ショートアーク型放電ランプ
【課題】発光管内に、陰極と陽極とが対向配置されたショートアーク型放電ランプにおいて、特に、定格電力での通常点灯と、小電力での待機点灯を繰り返すフル・スタンバイ点灯時においても、陽極先端中央部がその周辺環状部よりも突出することがなく、電極材料の蒸発によるランプの黒化が生じないようにした電極構造を提供することである。
【解決手段】前記陽極の先端中央部の開口内に挿入体が挿入されてなり、これら開口の内表面もしくは挿入体の外表面の少なくともいずれか一方に、溝または凹部が形成されており、該挿入体が前記陽極の開口内で接合されていることにより、前記陽極内に空隙が形成されていることを特徴とする。
【解決手段】前記陽極の先端中央部の開口内に挿入体が挿入されてなり、これら開口の内表面もしくは挿入体の外表面の少なくともいずれか一方に、溝または凹部が形成されており、該挿入体が前記陽極の開口内で接合されていることにより、前記陽極内に空隙が形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型放電ランプに関するものであり、特に、半導体や液晶の製造分野などの露光用光源や映写機のバックライト用光源に適用されるショートアーク型放電ランプに係る。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク型放電ランプは、発光管内に対向配置された一対の電極の先端距離が短く点光源に近いことから、光学系と組み合わせることによって露光装置用若しくは映写機のバックライト用の光源として利用されている。
【0003】
特開平10−188890号公報(特許文献1)は、従来のショートアーク型放電ランプを開示する。
図13に該従来のショートアーク型放電ランプが示されており、ショートアーク型放電ランプの発光管20は、中央に位置する略球状に形成された発光部21と、その両端の封止部22を備える。発光部21内には、タングステン等からなる陰極23と陽極24とが互いに向き合うように対向配置されるとともに、内部の発光空間Sには水銀、キセノン等の発光物質が封入されている。
上記陰極23及び陽極24に連設された電極軸が図示しない金属箔を介して封止部22、22で封止されている。
【0004】
しかして近年においては、半導体や液晶パネルの製造工程で用いられる上記ショートアーク型放電ランプにおいては、特開2000−181075号公報(特許文献2)に見られるように、省電力化のために、常に一定の電力で点灯するのではなく、露光時にのみ定格電力で点灯(通常点灯)させ、基板移動などの待機時には前記定格電力よりも小さな最小限の電力で点灯(待機点灯)させるという点灯方式(以下、フル・スタンバイ点灯という)が採用されている。
例えば、露光時は定格電力で0.1〜10秒点灯させ、待機時は定格電力よりも小さい待機電力で0.1〜100秒点灯させるということが繰り返される。
【0005】
ところで、ランプの点灯・消灯時や、上記のフル・スタンバイ点灯時における入力電力の変更時などには、アークから陽極へ流入する熱流束が変化するため、陽極温度が変化し、陽極に内部応力が発生する。
このとき、図14に示すように、陽極24の先端面におけるアークに対面する先端中央部30は、最も温度変化が大きい部分であり、従って熱膨張も大きくなる。これに対して、該中央部30の周辺にある周辺環状部31は、前記中央部30よりも温度変化が少なく、その熱膨張も小さい。
そのため、先端中央部30は大きく熱膨張して、熱膨張の小さな周辺環状部31から圧縮応力を受けることになり、その結果、先端面から突出するように変形する。
【0006】
このような突出は、定格点灯時に陽極先端の温度が安定した後も完全には元の形状に戻ることなく残存してしまう。加えて、特にフル・スタンバイ点灯時には、このような変形が繰り返し生じ、突出が蓄積されることにより肥大化していく。
すると、肥大化した突出部に放電が集中することとなって、該突出部が異常過熱され、電極物質が蒸発し発光管内壁に付着して、該発光管内壁が黒化してしまい、急速な照度低下を引き起こすという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−188890号公報
【特許文献2】特開2000−181075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、特に、フル・スタンバイ点灯方式を採用するショートアーク型放電ランプにおいて、陽極先端で生じる熱応力を緩和して、陽極先端の中央部分が変形突出することを防ぎ、黒化を防ぐことができる陽極構造を有するショートアーク型放電ランプを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明に係るショートアーク型放電ランプは、陽極の先端中央部に開口が形成され、該開口内に挿入体が挿入されてなり、前記陽極の開口の内表面もしくは挿入体の外表面の少なくともいずれか一方に、溝または凹部が形成されており、該挿入体が前記陽極の開口内で接合されていることにより、前記陽極内に空隙が形成されていることを特徴とする。
また、前記挿入体の外表面に複数の環状溝が形成されていることを特徴とする。
また、前記挿入体の外表面に螺旋状溝が形成されていることを特徴とする。
また、前記挿入体の外表面に複数のドット状凹部が円周方向および軸方向に形成されていることを特徴とする。
また、前記挿入体が、リング状挿入体と、その開口に挿入される棒状挿入体とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明のショートアーク型放電ランプによれば、陽極先端面の先端中央部とその周辺環状部の境界領域に沿って軸方向に空隙が形成されていることにより、特に、フル・スタンバイ点灯時などに、陽極先端部の温度が変化しても、先端中央部の熱変形が該空隙内に入り込むことによって吸収されるので、この先端中央部が変形して前方に突出することを防止でき、その結果、当該先端中央部が異常加熱されるようなことがなく、発光管が早期に黒化することを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るショートアーク型放電ランプの第1実施例における 陽極先端部の要部断面図。
【図2】図1の陽極構造を製造する方法の第1の形態の説明図。
【図3】図1の陽極構造を製造する方法の第2の形態の説明図。
【図4】第2実施例の陽極構造を製造するための挿入体の説明図。
【図5】第3実施例の陽極構造を製造する方法の説明図。
【図6】第4実施例の陽極構造を製造する方法の説明図。
【図7】挿入体と陽極との接合方法の説明図。
【図8】図7の接合方法を実施する装置の説明図。
【図9】他の接合方法の説明図。
【図10】接合部分の拡大断面写真。
【図11】本発明の効果を先端突起成長からみたグラフ。
【図12】本発明の効果を照度維持率からみたグラフ。
【図13】従来技術の全体図。
【図14】図13の部分説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1において、陽極1の先端面2におけるアークに対面する先端中央部2aと、該中央部2aの周辺を構成する周辺環状部2bとの境界領域Rに沿って軸方向に複数の空隙10が形成されている。
この実施例においては、該空隙10は、それぞれが円環状(いわゆる、ドーナッツ状)の空隙11からなり、該円環状空隙11が軸方向に間隔をおいて点在している。
図2にこのような空隙10を形成するための手段が示されている。
タングステン等からなる陽極1の先端面2の先端中央部2aには、その先端に開放された開口3が形成されており、一方、陽極1と同じタングステン等の材料からなる挿入体4が前記開口3と対応する形状に形成され、更に、その外周には円周方向に延在する複数の環状溝5が形成されている。
通常、前記開口3や挿入体4は圧入を容易にするために、若干の先細テーパ状とされるのがよい。
この挿入体4を開口3内に圧入し、適宜手段によって両者を接合する。これにより、陽極1には、図1に示すような、中央部2aと周辺環状部2bの境界領域Rに沿って円環状空隙11が形成される。この円環状空隙11はそれぞれが独立し、これが軸方向に複数点在して、全体として空隙10を構成している。
【0013】
図3には、図1の空隙10を形成するための他の手段が示されていて、この形態においては、陽極1の開口3の内周面に円周方向に延在する環状溝6が形成されている。
この開口3に、挿入体4を圧入接合すると、図1に示すような陽極構造が得られる。
なお、環状溝5、6は、挿入体4と開口3のいずれかのみというわけではなく、両者に形成してもよい。
【0014】
図4に挿入体4の他の形態が示されていて、挿入体4にはその外周に螺旋状溝7が形成されている。この挿入体4を陽極1に圧入接合することにより、該陽極には、螺旋状の空隙が形成される。(不図示)
【0015】
図5に他の実施例が示されており、挿入体4の外周には、円周方向および軸方向に複数のドット状の凹部8が形成されている。この挿入体4を陽極1の開口3に挿入し、接合することにより、陽極先端には、先端中央部と周辺環状部の境界領域の円周方向に沿い、かつ、軸方向に延在するドット状の空隙が形成される。(不図示)
【0016】
なお、上記実施例においては、挿入体4は1部材からなるものを示したが、2部材以上からなるものでもよく、その実施例が図6に示されている。
図において、挿入体4はリング状挿入体4aとその開口3aに挿入される棒状挿入体4bとからなり、リング状挿入体4aおよび棒状挿入体4bの外周には、それぞれ円周方向溝4a、4bが形成されている。
そして、これらが組み合わされた挿入体4が陽極1の開口3内に挿入されて接合される。挿入体4と陽極1との接合は、2つのリング状挿入体4aと棒状挿入体4bとが組み合わされて陽極1の開口3ないに挿入された状態で1度に接合することで作業効率がよくなる。
これにより、陽極1の先端には、同心状の円周方向に二重の空隙が形成されることになる。
【0017】
次いで、陽極3と挿入体4との接合方法についての具体例を示すと以下のようである。
図7は、図2の例をもとにして示されている。図7において、(A)に示すように、陽極本体1の先端中央に開口3を形成するとともに、挿入体4の外周に円周方向に延在する環状溝5を形成する。
次いで、(B)に示すように、この挿入体4を陽極1の開口3内に圧入する。そして両者間にプラズマ放電を起こし、両者を接合することにより、(C)に示すように、陽極先端に軸方向に点在する複数の円環状空隙11が形成される。
この後、切削加工によって陽極の先端形状を形成する。
【0018】
上記のプラズマ放電による接合を行うための装置例が図8に示されている。
陽極本体1に挿入体4が挿入された状態で加圧装置15にカーボン16を挟んでセットされる。加圧装置15のチャンバー内を真空状態にし、ワーク(陽極と挿入体)に対して所定の加重(2kN以上)を一定に加える。
次いで、プラズマ放電を起こすためにパルス電圧(パルス幅15〜999ms、ピーク電流40〜800A、ピーク電圧3〜30V)が所定時間(30〜60sec)印加され、通電を開始する。
ワークの嵌合部分が熱膨張するように加熱(1500〜2300℃)を行い、嵌合部が熱変形を開始し、ワークの高さが必要量(0.5mm)縮んだら、通電を停止する。
これが冷却された後にチャンバーの真空を解除し、ワークを取り出す。
これにより、陽極1の開口3と挿入体4の界面が接合される。
【0019】
なお、陽極1と挿入体4の接合方法は、上記の放電プラズマ接合以外に、図9(A)(B)に示すような、摩擦圧接によってもよい。
図に示すように、陽極本体1か、挿入体4のいずれか一方、または両者を、回転させつつ圧入する。この後、陽極1の先端を切削加工により適宜の先端形状とすることは前記と同様である。
【0020】
こうして形成された陽極先端部分の断面写真が図10に示されている。
この写真において、左側が陽極1にかかる部分の断面であり、比較的粒径の大きいタングステンから構成されていることがわかる。右側は、挿入体4の断面であり、比較的粒径の小さいタングステンから構成されていることがわかる。
陽極1と挿入体4の境界領域には、上記溝5によって円環状の微小空隙11群が両者の界面に沿って軸方向に点在するように形成されて、全体として空隙10を構成している。1つ1つの微小空隙11の大きさは、例えば直径0.05〜0.20mmである。
【0021】
なお、上記の空隙10が形成される領域、即ち、陽極先端面2におけるアークに対応する先端中央部2aと、その外周の周辺環状部2bとの境界領域Rを、先端面2のどの位置に形成するかは、ランプの仕様、例えば、封入ガス種、ガス圧、入力電力、フル・スタンバイ点灯条件などによって決定される。
【0022】
図11および図12に実験結果を示す。
本発明ランプとして、空隙を有する陽極を備えたランプと、比較例として、図14に示すような従来の陽極を備えたランプを用意した。
それぞれの放電ランプにおいては、発光管内に、2.2mg/cm3の水銀と、キセノンが略1気圧封入されていて、その定格電力は4.3kWとした。
これらの放電ランプを、フル・スタンバイ点灯、即ち、定格電力(4.3kW)での6秒間のフル点灯と、定格電力の半分の電力(2.15kW)での26秒間のスタンバイ点灯を行い、点灯寿命試験を行った。
図11は、点灯経過時間と、陽極先端に成長した突起の長さ(先端突起成長)との関係を示すグラフである。
また、図12は、点灯経過時間と、i線(波長365nmの紫外線)の照度維持率の関係を示すグラフである。なお、照度維持率は、点灯開始時の照度を1として、一定時間経過後の照度の比を百分率で表示したものである。
これらのグラフからも分かるように、比較例においては、点灯時間の経過とともに先端突起の成長が早く、750時間経過で1.3mmを越えて、その照度維持率も85%を下回っている。
これに対して、本発明では、同時間の750時間では、その照度維持率はほぼ100%近くを維持しており、1500時間経過後も先端突起は0.75mm以下と低く抑えられ、その照度維持率も90%以上を維持していることが分かる。
【0023】
以上説明したように、本発明に係るショートアーク型放電ランプは、フル・スタンバイ点灯方式を採用した場合でも、陽極の先端中央部が加熱されて熱膨張しても、その膨張分が周辺環状部との境界領域に沿って形成された空隙内に侵入して吸収されるので、該先端中央部が陽極の先端面から局所的に突出することがなく、その部分が異常過熱されて蒸発することを防止できるという効果を奏するものである。
これによって、長時間にわたって照度維持率の高い放電ランプが実現できるものである。
【符号の説明】
【0024】
1 陽極
2 先端面
2a 先端中央部
2b 周辺環状部
3 開口
4 挿入体
5 (挿入体)環状溝
5a リング状挿入体
5b 棒状挿入体
6 (開口)環状溝
7 螺旋状溝
8 ドット状凹部
10 空隙
11 円環状空隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型放電ランプに関するものであり、特に、半導体や液晶の製造分野などの露光用光源や映写機のバックライト用光源に適用されるショートアーク型放電ランプに係る。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク型放電ランプは、発光管内に対向配置された一対の電極の先端距離が短く点光源に近いことから、光学系と組み合わせることによって露光装置用若しくは映写機のバックライト用の光源として利用されている。
【0003】
特開平10−188890号公報(特許文献1)は、従来のショートアーク型放電ランプを開示する。
図13に該従来のショートアーク型放電ランプが示されており、ショートアーク型放電ランプの発光管20は、中央に位置する略球状に形成された発光部21と、その両端の封止部22を備える。発光部21内には、タングステン等からなる陰極23と陽極24とが互いに向き合うように対向配置されるとともに、内部の発光空間Sには水銀、キセノン等の発光物質が封入されている。
上記陰極23及び陽極24に連設された電極軸が図示しない金属箔を介して封止部22、22で封止されている。
【0004】
しかして近年においては、半導体や液晶パネルの製造工程で用いられる上記ショートアーク型放電ランプにおいては、特開2000−181075号公報(特許文献2)に見られるように、省電力化のために、常に一定の電力で点灯するのではなく、露光時にのみ定格電力で点灯(通常点灯)させ、基板移動などの待機時には前記定格電力よりも小さな最小限の電力で点灯(待機点灯)させるという点灯方式(以下、フル・スタンバイ点灯という)が採用されている。
例えば、露光時は定格電力で0.1〜10秒点灯させ、待機時は定格電力よりも小さい待機電力で0.1〜100秒点灯させるということが繰り返される。
【0005】
ところで、ランプの点灯・消灯時や、上記のフル・スタンバイ点灯時における入力電力の変更時などには、アークから陽極へ流入する熱流束が変化するため、陽極温度が変化し、陽極に内部応力が発生する。
このとき、図14に示すように、陽極24の先端面におけるアークに対面する先端中央部30は、最も温度変化が大きい部分であり、従って熱膨張も大きくなる。これに対して、該中央部30の周辺にある周辺環状部31は、前記中央部30よりも温度変化が少なく、その熱膨張も小さい。
そのため、先端中央部30は大きく熱膨張して、熱膨張の小さな周辺環状部31から圧縮応力を受けることになり、その結果、先端面から突出するように変形する。
【0006】
このような突出は、定格点灯時に陽極先端の温度が安定した後も完全には元の形状に戻ることなく残存してしまう。加えて、特にフル・スタンバイ点灯時には、このような変形が繰り返し生じ、突出が蓄積されることにより肥大化していく。
すると、肥大化した突出部に放電が集中することとなって、該突出部が異常過熱され、電極物質が蒸発し発光管内壁に付着して、該発光管内壁が黒化してしまい、急速な照度低下を引き起こすという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−188890号公報
【特許文献2】特開2000−181075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、特に、フル・スタンバイ点灯方式を採用するショートアーク型放電ランプにおいて、陽極先端で生じる熱応力を緩和して、陽極先端の中央部分が変形突出することを防ぎ、黒化を防ぐことができる陽極構造を有するショートアーク型放電ランプを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明に係るショートアーク型放電ランプは、陽極の先端中央部に開口が形成され、該開口内に挿入体が挿入されてなり、前記陽極の開口の内表面もしくは挿入体の外表面の少なくともいずれか一方に、溝または凹部が形成されており、該挿入体が前記陽極の開口内で接合されていることにより、前記陽極内に空隙が形成されていることを特徴とする。
また、前記挿入体の外表面に複数の環状溝が形成されていることを特徴とする。
また、前記挿入体の外表面に螺旋状溝が形成されていることを特徴とする。
また、前記挿入体の外表面に複数のドット状凹部が円周方向および軸方向に形成されていることを特徴とする。
また、前記挿入体が、リング状挿入体と、その開口に挿入される棒状挿入体とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明のショートアーク型放電ランプによれば、陽極先端面の先端中央部とその周辺環状部の境界領域に沿って軸方向に空隙が形成されていることにより、特に、フル・スタンバイ点灯時などに、陽極先端部の温度が変化しても、先端中央部の熱変形が該空隙内に入り込むことによって吸収されるので、この先端中央部が変形して前方に突出することを防止でき、その結果、当該先端中央部が異常加熱されるようなことがなく、発光管が早期に黒化することを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るショートアーク型放電ランプの第1実施例における 陽極先端部の要部断面図。
【図2】図1の陽極構造を製造する方法の第1の形態の説明図。
【図3】図1の陽極構造を製造する方法の第2の形態の説明図。
【図4】第2実施例の陽極構造を製造するための挿入体の説明図。
【図5】第3実施例の陽極構造を製造する方法の説明図。
【図6】第4実施例の陽極構造を製造する方法の説明図。
【図7】挿入体と陽極との接合方法の説明図。
【図8】図7の接合方法を実施する装置の説明図。
【図9】他の接合方法の説明図。
【図10】接合部分の拡大断面写真。
【図11】本発明の効果を先端突起成長からみたグラフ。
【図12】本発明の効果を照度維持率からみたグラフ。
【図13】従来技術の全体図。
【図14】図13の部分説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1において、陽極1の先端面2におけるアークに対面する先端中央部2aと、該中央部2aの周辺を構成する周辺環状部2bとの境界領域Rに沿って軸方向に複数の空隙10が形成されている。
この実施例においては、該空隙10は、それぞれが円環状(いわゆる、ドーナッツ状)の空隙11からなり、該円環状空隙11が軸方向に間隔をおいて点在している。
図2にこのような空隙10を形成するための手段が示されている。
タングステン等からなる陽極1の先端面2の先端中央部2aには、その先端に開放された開口3が形成されており、一方、陽極1と同じタングステン等の材料からなる挿入体4が前記開口3と対応する形状に形成され、更に、その外周には円周方向に延在する複数の環状溝5が形成されている。
通常、前記開口3や挿入体4は圧入を容易にするために、若干の先細テーパ状とされるのがよい。
この挿入体4を開口3内に圧入し、適宜手段によって両者を接合する。これにより、陽極1には、図1に示すような、中央部2aと周辺環状部2bの境界領域Rに沿って円環状空隙11が形成される。この円環状空隙11はそれぞれが独立し、これが軸方向に複数点在して、全体として空隙10を構成している。
【0013】
図3には、図1の空隙10を形成するための他の手段が示されていて、この形態においては、陽極1の開口3の内周面に円周方向に延在する環状溝6が形成されている。
この開口3に、挿入体4を圧入接合すると、図1に示すような陽極構造が得られる。
なお、環状溝5、6は、挿入体4と開口3のいずれかのみというわけではなく、両者に形成してもよい。
【0014】
図4に挿入体4の他の形態が示されていて、挿入体4にはその外周に螺旋状溝7が形成されている。この挿入体4を陽極1に圧入接合することにより、該陽極には、螺旋状の空隙が形成される。(不図示)
【0015】
図5に他の実施例が示されており、挿入体4の外周には、円周方向および軸方向に複数のドット状の凹部8が形成されている。この挿入体4を陽極1の開口3に挿入し、接合することにより、陽極先端には、先端中央部と周辺環状部の境界領域の円周方向に沿い、かつ、軸方向に延在するドット状の空隙が形成される。(不図示)
【0016】
なお、上記実施例においては、挿入体4は1部材からなるものを示したが、2部材以上からなるものでもよく、その実施例が図6に示されている。
図において、挿入体4はリング状挿入体4aとその開口3aに挿入される棒状挿入体4bとからなり、リング状挿入体4aおよび棒状挿入体4bの外周には、それぞれ円周方向溝4a、4bが形成されている。
そして、これらが組み合わされた挿入体4が陽極1の開口3内に挿入されて接合される。挿入体4と陽極1との接合は、2つのリング状挿入体4aと棒状挿入体4bとが組み合わされて陽極1の開口3ないに挿入された状態で1度に接合することで作業効率がよくなる。
これにより、陽極1の先端には、同心状の円周方向に二重の空隙が形成されることになる。
【0017】
次いで、陽極3と挿入体4との接合方法についての具体例を示すと以下のようである。
図7は、図2の例をもとにして示されている。図7において、(A)に示すように、陽極本体1の先端中央に開口3を形成するとともに、挿入体4の外周に円周方向に延在する環状溝5を形成する。
次いで、(B)に示すように、この挿入体4を陽極1の開口3内に圧入する。そして両者間にプラズマ放電を起こし、両者を接合することにより、(C)に示すように、陽極先端に軸方向に点在する複数の円環状空隙11が形成される。
この後、切削加工によって陽極の先端形状を形成する。
【0018】
上記のプラズマ放電による接合を行うための装置例が図8に示されている。
陽極本体1に挿入体4が挿入された状態で加圧装置15にカーボン16を挟んでセットされる。加圧装置15のチャンバー内を真空状態にし、ワーク(陽極と挿入体)に対して所定の加重(2kN以上)を一定に加える。
次いで、プラズマ放電を起こすためにパルス電圧(パルス幅15〜999ms、ピーク電流40〜800A、ピーク電圧3〜30V)が所定時間(30〜60sec)印加され、通電を開始する。
ワークの嵌合部分が熱膨張するように加熱(1500〜2300℃)を行い、嵌合部が熱変形を開始し、ワークの高さが必要量(0.5mm)縮んだら、通電を停止する。
これが冷却された後にチャンバーの真空を解除し、ワークを取り出す。
これにより、陽極1の開口3と挿入体4の界面が接合される。
【0019】
なお、陽極1と挿入体4の接合方法は、上記の放電プラズマ接合以外に、図9(A)(B)に示すような、摩擦圧接によってもよい。
図に示すように、陽極本体1か、挿入体4のいずれか一方、または両者を、回転させつつ圧入する。この後、陽極1の先端を切削加工により適宜の先端形状とすることは前記と同様である。
【0020】
こうして形成された陽極先端部分の断面写真が図10に示されている。
この写真において、左側が陽極1にかかる部分の断面であり、比較的粒径の大きいタングステンから構成されていることがわかる。右側は、挿入体4の断面であり、比較的粒径の小さいタングステンから構成されていることがわかる。
陽極1と挿入体4の境界領域には、上記溝5によって円環状の微小空隙11群が両者の界面に沿って軸方向に点在するように形成されて、全体として空隙10を構成している。1つ1つの微小空隙11の大きさは、例えば直径0.05〜0.20mmである。
【0021】
なお、上記の空隙10が形成される領域、即ち、陽極先端面2におけるアークに対応する先端中央部2aと、その外周の周辺環状部2bとの境界領域Rを、先端面2のどの位置に形成するかは、ランプの仕様、例えば、封入ガス種、ガス圧、入力電力、フル・スタンバイ点灯条件などによって決定される。
【0022】
図11および図12に実験結果を示す。
本発明ランプとして、空隙を有する陽極を備えたランプと、比較例として、図14に示すような従来の陽極を備えたランプを用意した。
それぞれの放電ランプにおいては、発光管内に、2.2mg/cm3の水銀と、キセノンが略1気圧封入されていて、その定格電力は4.3kWとした。
これらの放電ランプを、フル・スタンバイ点灯、即ち、定格電力(4.3kW)での6秒間のフル点灯と、定格電力の半分の電力(2.15kW)での26秒間のスタンバイ点灯を行い、点灯寿命試験を行った。
図11は、点灯経過時間と、陽極先端に成長した突起の長さ(先端突起成長)との関係を示すグラフである。
また、図12は、点灯経過時間と、i線(波長365nmの紫外線)の照度維持率の関係を示すグラフである。なお、照度維持率は、点灯開始時の照度を1として、一定時間経過後の照度の比を百分率で表示したものである。
これらのグラフからも分かるように、比較例においては、点灯時間の経過とともに先端突起の成長が早く、750時間経過で1.3mmを越えて、その照度維持率も85%を下回っている。
これに対して、本発明では、同時間の750時間では、その照度維持率はほぼ100%近くを維持しており、1500時間経過後も先端突起は0.75mm以下と低く抑えられ、その照度維持率も90%以上を維持していることが分かる。
【0023】
以上説明したように、本発明に係るショートアーク型放電ランプは、フル・スタンバイ点灯方式を採用した場合でも、陽極の先端中央部が加熱されて熱膨張しても、その膨張分が周辺環状部との境界領域に沿って形成された空隙内に侵入して吸収されるので、該先端中央部が陽極の先端面から局所的に突出することがなく、その部分が異常過熱されて蒸発することを防止できるという効果を奏するものである。
これによって、長時間にわたって照度維持率の高い放電ランプが実現できるものである。
【符号の説明】
【0024】
1 陽極
2 先端面
2a 先端中央部
2b 周辺環状部
3 開口
4 挿入体
5 (挿入体)環状溝
5a リング状挿入体
5b 棒状挿入体
6 (開口)環状溝
7 螺旋状溝
8 ドット状凹部
10 空隙
11 円環状空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管内に一対の陽極と陰極が対向配置されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記陽極の先端中央部に開口が形成され、該開口内に挿入体が挿入されてなり、
前記陽極の開口の内表面もしくは挿入体の外表面の少なくともいずれか一方に、溝または凹部が形成されており、
該挿入体が前記陽極の開口内で接合されていることにより、
前記陽極内に空隙が形成されていることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
前記挿入体の外表面に複数の環状溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
前記挿入体の外表面に螺旋状溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項4】
前記挿入体の外表面に複数のドット状凹部が円周方向および軸方向に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項5】
前記挿入体が、リング状挿入体と、該リング状挿入体の開口内に挿入される棒状挿入体とからなることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項1】
発光管内に一対の陽極と陰極が対向配置されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記陽極の先端中央部に開口が形成され、該開口内に挿入体が挿入されてなり、
前記陽極の開口の内表面もしくは挿入体の外表面の少なくともいずれか一方に、溝または凹部が形成されており、
該挿入体が前記陽極の開口内で接合されていることにより、
前記陽極内に空隙が形成されていることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
前記挿入体の外表面に複数の環状溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
前記挿入体の外表面に螺旋状溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項4】
前記挿入体の外表面に複数のドット状凹部が円周方向および軸方向に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項5】
前記挿入体が、リング状挿入体と、該リング状挿入体の開口内に挿入される棒状挿入体とからなることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−133908(P2012−133908A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282883(P2010−282883)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】
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