説明

シリカ粒子材料、シリカ粒子材料含有組成物、およびシリカ粒子の表面処理方法

【課題】取り扱い性に優れるシリカ粒子材料、および、シリカ粒子を表面処理し取り扱い性に優れるシリカ粒子材料を得るための表面処理方法を提供すること。
【解決手段】シリカ粒子をシランカップリング剤とオルガノシラザンとで表面処理してシリカ粒子材料を得る。シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比を特定の範囲にすることで、シリカ粒子材料の表面に存在するX(フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基)とR(炭素数1〜3のアルキル基)との存在数比を特定の範囲にし、樹脂に対する親和性と凝集抑制とを両立させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粒子材料、シリカ粒子材料をフィラーとして含むフィラー含有樹脂組成物、および、シリカ粒子を表面処理してシリカ粒子材料を得るための表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ粒子の一種であるコロイダルシリカは、水ガラスを原料として製造する方法、金属ケイ素粉末を原料として製造する方法、気相合成法等により製造される。水ガラスを原料として製造する方法は、水ガラスを中和したり、イオン交換することで水ガラスを沈殿させることによって微小な粒子を生成する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなシリカ粒子の粒径は、例えばコロイダルシリカでは数nm〜数百nm程度と非常に小さい。粒径の小さなシリカ粒子は種々の用途に供される。その一方で粒径の小さなシリカ粒子の比表面積は非常に大きい。このため粒径の小さなシリカ粒子は凝集し易い特性を持つ。一旦凝集したシリカ粒子は再分散し難い。このため、粒径の小さなシリカ粒子は取り扱い性に劣る問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−45039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面処理されたシリカ粒子(以下、シリカ粒子材料と呼ぶ)は、液状媒体中における分散性には比較的優れても、乾粉状態になると(すなわち、シリカ粒子材料が単体で存在する場合には)凝集する。凝集したシリカ粒子材料は、例えば、高性能の分散機等を用いても解砕し難い。また、例えばシリカ粒子材料を樹脂用のフィラーとして用いる場合、シリカ粒子材料を分散していた液状媒体をシリカ粒子材料とともに樹脂材料に配合することになる。この場合、液状媒体と樹脂材料とが反応したり、不必要な成分が樹脂材料に導入される問題がある。このため、取り扱い性に優れるシリカ粒子材料が望まれている事情がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、取り扱い性に優れるシリカ粒子材料、および、シリカ粒子を表面処理し取り扱い性に優れるシリカ粒子材料を得るための表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明のシリカ粒子材料は、式(1):−OSiXで表される官能基と、式(2):−OSiYで表される官能基とがシリカ粒子の表面に結合していることを特徴とする。なお、上記式(1)、(2)中;Xはフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X、Xは−OSiR及び−OSiYよりそれぞれ独立して選択され;YはRであり;Y、YはR及び−OSiYよりそれぞれ独立して選択される。YはRであり;Y及びYは、R及び−OSiRからそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1〜3のアルキル基から独立して選択される。X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、隣接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合しても良い。
【0008】
本発明のシリカ粒子材料は、下記の(i)〜(iv)の何れかを備えるのが好ましく、(i)〜(iv)の複数を備えるのがより好ましい。
(i)前記式(1)で表される官能基と前記式(2)で表される官能基との存在数比が1:12〜1:60である。
(ii)前記Xは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり0.5〜2.5個である。
(iii)前記Rは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり1〜10個である。
(iv)平均粒子径が3〜200nmである。
【0009】
上記課題を解決する本発明のフィラー含有組成物は、本発明のシリカ粒子材料からなるフィラーと、樹脂材料及び/又は樹脂材料前駆体と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する本発明のシリカ粒子材料の表面処理方法は、水を含む液状媒体中でシランカップリング剤およびオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する表面処理工程を持ち、
該シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2〜1:10であることを特徴とする。
【0011】
本発明のシリカ粒子材料の表面処理方法は、下記の(v)〜(ix)の何れかを備えるのが好ましく、(v)〜(ix)の複数を備えるのがより好ましい。
(v)前記表面処理工程は、
前記シリカ粒子を前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、
前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、
該第2の処理工程は、該第1の処理工程後に行う。
(vi)前記第2の処理工程において、3つのアルコキシ基と炭素数1〜3のアルキル基とを持つ第2のシランカップリング剤で前記オルガノシラザンの一部を置き換え、
前記第2の処理工程後に、さらに前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第3の処理工程を持つ。
(vii)前記表面処理工程後に、前記シリカ粒子材料を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る固形化工程を備える。
(viii)前記シランカップリング剤は、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エポキシトリメトキシシラン、メタクリルトリメトキシシラン、アミノトリメトキシシラン、ウレイドトリメトキシシラン、メルカプトトリメトキシシラン、イソシアネート、又はアクリルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種である。
(ix)前記オルガノシラザンは、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザンから選ばれる少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリカ粒子材料は、X(フェニル基、ビニル基、エポキシ基、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基)と、R(炭素数1〜3のアルキル基)とを表面に持つ。Rすなわち炭素数1〜3のアルキル基は疎水性が高いために、互いに反発し合う。したがって、本発明のシリカ粒子材料は炭素数1〜3のアルキル基同士の反発力により凝集し難い。
【0013】
また、シリカ粒子材料が表面にRのみを持ちXを持たない場合には、極性の大きな官能基を持つ材料(例えば樹脂材料等)に対する親和性に劣る。このようなシリカ粒子材料は、樹脂材料中に均一分散し難い。本発明のシリカ粒子材料はXを表面に持つため、樹脂材料との親和性に優れ、樹脂材料中に均一分散できる。換言すると、本発明のシリカ粒子材料は、樹脂に対する親和性に優れるとともに、凝集抑制効果にも優れている。このため本発明のシリカ粒子材料は、樹脂材料用のフィラーとして好適に使用できる。さらに、本発明のシリカ粒子材料は凝集し難いため、液状媒体に分散しなくても良い。このことによっても、本発明のシリカ粒子材料は、樹脂材料用のフィラーとして好適に使用できる。
【0014】
また、シリカ粒子材料の表面にRが多く存在するほど凝集抑制効果が向上するが、その一方で、樹脂に対する親和性が低下する。シリカ粒子材料の表面にXが多く存在するほど樹脂に対する親和性が向上するが、その一方で、Rの数が少なくなり凝集抑制効果が低減する。したがって、RとXとの存在数比には、好ましい範囲が存在する。式(1)で表される官能基と式(2)で表される官能基との存在数比が1:12〜1:60の範囲内であれば、樹脂に対する優れた親和性と優れた凝集抑制効果とを両立することができる。また、Xがシリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり0.5〜2.5個であれば、樹脂に対する優れた親和性と優れた凝集抑制効果とを両立することができる。
【0015】
本発明のシリカ粒子の表面処理方法によると、上式(1)で表されるシランカップリング剤由来の官能基と、上式(2)で表されるオルガノシラザン由来の官能基とを、をシリカ粒子の表面に結合することができる。そして、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比が1:2〜1:10の範囲内であれば、上式(1)で表される官能基と上式(2)で表される官能基とを、シリカ粒子材料の表面にバランス良く存在させ得る。このため、樹脂に対する親和性と凝集抑制効果とが両立したシリカ粒子材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1のシリカ粒子材料の粒度分布を表すグラフである。
【図2】実施例2のシリカ粒子材料の粒度分布を表すグラフである。
【図3】実施例3のシリカ粒子材料の粒度分布を表すグラフである。
【図4】実施例4のシリカ粒子材料の粒度分布を表すグラフである。
【図5】実施例1〜3および比較例1のシリカ粒子材料の赤外吸収スペクトルを表すグラフである。
【図6】実施例4および比較例2、3のシリカ粒子材料の赤外吸収スペクトルを表すグラフである。
【図7】実施例6のフィラー含有樹脂組成物および比較例4のフィラー含有樹脂組成物の粘度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のシリカ粒子材料は、式(1):−OSiXで表される官能基と、式(2):−OSiYで表される官能基とが表面に結合したシリカ粒子材料である。以下、式(1)で表される官能基を第1の官能基と呼び、式(2)で表される官能基を第2の官能基と呼ぶ。
【0018】
第1の官能基におけるXは、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基である。X、Xは、それぞれ、−OSiR又は−OSiYである。YはRである。Y、Yは、それぞれ、R又は−OSiRである。
【0019】
第2の官能基におけるYはRである。Y、Yは、それぞれ、−OSiR又は−OSiYである。
【0020】
第1の官能基および第2の官能基に含まれる−OSiRが多い程、シリカ粒子材料の表面にRを多く持つ。第1の官能基および第2の官能基に含まれるR(炭素数1〜3のアルキル基)が多い程、本発明のシリカ粒子材料は凝集し難い。
【0021】
第1の官能基に関していえば、X、Xがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最小となる。また、XおよびXがそれぞれ−OSiYであり、かつ、Y、Yがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最大となる。
【0022】
第2の官能基に関していえば、Y、Yがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最小となる。また、YおよびYがそれぞれ−OSiYであり、かつ、Y、Yがぞれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最大となる。
【0023】
第1の官能基に含まれるXの数、第1の官能基に含まれるRの数、第2の官能基に含まれるRの数は、RとXとの存在数比や、シリカ粒子材料の粒径や用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0024】
なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、隣接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合しても良い。例えば、第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかが、この第1の官能基に隣接する第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。同様に、第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかが、この第2の官能基に隣接する第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。さらには、第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかが、この第1の官能基に隣接する第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。
【0025】
本発明のシリカ粒子材料において、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60であれば、シリカ粒子材料の表面にXとRとがバランス良く存在する。このため、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60であるシリカ粒子材料は、樹脂に対する親和性および凝集抑制効果に特に優れる。また、Xがシリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり0.5〜2.5個であれば、シリカ粒子材料の表面に充分な数の第1の官能基が結合し、第1の官能基および第2の官能基に由来するRもまた充分な数存在する。したがってこの場合にも、樹脂に対する親和性およびシリカ粒子材料の凝集抑制効果が充分に発揮される。
【0026】
何れの場合にも、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたりのRは、1個〜10個であるのが好ましい。この場合には、シリカ粒子材料の表面に存在するXの数とRの数とのバランスが良くなり、樹脂に対する親和性およびシリカ粒子材料の凝集抑制効果との両方がバランス良く発揮される。
【0027】
本発明のシリカ粒子材料においては、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基の全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているのが好ましい。第1の官能基と第2の官能基との和が、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり2.0個以上であれば、本発明のシリカ粒子材料において、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基のほぼ全部が第1の官能基または第2の官能基で置換されているといえる。
【0028】
本発明のシリカ粒子材料は、表面にRを持つ。これは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。詳しくは、本発明のシリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルを固体拡散反射法で測定すると、2962±2cm−1にC−H伸縮振動の極大吸収がある。このため、本発明のシリカ粒子材料であるか否かは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。
【0029】
また、上述したように本発明のシリカ粒子材料は凝集し難い。したがって、本発明のシリカ粒子材料は粒径の小さいなシリカ粒子材料に適用できる。例えば、本発明のシリカ粒子材料は、平均粒径3nm〜5000nm程度にできる。平均粒径3〜200nmのシリカ粒子材料に適用するのが好ましい。
【0030】
なお、本発明のシリカ粒子材料は、例え僅かに凝集した場合にも、超音波処理することによって再度分散可能である。詳しくは、本発明のシリカ粒子材料をメチルエチルケトンに分散させたものに、発振周波数39kHz、出力500Wの超音波を照射することで、本発明のシリカ粒子材料を実質的に一次粒子にまで分散できる。このときの超音波照射時間は10分間以下で良い。本発明のシリカ粒子材料が一次粒子にまで分散したか否かは、粒度分布を測定することで確認できる。詳しくは、このシリカ粒子材料のメチルエチルケトン分散材料をマイクロトラック装置等の粒度分布測定装置で測定し、シリカ粒子材料の粒度分布があれば、本発明のシリカ粒子材料が一次粒子にまで分散したといえる。
【0031】
本発明のシリカ粒子材料は、凝集し難いため、水やアルコール等の液状媒体に分散されていないシリカ粒子材料として提供できる。この場合、液状媒体の持ち込みがないために、樹脂材料用のフィラーとして好ましく用いられる。
【0032】
また、本発明のシリカ粒子材料は凝集し難いために、水で容易に洗浄できる。このため、本発明のシリカ粒子材料は、電子部品用のシリカ粒子材料に適用できる。
【0033】
本発明のシリカ粒子の表面処理方法は、水を含む液状媒体中で、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する工程(表面処理工程)を持つ。シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基(すなわち上記のX)とを持つ。
【0034】
シランカップリング剤で表面処理することで、シリカ粒子の表面に存在する水酸基がシランカップリング剤に由来する官能基で置換される。シランカップリング剤に由来する官能基は式(3);−OSiXで表される。式(3)で表される官能基を第3の官能基と呼ぶ。第3の官能基におけるXは式(1)で表される官能基におけるXと同じである。X、Xは、それぞれ、アルキコキシ基である。オルガノシラザンで表面処理することで、第3の官能基のX、Xがオルガノシラザンに由来する−OSiY(式(2)で表される官能基、第2の官能基)で置換される。シリカ粒子の表面に存在する水酸基の全てが第3の官能基で置換されていない場合には、シリカ粒子の表面に残存する水酸基が第2の官能基で置換される。このため、表面処理されたシリカ粒子材料の表面には、式(1):−OSiXで表される官能基(すなわち第1の官能基)と、式(2):−OSiYで表される官能基と(すなわち第2の官能基)が結合する。なお、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比は、シランカップリング剤:オルガノシラザン=1:2〜1:10であるため、得られたシリカ粒子材料における第1の官能基と第2の官能基との存在数比は理論上1:12〜1:60となる。
【0035】
表面処理工程においては、シリカ粒子をシランカップリング剤及びオルガノシラザンで同時に表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をオルガノシラザンで表面処理し、次いでシランカップリング剤で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理しても良い。何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基全てが第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調整すれば良い。なお、シリカ粒子の表面に存在する水酸基は、全てが第3の官能基で置換されても良いし、一部のみが第3の官能基で置換され、他の部分が第2の官能基で置換されても良い。第3の官能基に含まれるX、Xは、全て第2の官能基で置換されるのが良い。
【0036】
なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤で置き換えても良い。第2のシランカップリング剤としては、3つのアルコキシ基と、1つのアルキル基とを持つものを用いることができる。この場合には、第3の官能基に含まれるX、Xが、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。第4の官能基は式(4);−OSiYで表される。Yは第2の官能基におけるYと同じRであり、X、Xはそれぞれアルコキシ基または水酸基である。第4の官能基に含まれるX、Xは、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、または、別の第4の官能基で置換される。この場合には、シリカ粒子材料の表面に存在するRの量をさらに多くする事ができる。なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤に置き換える場合、第2のシランカップリング剤で表面処理した後に、再度オルガノシラザンで表面処理する必要がある。第4の官能基に含まれるX、Xを、最終的にはオルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換するためである。
【0037】
オルガノシラザンの一部を第2のシランカップリング剤で置き換える場合、上述した第1の官能基に含まれるX、Xは、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。X、Xが第4の官能基で置換された場合、第4の官能基に含まれるX、Xは、第2の官能基で置換されるか、別の第4の官能基によって置換される。第4の官能基に含まれるX、Xが別の第4の官能基によって置換された場合、第4の官能基に含まれるX、Xは、第2の官能基で置換される。このため第2のシランカップリング剤は、第1のカップリング剤及びオルガノシラザンのみで表面処理する場合(オルガノシラザンを第2のシランカップリング剤で置き換えなかった場合)に設定されるオルガノシラザンの量(a)molに対して、最大限5a/3mol置き換えることができる。この場合に必要になるオルガノシラザンの量は、8a/3molである。
【0038】
シランカップリング剤および第2のシランカップリング剤のアルコキシ基は特に限定しないが、比較的炭素数の小さなものが好ましく、炭素数1〜12であることが好ましい。アルコキシ基の加水分解性を考慮すると、アルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基の何れかであることがより好ましい。
【0039】
シランカップリング剤として、具体的には、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0040】
オルガノシラザンとしては、シリカ粒子の表面に存在する水酸基およびシランカップリング剤に由来するアルコキシ基を、上述した第2の官能基で置換できるものであれば良いが、分子量の小さなものを用いるのが好ましい。具体的には、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン等が挙げられる。
【0041】
第2のシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0042】
なお、表面処理工程において、シランカップリング剤の重合や第2のシランカップリング剤の重合を抑制するため、重合禁止剤を加えても良い。重合禁止剤としては、3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、p−メトキシフェノール(メトキノン)等の一般的なものを用いることができる。
【0043】
本発明のシリカ粒子の表面処理方法は、表面処理工程後に固形化工程を備えても良い。固形化工程は、表面処理後のシリカ粒子材料を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る工程である。上述したように、一般的なシリカ粒子材料は非常に凝集し易いため、一旦固形化したシリカ粒子材料を再度分散するのは非常に困難である。しかし、本発明のシリカ粒子材料は凝集し難いため、固形化しても凝集し難く、また、例え凝集しても再分散し易い。なお、上述したように、シリカ粒子材料を水で洗浄することで、電子部品等の用途に用いられるシリカ粒子材料を容易に製造できる。なお、洗浄工程においては、シリカ粒子材料の抽出水(詳しくは、シリカ粒子材料を121℃で24時間浸漬した水)の電気伝導度が50μS/cm以下となるまで、洗浄を繰り返すのが好ましい。
【0044】
固形化工程で用いる鉱酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などが例示でき、特に塩酸が望ましい。鉱酸はそのまま用いても良いが、鉱酸水溶液として用いるのが好ましい。鉱酸水溶液における鉱酸の濃度は0.1質量%以上が望ましく、0.5質量%以上が更に望ましい。鉱酸水溶液の量は、洗浄対象であるシリカ粒子材料の質量を基準として6〜12倍程度にすることができる。
【0045】
鉱酸水溶液による洗浄は複数回数行うことも可能である。鉱酸水溶液による洗浄はシリカ粒子材料を鉱酸水溶液に浸漬後、撹拌することが望ましい。また、浸漬した状態で1時間から24時間、更には72時間程度放置することができる。放置する際には撹拌を継続することもできるし、撹拌しないこともできる。鉱酸含有液中にて洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0046】
その後、洗浄して懸濁させたシリカ粒子材料をろ取した後、水にて洗浄する。使用する水はアルカリ金属などのイオンを含まない(例えば質量基準で1ppm以下)ことが望ましい。例えば、イオン交換水、蒸留水、純水などである。水による洗浄は鉱酸水溶液による洗浄と同じく、シリカ粒子材料を分散、懸濁させた後、ろ過することもできるし、ろ取したシリカ粒子材料に対して水を継続的に通過させることによっても可能である。水による洗浄の終了時期は、上述した抽出水の電気伝導度で判断しても良いし、シリカ粒子材料を洗浄した後の排水中のアルカリ金属濃度が1ppm以下になった時点としても良いし、抽出水のアルカリ金属濃度が5ppm以下になった時点としても良い。なお、水で洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0047】
シリカ粒子材料の乾燥は、常法により行うことができる。例えば、加熱や、減圧(真空)下に放置する等である。
【0048】
乾燥以外でシリカ粒子材料を脱水する方法として、含水しているシリカ粒子材料に対して、水よりも沸点が高い水系有機溶媒を添加後、その水系有機溶媒に溶解可能な混合材料を混合し、水を除去する方法を用いることができる。水系有機溶媒としてはプロピレングリコールモノメチルエーテル(プロピレングリコール−1−メチルエーテル、沸点119℃程度;プロピレングリコール−2−メチルエーテル、沸点130℃程度)、ブタノール(沸点117.7℃)、N−メチル−2−ピロリドン(沸点204℃程度)、γ−ブチロラクトン(沸点204℃程度)などが例示できる。
【0049】
混合材料は、水系有機溶媒よりも沸点が高い有機化合物である。沸点が水系有機溶媒及び水よりも高いので、最終的にシリカ粒子材料と共に残存することになる。混合材料はそのまま、又は、反応することで高分子にすることもできる。混合材料は、シリカ粒子材料を分散するマトリクスを形成することもできる。混合材料は、含水したシリカ粒子材料に対して水系有機溶媒を添加した状態で、分散乃至溶解できる化合物である。混合材料は高分子であっても低分子であっても良い。混合材料は、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ブロックされたイソシアネート基、アミノ基、ハーフエステル基、アミック基、カルボキシ基、及び炭素-炭素二重結合基を化学構造中に有することが望ましい。これらの官能基は好適な反応条件を設定することで互いに結合可能な官能基(重合性官能基)であり、混合材料の分子量を向上できる。好適な反応条件としては単純に加熱や光照射を行ったり、熱や光照射によりラジカルやイオン(アニオン、カチオン)などの反応性種を生成したり、それらの官能基間を結合する反応開始剤(重合開始剤)を添加して加熱や光照射を行うことなどである。重合反応に際して必要な化合物を硬化剤として添加したり、その反応に対する触媒を添加することもできる。
【0050】
混合材料としては重合により高分子材料を形成する単量体や、上述したような重合性官能基により修飾した高分子材料が好ましいものとして挙げられる。例えば、硬化前の、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などのプレポリマーが好適である。
【0051】
水(更には水系有機溶媒も)を除去することで、混合材料中にシリカ粒子材料が混合乃至分散した状態とすることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明のシリカ粒子材料および本発明のシリカ粒子の表面処理方法を具体的に説明する。
【0053】
(実施例1)
(材料)
シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOS(日産化学工業株式会社製、平均粒径10nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を準備した。
【0054】
アルコールとして、イソプロパノールを準備した。
【0055】
シランカップリング剤として、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−103)を準備した。
【0056】
オルガノシラザンとして、ヘキサメチルジシラザン(HMDS、信越化学工業株式会社製、HDMS−1)を準備した。
【0057】
(表面処理工程)
(1)準備工程
シリカ粒子が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール60質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
【0058】
(2)第1工程
この分散液にフェニルトリメトキシシラン1.8質量部を加え、40℃で72時間混合した。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシランカップリング剤で表面処理した。なお、このときフェニルトリメトキシシランは、必要な量の水酸基(一部)が表面処理されず残存するように計算して加えた。
【0059】
(3)第2工程
次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水およびイソプロパノールの中で安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0060】
(固形化工程)
表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液を5質量部を加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得た。
【0061】
(実施例2)
実施例2のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランにかえてビニルトリメトキシシランを用い、ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が2:5であったこと以外は、実施例1のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、ビニルトリメトキシシラン1.36質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加えた。
【0062】
なおビニルトリメトキシシランとしては、信越化学工業株式会社製 KBM−1003を用いた。
【0063】
(実施例3)
実施例3のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランにかえてビニルトリメトキシシランを用い、ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:5であったこと以外は、実施例1のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、ビニルトリメトキシシラン1.36質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン7.41質量部を加えた。
【0064】
(実施例4)
実施例4のシリカ粒子の表面処理方法においては、シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOL(日産化学工業株式会社製、平均粒径50nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を用いた。また、第1工程においてシランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)0.48質量部を加えた。さらに、このシランカップリング剤に加えて重合禁止剤(3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、関東化学株式会社製)を0.01質量部加えた。また、第2工程において、ヘキサメチルジシラザン0.78質量部を加えた。さらに、固形化工程においては、表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液2.6質量部を加えてシリカ粒子材料を沈殿させた。これ以外は、実施例4のシリカ粒子の表面処理方法は、実施例1のシリカ粒子の表面処理方法と同じであった。なお、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0065】
(比較例1)
比較例1のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:1であったこと以外は、実施例1のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、フェニルトリメトキシシラン4.5質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加えた。
【0066】
(比較例2)
比較例2のシリカ粒子の表面処理方法は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が2:1であったこと以外は、実施例4のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.48質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン0.16質量部を加えた。
【0067】
(比較例3)
比較例3のシリカ粒子の表面処理方法は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:1であったこと以外は、実施例4のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.48質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン0.31質量部を加えた。
【0068】
(凝集性評価試験)
実施例1〜4および比較例1〜3のシリカ粒子材料について、液状媒体中における凝集性を測定した。
【0069】
詳しくは、実施例1〜3および比較例1については、シリカ粒子材料10gとメチルエチルケトン40gとの混合物を攪拌し、シリカ粒子材料の分散試料を得た。
【0070】
実施例4および比較例2、3については、シリカ粒子材料10gとメチルエチルケトン10gとの混合物を攪拌し、シリカ粒子材料の分散試料を得た。得られた各分散試料に含まれるシリカ粒子材料の粒度分布を、粒祖分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラック)により測定した。凝集性評価試験の結果を図1〜4に示す。なお、図1は実施例1のシリカ粒子材料の粒度分布を表す。図2は実施例2のシリカ粒子材料の粒度分布を表す。図3は実施例3のシリカ粒子材料の粒度分布を表す。図4は実施例4のシリカ粒子材料の粒度分布を表す。
【0071】
図1〜4に示すように、実施例1〜4のシリカ粒子材料は、凝集のない一次粒子の状態で分散している。これは、図1〜4のグラフにおいて、各シリカ粒子材料の粒度分布(ピーク)が、粒子径10nm程度の位置に一つのみ現れていることから裏付けられる。シリカ粒子材料が二次粒子であれば(すなわち、少しでも凝集があれば)、粒子径100nm以上の位置に少なくとも一つのピークが現れる。このため、実施例1〜4のシリカ粒子材料は、一旦固形化したにもかかわらず、その殆どが一次粒子であり、殆ど凝集していないことがわかる。これに対して、比較例1〜3のシリカ粒子材料は、攪拌するだけでは分散せず、攪拌後に発振周波数39kHz、出力500Wで1時間以上超音波照射しても、肉眼で凝集が確認でき、一次粒子にまで分散しなかった。この結果から、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比を1:2〜1:10の範囲にすることで、固形化しても凝集し難いシリカ粒子材料を製造できることがわかる。なお、実施例1のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、実施例2のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、実施例3のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、実施例4のシリカ粒子材料の平均粒径は50nmであった。この結果から、凝集抑制のためには、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比を1:5〜2:5の範囲にするのが好ましいことがわかる。
【0072】
(極大吸収測定試験)
実施例1〜4および比較例1〜3のシリカ粒子材料を準備し、この試料の赤外線吸収スペクトルを、サーモニコレット社製 FT−IR Avatorを用いた粉体拡散反射法で測定した。このときの測定条件は、分解能4、スキャン回数64であった。極大吸収測定試験の結果を表すグラフを図5〜図6に示す。図5〜図6に示すように、実施例1〜4および比較例1〜3のシリカ粒子材料の赤外吸収スペクトルは、何れも、2962cm−1にC-H伸縮振動の極大吸収(ピーク)を持つ。このため、実施例1〜4及び比較例1〜3のシリカ粒子材料は、アルキル基を持つこと(すなわち、アルキル基を持つオルガノシラザンで表面処理されていること)がわかる。なお、比較例1〜3のシリカ粒子材料のピーク高さは実施例1〜4のシリカ粒子材料のピーク高さに比べて低かった。この結果は、比較例1〜3のシリカ粒子材料においては、充分な量のアルキル基を持たないことを示唆している。詳しくは、実施例1〜4のシリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルにおいては、シランカップリング剤に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm−1)のピーク高さが3倍以上であった。比較例1〜3のシリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルにおいては、シランカップリング剤に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm−1)のピーク高さが2倍以下であった。上述したように、実施例1〜4のシリカ粒子材料は凝集し難く、比較例1〜3のシリカ粒子材料は凝集し易かった。これらの結果から、シランカップリング剤に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm−1)のピーク高さが3倍以上であるシリカ粒子材料は凝集し難いといえる。
【0073】
(実施例5)
実1のシリカ材料100質量部とメチルイソブチルケトン100質量部とを混合し、シリカ粒子材料とメチルイソブチルケトンとの混合物を得た。この混合物4質量部にアクリル樹脂(根上工業株式会社製 アートレジン UK904)6質量部を加え混合した。この混合物100質量部に対して5質量部の重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、ダロキュアTPO)を加え、さらに、固形分濃度が30質量%となるようにメチルイソブチルケトンを加えた。この混合物をさらに攪拌して、フィラー含有樹脂組成物(前駆体)を得た。この前駆体は、均一溶液状であった。実施例5のフィラー含有樹脂組成物を、基板に塗布し、実施例5のフィラー含有樹脂組成物(フィルム)を成膜した。
【0074】
(樹脂に対する親和性評価I)
実施例5のフィラー含有樹脂組成物(フィルム)を目視にて観察したところ、このフィルムは硬く透明であった。実施例5のフィルムが硬いのは、シリカ粒子材料が樹脂材料中に略均一に分散しているためだと考えられる。また、実施例5のフィルムが透明なのは、樹脂材料に対するシリカ粒子材料の親和性に優れるためだと考えられる。すなわち、実施例1のシリカ粒子材料は、凝集し難く、かつ、樹脂に対する親和性に優れていた。また、実施例1のシリカ粒子材料を用いた実施例5のフィラー含有樹脂組成物(前駆体)は硬く透明なフィルムを形成できた。さらに、実施例1のシリカ粒子材料を用いた実施例5のフィラー含有樹脂組成物(フィルム)は、硬く透明であった。
【0075】
(実施例6)
実施例4のシリカ粒子材料100質量部とイソプロパノール100質量部とを混合し、シリカ粒子材料とイソプロパノールとの混合物を得た。この混合物に、発振周波数39kHz、出力500Wで15分間超音波照射し、シリカ粒子材料含有スラリーを得た。
【0076】
アドマファイン SE2200(株式会社アドマテックス製、平均粒径約500nmのシリカ粒子材料)をイソプロパノールに等量配合し、シリカ粒子材料を50質量%含むスラリーを準備した。このスラリーをアドマファインスラリーと呼ぶ。
【0077】
上述したシリカ粒子材料含有スラリーとアドマファインスラリーとをシリカ粒子材料含有スラリー:アドマファインスラリー=1:10(シリカ質量比)となるように混合した。その後、減圧加熱することでこの混合物からイソプロパノールを揮発させ、乾燥させた。この乾燥混合物をエポキシ樹脂(東都化成株式会社製、ZX1059)に加えた。このとき、乾燥混合物とエポキシ樹脂との総量を100質量%として、シリカ濃度が70質量%になるようにした。この混合物を三本ロール機(EXAKT社製、80s)にかけて、実施例4のシリカ粒子材料およびアドマファインをエポキシ樹脂中に略均一に分散させた。以上の工程で、実施例6のフィラー含有樹脂組成物を得た。
【0078】
(比較例4)
アドマファインスラリーを減圧加熱することで、アドマファインスラリーからイソプロパノールを揮発させ、乾燥させた。この乾燥物をエポキシ樹脂(東都化成株式会社製、ZX1059)に加えた。このとき、乾燥物とエポキシ樹脂との総量を100質量%として、シリカ濃度が70質量%になるようにした。この混合物を三本ロール機(EXAKT社製、80s)にかけて、アドマファインをエポキシ樹脂中に略均一に分散させた。以上の工程で、比較例4のフィラー含有樹脂組成物を得た。
【0079】
(樹脂に対する親和性評価II)
実施例6のフィラー含有樹脂組成物および比較例4のフィラー含有樹脂組成物の粘度を、レオメータ(TA Instruments社製、ARES G−2)により測定した。その結果を表すグラフを図7に示す。なお、図7中縦軸は粘度を表し、横軸は剪断速度を表す。
【0080】
図7に示すように、実施例6のフィラー含有樹脂組成物の粘度は、比較例4のフィラー含有樹脂組成物の粘度に比べて低かった。この結果から、実施例4のシリカ粒子材料を樹脂材料用のフィラーとして用いる場合には、従来のシリカ粒子材料を樹脂材料用のフィラーとして用いる場合に比べて、フィラー含有樹脂組成物の粘度を大幅に低下させ得る事がわかる。これは、実施例4のシリカ粒子材料が凝集なく、かつ、樹脂に対する親和性に優れるためだと考えられる。なお、粘度の低いフィラー含有樹脂組成物は、成形性に優れる。
【0081】
(炭素量測定試験)
実施例1〜4のシリカ粒子材料および比較例1〜3のシリカ粒子材料について、シリカ粒子材料の質量あたりに存在する炭素の量(質量%)を測定した。測定には、有機炭素測定装置(HORIBA社製、EMIA−320V)を用いた。
【0082】
その結果、実施例1のシリカ粒子材料の炭素量は3.5質量%であり、実施例2のシリカ粒子材料の炭素量は2.6質量%であり、実施例3のシリカ粒子材料の炭素量は2.8質量%であり、実施例4のシリカ粒子材料の炭素量は0.96質量%であった。比較例1のシリカ粒子材料の炭素量は4.0質量%であり、比較例2のシリカ粒子材料の炭素量は1.8質量%であり、比較例3のシリカ粒子材料の炭素量は1.0質量%であった。
【0083】
(X数測定試験)
実施例1〜4のシリカ粒子材料および比較例1〜3のシリカ粒子材料について、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたりのXの存在数を測定した。実施例1および比較例1のシリカ粒子材料におけるXはフェニル基であり、実施例2、3のシリカ粒子材料におけるXはビニル基であり、実施例4および比較例2、3のシリカ粒子材料におけるXはメタクリロキシ基であった。シリカ粒子材料の表面積(比表面積)は窒素を用いたBET法で測定した。Xの存在数はシリカ粒子材料の炭素量を基に算出した。詳しくは、第1工程後のシリカ粒子を、水で洗浄し遠心分離した後に乾燥して、シランカップリング剤処理後のシリカ粒子試料を得た。この試料の炭素量を、有機炭素測定装置を用いて測定し、測定値を基にX数を算出した。
【0084】
その結果、実施例1のシリカ粒子材料におけるX数は、約1.2個/nmであった。
実施例2のシリカ粒子材料におけるX数は、約1.1個/nmであった。実施例3のシリカ粒子材料におけるX数は、約1.1個/nmであった。実施例4のシリカ粒子材料におけるX数は、約2.0個/nmであった。比較例1のシリカ粒子材料におけるX数は、約1.7個/nmであった。比較例2のシリカ粒子材料におけるX数は、約2.0個/nmであった。比較例3のシリカ粒子材料におけるX数は、約2.0個/nmであった。参考までに、シランカップリング剤処理後のシリカ粒子試料の炭素量は、実施例1のシリカ粒子材料では3.6質量%、実施例2のシリカ粒子材料では1.1質量%、実施例3のシリカ粒子材料では1.1質量%、実施例4のシリカ粒子材料では1.5質量%であった。また、比較例1のシリカ粒子材料では5.0質量%、比較例2のシリカ粒子材料では1.5質量%、比較例3のシリカ粒子材料では1.5質量%であった。
【0085】
上述したように、シリカ粒子材料の樹脂材料に対する親和性はXの数および種類によって異なり、実施例1のシリカ粒子材料および実施例4のシリカ粒子材料は、樹脂材料に対する親和性に優れていた。この結果から、樹脂材料に対して優れた親和性を発揮するためには、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたりのXは0.5個〜2.5個であるのが好ましく、1.0個〜2.0個であるのがより好ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のシリカ粒子材料は、EMC、ダイアタッチ、フィルム、プリプレーグ、TIM、UF、穴埋め材、ダム材、レジスト、リッドシーツ接着剤、放熱材接着剤、LCD接着剤、LCD封止材、光学接着剤、導波路材、電子ペーパ・有機ELにおける隔壁材、MEMS、インプリンティング転写材、ハードコート、プラスチック塗料、自動車用塗料などの組成物に添加されるシリカ粒子材料として利用可能である。また、透明性が要求されるディスプレー、発光素子等のハードコート、カラーフィルタ等のオーバーコート、レジストインキ、MEMS等の光ナノインプリンティング材料に用いられる組成物の構成要素としてのシリカ粒子材料としても好適である。これらの組成物はエポキシ樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などに本発明のシリカ粒子材料を分散させることで調製できる。シリカ粒子材料の表面は、さらに、何らかの表面処理剤(シランカップリング、シラザンなど)により処理されていても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):−OSiXで表される官能基と、式(2):−OSiYで表される官能基とがシリカ粒子の表面に結合していることを特徴とするシリカ粒子材料。
(上記式(1)、(2)中;Xはフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X、Xは−OSiR及び−OSiYよりそれぞれ独立して選択され;YはRであり;Y、YはR及び−OSiYよりそれぞれ独立して選択される。YはRであり;Y及びYは、R及び−OSiRからそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1〜3のアルキル基から独立して選択される。なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、隣接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合しても良い。)
【請求項2】
前記式(1)で表される官能基と前記式(2)で表される官能基との存在数比が1:12〜1:60である請求項1に記載のシリカ粒子材料。
【請求項3】
前記Xは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり0.5〜2.5個である請求項1に記載のシリカ粒子材料。
【請求項4】
前記Rは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり1〜10個である請求項1〜請求項3の何れか一つに記載のシリカ粒子材料。
【請求項5】
平均粒子径が3〜200nmである請求項1〜請求項4の何れか一つに記載のシリカ粒子材料。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一つに記載のシリカ粒子材料からなるフィラーと、樹脂材料及び/又は樹脂材料前駆体と、を含むことを特徴とするフィラー含有組成物。
【請求項7】
水を含む液状媒体中でシランカップリング剤およびオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する表面処理工程を持ち、
該シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2〜1:10であることを特徴とするシリカ粒子の表面処理方法。
【請求項8】
前記表面処理工程は、
前記シリカ粒子を前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、
前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、
該第2の処理工程は、該第1の処理工程後に行う請求項7に記載のシリカ粒子の表面処理方法。
【請求項9】
前記第2の処理工程において、3つのアルコキシ基と炭素数1〜3のアルキル基とを持つ第2のシランカップリング剤で前記オルガノシラザンの一部を置き換え、
前記第2の処理工程後に、さらに前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第3の処理工程を持つ請求項7又は請求項8に記載のシリカ粒子の表面処理方法。
【請求項10】
前記表面処理工程後に、前記シリカ粒子材料を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る固形化工程を備える請求項7〜請求項9の何れか一つに記載のシリカ粒子の表面処理方法。
【請求項11】
前記シランカップリング剤は、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エポキシトリメトキシシラン、メタクリルトリメトキシシラン、アミノトリメトキシシラン、ウレイドトリメトキシシラン、メルカプトトリメトキシシラン、イソシアネート、又はアクリルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種である請求項7〜請求項10の何れか一つに記載のシリカ粒子の表面処理方法。
【請求項12】
前記オルガノシラザンは、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザンから選ばれる少なくとも一種である請求項7〜請求項11の何れか一つに記載のシリカ粒子の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−213514(P2011−213514A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81844(P2010−81844)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【Fターム(参考)】