説明

シクロアルカノンオキシムの製造方法

【課題】光ニトロソ化法において、光源としては、水銀やナトリウム等を封入した放電灯ランプに変わる次世代の光源として、発光ダイオードを用いたシクロアルカノンオキシムの製造方法を提供する。
【解決手段】シクロアルカンと光ニトロソ化剤とを、光照射により液中で光化学反応させるシクロアルカノンオキシムの製造方法であって、光源が発光ダイオードであり、かつ該光源の波長に対する発光エネルギー分布の中で、発光エネルギーの最大値を示す波長が550nmから700nmの範囲であり、且つピーク強度の5%強度以上のエネルギーを出力する波長範囲が150nm以下である光源を用い、液中の光照射距離が200mm以上、液中の光ニトロソ化剤の濃度が0.1質量%〜0.5質量%であることを特徴とするシクロアルカノンオキシムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ニトロソ化法において、光源として発光ダイオードを使用したシクロアルカノンオキシムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光反応は光化学反応とも言われ、光照射により分子、すなわちラジカル反応剤にエネルギーを吸収させることで分子をエネルギー準位の高い状態、いわゆる励起状態とし、励起された分子により反応を起こさせる化学反応全般を指す。非特許文献1によれば、光反応には光による酸化・還元反応、光による置換・付加反応などの種類があり、適用用途としては写真工業、コピー技術、光起電力の誘起の他、有機化合物の合成に利用されることが知られている。また、非意図的な光化学反応としては光化学スモッグなども光化学反応に属する。
【0003】
光化学反応としては特許文献1や非特許文献2に記載の通り、光化学反応により、シクロヘキサノンオキシムを光化学反応により合成することは知られている。また、特許文献1や特許文献2には、シクロアルカノンオキシムの反応に有効な波長として400〜760nmが望ましいことが記載されている。このように特定の波長に特化したエネルギー出力特性を持つ発光体として、発光ダイオードやレーザー、有機エレクトロ・ルミネッセンス(有機EL)などの光源が考えられる。
【0004】
発光ダイオードは、半導体を用いて電気エネルギーを直接光に転換できる利点があり熱の発生を抑制し、省エネ、長寿命等の点で注目されている。近年では、高効率、高出力なLEDが開発されており、蛍光灯などの一般照明に変わり、LED照明に切り替えることが可能なレベルにまで性能向上が進んでおり、近く工業的にも実用化が可能なレベルに到達するものと考えている。
【0005】
このような環境下、特許文献1では、前記光源の波長に対する発光エネルギー分布において、波長400nmよりも短波長領域での波長に対する発光エネルギーが、発光エネルギーの最大値の5%以下であり、かつ、波長760nmよりも長波長領域での波長に対する発光エネルギーが、前記発光エネルギーの最大値の5%以下であることが望ましいこと、前記発光ダイオードとして、エネルギー変換効率が3%以上であるものを使用すること、光反応液を含む光化学反応器の側面に沿って面状に配列した複数の発光ダイオードを使用して、透過性の光化学反応器を介して光反応液に光照射することを特徴としたシクロアルカノンオキシムの製造方法が提唱されている。
【0006】
さらに、特許文献2では、光源として発光ダイオードを使用し、かつ該光源の波長に対する発光エネルギー分布の中で、発光エネルギーの最大値を示す波長が400nm〜760nmの範囲にあること、さらに、該光源の裏面に冷却ジャケットを設けて、該冷却ジャケットに冷媒を連続的に導入して、該光源を強制的に間接冷却すること、前記光源の波長に対する発光エネルギー分布において、発光エネルギーの最大値を示す波長が430nm〜650nmの範囲であり、かつ波長300nm〜830nmの発光エネルギーに対して波長400nm〜760nmの発光エネルギーの積算値が95%以上であること、前記冷却ジャケットに導入する冷媒の温度、発光ダイオードの配列方法、前記発光ダイオードと光化学反応器の側面との照射の最短距離に関する記載がなされている。さらに特許文献3では、発光ダイオードを用いてマイクロリアクターによるシクロアルカノンオキシムの光ニトロソ化をごく微小空間で実施する記載がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−6775号公報
【特許文献2】特開2010−6776号公報
【特許文献3】特表2011−521004号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】東京化学同人 「化学事典」p457〜458
【非特許文献2】石油学会誌 第17巻第10号(1974) p72〜p76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献記載の方法における単位電力当たりのシクロアルカノンオキシム生成量は、工業的に用いられる値と比較して十分高いとは言えず、省エネルギーの面からさらなる高効率化が望まれていた。
【0010】
すなわち、本発明は、光源として波長分布の狭い発光ダイオードなどの光源を用いる光ニトロソ化法において、高い生成量でシクロアルカノンオキシムを製造すること、それによりシクロアルカノンオキシムの省電力、省資源を可能とする製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、これらの課題を解決するため鋭意検討を行った結果、光と反応場との接触時間、すなわち照射の距離や、光により励起されるニトロソ化剤の反応場における濃度の関係を制御することで、シクロアルカノンオキシムの生成量が大きく向上させ得ることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は以下の構成を採用する。
(1)シクロアルカンと光ニトロソ化剤とを、光照射により液中で光化学反応させるシクロアルカノンオキシムの製造方法であって、光源が発光ダイオードであり、かつ該光源の波長に対する発光エネルギー分布の中で、発光エネルギーの最大値を示す波長が550nmから700nmの範囲であり、且つピーク強度の5%強度以上のエネルギーを出力する波長範囲が150nm以下である光源を用い、液中の光照射距離が200mm以上、液中の光ニトロソ化剤の濃度が0.1質量%〜0.5質量%であることを特徴とするシクロアルカノンオキシムの製造方法。
(2)前記発光エネルギーの最大値を示す波長が600nmから650nmの範囲であることを特徴とする、上記(1)に記載のシクロアルカノンオキシムの製造方法。
(3)前記シクロアルカンがシクロヘキサンであり、前記シクロアルカノンオキシムがシクロヘキサノンオキシムであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のシクロアルカノンオキシムの製造方法。
(4)前記光ニトロソ化剤が塩化ニトロシルであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシクロアルカンオキシムの製造方法。
【0013】
なお、発光ダイオードとは、順方向に電圧を加えた際に発光する半導体のことであり、LED(LightEmitting Diode)とも呼ばれ、発光原理としてエレクトロルミネセンス(EL)効果を利用するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、目的生産物であるシクロアルカノンオキシムのオキシム収量を大きく向上させることができるようになり、また電力使用量の削減だけでなく、不純物生成の抑制も可能となり、電力の省エネルギーおよび原料となるシクロアルカン使用量の抑制も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、波長615nm付近に発光エネルギーの最大値を有する、本発明に用いられる発光ダイオードの発光エネルギー分布の一例を表すグラフである。
【図2】図2は、発光ダイオードを用いた光化学反応装置の一例を示す断面概念図である。
【図3】図3は、照射距離を変更する光反応実験を行う装置の一例である。
【図4】図4は、照射距離を変更する光反応実験を行う装置の周辺装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
本発明で用いる光源は、発光ダイオードであり、順方向に電圧を加えた際に発光する半導体のことである。発光ダイオードは、LED(LightEmitting Diode)とも呼ばれ、発光原理はエレクトロルミネセンス(EL)効果を利用しているものである。
【0018】
本発明で用いる発光ダイオードの波長に対する発光エネルギー分布の好ましい形態を図1を用いて説明する。発光エネルギー分布とは、図1のように、横軸に波長、縦軸に発光エネルギーを示したスペクトル分布のことである。図1は、波長615nm付近に発光エネルギーの最大値を有する、本発明に用いられる発光ダイオードの発光エネルギー分布の一例を表すグラフである。
【0019】
本発明の発光エネルギーの最大値は、図1に示すように、波長に対する発光エネルギー分布において、Emaxで示されるエネルギーの最大値のことである。
【0020】
本発明では、発光ダイオードから発光される光において、波長に対する発光エネルギー分布の中で、発光エネルギーの最大値を示す波長(主波長:Emax)が550nmから700nmの範囲のものであって、ピーク強度の5%強度以上のエネルギーを出力する波長範囲が150nm以下のものを用いる。発光エネルギーの最大値を示す波長としては、600nmから650nmのものを用いるのがより好ましい。これは、理論的にはニトロソ化剤をラジカル解離させるのに必要な光子エネルギーが760nm以下であることから、Emaxを示す波長とEmaxの5%以上の強度のエネルギーを出力する範囲の上限波長が50〜100nm以下で、かつ発光エネルギーの最大値を示す波長が700nm以下であれば、ほぼ全ての光子波長が760nm以下となり、全てのエネルギーをラジカル解離に有効な波長範囲とすることができるとの理由による。また、波長が小さくなりすぎると、副反応が生じやすくなるため、発光エネルギーの最大値を示す波長は550nm以上とするものである。
【0021】
本発明において、発光エネルギー分布は、後述する方法により測定することができるが、複数の発光ダイオードを使用する場合の発光エネルギー分布は、発光ダイオードそれぞれの発光エネルギー分布を測定した後、使用する発光ダイオード全数量に集約した発光エネルギー分布を求めた場合の最大の発光エネルギーを示す波長が550nmから700nmの範囲であればよい。用いる複数の発光ダイオードが単一ロットで、質も均質であることが明らかな場合には、簡便法として任意の発光ダイオードを測定して判断することも可能である。また、複数種類の発光ダイオードを使用する場合には、簡便法として質の等しい種類毎に任意の発光ダイオードを測定し、各種類の数量も勘案して、用いる発光ダイオード全数量に集約した発光エネルギー分布を計算して求めることも可能である。
【0022】
ここで、発光エネルギー分布における波長領域は、紫外線、可視光線、近赤外線の領域であり、本発明においては少なくとも一般的な発光スペクトル測定器にて検出可能な300〜830nmの領域でのエネルギースペクトルで確認しても差し支えない。通常製造されている可視光発生用の発光ダイオードでは、300nm〜830nmの間に99%以上の発光エネルギーを出力するものが一般的であるためである。
【0023】
発光ダイオードの照射特性は駆動電流値や温度の影響を受けるので、発光エネルギー分布の測定は光化学反応で光照射させる時と同様の駆動電流および温度条件で行うものとする。すなわち測定する発光ダイオードにかける駆動電流は、光化学反応で光照射させる時にかける発光ダイオード1個あたりの平均駆動電流値と同様の駆動電流値とし、発光させる。電流量は使用する発光ダイオードの定格電流値の0.1%〜100%で使用することが望ましい。測定する発光ダイオードの温度は、発光ダイオードの裏面側の表面温度(発光ダイオードの裏面に放熱板、放熱基板、ヒートシンク等が設けられている場合はその表面温度、発光ダイオードが基板等にマウントされている場合はその基板の表面温度でよい)が、光化学反応で発光ダイオードを照射したときの平均温度と同様の温度条件で測定を行う。
【0024】
発光ダイオードの裏面に設ける放熱板、放熱基板、ヒートシンク等としては、熱伝導性の良いアルミニウムや銅製のものなどが挙げられる。測定の際、発光させる発光ダイオードは反応条件と同様の温度となるよう、放熱板、放熱基板、ヒートシンク等を設けて、放熱を行ってもよいし、場合により冷却してもよい。発光ダイオードは、駆動時に発熱により温度が上昇するので、温度上昇は1℃以内になるようにして、測定時間を10〜300msの範囲で測定する。光化学反応で光照射させた時の温度は発光ダイオードの放熱板、放熱基板、ヒートシンク等の表面温度の平均温度を用いる。
【0025】
発光エネルギー分布は、波長5nm以下毎の集計出力での分布とする。さらに精度よく測定する必要がある場合の発光エネルギー分布は、波長0.5〜1nm毎の集計出力が好ましい。波長は集計出力の波長帯の中心値を用いるのが好ましい。光化学反応を行う前に測定を行う場合には、光化学反応を行う予定の温度、駆動電流値を用いて測定を行うものとする。本発明においては、反応が液中で行われるように支障のない範囲で−20℃〜50℃の範囲で温度設定することが望ましいが、発光ダイオードの温度範囲は液と接触しないので、照射面の液体が固化しない範囲であれば良く、−10℃〜40℃で実施することが望ましい。但し、より低温の方が発光ダイオードの特性から発光効率が高い。
【0026】
本発明で用いる発光ダイオードは、エネルギー変換効率、すなわち発光ダイオード1個あたりの投入電力に対する400〜760nmの波長領域の発光エネルギー積算値(有効エネルギー)10%以上が好ましく、さらに望ましくは20%以上が望ましい。上限については特に制限はないが、投入電子数に対して外部に取り出される光量子数の比率、つまり外部量子効率での理論上100%の性能から、エネルギー変換効率は75%が上限となり、十分な効果が得られ、エネルギー変換効率が60%以下であっても、放電灯よりも発熱量を抑えることができ、十分な効果が得られる。なお特許文献3に用いられているLED(ルミレッズ製Luxeon LXML-PL01-0030)はエネルギー変換効率が7%と低く、投入電力に対して効率的な反応成績を上げることができているとはいえない。
【0027】
本発明において発光エネルギーの波長分布測定装置としては、各波長の発光エネルギーの絶対値が測定できるものが好ましく、積分球を用いる。積分球は、内径として3inch(7.6cm)以上のものを用いるが、測定が困難な場合には、10inch(25.4cm)以上のものを用いる。各波長の測定幅は5nm以下が好ましく、さらに0.5〜1nmが望ましい。本発明においては、上記のとおり積分球での発光エネルギー分布による測定を行うが、それが何らかの事情により適切でない場合には、光照射を受けた単位面積あたりの発光エネルギー、つまり放射照度を用いる。放射照度を用いる場合は、光源からの測定距離における全照射面積を用いて各波長の発光エネルギーの絶対値を算出する。例えば、放電灯の様な点光源の場合、測定距離における球体面積として算出すれば良いが、発光ダイオードの場合、照射方向が前方方向であるので、測定距離は同一でも測定位置や角度により測定値が異なるため、光源の中心に対して、一定の測定距離での角度10°以下毎に放射照度を測定して、各点の放射照度を用いて、測定距離における半球体面積に換算して各波長の発光エネルギーの絶対値を算出する。
【0028】
光源の中心からの測定距離は、点光源とみなせる距離、つまり一定距離で任意の角度において放射照度が変化しない距離とし、少なくとも発光長の5倍以上、さらに発光長の10倍以上が好ましい。当然のことながら、発光エネルギーの測定には、発光無しでのブランクや他の光源から入り込む反射等を測定して補正を行う。
【0029】
本発明で用いる選択率とは、目的生成物であるシクロアルカノンオキシム生成量が、不純物も含めたシクロアルカン転化量に対してどれだけの割合であるかを示したものであり、シクロアルカノンオキシムおよび不純物生成量の合計モル量を分母とし、オキシム生成モル量を分子として算出した値である。この値が100%に近いほど、シクロアルカンは有効に利用され、目的生成物を効率的に得られたことになる。測定方法はガスクロマトグラフィーによる分析値を用いる。
【0030】
次に、発光ダイオードを用いた光化学反応の一例を、図2を参照して説明する。図2は、発光ダイオードを用いた光化学反応装置の一例を示す断面概念図である。
【0031】
本発明の光源である発光ダイオード1は、一般的な砲弾型や表面実装型、チップ型等のいずれでも良いが、発光ダイオード1の光照射方向にある光化学反応器2内の光反応液の温度上昇を抑制するには、発光ダイオード1の裏面から広く放熱できるものが望ましい。
【0032】
光源からの光照射の方式は、光反応液であるシクロアルカンと光ニトロソあるいはそれらの反応物で構成される光反応液に有効に照射出来ればいずれであっても良い。例えば、図2のように光化学反応器2の外側から光反応液に光を照射する様な外部照射型や光化学反応器2の内部、つまり光反応液に光源を直接あるいは間接的に浸漬させて照射する内部照射型がある。これまでの放電灯、蛍光灯等のランプは、球状あるいは棒状光源が多く、光を有効に活用するには内部照射が主流であった。また、同じ発光体を用いて反応液に照射する距離を自由に変更できるという点でも内部照射が有利である。しかし、発光ダイオードのように小さな点源を多数配置する場合は、反応器の形状はどのような形でもよく、反応率や、施工上最も有利に形状を選択すればよい。発光ダイオードは、ヒートシンク3に熱伝導性接着剤などを用いて接着され、放熱分を発光ダイオード1の外に排出する。シクロアルカンはシクロアルカン導入ライン4から供給され、反応生成物ライン10から比重の重い生成物と一緒に排出される。光ニトロソ化剤はガス状で光ニトロソ化剤導入ライン5から供給され、ニトロソ化剤を液に吸収させた後、未反応ガスライン9により排出される。反応槽温度は冷却器6内に反応冷却水導入ライン7により冷却水を流し、冷却後の水を反応冷却水排出ライン8により排出する。反応槽温度を10℃以上に保つ場合は冷媒は10℃以下の水を用いることが望ましい。
【0033】
液中の光照射距離とは、光が反応器の透明材料の壁面を通過して内部に照射され、障害物や壁面などに到達して散逸するまでの距離を言い、例えば図2の場合はガラス製の反応槽壁面から、縦型円筒中心部に向かって照射した場合の中心に設置された液冷却部分の壁面までの距離を言う。例えば特開2010-6775表1の実験にて用いられた反応槽の照射距離は図2と同じ形状であり、反応槽径14cm、内部の冷却部分の径が5cmである為、照射距離は4.5cm(45mm)である。逆に図2の中心に発光体を設置して外向きに照射する内部照射型の場合も、光照射距離は同様の値となる。光照射距離は本来長ければ長いほど光吸収の面では望ましく、照射した光をすべて吸収するのに必要な距離以上を取る事が望ましいと考えられるが、実際には光吸収に関するLambert-Beerの法則から、
光吸収率=1−exp(−α・c・L)
α:係数、L:照射距離、c:ニトロソ化剤濃度
に従い吸収が進むことから、照射距離を膨大に与えても効果的ではない。光吸収効率は高いほど望ましいが、実用面から50%以上が望ましいと考える。
【0034】
一方、光ニトロソ化剤は、高濃度になるほど照射された光を多く吸収するので望ましいと考えられるが、一方で高濃度であるために副反応が生じやすくなるため、不純物が増加して後述の選択率を低下させる現象が見られる。また、光ニトロソ化剤の濃度は低すぎると光の吸収が悪い為に光の消費が不十分となって単位エネルギー当たりのシクロアルカノンオキシムの生成量が低くなる傾向にある。以上のことから、不純化が進まない範囲で濃度を濃くし、光吸収率を高くすることが好ましい。
【0035】
本発明で規定する波長範囲においては、照射距離が200mm以上、より望ましくは200mm〜600mm、液中の光ニトロソ化剤濃度が0.1質量%〜0.5質量%、より望ましくは0.2質量%〜0.4質量%あれば照射した光が吸収され、且つ不純物の選択率が比較的高く望めるので望ましい。上記Lambert-Beerの法則を用いて計算したところ、上記照射距離、光ニトロソ化剤濃度において、光吸収率は50%以上、望ましい条件においては光吸収率は80%以上を達成する。
【0036】
さらに望ましい照射距離を設定するには、例えば、図3に示すような反応装置とし、光化学反応器(照射距離変更型)11の光照射方向の長さを種々変更して検討することも可能である。なお、かかる反応装置を工業生産に用いることも何ら差し支えない。但し本発明の特徴はこの装置形状に限定されない。図3は、後述の実施例において照射距離を変更して行った光反応実験に用いた反応装置の一例を示す側面概念図である。発光ダイオード(発光部)14は非常に小型の光源であり、発光ダイオードを搭載し、回路接続の為電極を発光体外部に導出させた形状の発光ダイオード照射電極基板13を複数個同じ方向に設置し、照射光が光化学反応器(照射距離変更型)11に導入されるように設置した。回路が成立すれば、発光ダイオードを複数個単位で配列させた発光体、すなわちモジュールは如何様に組み合わせることもできるので、放電灯では困難な種々の光照射形態が取れる利点があり、平面、曲面等の照射が可能となり、指向性の強い発光ダイオードを、均一に発光させることが可能である。
【0037】
透過性の光化学反応器(照射距離変更型)11の側面の材質は、用いる発光ダイオードが発する光の透過性が良好な材質ではいずれでも良く、例えば、ガラスや石英製、アクリル等の透明樹脂製が挙げられる。但し、反応器内部に存在する液の腐食性を勘案して、反応器はガラス製が望ましく、光透過部分以外を別材料で製作する場合は、チタンやタンタルなども使用できる。
【0038】
発光ダイオード(発光部)14の発光は、特に温度の制限はないが、例えば外気温等の周囲温度や発光ダイオードの接合部分や基板や放熱板等の温度の影響を受ける。一般には、温度が高いほど、単位電力あたりの発光エネルギーは低下するので、温度上昇を抑制することが望ましく、光ニトロソ化反応が可能であれば、低温程良い。発光ダイオード14の発光での温度上昇を抑制する方法は、外気温が一定で十分に発光ダイオードの発熱を抑えられ、発光ダイオードの発光させるときの温度上昇を抑制できるなら放冷で良い。例えば、発光ダイオード照射電極基板13または発光ダイオード照射用回路基板12の裏面にアルミニウムや銅等の金属製のヒートシンクを設けて、外気との接触面積を向上するために、フィン等を設けて放熱または冷媒による冷却可能な方式としても良い。実用性から0℃以上が好ましい。冷媒としては、水、有機冷媒液、無機冷媒液、空気、窒素など何でも利用可能であるが、シクロヘキサンの場合融点との関係から4℃〜10℃のチルド水を使用することが望ましい。
【0039】
本発明で用いるシクロアルカンは、特にその炭素数には限定しないが、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカンが好ましい。特に、カプロラクタムの原料となるシクロヘキサン、ラウリルラクタムの原料となるシクロドデカンが好ましい。
【0040】
例えば、シクロアルカンは反応器入原料循環ライン15より光化学反応器(照射距離変更型)11に導入できる。この導入液には、予めガス状の光ニトロソ化剤を吹き込んで、所定の濃度に調整したものを導入することで、反応器で消費される光ニトロソ化剤の補給が可能となる。あるいは、この導入液に連続的に光ニトロソ化剤を導入しながら反応を行ってもよい。この際、反応液中の光ニトロソ化剤濃度をモニターしながら、導入する光ニトロソ化剤の量を制御することが好ましい。
【0041】
光ニトロソ化剤は、塩化ニトロシルやトリクロロニトロソメタンなどが挙げられるが、反応して光ニトロソ化剤を発生するガス、すなわち塩化ニトロシルと塩化水素との混合ガスや、一酸化窒素と塩素との混合ガス、一酸化窒素と塩素と塩化水素との混合ガス、ニトローゼガスと塩素との混合ガス等のいずれも光反応系にて反応して塩化ニトロシルとして作用するので、これらニトロソ化剤の供給形態に限定されるものではない。また、塩化ニトロシルとクロロホルムを光反応させて得られるようなトリクロロニトロソメタンをニトロソ化剤として用いても良い。光ニトロソ化剤の濃度は後述の通り、ヨウ素発色およびチオ硫酸ナトリウムによる滴定を用いて液をサンプリングして測定しても良いし、光透過率により簡易的に求めても良い。光ニトロソ化剤濃度は、反応液中の塩化ニトロシルの流通量を調整することで調整する。
【0042】
上記のシクロアルカンおよび光ニトロソ化剤を用いて発光ダイオードの光照射による光化学反応の結果、シクロアルカンの炭素数に応じたシクロアルカノンオキシムを得ることができる。
【0043】
光化学反応を塩化水素の存在下で行う場合、シクロアルカノンオキシムはその塩酸塩となるが、そのまま塩酸塩の形態でも良い。例えば、シクロヘキサンを用いた塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応ではシクロヘキサノンオキシムが得られる。反応により得られたシクロアルカノンオキシムは、光化学反応器(照射距離変更型)11の槽内で沈降し、油状物として蓄積される。この油状物は反応液循環ライン16から抜き出される。未反応液は、油状物と共に未反応シクロヘキサン+シクロヘキサノンオキシム循環ライン16から排出され、系外で油状物と未反応液に比重分離された後、多くの場合未反応物は再度原料として光化学反応器(照射距離変更型)11から光反応槽に再供給される。反応液循環ライン16から図4の分離器24へは、反応液循環ラインポンプ18を用いて液を排出して、分離器24にて油状物とシクロヘキサンを比重分離した後、反応器入原料循環ラインポンプ17を用いてシクロヘキサンのみを光化学反応器(照射距離変更型)11に返送する。分離器では塩化ニトロシル吹き込みライン21により塩化ニトロシルをシクロヘキサンに吸収させる。未反応ガスは塩化ニトロシル未反応ガス抜き出しライン22を用いて排出する。生成物は23を用いて油状物のみを抜き出すことができ、減少分は原料供給ライン25の生成油状物抜き出しラインからシクロヘキサンを補給することができる。
【0044】
照射距離、すなわち光を照射する際に光が反応液中を通過する距離については、複数の発光ダイオードを1本の円筒に外側向けに多数接着した発光体集合体、すなわち発光体モジュールを用いて反応させる場合は反応器を円筒形として、光照射距離を反応器外筒の径によって調整しても良いし、照射方向に邪魔板や冷却板を設置して光の照射を適当に妨げる手法によって調整しても良い。複数の発光体モジュールを用いて反応させる場合は上記外筒、邪魔板または冷却板の他、発光体モジュール同士の距離を最適な値に調整することでも良い。厳密にはモジュールの周辺に存在する隣接発光体モジュール間には隙間が存在するが、これら隙間から漏洩する光の影響は限定的である。発光体の水平方向の配列には特に規定は無いが、それぞれの配置位置が正三角形の頂点に位置する三角配列にすることで、できるだけ発光体同士の距離を均一にでき、なおかつ限られた面積に多くの発光体を設置することができるため有利である。
【実施例】
【0045】
以下実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0046】
実施例、比較例におけるシクロアルカノンオキシムは基本操作としては下記のとおりとし、各実施例、比較例において特記した条件を適宜変更して製造した。
【0047】
光反応試験には、図3および図4に示すものと同じ形態の光化学反応装置を用いた。円筒型の光化学反応器11は円筒の内径10cm、長さ4.5cm、9cm、22.5cm、45cmの4種類の“パイレックス(登録商標)”ガラス製円筒型のものを用いた。実験は照射距離毎に光反応槽を交換し、各照射距離でのデータを測定した。光源である発光ダイオード照射電極基板13および発光ダイオード照射回路基板12と発光ダイオード(発光部)14は市販の一体製品であり、波長615nmに最大エネルギーピークを有したもの(Lumileds社製発光ダイオードRedOrange LXML-PH01-0050 エネルギー変換効率20%、CREE社製発光ダイオードRedOrange XPERDO-1-0000-00701 エネルギー変換効率35%)を発光ダイオード照射用回路基板12であるアルミニウム製円形基板(イフェクト社製 TR-RE90φ75)に実装したものを用いた。なお発光ダイオード照射電極基板13、発光ダイオード(発光部)14はすべて同一ロットを使用した。発光ダイオード照射電極基板13、発光ダイオード(発光部)14は、光化学反応器(照射距離変更型)11の円柱のうち片側の円形部外側側面に四角配列で7.5cmφに90個を光照射面を光化学反応器(照射距離変更型)11側に向けて均等に配列させて、冷却用のアルミニウム製ヒートシンクに取り付けた。ヒートシンクには外部から水を通水して間接的に冷却した。冷却水温度は10℃とした。
【0048】
発光ダイオードによる光照射は光化学反応器(照射距離変更型)11の外側から光化学反応器(照射距離変更型)11の円筒端面(円形部)の外壁ガラスを通して光反応液に照射するような照射方式を用いた。発光ダイオードは30個ずつを直列に繋いで3並列とし、1セットの直流電源装置を用いて発光させた。発光ダイオード1個あたりの平均駆動電流値は0.35A/個であり、全発光ダイオードへの総投入電力は約85Wであった。
【0049】
光化学反応器(照射距離変更型)11および分離器24に原料供給ライン25を用いてシクロヘキサン(特級試薬、片山化学社製)を合計6L仕込み、反応温度を20℃に維持し、分離器24に塩化水素(鶴見曹達社製)ガスを2000ml/minおよび塩化ニトロシルガス(ニトロシル硫酸を塩化水素と反応させて合成し、蒸留精製して得た)50〜300mL/minの流量で供給して、塩化ニトロシル吹き込みライン21を用いて分離器下部より連続的に吹き込んだ。その後10mL/minにて光化学反応器11(照射距離変更型)と分離器24の間を循環した。これによりシクロヘキサンは分離器24にて塩化ニトロシルガスと接触の後、反応器入原料循環ライン15を通して光化学反応器(照射距離変更型)11に送られる。塩化ニトロシル濃度は吹き込み開始後30分毎に反応液を分離器24から抜き出してヨウ化カリウムのメタノール溶液中に分散してヨウ素を生成させた後、チオ硫酸ナトリウム水溶液により酸化還元滴定により測定した。
【0050】
反応が開始すると光化学反応器(照射距離変更型)11の底部に反応生成物が油状物として蓄積するので、底部の油状物に光照射が直接当たらないように、底部油状物は未反応物と一緒に図4の反応液循環ラインポンプ18により反応液循環ライン16を通して抜き出し、分離器24にて比重差により油状物を分離した。分離した油状物は定期的に生成油状物抜き出しライン23から抜き出して、テスト終了後に油状物総質量を測定した。
【0051】
光反応液の温度は光化学反応器(照射距離変更型)11から反応液循環ライン16を介してポンプにより抜き出される液の温度を測定した。放電灯を用いる場合、放電灯の発熱のため、光照射面を冷却する必要があるが、発光ダイオード1では光照射面への発熱が非常に低いので、光照射面での冷却は必要としない。
【0052】
その後発光ダイオード(発光部)14を点灯して反応を開始した。分離器に送られた後比重差により油状物のみが分離器24に堆積し、未反応のシクロヘキサンは塩化ニトロシルと接触の後、再び光化学反応器(照射距離変更型)11に送られた。
【0053】
排ガスは、塩化ニトロシル未反応ガス抜き出しライン22より排出して、スクラバーにて水吸収し、吸収液をソーダ灰にて中和した。
【0054】
光反応試験は安定測定の為、点灯開始後120分〜180分での油状物より評価を行った。
【0055】
シクロヘキサノンオキシムおよび不純物は、抜き出した油状物を、エタノール溶液に溶解し、粉末重炭酸ソーダで中和後、GC分析(島津製作所社製、GC−14B)にて測定し、検量線よりシクロヘキサノンオキシムの濃度(質量%)を求め、油状物の質量(g)から反応で得られたシクロヘキサノンオキシムの生成量(g)を求めた。GC分析条件は、固定相液体はThermon−30007%、固定相担体はChromosorb W−AW(DMCS)80〜100mesh、カラムは内径3.2mmガラス2.1m、キャリアーガスは窒素25ml/分、温度はカラム恒温槽180℃、注入口240℃、検出器はFID、内部標準物質はジフェニルエーテルである。
【0056】
シクロヘキサノンオキシムの収量(g/kWh)は、1h当たりの投入電力(kWh)に対するシクロヘキサノンオキシムの生成量(g)で算出した。
【0057】
実施例1
照射距離、すなわち反応器の円筒長さ方向が22.5cmのものを用い、照射する発光ダイオードをPhillips Lumileds社製発光ダイオードRedOrange LXML-PH01-0050(エネルギー変換効率20%)を用いて反応させた。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量を調整した上で、120分後〜180分後の反応液中の塩化ニトロシル濃度を測定したところ、0.3質量%であった。その他の条件は前述の基本操作の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0058】
実施例2
照射距離が45cmのものを用いて反応させた。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量を調整した上で、120分後〜180分後の液中の塩化ニトロシル濃度を測定したところ、0.3質量%であった。その他の条件は実施例1の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0059】
実施例3
照射距離が22.5cmのものを用い、照射する発光ダイオードをCREE社製発光ダイオードRedOrange XPERDO-1-0000-00701(エネルギー変換効率35%)に変更して反応させた。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量を調整した上で、120分後〜180分後の液中の塩化ニトロシル濃度を測定したところ、0.4質量%であった。その他の条件は前述の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0060】
実施例4
照射距離が45cmのものを用いて反応させた。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量を調整した上で、120分後〜180分後の液中の塩化ニトロシル濃度を測定したところ、0.4質量%であった。その他の条件は実施例3の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0061】
比較例1、2
照射距離が9cmのものを用い、照射する発光ダイオードをPhillips Lumileds社製発光ダイオードRedOrange LXML-PH01-0050(エネルギー変換効率20%)に変更して反応させた。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量をそれぞれ調整した上で、120分後〜180分後の液中の塩化ニトロシル濃度を測定したところ、表1に示すとおりそれぞれ0.3、0.6質量%であった。その他の条件は前述の基本操作の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0062】
比較例3、4
反応条件は照射距離Lが22.5cmのものを用いて反応させた。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量を調整し、120分後〜180分後の液中の塩化ニトロシル濃度を、それぞれ0.6%、0.9質量%に制御した以外は前述の比較例1の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0063】
比較例5,6
反応条件は照射距離Lが45cmのものを用いて反応させた。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量を調整した上で、120分後〜180分後の液中の塩化ニトロシル濃度をそれぞれ0.6、0.9質量%に制御した以外は前述の基本操作の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0064】
比較例7
反応条件は照射距離Lが4.5cmのものを用いて反応させ、照射する発光ダイオードをPhillips Lumileds社製発光ダイオードCool White LXML-PWC1-0050(エネルギー変換効率20%)に変更して反応させた。た。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量を調整した上で、120分後〜180分後の液中の塩化ニトロシル濃度をそれぞれ0.4質量%に制御した以外は前述の基本操作の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0065】
比較例8
反応条件は照射距離Lが4.5cmのものを用いて反応させ、照射する発光ダイオードをPhillips Lumileds社製発光ダイオードRed LXML-PD01-0040(エネルギー変換効率20%)に変更して反応させた。分離器に吹き込む塩化ニトロシル量を調整した上で、120分後〜180分後の液中の塩化ニトロシル濃度をそれぞれ0.4質量%に制御した以外は前述の基本操作の通り行った。このときの結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1、2においては、オキシム収量が0.1〜0.5%の範囲内および光照射距離200mm以上でシクロヘキサノンオキシム収量が最も高効率の結果を得た。また、このときの選択率も79〜80.8%と高効率であった。
【0068】
比較例1においては、液中塩化ニトロシル濃度は0.3%であったが、照射距離が90mmと短かった。この結果、シクロヘキサノンオキシム選択率は実施例1、2と同等であったが、シクロヘキサノンオキシム収量が低くなった。
【0069】
比較例2においては、液中塩化ニトロシル濃度が0.6%と高く、照射距離も短かったことから、オキシム収量、シクロヘキサノンオキシム選択率共に低下した。
【0070】
比較例3、4では、照射距離が225mmであったが、液中塩化ニトロシル濃度が0.6%以上と高濃度であり、この結果シクロヘキサノンオキシム収量およびシクロヘキサノンオキシム選択率がともに低下した。
【0071】
比較例5、6では、照射距離はさらに長くなっているが、シクロヘキサノンオキシム収量およびシクロヘキサノンオキシム選択率ともに比較例3、4よりもさらに低下した。
【0072】
比較例7、8では、照射距離が45mmで短くなっており、これによりオキシム収量が低下した。
【0073】
以上の結果から、塩化ニトロシル濃度は0.1〜0.5質量%、照射距離は200mm以上でシクロヘキサノンオキシム収量およびシクロヘキサノンオキシム選択率の両面で最も適した反応結果を得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
地球環境に優しく、省エネ、長寿命等で次世代の光源として期待されている発光ダイオードを光源として、光化学反応、特に光ニトロソ化反応を可能にした。この結果、発光ダイオードは表示用途や照明用途のランプ代替として、脚光を浴びているが、光化学反応に適用できることで大いに、発光ダイオードの新たな用途や可能性を広げられる。さらに、光化学反応を用いた製造、その応用範囲がこれらに限られるものではないが、例えばカプロラクタムやラウリルラクタムの製造、特に、光ニトロソ化法によるシクロヘキサンノンオキシムからのカプロラクタムの製造において、発光ダイオードを適用することにより、発光エネルギーを効率的に光ニトロソ化反応に利用できるとともに、環境負荷低減、省エネルギー、寿命延長が可能となり大幅なコストダウンが期待できる。
【符号の説明】
【0075】
1 発光ダイオード
2 光化学反応器
3 ヒートシンク
4 シクロアルカン導入ライン
5 光ニトロソ化剤導入ライン
6 冷却器
7 反応冷却水導入ライン
8 反応冷却水排出ライン
9 未反応ガスライン
10 反応生成物ライン
11 光化学反応器(照射距離変更型)
12 発光ダイオード照射用回路基板
13 発光ダイオード照射電極基板
14 発光ダイオード(発光部)
15 反応器入原料循環ライン
16 反応液循環ライン
17 反応器入原料循環ラインポンプ
18反応液循環ラインポンプ
21 塩化ニトロシル吹き込みライン
22 塩化ニトロシル未反応ガス抜き出しライン
23 生成油状物抜き出しライン
24 分離器
25 原料供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロアルカンと光ニトロソ化剤とを、光照射により液中で光化学反応させるシクロアルカノンオキシムの製造方法であって、光源が発光ダイオードであり、かつ該光源の波長に対する発光エネルギー分布の中で、発光エネルギーの最大値を示す波長が550nmから700nmの範囲であり、且つピーク強度の5%強度以上のエネルギーを出力する波長範囲が150nm以下である光源を用い、液中の光照射距離が200mm以上、液中の光ニトロソ化剤の濃度が0.1質量%〜0.5質量%であることを特徴とするシクロアルカノンオキシムの製造方法。
【請求項2】
光源のエネルギー変換効率が10%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のシクロアルカノンオキシムの製造方法。
【請求項3】
前記発光エネルギーの最大値を示す波長が600nmから650nmの範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシクロアルカノンオキシムの製造方法。
【請求項4】
前記シクロアルカンがシクロヘキサンであり、前記シクロアルカノンオキシムがシクロヘキサノンオキシムであることを特徴とする請求項1〜3に記載のシクロアルカノンオキシムの製造方法。
【請求項5】
前記光ニトロソ化剤が塩化ニトロシルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシクロアルカンオキシムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−149055(P2012−149055A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285055(P2011−285055)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】