説明

シアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法及びシアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析方法

【課題】シアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法、及び、シアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析方法を比較的短時間で行うことができるようにする。さらに、作業中の安全性の向上と、排ガス処理装置の負荷の低減を図る。
【解決手段】シアン系Au含有液にアルカリ剤を添加して、アルカリ性の液とし、アルカリ性の液にZnを添加して、第一の沈殿物を生成するようにした。さらに、第一の沈殿物を王水に溶解させ、沈殿物溶解液を生成するようにした。そして、沈殿物溶解液に還元剤を添加して、第二の沈殿物を生成し、第二の沈殿物を加熱処理することにより、Auを分離させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばめっき液、めっき剥離液等のシアン系Au含有液からAuを分離する方法、及び、シアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中に含まれるAu(金)の含有量を定量分析するために試料からAuを分離する方法として、乾式試金法、Te共沈法等が知られている(特許文献1参照)。また、定量分析方法としては、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)を利用したICP発光分光分析法が知られている。
【0003】
また、例えば電子部品等の合金素材の金めっきに使用されるシアン系のめっき液、あるいは、合金素材から金めっきを剥離する際に発生するシアン系のめっき剥離液等の液体には、Au(金のシアノ錯体等)が含有されているが、このようなシアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析を行う方法としては、例えば次のようなもの(以下、「旧定量分析方法」という。)が知られている(図3参照)。即ち、先ず上記シアン系Au含有液にHSO(硫酸)を添加し、かかる溶液を加熱して、Auを含有する沈殿物を生成させる。そして、当該沈殿物を濾過によって分離して回収した後、加熱処理(例えば灰化処理の後、灼熱処理(強熱処理))し、その燃え殻を王水(濃塩酸(HCl)と濃硝酸(HNO)とを体積比3:1で混合した液)に溶解させる。こうして得られた溶液から不溶解物を濾過によって除去した後、濾液にNaSO(亜硫酸ナトリウム)を添加し、再び沈殿物を生成させる。そして、当該沈殿物を濾過によって分離して回収した後、加熱処理(灰化処理の後、灼熱処理)することで、Auを分離させる。こうして分離されたAuの質量を量り、分析値とする。
【0004】
【特許文献1】特開2005−308705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の旧定量分析方法の問題点として、Auの分離操作に長時間を要することがあった。また、HSOの使用量が多量であり、排ガス処理装置(中和設備等)の負荷が大きいことがあった。さらに、排ガス処理装置によって安全は確保されているものの、作業中に有毒ガスであるHCN(シアン化水素)が発生するので、安全性の向上を図るべく、改善が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、比較的短時間で行うことができるシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法、及び、シアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析方法を提供することを目的とする。さらに、作業中の安全性の向上と、排ガス処理装置の負荷の低減を図ることが可能なシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法、及び、シアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明によれば、シアン系Au含有液に含有されるAuを分離する方法であって、前記シアン系Au含有液にアルカリ剤を添加して、アルカリ性の液とし、前記アルカリ性の液にZnを添加して、第一の沈殿物を生成し、前記第一の沈殿物を王水に溶解させ、沈殿物溶解液を生成し、前記沈殿物溶解液に還元剤を添加して、第二の沈殿物を生成し、前記第二の沈殿物を加熱処理することにより、Auを分離させることを特徴とする、シアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法が提供される。
【0008】
ここで、シアン系Au含有液とは、Au、シアン化合物等(例えばAuのシアノ錯体等)を含有する液のことをいう。即ち、例えば、銅や鉄などの合金素材の表面をめっき浴によって金めっきする工程において使用されるシアン系めっき液、めっき後の水洗に使用された廃液、金めっきの剥離に使用されたシアン系めっき剥離液等である。
【0009】
前記アルカリ剤は、NaOHであっても良い。前記還元剤は、NaSOであっても良い。
【0010】
また、前記シアン系Au含有液を第一の処理用容器に入れ、前記第一の処理用容器内で、前記第一の沈殿物を生成し、前記第一の沈殿物を第一の濾材を用いた濾過によって分離させ、前記第一の沈殿物を前記第一の濾材と共に前記第一の処理用容器に入れ、前記第一の処理用容器内で、前記第一の沈殿物及び前記第一の濾材を前記王水に溶解させるようにしても良い。
【0011】
さらに、前記沈殿物溶解液を生成した後、前記王水に溶解しなかった不溶解物を濾過によって除去し、その後、前記還元剤を添加するようにしても良い。
【0012】
また、前記第二の沈殿物を、第二の処理用容器内で生成し、前記第二の沈殿物を第二の濾材を用いた濾過によって分離させ、前記第二の沈殿物を前記第二の濾材と共に加熱用容器に入れ、前記加熱用容器に入れた前記第二の沈殿物及び前記第二の濾材に対して前記加熱処理を行うようにしても良い。
【0013】
前記加熱処理においては、灰化処理及び灼熱処理を行っても良い。前記シアン系Au含有液は、めっき剥離液であっても良い。
【0014】
また、本発明によれば、上記のいずれかに記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法によって、Auを分離し、前記分離したAuの質量を量ることを特徴とする、シアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析方法が提供される。
【0015】
前記第二の沈殿物を加熱用容器に入れる前に、前記加熱用容器の質量を量り、前記加熱用容器に前記第二の沈殿物を入れた状態で、前記加熱処理を行い、その後、前記加熱用容器内に残留した燃え殻を入れたまま、前記加熱用容器の質量と前記燃え殻の質量とを合わせた総質量を量り、前記総質量から前記加熱用容器の質量を差し引き、前記燃え殻の質量を求めても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シアン系Au含有液からAuを分離する操作に必要な時間の短縮を図ることができる。従って、その分離操作を実施することで、Auの定量分析に要する時間も短縮できる。また、シアン系Au含有液にアルカリ剤を添加することで、シアンを液中に残留させることができ、有毒ガスの発生を抑制することができる。従って、作業中の安全性の向上を図ることができる。さらに、酸の使用量を低減することができ、これにより、排ガス処理装置の負荷を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明にかかる実施形態を、シアン系Au含有液としてのシアン系めっき剥離液(金めっきを剥離した液)に含有されるAu(金)を定量分析する方法に基づいて説明する。図1は、本実施形態にかかる定量分析方法S1を概略的に示したフロー図である。この定量分析方法S1を用いた定量分析においては、最初にシアン系めっき剥離液を試料として採取する採取操作S2を行い、次に、試料に含有されるAuを分離して回収する分離操作S3を行い、その後、分離操作S3によって分離されたAuの重量を量る定量操作S4を行う。
【0018】
採取操作S2においては、所定量のシアン系めっき剥離液を、試料として第一の処理用容器(例えばビーカー等)に入れる。
【0019】
分離操作S3においては、試料の液性をアルカリ性にするアルカリ化処理S11、第一の沈殿物を生成させる第一の沈殿物生成処理S12、第一の沈殿物を回収する第一の沈殿物回収処理S13、第一の沈殿物を王水に溶解させる溶解処理S14、王水に溶解しない不溶解物を除去する不溶解物除去処理S15、第二の沈殿物を生成させる第二の沈殿物生成処理S21、第二の沈殿物を回収する第二の沈殿物回収処理S22、加熱処理S31(灰化処理S31a及び灼熱処理S31b)を、この順に行う。
【0020】
以下、分離操作S3における各処理について、さらに詳細に説明する。先ず、アルカリ化処理S11においては、第一の処理用容器内の内容物(試料)に対して、アルカリ剤(アルカリ試薬)としてのNaOH(水酸化ナトリウム)を添加する。これにより、第一の処理用容器の内容物は、アルカリ性の液(アルカリ性Au含有液)になる。このように試料をアルカリ性の液にすることで、有毒ガスであるHCN(シアン化水素)の発生を防止できる。即ち、シアン系の液は、酸性になるとHCNガスを発生させるので、安全上、アルカリ性にして処理することが望ましい。
【0021】
なお、アルカリ剤とは、試料に添加することでアルカリ性の液を生成できる性質のものであれば良く、NaOHには限定されない。例えば、NaOH以外の他の水酸化物であっても良い。また、アルカリ剤は、固体状であっても液体状であっても良い。即ち、例えば水酸化ナトリウム水溶液であっても良い。
【0022】
次に、第一の沈殿物生成処理S12を行う。第一の沈殿物生成処理S12においては、例えば第一の処理用容器の内容物(アルカリ性の液)を加熱しながら、内容物に対してZn(亜鉛)を添加し、Auを含有した第一の反応生成物、即ち、第一の沈殿物を生成させる。これにより、第一の処理用容器内の内容物は、第一の沈殿物とその他の溶液(即ち、Auを含有しない第一の非Au含有液)とが混合した混合物になる。
【0023】
なお、ここで添加するZnは、粉粒体状(亜鉛粉)であることが望ましく、なるべく微細粉であるものが好ましい。Znの量は、第一の沈殿物を生成させるために必要とされる十分な量であれば良い。さらに、かかるZnは、単体の状態であっても良いが、例えばZnO(酸化亜鉛)等の化合物を構成している状態でも良い。即ち、例えば酸化亜鉛粉を添加しても良い。
【0024】
また、Znを添加した後は、試料を加熱しながら攪拌しても良く、特に、攪拌は頻繁に繰り返すと良い。これにより、第一の沈殿物の生成を促進させることができる。
【0025】
その後、第一の沈殿物回収処理S13を行う。第一の沈殿物回収処理S13においては、例えば濾過によって第一の沈殿物を分離する。即ち、第一の処理用容器内の内容物を被濾過物とし、第一の濾過器具に設置した第一の濾材(フィルター)を用いて濾過し、第一の沈殿物を濾物(残渣)、第一の非Au含有液を濾液として固液分離させる。濾物は回収し、例えばビーカー等の回収容器に移す。濾液は、シアン化合物を含有するので、シアン系の廃液として排水処理する。
【0026】
なお、この第一の沈殿物回収処理S13における濾過は、例えば吸引濾過(減圧濾過)によって行うと良い。これにより、濾過を効率的に行うことができる。
【0027】
また、第一の処理用容器内の内容物の濾過を行った後、濾物を回収容器に移す前に、濾物を第一の濾材上に残留させたまま、例えば水又は温水等の洗浄用液を濾物及び第一の濾材に対して供給し、濾物及び第一の濾材を洗浄するようにしても良い。そうすれば、第一の非Au含有液を洗浄用液によって濾物や第一の濾材から洗い流し、確実に除去することができる。即ち、第一の沈殿物と第一の非Au含有液とを、確実に分離させることができる。なお、この洗浄に使用した後の(即ち、第一の濾材を通過した)洗浄用液は、この洗浄の前に行われた濾過(第一の処理用容器内の内容物の濾過)において排出された濾液と共に、廃液すれば良い。
【0028】
また、回収容器は、第一の処理用容器と同一のものであっても良い。即ち、被濾過物を入れていた元の第一の処理用容器に、濾物を戻すようにしても良い。そうすれば、被濾過物を第一の処理用容器から第一の濾材に移す際、第一の沈殿物が完全に移されず、第一の処理用容器内に若干残留した場合であっても、この残留物を確実に回収して処理できる。即ち、第一の処理用容器内において濾物と混合させて共に処理する(後述する溶解処理S14を行う)ことができる。
【0029】
濾物を回収容器に移す際には、第一の濾過器具から第一の濾材ごと回収容器に移すようにしても良い。そうすれば、濾物を総て確実に回収容器へ移すことができる。即ち、例えば第一の濾材に形成されている孔の内側等、第一の濾材から取り除きにくい部分等に付着している濾物も、確実に回収して処理できる。なお、この場合、第一の濾材としては、後述する溶解処理S14の際に添加される王水に対して溶解しやすい材質のもの(例えばセルロース製のメンブランフィルター等)を使用すると良い。
【0030】
さらに、濾物(及び第一の濾材)を第一の濾過器具から回収容器に移した後は、第一の濾過器具を例えば水又は温水等の洗浄用液で洗浄して、洗浄後の洗浄用液をも、回収容器へ移すようにしても良い。そうすれば、第一の濾過器具に付着した付着物(第一の沈殿物)も、確実に洗い落として回収し、濾物と共に処理することができる。
【0031】
以上のようにして、第一の処理用容器内に残留した残留物、第一の濾材に残留した濾物、第一の濾過器具に付着した付着物等を回収することにより、Auを含有する第一の沈殿物を確実に回収することができる。即ち、分離操作S3におけるAuの回収効率を向上させることができ、ひいては、後述する定量操作S4において、Auの含有量をより正確に量ることができる。
【0032】
こうして、濾物、第一の濾材、第一の濾過器具を洗浄した洗浄用液等を、新たな被処理物として回収容器内に入れた後、溶解処理S14を行う。即ち、回収容器内に王水(塩酸(HCl)及び硝酸(HNO))を加え、被処理物を王水に加熱溶解させ、王水溶液、即ち、Auを含有する沈殿物溶解液を生成させる。これにより、被処理物の大部分は溶解するが、例えば第一の濾材の構成物等、一部は王水に溶解せずに残存し、不溶解物となることがある。即ち、回収容器内の内容物は、沈殿物溶解液、あるいは、沈殿物溶解液と不溶解物とが混合した混合物になる。
【0033】
次に、不溶解物除去処理S15を行い、回収容器内の内容物から不溶解物を除去する。この不溶解物除去処理S15においては、例えば、濾過によって不溶解物を分離させる。即ち、回収容器内の内容物を被濾過物とし、第二の濾過器具に設置した第二の濾材(フィルター)を用いて濾過し、不溶解物を濾物、沈殿物溶解液を濾液として固液分離させる。濾物は廃棄し、濾液は回収して例えばビーカー等の第二の処理用容器に移す。即ち、濾液が第二の濾材から第二の処理用容器に、直接的に排出されるように設置すれば良い。
【0034】
なお、この濾過においては、回収容器内の内容物を第二の濾材によって濾過する前に、内容物に水等を添加し、内容物の液量を増加させても良い。また、この濾過は、自然濾過によって行っても良い。
【0035】
また、内容物を回収容器から第二の濾材に移した後は、回収容器を例えば水又は温水等の洗浄用液によって洗浄して、その洗浄後の洗浄用液も、第二の濾材によって濾過し、第二の処理用容器に移しても良い。そうすれば、内容物を第二の濾材に移した後の回収容器に残留したAu等を、回収容器から洗い流して回収し、前述した不溶解物の除去において排出された濾液と共に処理することができる。
【0036】
さらに、回収容器内の内容物の濾過(あるいは回収容器を洗浄した洗浄用液の濾過)を行った後、濾物を第二の濾材上に残留させたまま、例えば水又は温水等の洗浄用液を第二の濾材に通過させることにより、濾物及び第二の濾材を洗浄用液によって洗浄し、この洗浄後の洗浄用液も、第二の処理用容器へ移すようにしても良い。そうすれば、濾物や第二の濾材に付着したAu等を洗い流し、洗浄用液と共に回収し、前述した不溶解物の除去において排出された濾液と共に処理することができる。例えば第二の濾材の孔内等、Auが残留しやすい部分に付着しているAuも、洗浄用液によって洗い流し、確実に回収できる。
【0037】
以上のようにして、回収容器内に残留したAu、濾物や第二の濾材に付着したAu等を、確実に回収することにより、後述する定量操作S4において、Auの含有量をより正確に量ることができる。
【0038】
こうして、沈殿物溶解液、あるいは、沈殿物溶解液と洗浄用液とを混合した混合溶液を、新たな被処理溶液として第二の処理用容器内に入れた後、第二の沈殿物生成処理S21を行う。第二の沈殿物生成処理S21においては、第二の処理用容器内に、還元剤として例えばNaSO(亜硫酸ナトリウム)を添加し、Auを含有した第二の反応生成物、即ち、第二の沈殿物を生成させる。これにより、第二の処理用容器内の内容物は、第二の沈殿物とその他の溶液(即ち、Auを含有しない第二の非Au含有液)とが混合した混合物になる。
【0039】
なお、NaSOを添加すると、第二の処理用容器内の内容物から気泡が発生するが、NaSOは、この気泡が発生しなくなるまで添加することが好ましい。さらに、気泡が発生しなくなってからも少量添加しても良い。即ち、第二の処理用容器内に入れられた被処理溶液の量に対して、NaSOが多めに添加されるようにしても良い。また、NaSOを添加する際、第二の処理用容器内の内容物を加熱したり攪拌したりしても良く、これにより、第二の沈殿物の生成(熟成)を促進させることができる。
【0040】
次に、第二の沈殿物回収処理S22を行う。第二の沈殿物回収処理S22においては、例えば濾過によって第二の沈殿物を分離させる。即ち、第二の処理用容器内の内容物を被濾過物とし、第三の濾過器具に設置した第三の濾材(フィルター)を用いて濾過し、第二の沈殿物を濾物、第二の非Au含有液を濾液として固液分離させる。濾物は回収し、例えば磁製るつぼ等の耐熱性を有する加熱用容器に移し、濾液は廃液する。なお、この第二の沈殿物回収処理S22における濾過は、自然濾過によって行っても良い。
【0041】
また、第二の処理用容器内の内容物の濾過を行った後、濾物を加熱用容器に移す前に、濾物を第三の濾材上に残留させたまま、例えば水又は温水等の洗浄用液を濾物及び第三の濾材に対して供給し、濾物及び第三の濾材を洗浄するようにしても良い。そうすれば、第二の非Au含有液を洗浄用液によって濾物や第三の濾材から洗い流し、確実に除去することができる。即ち、第二の沈殿物と第二の非Au含有液とを、確実に分離させることができる。なお、この洗浄に使用した後の(即ち、第三の濾材を通過した)洗浄用液は、この洗浄の前に行われた濾過(第二の処理用容器内の内容物の濾過)において排出された濾液と共に、廃液すれば良い。
【0042】
内容物を第二の処理用容器から第三の濾材に移した後は、第二の処理用容器を例えば水又は温水等の洗浄用液によって洗浄して、その洗浄後の洗浄用液も、第三の濾材によって濾過しても良い。即ち、この洗浄用液から得られた濾物(第二の沈殿物)も回収し、加熱用容器に移すようにしても良い。そうすれば、内容物を第二の処理用容器から第三の濾材上に移す際、第二の沈殿物が完全に移されず、第二の処理用容器内に若干残留した場合であっても、この残留物を確実に回収して処理できる。
【0043】
また、濾物を加熱用容器に移す際には、第三の濾過器具から第三の濾材ごと加熱用容器に移すようにしても良い。そうすれば、濾物を総て確実に加熱用容器へ移すことができる。即ち、例えば第三の濾材に形成されている孔の内側等、第三の濾材から取り除きにくい部分等に付着している濾物も、確実に回収して処理できる。
【0044】
以上のようにして、第二の処理用容器内に残留した残留物、第三の濾材に残留した濾物等を回収することにより、Auを含有する第二の沈殿物を確実に回収することができる。即ち、分離操作S3におけるAuの回収効率を向上させることができ、ひいては、後述する定量操作S4において、Auの含有量をより正確に量ることができる。
【0045】
こうして、濾物や第三の濾材等を、新たな被処理物として加熱用容器に入れた後、加熱処理S31(強熱処理)を行う。かかる加熱処理S31においては、先ず、加熱用容器内の内容物(被処理物)に対して灰化処理S31aを行い、内容物を灰化させる。その後、加熱用容器内の内容物(灰化物)に対して、灼熱処理S31bを行う。すると、加熱用容器内には、Au(及び濾材の残渣)を含む燃え殻が残留する。これにより、被処理物からAuを分離させることができる。
【0046】
以上のようにして、分離操作S3が終了する。次に、定量操作S4を行う。即ち、分離処理S2によって分離されたAuの質量を量る。なお、定量操作S4は、加熱処理S31後、加熱用容器と燃え殻を十分に冷却(放冷)させた後に行うことが望ましい。
【0047】
Auの質量は、以下のようにして計量しても良い。即ち、例えば前述した第二の沈殿物回収処理S22において加熱用容器に濾物を入れる前に、予め、加熱用容器のみの質量を、例えば精密電子天秤等の計量装置を用いて量っておく。この計量に際しては、計量前に加熱用容器を空焼きしておくことが望ましい。そして、加熱処理S31において、前述したように、加熱用容器に第二の沈殿物を入れた状態で、第二の沈殿物を加熱処理する。その後、定量操作S4において、燃え殻を入れたままの加熱用容器を、例えば精密電子天秤等の計量装置に載置する。即ち、加熱用容器の質量と燃え殻(Au)の質量とを含めた全体の総質量を、計量装置を用いて量る。そして、計量された総質量から、予め計量した加熱用容器のみの質量を差し引き、燃え殻の質量を求める。即ち、この燃え殻の質量を、分析値(試料に含有されていたAuの質量)とする。
【0048】
なお、前述した第二の沈殿物回収処理S22において、濾物を第三の濾材ごと加熱用容器に入れる場合は、第三の濾材に依存する質量、即ち、加熱処理S31後に残留する濾材の残渣分の質量を予測しておけば良い。そして、定量操作S4においては、燃え殻(濾材の残渣とAuを含む)を入れたままの加熱用容器を計量装置に載置し、加熱用容器の質量と燃え殻の質量とを含めた全体の総質量を量る。そして、計量された総質量から、予め計量した加熱用容器のみの質量と、予測した濾材の残渣の質量とを差し引き、Auの質量を求める。即ち、このAuの質量を、分析値(試料に含有されていたAuの質量)とする。
【0049】
以上のような定量分析方法S1によれば、試料からAuを分離する作業(分離操作S3)を、比較的短時間で行うことができる。特に、旧定量分析方法におけるAuの分離操作よりも大幅に短時間で、Auを効率的に分離できる。従って、分離操作S3を実施することで、Auの定量分析工程全体に要する時間の短縮を図ることができる。
【0050】
また、アルカリ化処理S11を行うことにより、即ち、シアン系の試料にアルカリ剤を添加することで、シアンを試料中に残留させ、HCN等の有毒ガスの発生を抑制できる。従って、作業中の安全性の向上を図ることができる。さらに、HSOを使用することなく、Auの分離を行うことができる。即ち、酸の使用量を低減することができ、これにより、排ガス処理装置の負荷を低減できる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば以上の実施形態では、シアン系Au含有液とは、金めっきを剥離する際に発生するシアン系めっき剥離液であるとしたが、かかるものには限定されず、例えば合金などに施す金めっきに使用されるシアン系めっき液、あるいは、めっき後に行われる水洗の際に使用された廃液などであっても良い。
【実施例】
【0053】
(定量分析方法S1を用いた定量分析試験)
本発明者らは、以下のような本実施形態にかかる定量分析方法S1を用いた定量分析試験を行った。先ず、本試験を行うに際し、シアン系Au含有液(定量分析対象)として、Au濃度が数g/L程度のシアン系めっき剥離液を用意した。また、第一の処理用容器(回収容器)として使用するビーカーB1(容積500mL)、及び、第二の処理用容器として使用するビーカーB2(容積500mL)を用意した。加熱用容器としては、磁製るつぼを用意した。また、第一の沈殿物回収処理S13において使用される第一の濾材F1として、メンブランフィルター(ニトロセルロース製、孔径1μm)を用意した。不溶解物除去処理S15において使用される第二の濾材F2として、濾紙(No.4A(JIS4種))を用意した。第二の沈殿物回収処理S22において使用される第三の濾材F3として、濾紙(No.5B(JIS5種))を用意した。
【0054】
図2は、本試験で行った処理の概略的なフロー図である。最初に、採取操作S2においては、上記シアン系めっき剥離液を200mL採取し、試料としてビーカーB1に入れた。
【0055】
アルカリ化処理S11においては、アルカリ剤として、粒状のNaOH(JIS試薬特級)を5g添加した。ここで、ビーカーB1の内容物の液性をpH試験紙によって確認したところ、pH10以上であり、アルカリ性になったことが確認できた。
【0056】
第一の沈殿物生成処理S12においては、亜鉛粉(微細粉)2gを添加した。そして、ビーカーB1及びその内容物を、ホットプレート上において60分間加熱した。加熱中は、内容物の攪拌を頻繁に繰り返した。さらに、途中で亜鉛粉(微細粉)を1g追加して添加した。その後も加熱を続け、攪拌を頻繁に繰り返した。これにより、第一の沈殿物を生成させた。加熱を終了させた後は、ビーカーB1及びその内容物を静置して、第一の沈殿物を沈降させた。
【0057】
第一の沈殿物回収処理S13においては、上記濾材F1を使用し、ビーカーB1の内容物を吸引濾過した。
【0058】
また、ビーカーB1の内容物を濾材F1に移した後は、ビーカーB1を水でよく洗浄した。即ち、ビーカーB1に残留していた残留物(第一の沈殿物)を、水によって洗い落とした。そして、ビーカーB1を洗浄した後の洗浄水(水と上記残留物とが混合した混合物)を回収し、濾材F1を用いて濾過した。即ち、ビーカーB1の内容物から分離させた濾物を濾材F1上に残留させたまま、その濾材F1によって洗浄水を濾過させ、上記残留物を濾物、水を濾液として分離させた。
【0059】
さらにその後、濾物を濾材F1上に残留させたまま、温水を洗浄用液として供給し、濾材F1と濾物をよく洗浄した。
【0060】
洗浄後は、濾物を濾材F1ごと濾過器具から取り出し、第一の沈殿物生成処理S12において使用した元のビーカーB1に移した。
【0061】
さらに、濾物及び濾材F1をビーカーB1に移した後、濾過器具を水によって洗浄し、濾過器具に付着した付着物を洗い落とした。そして、濾過器具を洗浄した後の洗浄水(水、上記付着物等が混合した混合物)を回収し、ビーカーB1に混入させた。
【0062】
溶解処理S14においては、ビーカーB1内に王水24mL(HCl:18mL、HNO:6mL)と、少量の水とを添加した。そして、ビーカーB1及びその内容物を、ホットプレート上において加熱し、内容物を王水に対して加熱溶解させ、沈殿物溶解液を生成した。
【0063】
加熱溶解後、ビーカーB1内に水を添加し、ビーカーB1内の内容物の液量を、100mLに増量させた。
【0064】
その後、不溶解物除去処理S15においては、上記濾材F2を使用して、ビーカーB1内の内容物を濾過し、濾液はビーカーB2によって受けた。
【0065】
また、ビーカーB1の内容物を濾材F2に移した後は、ビーカーB1を水でよく洗浄した。そして、ビーカーB1を洗浄した後の洗浄水(水、Au等が混合した混合物)を回収し、濾材F2を用いて濾過した。即ち、ビーカーB1の内容物から分離させた濾物を濾材F2上に残留させたまま、その濾材F2によって洗浄水を濾過させ、その濾液もビーカーB2によって受けた。
【0066】
さらにその後、濾物を濾材F2上に残留させたまま、温水を洗浄用液として供給し、濾材F2と濾物をよく洗浄した。濾材F2を通過した洗浄用液も、ビーカーB2によって受けた。
【0067】
第二の沈殿物生成処理S21においては、先ず、ビーカーB2及びその内容物を、ホットプレート上において加熱し、昇温させた。そして、加熱を停止させた後、昇温させた状態のビーカーB2内に、NaSOを添加した。NaSOは、ビーカーB2の内容物から気泡が発生しなくなるまで添加し、さらにその後も、少量過剰に添加した。こうしてNaSOを添加した後、ビーカーB2の内容物を攪拌した。攪拌後は、ビーカーB2及びその内容物を静置して、第二の沈殿物を熟成、沈降させた。
【0068】
次に、第二の沈殿物回収処理S22においては、上記濾材F3を使用して、ビーカーB2内の内容物を濾過した。
【0069】
また、ビーカーB2の内容物を濾材F3に移した後は、ビーカーB2を水でよく洗浄した。即ち、ビーカーB2に残留していた残留物(第二の沈殿物)を、水によって洗い落とした。そして、ビーカーB2を洗浄した後の洗浄水(水と上記残留物とが混合した混合物)を回収し、濾材F3を用いて濾過した。即ち、ビーカーB2の内容物から分離させた濾物を濾材F3上に残留させたまま、その濾材F3によって洗浄水を濾過させ、上記残留物を濾物、水を濾液として分離させた。
【0070】
さらにその後、濾物を濾材F3上に残留させたまま、温水を洗浄用液として供給し、濾材F3と濾物をよく洗浄した。
【0071】
洗浄後は、濾物を濾材F3ごと濾過器具から取り出し、磁製るつぼに移した。なお、この磁製るつぼについては、濾物と濾材F3を入れる前に、予め質量を量っておいた。磁製るつぼの質量は、磁製るつぼを空焼きした後、精密電子天秤によって秤量することにより計量した。
【0072】
灰化処理S31aにおいては、磁製るつぼ及びその内容物を、ホットプレート上で加熱し、磁製るつぼの内容物を灰化させた。灼熱処理S31bにおいては、磁製るつぼ及びその内容物を、電気炉に装入し、900℃で1時間の加熱を行い、内容物を灼熱処理した。
【0073】
灼熱処理後、磁製るつぼ及びその内容物を電気炉から取り出し、デシケーターに入れ、放冷を行った。
【0074】
放冷後、定量操作S4においては、磁製るつぼ及びその内容物をデシケーターから取り出し、精密電子天秤に載置し、精密電子天秤によって総質量を量った。そして、その総質量から、予め量っておいた磁製るつぼの質量と、濾材F3に依存する質量を差し引き、Auの質量(分析値)とした。
【0075】
以上の定量分析に要した時間は、約8時間であった。具体的には、アルカリ化処理S11を開始してから第一の沈殿物生成処理S12を終了するまでに要した時間が、約1.5時間程度、第一の沈殿物回収処理S13を開始してから、溶解処理S14、不溶解物除去処理S15を行い、第二の沈殿物生成処理S21を終了するまでに要した時間が、約4時間程度、第二の沈殿物回収処理S22を開始してから定量操作S4を終了するまでに要した時間が、約2.5時間程度であった。
【0076】
(旧定量分析方法を用いた定量分析試験(比較試験))
本発明者らは、上記定量分析方法S1を用いた試験に対する比較試験として、以下のような旧定量分析方法による定量分析試験を行った。図3は、比較試験で行った処理の概略的なフロー図である。
【0077】
先ず、上記定量分析方法S1を用いた定量分析試験において定量分析対象としたものと同様のシアン系めっき剥離液(Au濃度が数g/L程度)を用意し、これを200mL採取し、試料としてビーカーB11(容積2L)に入れた。さらに、水を加えて、ビーカーB11内の内容物の液量を、500mLに増量させた。
【0078】
次に、ビーカーB11内の内容物を攪拌しながら、ビーカーB11内にHSOを180mL添加した。その後、ビーカーB11及びその内容物を、ホットプレート上で2時間加熱した。これにより、Auを含有した沈殿物を生成させた。
【0079】
加熱後、ビーカーB11及びその内容物を静置、放冷させた。その後、水を加えて、ビーカーB11内の内容物の液量を、1Lに増量させた。そして、ビーカーB11及びその内容物を静置し、沈殿物を沈降させた。
【0080】
次に、沈殿物を濾過によって分離し、回収した。この濾過においては、2枚の濾紙(No.5Bの濾紙とNo.5Cの濾紙)を重ねたものを、濾材F11として用い、吸引濾過を行った。
【0081】
また、ビーカーB11の内容物を濾材F11に移した後は、ビーカーB11を水でよく洗浄した。即ち、ビーカーB11に残留していた残留物(沈殿物)を、水によって洗い落とした。そして、ビーカーB11を洗浄した後の洗浄水(水と上記残留物とが混合した混合物)を回収し、濾材F11を用いて濾過した。即ち、ビーカーB11の内容物から分離させた濾物を濾材F11上に残留させたまま、その濾材F11によって洗浄水を濾過させ、上記残留物を濾物、水を濾液として分離させた。
【0082】
さらにその後、濾物を濾材F11上に残留させたまま、温水を洗浄用液として供給し、濾材F11と濾物をよく洗浄した。
【0083】
洗浄後は、濾物を濾材F11ごと濾過器具から取り出し、磁製るつぼに移した。そして、磁製るつぼ及びその内容物を、ホットプレート上で加熱し、磁製るつぼの内容物を灰化処理した。その後、磁製るつぼ及びその内容物を、電気炉に装入し、600℃で1時間の加熱を行い、内容物を灼熱処理した。
【0084】
灼熱処理後は、磁製るつぼ及びその内容物を静置し、放冷させた。その後、磁製るつぼの内容物(燃え殻)をビーカーB12(容積300mL)に移し、王水を20mL添加した。そして、ビーカーB12及びその内容物を、ホットプレート上において加熱し、内容物を王水に対して加熱溶解させた。
【0085】
加熱溶解後、王水に溶解しなかった不溶解物を、濾過によって除去した。この濾過においては、No.5Aの濾紙を濾材F12として用いた。濾液はビーカーB13(容積200mL)によって受けた。
【0086】
また、ビーカーB12の内容物を濾材F12に移した後は、ビーカーB12を水でよく洗浄した。そして、ビーカーB12を洗浄した後の洗浄水(水、Au等が混合した混合物)を回収し、濾材F12を用いて濾過した。即ち、ビーカーB12の内容物から分離させた濾物を濾材F12上に残留させたまま、その濾材F12によって洗浄水を濾過させ、その濾液も上記のビーカーB13によって受けた。
【0087】
さらにその後、濾物を濾材F12上に残留させたまま、温水を洗浄用液として供給し、濾材F12と濾物をよく洗浄した。濾材F12を通過した洗浄用液も、上記のビーカーB13によって受けた。
【0088】
次に、ビーカーB13及びその内容物を、ホットプレート上において加熱し、昇温させた。加熱を停止させた後、昇温させた状態のビーカーB13内に、NaSOを添加した。NaSOは、ビーカーB13の内容物から気泡が発生しなくなるまで添加し、さらにその後も、少量過剰に添加した。こうしてNaSOを添加した後、ビーカーB13の内容物を攪拌した。攪拌後は、ビーカーB13及びその内容物を静置して、沈殿物を熟成、沈降させた。
【0089】
次に、沈殿物を濾過によって分離し、回収した。この濾過においては、No.5Bの濾紙を濾材F13として用いた。
【0090】
また、ビーカーB13の内容物を濾材F13に移した後は、ビーカーB13を水でよく洗浄した。即ち、ビーカーB13に残留していた残留物(沈殿物)を、水によって洗い落とした。そして、ビーカーB13を洗浄した後の洗浄水(水と上記残留物とが混合した混合物)を回収し、濾材F13を用いて濾過した。即ち、ビーカーB13の内容物から分離させた濾物を濾材F13上に残留させたまま、その濾材F13によって洗浄水を濾過させ、上記残留物を濾物、水を濾液として分離させた。
【0091】
さらにその後、濾物を濾材F13上に残留させたまま、温水を洗浄用液として供給し、濾材F13と濾物をよく洗浄した。
【0092】
洗浄後は、濾物を濾材F13ごと濾過器具から取り出し、磁製るつぼに移した。なお、この磁製るつぼについては、濾物と濾材F13を入れる前に、予め質量を量っておいた。磁製るつぼの質量は、磁製るつぼを空焼きした後、精密電子天秤によって秤量することにより計量した。
【0093】
次に、磁製るつぼ及びその内容物を、ホットプレート上で加熱し、磁製るつぼの内容物を灰化処理した。その後、磁製るつぼ及びその内容物を、電気炉に装入し、900℃で1時間の加熱を行い、内容物を灼熱処理した。
【0094】
灼熱処理後、磁製るつぼ及びその内容物を電気炉から取り出し、デシケーターに入れ、放冷を行った。
【0095】
放冷後、定量操作を行った。即ち、磁製るつぼ及びその内容物をデシケーターから取り出し、精密電子天秤に載置し、精密電子天秤によって総質量を量った。そして、その総質量から、予め量っておいた磁製るつぼの質量と、濾材F13に依存する質量を差し引き、Auの質量(分析値)とした。
【0096】
以上の定量分析に要した時間は、約15時間であった。
【0097】
(各試験で得られた分析結果の比較)
本発明者らは、Auの含有量(Au濃度)が互いに異なる6種類のシアン系めっき剥離液(サンプルNo.1〜6)を用意した。そして、各シアン系めっき剥離液を定量分析対象として、上記2種類の試験(即ち、定量分析方法S1を用いた定量分析試験と、旧定量分析方法を用いた定量分析試験)を行った。そして、各試験の分析値から、定量分析対象のAu濃度をそれぞれ算出した。図4に、これら試験によって得られたAu濃度の分析結果を示す。
【0098】
また、上記6種類のシアン系めっき剥離液(サンプルNo.1〜6)について、従来のICP発光分光分析法による定量分析方法を用いて、Au濃度を測定した。かかるICP発光分光分析法による定量分析は、以下のように行った。先ず、シアン系めっき剥離液から、所定量の試料をホールピペットを用いてメスフラスコに分取した。そして、水を加えて、内容物の液量を、メスフラスコの標線に合わせた。その後、ICP発光分光分析装置を用いて、メスフラスコの内容物のAu濃度を測定した。
【0099】
以上の試験の結果、図4の表から明らかなように、いずれの方法によって求められたAu濃度も、ICP発光分光分析法(即ち、液体中の元素分析法として信頼性が高いとされている方法)によって求められたAu濃度と、ほぼ等しい値になった。従って、本実施形態にかかる定量分析方法S1は、分析値の誤差が十分に小さく、信頼性が高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、例えばめっき液、めっき剥離液等のシアン系Au含有液からAuを分離する方法、及び、シアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析を行う方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本実施形態にかかる定量分析方法を説明する説明図である。
【図2】実施例にかかる試験で行った定量分析方法S1を説明する説明図である。
【図3】比較試験として行った旧定量分析方法を説明する説明図である。
【図4】ICP発光分光分析法による分析値、旧定量分析方法による分析値、定量分析方法S1による分析値を示した表である。
【符号の説明】
【0102】
S1 定量分析方法
S2 採取操作
S3 分離操作
S4 定量操作
S11 アルカリ化処理
S12 第一の沈殿物生成処理
S13 第一の沈殿物回収処理
S14 溶解処理
S15 不溶解物除去処理
S21 第二の沈殿物生成処理
S22 第二の沈殿物回収処理
S31 加熱処理
S31a 灰化処理
S31b 灼熱処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン系Au含有液に含有されるAuを分離する方法であって、
前記シアン系Au含有液にアルカリ剤を添加して、アルカリ性の液とし、
前記アルカリ性の液にZnを添加して、第一の沈殿物を生成し、
前記第一の沈殿物を王水に溶解させ、沈殿物溶解液を生成し、
前記沈殿物溶解液に還元剤を添加して、第二の沈殿物を生成し、
前記第二の沈殿物を加熱処理することにより、Auを分離させることを特徴とする、シアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法。
【請求項2】
前記アルカリ剤は、NaOHであることを特徴とする、請求項1に記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法。
【請求項3】
前記還元剤は、NaSOであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法。
【請求項4】
前記シアン系Au含有液を第一の処理用容器に入れ、
前記第一の処理用容器内で、前記第一の沈殿物を生成し、
前記第一の沈殿物を第一の濾材を用いた濾過によって分離させ、
前記第一の沈殿物を前記第一の濾材と共に前記第一の処理用容器に入れ、
前記第一の処理用容器内で、前記第一の沈殿物及び前記第一の濾材を前記王水に溶解させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法。
【請求項5】
前記沈殿物溶解液を生成した後、前記王水に溶解しなかった不溶解物を濾過によって除去し、その後、前記還元剤を添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法。
【請求項6】
前記第二の沈殿物を、第二の処理用容器内で生成し、
前記第二の沈殿物を第二の濾材を用いた濾過によって分離させ、
前記第二の沈殿物を前記第二の濾材と共に加熱用容器に入れ、
前記加熱用容器に入れた前記第二の沈殿物及び前記第二の濾材に対して前記加熱処理を行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法。
【請求項7】
前記加熱処理においては、灰化処理及び灼熱処理を行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法。
【請求項8】
前記シアン系Au含有液は、めっき剥離液であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの分離方法によって、Auを分離し、
前記分離したAuの質量を量ることを特徴とする、シアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析方法。
【請求項10】
前記第二の沈殿物を加熱用容器に入れる前に、前記加熱用容器の質量を量り、
前記加熱用容器に前記第二の沈殿物を入れ、前記加熱処理を行い、
その後、前記加熱用容器内に残留した燃え殻を入れたまま、前記加熱用容器の質量と前記燃え殻の質量とを合わせた総質量を量り、
前記総質量から前記加熱用容器の質量を差し引き、前記燃え殻の質量を求めることを特徴とする、請求項9に記載のシアン系Au含有液に含有されるAuの定量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−82975(P2008−82975A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265782(P2006−265782)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】