説明

シミ部位の皮膚内部構造推定法

【課題】色素沈着(シミ)部位の皮膚内部構造に関する情報を得、美容情報として活用する。
【解決手段】色素沈着(シミ)部位の画像情報を取得し、その画像情報に基いてシミ発現の微細パターンを分類し、その分類に基いて色素沈着部位の皮膚内部構造に関する情報(1 角層の厚さ、2 表皮の厚さ、3 真皮乳頭層の高さ、4 真皮乳頭層の幅、5 真皮乳頭層の密度)を推定することを特徴とする、色素沈着部位の皮膚内部構造推定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミ部位の皮膚内部構造推定法に関し、詳しくは、シミ部位の画像情報を元にして、シミ発現の微細パターンを分類し、その分類に基いて、皮膚内部構造に関する情報を推定し、美容情報として利用することに関する。
【背景技術】
【0002】
色素沈着のうち、いわゆるシミと表現される皮膚症状には、肝斑、雀卵斑、老人性色素斑などの種々の色素病変が含まれる。シミを拡大観察した結果、その見え方には幾つかのパターンがあることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、シミの見え方のパターンと、その皮膚内部構造と関連性については何ら報告されていない。一般に、皮膚内部構造に関する情報を得るには、皮膚切除(バイオプシー)・組織固定・染色してから観察するという、高度でかつ煩雑な処理を行なう必要がある。化粧品業界のような健常女性を主なターゲットとする分野においては、皮膚切除という医療従事者のみに許される行為は現実的には極めて困難であり、化粧品分野においては健常女性のシミ部位の皮膚内部に関する研究はほとんど行われていないのが現状である。
【0003】
一方、近年の測定技術の進歩により、皮膚切除を伴うことなく非侵襲的に皮膚内部構造を観察する手法が開発されてきている。In vivo 共焦点レーザー顕微鏡観察はそのような手法のひとつであり、非侵襲的に皮膚内部の断面像を得ることが可能である。この手法を応用して、皮膚内部情報を得る試みがされている(例えば、特許文献1〜5)。しかしながら、このような手法は特別な測定機器を必要とするものであり、例えば販売店の店頭などで美容に係るカウンセリング情報を得るには、現実的には不可能といえるものであった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−052642号公報
【特許文献2】特開2003−057169号公報
【特許文献3】特開2003−057170号公報
【特許文献4】特開2004−337317号公報
【特許文献5】特開2007−061307号公報
【非特許文献1】Takeshi Sakamaki et al, Skin Research and Technology, 5, 37-41 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高価で複雑な機器を用いることなく、安価で簡便に、シミ発生部位の皮膚内部構造に関する情報を得ることができる方法を提供し、その情報を美容情報として有効活用することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願人は、シミの微細パターンと非侵襲的手法により得られた皮膚内部構造に関する情報を比較検討することにより、シミの微細パターンと皮膚内部構造に関して、関連性があることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本願発明は、シミ部位の画像情報を取得し、その画像情報に基いてシミの微細パターンを分類し、その分類に基いてシミ部位の皮膚内部構造に関する情報を推定することを特徴とする、シミ部位の皮膚内部構造推定法にある。また、本願第2の発明は、シミの微細パターンの分類が、下記(a)〜(d)であることを特徴とする、上記のシミ部位の皮膚内部構造推定法にある。
【0007】
(a) 面状1(色素沈着が均一に分布している。)
(b) 面状2(色素沈着が均一に分布しているが、毛穴部分で色素沈着が抜けている。)
(c) 顆粒状(色素沈着が点状に分布している。)
(d) 網状(色素沈着が網目状の構造を有する。)
【0008】
さらに、本願第3の発明は、皮膚内部構造に関する情報が、下記(1)〜(5)であることを特徴とする、上記のシミ部位の皮膚内部構造推定法にある。
【0009】
(1) 角層の厚さ
(2) 表皮の厚さ
(3) 真皮乳頭層の高さ
(4) 真皮乳頭層の幅
(5) 真皮乳頭層の密度
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大掛かりな測定機器を用いることなく、シミ部位の画像情報を取得し、その画像に基いてシミの微細発現パターンを分類するだけで、角層の厚さ、表皮の厚さ、真皮乳頭層の高さ、幅、密度といった皮膚内部構造に関する情報を推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、シミ部位の画像情報に基いてシミの微細パターンを分類し、その分類に基き皮膚内部構造情報を推定することを特徴とするシミ部位の皮膚内部構造推定法です。シミ部位の画像情報を取得する方法は、シミ部位に関する光学情報を記録媒体に記録することができる手段であれば、如何なる手段でも用いることができ、例えば、光学カメラ、デジタルカメラ、CCDカメラ、ビデオカメラ、ビデオスコープ等が挙げられる。本発明では、シミ部位の画像情報に基いてシミの微細パターンを分類することから、シミ部位を拡大する機能を有する画像取得手段を用いるのが好ましい。本発明ではビデオマイクロスコープが特に好ましく用いられる。
【0012】
次に、得られた画像情報に基いて、シミの微細パターンを分類する。分類の仕方としては特に限定されないが、皮膚内部構造に関する情報との間に何らかの相関が見出せるような分類とする必要がある。具体的なシミの微細パターン分類としては、以下のような特徴に基く(a)〜(d)の分類が挙げられる。
【0013】
(a) 色素沈着が均一に分布している。・・・面状1
(b) 色素沈着が均一に分布しているが、毛穴部分で色素沈着が抜けている。・・・面状2(c) 色素沈着が点状に分布している。・・・顆粒状
(d) 色素沈着が網目状の構造を有する。・・・網状
【0014】
本発明における皮膚内部構造に関する情報とは、皮膚表面から表皮、真皮まで含めた皮膚構造体に係る情報全てを含む。本発明では、上記のシミの微細パターンから皮膚内部構造に係る情報を推定するために、予め皮膚内部構造に関する情報に基いて、上記のシミの微細パターンとの間を関連付けておく必要がある。
【0015】
皮膚内部構造に関する情報を得る方法としては特に限定されず、皮膚切除(バイオプシー)により得られたサンプルから皮膚標本を作製し、直接的に観察する方法を用いてもよいが、本発明のターゲットである健常女性の皮膚内部構造に関する情報を得る必要があることから、非侵襲的に皮膚内部構造に関する情報を得ることができる方法を採用するのが好ましい。非侵襲的手法により得られる具体的な皮膚内部構造に関する情報としては、共焦点レーザー顕微鏡観察から得ることができる、下記(1)〜(5)の情報が挙げられる(図1)。
【0016】
(1) 角層の厚さ(μm)
(2) 表皮の厚さ(μm)
(3) 真皮乳頭層の高さ(μm)
(4) 真皮乳頭層の幅(μm)
(5) 真皮乳頭層の密度(個/mm
【0017】
以下に、シミの微細パターン分類と皮膚内部構造に関する情報との関連付けの一例について記載する。
【0018】
(被験者)
顔面にシミを有する健常女性21名(平均年齢46.9歳)を対象として実施した。
【0019】
(シミ画像の取得とシミ微細パターンの分類)
シミ画像は、偏光フィルターを装着したビデオマイクロスコープ(CVM-7000、ウィルソン社製)を用いて、シミ部位を拡大してから画像として取り込みを行った。次いで、取得した画像情報をもとにシミの微細パターンを、上記に従って(a)面状1、(b)面状2、(c)顆粒状、(d)網状のいずれかに分類した。その結果、各微細パターンの構成は、面状1が10例、面状2が6例、顆粒状が2例、網状が3例であった。シミの各微細パターンの画像例を図2〜図5に示す。
【0020】
(皮膚内部構造に係る情報)
シミ部位における皮膚内部構造に係る情報は、In vivo 共焦点レーザー顕微鏡(Vivascope1000、Lucid社製)を用いて、皮膚表面から真皮に至るZ軸方向における深度を変化させた水平断面像をもとにして、(1)角層の厚さ、(2)表皮の厚さ、(3)真皮乳頭層の高さ、(4)真皮乳頭層の幅、(5)真皮乳頭層の密度に関する情報を算出した。また、シミ部位の計測と同時に、正常部位の計測も行い比較対照とした。尚、顔面の正中線を基準としてシミ部位の左右対称部位を正常部位とした。
【0021】
(シミ微細パターンと皮膚内部構造の関連付け)
共焦点レーザー顕微鏡観察から得られた上記(1)〜(5)の皮膚内部情報を、シミ微細パターンに基いて対比させた結果を図6〜図10に示す。
【0022】
角層の厚さ(図6)に関しては、正常部位と比較して、顆粒状のシミ微細パターンを有する色素沈着部位において角層の厚さが増加する傾向が認められた。
【0023】
表皮の厚さ(図7)に関しては、いずれのシミ微細パターンにおいても正常部位と比較して、表皮の厚さの増加が認められた。特に顆粒状のシミ微細パターンを有する色素沈着部位は、正常部位の2倍の表皮厚であり、顕著な表皮厚の増加であった。
【0024】
真皮乳頭層の高さ(図8)については、面状1と顆粒状のシミ微細パターンにおいて、高さが増加する傾向が認められた。
【0025】
真皮乳頭層の幅(図9)については、面状1において幅が増加する傾向が認められた。
【0026】
真皮乳頭層の密度(図10)については、いずれのシミ微細パターンにおいても正常部位と比較して、真皮乳頭層の密度の上昇が認められた。特に網状微細パターンを有する色素沈着部位において顕著な、顆粒状シミ微細パターンを有する色素沈着部位において極め
て顕著な密度の上昇が認められた。
【0027】
以上の結果から、正常部位と比較した場合の各シミ微細パターンにおける変化の特徴を下記表1にまとめて示す。(1)角層の厚さ、(2)表皮の厚さ、(3)真皮乳頭層の高さ、(4)真皮乳頭層の幅、(5)真皮乳頭層の密度に関する情報に関して、正常部位と比較してシミの微細パターン毎に特徴的な変化を示すことが明らかとなった。
【0028】
(表1)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
シミの微細パターン分類
皮膚内部構造情報 ――――――――――――――――――――
面状1 面状2 顆粒状 網 状
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(1)角層の厚さ → → ↑ →
(2)表皮の厚さ ↑↑ ↑↑ ↑↑↑ ↑↑
(3)真皮乳頭層の高さ → → ↑ ↑
(4)真皮乳頭層の幅 ↑ → → →
(5)真皮乳頭層の密度 ↑↑ ↑↑ ↑↑↑↑ ↑↑↑
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
→:変化なし。↑:増加の傾向が認められる。↑↑:増加が認められる。
↑↑↑:顕著な増加が認められる。↑↑↑↑:極めて顕著な増加が認められる。
【0029】
以上の結果をもとに、シミ部位の画像情報をビデオマイクロスコープのような手段により取得し、シミ微細パターンを(a)面状1、(b)面状2、(c)顆粒状、(d)網状に分類することにより、その分類に基いて(1)角層の厚さ、(2)表皮の厚さ、(3)真皮乳頭層の高さ、(4)真皮乳頭層の幅、(5)真皮乳頭層の密度という皮膚内部構造に関して、正常部位と比較してどのように変化をしているかについて予測し、美容情報として利用することが可能である。
【0030】
本発明は、化粧品販売店等におけるカウンセリング販売等で利用することができる。即ち、店頭においてビデオマイクロスコープによって顧客のシミ画像を取得してシミの微細パターンを分類する。その分類から表1に従ってシミ部位の内部構造情報を予測し、その情報をカウンセリング情報として利用する。例えばシミ微細パターンが顆粒状に分類された場合には、そのシミ部位では表皮が厚くなり、真皮乳頭層が極めて複雑化していることが予測されるため、美白製剤として、表皮浸透性がより高い製剤を推奨する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のシミ部位の皮膚内部構造推定法を用いることにより、化粧品販売店のカウンターのような場所においても、ビデオマイクロスコープのような比較的簡便な測定機器によりシミ部位の画像情報を取得するだけで、皮膚内部の情報を得ることができる。そのため化粧品のカウンセリング販売において、顧客の皮膚内部状態に適合した最適の化粧品を推奨・提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】表皮の構造を示す模式図である。
【図2】面状1に分類されるシミの微細パターンを示す図面代用の写真である。
【図3】面状2に分類されるシミの微細パターンを示す図面代用の写真である。
【図4】顆粒状に分類されるシミの微細パターンを示す図面代用の写真である。
【図5】網状に分類されるシミの微細パターンを示す図面代用の写真である。
【図6】角層の厚さの対比を示す図である(図中(1)は正常部、(2)は面状1シミ部、(3)は面状2シミ部、(4)は顆粒状シミ部、(5)は網状シミ部)。
【図7】表皮の厚さの対比を示す図である(図中(1)は正常部、(2)は面状1シミ部、(3)は面状2シミ部、(4)は顆粒状シミ部、(5)は網状シミ部)。
【図8】真皮乳頭層の厚さの対比を示す図である(図中(1)は正常部、(2)は面状1シミ部、(3)は面状2シミ部、(4)は顆粒状シミ部、(5)は網状シミ部)。
【図9】真皮乳頭層の幅の対比を示す図である(図中(1)は正常部、(2)は面状1シミ部、(3)は面状2シミ部、(4)は顆粒状シミ部、(5)は網状シミ部)。
【図10】真皮乳頭層の密度の対比を示す図である(図中(1)は正常部、(2)は面状1シミ部、(3)は面状2シミ部、(4)は顆粒状シミ部、(5)は網状シミ部)。
【符号の説明】
【0033】
1 角層の厚さ
2 表皮の厚さ
3 真皮乳頭層の高さ
4 真皮乳頭層の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミ部位の画像情報を取得し、その画像情報に基いてシミの微細パターンを分類し、その分類に基いてシミ部位の皮膚内部構造に関する情報を推定することを特徴とする、シミ部位の皮膚内部構造推定法。
【請求項2】
シミの微細パターンの分類が、下記(a)〜(d)であることを特徴とする、請求項1記載のシミ部位の皮膚内部構造推定法。
(a) 面状1(色素沈着が均一に分布している。)
(b) 面状2(色素沈着が均一に分布しているが、毛穴部分で色素沈着が抜けている。)
(c) 顆粒状(点状に色素沈着が分布している。)
(d) 網状(網目状の構造を有する。)
【請求項3】
皮膚内部構造に関する情報が、下記(1)〜(5)であることを特徴とする、請求項1又は2記載のシミ部位の皮膚内部構造推定法。
(1) 角層の厚さ
(2) 表皮の厚さ
(3) 真皮乳頭層の高さ
(4) 真皮乳頭層の幅
(5) 真皮乳頭層の密度

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−268611(P2009−268611A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120143(P2008−120143)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】