説明

シリアル食品及びその製造方法

【課題】植物ステロール類が強化されているにも拘らず、通常のシリアル食品と同様に牛乳等を加えて美味しい食事とすることができるシリアル食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含むシリアル食品。前記複合体を付着させる工程を有するシリアル食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロール類が強化されているにも拘らず、通常のシリアル食品と同様に牛乳等を加えて美味しい食事とすることができるシリアル食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物ステロールやそのエステル体である植物ステロールエステルは、日常的に摂取することにより、血中の総コレステロール及び低密度リポ蛋白質−コレステロール濃度を低下させる機能を有することが知られている。これら植物ステロールや植物ステロールエステルは、植物油脂、大豆、小麦等の食材に含まれているがその含有量は極僅かであるため、これら植物ステロールや植物ステロールエステルを強化して日常的に摂取できるようにした食品の開発が望まれている。
【0003】
一方、シリアル食品は、主に朝食として牛乳等を加えて食されているが、このようなシリアル食品を用いた食事は、サクサクとしたシリアル粒と牛乳等が適度になじんだ食べ易くて好ましい食感と、香ばしい風味を有していて大変美味しい食事である。更に、穀物由来の炭水化物、食物繊維、ビタミン、ミネラル等の他、牛乳等の栄養も摂取できる栄養バランスに優れた食事でもある。したがって、シリアル食品に、上述の植物ステロールや植物ステロールエステルを添加すれば、これらを日常的に美味しく摂取できる上に、バランスのよい栄養も同時に得られて好ましい。
【0004】
このようなシリアル食品に関し、特表2006−502724号公報(特許文献1)には、植物ステロールエステルを特定量含むシリアル食品が提案され、当該シリアル食品は、牛乳等を加えた後の「ソーキング(saking)」が低減される、具体的には、牛乳等を加えた際にシリアル粒がパリパリ感を失い難いことが記載されている。しかしながら、本発明者によると、このような植物ステロールエステルを含むシリアル食品に牛乳を加えた食事は、シリアル粒が硬い違和感のある食感であり牛乳等ともなじみ難く、更に、シリアル特有の香ばしい風味も損なわれていて美味しさの点から充分に満足できるものではなかった。
【0005】
そこで本発明者は、植物ステロールエステルに換えて植物ステロールを用いることを試みたところ、このような植物ステロールを含むシリアル食品に牛乳を加えた食事は、上述のように植物ステロールエステルを含む場合に比べてシリアル食品特有の食感や風味が損なわれ難い傾向は見られたものの、依然として充分に満足できるものではなく、更に、スプーン等でかき混ぜると植物ステロールの一部が牛乳表面に浮き上がって外観を損なう場合があった。
【0006】
【特許文献1】特表2006−502724号公報
【特許文献2】WO2005/041692
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、植物ステロール類が強化されているにも拘らず、通常のシリアル食品と同様に牛乳等を加えて美味しい食事とすることができるシリアル食品及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含むシリアル食品は、意外にも通常のシリアル食品と同様に牛乳等を加えて美味しい食事とすることができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含むシリアル食品、
(2) 前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である(1)記載のシリアル食品、
(3) 前記複合体の含有量が、製品に対し乾物換算で0.01〜10%である(1)又は(2)記載のシリアル食品、
(4) 植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を付着させる工程を有するシリアル食品の製造方法、
(5) 前記複合体を水系媒体に分散して付着させる(4)記載のシリアル食品の製造方法、
である。
【0010】
なお、本出願人は、既に植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を出願している(WO2005/041692:特許文献2)。しかしながら、当該出願には、前記複合体をシリアル食品に添加することはいっさい検討されていない。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリアル食品に牛乳等を加えた食事は、穀物や牛乳等に由来するバランスのよい栄養が得られる上に、植物ステロール類が強化されていることから、血中のコレステロール濃度を低下させる効果も期待できて栄養の点から大変好ましい食事となる。しかも、植物ステロール類を特定の複合体として含むことから、通常のシリアル食品と同様に美味しい食事とすることができ日常的に摂取することが可能となる。したがって、本発明により、シリアル食品の新たな需要を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のシリアル食品を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0013】
本発明のシリアル食品とは、一般的に朝食シリアルと称される食品であって、とうもろこし、米、玄米、小麦、大麦、ライ麦、燕麦、蕎麦、粟、稗等の穀類から得られる穀類原料を圧扁、成型、膨張、焙焼等により加工したシリアル粒を主原料とし、牛乳等の液状食品を加えて、加熱し、又は加熱しないで食べる食品をいう(食品流通局長通達(平成2年3月30日)2食流第1071号「朝食シリアルの品質表示ガイドライン」参照)。なお、本発明のシリアル食品は、上述のようにシリアル粒を主原料とするものであるが、具体的には、シリアル粒の含有量は、製品に対して、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。
【0014】
本発明のシリアル食品は、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含むことを特徴とする。前記構成を有する本発明のシリアル食品は、植物ステロール類が強化されているにも拘らず、通常のシリアル食品と同様に牛乳等を加えて美味しい食事とすることができる。これに対して、後述の比較例に示すように、植物ステロール類をそのまま含むシリアル食品に牛乳を加えた食事は、シリアル食品特有の好ましい食感や風味が損なわれることに加え、スプーンでかき混ぜると、植物ステロールの一部がシリアル粒から分離して牛乳表面に浮き上がって外観が損なわれてしまう場合があり美味しい食事とすることができない。また、植物ステロールエステルを含むシリアル食品に牛乳を加えた食事も、シリアル食品特有の好ましい食感や風味が損なわれてしまい美味しい食事とすることができない。
【0015】
本発明の卵黄リポ蛋白質は、卵黄蛋白質と、親水部分及び疎水部分を有するリン脂質、及びトリアシルグリセロール、コレステロール等の中性脂質とからなる複合体である。当該複合体は、蛋白質やリン脂質の親水部分を外側にし、疎水部分を内側にして、中性脂質を包んだ構造をしている。卵黄リポ蛋白質は、卵黄の主成分であって、卵黄固形分中の約80%を占める。したがって、本発明の卵黄リポ蛋白質としては、当該成分を主成分とした卵黄を用いるとよく、食用として一般的に用いている卵黄であれば特に限定するものではない。例えば、鶏卵を割卵し卵白液と分離して得られた生卵黄をはじめ、当該生卵黄に殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼA、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもの等が挙げられる。また、本発明では、鶏卵を割卵して得られる全卵、あるいは卵黄と卵白とを任意の割合で混合したもの、あるいはこれらに上記処理を施したもの等を用いてもよい。
【0016】
一方、本発明の植物ステロール類とは、コレステロール又は当該飽和型であるコレスタノールに類似した構造をもつ植物の脂溶性画分より得られる植物ステロール又は植物スタノール、あるいはこれらの構成成分のことであり、植物ステロール類は、植物の脂溶性画分に合計で数%存在する。また、市販の植物ステロール又は植物スタノールは、融点が約140℃前後で、常温で固体であり、これらの主な構成成分としては、例えば、β−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、ブラシカスタノール等が挙げられる。また、植物スタノールについては、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものも使用することができる。なお、本発明において植物ステロール類は、いわゆる遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0017】
本発明に用いる植物ステロール類は、市販されている粉体あるいはフレーク状のものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超える粉体あるいはフレーク状の植物ステロール類を用いる場合には、卵黄と攪拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー:プライミクス(株)製等)を用いて植物ステロール類の粒子を小さくしつつ攪拌混合を行うことが好ましい。これにより、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体が形成され易くなり、また、当該複合体をシリアル食品に含有させたときにより食感に影響を与え難くすることができる。
【0018】
本発明の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質を主成分とする卵黄とを、好ましくは10μm以下の粉体状の植物ステロール類と卵黄とを水系中で攪拌混合することにより得られる。具体的には、工業的規模での攪拌混合のし易さを考慮し、卵黄リポ蛋白質として、卵黄を水系媒体で適宜希釈した卵黄希釈液を使用し、当該卵黄希釈液と植物ステロール類とを攪拌混合して製造することが好ましい。前記水系媒体としては、水分が90%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に卵白液、調味液等が挙げられる。また、前記卵黄希釈液の濃度としては、その後、添加する植物ステロール類の配合量にもよるが、卵黄固形分として0.01〜50%の濃度が好ましく、攪拌混合時の温度は、常温(20℃)でもよいが、45〜55℃に加温しておくと複合体と攪拌混合し易く好ましい。攪拌混合は、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス(株)製)等の均質機を用いて、全体が均一になるまで行うとよい。また、上述の方法で得られたものは、複合体が水系媒体に分散したものであるが、噴霧乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を施して乾燥複合体としてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で、複合体に他の原料を配合してもよい。
【0019】
本発明で用いる複合体は、当該原料である植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部であることが好ましい。当該構成比は、卵黄固形分中に卵黄リポ蛋白質は約8割存在するから、卵黄固形分1部に対して植物ステロール類4〜185部に相当する。後述に示すとおり水分散性を有する複合体は、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類が前記範囲で形成していることから、植物ステロールが前記範囲より少ないと複合体を形成できなかった卵黄リポ蛋白質が残存してシリアル食品の風味が卵黄風味により損なわれる場合があり、前記範囲より多いと植物ステロール類が複合体を形成し難くなって本発明の効果が得られ難くなる。
【0020】
シリアル食品の複合体の含有量は、植物ステロールの1日の摂取量が1g以上であれば血中のコレステロール濃度が低下することやシリアル食品の1食分の摂取量等を考慮して決定すればよいが、あまり多すぎても血中のコレステロール濃度を低下させる効果がそれに比例して増大するわけではなく、シリアル食品を用いた食事の美味しさが損なわれ易くなることから、製品に対して乾物換算で0.01〜10%とすることが好ましく、0.1〜5%とすることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明のシリアル食品はシリアル粒を主原料とした食品であるが、その他の副原料としては、本発明の効果を損なわない範囲で一般的なシリアル食品に含む原料を含んでいてもよい。このような原料としては、具体的には、例えば、人参、ホウレンソウ等の野菜類、リンゴ、レーズン、イチゴ、パパイヤ等の果実類、アーモンド、松の実、クルミ等のナッツ類、大豆、インゲンマメ等の豆類、カカオマス、カカオバター等のカカオ類、ショ糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、デキストリン、還元デキストリン、コーンシロップ、メープルシロップ、はちみつ等の糖類、菜種油、卵黄油、魚油等の油脂類、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ナイアシン等のビタミン類、無機鉄、ヘム鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、ヨウ素等のミネラル類、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、着色料、香料等が挙げられる。
【0022】
本発明のシリアル食品は、上述した植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含有させる他は、従来の一般的なシリアル食品の製造方法により製造することができる。ここで、複合体をシリアル食品に含有させるには、工業的規模での製造のし易さを考慮し、複合体を付着させる工程により含有させる、つまり、製造工程中又は当該工程完了後のシリアル粒の表面に前記複合体を付着させることにより含有させることが好ましい。本発明の複合体は後述のように親水性の性質を有するためか、製造工程中又は当該工程完了後のシリアル粒の表面に容易に付着させることができる。
【0023】
複合体を付着させる方法としては、まず、上述した乾燥複合体を付着させる方法が挙げられる。具体的には、乾燥複合体と、製造工程中又は当該工程完了後のシリアル粒とを攪拌混合処理する等して付着させればよい。乾燥複合体は、必要に応じて糖類やビタミン類等の粉末原料と混合した後付着させてもよい。次に、複合体を付着させる方法としては、複合体を水系媒体に分散して付着させる方法、つまり、複合体の分散液を付着させる方法が挙げられる。具体的には、複合体の調製過程で発生する水系媒体に分散した複合体をそのまま、あるいは乾燥複合体を水系媒体と混合したものを製造工程中又は当該工程完了後のシリアル粒に、噴霧処理、混合処理、浸漬処理等により付着させればよい。前記水系媒体としては、水分が50%以上のものが好ましく、例えば、清水の他に糖液等であってもよい。また、複合体が水系媒体に分散した分散液としては、付着させる際の作業性や効率を考慮し、複合体含有量が前記分散液に対して1〜50%となるようにすることが好ましい。本発明においては、前者の乾燥複合体を付着させる方法よりも、後者の複合体を水系媒体に分散して付着させる方法を採用すると、複合体を製造工程中又は当該工程完了後のシリアル粒により均一に付着させ易く好ましい。
【0024】
以上のようにして製造した本発明のシリアル食品は、牛乳、果汁、ジュース、ヨーグルト、水等の液状食品を加えて加熱して、あるいは、加熱しないで食することができる。このような本発明のシリアル食品に牛乳等を加えた食事は、植物ステロール類が強化されているにも拘らず、サクサクとしたシリアル粒と牛乳等が適度になじんだ食べ易くて好ましい食感と、香ばしい風味を有していて大変美味しいものとなる。また、スプーンでかき混ぜても牛乳表面に植物ステロールが浮かび上がって外観が損なわれることがない。
【0025】
このように本発明のシリアル食品が、植物ステロール類が強化されているにも拘らず、通常のシリアル食品と同様に牛乳等を加えて美味しい食事とすることができる理由は定かではないが、以下のように推察される。まず、植物ステロールは、水への分散処理を施しても、その後、水面に浮いてしまう性質を有するが、本発明で用いる複合体は後述に示すとおり水に分散する性質を有するため、複合体は両親媒性を有する卵黄リポ蛋白質が当該疎水部分を疎水物である植物ステロール類の表面側に、親水部分を外側に向けて植物ステロール類の表面に付着した状態であり親水性の性質を有すると推定される。牛乳等の液状食品を加えて食するシリアル食品においては、上述のような親水性の性質を有する複合体を含有させるほうが、親油性の植物ステロールや植物ステロールエステルを含有させるよりも、シリアル特有の食感や風味を損ない難く、美味しい食事とすることができるのではないかと推察される。また、スプーン等で掻き混ぜられて複合体がシリアル粒から分離したとしても、複合体は水に分散する性質を有するため、牛乳等の表面に浮き上がり外観を損なったりすることがないのではないかと推察される。
【0026】
以下、本発明で用いる植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体と、これを含む本発明のシリアル食品及びその製造方法について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0027】
[調製例1]:複合体の構成成分の解析及び複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
まず、卵黄液5g(卵黄固形分2.5g、卵黄固形分中の卵黄リポ蛋白質約2g)に清水95gを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpmで1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した。次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)2.5gを添加し、さらに10000rpmで5分間攪拌し、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質とから形成された複合体の分散液を得た(調製例1−1)。
【0028】
得られた分散液1gを取り、0.9%食塩水4gを加え、真空乾燥機(東京理科器械社製、VOS−450D)で真空度を10mmHgにして1分間脱気し、遠心分離器(国産遠心分離器社製、モデルH−108ND)で3000rpmで15分間遠心分離を行い、沈澱と上澄みとを分離した。この上澄みを0.45μmのフィルターで濾過し、さらに0.2μmのフィルターで濾過し、複合体と、複合体を形成していない植物ステロールとを除去した。
【0029】
この濾液の吸光度(O.D.)を、分光光度計(日立製作所製、U−2010)を用いて、0.9%食塩水を対照とし、280nm(蛋白質中の芳香環をもつアミノ酸の吸収)で測定し、濾液中の蛋白質の量を測定した。
【0030】
植物ステロールの添加量を表1のように変え、同様に吸光度を測定した(調製例1−2〜調製例1−8)。この結果を表1に示す。
【0031】
また、調製例1−1の濾液と、調製例1−6の濾液については、更に440nmの吸光度を測定した。ここで、440nmは、卵黄リポ蛋白質中に含まれる油溶性の色素(カロチン)の吸収波長である。この結果を表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以下であると、表1より、植物ステロールの割合が増えるに伴い、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度が小さくなっており、蛋白質あるいはアミノ酸の含量が減少することが分かる。また、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−1の濾液は調製例1−6に比べ吸光度が優位に高く、油脂含量が明らかに多いことが分かる。一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であると、表1より、濾液中の蛋白質あるいはアミノ酸の含量の指標となる280nmの吸光度は略一定を示し、表2より、濾液中の油脂含量の指標となる440nmの吸光度において、調製例1−6の濾液は調製例1−1に比べ吸光度が優位に低く、油脂含量が明らかに少ないことが分かる。
【0035】
以上の結果より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部以上であるものの分散液には、複合体以外に、卵黄リポ蛋白質でない遊離の蛋白質あるいはアミノ酸が存在し、一方、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが5部より少ないものの分散液には、前記遊離の蛋白質あるいはアミノ酸に加え、複合体を形成しなかった卵黄リポ蛋白質が存在しているものと推定される。したがって、卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、植物ステロール類が5部以上必要であることが分かる。
【0036】
[調製例2]:複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比
鶏卵を工業的に割卵して得られた卵黄液(固形分45%)と清水の量と植物ステロールの量を表3の通りに変更して、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を調製し、この分散液の分散性から、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との好ましい構成比を検討した。
【0037】
すなわち、鶏卵を割卵して取り出した卵黄液(固形分45%)に清水を加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、45℃に加温し、次に5000rpmで攪拌しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)を除々に添加し、添加し終えたところで、さらに10000rpmで攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。
【0038】
また、分散液の分散性に関しては、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液0.5gを試験管(内径1.6cm、高さ17.5cm)にとり、0.9%食塩水10mLで希釈し、試験管ミキサー(IWAKI GLASS MODEL−TM−151)で10秒間撹拌することにより振盪し、その後1時間室温で静置し、さらに真空乾燥機(東京理化器械社製、VOS−450D)に入れ、真空度を10mmHg以下にして室温(20℃)で脱気を行い、脱気後に浮上物が見られない場合を○、浮上物が見られた場合を×と判定した。これらの結果を表3に示す。
【0039】
なお、植物ステロールを加熱溶解し、冷却し、比重の異なるエタノール液に浸けて浮き沈みによりその比重を求めたところ、0.98であったことから、上述の分散性の試験での浮上物は植物ステロールであると考えられる。
【0040】
【表3】

【0041】
表3より、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロールが232部以下であると、複合体に良好な水分散性を付与できることが分かる。
【0042】
調製例1及び調製例2の結果より、複合体が良好な水分散性を有し、しかも卵黄リポ蛋白質1部を余すことなく複合体の形成に使用するためには、複合体の構成比が卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部の範囲であることが分かる。
【0043】
[調製例3]
清水17.5kgに殺菌卵黄(固形分45%、キユーピー(株)製)0.5kgを加え、攪拌機(日音医理科器機製作所社製、ヒスコトロン)で2000rpm、1分間攪拌して卵黄希釈液を調製した後、50℃に加温し、次に5000rpmで攪拌及び真空度350mmHgで脱気しながら植物ステロール(調製例1と同じもの)2kgを除々に添加し、添加し終えたところで、さらに同回転数で30分間攪拌して植物ステロールと卵黄リポ蛋白質の複合体の分散液を得た。得られた複合体の分散液を噴霧乾燥機を用いて、送風温度170℃、排風温度70〜75℃の条件で乾燥し、乾燥複合体(殺菌卵黄使用)を得た。なお、得られた分散液中の複合体の構成比は、卵黄固形分1部に対し植物ステロール8.9部であり、卵黄リポ蛋白質1部に対し植物ステロール11.1部である。また、複合体の植物ステロール含有量は92%である。
【0044】
[実施例1]
まず、コーンシロップ(固形分40%)75kg及び調製例3で得られた乾燥複合体25kgを混合して複合体の分散液を製した。次に、得られた複合体の分散液をコーンフレークに付着させた。つまり、得られた複合体の分散液2kgとコーンフレーク20kgとを回転式ドラムに入れて混合して、コーンフレーク表面に複合体の分散液を付着させた。続いて、この複合体の分散液を付着させたコーンフレークを120℃のオーブンに入れて乾燥させ、これを本発明のシリアル食品とした。得られたシリアル食品には、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が、製品に対し乾物換算で2%含まれている。
【0045】
得られたシリアル食品50gを皿に入れ、これに牛乳200gを加えて食したところ、通常のシリアル食品と同様に、サクサクとしたシリアル粒と牛乳が適度になじんだ食べ易くて好ましい食感と、香ばしい風味を有していて大変美味しい食事であった。また、スプーンでかき混ぜても牛乳表面に植物ステロールが浮かび上がって外観が損なわれることがなかった。
【0046】
[実施例2]
まず、ビタミンB0.5g、ビタミンB0.5g、ナイアシン4g、調製例3で得られた乾燥複合体2kg及び清水8kgを混合して複合体の分散液を製した。次に、得られた複合体の分散液を膨化玄米に付着させた。つまり、得られた複合体の分散液2kgを噴霧装置により膨化玄米20kgに噴霧して、膨化玄米表面に複合体の分散液を付着させた。続いて、この複合体の分散液を付着させた膨化玄米を120℃のオーブンに入れて乾燥させた。更に、得られた複合体を付着させた膨化玄米2kgと、玄米フレーク1kgと、松の実0.1kgとを混合して本発明のシリアル食品とした。得られたシリアル食品には、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が、製品に対し乾物換算で1%含まれている。
【0047】
得られたシリアル食品を実施例1と同様に牛乳を加えて食したところ、通常のシリアル食品と同様に、サクサクとしたシリアル粒と牛乳が適度になじんだ食べ易くて好ましい食感と、香ばしい風味を有していて大変美味しい食事であった。また、スプーンでかき混ぜても牛乳表面に植物ステロールが浮かび上がって外観が損なわれることがなかった。
【0048】
[実施例3]
まず、粉糖30kgと調製例3で得られた乾燥複合体20kgを混合して植物ステロールの粉体混合物を製した。次に、得られた粉体混合物を予め清水を噴霧して表面を濡らしたコーンフレークに付着させた。つまり、得られた粉体混合物0.1kgと予め清水0.5kgを噴霧したコーンフレーク10kgとを回転式ドラムに入れて混合し、粉体混合物をコーンフレーク表面に付着させた。
続いて、この複合体の粉体混合物を付着させたコーンフレークを120℃のオーブンに入れて乾燥させ、これを本発明のシリアル食品とした。得られたシリアル食品には、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が、シリアル食品に対し乾物換算で0.4%含まれている。
【0049】
得られたシリアル食品を実施例1と同様に牛乳を加えて食したところ、通常のシリアル食品と同様に、サクサクとしたシリアル粒と牛乳が適度になじんだ食べ易くて好ましい食感と、香ばしい風味を有していて大変美味しい食事であった。また、スプーンでかき混ぜても牛乳表面に植物ステロールが浮かび上がって外観が損なわれることがなかった。
【0050】
[実施例4]
まず、下記の原料を用意した。
<配合割合>
玄米フレーク 200g
ブランフレーク 200g
コーンフレーク 200g
レーズン 100g
乾燥パパイヤ 100g
クルミ 50g
ショ糖 70g
乾燥複合体(調製例3) 20g
清水 60g
―――――――――――――――
合計1000g
【0051】
次に、調製例3で得られた乾燥複合体、ショ糖及び清水を混合して、複合体の分散液を製した。次に、得られた複合体の分散液を、玄米フレーク、ブランフレーク、コーンフレーク、レーズン、乾燥パパイヤ及びクルミに付着させた。つまり、得られた複合体の分散液、玄米フレーク、ブランフレーク、コーンフレーク、レーズン、乾燥パパイヤ及びクルミを混合装置により混合して、複合体の分散液をシリアル粒、果実類及びナッツ類の表面に付着させた。続いて、得られた混合物を120℃のオーブンに入れて乾燥させた後、目開き1cmのフルイにかけて、本発明のシリアル食品とした。得られたシリアル食品には、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が、シリアル食品に対し乾物換算で2%含まれている。
【0052】
得られたシリアル食品を実施例1と同様に牛乳を加えて食したところ、通常のシリアル食品と同様に、サクサクとしたシリアル粒と牛乳が適度になじんだ食べ易くて好ましい食感と、香ばしい風味を有していて大変美味しい食事であった。また、スプーンでかき混ぜても牛乳表面に植物ステロールが浮かび上がって外観が損なわれることがなかった。
【0053】
[実施例5]
まず、常法により、コーングリッツ10kgに、糖類及び食塩から調製した調味液を加えて圧力釜で加熱調理した後冷却した。次に、得られたコーングリッツの加熱調理物に、コーンシロップ(固形分40%)と調製例3で得られた乾燥複合体とを混合して製した複合体の分散液を付着させた。つまり、得られたコーングリッツの加熱調理物に、コーンシロップ80部と調製例3で得られた乾燥複合体20部とを混合して製した複合体の分散液1kgを加えて混合し、コーングリッツの加熱調理物表面に複合体の分散液を付着させた。続いて、この複合体の分散液を付着させたコーングリッツの加熱調理物を熱風乾燥機で水分20%まで乾燥させた後、圧扁してフレーク状とし、更に、オーブンで水分5%まで乾燥させて、これを本発明のシリアル食品とした。得られたシリアル食品には、植物ステロールと卵黄リポ蛋白質との複合体が、製品に対し乾物換算で2%含まれている。
【0054】
得られたシリアル食品を実施例1と同様に牛乳を加えて食したところ、通常のシリアル食品と同様に、サクサクとしたシリアル粒と牛乳が適度になじんだ食べ易くて好ましい食感と、香ばしい風味を有していて大変美味しい食事であった。また、スプーンでかき混ぜても牛乳表面に植物ステロールが浮かび上がって外観が損なわれることがなかった。
【0055】
[比較例1]
実施例1のシリアル食品で使用した調整例4の乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例1と同じ配合と製法でシリアル食品を製した。つまり、コーンシロップと植物ステロールを混合した植物ステロールの分散液とコーンフレークとを混合して、コーンフレーク表面に植物ステロールの分散液を付着させ、続いて、これをオーブンに入れて乾燥させてシリアル食品とした。
【0056】
得られたシリアル食品を実施例1と同様に牛乳を加えて食したところ、シリアル食品特有の好ましい食感や風味がやや損なわれており好ましくなかった。更に、スプーンでかき混ぜると、植物ステロールの一部がシリアル粒から分離して牛乳表面に浮き上がり、外観を損なって好ましくなかった。
【0057】
[比較例2]
実施例5のシリアル食品で使用した調整例4の乾燥複合体に換えて植物ステロール(調製例1と同じもの)を用いた他は、実施例5と同じ配合と製法でシリアル食品を製した。つまり、まず、コーングリッツに、糖類及び食塩から調製した調味液を加えて圧力釜で加熱した後冷却した。次に、得られたコーングリッツの加熱調理物に、コーンシロップと植物ステロールとを混合して製した分散液を加えて混合し、コーングリッツの加熱調理物表面に植物ステロールの分散液を付着させた。続いて、この植物ステロールの分散液を付着させたコーングリッツの加熱調理物を熱風乾燥機で乾燥させた後、圧扁してフレーク状とし、更に、オーブンで乾燥させてシリアル食品とした。
【0058】
得られたシリアル食品を実施例1と同様に牛乳を加えて食したところ、シリアル食品特有の好ましい食感や風味がやや損なわれており好ましくなかった。更に、スプーンでかき混ぜると、植物ステロールの一部がシリアル粒から分離して牛乳表面に浮き上がり、外観を損なって好ましくなかった。
【0059】
[比較例3]
実施例1のシリアル食品で使用した調整例4の乾燥複合体に換えて植物ステロールエステルを用いた他は、実施例1と同じ配合と製法でシリアル食品を製した。つまり、コーンシロップと植物ステロールエステルを混合した植物ステロールエステルの分散液とコーンフレークとを混合して、コーンフレーク表面に植物ステロールエステルの分散液を付着させ、続いて、これをオーブンに入れて乾燥させてシリアル食品とした。
【0060】
得られたシリアル食品を実施例1と同様に牛乳を加えて食したところ、シリアル粒が牛乳等となじまずシリアル粒が過度に硬い違和感のある食感であり、また、シリアル食品特有の香ばしい風味も有していおらず好ましくないものであった。
【0061】
以上より、本発明の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含む実施例1乃至5のシリアル食品に牛乳を加えた食事は、通常のシリアル食品と同様に、サクサクとしたシリアル粒と牛乳が適度になじんだ食べ易くて好ましい食感と香ばしい風味を有していて大変美味しい食事となることが理解できる。これに対し、植物ステロール類をそのまま含む比較例1及び2のシリアル食品に牛乳を加えた食事は、シリアル食品特有の好ましい食感や風味が損なわれることに加え、スプーンでかき混ぜると植物ステロールの一部がシリアル粒から分離して牛乳表面に浮き上がり外観が損なわれてしまい好ましくなく、また、植物ステロールエステルを含む比較例3のシリアル食品に牛乳を加えた食事は、シリアル食品特有の好ましい食感や風味が損なわれて好ましくなかった。なお、ここでは示していないが、複合体の原料である植物ステロールを植物スタノールに変更した場合も同様な結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を含むことを特徴とするシリアル食品。
【請求項2】
前記複合体の植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との構成比が、卵黄リポ蛋白質1部に対して植物ステロール類5〜232部である請求項1記載のシリアル食品。
【請求項3】
前記複合体の含有量が、製品に対し乾物換算で0.01〜10%である請求項1又は2記載のシリアル食品。
【請求項4】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を付着させる工程を有することを特徴とするシリアル食品の製造方法。
【請求項5】
前記複合体を水系媒体に分散して付着させる請求項4記載のシリアル食品の製造方法。

【公開番号】特開2007−244226(P2007−244226A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68939(P2006−68939)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】