説明

ショベルのバケット装置

【課題】 バケット容量の減少や掘削抵抗の増加等の弊害を招くことなく掘削作業時の吊りフックの損傷や変形を防止する。
【解決手段】 バケット21の背面部に、バケット21をアーム先端に取付けるためのバケットブラケット24とともにフックブラケット26を取付け、吊りフック21をこのフックブラケット26にフック支持ピン28を中心として回動可能に取付ける。この吊りフック21は、吊り作業時は自重で垂下する吊り位置にセットし、不使用時にはこの吊り位置から上向きに回動させることによりバケット背面に沿ってフックブラケット26に格納するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベル、ホイールショベル等のショベルのバケット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば油圧ショベルは、図10に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2を旋回自在に搭載し、この上部旋回体2に作業アタッチメント3を取付けて構成される。
【0003】
作業アタッチメント3は、ブーム4と、このブーム4の先端に取付けられたアーム5と、このアーム5の先端に取付けられたバケット6、それにこれらを作動させるためのブーム、アーム、バケット各シリンダ7,8,9とによって構成される。
【0004】
バケット6は、図11に示すように、凸曲面状の底板10及び左右両側板(片側のみ図示)11等によって形成され、底板10の背面部に設けられた左右一対の板材から成るバケットブラケット12を介してアーム5の先端部にバケット取付ピン13によって取付けられる。
【0005】
14はバケットシリンダ9の伸縮運動をバケット6の回動運動として伝えるバケットリンク、15はこのバケットリンク14の動きを規制するアイドラリンク、16はバケットリンク14の先端をバケットブラケット12に取付けるためのリンク取付ピンである。
【0006】
また、バケット6の背面側に、吊り作業を行うための吊りフック17がフックブラケット18を介してフック支持ピン19まわりに回動可能に取付けられている。
【0007】
この吊りフック17は、吊り作業時(使用時)には図10及び図11の実線で示すように自重によって垂下する吊り位置にセットされ、掘削作業時(不使用時)には図11の二点鎖線で示すようにバケット背面に沿って格納される。
【0008】
このような吊りフック付きのバケット装置は特許文献1,2に示されている。
【特許文献1】特開2003−138596号公報
【特許文献2】特開昭59−228539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1に示された公知技術によると、図11に示すように吊りフック17が外部に剥き出し状態のままバケット背面に沿って格納されるため、掘削作業時に背面側とはいえ土砂等との接触は免れない。このため、吊りフック17が損傷、変形するおそれがあった。
【0010】
なお、同文献中にこの点の対策としてバケット底板10の外面側に凹部を設け、吊りフック17をこの凹部内に格納する構成が開示されている。
【0011】
しかし、こうすると凹部の分だけバケット容量が減少し、作業効率が低下する等の弊害があるため得策でない。
【0012】
また、特許文献2に示された公知技術では、吊りフック17を垂下した状態のまま防護するカバーをバケット背面側に設ける構成が示されている。
【0013】
しかし、この公知技術によると、垂下したままの吊りフック17とカバーを合わせた突起物がバケット背面から大きく突出するため、この突起物によって掘削作業時に大きな掘削抵抗が作用し、作業効率が低下するという弊害は免れない。
【0014】
そこで本発明は、吊りフックの損傷や変形を防止でき、しかもバケット容量の減少や掘削抵抗の増加等の弊害を招くおそれのないショベルのバケット装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明は、作業アタッチメントのアームの先端にバケットがバケット取付ピンによって回動可能に取付けられ、このバケットがバケットシリンダ及びバケットリンクによって回動するショベルのバケット装置において、上記バケットの背面部に、左右一対の板状のブラケット材が互いの間に間隔を置いて上下方向に取付けられることによってフックブラケットが形成され、吊りフックがこのフックブラケットに、上記バケット取付ピンと平行なフック支持ピンを中心として、自重で垂下する吊り位置と、上記両ブラケット材間でバケット背面に沿って格納される格納位置との間で回動可能に取付けられたものである。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、バケットの背面部に、バケットをアーム先端部及びバケットリンクに対して連結するための左右一対の板材から成るバケットブラケットが設けられ、フックブラケットを構成する両ブラケット材が上記バケットブラケットの両板材と連続して一体に設けられたものである。
【0017】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、フックブラケットの両ブラケット材間に格納された吊りフックを背面側から覆う着脱自在なカバーを具備するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、バケット背面部に左右一対の板状のブラケット材から成るフックブラケットを設け、吊りフックを、このフックブラケットにフック支持ピンまわりに回動可能に取付け、不使用時には同ブラケットの両ブラケット材間でバケット背面に沿って格納する構成したから、掘削作業に吊りフックをフックブラケット(両ブラケット材)で防護してその損傷や変形を防止することができる。
【0019】
とくに請求項3の発明によると、格納状態の吊りフックを着脱自在なカバーによって背面側から覆うため、損傷及び変形防止効果がより高いものとなる。
【0020】
しかも、吊りフックをバケット背面に沿う状態でフックブラケット(ブラケット材間)に格納するため、吊りフック格納用の凹部を設けた場合のようなバケットの容量の減少を招くおそれがないとともに、吊りフックとフックブラケットを合わせた突起物の突出寸法が小さくてすむことから、掘削時にこの突起物による掘削抵抗を小さく抑えることができる。
【0021】
また、請求項2の発明によると、フックブラケットの両ブラケット材を、バケット背面部に設けられるバケットブラケットの板材と一体に形成したから、バケットに対する吊りフックの取付強度を高めることができるだけでなく、両ブラケットの一体化によってバケット全体の強度・剛性をも高めることができる。
【0022】
このため、掘削具としてのバケットの耐久性と、吊り作業時の吊りフック支持部材としてのバケットの荷重支持性能の双方を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態を図1〜図9によって説明する。
【0024】
第1実施形態(図1,2参照)
図1はこのバケット装置の側面図、図2は同装置のバケット21を背面側から見た図(アーム先端部等の図示を省略している)である。
【0025】
バケット21は、凸曲面状の底板22及び左右両側板23,23等によって形成され、背面部に設けられたバケットブラケット24及びバケットピン25によってアーム5の先端に取付けられるとともに、バケットリンク14及びアイドラリンク15を介してバケットシリンダ9に連結される。図1中、16はバケットリンク14の先端をバケットブラケット24に連結するためのリンク取付ピンである。
【0026】
バケットブラケット24は、図2に示すように左右一対の板材24a,24aが間隔を置いてバケット背面部に取付けられることによって形成され、バケット背面部におけるこのバケットブラケット24の下方側にフックブラケット26が設けられている。
【0027】
このフックブラケット26は、左右一対の板状のブラケット材26a,26aが、バケットブラケット24の板材24a,24aよりも少し狭い間隔を置いて上下方向に取付けられることによって形成され、このフックブラケット26に吊りフック27が、バケットピン25と平行なフック支持ピン28を中心として、図1中の実線及び図2に示すように自重によって垂下する吊り位置と、図1中の二点鎖線で示すように吊り位置から後向きに回動して両ブラケット材26a,26a間でバケット背面に沿う格納位置との間で回動可能に取付けられている。
【0028】
なお、両ブラケット材26a,26aは、吊りフック格納状態で吊りフック27がフックブラケット外部にはみ出ない形状及び寸法をもって形成されている。
【0029】
また、吊りフック格納時に、吊りフック27の先端フック部27aを貫く状態でフックブラケット25の上部に格納ピン29が差し込まれ、この格納ピン29によって吊りフック27が格納状態に保持される。30は格納ピン29が通されるフックブラケット上部のピン穴である。
【0030】
このように、バケット背面部に左右一対のブラケット材26a,26aから成るフックブラケット26を設け、吊りフック27を、不使用時(掘削作業時)には同ブラケット26の両ブラケット材26a,26a間でバケット背面に沿って格納する構成したから、掘削作業時に吊りフック21をフックブラケット26(両ブラケット材26a,26a)で防護してその損傷や変形を防止することができる。
【0031】
しかも、吊りフック27をバケット背面に沿う状態でフックブラケット26(ブラケット材26a,26a間)に格納するため、吊りフック格納用の凹部を設けた場合のようにバケット容量が減少するおそれがない。また、吊りフック27とフックブラケット26を合わせた突起物の突出寸法A(図1参照)が小さくてすむため、掘削時にこの突起物による掘削抵抗を小さく抑えることができる。
【0032】
第2実施形態(図3,4参照)
以下の第2〜第4各実施形態については第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0033】
吊りフック付きのバケット21は、本来の掘削具としての機能と、吊り作業時の吊り荷重を支える支持部材としての機能を兼ね備えている。
【0034】
そこで第2実施形態においては、左右一対のブラケット材32,32(図4のみに符号を付している)をバケット背面部のほぼ全高部分に亘って連続して設けることにより、上部にバケットブラケット33、下部にフックブラケット34を形成している。
【0035】
すなわち、バケット、フック両ブラケット33,34を一体に形成している。
【0036】
こうすれば、バケット21に対する吊りフック27の取付強度を高めることができるだけでなく、両ブラケット33,34の一体化によってバケット21全体の強度・剛性をも高めることができる。
【0037】
このため、掘削具としてのバケット21の耐久性と、吊り作業時の吊りフック支持部材としてのバケット21の荷重支持性能の双方を向上させることができる。
【0038】
第3実施形態(図5,6参照)
第3実施形態においては、格納状態の吊りフック27を着脱自在なカバー35によって背面側から覆う構成をとっている。
【0039】
ここでは第2実施形態の、バケットブラケット33とフックブラケット34を一体化した場合を例にとり、網状のカバー35を両ブラケット材32,32間に嵌め込んで図示しないねじ等によって取付けるようにしている。
【0040】
こうすれば、吊りフック27を両ブラケット材32,32によって左右両側から覆う上に、背面側からカバー35で防護できるため、掘削作業時の吊りフック27の損傷及び変形防止効果がより高いものとなる。
【0041】
なお、このカバー35を取付ける構成は、第1実施形態の、バケットブラケット24とフックブラケット26を別体に設ける場合にも適用することができる。
【0042】
また、カバー35は網状でなく板状や格子状に形成してもよい。
【0043】
第4実施形態(図7〜図9参照)
ショベルによっては、アタッチメント先端の作業装置を作業内容(掘削、破砕、荷役等)に応じてバケット、ブレーカ、フォーク等の複数種類のうちで交換できるようにしたものがある。
【0044】
第4実施形態においては、このような作業装置交換式のショベルにおいて、吊りフック27をバケット21に取付ける場合と、バケット21を取外した状態で吊りフック27を作業装置取付部に取付ける場合のいずれをも選択可能とし、かつ、その付け替えを簡単にできるようにしている。
【0045】
ここでは第2実施形態のブラケット一体構成の場合を例示している。
【0046】
この種のショベルにおいては、アーム5の先端に、バケット21を含む各種作業装置を取付けるための取付部としてクイックキャッチ36が取付けられる。
【0047】
このクイックキャッチ36には、図示しないシリンダによって開閉する前後一対の係止腕37,37が設けられ、この両係止腕37,37を作業装置側のピン(バケット21の場合は図7,8に示すようにバケットピン25とリンク取付ピン16)に係止させることによって作業装置が取付けられる。
【0048】
吊りフック27は、
(イ) バケット取付状態では、図7に示すように、第1〜第3各実施形態と同様に、バケット21のフックブラケット34にフック支持ピン28によって取付けられ、
(ロ) バケット21を取外した状態では、図8に示すようにクイックキャッチ36の背面側にフック支持ピン38によって取付けられる。
【0049】
また、吊りフック27は不使用時には上向きに回動し、図7の状態ではフックブラケット34に、図8の状態ではクイックキャッチ36にそれぞれ格納され、かつ、格納ピン29,39によって保持される。図7中、40は図8中のフック支持ピン38が挿入されるピン穴である。
【0050】
従って、バケット21の取外し時には吊りフック27を図7の状態から図8の状態に付け替え、バケット21の取付時には逆に付け替える必要がある。
【0051】
ここで、図7の状態におけるフック支持ピン28と格納ピン29の軸心間距離X1と、格納ピン29とクイックキャッチ36のピン穴40の軸心間距離X2とを等しく設定している。
【0052】
そして、吊りフック27を、たとえば図7の状態から図8の状態に付け替えるときは、まず図9(イ)に示すように吊りフック27をフック支持ピン28を中心に上向き(矢印I方向)に回動させて格納ピン29で保持する。
【0053】
次いで、同(ロ)に示すように、フック支持ピン28を抜いた上で吊りフック27を、今度は格納ピン29を中心に上向き(矢印II方向)に回動させ、フック支持ピン38を差し込むとともに格納ピン29を抜き取る。
【0054】
なお、図8の状態から図7の状態へのフック付け替え時には逆の手順・操作をとればよい。
【0055】
これにより、人手では重い吊りフック27を図7の状態から図8の状態、またはその逆に最小限の労力によって簡単、迅速に、そして安全に付け替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるバケット装置の側面図である。
【図2】同装置のバケットを背面から見た図である。
【図3】本発明の第2実施形態にかかるバケット装置の側面図である。
【図4】同装置のバケットを背面から見た図である。
【図5】本発明の第3実施形態にかかるバケット装置の側面図である。
【図6】同装置のバケットを背面から見た図である。
【図7】本発明の第4実施形態にかかるバケット装置の側面図である。
【図8】同装置においてバケットをアーム先端から取外した状態の側面図である。
【図9】(イ)(ロ)は同装置において吊りフックの付け替え手順を説明するための図である。
【図10】吊りフック付き油圧ショベルの側面図である。
【図11】従来のバケット装置の側面図である。
【符号の説明】
【0057】
5 アーム
9 バケットシリンダ
14 バケットリンク
21 バケット
24 バケットブラケット
24a,24a バケットブラケットを構成する左右一対の板材
25 バケットピン
26 フックブラケット
26a,26a フックブラケットを構成する左右一対のブラケット材
27 吊りフック
28 フック支持ピン
29 格納ピン
32,32 左右一対のブラケット材
33 バケットブラケット
34 フックブラケット
35 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業アタッチメントのアームの先端にバケットがバケット取付ピンによって回動可能に取付けられ、このバケットがバケットシリンダ及びバケットリンクによって回動するショベルのバケット装置において、上記バケットの背面部に、左右一対の板状のブラケット材が互いの間に間隔を置いて上下方向に取付けられることによってフックブラケットが形成され、吊りフックがこのフックブラケットに、上記バケット取付ピンと平行なフック支持ピンを中心として、自重で垂下する吊り位置と、上記両ブラケット材間でバケット背面に沿って格納される格納位置との間で回動可能に取付けられたことを特徴とするショベルのバケット装置。
【請求項2】
請求項1記載のショベルのバケット装置において、バケットの背面部に、バケットをアーム先端部及びバケットリンクに対して連結するための左右一対の板材から成るバケットブラケットが設けられ、フックブラケットを構成する両ブラケット材が上記バケットブラケットの両板材と連続して一体に設けられたことを特徴とするショベルのバケット装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のショベルのバケット装置において、フックブラケットの両ブラケット材間に格納された吊りフックを背面側から覆う着脱自在なカバーを具備することを特徴とするショベルのバケット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−23607(P2007−23607A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207219(P2005−207219)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【出願人】(000105682)コベルコ建機エンジニアリング株式会社 (12)
【Fターム(参考)】