説明

ショ糖脂肪酸エステル混合物、これを用いた油脂改質剤及び油脂組成物

【課題】カカオ油脂の多形転移抑制等の油脂結晶抑制効果が従来より向上したショ糖脂肪酸エステル混合物、これを用いた油脂改質剤、及びこのショ糖脂肪酸エステル混合物を含有してなる油脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)炭素数16以上の飽和脂肪酸から選択された1種以上の飽和脂肪酸と、(B)炭素数8〜14の飽和脂肪酸から選択された1種以上の飽和脂肪酸とが、モル比率A:B=50:50〜90:10の割合で配合された脂肪酸からなり、平均エステル化度が6.0以上であるショ糖脂肪酸エステル混合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成脂肪酸及びエステル化度が特定されたショ糖脂肪酸エステル混合物、これを用いた油脂改質剤及び油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ショ糖脂肪酸エステルは、チョコレートやチョコレート複合菓子などの製菓分野、マーガリンやファットスプレッドなどの加工油脂分野、ホイップクリームやコーヒーホワイトナーなどの乳製品分野において油脂の改質剤として従来から利用されている。
【0003】
例えば、構成脂肪酸として炭素数12〜22の飽和脂肪酸と炭素数16〜22の不飽和脂肪酸とを所定の割合で含有する平均置換度(エステル化度)4以上のショ糖脂肪酸エステルが、チョコレートのファットブルームを防止する油脂結晶抑制剤としての効果を有することが開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、エステル化度6〜8のショ糖脂肪酸エステルの割合が40重量%以上であるショ糖脂肪酸エステル混合物が、固体油脂並びに液状油脂の結晶化を抑制する改質剤としての効果を有することが開示されている(特許文献2,3)。
【0005】
さらに、低HLBのショ糖脂肪酸エステルを一般的な植物脂に添加した場合にSFIの変化が少なく、示差走査熱量測定(DSC)からも結晶の成長抑制効果が認められることが報告されている(非特許文献1)。ここで「SFI」とは、各温度での油脂中の固体脂の割合を百分率で表した固体脂指数であり、膨張計によって測定された値が示される(「基準油脂分析法 日本油化学協会編」2.4.19.2−18)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−249452号公報
【特許文献2】特開2004−131524号公報
【特許文献3】特開2004−131525号公報
【非特許文献1】日本食品工業誌学会、第20巻、第5号、1973年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、低HLB値のショ糖脂肪酸エステルは、油脂に添加することで種々の機能を発揮し、製菓分野や加工油脂分野の油脂改質剤として利用されてきた。特に、エステル化度の高いショ糖脂肪酸エステルはカカオ油脂の多形転移抑制にある程度効果があるが、充分満足できる性能には至っておらず、更なる性能向上が要望されていた。
【0008】
本発明は上記に鑑みて、油脂結晶抑制効果、中でもカカオ油脂の多形転移抑制効果が従来より向上した油脂改質剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、平均エステル化度を6.0以上に高め、かつ構成脂肪酸として炭素数16以上の長鎖脂肪酸に炭素数8〜12という比較的短い鎖長の脂肪酸を一定割合の範囲で配合することにより、従来のショ糖脂肪酸エステルには見られなかった性能が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明のショ糖脂肪酸エステル混合物は、上記の課題を解決するために、(A)炭素数16以上の飽和脂肪酸から選択された1種以上の飽和脂肪酸と、(B)炭素数8〜14の飽和脂肪酸から選択された1種以上の飽和脂肪酸とが、モル比率A:B=50:50〜90:10の割合で配合された脂肪酸からなり、平均エステル化度が6.0以上であるものとする。
【0011】
本発明の油脂改質剤は上記本発明のショ糖脂肪酸エステル混合物からなるものとする。
【0012】
さらに、本発明の油脂組成物は上記本発明のショ糖脂肪酸エステル混合物を含有してなるものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のショ糖脂肪酸エステルは、従来使用されてきたエステル化度及び構成脂肪酸からなるショ糖脂肪酸エステルには見られなかった油脂改質性能を有し、特にカカオ油脂の多形転移抑制において優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】油脂改質剤無添加のカカオ油脂のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のショ糖脂肪酸エステル混合物は、(A)炭素数16以上の飽和脂肪酸から選択された1種以上の飽和脂肪酸と、(B)炭素数8〜14の飽和脂肪酸から選択された1種以上の飽和脂肪酸とが所定の割合で配合された脂肪酸をエステル化して得られるものである。エステル化は公知の方法により行えばよい。
【0016】
炭素数16以上の飽和脂肪酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸が挙げられるが、特に好ましくはパルミチン酸、ステアリン酸が用いられる。また、炭素数8〜14の飽和脂肪酸の具体例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸が挙げられる。
【0017】
これらの飽和脂肪酸AとBは、両者のモル比率がA:B=50:50〜90:10となる割合で配合するものとし、好ましくはA:B=70:30〜90:10の割合とする。油脂に添加する乳化剤は、添加する油脂と類似する脂肪酸組成を持つものの効果が高いと考えられることから、炭素数16以上の飽和脂肪酸(A)のモル比が50未満であると脂肪酸鎖長の短いものの割合が多くなり、添加対象の油脂の脂肪酸との親和性が減少し、多形転移抑制効果が低くなる。一方、Aのモル比が90を越える場合は、炭素数8〜14の飽和脂肪酸(B)の配合量が減少するため、多形転移抑制効果が著しく低下する。
【0018】
本発明のショ糖脂肪酸エステル混合物の平均エステル化度は6.0以上とし、好ましくは6.5以上とする。平均エステル化度が6.0未満であると、油脂への溶解度が低下するため多形転移抑制効果が低減する。平均エステル化度は、本明細書では次の計算式により求められる数値を用いる。
【数1】

【0019】
本発明の油脂改質剤は、上記した本発明のショ糖脂肪酸エステル混合物を主成分とするものであり、本発明の目的の範囲内であれば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の油溶性の乳化剤や他の油溶性成分を含んでいてもよい。
【0020】
さらに、本発明の油脂組成物は、上記ショ糖脂肪酸エステル混合物を含有してなるものである。ここで油脂組成物とは、油脂を含有する食品又は食品原料であり、チョコレート等の菓子類、マーガリンやファットスプレッド等の加工油脂のみならず、ホイップクリームやコーヒーホワイトナー等の乳製品類及びそれらの原料油脂も含まれるとする。
【0021】
ショ糖脂肪酸エステル混合物の含有量は、対象物にもよるが、通常は油脂組成物に対し0.05〜5重量%の範囲内である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
〔実施例1〕
攪拌機、温度計、減圧装置、およびDMSO(ジメチルスルフォキサイド)の還流装置を備えた1lフラスコに、DMSO135gを仕込み、90℃まで攪拌しながら、加熱した。その中にショ糖20g(58.5mmol)を添加して溶解させ、系中を9.3kpaまで減圧し、30分間脱水した。
【0024】
系内を常圧にもどして炭酸カリウムを1.4g添加し、再び系内を9.3kpaまで減圧し、10分間脱水した。
【0025】
常圧に戻して、表1に示した構成比の脂肪酸メチル115.3g(430.0mmol)を加えたのち、系内を2kPaまで減圧し、85℃〜130℃まで加熱し、系中の脂肪酸メチルの消費率が95%に達するまで反応させた。脂肪酸メチルの消費率はガスクロマトグラフィーを使用して、脂肪酸メチルを定量することで求めた。
【0026】
反応後、触媒であるアルカリを中和当量の乳酸にて中和し、減圧下DMSOを留去した。MEK(メチルエチルケトン)−10%飽和食塩水を使用し、ショ糖脂肪酸エステルをMEK層に抽出する作業を繰り返し、DMSOを除去した。次いで、MEKを減圧留去し、乾燥することで、ショ糖脂肪酸エステルを得た。
【0027】
〔実施例2〜6、比較例1〜5〕
脂肪酸メチルの構成比率を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様の方法で製造することにより、実施例2〜6、比較例1〜5のショ糖脂肪酸エステルを得た。
【0028】
なお、ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸組成については、下記方法及び条件にてガスクロマトグラフィーにより分析を行った。原理としてはショ糖脂肪酸エステルを加水分解した後、メチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーにより脂肪酸組成を分析した。分析方法は、基準油脂分析試験法(日本油化学会制定) 2.4.1脂肪酸誘導体化法 2.4.1.2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素-メタノール法) 2.4.2脂肪酸組成 2.4.2.2脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)に従った。なお、表1には上記計算式により算出される平均エステル化度を併記した。
【0029】
【表1】

【0030】
カカオ油脂の多形転移抑制能の評価については、次の手法を用いてDSCにてピーク頂点を測定した。すなわち、溶融カカオバター(不二製油(株)製、商品名:ココアバター201)40gに、上記各実施例、比較例の油脂改質剤0.25gを加えて80℃で溶解し、攪拌しながら32℃まで冷却した(混合油脂A)。
【0031】
別にカカオバター10gを80℃で溶融した後、ガラス棒で攪拌しながら32℃まで冷却したところに、シード剤(不二製油(株)製、商品名:チョコシードA)0.25gを加え均一に分散させた(混合油脂B)。混合油脂(A)と(B)を32℃で混合し、ガラス棒で均一になるまで撹拌した。DSC用アルミパンに上記混合油脂約10mgを0.1mgの桁まで正確に量り取り、25℃で一晩テンパリングした。その後、28℃で保存することで、より高融点を持つ結晶型へ多形転移を促進させていき、ピーク頂点の経時変化を測定した(28℃に移した時点を0日とした)。DSCの分析条件は次の通りである。
【0032】
測定機器:SSC5200(セイコーインスツルメンツ(株)製)
温度履歴:10℃→2℃/分で昇温→50℃
【0033】
図1に油脂改質剤無添加の結果を示す。ここで、サンプル調製直後(25℃で一晩テンパリング後)においては32℃付近にピーク頂点を持つシングルピーク(ピークA)を示した。28℃保存により、経時的にピークAは減少し、新たに34℃付近にピーク頂点を持つ吸熱ピーク(ピークB)が徐々に現れた。このDSC吸熱ピークAからピークBへの変化を追跡することにより、油脂改質剤のカカオ油脂の多形転移抑制能について評価を行った。両ピークが認められた場合はピーク型A+Bとして表2に結果を示した。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のショ糖脂肪酸エステルは、チョコレートやチョコレート複合菓子等の製菓分野、マーガリンやファットスプレッド等の加工油脂分野、ホイップクリームやコーヒーホワイトナー等の乳製品分野において用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素数16以上の飽和脂肪酸から選択された1種以上の飽和脂肪酸と、(B)炭素数8〜14の飽和脂肪酸から選択された1種以上の飽和脂肪酸とが、モル比率A:B=50:50〜90:10の割合で配合された脂肪酸からなり、
平均エステル化度が6.0以上である
ショ糖脂肪酸エステル混合物。
【請求項2】
請求項1に記載のショ糖脂肪酸エステル混合物からなる油脂改質剤。
【請求項3】
請求項1に記載のショ糖脂肪酸エステル混合物を含有してなる油脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−72205(P2011−72205A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224452(P2009−224452)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】