説明

シリカエアロゲルの改良

本発明はシリカエアロゾルおよびその調製方法に関する。もみ殻ににはシリカが大変豊富に含まれており、その灰は最大92〜97%の非晶質のシリカを有する。もみ殻の灰は空気過剰の状態で白色の灰になるまで加熱板上で燃やすことで得られる。もみ殻の灰に含まれるシリカの活性は非常に高く、シリカエアロゲルの原料として非常に潜在性が高いことがわかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリカエアロゲルおよびその調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルとは、固相を損なうことなく液相を空気に置き換え、実質的にはゲルと同じ形だが容積が若干小さくなった格子構造を有するゲルである。シリカエアロゲルは、非晶質シリカ(SiO2)から成る格子構造を有する。
【0003】
シリカエアロゲルは非常に軽い材料であり、0.025 g/cm3という低い比重、従来のいずれの固形材料よりも低い熱伝導率、広い表面積、高多孔性を有する。そのため様々な応用が可能である。比重の非常に低いエアロゲルが従来より使用されており、例えば宇宙船の断熱材といった航空宇宙分野で応用されてきた。特に、火星探査計画で使用した月面自動車の断熱材や、高速の宇宙塵を捕らえるためのチェレンコフ検出器としての使用が挙げられ、チェレンコフ検出器は多孔質材を容易に貫通する高速の宇宙塵を徐々に減速、「軟着陸」させ、透明なエアロゲル内に捕らえた粒子をその状態で調べることも可能である。エアロゲルは触媒や担体として用いられており、その表面積と多孔性により非常に有用性が高く、特に断熱/畜熱システムにおいて有用である。もう少し低コストでありさえすれば、エアロゲルが応用できる分野は多くなるが、現時点ではその調製と原材料のせいでコストが高くついている。
【0004】
最初に市販されたエアロゲルは、硫酸をケイ酸ナトリウム溶液に加え、シリカ含有率が9%のゲル状になるまで30回濃縮させて生成したものであった。ゲルを数時間熟成させ離漿現象を利用して強度を上げたあと、ゲルをロールクラッシャーから洗浄槽に送り、ゲルを水に通してゲル調製反応中に生成された硫酸ナトリウムを除去する。十分に洗浄したあと排水して余分な水分をきり、アルコールに浸漬させてゲル中の水分をアルコールと置き換える。適当な時間浸漬した後、このアルコールを捨てて新しいアルコールと取り替える。このアルコール洗浄工程を数回繰り返す。
【0005】
ゲル中の水分が実質的にアルコールと入れ替わった後、余分なアルコールを切ってオートクレーブに入れ、圧力をアルコールの臨界圧より高く維持した状態で、臨界温度より高い温度まで緩やかに加熱していく。目標の温度に達したら大気圧まで減圧し、最終的にはオートクレーブ内圧力を短時間の間、大気圧より若干低いレベルまで脱気する。
【0006】
この製造方法を成功させるには、ゲルの液相の臨界温度や臨界圧より高い温度・圧力までゲルを加熱することが重要である。これによりゲルの格子構造を損なうことなく液相が除去され、軽量のエアロゲルではなく密度の高いキセロゲルが形成される。
【0007】
この製造方法は、極めて安価な反応物を使用するものの、洗浄および複数回にわたる溶媒交換工程を要するため非常に時間がかかる。
【0008】
製造時間を短縮しようとする試行錯誤の中、シリカエアロゲルがテトラメチルオルトシリケート(TMOS)を原料として製造できることが判明した。この方法では、TMOSを酸性または塩基性触媒の存在下、通常はエタノール中で加水分解する。熟成後、残りの水分を全てアルコールで置き換えて除去し、シリカゲルを形成する。その後、前述した超臨界乾燥法を用いてゲルを乾燥させる。
【0009】
TMOSはその毒性により使用が危険な物質であるため、現在ではもっと安全に使用できるテトラエチルオルトシリケートやその他のテトラアルキルオルトシリケートが代わりに使用されている。
【0010】
しかし、テトラアルキルオルトシリケートは非常に高価であり、それを原料として製造するシリカエアロゲルも同様に高価となり、その用途は先端技術方面に限られていた。シリカエアロゲルをより安価に製造出来れば、その応用範囲ははるかに広がり得る。
【0011】
高温処理の主な欠点はその過酷な温度条件であり、溶液−ゾル−ゲル状のサンプルの熟成を加速させてしまう。このため、臨界点乾燥工程に先立って槽とゲルとを液体二酸化炭素で洗浄し、ゲル中のアルコール分を一般的に使用されるアルコールよりも臨界温度がずっと低い二酸化炭素で置き換えることが提案されていた。
【発明の開示】
【0012】
米を栽培している地域において、もみ殻は大量にでる廃棄物である。数パーセントは様々な用途に利用されるものの、そのほとんどは野焼きにより廃棄され、当然、これは環境という面から見て好ましくない。もみ殻にはシリカが豊富に含まれておりその灰のシリカ含有率は96%に上るものの、今までその特徴は十分に活用されていなかった。もみ殻の灰に含まれるシリカの活性は非常に高く、シリカエアロゲルの原料として非常に有用性が高いことがわかった。
【0013】
従って、本発明はケイ酸ナトリウムを用いてシリカエアロゲルを製造する方法を提供するものであり、もみ殻の灰をシリカの原料として使用する。もみ殻の灰は、もみ殻を空気過剰の状態で白色の灰になるまで加熱板上で燃やすことで得られる。
【0014】
本発明では、もみ殻の灰を水酸化ナトリウム水溶液に、好ましくはNa2O:SiO2比を1:3から1:4、さらに好ましくは1:3.33で溶解して好ましくは1〜16重量%のSiOを含有するケイ酸ナトリウム溶液とし、得られた水ガラス溶液に濃硫酸を加えてケイ酸ナトリウムをシリカに転化してシリカヒドロゲルを生成し、ヒドロゲルを好ましくは最大40日間熟成させてゲル構造を形成させ、C〜Cアルコール、好ましくはメタノールまたはエタノールで水分を除去してアルコゲルを生成し、得られたアルコゲルのアルコール分を任意で二酸化炭素と置き換えた後、超臨界乾燥させることでシリカエアロゲルを形成する。
【0015】
本発明の方法により、平均孔径が2〜50nm、通常は約20nmであり、BET表面積が600〜800m2g-1であるメソ多孔性エアロゲルが調製される。その比重は0.03〜0.07g/cm3であり、その総体積の最大97%を細孔が占める。微細孔の占める体積がこのように大きいため、熱伝導率が0.09〜0.1Wm-1K-1と低い。この値はテトラエチルオルトシリケートを原料として用いた場合のエアロゲルの値と同程度であるが、原料が安価なため本発明のエアロゲルの製造コストははるかに低い。
【0016】
ヒドロゲル中の水分は、還流系において沸騰しているアルコールの上方の蒸気中にサンプルを吊り下げ、水分を蒸発させながらソックスレー抽出で除去するのが好ましい。
【0017】
サーモカップルと温度制御装置とを備えたオートクレーブ内にアルコゲルと追加のアルコールとを入れ、オートクレーブ内の温度を緩やかに臨界温度・臨界圧まで上げて超臨界抽出するのが好ましい。一定の時間保持した後、慎重に圧力を逃がしてオートクレーブ内圧力を大気圧にまで緩やかに下げ、アルコール蒸気を放出する。その後、温度を室温にまで緩やかに下げる。オートクレーブ内の温度は、臨界温度に達するまでは、例えば50℃/hrの割合で上げていってもよく、アルコールは1時間半かけて排気する。温度は、例えば、12時間かけて下げる。追加のアルコール量は、臨界圧に達した時点でオートクレーブに十分な量が残っているようなものでなくてはならないが、安全上の理由からそれを超える量であってはならない。
【0018】
このようにして得られたエアロゲルは親水性でありその表面に水酸基を有するが、これらの水酸基をアルコキシ基で置換することで疎水性にすることもでき、加熱したエアロゲルサンプルにメタノール蒸気を通すことで達成される。このメチル化反応は閉鎖系で行うのが好ましく、沸騰しているメタノールの入ったフラスコとコンデンサーとの間をつなぐ、外部加熱炉の管内にサンプルを置く。コンデンサーとフラスコとは循環するように管で繋がっている。加熱炉の温度は250℃前後である。メチル化の前後に、約10−5Torrの減圧下、約100℃で最低でも15時間、サンプルを脱ガスするのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を以下の実施例を用いて説明する。
【0020】
稲田で入手したもみ殻を洗浄し、屋外で乾燥させた。その後、もみ殻を空気過剰の状態で白色の灰になるまで加熱板上で650〜700℃で燃焼させた。燃焼温度は700℃が好ましく、これはこの温度で燃焼させたもみ殻のシリカがX線回折(XRD)で非晶質であり、92〜97%のシリカと微量の陽イオンとを含有するからである。XRDとは凝縮物質(つまり結晶性の固体、ガラス、液体、粉体、混合物等)の原子スケール構造を解析するための構造分析用の高解像度回折装置である。700℃で燃焼させると最も活性率の高いシリカ源が得られ、その大部分は純粋な非晶質シリカ四面体であり、非晶質のサンプルに大量に含まれるSiOH基を有していない。シリカ源に存在するSiOHや結晶相はシリカの反応性を低減させるものである。5グラムのもみ殻を燃焼させると、シリカ含有率が92〜97%のもみ殻の灰が0.7グラム得られる。純度98%以上のシリカは、もみ殻を1Mの硫酸溶液で洗浄し、燃焼させる前に風乾することで得られる。得られた灰の中心部分および周縁部分から複数のサンプルを採取した。もみ殻のシリカは化学処理をすることなく管理温度下で調整することができるため、非常に活性の高い非晶質シリカの原材料として有望である。
【0021】
約95%のシリカを含有するもみ殻の灰38グラムを、水酸化ナトリウムのペレット14グラムを水450mLに溶かしたものに溶解し、PTFEボトルに入れて90℃で攪拌・保存してケイ酸ナトリウム溶液を生成した。この溶液のシリカ含有率は8重量%で、Na2O:SiO2比は1:3.33である。その後、200グラムのケイ酸ナトリウム溶液に100〜150グラムの96%硫酸を添加してヒドロゲルを形成した。二つのもみ殻の灰サンプルから得られたヒドロゲルを25℃で1〜5日間熟成させ、続いてこれらを水で十分に洗浄し、ケイ酸ナトリウムをシリカに転化させる際に生じた硫酸ナトリウムを除去した。
【0022】
熟成させたヒドロゲルサンプル各種をそれぞれ布袋に移し、沸騰するエタノールの入ったフラスコ上の、水式還流冷却器を備えたソックスレー抽出槽内に吊るし、アルコール蒸気に16時間さらすことで水分をエタノールで置き換えてサンプルをアルコゲルに転化した。
【0023】
次に、エタノール抽出で得られたアルコゲルをParr社の2リットルオートクレーブで超臨界乾燥させた。アルコゲル260cmと追加のエタノール500mLとをオートクレーブに入れ、オートクレーブを密閉した後、200℃までは50℃/時間で、その後は25℃/時間の割合で温度を275℃まで7時間かけて上げた。温度を275℃で1時間保った後、1時間半で圧力が大気圧まで下がるようエタノール蒸気をオートクレーブから逃した。その後、オートクレーブ内の温度を一定の速度で室温まで下げた。
【0024】
このようにして得られた様々なエアロゲルの性質は以下の表に記載のとおりである。
【0025】
シリカエアロゲルの物理的特性



【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色の灰が得られるまでもみ殻を燃やし、もみ殻の灰を水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、得られたゲル混合物を攪拌しながら加熱してケイ酸ナトリウム溶液を生成し、得られた水ガラス溶液に濃硫酸を加えてケイ酸ナトリウムをシリカに転化してシリカヒドロゲルを生成し、ヒドロゲルを熟成させてゲル構造を形成し、水分をC〜Cアルコールと置き換えてアルコゲルを生成し、アルコゲルを超臨界乾燥してエアロゲルを形成することを特徴とするシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項2】
もみ殻を空気過剰の状態で白色の灰になるまで600〜700℃で燃焼することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
もみ殻の灰が、92〜97%の非晶質シリカと微量の陽イオンとを含有することを特徴とする、請求項1および2に記載の製造方法。
【請求項4】
もみ殻シリカに含まれる微量の陽イオンがK、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe3+であることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
純度98%以上のシリカが、もみ殻を1Mの硫酸溶液で洗浄し、燃焼させる前に風乾することで得られることを特徴とした、請求項1から4に記載の製造方法。
【請求項6】
もみ殻の灰と水酸化ナトリウムの量が、Na2O:SiO2比が1:3〜1:4になるようなものであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
Na2O:SiO2比が約1:3.33であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
ケイ酸ナトリウム溶液が8〜10重量%のSiO2を含有することを特徴とする、請求項1から7に記載の製造方法。
【請求項9】
ケイ酸ナトリウム溶液が9重量%のSiO2を含有することを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
ヒドロゲルを最大5日間熟成させることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
〜Cアルコールがメタノールまたはエタノールであることを特徴とする、請求項1から10に記載の製造方法。
【請求項12】
親水性のエアロゲルをアルキル化によって疎水性エアロゲルに転化することを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかの方法で製造されることを特徴とする、シリカエアロゲル。

【公表番号】特表2007−510613(P2007−510613A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539442(P2006−539442)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【国際出願番号】PCT/SG2004/000358
【国際公開番号】WO2005/044727
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(506155233)ユニバシティ テクノロジ マレーシア (1)
【Fターム(参考)】