説明

シミュレーション方法、及びシミュレーション装置

【課題】オペレータが空気入りタイヤの設計変更によるタイヤの変形及びタイヤ性能の差異を分かり易く抽出できるシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】タイヤモデル10のうち所定の一部分の構造に対応する節点又は要素を変更した基準タイヤモデル20を作成し、タイヤモデル10の節点又は要素に対応する基準タイヤモデル20の節点又は要素の物理量との差分を算出し、差分をタイヤモデル10に重ねて表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
空気入りタイヤを有限個の要素に分割したタイヤモデルの評価値を算出するシミュレーション方法、及びシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの開発において、有限要素法などの数値解析手法や計算機環境の発達により、実際に空気入りタイヤを製造し、自動車に装着して荷重試験や走行試験を行わなくても、新たに設計した空気入りタイヤの変形量を算出して変形の様子を可視化したり、タイヤ性能を表す評価値を算出したりすることが可能になった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−76404号公報 第12図など
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、タイヤには、高いレベルの排水性、雪上性能、騒音性能などが要求されるようになってきており、新たに設計したタイヤの変形やタイヤ性能の評価値を算出するシミュレーション方法においても、僅かな設計の違いがタイヤの変形やタイヤ性能に及ぼす影響を算出できることが求められている。
【0005】
しかしながら、従来のシミュレーション方法では、シミュレーションを実行させるオペレータがシミュレーション結果からタイヤの設計変更によるタイヤの変形或いはタイヤ性能の差異を抽出することが難しい場合があった。
【0006】
従来のシミュレーション方法は、シミュレーションによって算出された物理量を表示するように構成されている。そのため、例えば、タイヤの溝の一部分を僅かに変更したことによるタイヤ全体に及ぼす影響をシミュレーションする場合に、変更後のタイヤについて物理量を表示するため、変更箇所の周辺部分の変形量の変化が微少であると、オペレータが変更後のタイヤモデルの変形量の変化を直感的に見つけることが難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、空気入りタイヤの設計変更によるタイヤの変形及びタイヤ性能の差異をオペレータに分かり易く抽出できるシミュレーション方法、及びシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、以下の特徴を備える。すなわち、タイヤの基本構造を有限個の要素に分割したタイヤモデルを用いて前記タイヤモデルの物理量を算出するシミュレーション方法であって、前記タイヤモデルを作成するステップと、前記タイヤモデルを構成する節点又は要素に境界条件を設定し、前記タイヤモデルの各節点又は要素の所定の物理量を算出する物理量算出ステップと、前記タイヤモデルのうち所定の一部分の構造に対応する節点又は要素を変更した基準タイヤモデルを生成するとともに節点又は要素に前記境界条件と同一の境界条件を設定して物理量を算出する、或いは前記タイヤモデルの所定の一部分の構造に対応する節点又は要素に前記境界条件と異なる境界条件を設定して物理量を算出する基準物理量算出ステップと、前記物理量算出ステップにおいて算出された前記タイヤモデルの物理量と、前記基準物理量算出ステップにおいて算出された前記基準タイヤモデルの物理量との差分を算出するステップと、前記差分を前記タイヤモデルに重ねて表示するステップとを有することを要旨とする。
【0009】
本発明にかかるシミュレーション方法によれば、タイヤモデルのうち所定の一部分の構造に対応する節点又は要素を変更した基準タイヤモデルを作成し、タイヤモデルの節点又は要素に対応する基準タイヤモデルの節点又は要素の物理量との差分を算出し、差分をタイヤモデルに重ねて表示する。
【0010】
これにより、タイヤの設計変更によるタイヤの変形及びタイヤ性能の差異をオペレータに分かり易く確実に抽出できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空気入りタイヤの設計変更によるタイヤの変形及びタイヤ性能の差異をオペレータに分かり易く抽出できるシミュレーション方法、及びシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るシミュレーション方法を説明するフローチャートである。
【図2】図2は、本実施形態に係るシミュレーション方法において作成されるタイヤモデルの斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態に係るシミュレーション方法において作成される基準タイヤモデルの斜視図である。
【図4】図4は、本実施形態に係るシミュレーション方法において作成される3次元座標系に設定されるタイヤモデルの斜視図である。
【図5】図5は、本実施形態に係るシミュレーション方法において作成される3次元座標系に設定される基準タイヤモデルの斜視図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、本実施形態に係るシミュレーション方法において作成されるタイヤモデルの変形量と、基準タイヤモデルの変形量と、その差分とを説明する模式図である。
【図7】図7は、本実施形態に係るシミュレーション方法において作成されるタイヤモデルと、基準タイヤモデルとの差分を表す差分モデルを説明する模式図である。
【図8】図8は、本実施形態に係るシミュレーション方法において作成されるタイヤモデルの接地圧分布と、基準タイヤモデルの接地圧分布と、その差分モデルとを説明する模式図である。
【図9】図9は、本実施形態に係るシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るシミュレーション方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)シミュレーション方法、(2)タイヤモデルと基準タイヤモデル、(3)差分強調モデル、(4)シミュレーション装置、(5)作用・効果、(6)その他の実施形態について説明する。
【0014】
なお、以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なのものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることを留意すべきである。従って、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0015】
(1)シミュレーション方法
図1は、本実施の形態にかかるシミュレーション方法を説明するフローチャートである。ステップS1では、シミュレーション方法の評価対象とする新たな空気入りタイヤを設計する。具体的には、空気入りタイヤのタイヤのタイヤサイズ、形状、構造、材料、トレッドパターンなどを定める。
【0016】
ステップS2では、新たに設計された空気入りタイヤに基づいて数値解析上のモデル(タイヤモデルという)が作成される。タイヤモデルを作成するための数値解析手法として、本実施形態では、有限要素法(FEM)を適用する。タイヤモデルは、実際の空気入りタイヤを数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムヘインプット可能なデータ形式に数値化したものである。
【0017】
ステップS2で作成されるタイヤモデル10は、少なくとも空気入りタイヤの形状及び構造が有限要素法(FEM)に対応した要素分割(例えば、メッシュ分割)によって、複数の要素に分割されたものである。タイヤモデル10のトレッド部Tには、溝と陸部との基本構造を有限個の要素に分割したトレッドパターンが設定される。
【0018】
要素分割とは、タイヤ、路面、流体等を有限個の小部分(要素という)に分割することをいう。すなわち、タイヤモデルは、複数個の要素から構成されている。有限要素法は、例えば、変形、熱、粘弾性などの物理量の計算を、タイヤモデルを構成する全要素について個別に計算した後、全要素に対する計算結果を積算することによって、タイヤモデル全体の物理量を算出する方法である。
【0019】
ステップS2では、まず、タイヤ径方向及びトレッド幅方向断面のモデル(タイヤ断面モデルという)が作成され、続いて、タイヤ断面モデルをタイヤ周方向に一周分展開したタイヤの3次元モデル(タイヤモデル10)が作成される。タイヤモデル10は、例えば、設計図面から採取したデータに基づいて作成される。或いは、空気入りタイヤの外形をレーザー形状測定器等で計測して採取したデータに基づいて作成される。また、タイヤの断面内のゴム、ベルト、プライ、鉄・有機繊維等でできた補強コードをシート状に束ねた補強材などのタイヤモデルにおけるタイヤ内部の構造が、設計図面から採取したデータ、或いは実際のタイヤから採取したデータに基づいて、それぞれ有限要素法のモデル化手法に基づいてモデル化される。
【0020】
続いて、ステップS3では、タイヤモデル10のうち所定の一部分の構造に対応する節点又は要素を変更した基準タイヤモデルが作成される。ステップS3は、基準タイヤモデル作成ステップを構成する。「変更される節点又は要素」とは、例えば、周囲への影響を測定したい構成であり、設計により新たに加えられた溝(周方向に沿った溝、周方向に交差する溝、サイプなどを含む)、設計変更により追加されたブロック形状、ベルト補強層におけるコードの角度や物性などを含む。
【0021】
例えば、陸部ブロックに新たに溝を形成するのであれば、溝を形成したモデルがタイヤモデル10に相当する。溝が形成されていないモデルは基準タイヤモデル20に相当する。実施形態では、溝が形成されていない基準タイヤモデル20は、溝を形成したタイヤモデル10を作成するときに、タイヤモデル10の節点又は要素構成と同様の構成で作成される。
【0022】
図2は、ステップS2で作成されるタイヤモデル10及びステップS3で作成される基準タイヤモデル20の斜視図である。実施形態では、説明のため、横溝11のみが形成されたことによる物理量変化を抽出する場合について説明する。
【0023】
実施形態では、タイヤモデル10のトレッド部Tの一部に横溝11が形成されている。基準タイヤモデル20は、タイヤモデル10の横溝11に対応する節点又は要素を除いたモデルである。実施形態では、横溝11が形成されたことによって横溝11の周囲に与えられる微小変化を可視化する場合について説明する。
【0024】
ステップS2で作成されるタイヤモデル10と、ステップS3で作成される基準タイヤモデル20の詳細は、(2)タイヤモデルと基準タイヤモデルの項において後述する。
【0025】
ステップS4では、路面モデル設定ステップが実行される。路面モデル設定ステップでは、路面を有限個に分割した路面モデル30が作成される。路面モデル設定ステップでは、摩擦係数μを選択することで、乾燥状態、濡れ状態、氷上、雪上、非舗装等の実際の路面状態を再現させることができる。
【0026】
次に、ステップS5において、タイヤモデル10と路面モデルとの間に境界条件が設定され、ステップS6において、タイヤモデル10の各節点又は要素の物理量が算出される。また、ステップS5、S6の処理と平行に、ステップS7において、基準タイヤモデル20と路面モデルとの間に境界条件が設定され、ステップS8において、基準タイヤモデル20の各節点又は要素の物理量が算出される。ステップS6,S8では、例えば、タイヤモデル10の変形計算が実行される。
【0027】
ステップS9では、タイヤモデル10の節点又は要素の物理量とタイヤモデル10の節点又は要素に対応する基準タイヤモデル20の節点又は要素の物理量との差分が算出される。ステップS10では、差分をタイヤモデル10に重ねて表示する。ステップS10では、タイヤモデル10の物理量と基準タイヤモデル20の物理量の差分を可視化する。実施形態では、例えば、変形量を色分布で表示する。
【0028】
(2)タイヤモデルと基準タイヤモデル
図2は、タイヤモデルの斜視図であり、図3は、基準タイヤモデルの斜視図である。ステップS3では、基準タイヤモデルは、タイヤモデル10の節点又は要素に基づいて作成される。具体的には、基準タイヤモデル20を作成するステップでは、作成した基準タイヤモデル20に対して、タイヤモデル10と基準タイヤモデル20の差異を除いて、タイヤモデル10の節点とタイヤモデル10の節点に対応する基準タイヤモデル20の節点とに同一の節点番号を設定する。
【0029】
タイヤモデル10の節点と基準タイヤモデル20の節点との対応は、表1のようになる。表1においてMは、タイヤモデル10の節点番号を示し、M’は基準タイヤモデル20の節点番号を示す。この方法では、図3に示す基準タイヤモデル20における節点番号k,k+1,…k+nの節点の一部は、溝が形成されたタイヤモデル10には存在しないため、対応する節点がない。次に対応する節点に対して基準タイヤモデル20と同一の節点番号を設定する。すなわち、タイヤモデル10において、k+4〜k+n−1は欠番になる。
【表1】

【0030】
また、基準タイヤモデル20を作成するにあたり、タイヤモデル10及び基準タイヤモデル20を3次元座標系の同じ位置に配置したとき、タイヤモデル10と基準タイヤモデル10の差異を除いて、タイヤモデル10の節点と基準タイヤモデル20の節点と3次元座標系における座標とを対応付けるテーブルを作成することもできる。図4は、3次元座標系に設定されるタイヤモデル10の斜視図であり、図5は、3次元座標系に設定される基準タイヤモデルの斜視図である。
【0031】
例えば、タイヤモデル10と基準タイヤモデル20とが3次元座標系に配置されたときのタイヤモデル10の節点番号と、タイヤモデル10の節点に対応する基準タイヤモデル20の節点番号と、3次元座標とを紐付ける。例えば、以下の表2に示すように、タイヤモデル10の節点番号と、基準タイヤモデル20の節点番号と3次元座標系における座標とを紐付けるテーブルが作成される。表2においてMは、タイヤモデル10の節点番号を示し、M’は基準タイヤモデル20の節点番号を示す。この方法では、タイヤモデル10の節点番号を連番で設定することができる。基準タイヤモデル20と構造が異なる部分において、基準タイヤモデル20の節点番号とずれることになるが、3次元座標によってタイヤモデル10と基準タイヤモデル20とが対応付けされる。
【表2】

【0032】
ステップS9では、上述のように対応付けされたタイヤモデル10と基準タイヤモデル20の節点又は要素同士の物理量の差分を算出し、差分をタイヤモデル10に重ねて表示する。対応する節点がない場合は、差分演算の対象外とする。物理量の差分をタイヤモデル10に重ねて表示したモデルを、以下、差分強調モデルという。
【0033】
(3)差分強調モデル
図6は、ステップS9によって算出される差分強調モデル40を説明する図である。図6(a)は、タイヤモデル10が路面モデルに接地したことによるトレッド部Tの変形を可視化したシミュレーション結果である。図6(b)は、基準タイヤモデル20が路面モデルに接地したことによるトレッド部Tの変形を可視化したシミュレーション結果である。点線領域STは、タイヤモデル10(基準タイヤモデル20)と路面モデルとが接地する接地領域である。
【0034】
図6(c)は、ステップS9で算出された差分強調モデル40を表す。差分強調モデル40には、横溝11が形成されたことによる変形が表されている。
【0035】
実施形態に係るシミュレーション方法によれば、タイヤモデル10単独では判断しにくい横溝11による、横溝11の周囲への変形の影響がタイヤモデル10に重ねて表示される。実施形態では、変形量を色分布で表示する。図7は、差分強調モデル40のタイヤ内側が見えるように表した斜視図である。実施形態によれば、横溝11を形成したことによるタイヤ内側の変形の様子を表すことができる。
【0036】
図8は、ステップS9によって算出される差分強調モデル40の別の例を説明する図である。図8(a)は、横溝11を有するタイヤモデル10の接地圧分布を表す図であり、図8(b)は、横溝11を除いた基準タイヤモデル20の接地圧分布を表す図であり、図8(c)は、差分強調モデル40とを説明する模式図である。実施形態に係るシミュレーション方法によれば、横溝11を形成したことによる接地圧分布の変化が強調して可視化される。
【0037】
(4)シミュレーション装置
図9には、本発明の実施形態に係るタイヤ性能予測方法を実行するタイヤ性能予測装置としてのコンピュータ300の概略が示されている。図9に示すように、コンピュータ300は、半導体メモリー、ハードディスクなどの記憶部(不図示)、処理部(不図示)などを備えた本体部310と、入力部320と、表示部330とを備える。処理部は、図1を用いて説明したシミュレーション方法を実行する。一例として説明した表1,表2に示すテーブルは、図示しない記憶部などに格納されている。
【0038】
コンピュータ300は、図示しないが着脱可能な記憶媒体と、この記憶媒体に対して書き込み・読み出しを可能にするドライバが備えられていてもよい。図1を用いて説明したシミュレーション方法を実行するプログラムを予め記憶媒体に記録しておき、記憶媒体から読み出されたプログラムを実行してもよい。コンピュータ300の記憶部にプログラムを格納(インストール)して実行してもよい。コンピュータ300は、図示しないが、例えば、ネットワークに接続可能であってもよい。ネットワークを介して、シミュレーション方法を実行するプログラムを取得してもよい。
【0039】
(5)作用・効果
実施形態のシミュレーション方法によれば、タイヤモデル10のうち横溝11を除いた基準タイヤモデル20を作成し、タイヤモデル10の接地による変形量と基準タイヤモデル20の接地による変形量の差分を算出し、差分をタイヤモデルに重ねた差分強調モデル40を作成する。
【0040】
これにより、タイヤの設計変更によるタイヤの変形及びタイヤ性能の差異を確実に抽出できる。例えば、タイヤの溝の一部分を僅かに変更したことによるタイヤ全体に及ぼす影響をシミュレーションする場合に、変更箇所の周辺部分の変形量の変化が微少であっても、変更後のタイヤモデルの物理量変化の差分をオペレータに分かり易く抽出できる。
【0041】
例えば、ブロックの一部に新たに溝を形成するような設計変更を行って、設計変更前と設計変更後のタイヤの設計変更前後の物理量や挙動の変化をシミュレーションするとき、ブロックの一部に新たに溝が形成されていないこと以外は、全て同一のタイヤのタイヤモデル(設計変更前のタイヤモデル)と、設計変更後のタイヤモデルとの節点又は要素が対応付けられていなければ、両者を比較することは難しい。節点又は要素が対応していないタイヤモデル同士では、節点の対応関係を改めて抽出する処理に時間を要するため、シミュレーションを用いてタイヤ開発を効率的にすることのメリットが薄れてしまう。
【0042】
実施形態において、基準タイヤモデルを作成するステップでは、タイヤモデル10の節点の節点番号とタイヤモデル10の節点に対応するタイヤモデル10の節点の節点番号とが同一になるように基準タイヤモデル20を作成する。このようにすることで、対応している節点番号の物理量同士の差分を算出すればよいため、対応する節点を抽出する処理を行う必要がない。また、差分は、タイヤモデル10に重ねて表示されるため、変更後のタイヤモデルの物理量変化の差分をオペレータに分かり易く抽出することができる。
【0043】
また、基準タイヤモデルを作成するステップでは、タイヤモデル10の節点と基準タイヤモデル20の節点と3次元座標系における座標とを対応付けるテーブルを作成する。
【0044】
こともできる。このように、実施形態では、タイヤモデル10と基準タイヤモデル20との間で節点番号が異なっていても、テーブルを参照して3次元座標に対応付けられた2つの節点番号の節点の物理量同士の差分を算出すればよいため、対応する節点を抽出する処理を行う必要がない。また、差分は、タイヤモデル10に重ねて表示されるため、変更後のタイヤモデルの物理量変化の差分をオペレータに分かり易く抽出することができる。
【0045】
(6)その他の実施形態
上述したように、本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例が明らかとなる。例えば、本発明の実施形態は、次のように変更することができる。
【0046】
本実施形態に係るシミュレーション方法では、数値解析手法として、有限要素法を用いた場合について説明したが、差分法や有限体積法を用いることもできる。
【0047】
本発明に係る実施形態は、先行文献として挙げた、本出願人によって出願されたシミュレーション方法に関連する技術(特許3133738号公報)における大域解析(Global・Analysis:以下、G解析という)と局所解析(Local・Analysis:以下、L解析という)とを組み合わせたGL解析(Global−Local・Analysis)に利用することもできる。GL解析の詳細は、上記公報に開示されているため詳細な説明を省略する。
【0048】
実施形態では、説明のため、基準タイヤモデルは、タイヤ径、タイヤ幅などのサイズが同一であって、トレッド部Tに横溝11のみが形成されたことが異なるタイヤであるとして説明した。しかし、基準タイヤモデルのトレッド部Tの構造は、観察したい物理量に応じて如何様にも選択できる。
【0049】
また、基準タイヤモデルは、タイヤモデルとタイヤ径、タイヤ幅などのサイズが同一であり、トレッド部Tの溝構造も同一なタイヤに異なる条件を与えたモデルであってもよい。
【0050】
部分的に材料定数を変更したモデルや、タイヤ補強層の角度などを変更したモデルであってもよい。例えば、基準タイヤモデルは、タイヤモデルの120%の負荷条件を与えたモデルとすることができる。この場合も、紐付けられた節点又は要素間の差分を算出することにより、所定の負荷条件を与えたタイヤモデルと、タイヤモデルの120%の負荷条件を与えた基準タイヤモデルとの物理量の差分を分かり易く抽出することができる。
【0051】
また、タイヤモデルと基準タイヤモデルとは、タイヤ径、タイヤ幅などのサイズが異なるタイヤであってもよい。この場合には、タイヤモデルと基準タイヤモデルの節点又は要素の数を同一にして、タイヤモデルと基準タイヤモデルとの間の節点又は要素を対応付けるテーブルを作成する。テーブルに基づいて、対応する節点又は要素間の差分をとることによって、サイズが異なるタイヤに同一の条件(例えば、負荷条件)を与えたときのタイヤモデルと基準タイヤモデルとの物理量の変化を分かり易く抽出することができる。
【0052】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0053】
10…タイヤモデル、 11…横溝、 20…基準タイヤモデル、 30…路面モデル、 40…差分モデル、 300…コンピュータ、 310…本体部、 320…入力部、 330…表示部、 T…トレッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの基本構造を有限個の要素に分割したタイヤモデルを用いて前記タイヤモデルの物理量を算出するシミュレーション方法であって、
前記タイヤモデルを作成するステップと、
前記タイヤモデルを構成する節点又は要素に境界条件を設定し、前記タイヤモデルの各節点又は要素の所定の物理量を算出する物理量算出ステップと、
前記タイヤモデルのうち所定の一部分の構造に対応する節点又は要素を変更した基準タイヤモデルを生成するとともに節点又は要素に前記境界条件と同一の境界条件を設定して物理量を算出する、或いは前記タイヤモデルの所定の一部分の構造に対応する節点又は要素に前記境界条件と異なる境界条件を設定して物理量を算出する基準物理量算出ステップと、
前記物理量算出ステップにおいて算出された前記タイヤモデルの物理量と、前記基準物理量算出ステップにおいて算出された前記基準タイヤモデルの物理量との差分を算出するステップと、
前記差分を前記タイヤモデルに重ねて表示するステップと
を有するシミュレーション方法。
【請求項2】
前記タイヤモデルと前記基準タイヤモデルの差異を除いて、前記タイヤモデルの節点と前記タイヤモデルの節点に対応する前記基準タイヤモデルの節点とに同一の節点番号を設定する請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記タイヤモデル及び前記基準タイヤモデルを3次元座標系の同じ位置に配置したとき、前記タイヤモデルと前記基準タイヤモデルの差異を除いて、前記タイヤモデルの節点と前記基準タイヤモデルの節点と前記3次元座標系における座標とを対応付けるテーブルを作成する請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−11949(P2012−11949A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152241(P2010−152241)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】