説明

ショートアーク型放電ランプ

【課題】 光出力の低下を抑制し、長寿命のショートアーク型放電ランプを提供することにある。
【解決手段】 本発明のショートアーク型放電ランプは、発光管1に続く封止管21,22と、発光管1内に配置される陽極3と陰極4を支持する陽極リード棒51と陰極リード棒52とが、封止管21,22内で段継ぎガラス61,62によって封着されたショートアーク型放電ランプにおいて、陽極リード棒51は保持用筒体71に挿通されて保持され、保持用筒体71が封止管21の絞り込み部2aにおいて支持されており、陰極リード棒52は段継ぎガラス62によってのみ支持され、発光管1の内部空間S1と陰極リード棒52が位置する封止管22の内部空間S2が連通していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影装置の光源に利用されるショートアーク型放電ランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からプロジェクタ等の投影装置の光源として、図4に示すようなショートアーク型放電ランプが知られている。
このショートアーク型放電ランプは、石英ガラス製の発光管1の両端に石英ガラス製の封止管21、22が続いて形成され、発光管1内に一対の陽極3と陰極4が配置されており、陽極3は陽極リード棒51によって支持されており、陰極4は陰極リード棒52によって支持されている。
【0003】
陽極リード棒51は、陽極側の封止管21内で段継ぎガラス61によって封着されており、陰極リード棒52は、陰極側の封止管22内で段継ぎガラス62によって封着されている。
【0004】
陽極リード棒51は保持用筒体71に挿通されて保持され、保持用筒体71は封止管21を焼き込んで絞り込んだ絞り込み部2aにおいて支持されている。
陰極リード棒52は保持用筒体72に挿通されて保持され、保持用筒体72は封止管22を焼き込んで絞り込んだ絞り込み部2bにおいて支持されている。
【0005】
このようなショートアーク型放電ランプは、輝度を上げるために点灯中は発光管1の内圧が非常に高くなることから、高い内圧でも封止管21、22が破損しないように設計する必要があるため、また、ランプに大電流を流すことから、陽極3と陰極4を支持する陽極リード棒51と陰極リード棒52を封止管21、22から直接外部に突出させる必要があるために、封止管21、22と、陽極リード棒51と陰極リード棒52の封止には、段継ぎガラス61、62を用いた封止構造が採用されている。
このようなショートアーク型放電ランプは、特開2004−22452に記載されている。
【0006】
しかしながら、最近では、ショートアーク型放電ランプからの光出力を高めた高輝度ランプが要求されてきており、ランプ電流が増加する傾向にある。
【0007】
ランプ電流が増加すると、電極、特に、電子が流れ込む方の陽極の温度が上昇するものであり、これに伴い、陽極を構成しているタングステンが更に一層蒸発するものである。
蒸発したタングステンは、発光管内に飛散し、最終的には、発光管の内壁に黒化物として付着するものである。
【0008】
このように、発光管の内壁に黒化物が付着すると、アークからの光が黒化物によって遮られ、ランプ点灯後、早期に光出力が低下する問題があった。
【特許文献1】特開2004−22452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、光出力の低下を抑制し、長寿命のショートアーク型放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載のショートアーク型放電ランプは、発光管に続く封止管と、発光管内に配置される陽極と陰極を支持する陽極リード棒と陰極リード棒とが、封止管内で段継ぎガラスによって封着されたショートアーク型放電ランプにおいて、前記陽極リード棒は保持用筒体に挿通されて保持され、該保持用筒体が前記封止管の絞り込み部において支持されており、前記陰極リード棒は前記段継ぎガラスによってのみ支持され、前記発光管の内部空間と前記陰極リード棒が位置する前記封止管の内部空間が連通していることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載のショートアーク型放電ランプは、請求項1に記載のショートアーク型放電ランプであって、特に、前記陰極リード棒に封着された段継ぎガラスは、前記陰極リード棒に封着した封着部と、当該封着部に続き陰極リード棒から離間するように立ち上がった立上がり部を有し、前記立上がり部を通る仮想線と、前記陰極リード棒の中心を通る長手方向軸との交点をPとし、交点Pから陰極の先端までの距離をL(mm)、交点Pより陰極先端側の陰極リードと陰極の合計重量W(gf)とすると、L×Wが、230××10(mm・gf)未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本願発明のショートアーク型放電ランプによれば、発光管内に配置される陽極と陰極を支持する陽極リード棒と陰極リード棒とが、封止管内で段継ぎガラスによって封着されており、陰極リード棒は段継ぎガラスによってのみ支持され、発光管の内部空間と陰極リード棒が位置する封止管の内部空間が連通していることにより、電極、特に、陽極を構成しているタングステンが蒸発しても、蒸発物は温度の低い部分に付着する性質を利用することにより、発光管に比べ封止管の方が温度が低いので、封止管の内壁に蒸発物を付着させることができる。
つまり、電極、特に、陽極を構成しているタングステンの蒸発物を発光管の内壁より、封止管の内壁に積極的に付着させることができ、封止管の内壁は黒化するが、発光管の内壁の黒化は抑制されるので、アークからの光が黒化物によって遮られることがなく、長時間ランプを点灯しても、光出力の低下を抑制でき、長寿命のショートアーク型放電ランプとなる。
【0013】
さらには、陰極リード棒は段継ぎガラスによってのみ支持された構造であり、立上がり部を通る仮想線と、陰極リード棒の中心を通る長手方向軸との交点をPとし、交点Pから陰極の先端までの距離をL(mm)、交点Pより陰極先端側の陰極リードと陰極の合計重量W(gf)とすると、L×Wが、230××10(mm・gf)未満の範囲にすることにより、段継ぎガラスの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明のショートアーク型放電ランプの断面説明図である。
【図2】陰極側の段継ぎガラスにかかる負荷を説明するための説明図である。
【図3】段継ぎガラスにかかる負荷と立上がり部に破損状況を調べた実験結果である。
【図4】従来のショートアーク型放電ランプの断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本願発明のショートアーク型放電ランプの断面説明図である。
【0016】
図1に示すように、本願発明のショートアーク型放電ランプは、石英ガラス製の発光管1の両端に石英ガラス製の封止管21、22が続いて形成され、発光管1内に一対のタングステン製の陽極3と陰極4が配置されており、陽極3は陽極リード棒51によって支持されており、陰極4は陰極リード棒52によって支持されている。
【0017】
陽極リード棒51は、陽極側の封止管21内で段継ぎガラス61によって封着されており、陰極リード棒52は、陰極側の封止管22内で段継ぎガラス62によって封着されている。
【0018】
図2に示すように、段継ぎガラス62は、陰極リード棒52に封着した封着部621と、封着部621に続き陰極リード棒52から離間するように立ち上がった立上がり部622を有する構造である。
【0019】
陽極リード棒51は保持用筒体71に挿通されて保持され、保持用筒体71は封止管21を焼き込んで絞り込んだ絞り込み部2aにおいて支持されている。
陰極リード棒52は段継ぎガラス62によってのみ支持されており、発光管1の内部空間S1と陰極リード棒52が位置する封止管22の内部空間S2が連通している構造となっている。
【0020】
図1に示すように、陽極リード棒51は先端に体積の大きな陽極3を支持しているため、陽極リード棒51と陽極3からなる構造体全体の重量が重くなり、段継ぎガラス61だけでは保持することができないので、陽極リード棒51を保持用筒体71で保持するものである。
一方、陰極4は陽極3に比べて体積が小さく、その分、重量も軽いので、陰極リード棒52と陰極4からなる構造体は、段継ぎガラス62だけで支持することができる。
【0021】
図1に示す、仮想面Aは、保持用筒体71の発光管1側の側面71aに沿った面であり、仮想面Bは、発光管1と陰極側の封止管22との境界面のことであり、発光管2の内壁とは、仮想面Aと仮想面Bとの間に存在する発光管の内表面のことを言う。
また、仮想面Cは、封止管22と段継ぎガラス62との境界面のことであり、封止管の内壁とは、仮想面Bと仮想面Cとの間に存在する封止管の内表面のことを言う。
【0022】
図1に示すランプでは、発光管の内壁の面積は10380mmであり、封止管の内壁の面積は87400mmである。
本願発明では、発光管に比べ封止管の温度を低くし、電極からの蒸発物を発光管の内壁より、封止管の内壁に積極的に付着させるには、発光管の内壁の面積は4700mm〜10380mmの範囲がよく、封止管の内壁の面積3900mm〜87400mmの範囲がよい。
【0023】
この結果、電極からの蒸発物が温度の低い部分に付着する性質を利用するができ、封止22管の内壁に蒸発物を付着させることができる。
そして、電極、特に、陽極を構成しているタングステンの蒸発物を発光管1の内壁より、封止管22の内壁に積極的に付着させることができ、発光管1の内壁の黒化を抑制することができるので、アークからの光が黒化物によって遮られることがなく、長時間ランプを点灯しても、光出力の低下を抑制できる。
【0024】
本願発明のショートアーク型放電ランプは、陽極を構成しているタングステンの蒸発が顕著なランプに好適に適用されるものであり、定格電流が45A以上のランプに好適に適用されるものである。
また、発光管に比べ陰極側の封止管の温度を低くするためには、ショートアーク型放電ランプを垂直点灯する場合は、陰極側の封止管が下方に位置するように配置する必要がある。
【0025】
図1に示すように、本願発明のショートアーク型放電ランプは、陰極リード棒52は段継ぎガラス62によってのみ支持された構造である。
このような構造では、段継ぎガラス62に、陰極リード棒52と陰極4の自重による負荷が加わり、負荷の大きさによっては、段継ぎガラス62の立上がり部622にクラックが入り破損する場合がある。
【0026】
次に、段継ぎガラスと負荷との関係について説明する。
図2は、陰極側の段継ぎガラスにかかる負荷を説明するための説明図である。
図2に示すように、段継ぎガラス62は、陰極リード棒52に封着した封着部621と、封着部621に続き陰極リード棒52から離間するように立ち上がった立上がり部622を有する構造である。
【0027】
段継ぎガラス62の破損は、立上がり部622に加わる負荷によって、この立上がり部622にクラックが発生するものであるが、立上がり部622は、図2で示すように、一点ではなくある範囲を有する形状であり、この立上がり部622にかかる負荷を一義的に決めることが困難である。
このため、立上がり部622を通る仮想線Xと、陰極リード棒52の中心を通る長手方向軸Yとの交点をPとし、交点Pから陰極の先端までの距離をL(mm)、交点Pより陰極先端側の陰極リードと陰極の合計重量W(gf)としたときのL×Wの関係を求め、このL×Wの値と立上がり部622にクッラクが発生する条件を導き出した。
【0028】
以下の条件の構造体を用いて、段継ぎガラスの立上がり部に発生するクラックの状況を調べる実験を行った。
【0029】
<構造体>
陰極4:陰極の外径10mm、軸方向の長さ18mm、材質はトリエーデットタングステン
陰極リード棒52:外径6mm、材質はタングステン
【0030】
実験では、陰極リード棒52の長さだけを変え、この結果、交点Pから陰極4の先端までに存在する陰極4と陰極リード棒52の構造体全体の重量W(gf)と、交点Pから陰極4の先端までに長さL(mm)を変えたものである。
【0031】
実験結果を、図3に示す。
図3では、立上がり部にクラック発生していなければ、破損状況の欄に「○」が記載されており、立上がり部にクラック発生していれば、破損状況の欄に「×」が記載されている。
図3に示すように、L×Wの値が230××10(mm・gf)未満であると、破損状況の欄が「○」であり、立上がり部にクラック発生していないことがわかる。
一方、L×Wの値が230××10(mm・gf)以上であると、破損状況の欄が「×」であり、立上がり部にクラック発生していることがわかる。
【0032】
つまり、L×Wの値を230××10(mm・gf)未満の範囲にすることにより、段継ぎガラスの破損を確実に防止できるものである。
【符号の説明】
【0033】
1 発光管
21 封止管
22 封止管
3 陽極
4 陰極
51 陽極リード棒
52 陰極リード棒
61 段継ぎガラス
62 段継ぎガラス
611 封着部
612 立上がり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管に続く封止管と、発光管内に配置される陽極と陰極を支持する陽極リード棒と陰極リード棒とが、封止管内で段継ぎガラスによって封着されたショートアーク型放電ランプにおいて、
前記陽極リード棒は保持用筒体に挿通されて保持され、該保持用筒体が前記封止管の絞り込み部において支持されており、
前記陰極リード棒は前記段継ぎガラスによってのみ支持され、
前記発光管の内部空間と前記陰極リード棒が位置する前記封止管の内部空間が連通していることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
前記陰極リード棒に封着された段継ぎガラスは、前記陰極リード棒に封着した封着部と、当該封着部に続き陰極リード棒から離間するように立ち上がった立上がり部を有し、
前記立上がり部を通る仮想線と、前記陰極リード棒の中心を通る長手方向軸との交点をPとし、
交点Pから陰極の先端までの距離をL(mm)、交点Pより陰極先端側の陰極リードと陰極の合計重量W(gf)とすると、
L×Wが、230××10(mm・gf)未満であることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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