説明

シリカ複合粒子の製造方法

【課題】製紙用の填料や顔料とするに適したシリカ複合粒子を連続的に製造することができるシリカ複合粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】無機粒子S、珪酸アルカリ水溶液K及び鉱酸R1、R2から、シリカ複合粒子を製造するにあたり、無機粒子S及び珪酸アルカリKを先行槽70Aに供給し、この槽70A内のスラリーHAが、先行槽70Aから他の槽70Bを介して後行槽70Cへ流れるものとしつつ、この槽70C内のスラリーHCに鉱酸R2を添加するほか、先行槽70A内のスラリーHAにも鉱酸R1を先行添加し、かつ、当該スラリーHAにポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤R1を添加してシリカ複合粒子を連続的に製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子にシリカが複合されたシリカ複合粒子を製造する方法に関するものである。より好ましくは、無機粒子が、製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理して製造した再生粒子である場合に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製紙用の填料や顔料としては、炭酸カルシウムやクレー、タルク等の無機粒子が使用されていたが、近年では、これらの無機粒子にシリカを複合させたシリカ複合粒子の開発が進められている。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1は、紙の嵩高性や、白色度、不透明の向上、紙力低下の防止等を課題とした無機微粒子・シリカ複合粒子の製造方法を開示している。同文献は、当該無機微粒子・シリカ複合粒子を製造するについて、『無機微粒子を珪酸アルカリ水溶液に添加・分散しスラリーを調製した後に加熱攪拌しながら、液温を60〜100℃の範囲に保持し硫酸を添加し、シリカゾルを生成させ、最終反応液のpHを8〜11の範囲に調整する』としている。
【0004】
また、本出願人は、無機粒子として特に再生粒子を利用するシリカ被覆再生粒子の製造方法を開示しており、例えば、特許文献2において、『古紙パルプを製造する古紙処理工程の脱墨工程で排出される脱墨フロスを主原料とし、脱水工程、乾燥工程、焼成工程及び粉砕工程を経て、前記焼成工程において凝集体とした再生粒子を得て、この再生粒子を珪酸アルカリ水溶液中に懸濁するとともに鉱酸を添加し、再生粒子の周囲をシリカで被覆してシリカ被覆再生粒子を得る』方法を開示している。
【0005】
これらの製造方法によって得られるシリカ複合粒子は、従来の無機粒子では不十分であった製紙用の填料や顔料としての特性が改善されたものになるとして注目されている。特に、本出願人の開示した再生粒子を利用する方法によれば、製紙スラッジ廃棄の問題も同時に解決されることになり、製紙業界におる環境問題に関わる重要な課題の解決につながる。
【0006】
もっとも、従来のシリカ複合粒子の製造方法は、いずれも所定量毎にシリカ複合粒子の製造を繰り返すいわゆる「バッチ式」であり、シリカ複合粒子を連続的に製造する「連続式」ではない。シリカ複合粒子を連続的に製造すると、当然、生産効率が向上するが、例えば、シリカ複合粒子の平均粒子径や粒子径分布を制御するのが困難となり、また、シリカ複合粒子が均質にならなくなる。つまり、単に連続的に製造したのでは、シリカ複合粒子が製紙用の填料や顔料とするに適したものでなくなる。また、シリカ複合粒子を連続的に製造すると、スケールを除去することができなくなるため、当該問題がよりいっそう大きくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3898007号公報
【特許文献2】特許第4087431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする主たる課題は、製紙用の填料や顔料とするに適した粒子径、磨耗度、均質性、吸油量を有するシリカ複合粒子を連続的に製造することができるシリカ複合粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
無機粒子、珪酸アルカリ水溶液及び鉱酸から、前記無機粒子にシリカが複合されたシリカ複合粒子を製造する方法であって、
前記無機粒子及び前記珪酸アルカリを先行槽に供給し、この先行槽内の前記無機粒子が分散されたスラリーが、前記先行槽から直接又は他の槽を介して後行槽へ流れるものとしつつ、
前記後行槽内のスラリーに前記鉱酸を添加するほか、前記先行槽内のスラリーにも前記鉱酸を先行添加し、かつ、少なくとも当該先行槽内のスラリーにポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤を添加してシリカ複合粒子を連続的に製造する、
ことを特徴とするシリカ複合粒子の製造方法。
【0010】
〔請求項2記載の発明〕
前記鉱酸の合計添加量を、前記後行槽を経たスラリーがpH7.0〜8.5となる量とし かつ、前記先行添加する鉱酸の量を前記合計添加量の18〜48%とする、
請求項1記載のシリカ複合粒子の製造方法。
【0011】
〔請求項3記載の発明〕
前記分散剤を、先行槽と後行槽との添加質量割合が1:2〜1:4となるように、かつ合計添加量が固形分換算で前記無機粒子100質量部に対して0.05〜2.00質量部となるように添加する、
請求項1又は請求項2記載のシリカ複合粒子の製造方法。
【0012】
〔請求項4記載の発明〕
前記無機粒子として、
製紙スラッジを主原料とする被処理物を脱水及び熱処理して得た平均粒子径が1.4μm以上、かつ粒子径1μm以下の割合が5%以上の再生粒子を用いる、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカ複合粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明のように、無機粒子及び珪酸アルカリを先行槽に供給し、この先行槽内の無機粒子が分散されたスラリーが、先行槽から直接又は他の槽を介して後行槽へ流れるものとしつつ、後行槽内のスラリーに鉱酸を添加するほか、先行槽内のスラリーにも鉱酸を先行添加し、かつ、少なくとも当該先行槽内のスラリーにポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤を添加することで、槽内のスケールの発生が効率的に抑えられ、製紙用の填料や顔料とするに適した粒子径、磨耗度、均質性、吸油量を有するシリカ複合粒子を連続的に製造することができるようになる。
【0014】
また、請求項2に係る発明のように、鉱酸の合計添加量を、後行槽を経たスラリーがpH7.0〜8.5となる量とし、かつ、先行添加する鉱酸の量を合計添加量の18〜48%とすることで、無機粒子の表面にシリカを十分に複合することができ、しかも得られるシリカ複合粒子の粒度分布をシャープにすることができるようになる。
【0015】
さらに、請求項3に係る発明のように、分散剤を、先行槽と後行槽との添加質量割合が1:2〜1:4となるように、かつ合計添加量が固形分換算で無機粒子100質量部に対して0.05〜2.00質量部となるように添加することで、スケールの発生を全工程にわたって確実に防止することができるようになり、結果、製紙用の填料や顔料とするにより適したシリカ複合粒子を連続的に製造することができるようになる。
【0016】
また、請求項4に係る発明のように、無機粒子として、製紙スラッジを主原料とする被処理物を脱水及び熱処理して得た平均粒子径が1.4μm以上、かつ粒子径1μm以下の割合が5%以上の再生粒子を用いることで、得られるシリカ複合粒子の粒子径分布を小径側においてシャープにすることができるとの作用効果が確実に奏せられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】シリカ複合設備の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
本形態のシリカ複合粒子の製造方法は、無機粒子、珪酸アルカリ水溶液、鉱酸及び分散剤を主な原料とし、無機粒子にシリカを複合させてシリカ複合粒子とするものである。
【0019】
原料として用いることができる無機粒子の種類は特に限定されず、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、クレー、タルク、カオリン、焼成カオリン、二酸化チタン、水酸化アルミニウム等の公知の無機粒子を、好ましくは製紙用の填料や顔料として好適に用いられる炭酸カルシウム、クレー、タルクを用いることができる。
【0020】
ただし、製紙スラッジ廃棄の問題等も同時に解決されることから、製紙スラッジを主な原料とする再生粒子を用いるのがより好ましい。そこで、以下では、無機粒子に対するシリカの複合方法を説明した後、再生粒子の製造方法について、好適な形態を説明する。
【0021】
〔シリカの複合方法〕
本形態のシリカの複合(製造)方法においては、図1に示すように、まず、無機粒子S及び珪酸アルカリKを先行槽たる第1の槽70Aに供給し、この第1の槽70A内の無機粒子Sが分散されたスラリーHAが、第1の槽70Aから第2の槽70Bへ、この第2の槽70Bから後行槽たる第3の槽70Cへ、この第3の槽70Cから第4の槽70Dへ流れるものとする。また、第3の槽30C内のスラリーHCに鉱酸R2を添加するほか、第1の槽70A内のスラリーHAにも鉱酸R1を先行添加する。さらに、先行槽たる第1の槽70A内のスラリーHA及び後行槽たる第3の槽70C内のスラリーHCにポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤B1,B2を添加し、もってシリカ複合粒子を連続的に製造する、
なお、本形態においては、無機粒子Sが分散されたスラリーHAが、先行槽たる第1の槽70Aから他の槽たる第2の槽70Bを介して後行槽たる第3の槽70Cへ流れるものとなっているが、他の槽を2槽、3槽又はそれ以上の複数槽とすることも、逆に他の槽を設けず、先行槽たる第1の槽70Aから直接後行槽たる第3の槽70Cへ流れるものとすることもできる。また、ポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤を、先行槽たる第1の槽70A内のスラリーHAのみに添加し、後行槽たる第3の槽70C内のスラリーHCには添加しないことや、第2の槽70B内のスラリーHBや第4の槽70D内のスラリーHDにも添加することなどもできる。以下、詳細に説明する。
【0022】
《第1の槽》
本形態において、無機粒子S及び珪酸アルカリKは、図示はしないが、各別に第1の槽70Aに供給し、第1の槽70A内において撹拌・混合して、スラリー化することもできる。しかしながら、図示例のように、第1の槽70Aに先行する混合槽90Sに、無機粒子S、珪酸アルカリK(又はその水溶液)及び適宜水等を供給し、当該混合槽90S内において撹拌・混合してから、第1の槽70Aに供給する方が好ましい。このように無機粒子S及び珪酸アルカリKをあらかじめ撹拌・混合してから第1の槽70Aに供給すると、無機粒子Sがより均一に分散するため、製造されるシリカ複合粒子の均質性が向上する。
【0023】
この点、通常であれば、第1の槽70A内のスラリーHAの撹拌強度を強くすることによって、あるいは撹拌時間を長くすることによって無機粒子Sの分散性を高めることができる。しかしながら、本形態においては、撹拌強度を強くし、あるいは撹拌時間を長くすることによって無機粒子Sの分散性を高めると、後述するように第1の槽70Aにおいて生成されるシリカゾルが好適なものとはならなくなる可能性がある。したがって、無機粒子S及び珪酸アルカリKをあらかじめ撹拌・混合することによって無機粒子Sの分散性を高める方が好ましい。
【0024】
なお、この無機粒子S等の撹拌・混合は、インラインミキサーを利用して行うことも考えられるが、スケールの防止という観点からは、本形態のように混合槽90Sを利用する方が好ましい。
【0025】
(珪酸アルカリ)
珪酸アルカリの種類は特に限定されず、例えば、液状、粉末状の無水物である珪酸ナトリウムガラス(水ガラス)、フレーク状のオルソ珪酸ナトリウム等の珪酸ナトリウム(Na2O・nSiO2・nH2O)や、一般工業用の珪酸カリウム水溶液、ブラウン管用蛍光物質結合剤として用いられている高純度珪酸カリウム等の珪酸カリウム(K2O・nSiO2)等を用いることができる。ただし、入手が容易であり、また、安価であることから、珪酸ナトリウム溶液たる3号水ガラスを用いるのが好ましい。
【0026】
珪酸アルカリは、例えば、水溶液として供給することができ、当該珪酸アルカリ水溶液の珪酸(SiO2)濃度は、6〜18g/Lであるのが好ましく、8〜16g/Lであるのがより好ましく、10〜14g/Lであるのが特に好ましい。
【0027】
珪酸濃度が6g/Lを下回ると、第3の槽70Cにおいてシリカゾルが十分に生成されない可能性があり、一部の無機粒子Sにシリカが複合せず、製造されるシリカ複合粒子の均質性が低下する可能性がある。この点、シリカ複合粒子の製造を従来のようにバッチ式で行う場合は、珪酸アルカリ水溶液の混合割合を増やすことによって珪酸の量を確保することができる。しかしながら、本形態の製造方法は、シリカ複合粒子を連続的に製造する連続式であり、珪酸アルカリが混合されたスラリーHAは、随時、第1の槽70Aから第2の槽70Bへ、第2の槽70Bから第3の槽70Cへ、第3の槽70Cから第4の槽70Dへと流れてしまい、それぞれの槽70A,70B,70C,70Dにおいて各別の反応が進められる。したがって、一原料のみの大幅な増量は、製造されるシリカ複合粒子の均質性低下につながる可能性があり、好ましいものではない。
【0028】
他方、珪酸濃度が18g/Lを上回ると、第3の槽70Cにおいてシリカゾルではなくホワイトカーボンが生成され、第4の槽70Dにおいて無機粒子Sの一部がホワイトカーボンによって被覆されてしまう可能性がある。無機粒子Sがホワイトカーボンで被覆されてしまうと、例えば、無機粒子Sの特性が発揮されなくなってしまい、特に無機粒子Sが再生粒子である場合においては、再生粒子が有する多孔質特性や光学的特性等が発揮されなくなって、再生粒子を用いる利点が失われる。
【0029】
(無機粒子)
無機粒子Sの種類は、前述したとおりである。
無機粒子Sは、平均粒子径が、1.4〜3.2μmであるのが好ましく、1.7〜3.0μmであるのがより好ましく、2.0〜2.8μmであるのが特に好ましい。
【0030】
無機粒子Sの平均粒子径が1.4μmを下回ると、本形態の製造方法によっても、第2の槽70Bにおける小径な無機粒子Sの糊付け(この「糊付け」の意味については、後述する。)が不十分となり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。他方、無機粒子Sの平均粒子径が3.2μmを上回ると、製造されるシリカ複合粒子の平均粒子径が大きくなり過ぎ、製紙用の填料や顔料として用いるに適さないものとなる可能性がある。
【0031】
無機粒子Sの体積平均粒子径は、レーザー粒度分布測定装置(レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製)にて粒子径分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒子径(d50)として求められる。測定試料の調製に際しては、0.1%ヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液に、無機粒子Sを添加し、超音波で1分間分散するものとする。
【0032】
無機粒子Sは、粒子径1μm以下の小径な無機粒子Sの質量割合が、5〜20%であるのが好ましく、5〜15%であるのがより好ましく、5〜10%であるのが特に好ましい。
【0033】
粒子径1μm以下の小径な無機粒子Sの質量割合が5%を下回る場合、つまり小径な無機粒子Sがもともと少ない場合は、本形態の製造方法による小径な無機粒子Sの糊付け機能が効果的に発揮されない可能性がある。他方、粒子径1μm以下の小径な無機粒子Sの質量割合が20%を上回る場合は、本形態の製造方法によっても、小径な無機粒子Sの糊付けが不十分となり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0034】
粒子径1μm以下の無機粒子Sの質量割合は、レーザー粒度分布測定装置(レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製)にて粒子径分布を測定し、全粒子の体積に対する粒子径1μm以下の粒子の累積体積として求められる。測定試料の調製に際しては、0.1%ヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液に、無機粒子Sを添加し、超音波で1分間分散するものとする。
【0035】
無機粒子Sは、鉱酸R1及び分散剤B1を添加する前のスラリーHA中において、濃度が、95〜125g/Lであるのが好ましく、100〜120g/Lであるのがより好ましく、105〜115g/Lであるのが特に好ましい。
【0036】
無機粒子Sの濃度が95g/Lを下回ると、生産性が悪く、連続式として生産性の向上を図る本形態の趣旨が減殺される可能性がある。他方、無機粒子Sの濃度が125g/Lを上回ると、各槽70A,70B,70C,70DにおけるスラリーHA,HB,HC,HDの粘度が増加して無機粒子Sの分散性が低下する可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の均質性が低下する可能性がある。特に無機粒子Sが再生粒子である場合においては、当該再生粒子が極めて多孔質であるために、スラリーHA,HB,HC,HDの粘度がより増加し易く、製造されるシリカ複合粒子の均質性がより低下する可能性がある。
【0037】
(清水)
本形態のおいては、無機粒子S及び珪酸アルカリKの混合液とは別に、清水Wを、インラインミキサー90W等を通して、好ましくは蒸気J等によって加熱して、第1の槽70Aに供給する。この清水Wの供給により、第1の槽70A内のスラリーHAの無機粒子Sの濃度や温度を調節することができる。
【0038】
(鉱酸)
第1の槽70A内のスラリーHAには、鉱酸R1を先行添加する。この鉱酸R1は、第3の槽70C内のスラリーHCに添加する鉱酸R2とは別に添加するものであり、しかも鉱酸R2の添加とは技術的な意味を異にする。
【0039】
すなわち、第1の槽(先行槽)70Aにおいても、第3の槽(後行槽)70Cにおいても、鉱酸R1,R2を添加することにより、シリカゾルを生成させるという点では同様である。しかしながら、第3の槽70Cにおいて生成させるシリカゾルは、第4の槽70Dにおいて無機粒子Sに複合させるためのシリカゾルである。これに対し、第1の槽70Aにおいて生成させるシリカゾルは、第2の槽70Bにおいて小径な無機粒子Sを他の無機粒子Sに付着させるための、いわば小径な無機粒子Sを他の無機粒子Sに糊付けするためのシリカゾルである(糊付け機能)。したがって、それぞれのシリカゾルに求められる特性が異なり、鉱酸R1,R2の添加条件等も異なる。つまり、鉱酸R1及び鉱酸R2を各別に添加するのは、スラリーHA,HB,HC,HDに対して鉱酸R1,R2を均一に分散させるために、複数の段階に分けて添加するのとは異なる。
【0040】
なお、鉱酸R1の添加に関して、先行という表現を用いているが、これは鉱酸R2に対する補助的な添加という意味ではなく、鉱酸R2の添加によるシリカの複合に先立って、無機粒子Sの粒子径を揃えるために先行的に添加するという意味である。
【0041】
鉱酸R1の種類は特に限定されず、例えば、希硫酸、希塩酸、希硝酸等の鉱酸の希釈液等を用いることができる。ただし、価格やハンドリング性等の点からは、鉱酸R1として希硫酸を用いるのが好ましい。
【0042】
鉱酸R1の濃度は、0.50〜4.00mol/L(1〜8N(規定度))であるのが好ましく、1.00〜3.00mol/L(2〜6N)であるのがより好ましく、1.75〜2.25mol/L(3.5〜4.5N)であるのが特に好ましい。
【0043】
鉱酸R1の濃度が0.50mol/Lを下回ると、十分な長さに成長しないシリカゾルの割合が増えるため、第2の槽70Bにおいて小径な無機粒子Sの糊付け機能が十分に発揮されない可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。特に本形態の製造方法は、シリカ複合粒子を連続的に製造する連続式であり、鉱酸R1が添加されたスラリーHAは、随時、第1の槽70Aから第2の槽70Bへと流れてしまうため、反応時間を長くしてシリカゾルを十分な長さに成長させるに適さない。
【0044】
他方、鉱酸R1の濃度が4.00mol/Lを上回ると、鉱酸R1の分散性が悪くなるため、生成されるシリカゾルの長さが不均一になり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布がブロードになる可能性がある。具体的には、十分な長さに成長しないシリカゾルが存在すると、その分だけ第2の槽70Bにおける小径な無機粒子Sの糊付けが不十分になり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。他方、必要以上の長さに成長したシリカゾルが存在すると、このシリカゾルにより第2の槽70Bにおいて平均径の無機粒子Sや大径な無機粒子Sの糊付け効果まで発生してしまう可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が大径側においてブロードになる可能性がある。
【0045】
この点、必要以上の長さに成長したシリカゾルは、強撹拌することによって短くすることもできるが、強撹拌すると他のシリカゾルまで短くなってしまう可能性がある。他のシリカゾルが短くなるということは、十分な長さに成長しないシリカゾルの割合が増えるのと同様であるため、その分だけ第2の槽70Bにおける小径な無機粒子Sの糊付けが不十分になり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0046】
また、鉱酸R1の濃度が高いほど早期にシリカゾルが生成されるところ、鉱酸R1の分散性が悪いと、スラリーHA中の高濃度になった部分において早期にシリカゾルが生成され、このシリカゾルにより第1の槽70A内において小径な無機粒子Sの糊付けが始まってしまう可能性がある。したがって、鉱酸R1の濃度が4.00mol/Lを上回ると、シリカゾルの生成は第1の槽70Aで行い、小径な無機粒子Sの糊付けは第2の槽70Bで行うことにより、反応の進行を揃え、粒子径分布をシャープにしようとした本形態の趣旨が減殺される可能性がある。
【0047】
ここで、当該反応の進行をより揃えるためには、鉱酸R1を図示例のような1箇所ではなく、2箇所、3箇所又はそれ以上の複数箇所から添加することもできる。ただし、本形態においては、鉱酸R1を添加するに先立って、スラリーHA中に無機粒子Sが分散されており、当該無機粒子Sによってシリカゾルの生成速度が抑えられるため、装置構造を複雑にしないという観点からは、鉱酸R1の添加箇所を1箇所とすることもできる。
【0048】
なお、シリカは、一般に、無水珪酸(SiO2)と、水和(含水)珪酸(SiO2・nH2O)とに大別され、本形態において生成されるシリカゾルは、主に含水珪酸のゾルであると考えられる。ただし、他の珪酸ゾルが生成されることを否定する趣旨ではない。また、シリカゾルは、一般に、粒子径10〜20nmの粒子状であるとされるが、この粒子が連鎖した状態で存在する。そこで、本明細書においては、この連鎖の長さをシリカゾルの長さとして表現している。
【0049】
鉱酸R1の添加量は特に限定されないが、第3の槽70Cにおいて添加する鉱酸R2との合計添加量を調節することにより、第3の槽70Cを経たスラリー、つまり、第4の槽70D内のスラリーHDがpH7.0〜8.5となる量とするのが好ましく、pH7.5〜8.5となる量とするのがより好ましく、pH7.8〜8.2となる量とするのが特に好ましい。
【0050】
鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量を、上記pHが7.0を下回る量とすると、第3の槽70Cにおいてシリカゾルではなくホワイトカーボンが生成されてしまい、第4の槽70Dにおいて無機粒子Sがホワイトカーボンによって被覆されてしまう可能性がある。無機粒子Sがホワイトカーボンで被覆されてしまうと、無機粒子Sの特性が発揮されなくなり、特に無機粒子Sが再生粒子である場合においては、再生粒子が有する多孔質特性や光学的特性等が発揮されなくなり、再生粒子を用いる利点が失われる。また、鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量を、上記pHが7.0を下回る量とすると、無機粒子Sが再生粒子である場合において、再生粒子の構成成分であるカルシウムが硫酸カルシウムに変化し易く、例えば、製造されるシリカ複合粒子の体積平均粒子径が過度に低下したり、形状が不均一になったりする可能性がある。シリカ複合粒子の体積平均粒子径が過度に低下したり、形状が不均一になったりすると、例えば、紙の填料として用いる場合において、歩留りの低下や紙粉の発生、不透明度の低下等をまねく可能性がある。
【0051】
他方、鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量を、上記pHが8.5を上回る量とすると、鉱酸R1と鉱酸R2との添加比にもよるが、通常、第3の槽70Cにおいてシリカゾルが十分に生成されなくなり、第4の槽70Dにおいて無機粒子Sに対するシリカの複合が不十分になる可能性がある。
【0052】
一方、鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量を、上記pHの範囲に制限することとの関係において、鉱酸R1の量を合計添加量の18〜48容量%とするのが好ましく、23〜43容量%とするのがより好ましく、28〜38容量%とするのが特に好ましい。
【0053】
鉱酸R1の添加量が合計添加量の18容量%を下回ると、第1の槽70Aにおいてシリカゾルが十分に生成されず、第2の槽70Bにおいて小径な無機粒子Sの糊付け機能が十分に発揮されない可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒度分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0054】
他方、鉱酸R1の添加量が合計添加量の48容量%を上回ると、第3の槽70Cにおいてシリカゾルが十分に生成されず、第4の槽70Dにおいて無機粒子Sに対するシリカの複合が十分に行われなくなる可能性がある。シリカの複合が不十分であると、特に無機粒子Sが再生粒子である場合においては、例えば、ワイヤー摩耗度等が高くなり、製紙用の填料や顔料としての特性に劣る可能性がある。
【0055】
鉱酸R1の添加速度は特に限定されるものではなく、前述した鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量(第4の槽70D内のスラリーHDのpH)、鉱酸R1の添加割合や、後述するスラリーHAの通過時間等から適宜決定することができる。
【0056】
(分散剤)
第1の槽70A内のスラリーHAには、鉱酸R1とともに、ポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤B1を添加する。この分散剤B1の添加によって、鉱酸R1の添加にともなうスケールの発生が防止される。また、本形態のように、第3の槽(後行槽)70C内のスラリーHCにも鉱酸R2を添加する場合、当該第3の槽70C内においては、第1の槽70A内におけるよりも多量のスケールが発生する。しかしながら、第1の槽70Aにおいては小径な無機粒子Sを糊付けするためのシリカゾルを生成する必要があり、この生成においては、スケールの発生が大きな問題となる。したがって、分散剤は、少なくとも第1の槽70A内のスラリーHAに添加する必要があり、第3の槽70C内のスラリーHCにも添加すると、より好ましいものとなる。また、分散剤は、例えば、第2の槽70B内のスラリーHBや第4の槽70D内のスラリーHDにも添加することができ、更に第1の槽70Aに先行する混合槽90Sに添加すること等もできる。なお、本形態において、主剤とは、50質量%以上を占める成分を意味する。
【0057】
ポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤B1の種類は特に限定されず、例えば、アロンT540(東亜合成製)、ポイズ520(花王製)、SNディスパーサント5040(サンノプコ製)等を例示することができる。ただし、ポリカルボン酸曹達を主剤とする分散剤を用いるのが好ましく、強いアニオン性を有するカルボン酸基の多いポリカルボン酸曹達を主剤とする分散剤を用いるのがより好ましい。このカルボン酸基の多いポリカルボン酸曹達を主剤とする分散剤としては、例えば、ポイズ520(花王製)、SNディスパーサント5040(サンノプコ製)等を例示することができる。
【0058】
分散剤B1,B2は、先行槽と後行槽との添加質量割合が1:2〜1:4となるように、かつ合計添加量が固形分換算で無機粒子(S)100質量部に対して0.05〜2.00質量部となるように添加するのが好ましい。また、特に分散剤B1の添加量は、固形分換算で、無機粒子(S)100質量部に対して、0.013〜0.66質量部とするのが好ましく、0.04〜0.40質量部とするのがより好ましく、0.07〜0.20質量部とするのが特に好ましい。分散剤B1の添加量が0.013質量部を下回ると、無機粒子Sに含まれるカチオン基とカルボン酸基等のアクリル酸基とが凝集してスラリーHA,HB,HC,HDが増粘してしまい、各槽70A,70B,70C,70Dの内壁面にスケールが発生する可能性がある。また、当該無機粒子Sと分散剤B1との凝集によって、最終的に得られるシリカ複合粒子の粒子径分布が大径側においてブロードになる可能性がある。
【0059】
他方、分散剤B1の添加量が0.66質量部を上回ると、スラリーHA,HB,HC,HD中の電解質濃度が上昇して当該スラリーHA,HB,HC,HDが増粘してしまい、各槽70A,70B,70C,70Dの内壁面にスケールが発生する可能性がある。また、得られたシリカ複合粒子を製紙用の填料として用いる場合に、過剰に存在する上記電解質によって、歩留りが低下する可能性がある。
【0060】
(撹拌)
製造されるシリカ複合粒子の均質性をより高めるためには、第1の槽70A内のスラリーHAを撹拌するのが好ましい。この撹拌の強度をどの程度のものとするかは特に限定されないが、スラリーHAのレイノルズ数(Re)が4000〜16000となるように撹拌するのが好ましく、6000〜14000となるように撹拌するのがより好ましく、8000〜12000となるように撹拌するのが特に好ましい。
【0061】
レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、生成されるシリカゾルの長さが不均一になり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布がブロードになる可能性がある。具体的には、十分な長さに成長しないシリカゾルが存在すると、その分だけ第2の槽70Bにおける小径な無機粒子Sの糊付けが不十分になり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。他方、必要以上の長さに成長したシリカゾルが存在すると、このシリカゾルにより第2の槽70Bにおいて平均径の無機粒子Sや大径な無機粒子Sの糊付け効果まで発生してしまう可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が大径側においてブロードになる可能性がある。
【0062】
また、鉱酸R1の濃度が高いほど早期にシリカゾルが生成されるところ、レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、鉱酸R1の分散性が悪く、スラリーHA中の高濃度なった部分において早期にシリカゾルが生成され、このシリカゾルにより第1の槽70A内において小径な無機粒子Sの糊付けが始まってしまう可能性がある。したがって、レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、シリカゾルの生成は第1の槽70Aで行い、小径な無機粒子Sの糊付けは第2の槽70Bで行うことにより、反応の進行を揃え、粒子径分布をシャープにしようとした本形態の趣旨が減殺される可能性がある。さらに、レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、分散剤B1が十分に分散されず、部分的にスケールが発生する可能性がある。
【0063】
他方、レイノルズ数が16000を上回るように撹拌すると、十分な長さに成長したシリカゾルが短くなってしまい、十分な長さに成長しないシリカゾルの割合が増えるのと同様な状態となる。したがって、その分だけ第2の槽70Bにおける小径な無機粒子Sの糊付けが不十分になり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0064】
ここでレイノルズ数(Re)は、第1の槽70A内のスラリーHAの流れの性質を示す無次元数であり、次式(1)で表される。
Re=ρvd/μ …(1)
なお、式(1)において、「ρ」はスラリーHAの密度(g/cm3)、「v」はスラリーHAの流速(cm/s)、「d」は第1の槽70Aの径(cm)、「μ」はスラリーHAの粘性係数(Ns/cm3)である。
【0065】
レイノルズ数を上記範囲に調節する方法は特に限定されず、例えば、上記式(1)から明らかなように、第1の槽70Aの径を変えることによっても調節することができる。もっとも、通常、当該径は、処理効率の観点から決定され、レイノルズ数調節のために変化させることができないため、図示例のように撹拌羽根等が備わる撹拌手段80Aを第1の槽70A内に設け、この撹拌手段80AによってスラリーHAを撹拌することにより、レイノルズ数を調節するのが好ましい。
【0066】
このように撹拌手段80Aを利用してレイノルズ数を調節するにあたっては、例えば、撹拌羽根を適宜逆転させること等もでき、また、撹拌手段80Aによる撹拌効果を高めるために、第1の槽70Aの内壁に邪魔板を取り付けること等もできる。
【0067】
(通過時間)
第1の槽70A内のスラリーHAのレイノルズ数を4000〜16000とすることとの関係において、第1の槽70AにおけるスラリーHAの通過時間は、2〜20分とするのが好ましく、4〜18分とするのがより好ましく、8〜12分とするのが特に好ましい。
【0068】
スラリーHAの通過時間が2分を下回ると、十分な長さに成長しないシリカゾルの割合が増えるため、第2の槽70Bにおいて小径な無機粒子Sが十分に糊付けされない可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0069】
この点、通過時間が2分を下回る場合は、鉱酸R1の濃度を高くする等しても、前述したように撹拌強度の向上に限界があるため、シリカゾルの成長が不均一に進むだけで、十分な長さに成長しないシリカゾルの割合を減らすには困難を伴う。
【0070】
他方、スラリーHAの通過時間が20分を上回っても処理効率が低下するだけで、シリカゾルの生成・成長に有用ではない。逆に、スラリーHAの通過時間が20分を上回ると、小径な無機粒子Sの糊付けが第1の槽70A内において始まって反応の進行が揃わなくなる可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布がシャープにならなくなる可能性がある。
【0071】
ここでスラリーHAの通過時間とは、鉱酸R1が添加された後、第1の槽70Aから流出するまでの計算上の時間であり、鉱酸R1が添加される前の時間は含まない。
【0072】
(温度)
第1の槽70A内のスラリーHAの温度は特に限定されないが、50〜100℃であるのが好ましく、70〜100℃であるのがより好ましく、90〜100℃であるのが特に好ましい。
【0073】
スラリーHAの温度は、シリカゾルの生成・成長、強度等に影響を及ぼし、スラリーHAの温度が50℃を下回ると、シリカゾルの生成・成長が遅くなり、十分な長さに成長しないシリカゾルの割合が増える可能性がある。結果、第2の槽70Bにおいて小径な無機粒子Sが十分に糊付けされない可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布がブロードになる可能性がある。
【0074】
この点、本形態の製造方法は、シリカ複合粒子を連続的に製造する連続式であり、スラリーHAは、随時、第1の槽70Aから第2の槽70Bへと流れてしまう。したがって、反応時間を長くしてシリカゾルを十分な長さに成長させるに適さない。また、第1の槽70Aにおいてシリカゾルが十分な長さに成長しないと、その分、通過時間の長い第2の槽70Bにおいてシリカではなくホワイトカーボンが生成されてしまう可能性があり、小径な無機粒子Sの糊付けが進まないばかりか、無機粒子Sの一部がホワイトカーボンによって被覆されてしまう可能性がある。第2の槽70Bにおいて無機粒子Sがホワイトカーボンによって被覆されてしまうと、第4の槽70Dにおけるシリカ複合が十分に進まなくなる可能性がある。また、特に無機粒子Sが再生粒子である場合においては、再生粒子が有する多孔質特性や光学的特性等が発揮されなくなり、再生粒子を用いる利点が失われる。
【0075】
他方、スラリーHAの温度が100℃を上回ると、オートクレーブ等を使用しなければならなくなるため、設備が複雑になる。また、スラリーHAの温度が100℃を上回ると、熱エネルギーの無駄になるほか、スラリーHAの沸騰により液面が変動するため、たとえ分散剤B1を添加したとしても第1の槽70Aの内壁面にスケールが付着する可能性がある。この他、水分の蒸発によりスラリーHAの濃度が上昇するため、増粘してしまい、増粘による撹拌不良等が生じる可能性がある。
【0076】
スラリーHAの温度を調節するにあたっては、例えば、第1の槽70Aに加温設備を設け、第1の槽70A内のスラリーHAを直接加温する方法によることもできるが、図示例のように、清水Wを蒸気J等によって加熱して第1の槽70A内に供給する方法によるのが好ましい。本形態においては、各種原料の均一分散性を目指しているため、当該清水Wを加温して供給する方法によると、必然的にスラリーHA全体が均一に加温されることになる。
【0077】
また、図示はしないが、スラリーの温度が上昇すると無機粒子Sの分散性が向上するため、珪酸アルカリK(溶液)を加温するのも好ましい形態である。
【0078】
なお、蒸気Jとしては、公知の熱源を利用することができるが、工場内の生蒸気(例えば、13kg/m2、120℃)を利用することにより、エネルギーの有効利用を図ることができる。
【0079】
ここでスラリーHAの温度は、第1の槽70Aの底面中央部に存在するスラリーHAの温度である。
【0080】
(スラリーの移動)
第1の槽70A内のスラリーHAを第2の槽70Bに流す(移動させる)方法は特に限定されず、例えば、第1の槽70A内及び第2の槽70B内と連通する配管を設け、この配管を通してスラリーHAを移動させることができる。
【0081】
ただし、図示例のように、第1の槽70A内のスラリーHAをオーバーフローさせて第2の槽70B内に移動させると好適である。図示例においては、第1の槽70A内に底面まで到達しない隔壁71Aが設けられており、第1の槽70A内に供給された各種材料(無機粒子S,珪酸アルカリK,鉱酸R1,分散剤B1,清水W)は、スラリーHAとして第1の槽70A内を下降し、隔壁71Aを潜った後、上昇し、オーバーフローして第2の槽70Bに移動させられる。配管を通してスラリーHAを移動する形態によると、スケールの問題や意図しないシリカゾルの成長、小径な無機粒子Sの糊付け等が進む可能性があるが、図示例の形態によると、かかる可能性が減少する。
【0082】
《第2の槽》
本形態において、第2の槽70B内のスラリーHBは、第1の槽70A内のスラリーHAが流れてきた(移動してきた)もののみでなり、新たに無機粒子Sや珪酸アルカリK、鉱酸、分散剤等は添加されない。
【0083】
第2の槽70Bにおいては、第1の槽70A内において生成・成長させられたシリカゾルによって、小径な無機粒子Sが他の無機粒子Sに糊付けされるため、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてシャープになる。
【0084】
この第2の槽70Bは、省略することもできるが、シリカゾルの生成や小径な無機粒子Sの糊付け等の反応の進行を揃えるという観点からは、本形態のように、第2の槽70Bを設ける方が好ましい。
【0085】
(撹拌)
本形態においては、小径な無機粒子Sの糊付けを均一に進めるために、第1の槽70Aにおけるのと同様に、スラリーHBを撹拌するのが好ましい。この撹拌の強度をどの程度のものとするかは特に限定されないが、スラリーHBのレイノルズ数(Re)が4000〜16000となるように撹拌するのが好ましく、6000〜14000となるように撹拌するのがより好ましく、8000〜12000となるように撹拌するのが特に好ましい。
【0086】
レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、小径な無機粒子Sの糊付けが不均一に進み、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0087】
他方、レイノルズ数が16000を上回るように撹拌すると、十分な長さに成長したシリカゾルが短くなってしまい、十分な長さではないシリカゾルの割合が増えることになるため、その分だけ小径な無機粒子Sの糊付けが不十分になり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。しかも、レイノルズ数が16000を上回るように撹拌すると、通常の無機粒子Sや大径の無機粒子Sに一度糊付けされた小径な無機粒子Sが再分散してしまう可能性があり、この点でも製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0088】
ここでレイノルズ数は、第2の槽70B内のスラリーHBの流れの性質を示す無次元数であり、前述式(1)で表される。
ただし、第2の槽70Bにおいて、「ρ」はスラリーHBの密度(g/cm3)、「v」はスラリーHBの流速(cm/s)、「d」は第2の槽70Bの径(cm)、「μ」はスラリーHBの粘性係数(Ns/cm3)である。
【0089】
レイノルズ数を上記範囲に調節する方法は特に限定されず、例えば、上記式(1)から明らかなように、第2の槽70Bの径を変えることによって調節することもできる。もっとも、通常、当該径は、処理効率や、第1の槽70Aと第2の槽70Bとの通過時間比の観点から決定され、レイノルズ数調節のために変化させることができないため、図示例のように、撹拌羽根等が備わる撹拌手段80Bを第2の槽70B内にも設け、この撹拌手段80BによってスラリーHBを撹拌することにより、レイノルズ数を調節するのが好ましい。
【0090】
この撹拌手段80Bは、第1の槽70Aにおける撹拌手段80Aと同様のものを用いることもできるが、第2の槽70Bの容量や形状等にあわせて、適宜大きさや形状を異なるものとするのが好適である。
【0091】
撹拌手段80Bを利用してレイノルズ数を調節するにあたっては、例えば、撹拌羽根を適宜逆転させることなどもでき、また、撹拌手段80Bによる撹拌効果を高めるために、第2の槽70Bの内壁に邪魔板を取り付けることなどもできる。
【0092】
(通過時間)
第1の槽70AにおいてスラリーHAをレイノルズ数が4000〜16000となるように撹拌しつつ、通過時間が2〜20分となるように流れるものとすることとの関係において、第2の槽70BにおけるスラリーHBの通過時間は、20〜50分となるように調節するのが好ましく、25〜45分となるように調節するのがより好ましく、30〜40分となるように調節するのが特に好ましい。
【0093】
スラリーHBの通過時間が20分を下回ると、小径な無機粒子Sの糊付けが十分に進まず、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。他方、スラリーHBの通過時間が50分を上回っても、第1の槽70AにおいてスラリーHAをレイノルズ数が4000〜16000となるように撹拌しつつ、通過時間が2〜20分となるように流れるものとして生成・成長させたシリカゾルとの関係において、更なる小径な無機粒子Sの糊付けは進まず、処理効率が低下する可能性がある。
【0094】
ここでスラリーHBの通過時間とは、スラリーHB(HA)が第2の槽70Bに流入してから、第3の槽70Cへ流出するまでの計算上の時間である。
【0095】
(温度)
第2の槽70B内のスラリーHBの温度は特に限定されないが、好ましくは50〜100℃、より好ましくは70〜100℃、特に好ましくは90〜100℃である。
【0096】
スラリーHBの温度は、当該スラリーHBの粘度に影響を及ぼし、スラリーHBの温度が50℃を下回ると、特に小径な無機粒子Sの分散性が悪化するため、当該小径な無機粒子Sの糊付けが不十分になる可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。この点、撹拌強度高めて分散性を向上させようとすると、通常の無機粒子Sや大径な無機粒子Sに糊付けされた小径な無機粒子Sが再分散してしまう可能性がある。
【0097】
他方、スラリーHBの温度が100℃を上回ると、オートクレーブ等を使用しなければならなくなるため、設備が複雑になる。また、スラリーHBの温度が100℃を上回ると、熱エネルギーの無駄になるほか、スラリーHBの沸騰により液面が変動するため、第1の槽70A内のスラリーHAに分散剤B1が添加されていたとしても、第2の槽70Bの内壁面にスケールが付着する可能性がある。この他、水分の蒸発によりスラリーHBの濃度が上昇するため、増粘し、この増粘による撹拌不良などが生じる可能性がある。
【0098】
ここでスラリーHBの温度は、第2の槽70Bの底面中央部に存在するスラリーHBの温度である。
【0099】
スラリーHBの温度を調節するにあたっては、例えば、第2の槽70Bに加温設備を設け、第2の槽70B内のスラリーHBを直接加温する方法によることもできる。ただし、第1の槽70Aや第2の槽70Bを断熱性の素材で形成しておけば、通常、第1の槽70AにおけるスラリーHAの温度調節をするのみで足り、本工程において温度調節をする必要がなくなる。
【0100】
なお、図示はしないが、第2の槽70Bにおいても第1の槽70Aの場合と同様に、蒸気等によって加温された清水をスラリーHBに供給することによって温度の調節を図ることができる。
【0101】
(スラリーの移動)
第2の槽70B内のスラリーHBを第3の槽70Cに流す(移動させる)方法は特に限定されず、例えば、第2の槽70B内及び第3の槽70C内と連通する配管を設け、この配管を通してスラリーHBを移動させることができる。
【0102】
ただし、図示例のように、第1の槽70Aにおけるのと同様、第2の槽70B内のスラリーHBをオーバーフローさせて第3の槽70C内に移動させると好適である。図示例では、第2の槽70B内に底面まで到達しない隔壁71Bが設けられており、第2の槽70B内に供給されたスラリーHB(HA)は第2の槽70B内を下降し、隔壁71Bを潜った後、上昇し、オーバーフローして第3の槽70Cに移動させられる。
【0103】
この点、配管を通してスラリーHBを移動する形態によると、スケールの問題や意図しない小径な無機粒子Sの分散が生じる可能性があるが、図示例の形態によると、かかる可能性が減少する。
【0104】
《第3の槽》
第3の槽70C内のスラリーHCには、鉱酸R2及びポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤B2が添加される。鉱酸R2の添加によって、第1の槽70Aにおけるのと同様に、シリカゾルが生成される。ただし、当該シリカゾルは、第4の槽70Dにおいて無機粒子Sに複合するためのシリカゾルであり、第2の槽70Bにおいて小径な無機粒子Sを他の無機粒子Sに糊付けするために、第1の槽70Aにおいて生成するシリカゾルとは技術的意味を異にする。したがって、下記に説明するように、当該シリカゾルに求められる特性が異なり、結果、鉱酸R2の添加条件等も異なる。また、分散剤B2の添加によって、第3の槽70C内におけるスケールの発生が確実に防止される。
【0105】
(鉱酸)
鉱酸R2の種類は特に限定されず、例えば、希硫酸、希塩酸、希硝酸等の鉱酸の希釈液等を用いることができる。この鉱酸R2は、第1の槽70Aにおいて用いる鉱酸R1と同じ種類のものであっても、異なる種類のものであってもよい。ただし、処理の安定性の観点からは、鉱酸R1と同じ種類のものであるのが好ましく、価格、ハンドリング性等の観点からは、鉱酸R2としても希硫酸を用いるのが好ましい。
【0106】
鉱酸R2の濃度は、好ましくは0.50〜4.00mol/L(1〜8N(規定度))、より好ましくは1.00〜3.00mol/L(2〜6N)、特に好ましくは1.75〜2.25mol/L(3.5〜4.5N)である。
【0107】
鉱酸R2の濃度が0.50mol/Lを下回ると、シリカゾルの生成が不十分になるため、第4の槽70Dにおける無機粒子Sに対するシリカの複合が不十分になる可能性があり、製造されるシリカ複合粒子が不均質になる可能性がある。特に本形態の製造方法は、シリカ複合粒子を連続的に製造する連続式であり、鉱酸R2が添加されたスラリーHCは、随時、第3の槽70Cから第4の槽70Dへと流れてしまうため、反応時間を長くしてシリカゾルの生成を図るには適さない。
【0108】
他方、鉱酸R2の濃度が4.00mol/Lを上回ると、鉱酸R2の分散性が悪くなるため、シリカゾルの生成が不均一になり、製造されるシリカ複合粒子の均質性が低下する可能性がある。また、鉱酸R2の濃度が高いほど早期にシリカゾルが生成されるところ、鉱酸R2の分散性が悪いと、スラリーHC中の高濃度なった部分において早期にシリカゾルが生成され、このシリカゾルにより第3の槽70C内において無機粒子Sに対するシリカの複合が進んでしまう可能性がある。したがって、鉱酸R2の濃度が4.00mol/Lを上回ると、シリカゾルの生成は第3の槽70Cで行い、無機粒子Sに対するシリカの複合は第4の槽70Dで行うことにより、反応の進行を揃え、粒子径分布をシャープにしようとした本形態の趣旨が減殺される可能性がある。
【0109】
ここで、当該反応の進行をより揃えるためには、鉱酸R2を図示例のような1箇所ではなく、2箇所、3箇所又はそれ以上の複数箇所から添加することもできる。ただし、本形態においては、鉱酸R2を添加するに先立って、スラリーHC中に無機粒子Sが分散されており、しかもこの無機粒子Sは、第1の槽70A及び第2の槽70Bにおける小径な無機粒子Sの糊付けにより粒子径分布が均一なものとされている。したがって、当該無機粒子Sによってシリカゾルの生成速度がより均一に揃えられるため、鉱酸R2の添加箇所を1箇所とすることもできる。なお、鉱酸R2を複数箇所から添加すると、当然、装置構成が複雑になる。
【0110】
鉱酸R2の添加量は特に限定されないが、前述したように第1の槽70Aにおいて添加する鉱酸R1との合計添加量を調節することにより、第4の槽70D内のスラリーHDがpH7.0〜8.5となる量とするのが好ましくは、pH7.5〜8.5となる量とするのがより好ましく、pH7.8〜8.2となる量とするのが特に好ましい。
【0111】
そして、鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量を、上記pHの範囲に制限することとの関係において、鉱酸R2の量を合計添加量の52〜82容量%とするのが好ましく、57〜77容量%とするのがより好ましく、62〜72容量%とするのが特に好ましい。
【0112】
鉱酸R2の添加割合が52容量%を下回ると、第3の槽70Cにおいてシリカゾルが十分に生成されなくなり、第4の槽70Dにおける無機粒子Sに対するシリカの複合が不十分になる可能性があり、製造されるシリカ複合粒子が製紙用の填料や顔料などとするに適したものとならなくなる可能性がある。特に無機粒子Sが再生粒子である場合においては、シリカの複合が不十分であるとワイヤー摩耗度が高くなる可能性があり、また、再生粒子は極めて多孔質であるため、複合されたシリカの剥落が生じやすくなり、抄造時等にかかる剪断力で当該シリカが剥落する可能性がある。
【0113】
他方、鉱酸R2の添加割合が82容量%を上回ると、第1の槽70Aにおける鉱酸R1の添加割合が少なくなり、第1の槽70Aにおいてシリカゾルが十分に生成・成長されなくなる可能性があり、第2の槽70Bにおける小径な無機粒子Sの糊付けが不十分になる可能性がある。
【0114】
(分散剤)
本形態においては、第3の槽70C内のスラリーHCにも、鉱酸R2とともに、ポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤B2を添加する。スケールは、鉱酸の添加時に発生し易いため、鉱酸は、第2の槽70B内のスラリーHBよりも、第3の槽70C内のスラリーHCに添加する方が好適である。もちろん、両方のスラリーHB,HCに鉱酸を添加することもできる。
【0115】
ポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤B2の種類は特に限定されず、例えば、アロンT540(東亜合成製)、ポイズ520(花王製)、SNディスパーサント5040(サンノプコ製)等を例示することができる。ただし、ポリカルボン酸曹達を主剤とする分散剤を用いるのが好ましく、強いアニオン性を有するカルボン酸基の多いポリカルボン酸曹達を主剤とする分散剤を用いるのがより好ましい。このカルボン酸基の多いポリカルボン酸曹達を主剤とする分散剤としては、例えば、ポイズ520(花王製)、SNディスパーサント5040(サンノプコ製)等を例示することができる。なお、主剤の意味は、前述したとおりである。
【0116】
分散剤B2は、第1の槽70Aにおいて用いる分散剤B1と同じ種類のものであっても、異なる種類のものであってもよい。ただし、処理の安定性の観点からは、分散剤B1と同じ種類のものであるのが好ましい。
【0117】
分散剤B2の添加質量割合や分散剤B1との合計添加量は、前述したとおりであるが、固形分換算で、無機粒子(S)100質量部に対して、0.027〜1.34質量部とするのが好ましく、0.08〜0.80質量部とするのがより好ましく、0.14〜0.40質量部とするのが特に好ましい。分散剤B2の添加量が0.027質量部を下回ると、第3の槽70C及び第4の槽70Dにおけるスケール防止効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0118】
他方、分散剤B2の添加量が0.40質量部を上回ると、スラリーHC,HD中の電解質濃度が上昇して当該スラリーHC,HDが増粘してしまい、第3の槽70C及び第4の槽70Dの内壁面にスケールが発生する可能性がある。また、得られたシリカ複合粒子を製紙用の填料として用いる場合に、過剰に存在する上記電解質によって、歩留りが低下する可能性がある。なお、本工程におけるスケールの発生は、第3の槽70C内におけるシリカゾルの生成に影響を及ぼし、結果、第4の槽70Dにおける無機粒子Sに対するシリカの複合が均一になされなくなるおそれをまねく。
【0119】
(撹拌)
本形態においては、製造されるシリカ複合粒子の均質性をより高めるために、第1の槽70A内や第2の槽70B内におけるのと同様に、第3の槽70C内のスラリーHCを撹拌するのが好ましい。
【0120】
この撹拌の強度をどの程度のものとするかは特に限定されないが、スラリーHCのレイノルズ数(Re)が4000〜16000となるように撹拌するのが好ましく、6000〜14000となるように撹拌するのがより好ましく、8000〜12000となるように撹拌するのが特に好ましい。
【0121】
ここで、当該レイノルズ数は、第3の槽70C内のスラリーHCの流れの性質を示す無次元数であり、前述式(1)で表される。
ただし、第3の槽70Cにおいて、「ρ」はスラリーHCの密度(g/cm3)、「v」はスラリーHCの流速(cm/s)、「d」は第3の槽70Cの径(cm)、「μ」はスラリーHCの粘性係数(Ns/cm3)である。
【0122】
レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、生成されるシリカゾルが不均一になり、最終的に得られるシリカ複合粒子の均質性が低下する可能性がある。また、鉱酸R2の濃度が高いほど短時間でシリカゾルが生成されるため、レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、シリカの複合が第3の槽70C内において部分的に始まってしまう可能性がある。したがって、シリカゾルの生成は第3の槽70Cで行い、シリカの複合は第4の槽70D内で行うことにより、反応の進行を揃え、シリカの均質性を向上させようとした本形態の趣旨が減殺される可能性がある。さらに、レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、分散剤B2が十分に分散されず、部分的なスケールの発生を防止できなくなる可能性がある。
【0123】
他方、レイノルズ数が16000を上回るように撹拌すると、通常の無機粒子Sや大径の無機粒子Sに糊付けされた小径な無機粒子Sが再分散してしまう可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0124】
本形態において、レイノルズ数を上記範囲に調節する方法は特に限定されず、例えば、上記式(1)から明らかなように、第3の槽70Cの径を変えることによっても調節することができる。もっとも、通常、当該径は、処理効率や、他の槽70A,70B,70Dとの通過時間比の観点から決定され、レイノルズ数調節のために変化させることができない。したがって、図示例のように撹拌羽根等が備わる撹拌手段80Cを第3の槽70C内にも設け、この撹拌手段80CによってスラリーHCを撹拌することにより、レイノルズ数を調節するのが好ましい。
【0125】
この撹拌手段80Cは、第1の槽70Aにおける撹拌手段80Aと同様のものを用いることもできるが、第3の槽70Cの容量や形状等にあわせて、適宜大きさや形状を異なるものとするのが好適である。
【0126】
撹拌手段80Cを利用してレイノルズ数を調節するにあたっては、例えば、撹拌羽根を適宜逆転させることなどもでき、また、撹拌手段80Cによる撹拌効果を高めるために、第3の槽70Cの内壁に邪魔板を取り付けることなどもできる。
【0127】
(通過時間)
第3の槽70CのスラリーHCのレイノルズ数を4000〜16000の範囲内とすることとの関係において、第3の槽70CにおけるスラリーHCの通過時間は、2〜20分となるように調節するのが好ましく、4〜18分となるように調節するのがより好ましく、8〜12分となるように調節するのが特に好ましい。
【0128】
ここで、スラリーHCの通過時間とは、鉱酸R2が添加された後、第3の槽70Cから流出するまでの計算上の時間である。なお、本形態では、第2の槽70B内から第3の槽70C内にスラリーHCが連続的に流入し、また、鉱酸R2の添加も連続的に行われるため、当該通過時間はスラリーHC(HB)が流入してから流出するまでの時間と同様である。
【0129】
スラリーHAの通過時間が2分を下回ると、シリカゾルの生成が不均一になるため、第4の槽70Dにおけるシリカの複合が不均一になる可能性があり、製造されるシリカ複合粒子の均質性が低下する可能性がある。
【0130】
なお、通過時間が2分を下回る場合、鉱酸R2の濃度を高くする等しても、前述したように撹拌強度の上限が制限されるため、シリカゾルの生成が不均一になる可能性がある。
【0131】
他方、スラリーHCの通過時間が20分を上回っても処理効率が低下するだけで、シリカゾルの生成に有用ではない可能性がある。逆に、スラリーHCの通過時間が20分を上回ると、シリカの複合が第3の槽70C内において始まってしまい、反応の進行が揃わなくなる可能性がある。結果、製造されるシリカ複合粒子の均質性が低下する可能性がある。
【0132】
本形態において、鉱酸R2の添加速度は特に限定されるものではなく、前述した鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量(第4の槽70D内のスラリーHDのpH)、鉱酸R2の添加割合や、上記スラリーHCの通過時間等から適宜決定することができる。
【0133】
(温度)
本形態において、第3の槽70C内におけるスラリーHCの温度は、特に限定されないが、好ましくは50〜100℃、より好ましくは70〜100℃、特に好ましくは80〜100℃である。
【0134】
スラリーHCの温度は、シリカゾルの生成、強度等に影響を及ぼし、スラリーHCの温度が50℃を下回ると、シリカゾルの生成が遅くなり、また、強度が弱くなる傾向があるため、第4の槽70Dにおけるシリカの複合が不十分になり、製造されるシリカ複合粒子の均質性が低下し、製紙用填料や顔料として使用するに適切なものではなくなる可能性がある。また、スラリーHCの温度が50℃を下回ると、スラリーHCの粘度が上昇するため、分散性が悪くなり、この点でも製造されるシリカ複合粒子の均質性が低下する可能性がある。さらに、本形態の製造方法は、シリカ複合粒子を連続的に製造する連続式であり、スラリーHCは、随時、第3の槽70Cから第4の槽70Dへと流れてしまうため、反応時間を長くしてシリカゾルの生成を十分なものとするには好ましいものではない。
【0135】
他方、スラリーHCの温度が100℃を上回ると、オートクレーブ等を使用しなければならなくなるため、設備が複雑になる。また、スラリーHCの温度が100℃を上回ると、熱エネルギーの無駄になるほか、スラリーHCの沸騰により液面が変動するため、たとえ分散剤B1,B2を添加したとしても第3の槽70Cの内壁面にスケールが付着する可能性がある。このほか、水分の蒸発によりスラリーHCの濃度が上昇するため、増粘し、増粘による撹拌不良などが生じる可能性がある。
【0136】
ここでスラリーHCの温度は、第3の槽70Cの底面中央部に存在するスラリーHCの温度である。
【0137】
本形態において、スラリーHCの温度を調節するにあたっては、例えば、第3の槽70Cに加温設備を設け、第3の槽70C内のスラリーHCを直接加温する方法によることもできる。ただし、第1の槽70Aや第2の槽70B、第3の槽70Cを断熱性の素材で形成しておけば、通常、第1の槽70AにおけるスラリーHAの温度調節をするのみで、第3の槽70CにおけるスラリーHCの温度は上記範囲となり、温度調節をする必要はなくなる。
【0138】
なお、図示はしないが、第3の槽70Cにおいても第1の槽70Aの場合と同様に、蒸気等によって加温された清水をスラリーHCに供給することによって温度の調節を図ることもできる。
【0139】
(スラリーの移動)
本形態において、第3の槽70C内のスラリーHCを第4の槽70Dに流す(移動させる)方法は特に限定されず、例えば、第3の槽70C内及び第4の槽70D内と連通する配管を設け、この配管を通してスラリーHCを移動させることができる。
【0140】
ただし、第1の槽70Aや第2の槽70Bにおけるのと同様に、第3の槽70C内のスラリーHCをオーバーフローさせて第4の槽70D内に移動させると好適である。図示例においては、第3の槽70C内に底面まで到達しない隔壁71Cが設けられており、第3の槽70C内に供給されたスラリーHC(HB)は第3の槽70C内を下降し、隔壁71Cを潜った後、上昇し、オーバーフローして第4の槽70Dに移動させられる。
【0141】
この点、配管を通してスラリーHCを移動する形態によると、スケールの問題や意図しない無機粒子Sに対するシリカの複合、小径な無機粒子Sの再分散が生じる可能性があるが、図示例のようなオーバーフローさせる形態によると、かかる可能性を減少させることができる。
【0142】
《第4の槽》
本形態において、第4の槽70D内のスラリーHDは、第3の槽70C内のスラリーHCが流れてきた(移動してきた)もののみでなり、新たに無機粒子Sや珪酸アルカリK、鉱酸、分散剤等は添加されない。
【0143】
本形態においては、第3の槽70C内において生成されたシリカゾルによって無機粒子Sに対するシリカの複合が行われ、シリカ複合粒子になる。
【0144】
(撹拌強度)
本形態においては、かかるシリカの複合を均一に進めるために、他の槽70A,70B,70Cにおけるのと同様に、スラリーHDを撹拌するのが好ましい。この撹拌の強度をどの程度のものとするかは特に限定されないが、スラリーHDのレイノルズ数(Re)が4000〜16000となるように撹拌するのが好ましく、6000〜14000となるように撹拌するのがより好ましく、8000〜12000となるように撹拌するのが特に好ましい。
【0145】
ここで、当該レイノルズ数は、第4の槽70DのスラリーHDの流れの性質を示す無次元数であり、前述式(1)で表される。
ただし、第4の槽70Dにおいて、「ρ」はスラリーHDの密度(g/cm3)、「v」はスラリーHDの流速(cm/s)、「d」は第4の槽70Dの径(cm)、「μ」はスラリーHDの粘性係数(Ns/cm3)である。
【0146】
レイノルズ数が4000を下回るように撹拌すると、シリカの複合が不均一になり、最終的に得られるシリカ複合粒子の均質性が低下する可能性がある。
【0147】
他方、レイノルズ数が16000を上回るように撹拌すると、シリカの複合がかえって阻害され、また、小径な無機粒子Sの再分散が生じ、製造されるシリカ複合粒子の粒子径分布が小径側においてブロードになる可能性がある。
【0148】
本形態において、レイノルズ数を上記範囲に調節する方法は特に限定されず、例えば、上記式(1)から明らかなように、第4の槽70Dの径を変えることによっても調節することができる。もっとも、通常、当該径は、処理効率や、他の槽70A,70B,70Cとの通過時間比の観点から決定され、レイノルズ数調節のために変化させることができないため、図示例のように撹拌羽根等が備わる撹拌手段80Dを第4の槽70D内にも設け、この撹拌手段80DによってスラリーHDを撹拌することにより、レイノルズ数を調節するのが好ましい。
【0149】
この撹拌手段80Dは、第1の槽70Aにおける撹拌手段80Aと同様のものを用いることもできるが、第4の槽70Dの容量や形状等にあわせて、適宜大きさや形状を異なるものとするのが好適である。
【0150】
撹拌手段80Dを利用してレイノルズ数を調節するにあたっては、例えば、撹拌羽根を適宜逆転させることなどもでき、また、撹拌手段80Dによる撹拌効果を高めるために、第4の槽70Dの内壁に邪魔板を取り付けることなどもできる。
【0151】
(通過時間)
本形態においては、鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量を前述pHの範囲に制限し、かつ鉱酸R2の量を合計添加量の52〜82容量%とすることとの関係において、第4の槽70DにおけるスラリーHDの通過時間が、20〜50分となるように調節するのが好ましく、25〜45分となるように調節するのがより好ましく、30〜40分となるように調節するのが特に好ましい。
【0152】
ここで、スラリーHDの通過時間とは、スラリーHD(HC)が第4の槽70Dに流入してから流出するまでの計算上の時間である。
【0153】
スラリーHDの通過時間が20分を下回ると、シリカの複合が十分に進まなくなるため、製造されるシリカ複合粒子が不均質になる可能性があり、製紙用の填料や顔料などとするに適したものとならなくなる可能性がある。特に無機粒子Sが再生粒子である場合においては、シリカの複合が不十分であるとワイヤー摩耗度が高くなる可能性があり、また、再生粒子は極めて多孔質であるため、複合されたシリカの剥落が生じやすくなり、抄造時等にかかる剪断力で当該シリカが剥落する可能性がある。
【0154】
他方、スラリーHDの通過時間が50分を上回っても、鉱酸R1及び鉱酸R2の合計添加量を前述pHの範囲に制限し、かつ鉱酸R2の量を合計添加量の52〜82容量%として生成させたシリカゾルとの関係において、シリカの複合は進まず、処理効率が低下する可能性がある。
【0155】
(温度)
本形態において、第4の槽70D内におけるスラリーHDの温度は、特に限定されないが、好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜100℃、特に好ましくは70〜100℃である。
【0156】
スラリーHDの温度は、当該スラリーHDの粘度に影響を及ぼし、スラリーHDの温度が50℃を下回ると、特にシリカゾルの分散性が悪化するため、当該シリカ(ゾル)の複合が十分に進まなくなり、製造されるシリカ複合粒子の均質性が低下し、製紙用の填料や顔料などとするに適したものとならなくなる可能性がある。特に無機粒子Sが再生粒子である場合においては、シリカの複合が不十分であるとワイヤー摩耗度が高くなる可能性があり、また、再生粒子は極めて多孔質であるため、複合されたシリカの剥落が生じやすくなり、抄造時等にかかる剪断力で当該シリカが剥落する可能性がある。なお、撹拌強度を高めて分散性を向上させようとすると、通常の小径な無機粒子Sが再分散してしまう可能性がある。
【0157】
他方、スラリーHDの温度が100℃を上回ると、オートクレーブ等を使用しなければならなくなるため、設備が複雑になる。また、スラリーHDの温度が100℃を上回ると、熱エネルギーの無駄になるほか、スラリーHDの沸騰により液面が変動するため、たとえ分散剤B1,B2が添加されているとしても第4の槽70Dの内壁面にスケールが付着する可能性がある。このほか、水分の蒸発によりスラリーHDの濃度が上昇するため、増粘し、増粘による撹拌不良などが生じる可能性がある。
【0158】
また、スラリーHDの温度は、第3の槽70CにおけるスラリーHCの温度よりも5〜10℃高いのが好ましい。第3の槽70Cにおける処理はシリカゾルの生成であるのに対し、第4の槽70Dにおける処理は無機粒子Sに対するシリカの複合である。この複合という観点からは、第4の槽70D内のスラリーHDの流速を下げるのが好ましく、スラリーHDの流速を下げることとの関係で、スラリーHDの温度を相対的に上げてスラリーHDの粘度を下げるのである。これにより、スラリーHDのレイノルズ数を前述範囲に維持することができる。
【0159】
ここでスラリーHDの温度は、第4の槽70Dの底面中央部に存在するスラリーHDの温度である。
【0160】
本形態において、スラリーHDの温度を調節するにあたっては、例えば、第4の槽70Dに加温設備を設け、第4の槽70D内のスラリーHDを直接加温する方法によることもできる。ただし、各槽70A,70B,70C,70Dを断熱性の素材で形成しておけば、通常、第1の槽70AにおけるスラリーHAの温度調節をするのみで足り、本形態において温度調節をする必要はなくなる。
【0161】
なお、図示はしないが、第4の槽70Dにおいても第1の槽70Aの場合と同様に、蒸気等によって加温された清水をスラリーHDに供給することによって温度の調節を図ることもできる。
【0162】
(スラリーの移動)
本形態において、第4の槽70D内のスラリーHDを第4の槽70Dから、例えば、脱水機等の他の設備に移動させる方法は特に限定されず、例えば、第4の槽70Dと他の設備とを配管等によって連通し、当該配管を通してスラリーHDを移動させることができる。
【0163】
ただし、第1の槽70Aから第2の槽70Bへ、第2の槽70Bから第3の槽70Cへ、第3の槽70Cから第4の槽70Dへの移動と同様に、第4の槽70D内のスラリーHDをオーバーフローさせて他の設備に移動させると好適である。図示例においては、第4の槽70D内に底面まで到達しない隔壁71Dが設けられており、第4の槽70D内に供給されたスラリーHD(HC)は第4の槽70D内を下降し、隔壁71Dを潜った後、上昇し、オーバーフローして他の設備に移動させられる。
【0164】
この点、配管を通してスラリーHDを移動する形態によると、スケールの問題や意図しない小径な無機粒子Sの分散、複合したシリカの剥離等が生じる可能性があるが、図示例のオーバーフローさせる形態によると、かかる可能性を減少させることができる。
【0165】
《その他の工程等》
第4の槽70Dから流出したスラリーHDは、平均粒子径や粒子径分布、摩耗度等が好適に制御されており、したがって、以上の製造方法によると、製紙用の填料や顔料として用いるに好適なシリカ複合粒子が連続的に得られることになる。
【0166】
また、スラリーHDは、例えば、ろ過、水洗い、脱水等してウェットケーキとすることができる。このウェットケーキは、例えば、風乾や加熱乾燥等して乾燥微粒子とした後、乾式粉砕機や湿式粉砕機等の粉砕機を使用して、粒子径を調整し、任意の粒子径のシリカ複合粒子とすることができる。
【0167】
なお、以上においては、各槽70A,70B,70C,70Dにおける処理(反応)が異なるものとして説明したが、これらの説明は目的とする処理であり、他の反応等が全く生じないことを意味するものではない。例えば、第1の槽70Aにおいてはシリカゾルの生成を目的とするが、小径な無機粒子Sの糊付けが全く生じてはならないことを意味するのではない。また、以上の工程には、本発明の目的を阻害しない範囲で、適宜の工程を付加することができる。
【0168】
以上の図示例では、第1の槽70A内のスラリーHAよりも第3の槽70C内のスラリーHCの方が、また、第2の槽70B内のスラリーHBよりも第4の槽70D内のスラリーHDの方が、容量が少ないが、これは単に作図上のものであり、各スラリーHA,HB,HC,HDの容量を限定する趣旨ではない。したがって、例えば、スラリーHA及びスラリーHC、スラリーHB及びスラリーHDの容量を同じとすることも、後者70C,70Dの容量を多くすることもできる。これら各スラリーHA,HB,HC,HDの容量は、各槽70A,70B,70C,70Dの通過時間等に応じて適宜決定することができる。
【0169】
ただし、装置構造をシンプルにするという観点からは、第1の槽70A及び第3の槽70Cの通過時間、並びに、第2の槽70B及び第4の槽70Dの通過時間を、それぞれ同じとする場合は、同容量、好ましくは同形状とするとよい。
【0170】
また、図示例では、各槽70A,70B,70C,70Dが一体的に形成されている形態を示しているが、各別に形成することもできる。
【0171】
《シリカ複合粒子》
本形態のシリカ複合粒子は、無機粒子Sの表面に粒子状のシリカが固着されてなるものであり、この固着されたシリカの粒子径は、通常、10〜20nmである。このシリカの粒子径は、例えば、前述スラリーHA,HB,HC,HDの撹拌強度や温度等を調節することによって調節することができる。
【0172】
シリカの粒子径は、当該シリカが球状の場合は直径を、球状でない場合は長径と短径の平均値を意味し、例えば、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡を使用して測定することができる。
【0173】
(摩耗度)
本形態のシリカ複合粒子は、プラスチックワイヤー摩耗度計(日本フィルコン製、3時間、スラリー濃度2質量%)を用いて測定したワイヤー摩耗度が、好ましくは15〜100mg、より好ましくは25〜90mg、特に好ましくは35〜70mgとされる。
【0174】
(粒子径)
以上の製造方法によって得られたシリカ複合粒子は、体積平均粒子径が、好ましくは3.0〜5.0μm、より好ましくは3.4〜4.3μm、特に好ましくは3.8〜4.3μmである。シリカ複合粒子の体積平均粒子径が3.0μmを下回ると、シリカ複合による効果が十分に発現されず、例えば、製紙用の填料として使用した場合において、吸油量や不透明度の向上効果が十分なものとはならない可能性がある。他方、シリカ複合粒子の体積平均粒子径が5.0μmを超えると、製紙用の填料として使用した場合において、引張り強度の低下や引裂き強度の低下等をまねき、また、紙粉の発生や、抄紙設備の汚損をまねく可能性がある。
【0175】
体積平均粒子径は、レーザー粒度分布測定装置(レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製)にて粒子径分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になるときの粒子径(d50)として求められる。測定試料の調製に際しては、0.1%ヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液に、シリカ複合粒子を添加し、超音波で1分間分散するものとする。
【0176】
また、本形態の製造方法によって製造したシリカ複合粒子は、粒子径1μm以下の小径な粒子の割合が、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1.5%、特に好ましくは0〜1.0%となる。他方、粒子径10μm以上の大径な粒子の割合が、好ましくは4〜16%、より好ましくは6〜14%、特に好ましくは8〜12%となる。
【0177】
粒子径1μm以下のシリカ複合粒子Sの質量割合は、レーザー粒度分布測定装置(レーザー解析式粒度分布測定装置「SALD−2200型」島津製作所社製)にて粒子径分布を測定し、全粒子の体積に対する粒子径1μm以下の粒子の累積体積として求められる。測定試料の調製に際しては、0.1%ヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液に、無機粒子Sを添加し、超音波で1分間分散するものとする。
【0178】
(吸油量)
本形態のシリカ複合粒子は、吸油量が、50〜180ml/100gであると好ましい。
シリカ複合粒子の吸油量が50〜180ml/100gであると、製紙用の填料として用いた場合において、当該シリカ複合粒子が紙層中に含浸したインクのビヒクル分や有機溶剤等を吸収するため、印刷不透明度、インク乾燥性、滲み等の問題が改善される。これに対し、シリカ複合粒子の吸油量が50ml/100gを下回ると、当該改善効果が不十分となる可能性や、シリカ複合粒子がインクの吸収性や乾燥性を阻害する可能性がある。この点、当該シリカ複合を接着剤と混合して塗工液とした場合、当該塗工液中においてシリカ複合粒子が接着剤を吸収し、その真密度が低下するため、沈降が抑制され、塗工層中において偏在しなくなる。しかしながら、吸油度が50mL/100gを下回ると、この効果が不十分となり、シリカ複合粒子の真比重と塗工液の比重との差によりシリカ複合粒子が沈降して偏在する可能性がある。
【0179】
他方、シリカ複合粒子の吸油量が180ml/100gを上回ると、インクの吸収性が向上し過ぎるため、インクの沈み込みや、発色性低下の問題が生じる可能性がある。また、180ml/100gを上回る吸油量のシリカ複合粒子は、接着剤と混合して塗工液として使用すると、塗工後、乾燥中にシリカ粒子が吸収した多量の塗料を放出して収縮するため、塗工層がひび割れを起こしたり、塗工層表面の平滑性が失われたりする可能性がある。
【0180】
シリカ複合粒子の吸油量は、例えば、前述シリカ複合工程におけるスラリーHA,HB,HC,HDの温度や通過時間、pH、粘度等を調節することによって調節することができる。
【0181】
シリカ複合粒子の吸油量は、JIS K 5101‐13‐2記載の練り合わせ法によって算出した値である。すなわち、105〜110℃で2時間乾燥したシリカ複合粒子(試料)2〜5gを、ガラス板に取り、精製アマニ油(酸化4以下)をビュレットから少量ずつ試料の中央に滴下し、その都度ヘラで練り合わせる。この滴下・練り合わせの操作を繰り返し、全体が最初に1本の棒状にまとまったときを終点とし、この時点における精製アマニ油の滴下量(ml)を求め、下記の式によって吸油量を算出する。
吸油量(ml/100)=(アマニ油量(ml)×100)/試料(g)
【0182】
(シリカ成分の割合)
本形態のシリカ複合粒子は、シリカ成分の割合が、好ましくは10.0〜50.0質量%、より好ましくは41.0〜49.0質量%、特に好ましくは42.0〜48.0質量%である。シリカ成分の割合が10.0質量%を下回ると、十分にシリカの複合が行われていない可能性があり、製紙用の填料や顔料として使用した場合において、吸油量や不透明度の向上効果が不十分になる可能性がある。他方、シリカ成分の割合が50.0質量%を上回ると、シリカの複合が過密に行われている可能性があり、製紙用の填料や顔料として使用した場合において、吸油量や不透明度の向上効果が不十分になる可能性がある。
【0183】
(成分構成)
無機粒子Sとして再生粒子を用いた場合、以上の製造方法によって得られたシリカ複合粒子は、その成分構成が、酸化物換算でカルシウム:ケイ素:アルミニウム=30〜80:10〜50:7〜20の質量割合であるのが好ましい。なお、この成分構成は、堀場製作所製のX線マイクロアナライザーを用い、加速電圧(15KV)にて元素分析を行い、構成成分を酸化物換算した値である。
【0184】
《用途》
本形態のシリカ複合粒子は、高い白色度を有し、特に無機粒子Sとして再生粒子を用いた場合は硬度が低いものとなる。したがって、製紙用の填料や顔料として用いるに好適であり、例えば、抄紙機や塗工機等の磨耗トラブルが回避される。また、無機粒子Sとして再生粒子を用いた場合は、多孔質である再生粒子の表面がシリカで複合されることになるため、比表面積が極めて広くなり、製紙用の填料や顔料として使用した場合には、吸油量や不透明度の改善を期待することができる。さらに、無機粒子Sとして再生粒子を用いた場合は、再生粒子のカチオン性とシリカのアニオン性とにより、繊維間結合が適度に阻害されるため、製紙用の填料として使用した場合に、嵩高性の改善を期待することができる。
【0185】
本形態のシリカ複合粒子を製紙用の填料や顔料として使用する場合、単独で使用することも、他の填料や顔料と併用することもできる。他の填料や顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、二酸化チタン、サチンホワイト等の無機粒子、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、スチレン・ブタジエン系共重合体系樹脂等の合成樹脂から製造される有機粒子等を例示することができる。
【0186】
また、必要に応じて、例えば、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉等の澱粉類、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂、植物性ガム、水性セルロース誘導体等の紙力増強剤、アクリルアミド・アミノメチルアクリルアミドの共重合物の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物、第4級アンモニウム塩等の歩留り向上剤、ロジン、澱粉、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、中性ロジン等のサイズ剤、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、耐水化剤、紫外線防止剤、退色防止剤、染料、顔料等の色料等の助剤を併用することもできる。
【0187】
本形態のシリカ複合粒子を製紙用の填料として使用する場合、全填料に対する質量割合が、例えば5〜100%となるように、好ましくは10〜100%となるように使用することができる。このような配合により、嵩高性、クッション性を確保するに効果的である。ただし、この場合は、平坦化処理による高密度化に伴ってシリカ複合粒子が潰れるのを防止するために、紙の灰分率が10〜20%となるように、好ましくは15〜20%となるように、調節するのが好適である。
【0188】
本形態のシリカ複合粒子を製紙用の填料として使用する場合は、例えば、前述ウェットケーキを再度水に分散して填料スラリーとし、この填料スラリーをパルプスラリーに内添するとよい。この填料が内添されたパルプスラリーに、必要に応じて紙力増強剤、サイズ剤、歩留り向上剤等の添加剤を加え、抄紙することにより、シリカ複合粒子内添紙が得られる。
【0189】
このシリカ複合粒子内添紙の坪量は特に限定されないが、例えば、36〜200g/m2とすることができる。
【0190】
他方、本形態のシリカ複合粒子は、例えば、塗工紙製造用(製紙用)の顔料として用いることができる。顔料として用いる場合は、例えば、適宜他の顔料と混合した後、例えば、珪酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ等の分散剤を添加してスラリーとし、このスラリーに接着剤や他の添加剤を混合して塗工液を調製し、この塗工液を中質紙や上質紙等からなる紙基材上に塗工することにより塗工紙を製造することができる。
【0191】
本形態のシリカ複合粒子を塗工紙製造用の顔料として用いる場合は、塗工機における作業性向上や欠陥防止という観点から、シリカ複合粒子の平均粒子径が0.5〜2.0μmであるのが好ましく、0.5〜1.5μmであるのがより好ましい。この平均粒子径は、例えば、無機粒子Sの平均粒子径や、シリカ複合粒子自体の平均粒子径を調節することによって、調節することができる。
【0192】
上記塗工液にシリカ複合粒子とともに用いる接着剤は、特に限定されず、例えば、スチレン‐ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート‐ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス、エチレン‐酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、これらの各種重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性の重合体ラテックス等を用いることができる。
【0193】
上記塗工液には、更に例えば、陽性化澱粉、酸化澱粉、酸素変性澱粉、熱化学変性澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、冷水可溶澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール、オレフィン‐無水マレイン酸樹脂等の水溶性合成接着剤等を添加することができる。
【0194】
また、必要に応じて、例えば、消泡剤、耐水化剤、流動性変性剤、着色剤、蛍光増白剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0195】
シリカ複合粒子を含有する塗工液も、通常の塗工液と同様に、例えば、エアーナイフコーター、ブレードコーター、ゲートロールコーター、ロッドコーター、バーコーター、キャストコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の公知の塗工機(コーター)を使用して、紙基材上に塗工することができる。
【0196】
シリカ複合粒子を含有する塗工液が塗工された塗工紙は、塗工液の乾燥後、例えば、平滑性や光沢性等の印刷適性を付与する目的で、通常の塗工紙と同様に、カレンダーの平坦化手段に通紙して加圧仕上げすることができる。当該カレンダーとしては、公知のカレンダー、例えば、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトコンパクトカレンダー等を使用することができる。
【0197】
なお、本形態のシリカ複合粒子は、製紙用の填料や顔料以外にも、例えば、ゴム、プラスチック、塗料、インキの添加剤等として使用することができる。
【0198】
〔再生粒子の製造方法〕
次に、無機粒子Sとして用いることができる再生粒子の製造方法について説明する。再生粒子は、前述特許文献2に記載の方法によって製造することもできるが、その後に、更に好適な再生粒子の製造方法を開発するに至ったので、以下では、この製造方法の改良点について説明する。
【0199】
再生粒子は、一般に製紙スラッジを燃焼することにより製造される。しかしながら、製紙スラッジに含有される有機物は、出所の違いや製紙工場内での抄造品種、定期修理や生産変動などにより多様に変化し、その品質変動が製紙スラッジの熱量変動を招き、燃焼温度の変動、燃焼時間の変動を来たし、最終的に得られる燃焼物(再生粒子)の品質、特に性状が一定でなくなり、また、燃焼物の白色度が不均一となる。
【0200】
そこで、本発明者らは、製紙スラッジの熱量変動を所定の範囲に調整し、燃焼温度の変動、燃焼時間の変動を生じさせないで、品質の安定した再生粒子を得る手段について検討を重ねた結果、製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理、適宜粉砕して再生粒子を製造するにあたり、「熱処理を、脱水後の被処理物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥工程で乾燥された被処理物を熱処理する第1の熱処理工程と、この第1の熱処理工程で熱処理された被処理物を第1の熱処理温度を超える温度で熱処理する第2の熱処理工程と、この第2の熱処理工程で熱処理された被処理物を第2の熱処理温度を超える温度で熱処理する第3の熱処理工程と、を含む少なくとも4工程に分けて行う」ことで、品質が均一化した再生粒子を安定的に製造できることを見出した。
【0201】
また、同時に、「上記乾燥は、脱水後の被処理物を熱気流に同伴させて行う」と好適であることも見出した。「脱水後の被処理物を熱気流に同伴させて乾燥する方式(以下、単に「気流乾燥方式」ともいう。)」とすると、乾燥に伴って被処理物が解れるため、後段で行う熱処理が均一かつ確実に行われるようになり、品質が均一化した再生粒子をより安定的に製造できるようになるのである。
【0202】
この点、乾燥に先立って後段の熱処理に好適な状態となるまで被処理物を均一に解すのは、困難を伴う。また、乾燥に先立って被処理物を解すのであれば、脱水率を高めておく必要があるが、脱水率を高めると被処理物が高圧縮化され、被処理物の乾燥効率が部分的に低下するおそれがあり、乾燥処理の不均一化、ひいては製品の不均一化をまねくおそれがある。他方、乾燥後に被処理物を解すのでは、不均一な状態にある被処理物を乾燥することになるため、乾燥が均一に行われなくなり、熱処理も均一に行われなくなる。結果、品質が均一化した再生粒子を安定的に製造できなくなる。
【0203】
一方、本形態において、後段の熱処理を複数の工程に分ける利点は、以下のとおりである。
製紙スラッジは、各種有機物(有機成分)を含有し、この有機物のなかには、紙由来の220℃近傍で発熱量のピークをもつアクリル系有機物、320℃近傍で発熱量のピークをもつセルロース、420℃近傍で発熱量のピークをもつスチレン系有機分が含まれ、古紙等の出発原料の種類や量により変動幅が大きいものの、例えば、1000〜2000cal/gの発熱量を有する。従来の再生粒子の製造方法においては、これらの有機分を、燃焼工程(酸化工程)において、他の有機分と一緒に燃焼(酸化)させて除去する方策が取られていた。しかしながら、本発明者等は、以上の各有機物が上記温度の近傍で発熱量のピークをもつ発熱量が高い物質であること、200〜300℃で熱分解される有機分を燃焼させる際に発火・過燃焼が生じ、燃焼制御が困難となり、白色度の低下のみならず、ゲーレナイトやアノーサイトからなる硬質物質の生成をまねくことを見出し、まず、第1の熱処理工程において、所定の高発熱量成分(アクリル系有機物及びセルロース)を被処理物中から、熱処理除去することで、過燃焼を抑え、硬質物質の生成を抑制できることを見出した。
【0204】
また、第1の熱処理工程と第2に熱処理工程とを別々に設ける利点は、従来の再生粒子の製造方法においては、被処理物中の微細繊維や有機高分子であるラテックス、印刷により付与されたインキ成分等を効率よく燃焼させるために、水分率を40%未満に脱水及び乾燥させ、高温で熱処理する方法を採用していた。しかしながら、本形態の製造方法においては、上記したように第1の熱処理工程において被処理物中の200〜300℃で熱分解・揮発蒸散する有機物をガス化してしまうため、第2の熱処理工程においては、安定的に熱処理を進行させることができ、被処理物の過燃焼や微粉化が抑制される。また、第1の熱処理工程と第2の熱処理工程とを分け、第1の熱処理工程において被処理物に含まれるアクリル系有機物及びセルロースを熱分解ガス化し、第2の熱処理工程において被処理物に含まれるスチレン系有機物を熱分解ガス化することで、得られる再生粒子の品質安定化、白色度向上に対する寄与が大きく、均一かつ安定的に再生粒子を得ることができる。このようにして、第3の熱処理工程においては、被処理物中の残カーボン等を含む有機物を、効率良く熱処理除去することができ、また、過燃焼によって生じる硬質物質の生成を抑えることができる。さらに、セルロースの熱分解ガスの発火温度はスチレンの熱分解温度を下回るため、第1の熱処理工程においてセルロースを熱分解除去してしまい、スチレンは第2の熱処理工程において熱分解するのが好適であり、ここにも第1の熱処理工程と第2に熱処理工程とを別々に設ける利点が存在する。
【0205】
ところで、本形態においては、乾燥工程を除く各熱処理工程において、キルン炉を用いるのが好適である。この理由は、次のとおりである。
従来から慣用的に用いられてきた熱処理炉は、ストーカー炉(固定床)、流動床炉、サイクロン炉、キルン炉の4種に大別でき、本発明者等は、それぞれの熱処理炉で再生粒子の製造の検討を重ねたところ、次記の事項が明らかとなった。
【0206】
ストーカー炉(固定床)は、脱墨フロス等の製紙スラッジの燃焼度合い調整が困難であり、再生粒子が不均一となるうえに、灰分の多い脱墨フロスの熱処理では、火格子間のクリアランスから落塵を生じる。火格子を通し被処理物の下から空気を吹き上げ、燃焼させるため、炭酸カルシウムなどが飛灰となり排ガスとともに排ガス設備へ送られ、歩留りの低下が問題となる。ストーカー(階段状)を、所定幅で被処理物を通過させながら熱処理するため、撹拌が不十分で幅方向で熱処理にバラツキが発生する。
【0207】
流動床炉は、炉内において珪砂等の粒子状の流動媒体を使用するため、珪砂等が被処理物中に混入し、品質の低下をまねく問題や、均一な撹拌ができないとの問題を有する。硅砂等を流動層に混合して熱処理させた後、硅砂等と被処理物とを分離し、硅砂等は炉内へ戻し被処理物のみを取り出すが、被処理物も硅砂等と同程度の粒径であるため分離が困難である。被処理物を硅砂等と浮遊した状態で熱処理させるため、熱処理の度合い調整が困難であり、品質のばらつきが発生する。硬度の高い珪砂等との摩擦、衝突により被処理物が微粉化され飛灰となって系外へ排出され歩留りが低下する。
【0208】
サイクロン炉は、被処理物が炉内を一瞬で通過するため、被処理物中の有機物を十分に熱処理することができず、白色度の低下に繋がる。また、風送によるため、細かい粒子がサイクロンで分離されず、排ガスと一緒に排ガス処理工程に回るため歩留りが低下する。
【0209】
以上の諸問題について鋭意検討を重ねた結果、本形態の乾燥工程を除く熱処理工程においては、内熱又は外熱キルン炉が好適な熱処理手段として選択された。
【0210】
《本再生粒子例》
本形態の再生粒子の製造方法によって得られる再生粒子は、X線マイクロアナライザーによる微細粒子の元素分析において、カルシウム、シリカ及びアルミニウムの比率が酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合、好ましくは40〜82:9〜30:9〜30の質量割合、より好ましくは60〜82:9〜20:9〜20の割合とされていると好適である。カルシウム、シリカ及びアルミニウムの比率が酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合とされていると、比重が軽く、過度の水溶液吸収が抑制されるため、脱水性が良好である。
【0211】
このカルシウム、シリカ及びアルミニウムの質量割合を調節する方法としては、被処理物の原料構成を調節することが本筋ではあるが、第1の熱処理工程や、第2の熱処理工程、第3の熱処理工程において、出所が明確な塗工フロスや調成工程フロスをスプレー等で添加し、あるいは焼却炉スクラバー石灰を添加して、調節することもできる。例えば、カルシウムの調節には、中性抄紙系の排水スラッジや塗工紙製造工程の排水スラッジを用い、シリカの調節には、不透明度向上剤としてホワイトカーボンが多量に添加されている新聞用紙製造系の排水スラッジを用い、アルミニウムの調節には酸性抄紙系の硫酸バンドの使用がある抄紙系の排水スラッジや、クレーの使用量が多い上質紙抄造工程における排水スラッジを用いることができる。
【0212】
ところで、被処理物の原材料ともいえる古紙は、近年の中性抄紙化、ビジュアル化の進展にともなう印刷見栄えの良い塗工紙使用量の増加にともない、填料・顔料としての炭酸カルシウムの使用量増加により、製紙スラッジ中の炭酸カルシウムの含有量増加につながり、結果としてゲーレナイトやアノーサイトの生成量増加に繋がるため、再生粒子に含有されるゲーレナイトやアノーサイト、いわゆる硬質物質の含有量をできる限り減少させる必要が大きくなっている。したがって、硬質物質の含有量を減らすことができる上記再生粒子の製造方法は、極めて有用であり、この製造方法によって製造された本形態の再生粒子は、ゲーレナイト及びアノーサイトの合計含有量が1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下とされている。
【0213】
ここで、ゲーレナイト及びアノーサイトの合計含有量は、下記の方法によって測定した値である。
(測定方法)
X線回析法(理学電気製、RAD2X)によって測定する。測定条件は、Cu‐Kα‐湾曲モノクロメーター:40KV‐40mA、発散スリット:1mm、SS:1mm、RS:0.3mm、走査速度:0.8度/分、走査範囲:2シータ=7〜85度、サンプリング:0.02度とする。
【0214】
以上のようにして得られた本再生粒子は、白色度が75〜85%、好ましくは80〜85%と高く、また白色度の変動が少ない。したがって、本再生粒子にシリカを複合したシリカ複合粒子をインクジェット記録用紙の基材に内添すると、従来公知の再生粒子や、市販填料である炭酸カルシウムを用いた場合と比較して、白色度が高くなる。
【0215】
また、本再生粒子は、平均粒子径が公知の炭酸カルシウムの平均粒子径(1〜2μm)より大きく、再生粒子が繊維間に定着する特性を有するため、これにシリカが複合されたシリカ複合粒子も、前述各種条件を満たすことにより、同様の特性を有することになり、嵩高性が向上する。しかも、再生粒子のアルミニウム分がカチオン性であるため、繊維(アニアオン性)への定着性が強く、炭酸カルシウムよりも配合量を低減させて、嵩高性及び強度を向上させることができる。
【実施例1】
【0216】
次に、本発明による製造例を挙げて本発明の作用効果を明らかにする。なお、本発明は、当然これらの例に限定されるものではない。また、以下おいて示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り絶乾質量基準である。
【0217】
無機粒子に対して、図1の製造設備を使用し、表1及び表2に示す条件で、シリカを複合した。製造されたシリカ複合粒子の成分分析結果を表3に示した。
【0218】
以上の製造例において、各種条件・成分等は、次のとおりである。なお、下記にない条件等は、前述したのと同様である。
(再生粒子)
製紙スラッジを脱水後、特許文献2に記載の製造方法を改良した前述製造方法によって再生粒子を製造した。
【0219】
(分散剤の添加量)
無機粒子100質量部に対する添加量(質量部)である(固形分換算)。
【0220】
((ワイヤー)摩耗度)
プラスチックワイヤー摩耗度計(日本フィルコン製、3時間)を用い、スラリー濃度2質量%で測定した値である。
【0221】
(均質性)
各シリカ複合粒子の白色度及び平均粒子径について変動割合を測定し、変動が少ない場合を「均質」とした。
【0222】
(総合評価)
総合評価は粒子径(粒度分布)及び吸油量で行うこととした。
5:体積平均粒子径が3.42〜4.26μmの範囲にあり、粒子径1μm以下の含有率が1.0%以下、粒子径10μm以上の含有率が10%以下、磨耗度が50mg以下、吸油量が80ml/100g以上であった場合
4:総合評価5に準じ、粒子径1μm以下の含有率が1.0%を超える又は磨耗度が80mg未満の範囲であった場合
3:総合評価5に準じ、体積平均粒子径が3.42〜4.26μmの範囲外であり、かつ粒子径1μm以下の含有率が1.0%を超える又は粒子径10μm以上の含有率が10%を超える範囲であった場合
2:総合評価5の評価基準において、体積平均粒子径、粒子径1μm以下の含有率、粒子径10μm以上の含有率、磨耗度、吸油量のいずれか3項目が範囲外である場合
1:総合評価5の評価基準において、体積平均粒子径、粒子径1μm以下の含有率、粒子径10μm以上の含有率、磨耗度、吸油量のいずれか4項目が範囲外である場合
【0223】
【表1】

【0224】
【表2】

【0225】
【表3】

【0226】
(考察)
いずれの製造例においても、平均粒子径、粒子径分布は好適なものとなり、また、摩耗度は低く抑えられ、均質性及び吸油量は十分なものとなった。ただし、本製造例の中では、相対的に以下の傾向があった。
製造例2は、粒子径分布がややブロードであった。
製造例4は、小径粒子がやや多く、粒子径分布がややブロードであった。
製造例5は、大径粒子がやや多く、粒子径分布がややブロードであった。
製造例6は、摩耗度がやや高く、粒子径分布がややブロードであった。
製造例7は、小径粒子がやや多かった。
製造例8は、小径粒子がやや多く、粒子径分布がややブロードであった。
製造例9は、摩耗度がやや高かった。
製造例10は、小径粒子がやや多く、粒子径分布がややブロードであった。
製造例11は、大径粒子がやや多く、粒子径分布がややブロードであった。また、摩耗度がやや高かった。
製造例12は、小径粒子がやや多く、粒子径分布がややブロードであった。
製造例13は、小径粒子がやや多く、粒子径分布がややブロードであった。
製造例25は、平均粒子径がやや小さかった。
製造例26は、平均粒子径がやや小さく、吸油量がやや低かった。
【実施例2】
【0227】
次に、分散剤の添加とスケール発生との関係を明らかにするための試験例を示す。
無機粒子に対して、図1の製造設備を使用し、分散剤を添加する槽を表4に示すように変化させて、シリカを複合した。結果も表4に示した。なお、無機粒子としては、製紙スラッジを脱水後、前述実施例1と同様の再生粒子を用いた。また、分散剤としては、ポリカルボン酸系分散剤(ポイズ520/花王)を用いた。また、分散剤の添加量は、第1の槽においては、再生粒子100質量部に対して、固形分換算で0.13質量部とし、第3の槽においては、再生粒子100質量部に対して、固形分換算で0.27質量部とした。
【0228】
なお、スケールの量は、目視評価とし、「多い」、「普通」、「少ない」、「無い」の4段階に分類した。
【0229】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0230】
本発明は、無機粒子にシリカが複合されたシリカ複合粒子を製造する方法、特に製紙用の填料や顔料として用いるに好適なシリカ複合粒子の製造方法として適用可能である。
【符号の説明】
【0231】
70A…第1の槽、70B…第2の槽、70C…第3の槽、70D…第4の槽、80A〜D…撹拌手段、B1,B2…分散剤、HA〜HD…スラリー、K…珪酸アルカリ、R1,R2…鉱酸、S…無機粒子、W…清水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子、珪酸アルカリ水溶液及び鉱酸から、前記無機粒子にシリカが複合されたシリカ複合粒子を製造する方法であって、
前記無機粒子及び前記珪酸アルカリを先行槽に供給し、この先行槽内の前記無機粒子が分散されたスラリーが、前記先行槽から直接又は他の槽を介して後行槽へ流れるものとしつつ、
前記後行槽内のスラリーに前記鉱酸を添加するほか、前記先行槽内のスラリーにも前記鉱酸を先行添加し、かつ、少なくとも当該先行槽内のスラリーにポリアクリル酸曹達を主剤とする分散剤を添加してシリカ複合粒子を連続的に製造する、
ことを特徴とするシリカ複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記鉱酸の合計添加量を、前記後行槽を経たスラリーがpH7.0〜8.5となる量とし かつ、前記先行添加する鉱酸の量を前記合計添加量の18〜48%とする、
請求項1記載のシリカ複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記分散剤を、先行槽と後行槽との添加質量割合が1:2〜1:4となるように、かつ合計添加量が固形分換算で前記無機粒子100質量部に対して0.05〜2.00質量部となるように添加する、
請求項1又は請求項2記載のシリカ複合粒子の製造方法。
【請求項4】
前記無機粒子として、
製紙スラッジを主原料とする被処理物を脱水及び熱処理して得た平均粒子径が1.4μm以上、かつ粒子径1μm以下の割合が5%以上の再生粒子を用いる、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカ複合粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−251867(P2011−251867A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126072(P2010−126072)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】