説明

シリコンインゴットの電磁鋳造方法

【課題】鋳造中にプラズマアークの失火が発生するのを低減することができるシリコンインゴットの電磁鋳造方法を提供する。
【解決手段】導電性を有する無底冷却ルツボ7にシリコン原料12を投入し、無底冷却ルツボ7を囲繞する誘導コイル8から電磁誘導加熱するとともに、プラズマトーチ14から不活性ガスを噴出しつつプラズマアークを発生させてプラズマ加熱することによりシリコン原料を融解させ、この溶融シリコン13を無底冷却ルツボ7から引き下げながら凝固させてシリコンインゴット3を鋳造するシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、プラズマトーチ14と溶融シリコン13との間隔Zを、シリコン原料を投入する高さZtの1/2以上とすることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用基板の素材であるシリコンインゴットの電磁鋳造方法に関し、さらに詳しくは、シリコンインゴットの鋳造中にプラズマアークの失火が発生するのを低減することができるシリコンインゴットの電磁鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の基板には、多結晶のシリコンウェーハを用いるのが主流である。その多結晶シリコンウェーハは、一方向凝固のシリコンインゴットを素材とし、このインゴットをスライスして製造される。太陽電池の普及を図るには、シリコンウェーハの品質を確保するとともに、コストを低減する必要があることから、その前段階で、シリコンインゴットを高品質で安価に製造することが要求される。この要求に対応できる方法として、特許文献1に開示されるように、電磁誘導を利用した連続鋳造方法(以下、「電磁鋳造法」ともいう)が実用化されている。
【0003】
図5は、電磁鋳造法に用いられる電磁鋳造装置の構成を示す模式図である。同図に示すように、電磁鋳造装置はチャンバー1を備える。チャンバー1は、内部を外気から隔離して鋳造に適した不活性ガス雰囲気に維持する二重壁構造の水冷容器である。チャンバー1の上壁には、開閉可能なシャッター2を介し、図示しない原料供給装置が連結されている。チャンバー1は、上部の側壁にチャンバー内に不活性ガスを供給する不活性ガス導入口5が設けられ、下部の側壁にチャンバー内の雰囲気を排出する排気口6が設けられている。不活性ガスとしてアルゴンやヘリウムが用いられる。
【0004】
チャンバー1内には、無底冷却ルツボ7、誘導コイル8およびアフターヒーター9が配置され、冷却ルツボ7の上方には、プラズマトーチ14が昇降可能に設けられる。冷却ルツボ7は、融解容器としてのみならず、鋳型としても機能し、熱伝導性および電気伝導性に優れた金属(例えば、銅)製の角筒体で、チャンバー1内に吊り下げられている。この冷却ルツボ7は、軸方向の一部が、複数の短冊状の素片により、周方向で複数に分割される。また、冷却ルツボ7は、内部を流通する冷却水によって強制冷却される。
【0005】
誘導コイル8は、冷却ルツボ7を囲繞するように、冷却ルツボ7と同芯に周設され、図示しない電源装置に接続されている。アフターヒーター9は、冷却ルツボ7と同芯に、冷却ルツボ7の下方に複数連設され、冷却ルツボ7から引き下げられるシリコンインゴット3を加熱して、その軸方向に適切な温度勾配を与えつつ、長時間かけて室温まで冷却する。
【0006】
また、チャンバー1内には、原料供給装置に連結されたシャッター2の下方に原料導入管11が取り付けられており、原料導入管11はシリコン原料の投入位置を決定する投入部11aを有する。シャッター2の開閉に伴って、粒状や塊状のシリコン原料12が原料供給装置から原料導入管11内に供給され、冷却ルツボ7内に投入される。シリコン原料12の投入は、通常、シリコン原料の融解を促進するために最も入熱量が多いプラズマトーチ14の真下位置に向けて行われる。一方、原料導入管11の配置は、プラズマトーチ14や冷却ルツボ7、冷却ルツボ7を吊り下げる部材との干渉といった装置構造上により制限される。このため、原料の投入位置を決定する投入部11aは、通常、インゴット3の引き下げ軸と投入部11aとがなす角αを20°〜40°にして設けられる。
【0007】
チャンバー1の底壁には、アフターヒーター9の下方に、インゴット3を抜き出すための引出し口4が設けられ、この引出し口4はシールされている。インゴット3は、引出し口4を貫通して下降する支持台15によって支えられながら引き下げられる。
【0008】
プラズマトーチ14は、図示しないプラズマ電源装置の一方の極に接続され、他方の極は、インゴット3側に接続されている。このプラズマトーチ14は、下降させてその先端部が冷却ルツボ7内に挿入された状態で使用される。また、プラズマトーチ14から発生するプラズマアークを安定して保持するために、プラズマトーチ14から不活性ガスが噴出される。
【0009】
このような電磁鋳造装置を用いた電磁鋳造法では、冷却ルツボ7内にシリコン原料12を投入し、誘導コイル8に交流電流を印加するとともに、下降させたプラズマトーチ14から不活性ガスを噴出しつつプラズマトーチ14に通電を行う。このとき、冷却ルツボ7を構成する短冊状の各素片が互いに電気的に分割されていることから、誘導コイル8による電磁誘導に伴って各素片内で渦電流が発生し、冷却ルツボ7の内壁の渦電流が冷却ルツボ7内に磁界を発生させる。
【0010】
これにより、冷却ルツボ7内のシリコン原料は電磁誘導加熱されて融解し、溶融シリコン13が形成される。また、プラズマトーチ14とシリコン原料、さらには溶融シリコン13との間にプラズマアークが発生し、そのジュール熱によっても、シリコン原料が加熱されて融解し、電磁誘導加熱の負担を軽減して効率良く溶融シリコン13が形成される。
【0011】
溶融シリコン13は、冷却ルツボ7の内壁の渦電流に伴って生じる磁界と、溶融シリコン13の表面に発生する電流との相互作用により、溶融シリコン13の表面の内側法線方向に力(ピンチ力)を受ける。このため、冷却ルツボ7と溶融シリコン13とは、非接触の状態に維持される。
【0012】
冷却ルツボ7内でシリコン原料12を融解させながら、溶融シリコン13を支える支持台15を徐々に下降させると、誘導コイル8の下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなることから、発熱量およびピンチ力が減少し、さらに冷却ルツボ7からの冷却により、溶融シリコン13は外周部から凝固が進行する。そして、支持台15の下降に伴ってシリコン原料12を連続的に投入し、融解および凝固を継続することにより、溶融シリコン13が一方向に凝固し、インゴット3を連続して鋳造することができる。
【0013】
このような電磁鋳造法によれば、溶融シリコン13と冷却ルツボ7との接触が軽減されるため、その接触に伴う冷却ルツボ7からの不純物の汚染が防止され、高品質のインゴット3を得ることができる。しかも、連続鋳造であることから、安価に一方向凝固されたインゴット3を製造することが可能になる。
【0014】
ここで、電磁鋳造法によるインゴットの鋳造では、鋳造されたインゴットの引き下げ軸方向における品質を均一にするため、通常、引き下げ速度を一定にしてインゴットを鋳造する。このため、冷却ルツボへのシリコン原料の投入速度や誘導コイルに印加される交流電流の電圧値および電流値、プラズマトーチに通電される直流電流の電圧値および電流値は、可能な限り一定とすることが求められる。
【0015】
また、プラズマトーチに通電を行うプラズマ電源装置には、通常、装置保護のためにインターロック機構が設けられており、電圧値がインターロック機構で設定された閾値を超えた場合に直流電流の通電が停止する。プラズマ電源装置のインターロック機構が作動してプラズマトーチへの直流電流の通電が停止すると、プラズマトーチによるプラズマアークが消失する失火が発生する。インゴットの鋳造中にプラズマアークの失火が発生すると、溶融シリコンに高濃度で含まれている不純物がインゴットに取り込まれることから、鋳造されたインゴットのうちプラズマアークが失火した際に凝固した部分を切り捨てる必要がある。
【0016】
図6は、プラズマアークの失火発生により、溶融シリコンに高濃度で含まれる不純物がインゴットに取り込まれる様子を示す模式図であり、同図(a)はプラズマ加熱がある状態、同図(b)はプラズマアークの失火が発生した状態をそれぞれ示す。同図には、電磁鋳造装置が備える冷却ルツボ7、誘導コイル8、アフターヒーター9およびプラズマトーチ14と、加熱により融解した溶融シリコン13並びに鋳造されるシリコンインゴット3とを示す。
【0017】
プラズマ加熱および電磁誘導加熱によりシリコン原料を融解して溶融シリコン13を形成し、この溶融シリコン13を引き下げながら凝固させてインゴット3を長時間にわたって鋳造すると、溶融シリコン13と凝固したインゴット3との間での不純物元素の偏析現象に起因して、同図(a)に示すように、溶融シリコン13に含まれる不純物17の濃度が上昇する。
【0018】
プラズマアークの失火が発生すると、溶融シリコン13への入熱量が急激に減少して固液界面付近の溶融シリコン13が急激に凝固する。溶融シリコン13中の不純物濃度が上昇している状態で、溶融シリコン13が急激に凝固すると、同図(b)に示すように、溶融シリコン13に高濃度で含まれていた不純物17がインゴット3に取り込まれる。その結果、鋳造されたインゴット3のうちプラズマアークの失火が発生して入熱量が急激に減少した際に凝固した部分は、不純物が高濃度となる。
【0019】
このようにインゴットのうちプラズマアークの失火が発生した際に凝固した部分は、不純物が高濃度であることから、製品不良として切り捨てられる。プラズマアークの失火により製品不良となる部分の長さは、失火してからプラズマ加熱が復帰するまでに要する時間により変化するが、プラズマアークの失火が1回発生するとインゴットの製造歩留りが概ね10〜20%程度低下する。
【0020】
プラズマ加熱を用いて原料を融解して凝固させてインゴットを鋳造する方法に関し、従来から種々の提案がなされており、例えばTiまたはTi合金の一次溶解に関する特許文献2がある。特許文献2で提案されるプラズマ加熱を用いたインゴットの鋳造方法は、電磁誘導加熱を用いることなく、プラズマ加熱により原料を融解して水冷モールド内に溶融金属を形成し、この溶融金属引き下げながら凝固させてインゴットを鋳造する際に、溶融部位の温度を赤外線熱センサーで測定し、データ処理を行って所定の温度レベルに属する溶融部位の面積率を算出し、その値に応じて原料投入速度を決定する。
【0021】
また、特許文献2には、溶融金属とプラズマトーチとの間隔はプラズマトーチに通電される電流の電圧値と密接な関係があることが記載されている。このため、特許文献2で提案されるインゴットの鋳造方法では、プラズマトーチに通電される電流の電圧値を監視し、設定電圧から所定の値を超えて変動したときは、設定電圧に戻るようにインゴットの引き下げ速度を変化させるのが好ましいとしている。
【0022】
しかし、電磁鋳造法によるシリコンインゴットの鋳造において、特許文献2で提案されるインゴットの鋳造方法を適用し、溶融シリコンの温度に応じてシリコン原料の投入速度を調整するとともに、プラズマトーチに通電される電流の電圧値を監視し、電圧値に応じてインゴットの引き下げ速度を調整して設定電圧に制御した場合でも、前述のインターロック機構が作動することによるプラズマアークの失火が発生して問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開WO02/053496号パンフレット
【特許文献2】特開平6−624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
前述のとおり、電磁鋳造法によるシリコンインゴットの鋳造では、インゴット鋳造中にプラズマトーチに通電される電流の電圧値が閾値を超えてインターロック機構が作動し、プラズマアークの失火が発生する場合がある。この場合、鋳造されたインゴットのうちプラズマアークの失火が発生した際に凝固した部分は、不純物が高濃度で含まれることから、製品不良となって製造歩留りを低下させる。また、電磁鋳造法によるシリコンインゴットの鋳造において、前記特許文献2で提案されるインゴットの鋳造方法を適用した場合でも、プラズマアークの失火が発生して問題となる。
【0025】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、シリコンインゴットの鋳造中にプラズマアークの失火が発生するのを低減することができるシリコンインゴットの電磁鋳造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記課題を解決するため、電磁鋳造法によるシリコンインゴットの鋳造中にプラズマアークの失火が発生する原因について調査し、その結果、付着シリコンがプラズマアークの失火を誘発していることを見出した。ここで、付着シリコンとは、溶融シリコンがシリコン原料を冷却ルツボ内に投入する際の落下に伴い跳ね上げられてプラズマトーチの先端部に付着し、長時間にわたる鋳造で跳ね上げられた溶融シリコンがさらに付着して肥大化したものである。
【0027】
図7は、電磁鋳造法におけるプラズマトーチへのシリコンの付着率とプラズマアークの失火発生率の相関を表す円グラフを示す図であり、グラフ(a)はプラズマトーチへのシリコンの付着率、グラフ(b)はシリコンが付着しなかった場合の失火発生率、グラフ(c)はシリコンが付着した場合の失火発生率をそれぞれ示す。同図では、インゴットの鋳造が完了した後、プラズマトーチの先端部を確認し、直径20mm以上の付着シリコンが確認された場合に付着シリコン有りと判定し、シリコンの付着率を算出した。
【0028】
同図から、付着シリコンが観察されなかった場合、プラズマアークの失火発生率は39%であるのに対し、付着シリコンが観察された場合、プラズマアークの失火発生率は74%であった。このように、プラズマトーチにシリコンが付着した場合は、シリコンが付着しなかった場合と比べ、プラズマアークの失火発生率が倍近くになることから、付着シリコンがプラズマアークの失火を誘発していることが確認される。
【0029】
前述のとおり、付着シリコンは、冷却ルツボ内へのシリコン原料の投入に伴い溶融シリコンが跳ね上げられてプラズマトーチの先端部に付着し、肥大化したものである。このため、本発明者らは、プラズマトーチへのシリコンの付着率と、プラズマトーチと溶融シリコンとの間隔(以下、単に「プラズマトーチ高さ」ともいう)との関係について調査した。その結果、本発明者らは、後述する図3に示すように、プラズマトーチ高さを、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とすることにより、プラズマトーチにシリコンが付着するのを抑制できることを知見した。
【0030】
一方、プラズマトーチ高さは、プラズマトーチに通電される電流の電圧値と密接な関係があり、プラズマ加熱に要求される入熱量により設定された電圧値に応じて調整する必要がある。すなわち、プラズマトーチ高さを変更すると、プラズマトーチに通電される電流の電圧値が変化することから、従来は、プラズマトーチに通電される電流の電圧値を一定とした状態で、プラズマトーチ高さを調整することはできなかった。また、原料導入管の配置に装置構造上の制限があるので、シリコン原料を投入する高さを調整して低くするのは限界がある。そこで、本発明者らは、プラズマトーチに通電される電流の電圧値を変化させることなく、プラズマトーチ高さを調整し、プラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2以上とする方法について検討した。
【0031】
ここで、従来の電磁鋳造法によるシリコンインゴットの鋳造では、プラズマトーチからの不活性ガスは、プラズマトーチ先端の噴出圧力が一定となるように制御されて噴出されていた。本発明者らは、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を計測する流量計を電磁鋳造装置に設け、プラズマトーチに通電される電流の電圧値を一定にした状態で、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量と、プラズマトーチ高さとの関係について調査した。
【0032】
その結果、本発明者らは、プラズマトーチに通電される電流の電圧値を一定にした場合、後述する図4に示すように、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量とプラズマトーチ高さとは相関関係を有し、不活性ガスの流量が減少するほど、プラズマトーチ高さが高くなることを明らかにした。言い換えると、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を変更することにより、プラズマトーチに通電される電流の電圧値を一定にした状態で、プラズマトーチ高さを調整できることを知見した。
【0033】
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものであり、下記(1)および(2)のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を要旨としている。
【0034】
(1)導電性を有する無底冷却ルツボにシリコン原料を投入し、無底冷却ルツボを囲繞する誘導コイルから電磁誘導加熱するとともに、プラズマトーチから不活性ガスを噴出しつつプラズマアークを発生させてプラズマ加熱することによりシリコン原料を融解させ、この溶融シリコンを無底冷却ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを鋳造するシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、プラズマトーチと溶融シリコンとの間隔(プラズマトーチ高さ)を、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とすることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造方法。
【0035】
(2)前記プラズマトーチと溶融シリコンとの間隔を、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とする際に、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を変更してプラズマトーチと溶融シリコンとの間隔を調整することを特徴とする上記(1)に記載のシリコンインゴットの電磁鋳造方法。
【0036】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、「シリコン原料を投入する高さ」とは、投入されるシリコン原料を自由落下させる高さを意味する。例えば、後述する図1に示すように原料導入管11により冷却ルツボ7にシリコン原料12を投入する場合、シリコン原料を投入する高さZtは、溶融シリコンの上面に対する原料導入管11の下端の高さとなる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、プラズマトーチと溶融シリコンとの間隔を、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とすることにより、プラズマトーチにシリコンが付着するのを抑制できる。これにより、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、シリコンインゴットの鋳造中にプラズマアークの失火が発生するのを低減可能であり、製造歩留りを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】電磁鋳造法によりシリコンインゴットを鋳造する際に跳ね上げられた溶融シリコンの挙動を説明する模式図であり、同図(a)は従来法により鋳造する場合、同図(b)は本発明により鋳造する場合をそれぞれ示す。
【図2】プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量によるプラズマアークの発生挙動を説明する模式図であり、同図(a)は流量を増加させた場合、同図(b)は流量を減少させた場合をそれぞれ示す。
【図3】本発明例および比較例におけるシリコン付着率を示す図である。
【図4】プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量と、プラズマトーチ高さとの関係を示す図である。
【図5】電磁鋳造法に用いられる電磁鋳造装置の構成を示す模式図である。
【図6】プラズマアークの失火発生により、溶融シリコンに高濃度で含まれる不純物がインゴットに取り込まれる様子を示す模式図であり、同図(a)はプラズマ加熱がある状態、同図(b)はプラズマアークの失火が発生した状態をそれぞれ示す。
【図7】電磁鋳造法におけるプラズマトーチへのシリコンの付着率とプラズマアークの失火発生率の相関を表す円グラフを示す図であり、グラフ(a)はプラズマトーチへのシリコンの付着率、グラフ(b)はシリコンが付着しなかった場合の失火発生率、グラフ(c)はシリコンが付着した場合の失火発生率をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
上述のとおり、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、導電性を有する無底冷却ルツボにシリコン原料を投入し、無底冷却ルツボを囲繞する誘導コイルから電磁誘導加熱するとともに、プラズマトーチから不活性ガスを噴出しつつプラズマアークを発生させてプラズマ加熱することによりシリコン原料を融解させ、この溶融シリコンを無底冷却ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを鋳造するシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、プラズマトーチと溶融シリコンとの間隔(プラズマトーチ高さ)を、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とすることを特徴とする。以下に、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を、上記のように規定した理由および好ましい実施形態について説明する。
【0040】
図1は、電磁鋳造法によりシリコンインゴットを鋳造する際に跳ね上げられた溶融シリコンの挙動を説明する模式図であり、同図(a)は従来法により鋳造する場合、同図(b)は本発明により鋳造する場合をそれぞれ示す。同図(a)に示すように、プラズマトーチ14の先端と溶融シリコン13の上面との間隔であるプラズマトーチ高さZが、シリコン原料を投入する高さZtの1/2未満であると、シリコン原料の投入により跳ね上げられた溶融シリコンの大部分が、プラズマトーチ14に到達することから、プラズマトーチ14にシリコンが付着して肥大化し易い。
【0041】
一方、同図(b)に示すように、プラズマトーチ高さZをシリコン原料を投入する高さZtの1/2以上とすると、シリコン原料の投入により跳ね上げられた溶融シリコンの大部分は、プラズマトーチ14の先端部に到達することなく、落下する。これにより、跳ね上げられた溶融シリコンがプラズマトーチに付着して肥大化するのを抑制できる。このように本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造法は、プラズマトーチにシリコンが付着して肥大化するのを抑制できることから、付着シリコンにより誘発されて発生するプラズマアークの失火を低減することができる。
【0042】
前述のとおり、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、「シリコン原料を投入する高さ」は、投入されるシリコン原料を自由落下させる高さとし、図1に示すように原料導入管11により冷却ルツボ7にシリコン原料12を投入する場合、溶融シリコン13の上面に対する原料導入管11の下端の高さとする。電磁鋳造法によるインゴットの鋳造では、通常、チャンバーの上方に配置された原料供給装置から切り出されたシリコン原料を原料導入管に通過させて冷却ルツボに投入する。この場合、原料導入管を通過させる際にシリコン原料は重力を受けて加速する一方で、引き下げ軸に対して所定の角度を有する原料導入管の投入部と接触して減速することから、原料導入管の下端位置におけるシリコン原料の鉛直方向速度は微少である。
【0043】
ここで、投入されるシリコン原料により溶融シリコンが跳ね上げられる高さは、シリコン原料が溶融シリコンの上面に到達した際の鉛直方向の速度による影響が大きいと考えられる。上述のとおり、原料導入管の下端位置におけるシリコン原料の垂直方向速度は微少であることから、シリコン原料が溶融シリコンの上面に到達した際の垂直方向の速度は、原料導入管の下端を通過した後で自由落下する際に受ける重力による加速の影響が大きい。このため、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法では、「シリコン原料を投入する高さ」は、便宜的に投入されるシリコン原料が、部材と接触することなく、自由落下する高さとする。
【0044】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造法は、プラズマトーチ高さを、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とする際に、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を変更してプラズマトーチ高さを調整するのが好ましい。後述する図4に示すとおり、プラズマトーチに通電される電流の電圧値を一定とした状態において、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量とプラズマトーチ高さとは相関関係を有し、不活性ガスの流量を減少させることにより、プラズマトーチ高さを高くすることができる。
【0045】
図2は、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量によるプラズマアークの発生挙動を説明する模式図であり、同図(a)は流量を増加させた場合、同図(b)は流量を減少させた場合をそれぞれ示す。同図では、図示しないプラズマ電源装置の一方の極に接続されたプラズマトーチ14の先端部と、他方の極に接続された溶融シリコン13の上面とを示す。同図に示すプラズマトーチ14は、プラズマ電源装置に接続されるプラズマ電極14aと、供給される不活性ガスを噴出する噴出口14bとを備える。このようなプラズマトーチ14で、噴出口14bから不活性ガスを噴出しつつ(同図の破線で示す矢印参照)、プラズマ電極14aに通電を行うと、溶融シリコン13との間に同図に太線で示すようにプラズマアークが発生する。
【0046】
ここで、噴出口14bから不活性ガスを噴出すると、同図(a)に螺旋状矢印で示すように、噴出された不活性ガスの一部が旋回しつつプラズマ電極14a内を上昇する。プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を増加させた場合、プラズマ電極14a内を旋回し上昇する流れが強くなることから、発生するプラズマアークは、同図(a)に示すように、プラズマアークの起点がプラズマ電極14aの上部となる。一方、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を減少させた場合、プラズマ電極内を旋回し上昇する流れが弱まり、同図(b)に示すように、プラズマアークの起点がプラズマ電極14aの下部となる。
【0047】
プラズマトーチに通電される電圧値を一定とした場合、噴出される不活性ガスの流量にかかわらず、同図(a)および(b)に示すように、プラズマアークの起点から溶融シリコンの上面までの距離であるプラズマアークの起点高さZoは同程度となる。しかし、噴出される不活性ガスの流量が変化すると、プラズマアークの起点位置がプラズマ電極14a内で上下に移動することから、プラズマトーチの高さZが変化する。このため、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を変更することにより、プラズマトーチ高さZを調整することが可能となる。
【0048】
前述のとおり、装置構造上の制約から、シリコン原料を投入する高さを調整するのは困難である。また、従来のシリコンインゴットの電磁鋳造方法では、プラズマトーチ高さは、プラズマトーチに供給される電流の電圧値と密接な関係があることから、プラズマ加熱に要求される入熱量により設定された電圧値に応じて調整していた。このため、プラズマトーチ高さを、本発明で規定されるシリコン原料を投入する高さの1/2以上とするのは困難であった。
【0049】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、上述のようにプラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を変更してプラズマトーチ高さを調整し、プラズマトーチ高さを、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とれば、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を容易に実施することができる。
【0050】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を、マスフローコントローラーにより一定の値に制御するのが好ましい。これにより、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を変更してプラズマトーチ高さを調整する作業を、省力化して行うことができる。
【実施例】
【0051】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法の効果を確認するため、電磁鋳造法によりインゴットを鋳造する試験を行った。
【0052】
1.プラズマトーチ高さの検証試験
[試験条件]
本試験では、前記図5に示す電磁鋳造装置を用い、導電性を有する冷却ルツボ7にシリコン原料12を投入し、冷却ルツボ7を囲繞する誘導コイルから電磁誘導加熱するとともに、冷却ルツボ7の上方に配置されたプラズマトーチ14から不活性ガスを噴出しつつプラズマアークを発生させてプラズマ加熱してシリコン原料12を融解させ、この溶融シリコン13を冷却ルツボ7から引き下げながら凝固させてインゴット3を鋳造した。
【0053】
この際、電磁鋳造装置の原料導入管11は、インゴットの引き下げ軸と原料導入管の投入部とがなす角αを30°にして設け、シリコン原料を投入する高さは300〜500mmとした。シリコン原料は、粒径が0.1〜20mmのものを用いた。不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、プラズマトーチから噴出されるアルゴンガスは、プラズマトーチ先端の噴出圧力が138kPaで一定となるように調整して噴出させた。
【0054】
プラズマトーチに供給される電流の電圧値は127V、電流値は1100Aで一定とするため、プラズマトーチによるプラズマ加熱を開始する際にプラズマトーチと溶融シリコンとの間隔(プラズマトーチ高さ)を調整した。その結果、各試験でのプラズマトーチ高さは、180〜200mmであった。本試験では、合計30本のインゴットを鋳造し、本発明例では、プラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2以上として15本のインゴットを鋳造し、比較例では、プラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2未満として15本のインゴットを鋳造した。
【0055】
1本のインゴットの鋳造が完了する都度、プラズマトーチの先端部を確認し、付着シリコンの有無を調査した。プラズマトーチに直径20mm以上の付着シリコンが確認された場合に付着シリコン有りと判定した。本発明例および比較例ともに、鋳造したインゴットの本数に対する付着シリコン有りと判定されたインゴットの本数の百分率であるシリコン付着率を算出した。
【0056】
[試験結果]
図3は、本発明例および比較例におけるシリコン付着率を示す図である。同図から、比較例では、プラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2未満とし、シリコン付着率は72%であった。一方、本発明例では、プラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2以上とし、シリコン付着率は25%であった。
【0057】
したがって、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、プラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2以上とすることにより、プラズマトーチにシリコンが付着して肥大化するのを抑制できることが確認できた。
【0058】
2.プラズマアークの失火発生を確認する試験
[試験条件]
本試験では、本発明例および比較例ともにシリコン原料を投入する高さは500〜550mmとした。比較例では、プラズマトーチから噴出されるアルゴンガスは、プラズマトーチ先端の噴出圧力が186kPaで一定となるように調整し、その結果、不活性ガスの流量は110〜125l/minであった。この状態で、プラズマトーチに供給される電流の電圧値は127V、電流値は1100Aで一定とするため、プラズマトーチによるプラズマ加熱を開始する際にプラズマトーチ高さを調整した。その結果、プラズマトーチ高さは、250〜267mmであった。
【0059】
本発明例では、プラズマトーチに供給される電流の電圧値は127V、電流値は1100Aで一定とした状態で、プラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2以上に調整するため、プラズマトーチから噴出されるアルゴンガスの流量と、プラズマトーチ高さの関係を調査した。
【0060】
図4は、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量と、プラズマトーチ高さとの関係を示す図である。同図から、シリコン原料を投入する高さの1/2以上に調整するには、不活性ガスの流量を100l/min以下に変更する必要があることが確認され、本発明例では、不活性ガスの流量をいずれも95l/minに設定した。その結果、プラズマトーチ高さは、278〜289mmであった。
【0061】
本発明例および比較例ともに、それぞれ10本のインゴットを鋳造した。これら以外の試験条件は、本発明例および比較例ともに、「1.プラズマトーチ高さの検証試験」と同じにした。
【0062】
本発明例および比較例ともに、インゴット鋳造中にプラズマアークの失火が発生した回数をカウントするとともに、プラズマトーチへの付着シリコンの有無を確認した。ここで、直流電源が備えるインターロック機構の電圧閾値は上限135V、下限107Vに設定し、付着シリコンの有無の判定は、「1.プラズマトーチ高さの検証試験」と同様の基準で行った。表1に、区分、試験番号、プラズマトーチ高さ、プラズマアークの失火回数および付着シリコンの有無について示す。
【0063】
【表1】

【0064】
[試験結果]
表1から、比較例では、いずれもプラズマトーチ高さがシリコン原料を投入する高さの1/2未満として10本のインゴットを鋳造し、そのうち8本のインゴットの鋳造で付着シリコンが確認された。また、比較例で付着シリコンが確認された8本のインゴットの鋳造のうち、5本のインゴットの鋳造でプラズマアークの失火が1〜3回発生した。
【0065】
一方、本発明例では、いずれもプラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2以上として10本のインゴットを鋳造し、そのうち1本のインゴットの鋳造で付着シリコンが確認された。また、本発明例では、1本のインゴットの鋳造でプラズマアークの失火が1回だけ発生した。
【0066】
これらから、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、プラズマトーチ高さをシリコン原料を投入する高さの1/2以上とすることにより、プラズマトーチにシリコンが付着して肥大化するのを抑制できることが確認できた。これにより、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、シリコンインゴットの鋳造中にプラズマアークの失火が発生するのを低減することができることが明らかになった。さらに、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を変更することにより、プラズマトーチ高さを調整できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、プラズマトーチと溶融シリコンとの間隔を、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とすることにより、プラズマトーチにシリコンが付着するのを抑制できる。これにより、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法は、シリコンインゴットの鋳造中にプラズマアークの失火が発生するのを低減可能であり、製造歩留りを向上することができる。
【0068】
したがって、本発明のシリコンインゴットの電磁鋳造方法を、太陽電池用ウェーハの製造に適用すれば、高品質のインゴットを安価に製造できることから、本発明は太陽電池用ウェーハの製造に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1:チャンバー、 2:シャッター、 3:シリコンインゴット、 4:引出し口、
5:不活性ガス導入口、 6:排気口、 7:無底冷却ルツボ、
8:誘導コイル、 9:アフターヒーター、 11:原料導入管、 11a:投入部、
12:シリコン原料、 13:溶融シリコン、 14:プラズマトーチ、
14a:プラズマ電極、 14b:不活性ガス噴出口、
15:支持台、 16:付着シリコン、 17:不純物、 Z:プラズマトーチ高さ、
Zt:シリコン原料を投入する高さ、 Zo:プラズマアークの起点高さ、
α:インゴットの引き下げ軸と原料導入管の投入部とがなす角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する無底冷却ルツボにシリコン原料を投入し、無底冷却ルツボを囲繞する誘導コイルから電磁誘導加熱するとともに、プラズマトーチから不活性ガスを噴出しつつプラズマアークを発生させてプラズマ加熱することによりシリコン原料を融解させ、この溶融シリコンを無底冷却ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを鋳造するシリコンインゴットの電磁鋳造方法において、
プラズマトーチと溶融シリコンとの間隔を、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とすることを特徴とするシリコンインゴットの電磁鋳造方法。
【請求項2】
前記プラズマトーチと溶融シリコンとの間隔を、シリコン原料を投入する高さの1/2以上とする際に、プラズマトーチから噴出される不活性ガスの流量を変更してプラズマトーチと溶融シリコンとの間隔を調整することを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの電磁鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−162420(P2012−162420A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23673(P2011−23673)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】