説明

ショートアーク型放電ランプ

【課題】 本発明の目的は、ランプの長時間の点灯によって陰極先端部が消耗して先端形状が変化した場合でも、初期の放電破壊電圧を維持できるショートアーク型放電ランプを提供すること。
【解決手段】 陽極と陰極が発光管の内部で対向配置したショートアーク型放電ランプにおいて、該陰極は先端に向かうに従って小径となるテーパー部を有し、該テーパー部には凹所が設けられ、該凹所には、該テーパー部の表面から突出する金属体が設けられ、該金属体の先端に角部が少なくとも一つ設けられ、該金属体の先端と前記陽極の先端との距離が、該陰極と該陽極との距離より離れていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体製造や映写機の投影等に使用されるショートアーク型放電ランプに関し、特に陰極構造に特徴のあるショートアーク型放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク型放電ランプは、点灯開始時、先ず陰極と陽極の間で放電破壊を起こすことを必要とする。このとき、放電破壊の発生を補助しランプの始動性を高める手段として、図9に示すようにショートアーク型放電ランプ91にはトリガーワイヤー931と呼ばれる金属製のワイヤーをランプの発光管部950aに設けている。このトリガーワイヤー931を設けることで、該ランプに高電圧が印加されたとき発光管内部の気体の電離を促進し電極間の放電破壊を容易にする。つまりは電極間の放電破壊電圧(ブレークダウン電圧)を下げることができる。これはランプの始動性の向上の点で優位である。
特許第4281655号公報にはトリガーワイヤーに関する発明が記載されている。
【0003】
しかしながら、ランプの発光管部外壁にトリガーワイヤー931を設置しても、ランプ内の電極(特に陰極)の先端部は、高温で動作しているため、点灯時間と共に消耗したり、陰極先端部で原子移動(migration)が起こり、陰極先端形状が経時的に変化するため、長時間の点灯によって放電破壊電圧は上昇してしまう。
【0004】
点灯初期の場合、切削加工痕などの鋭部を有する陰極の先端部で電界集中が起こり、より強い電界強度が生じ、電子を加速させることができ、電子の増殖過程をもたらし、放電破壊に至らしめる。しかし、ランプ点灯が長時間続くとアーク放電によって陰極先端部は高温に曝され、陰極先端部は消耗し、形状が丸みを帯びて変形する。そのため陰極先端での電界集中は弱まり、電子の加速が小さくなり、放電破壊電圧は上昇する。つまり、長時間の点灯に伴ってランプの初期の放電破壊電圧は上昇してゆく、という問題がある。印加電圧が低い場合、放電破壊が困難となりランプは点灯できなくなる。或いは、ランプを点灯するために、更に高電圧を発生する新たなスターターと電源を用意しなければならない。
【0005】
特開2003−257363号公報には、陰極のテーパー部の表面に凸状または凹状の異形部を形成させた電極が開示されている。これによれば、陰極は放電空間側に向かって傾斜しているテーパー部を有しており、テーパー部はその表面に凹部または凸部の異形部が形成されている。
【0006】
当該公報のショートアーク型放電ランプの陰極先端を図8に示す。陰極先端211が消耗すると陰極21のテーパー部212にアークの始点が形成されてしまう問題があった。しかしテーパー部212の表面に異形部321を設けることで、仮にアークの始点がテーパー部212に発生した場合でも異形部321にアークの始点を留めさせることができ、アークの始点のふらつきやランプ内壁の失透、アークの立ち消え、といった問題を解消できる、ことが記載されている。
【0007】
凸状の異形部321は陰極と同一の物質が溶融したものや切削加工により形成されるものであり、異形部321と陰極21は一体であると共に、異形部321と陰極21の間に間隙はないので、ランプ点灯時は陰極先端211からの熱伝導を疎外することがなく、異形部の先端322は熱の影響を受けやすく、角が無くなるように形状変形して異形部の先端322が鈍化する。よってランプの放電破壊電圧は点灯時間と共に上昇してゆく、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4281655号公報
【特許文献2】特開2003−257363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、ランプの長時間の点灯によって陰極先端部が消耗して先端形状が鈍く変形した場合でも、初期の放電破壊電圧を維持できるショートアーク型放電ランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、陽極と陰極が発光管の内部で対向配置したショートアーク型放電ランプにおいて、該陰極は先端に向かうに従って小径となるテーパー部を有し、該テーパー部には凹所が設けられ、該凹所には、金属体の一端が該テーパー部の表面から突出するように該金属体の他端が埋設され、該テーパー部の表面から突出した該金属体の先端に角部が少なくとも一つ設けられ、該金属体の先端と前記陽極の先端との距離が、該陰極と該陽極との距離より離れていることを特徴とするショートアーク型放電ランプとするものである。
請求項2に記載の発明は、前記金属体は線状の部材であることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプとするものである。
請求項3に記載の発明は、前記金属体が前記陰極の中心軸に対して平行に突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のショートアーク型放電ランプとするものである。
請求項4に記載の発明は、前記金属体が前記テーパー部に対して垂直に突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のショートアーク型放電ランプとするものである。
請求項5に記載の発明は、前記テーパー部には、前記陰極の中心軸と直交する方向に該陰極を貫通する貫通穴部が設けられ、前記金属体は該貫通穴部に挿通し、該金属体は該貫通穴部から突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のショートアーク型放電ランプとするものである。
請求項6に記載の発明は、前記金属体と該凹所は前記テーパー部に複数設けられ、前記陰極の中心軸を中心とする円周上に離間して埋設されていることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載のショートアーク型放電ランプとするものである。
【0011】
本発明におけるショートアーク型放電ランプは、封入ガスとしてXe、Kr、Arやそれらの混合ガスのいずれかを選択した放電ランプ、又はそれらのガスをバッファガスとする発光金属の水銀を封入した放電ランプのことをいう。また、該放電ランプの電極間距離は数mm程度から数十mm程度までである。またここで云う距離とは、二つの部材の間の最短距離であり、例えば陰極と陽極との距離とは陰極と陽極との最短距離をいう。
本発明におけるテーパー部表面の凹所は、円柱状、矩形状、板状、薄状の金属体を埋設するための穴や溝のことである。
本発明における線状の部材は、直径0.1mm〜数mmの細いワイヤーであり、該線状部材の形状は柱状、針状、扁平状、のものを含み、また、該線状部材の形状が一部加工されたものを含む。通常、陰極先端径より小さいものが使用される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、陰極のテーパー部に金属体を埋設するための凹所を設け、凹所に金属体が埋設され、金属体の先端と前記陽極の先端との距離が該陰極と該陽極との距離より長くなるよう調整され、金属体の一部がテーパー部の表面から突出して陰極先端の周囲に設けられることで、該金属体の先端に電界集中を起こさせることができ、長時間のランプ点灯によって陰極先端が消耗しても、初期の放電破壊電圧を維持できる。
請求項2に記載の発明によれば、金属体に線状の部材を用いることで、金属体先端に生じる電界の強度を高めさせ、放電破壊を容易にできる。
請求項3に記載の発明によれば、金属体が陰極の中心軸に対して平行に突出して形成することで、長時間のランプ点灯によって陰極先端が消耗しても、初期の放電破壊電圧を維持することができる。
請求項4に記載の発明によれば、金属体が陰極の中心軸に対して直交して突出していることで、長時間のランプ点灯によって陰極先端が消耗しても、初期の放電破壊電圧を維持することができる。
請求項5に記載の発明によれば、陰極の中心軸と直交する方向に貫通穴を設け、前記貫通穴に先端部と後端部に尖った角部を持つ略棒状の金属体を設けることで、長時間のランプ点灯によって陰極先端が消耗しても、初期の放電破壊電圧を維持することができる。
請求項6に記載の発明によれば、前記金属体と前期凹所は、前記テーパー部に複数個設けられ、該テーパー部の陰極の中心軸を中心とする円周上に離間して埋設されていることで、不意にある位置の該金属体の機能が失われた場合でも、他の金属体が予備となって、初期の放電破壊電圧を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のショートアーク型放電ランプの概略の外観図を示す。
【図2】本発明の第一の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの陰極構造の図を示す。
【図3】本発明の第二の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの陰極構造の図を示す。
【図4】本発明の第三の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの陰極構造の図を示す。
【図5】本発明の第四の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの陰極構造の図を示す。
【図6】ランプの点灯時間に対する放電破壊電圧の変化についての実験結果を示す。
【図7】本発明のショートアーク型放電ランプの電極間の距離関係の図を示す。
【図8】従来のショートアーク型放電ランプの陰極の図を示す。
【図9】従来のショートアーク型放電ランプの概略の外観図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明であるショートアーク型放電ランプの外観図を図1に示す。ショートアーク型放電ランプ1は略楕円球状の発光管部50aと、その両端に伸びる封止管部50bと、封止管部50bの発光管50a側と反対側に固定された口金部11で構成されている。発光管50aの内部には陰極21陽極20が対向配置しており、各電極は外部リード線10と電気的に接続している。各電極は先端に向かうに従って小径となるテーパー部を有し、先端部と該テーパー部と胴体部が連設して構成されている。
【0015】
本発明の第一の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの構造を図2に示す。図2(a)は陰極の中心軸を含む陰極テーパー部の断面図、図2(b)は陰極先端側から観察した図を示す。陰極21のテーパー部212には、陰極軸Cに対して平行に金属体221が埋設されている。金属体先端222は尖った角部を有し、電界集中によって強い電界強度を生む。また、凹所220及び金属体221は陰極軸Cを中心として対称的に配置されている。このように複数の金属体221を離間して埋設することは、金属体の不具合回避や予備の点で好ましい。しかしながら、凹所220や金属体221は必ずしも対称的に配置させたり、陰極軸Cに平行に埋設させたり、する必要はなく、金属体221はテーパー部212の領域に少なくとも一つ埋設されていれば良い。
【0016】
陰極21のテーパー部212には、金属体221を埋設するための凹所220が設けられており、陰極21とは別体の金属体221がテーパー部212から突出して該凹所220に埋設されている。凹所220の形状(断面形状や径など)や深さは、埋設する金属体221の形状と大きさによって異なる。凹所220は放電加工、ドリルによる加工、レーザー加工、電子線加工等で形成できる。
また、金属体221は凹所220に圧入させる、または、金属体221と凹所220の内面を少なくとも一箇所融着させる、ことで金属体221をテーパー部212に固定することが可能となる。上記の構成では、凹所220の位置や形状、深さを任意に決めることができ、金属体221の埋設位置やテーパー部212からの金属体221の突出具合を精度よく調整できる。本発明の効果は金属体221、陰極21、陽極20のそれぞれの距離間隔によって変わるため、埋設箇所や突出具合を精度よく調整できる点は有用である。
【0017】
金属体221は凹所220に埋設され、金属体221の一部はテーパー部212から突出しており、該金属体221の突出した部位(以下、突出部と称す)の先端には尖った角部が少なくとも一つ設けられている。
上記の構成から、尖った角部の影響で金属体先端222に強い電界強度が生じ、放電破壊を容易にする。また陽極20に対して金属体の先端222は陰極先端211より離れているため、金属体221はアークに曝されることがなく、金属体221が磨耗して形状が変形することがない。よって金属体先端222ではランプ点灯初期の電界強度が維持され、ランプ点灯初期の放電破壊電圧を維持できる。また金属体221は凹所220に埋設されており、陰極21の凹所220と金属体221の間に間隙を生み、陰極21から金属体221への熱伝導を抑制できる。よって熱伝導による金属体先端222の形状変化を防止でき、ランプ点灯初期の放電破壊電圧を維持できる。
【0018】
前記金属体221がテーパー部212から突出していない場合、ランプ点灯初期の放電破壊電圧を維持することはできず、本発明の効果は失われる。他方、前記金属体221がテーパー部212から突出させると、金属体先端222に尖った角部を設けることで、金属体先端222に強い電界強度を生じさせ、陰極と陽極間の放電破壊を容易にし、ランプの始動性は良くなる。
【0019】
金属体先端222と陰極21の陽極20の夫々の電極間の距離関係を図7(a)に示す。対向配置する陰極21と陽極20の電極間の距離D1は、金属体先端222と陽極先端の距離D0より短くなるよう金属体が埋設されている。これにより、ランプ点灯時に金属体がアークに曝されることがない。
また、長時間のランプ点灯によって陰極先端211は消耗する。陰極先端211が消耗した場合の、金属体221と陰極21と陽極20の、夫々の電極間の距離を図7(b)に示す。このとき陰極先端211の消耗によって陰極21と陽極20がなす電極間の距離D2は、図7(a)に示す距離D1と比べて離れる。仮に陰極先端211が消耗し、陰極21と陽極20がなす電極間の距離D2が金属体先端222と陽極20の距離D0より離れる、つまり、電極間の距離がD2>D0の関係となれば、該金属体先端222がアークに曝されて金属体先端222が鈍ってしまう虞がある。しかしながら、金属体先端が陽極や陰極先端に近ければ、つまり、電極間の距離がD2≒D0の関係であれば、該金属体による電界集中の影響は大きい。そのため陰極テーパー部212に埋設する金属体221は、陰極先端211の消耗を考慮して突出させる必要がある。例えばランプ点灯によってランプ寿命中に陰極先端211が1mm程度消耗する場合、該陽極20に対して金属体先端222が該陰極21よりも1mm〜2mm離れるよう、凹所の位置や金属体の長さを調整する。
【0020】
本発明に使用する金属体には、線状、箔状、棒状、板状の部材が挙げられる。特に、金属体先端で電界集中を起こさせる点から、金属体は線状部材または箔状部材のものが適しており、本発明の効果を高める。また、金属体先端222には角部を設ける必要がある。該金属体に線状部材や箔状部材を使用する場合は、先端部をカットする、先端部を狭圧する、先端を削るなどして、尖った角部ができるように金属体先端222を加工することが望ましい。
また、金属体221は陰極本体21とは別体であり、金属体221の素材としてはタングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、そしてレニウム(Re)などの高融点金属が望ましい。また金属体221にエミッターを添加することもできるが、必ずしも必要ではない。
【0021】
図2に示すように陰極21のテーパー部212に突出部を形成する場合、テーパー部212に凹所220を設け、陰極21とは別体の金属体221を凹所220に埋設し、テーパー部212に突出部を形成する。
陰極21のテーパー部212に凹所220を設けることで、ランプ点灯時に陰極先端211が高温となり陰極先端から陰極胴部に向かって熱伝導する際、凹所220が陰極先端211からの伝熱をせき止める(以下、ヒートダムと称す)効果を有する。このヒートダムの効果により、陰極先端部から胴体部への熱伝導を抑え、陰極21先端部においてエミッターの供給が促進され、安定なアーク放電が生じやすい。
また、上記の凹所220に金属体221を埋設して突出させることで、凹所220と金属体221の間に間隙が生じる。そのため陰極21と金属体221の熱伝導は悪く、金属体221は陰極先端部より低温状態を維持できる。そのため、長時間の点灯で陰極先端211が消耗しても金属体221は熱による形状変形を起こさず、初期の放電破壊電圧を維持することができる。
【0022】
特許文献2に記載される陰極構造を図8に示す。陰極21のテーパー部212に凸状の異形部321を形成した陰極が記載されている。特許文献2によれば、この異形部はアークの始点となって放電に曝される。凸状の異形部321は陰極と同一の物質が溶融したものや切削加工により形成されるものであり、ランプ点灯時は陰極先端211からの熱伝導によって異形部の先端322は鈍りやすく、ランプ点灯初期の放電破壊電圧を維持できない。本発明では、例えば図2で示したように凹所220に金属体221を埋設する構成のため、陰極21の凹所220と金属体221の間に間隙ができ熱伝導を阻害するため、熱伝導による金属体先端222の鈍化を防止することができ、初期の放電破壊電圧を維持することができる。
【0023】
また特許文献2に記載の課題は、陰極先端のテーパー部にアークの始点が形成され、アークの始点がふらつくことの記載がある。上記の現象は当該文献の実験例が示すように、封入ガス圧が0.01〜0.3MPa程度のランプで生じるものであり、ランプの封入ガス圧が高圧になるにつれ、ランプの始動時間を要さない瞬時再点灯が可能となる。例えばキセノンランプは用途に応じて封入ガス圧が1MPa〜3MPaと高圧であり、ランプは瞬時再点灯する。最近ではデジタルシネマランプ用のキセノンランプとして封入ガス圧が1.5MPa〜3MPaのランプが使用されている。これら封入ガス圧が高圧のランプにおいては、アークの始点がテーパー部に形成されるといった現象は起きない。
しかしながら、ランプの封入ガス圧が高圧だと放電破壊電圧も高くなり、加えて、ランプ電流を大きくして点灯させると、陰極先端の変形や消耗が激しくなる。そのため、封入ガス圧が高いほど放電破壊電圧の上昇は顕著に高くなり、初期の放電破壊電圧の維持は困難である。言い換えれば、封入ガス圧が高いランプほど本発明の効果はより顕著に表れる。
【0024】
本発明の第二の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの陰極構造を図3に示す。図3(a)は陰極の中心軸Cを含む陰極テーパー部の断面図、図3(b)は陰極先端側から観察した図である。図3はテーパー部212に設ける凹所220がリング状の溝であり、埋設する金属体221は板または箔であり、金属体221はテーパー部212からリング状に突出している。また陰極21と対向する陽極20の間隔は、金属体221の先端222と該陽極20の間隔より近くなるよう配置されている。
板状または箔状の金属体をテーパー部212に埋設する場合、金属体221の埋設箇所を一部折り曲げて圧入する、または折り曲げ部で生じるバネ性を利用して固定する、といった金属体221の埋設も可能である。これにより、テーパー部212に金属体221を埋設することが可能となり、また金属体221を凹所220に圧入させる、または金属体221と凹所220の接点を融着させる、ことで金属体221を固定することが可能となる。また該金属体221は必ずしもリング状である必要はなく、金属体221はリングが途切れた形状でも良い。また箔状部材の先端部をノコギリ状に加工しても良い。また、金属体221の先端を剣山型にしても良い。
【0025】
陰極21のテーパー部212に埋設する金属体221は2つ以上であることが好ましい。
ランプを水平点灯する場合、ランプ内のガス流の影響によってアークが水平方向に対して持ち上がり、稀に金属体221がアークに曝される可能性がある。この場合、アークの熱によって金属体先端222が鈍化し初期の放電破壊電圧の維持が困難になることが考えられる。そのため、陰極21のテーパー部212に埋設する金属体221は複数あり、またそれぞれ離間して設けられていることが好ましい。例えば、図2のように陰極軸Cに対して対称的に2つ又は4つ金属体221を配置させる、また、図3のようにリング状の金属体221を配設させる、といった構成が好ましい。
【0026】
本発明の第一と第二の実施形態に係るショートアーク型放電ランプをそれぞれ図2と図3に示す。これらの実施形態では、陰極テーパー部212に埋設する金属体221が陰極軸Cに対して平行に形成されている。これにより金属体先端222が陰極先端211や陽極20に近く、また、金属体先端222は陽極先端201と対向配置することで電界集中の影響を強く働かせることができ、本発明の効果が良い。さらに、他の実施形態と比較して金属体221を埋設する凹所を陰極先端から離して形成させることができ、凹所はより低い温度の部位に位置するため、金属体は熱の影響で変形する虞が少なくなる点で有用である。
【0027】
本発明の第三の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの構造を図4に示す。図4(a)は陰極の中心軸を含む陰極テーパー部の断面図、図4(b)は陰極先端側から観察した図である。図4は金属体221がテーパー部の表面から垂直に突出して形成される。そのため、金属体221を埋設するための凹所220はテーパー部212に対して垂直であり、図2に示す第一の実施形態と比較して、金属体先端222は陰極先端211から離れており、トリガーとしての効果が弱まり、金属体の電界集中の影響は弱まり、本発明の効果が弱まる。しかしながら、凹所220の加工をテーパー部212の表面に対して垂直に行うことができ、凹所の加工が容易となり、製造工程の面で有用である。さらに金属体221を埋設する凹所を陰極先端から離して形成させることができ、熱伝導の影響を小さくできる。
【0028】
本発明の第四の実施形態に係るショートアーク型放電ランプの構造を図5に示す。図5(a)は陰極の中心軸を含む陰極テーパー部の断面図、図5(b)は陰極先端側から観察した図である。第四の実施形態は、陰極軸Cに対して直交する方向に陰極21を貫通する穴を設け、貫通穴に金属体221を挿入している。埋設する金属体221の先端部、後端部はテーパー部212から突出しており、また金属体221の先端部222aおよび後端部222bには尖った角部が設けられている。金属体の固定は、金属体221を圧入させる、金属体221と貫通穴の接点を少なくとも一箇所融着させる、などの方法で行う。
また、貫通穴に埋設する金属体は、先端部222aと後端部222bが両方テーパー部212から突出していなくても良く、どちらか片方だけ突出していれば本発明の効果は得られる。
金属体は陰極軸Cに対して直交しており、図2や図4に示す第一と第三の実施形態と比較して金属体先端222は陰極先端211と離れるため、金属体の電界集中の影響は弱まり、第一と第三の実施形態と比較して発明の効果は弱まる。しかしながら第四の実施形態は、陰極テーパー部に形成する凹所の深さ(切削深さ)を調整する必要がなく、貫通穴を設けるだけでよく、製造工程の面で有用である。
また、金属体221の先端部と後端部はそれぞれ陰極軸Cに対して対称位置に突出させることができ、金属体の対称配置を容易に行える、という点で有用である。
【実施例】
【0029】
図2に示した陰極テーパー部から突出して金属体を備えた本発明のショートアーク型放電ランプと図9に示す金属体を備えない従来のショートアーク型放電ランプを用いて、それぞれの放電破壊電圧を測定し、ランプの長時間点灯に伴う放電破壊電圧の変化を調査し、本発明の効果を確認した。
各ランプにはXeガスを封入したキセノンランプを用い、キセノンランプの電極間距離を5mmとし、室温下でのXe封入ガス圧を1.8MPa、ランプ電流を110Aとしてランプを点灯し、放電破壊電圧の変化を調査した。ランプの陰極は直径Φ10mmで長さ15mmの陰極基体に、先端径Φ1.2mmでテーパー角60度のテーパー部が形成され、テーパー部のうち、陰極先端から2mm離れた場所にΦ0.55×深さ約3mmの凹所が4箇所、陰極軸Cの円周上に均等に形成されている。該凹所には直径Φ0.5×長さ3.2mmのタングステン線材を圧入して固定され、このタングステン線材の先端は扁平に加工されている。
【0030】
本発明のランプと従来のランプのランプ点灯時間に伴う放電破壊電圧の測定結果を図6に示す。図6の点灯時間が0の場合はランプ点灯初期の放電破壊電圧を表す。また本測定は点灯初期、300時間点灯時、600時間点灯時に行った。図6の測定結果から、従来品は点灯時間と共に放電破壊電圧は上昇していったが、本発明品は放電破壊電圧の上昇が抑えられていることが確認でき、本発明の効果が実証できた。
【0031】
本発明によってランプ初期の放電破壊電圧を維持することが可能となり、より長寿命のランプが得られる。
【符号の説明】
【0032】
1 ショートアーク型放電ランプ
10 外部リード線
11 口金
20 陽極
21 陰極
211 陰極先端部
212 テーパー部
C 陰極軸、中心軸
220 凹所
221 金属体
222 金属体先端部
222a先端部
222b後端部
223 貫通穴部
250 消耗部
31 トリガーワイヤー
321 異形部
322 異形部先端
323 異形部外縁
50a 発光管部
50b 封止管部
91 ショートアーク型放電ランプ
910 外部リード線
911 口金
920 陽極
921 陰極
931 トリガーワイヤー
950a 発光管部
950b 封止管部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極が発光管の内部で対向配置したショートアーク型放電ランプにおいて、
該陰極は先端に向かうに従って小径となるテーパー部を有し、
該テーパー部には凹所が設けられ、
該凹所には、該テーパー部の表面から突出する金属体が設けられ、
該金属体の先端に角部が少なくとも一つ設けられ、
該金属体の先端と前記陽極の先端との距離が、該陰極と該陽極との距離より離れていることを特徴とするショートアーク型放電ランプ
【請求項2】
前記金属体は、線状の部材であることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ
【請求項3】
前記金属体は、前記陰極の中心軸に対して平行に突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項4】
前記金属体は、前記テーパー部の表面から垂直に突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項5】
前記テーパー部には、前記陰極の中心軸と直交する方向に該陰極を貫通する貫通穴部が設けられ、
前記金属体は、該貫通穴部に挿通し、
前記金属体は、該貫通穴部から突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のショートアーク型放電ランプ
【請求項6】
前記金属体と前記凹所は、前記テーパー部に複数個設けられ、前記陰極の中心軸を中心とする円周上に離間して埋設されていることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載のショートアーク型放電ランプ

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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