説明

シャープペンシル

【課題】 筆圧によって鉛芯を回転させるようにしたシャープペンシルにおいて、鉛芯が軸方向へガタつかないようにするとともに筆記感触を向上する。
【解決手段】 軸筒10と、軸筒10から先端部20aを突出させた鉛芯繰出し管20とを備え、鉛芯繰出し管20内の鉛芯2を、チャック24cにより回転不能に挟持して前記先端部20aから繰出すようにしたシャープペンシルにおいて、鉛芯繰出し管20を、その先端側が鉛芯方向と交差する方向へ揺動するように軸筒10に支持し、鉛芯繰出し管20の前記揺動を、鉛芯2を中心とする回転方向の運動に変換し、その回転運動によってチャック24cを一方向へ回転させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆圧により鉛芯を回転させるようにしたシャープペンシルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シャープペンシルで筆記を行う場合、書き進むにしたがって鉛芯の前端部が偏減りし、描線の太さや濃さが一定しないという不具合があった。そのため、筆記者が軸筒をときどき持ち直して回転させるという操作を行うが、その操作が煩わしく、筆記能率を低下させているのが現状であった。そこで、例えば、特許文献1に記載されたシャープペンシルでは、筆記時に鉛芯に加わる筆圧の軸方向成分によって軸筒内の回転子を回転させ、該回転子内のチャックユニットに把持されている鉛芯を回転させるようにしている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に示す従来技術によれば、鉛芯を回転させるためには、筆圧によって鉛芯及び前記回転子を軸方向へ微動させなければならいため、筆記の際、筆記者が鉛芯に軸方向のガタつきを感じることになる。
より詳細に説明すれば、筆記者が軸筒を把持して鉛芯を筆記面に当接させると、その筆記面に当接した状態の鉛芯に相対して、軸筒が若干前方へ移動することになる。また、鉛芯を筆記面から離す場合には、鉛芯が筆記面に当接した状態のまま、軸筒が若干後方へ移動した後に、鉛芯が筆記面から離れることになる。したがって、筆記者が軸方向のガタつきを感じることになり、この軸方向のガタツキが筆記感触を低下させる要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/142135号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、筆圧によって鉛芯を回転させるようにしたシャープペンシルにおいて、鉛芯が軸方向へガタつかないようにすること、筆記感触を向上すること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明に係る技術的手段は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0007】
軸筒と、該軸筒から先端部を突出させた鉛芯繰出し管とを備え、前記鉛芯繰出し管内の鉛芯を、チャックにより回転不能に挟持して前記先端部から繰出すようにしたシャープペンシルにおいて、前記鉛芯繰出し管を、その先端側が鉛芯方向と交差する方向へ揺動するように前記軸筒に支持し、前記鉛芯繰出し管の前記揺動を、鉛芯を中心とする回転方向の運動に変換し、その回転運動によって前記チャックを一方向へ回転させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このような特徴を有することで本発明は以下の作用効果を奏する。
筆記面に対し軸筒を傾けた通常の筆記姿勢において、鉛芯が筆記面に押し付けられると、鉛芯を保持する鉛芯繰出し管の先端側が鉛芯方向と交差する方向へ揺動する。そして、その揺動が回転方向の運動に変換され、その回転運動によって鉛芯を挟持したチャックが一方向へ回転する。
よって、鉛芯を軸方向へガタつかせることなく回転させることができ、ひいては筆記感触を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るシャープペンシルの一例を示す要部断面図である。
【図2】同シャープペンシルの使用状態図であり、(a)は鉛芯の先端が被筆記面に当接する前の状態を示し、(b)は鉛芯の先端を被筆記面に当接させた状態を示す。
【図3】図1における(I)-(I)断面図及び(II)-(II)断面図であり、(a)-I及び(a)-IIは、鉛芯繰出し管が軸筒中心側の初期位置に位置した状態を示し、(b)-I及び(b)-IIは、鉛芯繰出し管が軸筒遠心方向へ揺動して回転した状態を示し、(c)-I及び(c)-IIは、鉛芯繰出し管が軸筒求心方向へ揺動して回転した状態を示す。
【図4】図3の要部拡大図であり、(a)-I及び(a)-IIは、鉛芯繰出し管が軸筒中心側の初期位置に位置した状態を示し、(b)-I及び(b)-IIは、鉛芯繰出し管が軸筒遠心方向へ揺動して回転した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る好ましい形態では、軸筒と、該軸筒から先端部を突出させた鉛芯繰出し管とを備え、前記鉛芯繰出し管内の鉛芯を、チャックにより回転不能に挟持して前記先端部から繰出すようにしたシャープペンシルにおいて、前記鉛芯繰出し管を、その先端側が鉛芯方向と交差する方向へ揺動するように前記軸筒に支持し、前記鉛芯繰出し管の前記揺動を、鉛芯を中心とする回転方向の運動に変換し、その回転運動によって前記チャックを一方向へ回転させるようにした。
【0011】
更に好ましい形態では、前記鉛芯繰出し管を、前記軸筒に対する支持箇所よりも前部側が鉛芯方向と交差する方向へ揺動するのに伴い同支持箇所よりも後部側が逆方向へ揺動するように設け、前記鉛芯繰出し管における前記支持箇所よりも後部側の外周に、回転可能に第一の回転カム部を設けるとともに、前記軸筒の内周には、回転不能な第一の固定カム部を設け、前記鉛芯繰出し管と共に軸筒遠心方向へ揺動した際の前記第一の回転カム部を前記第一の固定カム部に摺接させて、前記第一の回転カム部を前記一方向へ回転させ、この第一の回転カム部の回転により前記チャックを回転させるようにした。
【0012】
更に好ましい形態では、前記第一の回転カム部は、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の摺接突起を有し、前記第一の固定カム部は、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の凹部を有するとともに、その各凹部内にカム斜面を有し、前記鉛芯繰出し管と共に前記第一の回転カム部が軸筒遠心方向へ揺動した際に、前記第一の回転カム部の摺接突起が前記第一の固定カム部のカム斜面に摺接して、前記第一の回転カム部を前記一方向へ回転させるようにした。
【0013】
更に好ましい形態では、前記鉛芯繰出し管を軸筒求心方向へ付勢する付勢手段を設けた。
【0014】
更に好ましい形態では、前記付勢手段は、前記鉛芯繰出し管と前記軸筒との間に設けられた環状弾性体とした。
【0015】
更に好ましい形態では、前記鉛芯繰出し管が前記付勢手段の付勢力によって軸筒求心方向へ揺動した際に、その揺動力によって前記チャックを前記一方向へ回転させるようにした。
【0016】
更に好ましい形態では、前記鉛芯繰出し管における前記支持箇所よりも後部側の外周に、回転可能に第二の回転カム部を設けるとともに、前記軸筒の内周には、回転不能な第二の固定カム部を設け、前記鉛芯繰出し管と共に軸筒求心方向へ揺動した際の前記第二の回転カム部を前記第二の固定カム部に摺接させて、前記第二の回転カム部を前記一方向へ回転させ、この第二の回転カム部の回転により前記チャックを回転させるようにした。
【0017】
更に好ましい形態では、前記第二の回転カム部は、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の摺接突起を有し、この摺接突起は、前記鉛芯繰出し管の揺動に伴い軸筒径方向へ弾性変形することで、第二の固定カム部に対して常時接触するように設けられ、前記第二の固定カム部は、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の凹部を有するとともに、その各凹部内にカム斜面を有し、前記鉛芯繰出し管と共に前記第二の回転カム部が軸筒求心方向へ揺動した際に、前記第二の回転カム部の摺接突起が前記第二の固定カム部のカム斜面に摺接して、前記第二の回転カム部を前記一方向へ回転させ、この第二の回転カム部の回転により前記チャックを回転させるようにした。
【0018】
更に好ましい形態では、前記第一の回転カム部の摺接突起が前記第一の固定カム部の凹部に係止された状態において、前記第二の回転カム部の摺接突起が前記第二の固定カム部のカム斜面の途中に位置するようにした。
【0019】
更に好ましい形態では、前記鉛芯繰出し管は、前記軸筒に対し揺動可能に支持された前側管部と、該前側管部の後側に回転可能に接続された後側管部とを備え、前記後側管部は、前記第一の回転カム部、前記第二の回転カム部及び前記チャックを一体的に有する。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施の形態において「前」とは、軸筒10の先端方向(図1によれば下方)を意味し、「後」とは前記「前」に対する逆方向を意味する。
また、本実施の形態において「鉛芯方向」とは、チャック24cに挟持された鉛芯2の長手方向(図1によれば上下方向)を意味する。
【0021】
このシャープペンシル1は、軸筒10と、該軸筒10から先端部20aを突出させた鉛芯繰出し管20と、該鉛芯繰出し管20を軸筒求心方向へ付勢する環状弾性体30(付勢手段)とを備え、鉛芯繰出し管20の揺動を、鉛芯2を中心とする回転方向の運動に変換し、その回転運動によって、鉛芯繰出し管20内で鉛芯2を挟持するチャック24cを、一方向へ回転させる。
【0022】
軸筒10は、長尺筒状の本体部11と、該本体部11の前端側に螺合接続される先細筒状の先口部12とからなる。なお、この軸筒10は、本体部11と先口部12とを一体とした態様や、前軸と後軸等の三以上の部材を組み合わせた態様としてもよい。
【0023】
本体部11の内周面には、鉛芯繰出し管20に対し回転不能となるように、第一の固定カム11a及び第二の固定カム11bが一体的に設けられる。
【0024】
第一の固定カム11aは、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の凹部11a1を有する断面鋸刃状に形成される(図4参照)。
各凹部11a1は、鉛芯繰出し管20の回転方向(図示例によれば反時計方向)へ向かって下り勾配となるカム斜面11a11と、該カム斜面11a11に交差する軸筒径方向の面である係止面11a12とからなる。
この第一の固定カム11aの軸筒軸方向の幅は、後側管部24の進退に伴う第一の回転カム部24aの軸筒軸方向の移動を許容するように適宜に設定される。
【0025】
第二の固定カム11bは、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の凹部11b1を有する断面山歯状に形成される(図4参照)。
各凹部11b1は、鉛芯繰出し管20の回転方向(図示例によれば反時計方向)へ向かって下り勾配となるカム斜面11b11と、該カム斜面11b11に対し略V字状に交差する係止面11b12とからなる。
この第二の固定カム11bの軸筒軸方向の幅は、後側管部24の進退に伴う第二の回転カム部24bの軸筒軸方向の移動を許容するように適宜に設定される。
【0026】
また、先口部12の最前端部には、軸筒10の求心方向へ向かって内向きに突出する環状突部12aを有する(図1参照)。この環状突部12aは、後述する鉛芯繰出し管20に対し遊嵌されることで、鉛芯繰出し管20を、その先端側が鉛芯方向と略直交する方向へ揺動するように支持している。
【0027】
また、鉛芯繰出し管20は、内在するチャック機構によって鉛芯2を回転不能に挟持して先端部20aから繰出すように構成され、軸筒10に対する支持箇所Aよりも前部側が鉛芯方向と略直交する方向へ揺動するのに伴い同支持箇所Aよりも後部側が逆方向へ揺動するように、軸筒10最前端部の環状突部12aによって支持されている。
この鉛芯繰出し管20は、先端部20aを軸筒10から突出させて軸筒10に対し揺動可能に支持された前側管部21と、該前側管部21の後側に一体に接続された中間管部22と、該中間管部22の更に後側に付勢部材23を介して進退可能且つ回転可能に接続された後側管部24と、該後側管部24の後側に接続された芯タンク25とを具備した長尺管状に形成される。
【0028】
前側管部21は、前端側に先細状の先端部20aを有する管状部材であり、先端部20aよりも後側の外周面に、先口部12前端の環状突部12aに対し遊嵌する環状溝21cを有する。
環状溝21cと前記環状突部12aとの間には、軸筒10に対し鉛芯繰出し管20が揺動可能となるように、適宜な隙間が確保される。
この前側管部21内の前部側には、鉛芯2を後退不能に保持する弾性体からなる芯ブレーカ21bが設けられる。また、前側管部21内の後部側には、チャック24cの周囲で所定量進退するようにクラッチリング24dが設けられる。
【0029】
中間管部22は、前側管部21の後端部に接続固定され後方へ延設された管状部材であり、後述する環状弾性体30に挿通されている。
【0030】
後側管部24は、その前部側の縮径部24eを中間管部22の後端側内部に挿入した段付管状の部材であり、中間管部22に対し、所定量進退可能であって、且つ鉛芯2を中心とした回転方向へ回転可能となるように係合している。
この後側管部24の前端側には、鉛芯2を挟持するチャック24cが設けられる。そして、この後側管部24の後端側内周面には、芯タンク25が接続される。また、後側管部24の後端側外周面には、第一の回転カム部24a及び第二の回転カム部24bが一体的に設けられる。
【0031】
また、チャック24cは、弾性を有する合成樹脂材料又は金属材料から形成され、鉛芯2の周囲に位置するように同芯状に配置された複数(例えば2又は3)の爪部24c1を備え、該爪部24c1を縮径させた際に鉛芯2を挟持し、同爪部24c1を拡径した際には鉛芯2を解放する。
このチャック24cは、その基端側部分(図1によれば上端側部分)が、後側管部24の前端側内周面に固定されている。
【0032】
また、第一の回転カム部24aは、鉛芯繰出し管20と共に軸筒遠心方向(換言すれば、軸筒10中心から離れる方向)へ揺動した際に、軸筒10内周面の第一の固定カム11aに摺接して、一方向へ回転するように設けられる。
この第一の回転カム部24aは、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の摺接突起24a1からなる。各摺接突起24a1は、第一の固定カム11aの凹部11a1にならう鋸刃状の突起である(図3及び図4参照)。
【0033】
第二の回転カム部24bは、第一の回転カム部24aの後方側に位置し、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数(図示例によれば三つ)の摺接突起24b1を有する(図3参照)。
各摺接突起24b1は、第二の固定カム11bに摺接する突起部24b11と、該突起部24b11を軸筒径方向へ弾性的に進退させる弾性変形部24b12とから構成される(図4(a)-II参照)。
突起部24b11は、第二の固定カム11bの凹部11b1にならう山形に形成される。また、弾性変形部24b12は、弾性変形可能なU字状に形成される。
この摺接突起24b1は、鉛芯繰出し管20の揺動に伴い弾性変形部24b12を軸筒径方向へ弾性変形させて、突起部24b11と第二の固定カム11bとの接触状態を常時維持する。
【0034】
第一の回転カム部及び固定カム24a,11aと、第二の回転カム部及び固定カム24b,11bの位置関係について説明すれば、第一の回転カム部24aの摺接突起24a1が第一の固定カム11aの凹部11a1に嵌り合って係止された状態において(図4(b)-I参照)、第二の回転カム部24bの摺接突起24b1の突起部24b11が第二の固定カム11bのカム斜面11b11の途中に位置する(図4(b)-II参照)ように配置される。
【0035】
また、付勢部材23は、圧縮スプリングであり、後側管部24前側の縮径部24eに環状に装着され、縮径部24e後端の段部24e1と中間管部22の後端面との間で伸縮する。
この付勢部材23は、後側管部24を中間管部22に対し後方へ付勢することで、前進後の後側管部24を行進させる作用を奏する。更に、この付勢部材23は、後側管部24の回転抵抗(摩擦抵抗)を軽減して、後側管部24を前側管部21及び中間管部22に対し回転し易くする作用も奏する。
【0036】
なお、上記構成において、前側管部21及び中間管部22は、軸筒10に対し回転可能にしてもよいし回転不能にしてもよいが、特に第一の回転カム部24a及び第二の回転カム部24bの回転抵抗を軽減する観点からは、前者の態様とするのが好ましい。この場合、前側管部21の環状溝21cを軸筒10前端の環状突部12aに摺接させるとともに、中間管部22の外周面を環状弾性体30内周面に摺接させて、前側管部21及び中間管部22が軸筒10に対し回転する構成とすればよい。
【0037】
また、前記鉛芯繰出し管20の内部には、チャック24cの進退運動によって鉛芯2を繰出す周知の鉛芯繰出機構が構成される。
この鉛芯繰出機構について詳述すれば、後方からの押圧力により後側管部24及び芯タンク25が付勢部材23の付勢力に抗して前進すると、後側管部24前端のチャック24cが鉛芯2を挟持した状態で前進する。このチャック24cの前進に伴い、チャック24c外周に嵌められたクラッチリング24dも前進する。この前進により、クラッチリング24dが前側管部21内の段部21aに当接すると、チャック24cは、クラッチリング24dから前方へ抜けて開放され、弾性的に拡径し、挟持していた鉛芯2を解放する。鉛芯2は、チャック24cと共に前進した位置において、前側管部21内の芯ブレーカ21bによって後退不能に挟持される。
次に、前記後方からの押圧力が解除されると、後側管部24及び芯タンク25は付勢部材23の付勢力により後退し、その後退に伴ってチャック24cも後退する。そのため、チャック24cは、クラッチリング24dに嵌まり合うことで縮径し、後退した位置において鉛芯2を再度挟持することになる。
よって、後側管部24、チャック24c及び芯タンク25の進退運動の繰り返しにより、チャック24cの前端側から鉛芯2が繰り出され、更に、この鉛芯2は鉛芯繰出し管20の先端部20aから前方へ繰り出されることになる。
【0038】
なお、後側管部24、チャック24c及び芯タンク25を進退させる構造は、例えば、軸筒10から後方へ突出するノック部(図示せず)のノック操作により後側管部24、チャック24c及び芯タンク25を進退させる態様や、軸筒10側面のボタン(図示せず)に対するノック操作によって後側管部24、チャック24c及び芯タンク25を進退させる態様、軸筒10全体を振る操作によって錘体(図示せず)を往復動させその錘体の往復動によって後側管部24、チャック24c及び芯タンク25を進退させる態様等、とすることが可能である。
【0039】
また、環状弾性体30(付勢手段)は、鉛芯繰出し管20の外周面と軸筒10の内周面との間に設けられた環状の弾性体である。この環状弾性体30の材質は、例えば、ゴムや、エラストマー樹脂、スポンジ等とすればよい。
この環状弾性体30の弾発力は、本実施の形態の一例によれば、軸筒10を傾けた通常の筆記姿勢において、鉛芯繰出し管20の先端部20aから突出する鉛芯2に筆圧が加えられた際に(図2(b)参照)、該環状弾性体30が弾性変形して、鉛芯繰出し管20が支持箇所Aを支点にして揺動する程度に、適宜に設定される。
【0040】
次に、上記構成のシャープペンシル1について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
先ず、図1及び図2(a)に示すように、鉛芯繰出し管20の先端部20aから突出する鉛芯2に筆圧がかかっていない初期状態では、鉛芯繰出し管20が環状弾性体30の付勢力によって軸筒10の略中心線上に保持される。
この初期状態において、第一の回転カム部24aは、図3(a)-Iに示すように、軸筒10の略中心線上に位置し、第一の固定カム11aに接触しない状態に保持される。
また、同初期状態において、第二の回転カム部24bは、図3(a)-IIに示すように、軸筒10の略中心線上に位置し、複数(図示例によれば三つ)の摺接突起24b1をそれぞれ略同程度の付勢力で第二の固定カム11bに押し付けるとともに、図4(a)-IIに示すように、各摺接突起24b1の突起部24b11を第二の固定カム11bの凹部11b1に嵌め合わせて係止される。
【0041】
次に、図2(b)に示すように、軸筒10を傾けた通常の筆記姿勢において、鉛芯2の先端が被筆記面3に押し付けられると、鉛芯繰出し管20における軸筒10に対する支持箇所Aよりも後側の部分が、軸筒10に相対して、軸筒遠心方向(図2によれば右斜め下方)へ揺動し傾斜する。
この際、第一の回転カム部24aは、図3(b)-Iに示すように、第一の固定カム11aに摺接して一方向(図示例によれば反時計方向)へ所定角度回転する。より詳細に説明すれば、図4(b)-Iに示すように、第一の回転カム部24aは、複数の摺接突起24a1のうち、揺動方向(図3及び4によれば上方)へ突出する一部の摺接突起24a1を、対向する第一の固定カム11aのカム斜面11a11に摺接させることで、前記一方向へ回転する。この回転は、第一の回転カム部24aの前記一部の摺接突起24a1が、第一の固定カム11aの凹部11a1に嵌り合い係止されることで停止する。
したがって、第一の回転カム部24a、後側管部24及びチャック24cが、一体的に所定角度だけ回転し、チャック24cに挟持された鉛芯2も同様に回転することになる。
一方、前記回転により、第二の回転カム部24bにおける各摺接突起24b1の突起部24b11は、第二の固定カム11bの係止面11b12の頂部を乗り越える。そして、第一の回転カム部24aと第一の固定カム11aとの嵌り合いにより前記回転が停止した状態では、各突起部24b11は、図4(b)-IIに示すように、第二の固定カム11bのカム斜面11b11の途中に位置して静止する。
【0042】
また、鉛芯2の先端が被筆記面3から離されると、鉛芯繰出し管20が環状弾性体30の付勢力によって軸筒求心方向(換言すれば、軸筒10中心に近づく方向)へ揺動する。この揺動によって、第一の回転カム部24aが第一の固定カム11aから離れる(図3(c)-I参照)。すなわち、第一の回転カム部24aと第一の固定カム11aとの嵌り合いによる係止状態が解除される。
すると、第二の回転カム部24bにおける摺接突起24b1の突起部24b11が、弾性変形部24b12の弾発力によって第二の固定カム11bのカム斜面11b11に押し付けられて摺動するため、第二の回転カム部24bは、前記一方向(図示例によれば反時計方向)へ回転する。そして、この回転は、摺接突起24b1が、第二の固定カム11bの凹部11b1に嵌り合い係止されることで停止する(図3及び図4の(a)-II参照)。
したがって、第二の回転カム部24bと一体の後側管部24及びチャック24cが所定角度だけ回転し、チャック24cに挟持された鉛芯2も同様に回転する。
【0043】
よって、本実施の形態のシャープペンシル1によれば、軸筒10を傾けた通常の筆記姿勢において、鉛芯繰出し管20の先端部20aから突出する鉛芯2を、被筆記面3に押し付ける動作によって所定角度だけ回転させることができ、更に、同鉛芯2を、被筆記面3から離す動作によっても所定角度だけ回転させることができる。
よって、筆記により鉛芯2の先端部が偏減りし、描線の太さや濃さが一定しないという不具合を解消することができる。
しかも、筆圧の軸交差方向の成分を梃子の原理を利用して伝達し鉛芯2を回転させる構造であるため、鉛芯2が軸方向へガタつくことがなく、鉛芯2の揺動を比較的小さくすることができ、筆記感触が良好である。
【0044】
なお、鉛芯2を被筆記面3に押し付けた際に、鉛芯2が若干揺動することになるが、この際の揺動量(支持箇所Aを支点とした円弧上の移動距離)は、鉛芯繰出し管20における最前端部と支持箇所Aとの間の距離X1、及び支持箇所Aと第一の回転カム部24aとの間の距離X2(図1参照)を適宜に調整することで、必要最小限に抑制することができる。
すなわち、距離X1に対する距離X2の比率を大きくすればするほど、第一の回転カム部24a及び第二の回転カム部24bの揺動量を大きく確保することができるが、第一の回転カム部24aが第一の固定カム11aに摺接する際の押圧力は小さくなる。
そこで、本実施の形態では、鉛芯2の揺動により筆記感触が損ねることがなく、且つ第一の回転カム部24a及び第二の回転カム部24bをスムーズに回転させることができるように、距離X1に対する距離X2の比率を適宜に設定している。
【0045】
なお、上記実施の形態によれば、第一の回転カム部24aの後方側に第二の回転カム部24bを配置したが、他例としては、その前後関係を逆にすることも可能である。
【0046】
また、上記実施の形態によれば、通常の筆圧が加わることで鉛芯2が回転する構成としたが、他例として、環状弾性体30の弾発力をより強くすれば、通常の筆圧以上の押圧力が加わることで鉛芯2が回転する構成とすることも可能である。
この構成によれば、筆記者が鉛芯2を回転させたい場合等、必要に応じて、通常の筆圧以上の押圧力が意識的に加えられた場合に、鉛芯2が回転することになる。
【0047】
また、上記実施の形態によれば、環状弾性体30を第一の回転カム部24a及び第二の回転カム部24bよりも前側に配置したが、他例としては、環状弾性体30を第一の回転カム部24a及び第二の回転カム部24bよりも後側、あるいは第一の回転カム部24aと第二の回転カム部24bの間に配置することも可能である。
【0048】
また、環状弾性体30に代わる付勢手段として、鉛芯繰出し管20外周面と軸筒10内周面との間に、板バネ等の他のタイプの弾性体を設けることも可能である。
【0049】
また、更に他例としては、環状弾性体30を省き、第二の回転カム部24bの弾性変形部24b12の弾発力のみによって鉛芯繰出し管20を軸筒求心方向へ付勢する態様とすることも可能である。
【0050】
また、上記実施の形態では、第一の回転カム部24a及び第二の回転カム部24bの回転抵抗を軽減する好ましい態様として、前側管部21及び中間管部22に対し後側管部24が回転する構成としたが、他例としては、前側管部21、中間管部22及び後側管部24が一体的に回転する態様、すなわち鉛芯繰出し管20全体が軸筒10に対し回転する態様とすることも可能である。
【0051】
また、上記実施の形態では、鉛芯2をスムーズに回転させるようにした好ましい一例として、第一の回転カム部24a及び第一の固定カム11aと、第二の回転カム部24b及び第二の固定カム11bとの二種類のカムを設けたが、他例としては、第二の回転カム部24b及び第二の固定カム11bを省き、第一の回転カム部24a及び第一の固定カム11aのみによって鉛芯2を回転させる構成とすることも可能である。
【0052】
また、上記実施の形態では、第一の固定カム11a及び第二の固定カム11bを軸筒10と一体に構成したが、他例としては、軸筒10とは別体の第一の固定カム11a及び/又は第二の固定カム11bを、軸筒10に対し固定した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1:シャープペンシル 2:鉛芯
3:被筆記面 10:軸筒
11a:第一の固定カム 11a1:凹部
11a11:カム斜面 11b:第二の固定カム
11b1:凹部 11b11:カム斜面
20:鉛芯繰出し管 20a:先端部
24c:チャック 24a:第一の回転カム部
24a1:摺接突起 24b:第二の回転カム部
24b1:摺接突起 24b11:突起部
24b12:弾性変形部 30:環状弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、該軸筒から先端部を突出させた鉛芯繰出し管とを備え、前記鉛芯繰出し管内の鉛芯を、チャックにより回転不能に挟持して前記先端部から繰出すようにしたシャープペンシルにおいて、
前記鉛芯繰出し管を、その先端側が鉛芯方向と交差する方向へ揺動するように前記軸筒に支持し、
前記鉛芯繰出し管の前記揺動を、鉛芯を中心とする回転方向の運動に変換し、その回転運動によって前記チャックを一方向へ回転させるようにしたことを特徴とするシャープペンシル。
【請求項2】
前記鉛芯繰出し管を、前記軸筒に対する支持箇所よりも前部側が鉛芯方向と交差する方向へ揺動するのに伴い同支持箇所よりも後部側が逆方向へ揺動するように設け、
前記鉛芯繰出し管における前記支持箇所よりも後部側の外周に、回転可能に第一の回転カム部を設けるとともに、前記軸筒の内周には、回転不能な第一の固定カム部を設け、
前記鉛芯繰出し管と共に軸筒遠心方向へ揺動した際の前記第一の回転カム部を前記第一の固定カム部に摺接させて、前記第一の回転カム部を前記一方向へ回転させ、この第一の回転カム部の回転により前記チャックを回転させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のシャープペンシル。
【請求項3】
前記第一の回転カム部は、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の摺接突起を有し、
前記第一の固定カム部は、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の凹部を有するとともに、その各凹部内にカム斜面を有し、
前記鉛芯繰出し管と共に前記第一の回転カム部が軸筒遠心方向へ揺動した際に、前記第一の回転カム部の摺接突起が前記第一の固定カム部のカム斜面に摺接して、前記第一の回転カム部を前記一方向へ回転させることを特徴とする請求項2記載のシャープペンシル。
【請求項4】
前記鉛芯繰出し管を軸筒求心方向へ付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載のシャープペンシル。
【請求項5】
前記付勢手段は、前記鉛芯繰出し管と前記軸筒との間に設けられた環状弾性体であることを特徴とする請求項4記載のシャープペンシル。
【請求項6】
前記鉛芯繰出し管が前記付勢手段の付勢力によって軸筒求心方向へ揺動した際に、その揺動力によって前記チャックを前記一方向へ回転させるようにしたことを特徴とする請求項4又は5記載のシャープペンシル。
【請求項7】
前記鉛芯繰出し管における前記支持箇所よりも後部側の外周に、回転可能に第二の回転カム部を設けるとともに、前記軸筒の内周には、回転不能な第二の固定カム部を設け、
前記鉛芯繰出し管と共に軸筒求心方向へ揺動した際の前記第二の回転カム部を前記第二の固定カム部に摺接させて、前記第二の回転カム部を前記一方向へ回転させ、この第二の回転カム部の回転により前記チャックを回転させるようにしたことを特徴とする請求項6記載のシャープペンシル。
【請求項8】
前記第二の回転カム部は、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の摺接突起を有し、この摺接突起は、前記鉛芯繰出し管の揺動に伴い軸筒径方向へ弾性変形することで、第二の固定カム部に対して常時接触するように設けられ、
前記第二の固定カム部は、周方向へわたって所定ピッチ置きに配置された複数の凹部を有するとともに、その各凹部内にカム斜面を有し、
前記鉛芯繰出し管と共に前記第二の回転カム部が軸筒求心方向へ揺動した際に、前記第二の回転カム部の摺接突起が前記第二の固定カム部のカム斜面に摺接して、前記第二の回転カム部を前記一方向へ回転させ、この第二の回転カム部の回転により前記チャックを回転させるようにしたことを特徴とする請求項7記載のシャープペンシル。
【請求項9】
前記第一の回転カム部の摺接突起が前記第一の固定カム部の凹部に係止された状態において、前記第二の回転カム部の摺接突起が前記第二の固定カム部のカム斜面の途中に位置するようにしたことを特徴とする請求項8記載のシャープペンシル。
【請求項10】
前記鉛芯繰出し管は、前記軸筒に対し揺動可能に支持された前側管部と、該前側管部の後側に回転可能に接続された後側管部とを備え、前記後側管部は、前記第一の回転カム部、前記第二の回転カム部及び前記チャックを一体的に有することを特徴とする請求項7乃至9何れか1項記載のシャープペンシル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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