中のウィルスを捕獲し、人体等への感染の事前予防に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態の1つは、一般式(I)で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物である。一般式(I)中、Aは、酸素、窒素、カルボニル又は硫黄を含んでもよい炭化水素鎖を示し、Bは下記の式(II)の置換基
【化11】


のいずれかであるが、ここで、Rは水素、ベンジル基又はアセチル基であり、Rは水素、金属原子又はメチル基を表すなどが好ましい。特に、R及びRが水素であり、Aが−O−(CH−S−S−(CH−O−である場合が好ましい。
【0015】
式(I)の化合物において、Rアセチル基であり、Rがメチル基であり、Aが−O−(CH−S−S−(CH−O−で示される化合物(Ia)は、例えば、以下のような過程により合成することができる。
【化12】

【0016】
まず、 遊離のN−アセチルノイラミン酸に対して、メチル化、O−アセチル化を行い、完全保護体とした後、1−ドデカンチオールとグリコシル化を行い、シアル酸チオグリコシド誘導体とする(a)。一方、受容体となるラクトース−4’,6’−ジオール誘導体は、完全アセチル体より、アノマー位にトリメチルシリルエチル基を有するOSE体と、ベンジル基を有するOBn体の2種類を合成する(b)。次に、シアル酸チオグリコシド誘導体(a)とラクトース−4’,6’−ジオール誘導体(b)とを直接法(例えば、Hasegawaら,J.Carbohydr.Chem.,9(4)(1990)393−414;Hasegawaら,Biosci.Biotech.Biochem.,56(3)(1992)535−536などを参照のこと)によりシアリル化し、式(IIa)の化合物を合成する(スキーム1)。
【化13】

【0017】
次に、式(IIa)の化合物を、脱保護と保護を繰り返し行い、トリクロロアセトイミデート体へと変換し、4−ペンテン−1−オールとのグリコシル化反応により、還元末端のアノマー位に2重結合を有するペンテニルグリコシド誘導体(c)及び、チオアセチル誘導体(IIb)を合成する(スキーム2)。次いで、式(IIb)の化合物を脱アセチル条件下でダイマー化し、糖鎖部分の脱保護をZemplen法による脱アセチル化とけん化による脱メチル化により式(Ia)で示される化合物を合成することができる(スキーム2)。
【化14】

【0018】
本発明の他の実施形態は、一般式(III)で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物である。一般式(III)中、Rは水素、ベンジル基又はアセチル基であり、Rは、水素、金属原子又はメチル基を示し、m及びnは1以上の整数であって、同一でも相違なってもよい。mとnの比は、合成条件により変動するため、如何なる比率であっても良いが、例えば、m:n=1:1〜50、m:n=1:1〜30、m:n=1:5〜30、m:n=1:10〜30、m:n=1:15〜30、m:n=1:15〜20などが好ましい
式(III)の化合物において、Rがアセチル基であり、Rがメチル基である化合物(IIIa)は、例えば、以下のような過程により合成することができる。
【化15】

【0019】
ペンテニルグリコシド誘導体(スキーム2、c)のオレフィン部位の重合性を利用し、酢酸ビニルとのラジカル共重合により合成することができる(スキーム3)。
【化16】

【0020】
本発明のさらなる実施形態は、一般式(IV)で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物である。一般式(IV)中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素や窒素あるいはカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yは式(V)の置換基(ただし、Z1及びZ2は酸素又は硫黄であって、同一又は異なってもよい)若しくは他の官能基であって少なくとも1つは式(V)の置換基を示し、kは0〜2の整数であり、lは0〜2の整数であり、jは0又は1の数を示し、jが0のときは3−lは1である。
また、本発明のデンドリマーにおいては、1分子中の全てのYの位置が上記置換基のいずれかであることが望ましいが、必ずしも、全てのYが上記置換基である必要はなく、例えば、水素、C=C二重結合、水酸基などであってもよく、当該技術分野における通常の合成方法により、チオシアロオリゴ糖以外にYの位置に結合し得ると当業者によって予測され得る置換基の如何なるものであってもよい。
【0021】
式(IV)の化合物の構造は、k、l、mの組み合わせに応じて種々の構造を取り得るが代表的な化学式は下記のようになる。
【化17】


(式IVa、IVb、IVc及びIVd中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、Rは、炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素又は窒素あるいはカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yは式(V)の置換基(ただし、Z1及びZ2は酸素又は硫黄であって、同一又は異なってもよい)若しくは他の官能基であって少なくとも1つは式(V)の置換基を示す)
【0022】
本発明の式(IV)の化合物は、例えば、次の反応式に従って製造することができる。
【化18】


(上記式中、Xはハロゲン原子、Xは反応脱離性の保護基を示し、Yは、Yは式(V)の置換基(ただし、Z1及びZ2は酸素又は硫黄であって、同一又は異なってもよい)若しくは他の官能基であって少なくとも1つは式(V)の置換基)
本発明の式(IV)の化合物は、式(V)で表されるハロゲン化デンドリマーと式(VI)で表されるスルフィド化合物とを反応させ、必要に応じて、スルフィド化合物中の保護基を脱離させることにより本発明の式(IV)の化合物を製造できる。
【0023】
また、式(IV)の化合物において、式(III)のRがフェニル基、Rが−C−、Rが−C10−、Z1及びZ2が酸素であり、jが0、kが1、lが2である化合物(IVa)は、例えば、以下のような過程により合成することができる。
【化19】

【0024】
チオアセチル誘導体(スキーム2、IIb)をカルボシランデンドリマー上へ導入するには、N,N−ジメチルホルムアミド/ メタノール混合溶液中、塩基としてナトリウムメトキシドを用いる脱アセチル化条件下で行うことができる(例えば、Matsuokaら,Carbohydr. Res.,329(2000) 765−772を参照のこと)。最終的に、糖鎖部分の脱保護をZemplen法による脱アセチル化と、けん化による脱メチル化により目的とするシアリルラクトース担持カルボシランデンドリマーの合成を行うことができる(スキーム4)。
【化20】

【0025】
本発明のその他の実施形態は、本発明の化合物を有効成分として含有する、ウィルス感染、特に、インフルエンザウィルス感染の予防及び治療のための抗ウィルス剤である。
上記薬剤は、本発明の化合物、その薬剤上許容される塩又はそれらの水和物のうち、1又は複数の種類を含有してもよい。また、本発明の化合物を製剤化する場合には、製剤中、通常、0.1〜50質量%、好ましくは、0.5〜20質量%となるように含有される。
【0026】
本発明の化合物は、生体に対して悪影響を及ぼさない医薬組成物の形態で特定の疾患の治療薬として使用することができる。通常、そのような組成物には、本発明の化合物の他、薬剤上許容される担体が含まれる。
「薬剤上許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、アイソトニックに作用して吸着を遅らせる薬剤及びその類似物を含み、薬剤的投与に適するもののことである。該担体及び該担体を希釈するために好ましいものの例には、限定はしないが、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、コラーゲン、ヒト血清アルブミン、有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース等などが含まれる。また、リポソーム及び不揮発性油などの非水溶性媒体も用いられる。さらに、本発明の化合物の活性を保護又は促進するような特定の化合物が、該組成物中に包含されていてもよい。
【0027】
本発明に係る薬剤は、皮内、皮下、経口(例えば、吸入なども含む)、経皮及び経粘膜への投与を含み、治療上適切な投与経路に適合するように製剤化される。非経口、皮内、又は皮下への適用に使用される溶液又は懸濁液には、限定はしないが、注射用の水などの滅菌的希釈液、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又は他のメチルパラベンなどの保存剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなどの無痛化剤、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤、塩化ナトリウム又はデキストロースなど浸透圧調製のための薬剤を含んでもよい。
pHは塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調製することができる。非経口的標品はアンプル、ガラスもしくはプラスチック製の使い捨てシリンジ又は複数回投与用バイアル中に収納される。
【0028】
点鼻用薬剤として使用する場合、液剤、ゲル状剤、エアゾール剤等として使用することができ、この場合、担体として、高級アルコール(例えば、オクチルドデカノール等)、脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル)、懸濁化剤(例えば、ポリソルベート80)の他グリセリンプロパーノールなどの安定化剤などを使用することができる。
また、軟膏剤、クリーム剤として使用する場合には、担体として、ワセリン、流動パラフィン、スクワラン、セタノール、ステアリルアルコール等、当業者によって容易に選択可能な物質を使用することができる。
【0029】
経口組成物には、不活性な希釈剤又は体内に取り込んでも害を及ぼさない担体が含まれる。経口組成物には、例えば、ゼラチンのカプセル剤に包含されるか、加圧されて錠剤化される。経口的治療のためには、活性化合物は賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ又はカプセル剤の形態で使用される。また、経口組成物は、流動性担体を用いて調製することも可能であり、流動性担体中の該組成物は経口的に適用される。さらに、薬剤的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質などが包含されてもよい。
錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチ及びその類似物は以下の成分又は類似の性質を持つ化合物の何れかを含み得る:微結晶性セルロースのような賦形剤、アラビアゴム、トラガント又はゼラチンなどの結合剤;スターチ又はラクトースなどの、アルギン酸、PRIMOGEL、又はコーンスターチなどの膨化剤;ステアリン酸マグネシウム又はSTRROTESなどの潤滑剤;コロイド性シリコン二酸化物などの滑剤;スクロース又はサッカリンなどの甘味剤;又はペパーミント、メチルサリチル酸又はオレンジフレイバーなどの香料添加剤。
【0030】
本発明の化合物によるウィルス感染症の予防又は治療において、適切な投与量レベルは、投与される患者の状態、投与方法等に依存するが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に一回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5μg〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む錠剤の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に一回又は二回投与される。
また、点鼻、粘膜への塗布の場合には、適宜、適量を点鼻又は塗布することで投与量を調節することができる。
【0031】
さらに、本発明には、ウィルス感染、特に、インフルエンザウィルスに感染した、又は感染する危険性のある哺乳動物の該感染症に関する予防又は治療方法も含まれる。
ここで「治療」とは、ウィルスに感染するおそれがあるか又は感染した哺乳動物において、該感染症の病態の進行を阻止又は緩和することを意味し、治療的処置のみならず予防的処置をも含む広い意味として使用される。
【0032】
さらに、本発明の抗ウィルス剤をウィルスによる感染症の予防又は治療の用途に用いる場合において、例えば、衛生用品としてのスプレー剤としての用途に関しては、医薬製剤として、点鼻薬、軟膏等の製剤化に準じて製造することができる。また、本発明の抗ウィルス剤を空気清浄機のフィルター又はマスクへの充填に利用する場合には、本発明の化合物の活性を損なうことなく、シート又は繊維等に塗布又は担持させることで使用することができる。
【0033】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
〔合成例1〕シアリルα(2→6)ラクトース誘導体の合成
メチル 5−アセトアミド−2,4,7,8,9−ペンタ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート(2)の合成
N−アセチルノイラミン酸(1)(20.0g,64.7mmol)にメタノール(300.0mL)とDowex−50(20.0g)を加え、窒素雰囲気下、室温で18時間攪拌した。TLC{R0.28[65:25:4(v/v/v)CHCl−MeOH−HO]}にて反応終了を確認後、反応液を綿濾過し濃縮した。得られた残渣に、氷冷下ピリジン(200.0mL)と無水酢酸(153.0mL)、ジメチルアミノピリジン(0.8g,6.47mmol)を加え、室温に戻した後12時間攪拌した。反応液を濃縮後、残渣にクロロホルムと水を加え、水層をクロロホルムで抽出した。有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[AcOEt]により精製し完全保護体(2)(30.0g,87%)を得た。
【表1】

【0035】
ドデシル (メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−2−チオ−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシド)オネート(3)の合成
シアル酸アセテート体(2)(22g,41.2mmol)をジクロロメタン(220.0mL)に溶解し、1−ドデカンチオール(39.5mL,165mmol)を加え攪拌した。アルゴン雰囲気下、氷浴中にて三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(15.5mL,123mmol)を滴下し室温にて5時間攪拌した。反応液をクロロホルムで希釈し水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[1:2(v/v),Hexane−AcOEt]により精製し、(3)(28g,100%)を得た。
【表2】


【化21】

【0036】
4−O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−1,2,3,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノース(5)の合成
酢酸ナトリウム(60g,0.73mol)に無水酢酸(717mL,7.59mol)を加え110℃に加温した。次に、ラクトース(4)(200g,0.58mol)を少量ずつ加え1.5時間攪拌した。反応液を氷蒸留水の中に入れ攪拌し、一晩放置した。蒸留水で酢酸臭を洗い流しながら吸引濾過し、乾燥させた。残渣をエタノールにより再結晶を行い(5)(352g,89%)を得た。
【表3】

【0037】
4−O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシル ブロマイド(6)の合成
β−アセテート体(5)(40g,59mmol)に酢酸(80mL)、無水酢酸(1mL)を加え攪拌後、30%臭化水素−酢酸溶液(24mL,120mmol)を滴下し、密栓、遮光し室温にて2時間攪拌した。反応液をクロロホルムで希釈し水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を濃縮後、残渣をジエチルエーテルにより結晶化を行い、(6)(34g,82%)を得た。
【表4】


【化22】

【0038】
2−(トリメチルシリル)エチル 4−O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−2,3,6−トリ−O−アセチル−D−グルコピラノシド(7)の合成
(i)アセトブロモラクトース(6)(21.4g,30.6mol)をジクロロメタン(150mL)に溶解し、MS−4A(10.0g)を加えアルゴン雰囲気下、遮光し室温で3時間攪拌した。(ii)ジクロロメタン(75mL)に炭酸銀(8.4g,30.6mmol)、過塩素酸銀(6.4g,30.6mmol)、トリメチルエタノール(11mL,76.5mmol)、MS4A(15.0g)を加えアルゴン雰囲気下、遮光し室温で3時間攪拌した。(ii)を氷冷し、(i)を(ii)に遮光した滴下漏斗を用いて滴下し、室温に戻し1時間攪拌した。TLCにて反応終了を確認後、反応液を濾過し、濾液をクロロホルムで希釈して飽和食塩水で抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[5:2(v/v),Toluene−AcOEt]により精製し、(7)(16.2g,72%)を得た。
【表5】

【0039】
2−(トリメチルシリル)エチル 2,3,6−トリ−O−ベンジル−4−O−(2,3−ジ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)−β−D−グルコピラノシド(11)の合成
トリメチルシリルエチルグリコシド誘導体(7)(2.76g,3.73mmol)をメタノール(28mL)に溶解し、ナトリウムメトキシド(0.14g,2.61mmol)を加え窒素雰囲気下、室温で2時間攪拌した。反応液を陽イオン交換樹脂(IR120−B NA)で中和し、イオン交換樹脂を濾取した後、濾液を濃縮した。残渣をエタノールによる再結晶化を行い、化合物(8)(1.54g,93.3%)を得た。(8)(2.80g,6.33mmol)をDMF(14mL)に溶解し、ベンズアルデヒドジメチルアセタール(1.44mL,9.50mmol)とカンファスルホン酸(0.29g,1.26mmol)を加え、60℃に加温し、減圧下において攪拌した。TLCにて反応終了を確認後、トリエチルアミン(0.2mL)により中和し、反応液を濃縮して化合物(9)を得た。得られた(9)をそのままDMF(30mL)に溶解させ、氷冷した水素化ナトリウムDMF溶液中(水素化ナトリウム:1.82g,37.9mmol,DMF:10mL)に滴下した。次に臭化ベンジル(4.5mL,37.9mmol)を滴下し攪拌した。TLCにて反応終了を確認後、少量のメタノール(2mL)により余剰量の水素化ナトリウムを処理し、反応液をトルエンで希釈して飽和食塩水で抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を濃縮後、化合物(10)を得た。得られた(10)を80%酢酸水溶液(100mL)に溶解し、45℃に加温して一晩攪拌した。TLCにて反応終了を確認後、反応液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[2:1(v/v),Hexane−AcOEt]により精製し、化合物(11)(2.26g,40 %)を得た。
【表6】


【化23】

【0040】
ベンジル O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(12)の合成
β−アセテート体(5)(100g,0.147mol)をジクロロメタン(220.0mL)に溶解し、ベンジルアルコ―ル(30.5mL,0.295mol)を加え攪拌した。アルゴン雰囲気下、氷浴中にて三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(55.5mL,0.442mol)を滴下し室温にて5時間攪拌した。反応液をクロロホルムで希釈し蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を少し粘性が出てくるまで濃縮後、ヘキサンを加え激しく振った。白い個体になるまでこの操作を繰り返し、ヘキサンをデカンテーションにより除去後、メタノールによる再結晶化を行い(12)(40g,37%)を得た。
【表7】

【0041】
ベンジル O−(2,3−ジ−O−ベンジル−β−D−ガラクトピラノシル)(1→4)−2,3,6−トリ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシド(16)の合成
化合物(12)(39.80g,54.80mmol)にメタノール(370.0mL)−DMF(100.0mL)混合溶液を加え攪拌した。1Mナトリウムメトキシド−メタノール溶液(38.3mL,38.30mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。陽イオン交換樹脂IR−120B(H)を加え、反応溶液を中和した。樹脂を除き、濃縮乾燥することでベンジルグリコシド体(13)(24.65g)を得た。ここで13の精製は行わずに、(13)(10.00g, 23,14mmol)をDMF(100mL)に溶解させ、ベンズアルデヒドジメチルアセタール(5.3mL,34.71mmol)とp−トルエンスルホン酸・一水和物(0.44g,2.31mmol)を加え室温で5時間攪拌した後に、60℃で1時間攪拌した。反応混合物を氷冷し、トリエチルアミン(0.7mL)を加え中和した後濃縮した。得られた残渣をDMF(100mL)に溶解させ、ヘキサン洗浄した水素化ナトリウム(6.66g)のDMF溶液(100mL)に氷冷下加えた。臭化ベンジル(16.5mL,138.80mmol)を20分かけ滴下した後、2.5時間攪拌した。メタノール(11.3mL)を加えた後、反応溶液を濃縮し、残渣にトルエンと水を加えた。水層をトルエンで抽出した後、有機層を水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮した。得られた残渣に80%酢酸メタノール水溶液(100mL)を加え、50℃で20時間攪拌し、その後濃縮した。残渣にクロロホルムと水を加え、水層をクロロホルムで抽出した後、有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー[2:5(v/v),AcOEt−Toluene]で精製することでジオール体(16)(12.41g)を4段階通算収率61%で得た。
【表8】


【化24】

【0042】
2−(トリメチルシリル)エチル O−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3−ジ−O−ベンジル−β−D−ガラクト−ピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシド(17)の合成
シアル酸チオラウリルグリコシド誘導体(3)(740mg,1.10mmol)と4’,6’−ジオール誘導体(11)(510mg,0.57mmol)をアセトニトリル(9mL)に溶解し、MS4A(1.5g)を加えアルゴン雰囲気下、室温で6時間攪拌した。反応液を−40℃に冷却後、N−ヨードコハク酸イミド(510mg,2.27mmol)、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホン酸(40μL,0.23mmol)の順に加え、3時間攪拌した。反応液を濾過し、濾液をクロロホルムで希釈して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に抽出を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ濾過し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[2:1(v/v), Toluene−AcOEt]により精製し、化合物(17)(78%; α:49%, β:22%, mix:7%)を得た。
【表9】


【表10】

【0043】
ベンジル O−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3−ジ−O−ベンジル−β−D−ガラクト−ピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−ベンジル−β−D−グルコピラノシド(18)の合成
シアル酸チオラウリルグリコシド誘導体(3)(1.52g,1.92×10−3mol)と4’,6’−ジオール誘導体(16)(0.99mg,9.63×10−4mol)をプロピオニトリル(25mL)に溶解し、MS4A(1.76g)を加えアルゴン雰囲気下、室温で一晩攪拌した。NIS(1.02g,4.53×10−3mol)を加え、反応液を−40℃に冷却後、TMSOTf(82μL,4.53×10−4mol)を滴化し、3.5時間攪拌した。反応液を濾過し、濾液にクロロホルムと水を加え、水層をクロロホルムで抽出した。有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後濾過し、濾液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[1:2→2:3→1:1(v/v),AcOEt− Toluene]により精製し、化合物(18)(80%; α:60%, β:20%)を得た。
【表11】


【化25】

【0044】
2−(トリメチルシリル)エチル O−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(19)の合成
3糖誘導体(17)(175mg,0.13mmol)をメタノール(2mL)に溶解し、20%水酸化パラジウム/活性炭(130mg)を加え、水素雰囲気下、室温で数時間攪拌した。TLCにより反応終了を確認後、反応液を活性炭濾過し、濾液を濃縮した。残渣をピリジン(6mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下、氷浴中にて無水酢酸(3mL)を滴下した後、室温に戻し一晩攪拌した。TLCにより反応終了を確認後、反応液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[4:1(v/v),AcOEt−Toluene]により精製し、3糖完全アセチル化体(19)(149mg,100%)を得た。
【表12】

【0045】
アセチル−O−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(20)の合成
3糖誘導体(18)(3.54g,2.61 mol)をメタノール(35mL)に溶解し、20%水酸化パラジウム/活性炭(3.54g)を加え、水素雰囲気下、室温で16時間攪拌した。TLC{R0.71[65:25:4(v/v/v),CHCl−MeOH−HO]}により反応終了を確認後、反応液を活性炭濾過し、濾液を濃縮した。得られた残渣をピリジン(20mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下、氷浴中にて無水酢酸(10mL)を滴下した後、室温に戻し一晩攪拌した。TLCにより反応終了を確認後、反応液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[70:1 (v/v), CHCl−MeOH]により精製し、3糖完全アセチル体(20)(2.89g,100%)を得た。
【表13】


【化26】

【0046】
O−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−a−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(21)の合成
3糖完全アセチル化体(19)(286mg,2.45×10−4mol)をジクロロメタンに溶解し、アルゴン雰囲気下、氷浴中にて三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.3mL 2.08×10−3mol)を滴下し、3時間間攪拌した。反応液をクロロホルムで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[4:1 (v/v), AcOEt−Toluene]により精製し、還元性3糖誘導体(21)(226mg,87%)を得た。
【表14】


【化27】


3糖完全アセチル化体(20)(3.54g,2.61mmol)をDMF(58.0mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下、ヒドラジン・一水和物(64%)(濃度が64%なので、1.6倍すると約1.0等量分となる。0.2mL,2.61mmol)を滴下し、50℃にて20分間攪拌した後に、室温に戻しさらに10分間攪拌させた。反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させ、有機層を濾過し、濾液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[60:1 (v/v),CHCl−MeOH]により精製し、還元性3糖誘導体(21)(2.46g,88%)を得た。
【表15】


【化28】

【0047】
O−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチルβ−D−グルコピラノシル トリクロロアセチミデート(22)の合成
還元性3糖(21)(2.46g,2.30×10−3mol)をジクロロメタン(49.20mL)に溶解し、アルゴン雰囲気下、−5℃に冷却した後トリクロロアセトニトリル(6.93mL,69.0×10−3mol)、DBU(1.8−ジアザビシクロ−[5,4,0]−ウンデカ−7−エン)(0.14mL,9.22×10−4mol)を滴化し数分間攪拌した。その後、0℃で2時間攪拌した。反応液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[50:1 (v/v), CHCl−MeOH]により精製し、α−トリクロロアセトイミデート体(22)(2.79g,100%)を得た。
【表16】


【化29】

【0048】
ペンテニル−O−(メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシロネート)−(2→6)−O−(2,3,4−トリi−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(23)の合成
α−トリクロロアセトイミデート体(22)(100mg,8.25×10−5mol)をジクロロメタン(2mL)に溶解し、4−ペンテン−1−オール(43iL,4.12×10−4mol )、MS4Aを加えアルゴン雰囲気下、室温で攪拌した。反応液を−5℃に冷却した後、TMSOTf(30μL,1.65×10−4mol)を滴下し5時間攪拌した。反応液を濾過し、濾液をクロロホルムで希釈して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[2:1 (v/v), AcOEt−Toluene]により精製し、3糖ペンテニルグリコシド誘導体(23)(67mg,72%)を得た。
【表17】


【化30】

【0049】
ペンテニル−O− (5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシル酸)−(2→6)−O−β−D−ガラクトピラノシル−(1→4)−β−D−ガラクトピラノシド(24)の合成
ペンテニルグリコシド誘導体(100mg,8.80×10−5mol)に、メタノール(1mL)と1Mナトリウムメトキシド−メタノール溶液(90μL,8.80×10−5mol)を加え、13時間攪拌した。反応終了{R0.31 [65:25:4 (v/v/v) CHCl−MeOH−HO]}を確認後、0.1M水酸化ナトリウム水溶液(1mL)を加え、一晩攪拌した。陽イオン交換樹脂IR120B(H)により中和後、濃縮した。ゲル濾過による精製後、凍結乾燥することで、白色粉体の(24)(60mg,100%)を得た。
【表18】


【化31】

【0050】
5−アセチルチオペンチル [メチル (5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−α−D−ガラクト−2−ノニュロピラノシル)オネート]−(2→6)−O−(2,3,4−トリ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(25)の合成
ペンテニルグリコシド誘導体(23)(1.18g,1.04mmol)を1,4−ジオキサン(2.51mL)に溶解し、チオ酢酸(2.51mL,35.30mmol)を加え50℃に加熱した。10分後AIBN(0.34g,2.08mmol)を加え80℃で加熱攪拌した。3時間後、反応液を冷却しシクロヘキサン(7.16mL,70.60mmol)を加え数分攪拌した。反応液にトルエンを加え共沸濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[0:1→1:1 (v/v), AcOEt−Toluene]により精製し、化合物(25)(1.25g)を定量的に得た。
【表19】


【化32】

【0051】
メチル 5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−2−クロロ−2,3,5−トリデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノニュロピラノソネート(26)の合成
N−アセチルノイラミン酸(1)(20.0g,64.7mmol)にメタノール(300.0 mL)とDowex−50w×8(20.0g)を加え、窒素雰囲気下、室温で18時間攪拌した。TLC{R0.28 [65:25:4 (v/v/v) CHCl−MeOH−HO]}にて反応終了を確認後、反応液を綿濾過し濃縮した。得られた残渣をメタノールによる再結晶を行い、粒上のメチル体(16.8g,80%)を得た。メチル体(3.1g,9.6mmol)に氷冷下、塩化アセチル(31mL)を加え遮光し一晩攪拌した。反応液にメタノールを加え、濃縮し白色粉末の(26)(4.9g,100%)を得た。
【表20】


【化33】

【0052】
ペンテニル O−(2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(27)の合成
β−セテート体(5)(30.0g,44.2mmol)をジクロロメタン(150.0mL)に溶解し、4−ペンテン−1−オール(5.9mL,57.5mmol)を加え攪拌した。アルゴン雰囲気下、氷浴中にて三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(7.3mL,57.5mmol)を30分間かけて滴下し、室温戻したのち6時間攪拌した。反応液にクロロホルムと水を加えた。水層をクロロホルムで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ濾過し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[1:2 (v/v), AcOEt−Toluene]で精製し、(27)(12.2g,39%)を得た。
【表21】

【0053】
ペンテニル O−(2,3−ジ−O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−(1→4)−2,3,6−トリ−O−アセチル−β−D−グルコピラノシド(31)の合成
(27)(12.0g,17.1mmol)をメタノール(120mL)に溶解し、ナトリウムメトキシド(0.64g,11.9mmol)を加え窒素雰囲気下、室温で4時間攪拌した。反応液を陽イオン交換樹脂IR120B(H)で中和し、濾液を濃縮し乾燥させることで(28)を得た。28をDMF(60mL)に溶解し、氷冷下2−メトキシプロペン(3.01mL, 32.2mmol)とCSA(0.30g,1.6mmol)を加え3時間攪拌した。TLC{R0.63 [65:25:4 (v/v/v) CHCl−MeOH−HO]}にて反応終了を確認後、ピリジン(50mL)と無水酢酸(50mL)を加え、室温で一晩攪拌させた。反応液に水と酢酸エチルを加え、水層を酢酸エチルで抽出し、有機層を1N硫酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。この有機層を濾過し、濾液を濃縮後、(30)を得た。(30)を80%酢酸水溶液(100mL)に溶解し、50℃に加温して一晩攪拌した。TLCにて反応終了を確認後、反応液を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[2:1 (v/v), AcOEt−Toluene]により精製し、(31)(6.13g,40%)を4段階収率59%で得た。
【表22】


【化34】

【0054】
〔合成例2〕シアリルラクトース担持カルボシランデンドリマーの合成
Fan(0)3−6’SL−Ac(34)の合成
窒素雰囲気下、Fan(0)3−Brデンドリマー(33)(8.63mg,1.83×10−5mol)と3糖(5)(100mg,8.25×10−5mol))をDMF(0.2mL)とメタノール(0.2mL)に均一系になるまで溶解する。溶解後、1 Nナトリウムメトキシドメタノール溶液(90μL,9.07×10−5mol)を加え16時間攪拌する。酢酸を加え中和し、濃縮する。濃縮後、ピリジン(2mL)、無水酢酸(2mL)を加え29時間攪拌する。反応液を濃縮し、冷1N硫酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順にクロロホルムで抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層をろ過し、ろ液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20:5:0.5→10:5:1 (v/v/v), CHCl−AcOEt−MeOH)で精製し、Fan(0)3−6’SL−OAc(34)(44 mg,64%)を得た。
【表23】


【化35】

【0055】
Fan(0)3−6’SL−OH(46)の合成
Fan(0)3−6’SL−OAc(34)(44mg,1.17×10−5mol)をメタノールに溶解し、窒素雰囲気下1Mナトリウムメトキシドメタノール溶液(35μL,3.53×10−5mol)を加え室温で23時間攪拌した。その後、0.05M水酸化ナトリウム水溶液(1 mL)を加え、室温で11時間攪拌した。反応液を陽イオン交換樹脂IR−120B(H)で中和後、イオン交換樹脂をろ取し、ろ液を濃縮した。残渣をSephadex G−25(5% AcOHaq)によるゲルろ過精製を行い、凍結乾燥粉としてFan(0)3−6’SL−OH (46)(27mg,100%)を得た。
【表24】

【0056】
Ball(0)4−6’SL−OAc(38)の合成
窒素雰囲気下、Ball(0)4−Brデンドリマー(36)(14.0mg,2.75×10−5mol)と3糖(25)(200mg,1.65×10−4mol)をDMF(0.2mL)とメタノール(0.2mL)に均一系になるまで溶解する。溶解後、1N ナトリウムメトキシドメタノール溶液(181μL,1.82×10−4mol)を加え3時間攪拌する。酢酸を加え中和し、濃縮する。濃縮後、ピリジン(2mL)、無水酢酸(2mL)、ジメチルアミノピリジン(少量)を加え攪拌する。反応液を濃縮し、冷1N硫酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順にクロロホルムで抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層をろ過し、ろ液を濃縮後、メタノールとジエチルエーテルに溶解し、ジアゾメタンエーテル溶液を滴下した。反応液に気泡が出なくなるまで酢酸を加え濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(10:5:0.7 (v/v/v), CHCl−AcOEt−MeOH)で精製し、Ball(0)4−6’SL−OAc(38)(8 mg,61%)を得た。
【表25】

【0057】
Ball(0)4−6’SL−OH(48)の合成
Ball(0)4−6’SL(OAc)(38)(51mg,1.05×10−5mol)をメタノールに溶解し、窒素雰囲気下1Mナトリウムメトキシド(41μL,4.18×10−5mol)を加え室温で3時間攪拌した。その後、0.05M 水酸化ナトリウム水溶液(1mL)を加え、室温で20時間攪拌した。反応液を陽イオン交換樹脂IR−120B(H)で中和後、イオン交換樹脂をろ取し、ろ液を濃縮した。残渣をSephadex G−25(5% AcOHaq)によるゲルろ過精製を行い、凍結乾燥粉としてBall(0)4−6’SL−OH(48)(33mg,100%)を得た。
【表26】

【0058】
Dumbbell(1)6−6’SL−OAc(39)の合成
窒素雰囲気下、Dumbbell(1)6−Brデンドリマー(37)(12.8mg,1.37×10−5mol)と3糖(25)(20mg,1.65×10−4mol)をDMF(0.2mL)とメタノール(0.2mL)に均一系になるまで溶解する。溶解後、1N ナトリウムメトキシドメタノール溶液(181μL,1.82×10−4mol)を加え8時間攪拌する。酢酸を加え中和し、濃縮する。濃縮後、ピリジン(8mL)、無水酢酸(15mL)を加え13時間攪拌する。反応液を濃縮し、メタノールとジエチルエーテルに溶解し、ジアゾメタンエーテル溶液を滴下した。反応液に気泡が出なくなるまで酢酸を加え濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(20:5:0.5→10:5:0.7 (v/v/v), CHCl−AcOEt−MeOH)で精製し、Dumbbell(1)6−6’SL−OAc(39)(51mg,50%)を得た。
【表27】

【0059】
Dumbbell(1)6−6’SL−OH(49)の合成
Dumbbell(1)6−6’SL−OAc(39)(50g,6.69×10−6mol)をメタノールに溶解し、窒素雰囲気下1Mナトリウムメトキシド(40μL,4.02×10−5mol)を加え室温で4時間攪拌した。その後、0.05M 水酸化ナトリウム水溶液(1mL)を加え、室温で24時間攪拌した。反応液を陽イオン交換樹脂IR−120B(H)で中和後、イオン交換樹脂をろ取し、ろ液を濃縮した。残渣をSephadex G−25(5% AcOHaq)によるゲルろ過精製を行い、凍結乾燥粉としてDumbbell(1)6−6’SL−OH(49)(32mg,100%)を得た。
【表28】

【0060】
Fan(0)3−amide−6’SL−OAc(43)の合成
窒素雰囲気下、Fan(0)3−amide−Brデンドリマー(40)(29.7mg,3.67×10−5mol)と3糖(200mg,1.65×10−4 mol)をDMF(0.4mL)とメタノール(0.4mL)に均一系になるまで溶解する。溶解後、1Nナトリウムメトキシドメタノール溶液(181μL,1.82×10−4mol)を加え3時間攪拌する。酢酸を加え中和し、濃縮する。濃縮後、ピリジン(2mL)、無水酢酸(2mL)、ジメチルアミノピリジン(少量)を加え攪拌する。反応液を濃縮し、冷1N 硫酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順にクロロホルムで抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層をろ過し、ろ液を濃縮後、メタノールとジエチルエーテルに溶解し、ジアゾメタンエーテル溶液を滴下した。反応液に気泡が出なくなるまで酢酸を加え濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(20:5:1→10:1:1 (v/v/v), CHCl−AcOEt−MeOH)で精製し、Fan(0)3−amide−6’SL−OAc(43)(40mg,27%)を得た。
【表29】

【0061】
Fan(0)3−amide−6’SL−OH(50)の合成
Fan(0)3−amide−6’SL−OAc(43)(50mg,6.69×10−6mol)をメタノールに溶解し、窒素雰囲気下1Mナトリウムメトキシド(40μL,4.02×10−5mol)を加え室温で4時間攪拌した。その後、0.05M 水酸化ナトリウム水溶液(1mL)を加え、室温で24時間攪拌した。反応液を陽イオン交換樹脂IR−120B(H)で中和後、イオン交換樹脂をろ取し、ろ液を濃縮した。残渣をSephadex G−25(5% AcOHaq)によるゲルろ過精製を行い、凍結乾燥粉としてFan(0)3−amide −6’SL−OH(50)(32mg,100%)を得た。
【表30】

【0062】
Ball(0)4−amide−6’SL−OAc(44)の合成
窒素雰囲気下、Ball(0)4−amide−Brデンドリマー(41)(26.6mg,2.75×10−5mol)と3糖(200mg,1.65×10−4mol)をDMF(0.4mL)とメタノール(0.4mL)に均一系になるまで溶解する。溶解後、1N ナトリウムメトキシドメタノール溶液(181μL,1.82×10−4mol)を加え6時間攪拌する。酢酸を加え中和し、濃縮する。濃縮後、ピリジン(2mL)、無水酢酸(2mL)、ジメチルアミノピリジン(少量)を加え攪拌する。反応液を濃縮し、冷1N 硫酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順にクロロホルムで抽出を行い、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この有機層をろ過し、ろ液を濃縮後、メタノールとジエチルエーテルに溶解し、ジアゾメタンエーテル溶液を滴下した。反応液に気泡が出なくなるまで酢酸を加え濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(20:5:1→5:4:1 (v/v/v), CHCl−AcOEt−MeOH)で精製し、Ball(0)4−amide−6’SL−OAc(44)(50mg,34%)を得た。
【表31】

【0063】
Ball(0)4−amide−6’SL−OH(51)の合成
Ball(0)4−amide−6’SL−OAc(44)(40mg,7.51×10−6mol)をメタノールに溶解し、窒素雰囲気下1Mナトリウムメトキシド(23μL,2.25×10−5mol)を加え室温で6時間攪拌した。その後、0.05M 水酸化ナトリウム水溶液(1mL)を加え、室温で12時間攪拌した。反応液を陽イオン交換樹脂IR−120B(H)で中和後、イオン交換樹脂をろ取し、ろ液を濃縮した。残渣をSephadex G−25(5% AcOHaq)によるゲルろ過精製を行い、凍結乾燥粉としてBall(0)4−amide −6’SL−OH(51)(23mg,85%)を得た。
【表32】

【0064】
Dumbbell(1)6−amide−6’SL−OAc(45)の合成
窒素雰囲気下、Dumbbell(1)6−Brデンドリマー(42)(29.5mg,1.83×10−5mol)と3糖(200mg,1.65×10−4mol)をDMF(0.2mL)とメタノール(0.2mL)に均一系になるまで溶解する。溶解後、1Nナトリウムメトキシドメタノール溶液(181μL,1.82×10−4mol)を加え19時間攪拌する。酢酸を加え中和し、濃縮する。濃縮後、ピリジン(2mL)、無水酢酸(2mL)を加え攪拌する。反応液を濃縮し、メタノールとジエチルエーテルに溶解させ、ジアゾメタンエーテル溶液を滴下した。反応液に気泡が出なくなるまで酢酸を加え濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー[100:1→10:1 (v/v), CHCl−MeOH]で精製し、Dumbbell(1)6−amide−6’SL−OAc(45)(80mg,53%)を得た。
【表33】

【0065】
Dumbbell(1)6−amide−6’SL−OH(52)合成
Dumbbell(1)6−amide−6’SL−OAc(45)(80mg,9.82×10−6mol)をメタノールに溶解し、窒素雰囲気下1Mナトリウムメトキシド(59μL,5.89×10−5mol)を加え室温で4時間攪拌した。その後、0.05M 水酸化ナトリウム水溶液(1mL)を加え、室温で15時間攪拌した。反応液を陽イオン交換樹脂IR−120B(H)で中和後、イオン交換樹脂をろ取し、ろ液を濃縮した。残渣をSephadex G−25(5% AcOHaq)によるゲルろ過精製を行い、凍結乾燥粉としてDumbbell(1)6−amide−6’SL−OH(52)(36mg,67%)を得た。
【表34】

【0066】
【化36】


【化37】


【化38】

【0067】
〔合成例3〕シアリルラクトースダイマーの合成
シアリルラクトースダイマー(47)は、Ball(0)4−Brデンドリマー(36)又はDumbbell(1)6−Brデンドリマー(37)と3糖(25)とデンドリマー(36、37、40、41、42)との反応の際に合成されたもの(35)を脱保護し(47)、実験に使用した。
6’SL−dimmer−OAc(35)に関するデータ
【表35】

【0068】
6’SL−dimmer−OH(47)に関するデータ
【表36】

【0069】
〔合成例4〕シアリルラクトース含有ポリマーの合成(53a,b)
1.53a(仕込み比6’SL:V.A.=1:20)
ペンテニルグリコシド体(23)(50mg,4.4×10−5mol)を酢酸ビニル(82μL, 8.8×10−4mol)に溶解させ、AIBNを加え、すぐさま90℃で撹拌した。2分あまりで攪拌が遅くなりとまってしまったが、そのままの状態で3.5時間置いた。その後、室温に戻し、メタノールを加え、濃縮した。残渣をSephadex LH−60(MeOH)によるゲル濾過を行い、コポリマー(20mg,35%)を得た。脱保護には、1Mナトリウムメトキシド−メタノール溶液(1mL)を加え、室温にて3時間攪拌後、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を加え3時間攪拌した。陽イオン交換樹脂(IR−120B)により中和後、濃縮し、残渣をSephadex G−20(5% AcOH)によるゲル濾過を行い、水溶性糖鎖ポリマー53aを得た。
【表37】


2.53b(仕込み比6’SL:V.A.=1:10)
【表38】


【化39】

【0070】
表39にポリマーの合成結果を示す。
【表39】

【0071】
〔実験1〕赤血球凝集素阻害活性試験
ヘマグルチニンによる赤血球凝集効果に対する本発明の化合物の影響を検討した。
赤血球凝集効果を阻害するポジティブコントロールとしてフェチュイン(Fetuin)を用いて行った。また、ヘマグルチニンとしては、トリ型(A/Duck/HK/313/78(H5N3))とヒト型(A/Aichi/2/68(H3N2))を使用した。本発明の化合物のうち、Fan(0)3型デンドリマー(46)、高密度(53a)及び低密度(53b)ポリマーにおいて、ヒト型ヘマグルチニンによる赤血球凝集効果の阻害活性が見出された(表39)。本実験に用いた他の化合物(化合物(24)、(27)、(48)、(49)、(50)、(51)及び(52))については、ヘマグルチニン非存在下において、赤血球を凝集させる効果が見出されたため、本実験によりインフルエンザウィルスの感染阻害効果の有無について確認することはできなかった。そこで、プラークアッセイによりインフルエンザ感染の阻害効果を併せて検討した。
【表40】

【0072】
〔実験2〕プラークアッセイ法によるインフルエンザウィルス感染性の阻害効果
MDCK細胞に対するインフルエンザウィルスの感染性に対する本発明の化合物の阻害効果を検討した。
インフルエンザウィルス(A/Aichi/2/68(H3N2))と4℃で1時間インキュベートした後、ウィルスと化合物の混合物をローン状に培養したMDCK細胞に対し添加し、34℃で48時間培養した。その後、形成されたプラークの数をかぞえ、2回の実験の結果を表41にまとめた。
この結果、赤血球凝集効果阻害アッセイでは、その効果を確認できなかった化合物も含め、いずれについても、プラーク形成の阻害効果を見出すことができた。今回実験を行った本発明の化合物の阻害効果は、シアリルα(2→6)ラクトースを含む、ダイマー(47)>糖鎖低密度ポリマー(53b)>Fan(0)3(46)>糖鎖高密度ポリマー(53a)>Fan(0)3−amide(50)>モノマー(24)>Ball(0)4−amide(51)>Dumbbell(1)6(49)>Ball(0)4(48)>Dumbbell(1)6−amide(52)の順に阻害活性が高かった。
【0073】
【表41】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明はインフルエンザウィルスの感染を効果的に阻害する化合物を提供する。従って、本発明の化合物は抗ウィルス剤の開発並びにインフルエンザ感染症の予防又は治療に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】


[式中、Aは、酸素、窒素、カルボニル又は硫黄を含んでもよい炭化水素鎖を示し、Bは下記の式(II)の置換基
【化2】


(ただし、Rは水素、ベンジル基又はアセチル基であり、Rは水素、金属原子又はメチル基を表す)のいずれか]で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項2】
及びRが水素であり、Aが−O−(CH−S−S−(CH−O−である請求項1に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項3】
次式(III)
【化3】


(式中、Rは水素、ベンジル基又はアセチル基であり、Rは、水素、金属原子又はメチル基を示し、m及びnは1以上の整数であって、同一でも相違なってもよい)で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項4】
が水酸基であり、Rが水素である請求項3に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項5】
m:n=1:1〜30である請求項4に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項6】
次式(VI)
【化4】


(式中、E及びEは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかであり、互いに同一でも異なっていてもよく、R、Rは、同一又は異なった炭化水素基を示し、R、R及びRは酸素、窒素又はカルボニル基を含んでもよい同一又は異なった炭化水素鎖を示し、Yは下記の式(V)の置換基、
【化5】


(ただし、Z1及びZ2は酸素又は硫黄であって、同一又は異なってもよい)若しくは他の官能基であって少なくとも1つは式(V)の置換基を示し、kは0〜2の整数であり、lは0〜2の整数であり、jは0又は1の数を示し、jが0のときは3−lは1である)で表されるシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項7】
及びRが同一又は異なる炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基、又はアルケニル基である請求項6に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項8】
、R及びRが同一又は異なり、アミド結合を含んでもよく、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、アルキレン基、又はアルケニレン基、又はアルコキシレン基(オキシアルキレン基)である請求項6又は請求項7に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項9】
及びEがケイ素である請求項6乃至請求項8のいずれかに記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項10】
がフェニル基、Rが−C−、−C−O−C−又は−C−NHCOC10−、Rが−C10−、Z1及びZ2が酸素であり、jが0、kが1、lが2である請求項9に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項11】
が−C−、−C−O−C−又は−C−NHCOC10−、Rが−C10、Z1及びZ2が酸素であり、jが0、kが0、lが2である請求項9に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項12】
がメチル基、R及びRが−C−、−C−O−C−又は−C−NHCOC10−、Rが−C10、Z1及びZ2が酸素であり、jが1、kが2、lが0である請求項9に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項13】
及びRが−C−、−C−O−C−又は−C−NHCOC10−、Rが−C10、Z1及びZ2が酸素であり、jが1、kが2、lが0である請求項9に記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、及びその薬理学上許容される塩又はそれらの水和物。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれかに記載のシアリルラクトース誘導体結合化合物、その薬理学上許容される塩及びそれらの水和物、並びに薬理学上許容される担体を含有することを特徴とする感染症の予防又は治療のための抗ウィルス剤。
【請求項15】
前記感染症がインフルエンザウィルス感染症であることを特徴とする請求項14に記載の抗ウィルス剤。

【公開番号】特開2009−215206(P2009−215206A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59624(P2008−59624)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【Fターム(参考)】