説明

シリコン精製方法および精製シリコン

【課題】シリコンを高純度に精製することが可能なシリコンの精製方法を提供する。
【解決手段】本発明は、シリコン屑から精製シリコンを得るシリコン精製方法であって、シリコン屑を溶融してシリコン溶湯を形成する工程と、シリコン溶湯から得られる溶融シリコンを凝固させてシリコン塊を形成する工程と、を含み、シリコン溶湯を形成する工程は、シリコン屑を第1の圧力下で溶融してシリコン溶湯を形成する工程と、シリコン溶湯を第1の圧力よりも低い第2の圧力下で脱気する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン精製方法および精製シリコンに関し、特に、シリコンの機械加工を行なった際に発生するシリコン屑からのシリコン精製方法および精製シリコンに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路などに用いる高純度シリコンは、珪石を炭素還元して得られる純度98%以上の金属シリコンを原料とするものであって、化学的な方法でトリクロロシラン(SiHCl3)を合成し、これを蒸留法で純化した後、還元することにより、いわゆる11N(イレブン−ナイン)程度の高純度シリコンを得ている(シーメンス法)。しかし、この高純度シリコンは、複雑な製造プラントおよび還元に要するエネルギ使用量が多くなるため、必然的に高価な素材となる。
【0003】
一方、太陽電池の製造に用いられるシリコンに要求される純度は約6N程度である。したがって、このような半導体集積回路用などの高純度シリコンの規格外品は、太陽電池用としては過剰な高品質となる。太陽電池の低コスト化のために、半導体集積回路の製作の各工程から得られる高純度シリコンの再生利用と並行して、2N〜3N程度の純度である金属シリコンからの直接的な冶金的精製が試みられている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、図6に示すフローチャートのシリコン精製方法が開示されている。特許文献1に記載の従来の金属シリコンからのシリコン精製方法は以下の工程からなる。
A.金属シリコンを、真空下において溶解し、その含有するリンを気化させて脱リンした後、溶湯から不純物成分を除去するための一方向凝固を行い、鋳塊を得る(ステップS1bおよびステップS2b参照)。
B.上記鋳塊の不純物濃化部を切断、除去する。
C.切断除去後の残部を再溶解し、酸化性雰囲気下で溶湯からボロンおよび炭素を酸化除去し、引き続きアルゴンガスあるいはアルゴンと水素の混合ガスを該溶湯に吹き込み、脱酸素する(ステップS3b参照)。
D.上記脱酸後の溶湯を鋳型に鋳込み、一方向凝固を行い鋳塊を得る(ステップS4b参照)。
E.一方向凝固で得た鋳塊の不純物濃化部を切断、除去し、さらにはこれをスライスしてシリコン基板とする。
【0005】
また、近年、環境問題から石油などの代替としての自然エネルギの利用が注目されており、特に、太陽エネルギから電気エネルギへの変換を容易に行なうことができる太陽電池の生産量は増加の一途をたどっている。そのため、原料シリコンの需要も急激に伸びており、太陽電池用シリコンの不足も顕在化してきている。
【0006】
ICチップや太陽電池などに広く用いられている単結晶または多結晶のシリコンウエハの製造工程において、原料シリコンの約60%が切断、面取りまたは研磨などの工程において廃液中に廃棄されて処分されるため、最終製品となるシリコンウエハへの製造コスト面での負荷および廃棄処分に伴う環境への負荷が大きな問題となっている。
【0007】
そこで、従来から、上記の切断、面取りまたは研磨などの工程において廃液中に廃棄されるシリコン屑を回収し、その回収したシリコン屑を精製することによって精製シリコンとする方法が提案されてきている(たとえば、特許文献2参照)。以下、図7を参照して、特許文献2に記載の従来のシリコン屑からのシリコン精製方法について説明する。
【0008】
まず、ステップS1cにおいて、単結晶または多結晶のシリコンをワイヤソーによりスライスする際に生じる廃スラリの濾過を行なうことによって粘土状の固形分(ケーキ)を分離する(固形分分離工程)。
【0009】
次に、ステップS2cにおいて、上記で分離された固形分(ケーキ)をアセトンなどの有機溶剤とともに洗浄槽に投入して攪拌することによって有機溶剤洗浄を行なう(有機溶剤洗浄工程)。
【0010】
次に、ステップS3cにおいて、有機洗浄後の固形分(ケーキ)を水洗してアセトンなどの有機溶剤を除去した後に、フッ化水素水溶液と硫酸との混合溶液を用いて酸洗浄を行なう(酸洗浄工程)。
【0011】
最後に、ステップS4cにおいて、酸洗浄後の固形分(ケーキ)を乾燥した後に粉砕して、シリコン粉末と炭化ケイ素からなる砥粒との密度差を利用して、気流分級装置を用いた分級によってシリコン粉末を分離して、高純度のシリコン粉を回収する(気流分級工程)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3325900号公報
【特許文献2】特開2001−278612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献2に記載のシリコン精製方法においては、シリコンと炭化ケイ素との間で密度および粒子径に大きな差がないため、気流分級工程によってシリコン粉末と炭化ケイ素からなる砥粒とを十分に分離することができないという問題があった。また、回収されるシリコン粉の粒子径が1μm程度と小さいために、表面酸化膜の影響を無視することができず、数%の酸素を含んだシリコン粉となってしまうという問題があった。
【0014】
さらに、このシリコン粉を用いて、シリコン基板を得るためには、シリコン粉を溶融する必要があるが、シリコン粉の粒子径が小さいために溶融する際の熱伝導性が低い傾向にある。このため、一部が溶融せずにシリコン溶湯内にガスが残留している状態となり、結果的に、良好な精製シリコンを得ることができないという問題もあった。
【0015】
そして、上記問題は、シリコン屑を溶融させて精製シリコンを調製する場合にも当てはまる。すなわち、シリコン屑の溶融工程およびシリコン塊を形成する工程を経て精製シリコンを得る場合に、シリコン屑中に粒子径の小さいシリコン粉が含まれている場合にも、良好な精製シリコンを得ることができないという同様の問題が生じる。
【0016】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、シリコンを高純度に精製することが可能なシリコンの精製方法およびその方法により得られた精製シリコンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、シリコン屑から精製シリコンを得るシリコン精製方法であって、シリコン屑を溶融してシリコン溶湯を形成する工程と、シリコン溶湯から得られる溶融シリコンを凝固させてシリコン塊を形成する工程と、を含み、シリコン溶湯を形成する工程は、シリコン屑を第1の圧力下で溶融してシリコン溶湯を形成する工程と、シリコン溶湯を第1の圧力よりも低い第2の圧力下で脱気する工程と、を含むシリコン精製方法である。
【0018】
本発明において、第1の圧力が152Torr以上760Torr以下であり、第2の圧力が76Torr以上152Torr未満であることが好ましい。
【0019】
本発明において、第1の圧力が380Torr以上760Torr以下であることが好ましい。
【0020】
また、本発明において、シリコン溶湯を形成する工程は、脱気されたシリコン溶湯を第1の圧力下に置く工程を含むことが好ましい。
【0021】
また、本発明において、第1の圧力から38Torr/min以下の速度で圧力を低下させて第2の圧力にすることが好ましい。
【0022】
また、本発明において、シリコンの機械加工を行なった際に発生する廃棄物からシリコン屑を回収する工程をさらに含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明において、シリコン屑が粒子径10μm以下のシリコン粉を含むことが好ましい。
【0024】
また、本発明において、シリコン屑を溶融させる前に、シリコン屑を前洗浄する工程をさらに含むことが好ましい。
【0025】
また、本発明は、上記シリコン精製方法において、(1)シリコン塊を第1の酸溶液、第1の塩基性溶液のうちの少なくとも1つの溶液で洗浄する工程、(2)シリコン塊からリンを除去する工程、(3)シリコン塊から偏析によって金属を除去する工程、(4)シリコン塊からリーチングによって金属を除去する工程、のうちの少なくとも1つの工程をさらに含むことが好ましい。
【0026】
本発明は、上記シリコン精製方法によって精製された精製シリコンであって、精製シリコン中のボロンの含有量が0.3ppm以下であり、リンの含有量が0.3ppm以下であり、鉄の含有量が1ppm以下であり、炭素の含有量が100ppm以下であり、酸素の含有量が100ppm以下である、精製シリコンである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、シリコンを高純度に精製することが可能なシリコンの精製方法およびその方法により得られた精製シリコンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態のシリコン精製方法の一例のフローチャートである。
【図2】本実施形態のシリコン精製方法に好適に用いられるシリコン精製装置の一例を示す概略断面図である。
【図3】シリコン溶湯の状態を説明するための図である。
【図4】出湯工程を説明するための図である。
【図5】出湯工程を説明するための図である。
【図6】従来の特許文献1に記載のシリコン精製方法のフローチャートである。
【図7】従来の特許文献2に記載のシリコン精製方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0030】
図1に、本実施形態のシリコン精製方法の一例のフローチャートを示す。以下、図1を参照して、本発明のシリコン精製方法の一例について説明する。
【0031】
<シリコン屑の回収工程>
まず、ステップS1aにおいて、シリコンの機械加工を行なった際に発生するシリコン屑を回収する工程が行なわれる(シリコン屑の回収工程)。
【0032】
ここで、シリコンの機械加工は、特に限定されないが、たとえば、シリコンの円筒研削、切断、研磨、スライス、切断および外周切削などの機械加工が挙げられる。また、シリコンの機械加工には、たとえば、クーラント(水または潤滑油またはこれらの混合物)、切断刃、ワイヤー、遊離砥粒および固定砥粒からなる群から選択された少なくとも1つを用いて行われてもよい。
【0033】
遊離砥粒としては、たとえば粉末状の砥粒などを用いることができ、一般的に、水および/または潤滑油中に遊離した状態で使用される。また、固定砥粒としては、たとえば粉末状の砥粒などを用いることができ、一般的に、ワイヤに結合剤などで固定された状態で使用される。
【0034】
遊離砥粒の材質および固定砥粒の材質はそれぞれ特には限定されないが、たとえば、シリコンカーバイド(SiC)、シリコンナイトライド(Si34)またはダイヤモンド(C)からなる群から選択された少なくとも1種を含むものを用いることができる。
【0035】
シリコンの機械加工を行なった際に発生するシリコン屑は、シリコンの機械加工による廃棄物(廃液、集塵紛)から回収することができる。なお、シリコン屑は、シリコンの機械加工により発生するシリコン粉を含む粉末状の物質である。
【0036】
シリコンの機械加工による廃液には、シリコンの機械加工により異なるが、(1)シリコンが削られることにより生じるシリコン粉の他に、たとえば下記の(2)〜(5)からなる群から選択された少なくとも1種が含まれる。
(2)水分
(3)シリコンの機械加工に使用された固定砥粒または遊離砥粒から生じる砥粒
(4)切断刃またはワイヤー等から生じる金属成分
(5)潤滑油のオイル成分
また、シリコンの機械加工による廃液からのシリコン屑の回収は、たとえば、(i)廃液をフィルターまたは遠心分離機を用いて固体分を捕捉し乾燥させることによりシリコン屑を取得する方法、(ii)廃液を回収し加熱または蒸留することによりシリコン屑を取得する方法、(iii)廃液に対して凝集剤を用いてシリコン屑を取得する方法のうち少なくとも1つを含む方法により行なうことができる。
【0037】
<溶融前洗浄工程>
次に、ステップS2aにおいて、上記のシリコン屑を回収する工程において回収したシリコン屑を溶融させる前に、シリコン屑を前洗浄する工程が行われることが好ましい(溶融前洗浄工程)。
【0038】
洗浄には、酸溶液(第2の酸溶液)、有機溶剤および水からなる群から選択された少なくとも1つを含む洗浄液を用いることができる。これにより、シリコン屑からボロン、リン、金属成分およびオイル成分からなる群から選択された少なくとも1種の不純物などを除去することができる。
【0039】
シリコン屑の酸洗浄に用いられる酸溶液(第2の酸溶液)は、特には限定されないが、たとえば、塩酸、硫酸およびフッ化水素水溶液などからなる群から選択された少なくとも1種を用いて1回以上行なうことができる。有機溶剤は、特には限定されないが、たとえば、イソプロピルアルコールおよびエタノールからなる群から選択された少なくとも1種を含む有機溶剤を用いて1回以上行なうことができる。
【0040】
また、シリコン屑の洗浄方法は特に限定されないが、たとえば、シリコン屑を上記の酸溶液(第2の酸溶液)中に浸漬させて攪拌する方法などが挙げられる。なお、溶融前洗浄工程は、シリコン屑を洗浄する工程であればよい。
【0041】
<溶融工程>
次に、ステップS3aにおいて、溶融前洗浄工程において洗浄されたシリコン屑を溶融してシリコン溶湯を形成する工程が行なわれる(溶融工程)。
【0042】
本工程では、シリコン屑を第1の圧力下で溶融してシリコン溶湯を形成する工程(シリコン溶湯形成工程)と、該シリコン溶湯を第1の圧力よりも低い第2の圧力下で脱気する工程(脱気工程)とが行われる。
【0043】
シリコン屑の溶融方法は、特に限定されないが、たとえば、シリコン屑を雰囲気圧力の制御が可能な耐熱容器に収容した後に、第1の圧力下で耐熱容器を加熱し、その後雰囲気圧力を第2の圧力に調整する方法などが挙げられる。本実施形態では、図2に示すシリコン精製装置100を用いて本工程を行なう場合について説明する。
【0044】
(シリコン精製装置の構成)
まず、シリコン精製装置100の構成について説明する。
【0045】
図2は、本実施形態のシリコン精製方法に好適に用いられるシリコン精製装置の一例を示す概略断面図である。図2において、シリコン精製装置100は、減圧容器8を備えており、減圧容器8の内部圧力は、不図示の圧力制御部によって制御することができる。なお、圧力制御部は、減圧容器8の内部にアルゴン、ヘリウムおよび窒素などの不活性ガスを導入可能であることが好ましい。また、減圧容器8には、内部にシリコン屑を投入するための投入口9が設けられている。
【0046】
減圧容器8の内部には、シリコン屑を収容するための耐熱容器10、耐熱容器10を加熱する加熱部11、耐熱容器10を動かすための駆動部12とからなる溶融部13が設置されている。耐熱容器10の外周に配置される加熱部11が耐熱容器10を加熱することによって、耐熱容器10内に収容されたシリコン屑を溶融させることができる。
【0047】
耐熱容器10の材料は、シリコン屑を溶融させる温度に対する耐熱性を有していれば特に限定されず、たとえば、カーボン、ムライト、アルミナ、マグネシアおよび水冷銅鋳型からなる群から選択された少なくとも1種からなる容器を用いることができる。また、加熱部11としては、シリコン屑を溶解させることができる温度まで耐熱容器10を加熱することができるものであれば特に限定されず、たとえば、抵抗加熱装置または誘導加熱装置などを用いることができる。駆動部12は、耐熱容器10内の溶融シリコンを出湯させるべく、耐熱容器10を傾動することができる。
【0048】
減圧容器8の内部には、さらに、耐熱容器10から出湯される溶融シリコンを収容するための第1収容部14と、耐熱容器10内に付着する残留物を収容するための第2収容部15とが配置されている。第1収容部14と第2収容部15は、搬送部16上に配置されていることが好ましい。この構成により、第1収容部14と第2収容部15の位置を自在に移動させることができる。また、減圧容器8の内部には、耐熱容器10内に付着する残留物をかきとって、第2収容部15内に移動させるための残留物回収部17が設置されていることが好ましい。
【0049】
第1収容部14は、溶融シリコンを収容可能であれば特に限定されず、カーボン坩堝、水冷銅坩堝、シリカ坩堝、砂を焼結した坩堝などを用いることができる。第2収容部15は、残留物を収容可能であれば特に限定されない。ここで、残留物とは、シリコン溶湯に含まれる酸化シリコン、砥粒などからなる粘着性物質である。また、残留物回収部17も特に制限されず、たとえば、カーボン、モリブデンなどの高融点金属からなり、先端がヘラ状の棒状体であることが好ましい。
【0050】
また、減圧容器8には、ブロワー18に接続された排出管19が設けられている。排出管19には、フィルター20が設置されており、排出管19の排出口は、耐熱容器10の近傍に配置されている。この構成により、耐熱容器10内から上昇してくる気化物を減圧容器8外に排出しつつ、該気化物をフィルター20で捕捉することができる。なお、以上説明した構成は、本工程に用いられる精製装置の構成の一例に過ぎない。
【0051】
以下、上述したシリコン精製装置100を用いたシリコン溶湯形成工程および脱気工程を説明する。
【0052】
(シリコン溶湯形成工程)
まず、第1の圧力下でシリコン溶湯を形成する工程が行われる(シリコン溶湯形成工程)。
【0053】
具体的には、投入口9から投入されたシリコン屑が耐熱容器10内に収容された後、不図示の圧力制御部によって、減圧容器8内の圧力が152Torr以上760Torr以下に調整される。これにより、シリコン屑が152Torr以上760Torr以下の第1の圧力下に置かれる。
【0054】
そして、加熱部11が耐熱容器10を加熱することにより、シリコン屑が溶融してシリコン溶湯が形成される。加熱温度は、シリコン屑中のシリコンが溶融する温度であればよく、シリコンの融点である1412℃以上であればよい。また、加熱温度を1600℃程度にすることにより、シリコンとシリコン酸化物などとの分離をより進行させることができる。さらに、加熱温度を1800℃以下にすることにより、シリコン溶湯からのシリコンの蒸発を抑制することができ、また、シリコン溶湯内の酸化物の飛散による白煙の発生を抑制することができる。なお、本工程は、シリコン屑の投入、圧力調整、加熱はこの順に限られず、第1圧力下でシリコン屑が溶融される工程であればよい。
【0055】
形成されたシリコン溶湯は、溶融シリコンの他に、砥粒、シリコン酸化物、オイル成分などを含む。シリコン屑が溶融される条件下において、シリコンが自然酸化されることなどによって形成されるシリコン酸化物は、溶融シリコンよりも高い粘度を有する状態で存在する。このため、耐熱容器10内のシリコン溶湯を対流などによって撹拌することによって、粘度の高いシリコン酸化物を耐熱容器10の壁に付着させることができる。また、耐熱容器10の壁に付着したシリコン酸化物に対し、シリコン炭化物などからなる砥粒が効率的に付着することができる。
【0056】
ここで、シリコン溶湯を形成する際の第1の圧力は152Torr以上であることが好ましい。シリコン溶湯を形成する際に、減圧容器8内の圧力が152Torr以上にすることにより、シリコン溶湯内に半蒸気化した酸化シリコン(SiO)蒸気が常に発生する状態となるのを防ぐことができる。これにより、未溶融状態のシリコン屑の飛散によるシリコンの回収率の低下を防ぐことができる。また、減圧容器8内の圧力の上限を760Torr以下とすることにより、シリコン精製装置100の耐圧力設計を簡易化することができる。
【0057】
また、第1の圧力として、減圧容器8内の圧力を380Torr以上760Torr以下とすることが好ましい。減圧容器8内の圧力を380Torr以上とすることにより、シリコン溶湯内での酸化物の飛散による白煙の発生を更に効率的に抑制することができる。さらに、シリコン溶湯中にシリコン屑を追加してもよい。また、本工程は、不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。
【0058】
(脱気工程)
次に、シリコン溶湯を第2の圧力下で脱気する工程が行われる(脱気工程)。
【0059】
具体的には、不図示の圧力制御部によって、減圧容器8内の圧力が76Torr以上152Torr未満の第2の圧力に調整され、この圧力下にシリコン溶湯が置かれる。少なくとも、この条件下にシリコン溶湯を1分以上置くことが好ましく、さらには5分程度置くことが好ましい。本工程を行なう理由は以下の通りである。
【0060】
耐熱容器10内に収容されるシリコン屑は、シリコンの機械加工を行なった際に発生するシリコン屑であり、小さい粒子径、たとえば1〜10μm程度の粒子径のシリコン粉を含む。なお、粒子径は、たとえば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。このような粒子径の小さいシリコン粉を含むシリコン屑においては、シリコン粉同士の接触面積が小さく、その熱伝導性は低いため、上記シリコン溶湯形成工程を行なっても、耐熱容器10内において、溶融していないシリコン屑が存在してしまう。この場合、シリコン溶湯中の溶解していないシリコン粉の周辺に気泡、すなわち、空気などの気体が存在してしまう。シリコン溶湯中に溶解していないシリコン粉と気泡とが存在すると、シリコン溶湯中における熱伝導を気泡が阻害するため、シリコン溶湯全体の温度の上昇が抑制されることになる。この結果、シリコン粉の溶融が阻害されるために、溶融シリコンと酸化シリコンとの分離、溶融シリコンと砥粒との分離性が低下してしまう。
【0061】
上述のシリコン溶湯形成工程の後に、シリコン溶湯にかける圧力を低下させて、シリコン溶湯を76Torr以上152Torr未満の第2の圧力下に置くことによって、シリコン溶湯中の気体を抜くことができる。また、シリコン溶湯内の気体が抜けることにより、シリコン溶湯の熱伝導性を向上させることができ、粒子径の小さなシリコン粉を溶融させることができる。これにより、シリコン溶湯が均一に形成され、結果的に、シリコン溶湯内の溶融シリコンと、シリコン酸化物および砥粒との分離性が向上する。
【0062】
したがって、溶融工程において、シリコン溶湯形成工程と脱気工程とを行なうことによって、図3に示すように、耐熱容器10内のシリコン溶湯21を、粘度の低い溶融シリコン22と、シリコン酸化物23および砥粒24を含む粘着性物質25とに高い分離性で分離することができる。
【0063】
以上の理由により、シリコン溶湯形成工程の後に脱気工程が行われる。特に、第2の圧力として、第1の圧力よりも低い圧力、具体的には152Torr未満にすることによって、シリコン溶湯中から気体を効果的に抜くことができる。また、76Torr以上とすることにより、著しい白煙の発生やシリコンの蒸発を防ぐことができる。
【0064】
脱気工程において、シリコン溶湯から半蒸気化した酸化シリコン蒸気(SiO)が発生し易くなる。このため、図2に示すように、ブロワー18でシリコン溶湯から生じる蒸気を排出管19から吸引することが好ましい。また、吸引した酸化シリコン蒸気をフィルター20で捕捉し、さらに定期的にフィルター20を清掃することが好ましい。なお、ブブロワーはこの脱気工程のみで稼動させることが好ましい。
【0065】
また、圧力の低下速度は36Torr/分以下にすることが好ましい。これにより、第1の圧力から第2の圧力に急激に圧力が下がることによる、シリコン溶湯の飛び跳ね現象(スプラッシュ現象)を抑制することができる。また、酸化シリコン蒸気の発生速度が速すぎることによって、減圧容器8内が汚染されることを抑制することもできる。
【0066】
さらに、後述するシリコン塊形成工程を行なう前に、減圧容器8内の圧力を152Torr以上760Torr以下に戻して、シリコン溶湯を第1の圧力下に再度置いておくことが好ましい。これにより、白煙の発生を抑制することができる。
【0067】
<出湯工程>
後述するシリコン塊形成工程を行なう前に、耐熱容器10から溶融シリコンを出湯させる工程(出湯工程)を行って、シリコン塊にシリコン酸化物や砥粒などが再付着するのを防ぐことが好ましい。本工程について、図4を用いて説明する。
【0068】
図4は出湯工程を説明するための図である。図4において、シリコン溶湯を収容する耐熱容器10を、駆動部12によって傾動させて、溶融シリコン22を第1収容部14内に出湯する。耐熱容器10から粘度の低い溶融シリコン22を出湯させることによって、粘着性物質25との分離が容易であるとともに、溶融シリコン22に含まれる砥粒やシリコン酸化物を低減することが可能となる。
【0069】
また、本工程は上記方法に限られず、耐熱容器10の上部に設けられた切れ込みなどの出湯口、または耐熱容器10の下部若しくは側部に設けられた開閉可能な出湯口などを用いて行うことができる。
【0070】
なお、図5に示すように、溶融シリコン22を出湯させた後に、耐熱容器10の壁に付着している粘着性物質25を残留物回収部17を用いて掻き出して、第2収容部15に収容してもよい。これにより、耐熱容器10内を清浄化することができ、耐熱容器10の再利用が容易となる。また、搬送部16によって第1収容部14と第2収容部15とを減圧容器8の外部に搬送できる構成であってもよい。
【0071】
<シリコン塊形成工程>
図1に戻り、次に、ステップS4aにおいて、上記の溶融工程後の溶融シリコンを凝固させてシリコン塊を形成する工程が行なわれる(シリコン塊形成工程)。
【0072】
ここで、溶融シリコンを凝固させる方法は特に限定されず、たとえば、上述したように、シリコン屑を溶融した耐熱容器ごと冷却する方法(図3参照)または上記の溶融シリコンを傾動出湯する方法(図4参照)により他の冷却用容器に収容して冷却用容器で冷却する方法などが挙げられる。冷却雰囲気としては、大気雰囲気または不活性ガス雰囲気などを挙げることができ、冷却雰囲気の圧力は大気圧程度またはそれから減圧したもののいずれであってもよい。
【0073】
なお、冷却用容器としては、たとえば、シリカ坩堝や砂を焼結した坩堝などの安価な使い捨てのものまたはカーボン鋳型や水冷銅鋳型などの再利用することができるもののいずれも用いることができる。
【0074】
形成されたシリコン塊は、上記の溶融工程を経ることによって、シリコン酸化物および砥粒の少なくとも一方が、効率的に除去されている。したがって、図1に示すように、シリコン塊形成工程後のシリコン塊をそのまま精製シリコンとしてもよい。
【0075】
<第1の酸溶液による洗浄工程>
ステップS4aの後に、ステップS5aに示すように、上記のシリコン塊の形成工程で得られたシリコン塊を第1の酸溶液で洗浄する工程が行われることが好ましい。
【0076】
本工程において、たとえば、上記の溶融工程におけるシリコン屑の溶融時に再付着した再付着不純物を除去することができる。再付着不純物としては、ボロン、ボロン化合物(たとえばB23)、リン、リン化合物(たとえばP25)、シリコン酸化物、シリコン炭化物などからなる砥粒などを挙げることができる。
【0077】
また、本工程においては、上記の再付着不純物の除去と同時にシリコン塊中の金属(鉄、アルミなど)および金属化合物(鉄シリサイドなど)を除去することが可能である。これらの除去効率を向上させるためには、シリコン塊を適宜(たとえば1cm以上10cm以下の径)に破砕しておくことが好ましい。
【0078】
第1の酸溶液による洗浄工程に用いる酸溶液の種類、温度および洗浄条件は、上記の再付着不純物を除去できるものであれば特に限定されないが、洗浄効果を向上させるためにはフッ化水素水溶液、またはフッ化水素水溶液と硝酸との混合溶液を用いることが好ましい。フッ化水素水溶液のフッ化水素濃度は0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。また、フッ化水素水溶液と硝酸との混合溶液において、フッ化水素濃度は0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、硝酸濃度は0.1質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0079】
また、フッ化水素水溶液、混合溶液の温度は室温(20℃以上30℃以下)であることが好ましく、洗浄効果を上げるために、30℃以上50℃以下としてもよい。洗浄方法としては、シリコン塊をフッ化水素水溶液中に浸漬させて攪拌する方法などが挙げられる。なお、図1に示すように、第1の酸溶液による洗浄工程後のシリコン塊をそのまま精製シリコンとしてもよい。
【0080】
<第1の塩基性溶液による洗浄工程>
次に、ステップS6aにおいて、上記の第1の酸溶液による洗浄工程後のシリコン塊を第1の塩基性溶液で洗浄する工程が行なわれることが好ましい。なお、第1の酸溶液による洗浄後のシリコン塊は、そのままの状態で第1の塩基性溶液による洗浄工程に用いることも可能であるが、第1の塩基性溶液による洗浄工程の前に、純水などによる洗浄工程(シリコン塊に残った第1の酸溶液を除去する)および/または乾燥工程(室温以上シリコンの融点未満の温度での加熱または減圧状態での保持など)を行なうことが好ましい。
【0081】
本工程において、たとえば、上記の第1の酸溶液による洗浄工程と同様に、シリコン塊に再付着した再付着不純物を除去することができる。上記の第1の酸溶液による洗浄工程と第1の塩基性溶液による洗浄工程とを組み合わせることにより、特に大きな洗浄効果を得ることができる。
【0082】
第1の塩基性溶液による洗浄工程に用いられる塩基性溶液の種類、温度および洗浄条件は、上記の再付着不純物を除去できるものであれば特に限定されない。たとえば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液または炭酸ナトリウム水溶液などが使用可能である。洗浄効果を向上させるためには水酸化ナトリウム水溶液を用いることが最も望ましい。また、第1の塩基性溶液中の溶質濃度は、1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、3量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0083】
また、第1の塩基性溶液による洗浄工程における第1の塩基性溶液の温度は常温(20〜30℃)であることが好ましく、洗浄効果を上げるために、30〜50℃程度にしてもよい。洗浄方法としては、シリコン塊を水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬させて攪拌する方法などが挙げられる。
【0084】
なお、第1の酸溶液による洗浄工程および第1の塩基性溶液による洗浄工程をこの順序で行なうことによって、シリコン塊から、シリコン酸化物、シリコン炭化物などの砥粒、ボロン、リンからなる群から選択された少なくとも1種の不純物を効率的に除去することができる。なお、図1に示すように、第1の酸溶液による洗浄工程または第1の塩基性溶液による洗浄工程後のシリコン塊をそのまま精製シリコンとしてもよい。
【0085】
<第3の酸溶液による洗浄工程>
第1の塩基性溶液による洗浄工程(ステップS6a)の後には、ステップS7aに示すように、第1の塩基性溶液で洗浄されたシリコン塊を酸溶液(第3の酸溶液)で洗浄する工程が行なわれることが好ましい。
【0086】
第3の酸溶液としては、たとえば、塩酸、硫酸、フッ化水素酸水溶液などが使用可能である。第3の酸溶液による洗浄工程における第3の酸溶液の常温(20〜30℃)であることが望ましいが、洗浄効果を上げるために30〜50℃程度にしてもよい。第3の酸溶液による洗浄方法は特に限定されず、たとえば、シリコン塊を酸溶液(第3の酸溶液)に浸漬させて攪拌する方法などが挙げられる。
【0087】
第1の塩基性溶液による洗浄工程の後に、第3の酸溶液による洗浄工程を行なうことによって、シリコン塊の表面の−OHで終端された部分を−Hに置き換え、酸素濃度の低減を図ることができる。
【0088】
<脱リン工程>
また、ステップS4a〜ステップS7aのいずれかの工程の後に、ステップS8aに示すように、シリコン塊からリンを除去する工程(脱リン工程)を行なうこともできる。
【0089】
シリコン塊からリンを除去する方法は特に限定されないが、たとえば、シリコン塊を加熱またはシリコン塊に電子ビームを照射することによって溶解させた溶融シリコンを圧力が10-2Pa〜10-1Pa程度の容器中に設置することによって溶融シリコンからリンを除去する方法などが挙げられる。
【0090】
なお、リンが除去された後の溶融シリコンは再度凝固させられてシリコン塊とされるか、または溶融状態のままで後述する偏析工程(ステップS10a)に送られてもよい。本工程によって、リンとともに酸素などの他の成分が除去されてもよいことは言うまでもない。
【0091】
<リーチング工程>
また、ステップS4a〜ステップS7aのいずれかの工程の後に、ステップS9aに示すように、シリコン塊を粉砕した後に酸溶液(第4の酸溶液)および塩基性溶液(第2の塩基性溶液)の少なくとも一方で洗浄するリーチング工程を行なうこともできる。これにより、不純物、主に鉄などの金属成分を除去することができる。
【0092】
すなわち、鉄などの金属成分はシリコン塊の結晶粒界に金属微粒子あるいは金属化合物(特にシリサイド)として析出するため、シリコン塊を粉砕することによってこれらの金属成分を粉砕後の粉末の表面に露出させ、酸溶液(第4の酸溶液)および塩基性溶液(第2の塩基性溶液)の少なくとも一方で洗浄してエッチングにより除去することができる。
【0093】
酸溶液(第4の酸溶液)としては、たとえば、塩酸、硫酸、硝酸およびフッ化水素水溶液などからなる群から選択された少なくとも1種の酸を用いることができる。塩基性溶液(第2の塩基性溶液)としては、たとえば、水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができる。
【0094】
また、本工程において、シリコン塊は、粒子径0.1〜2mmの粉末、好ましくは1mm以下の粉末が98%以上となる粒子径分布となるように粉砕される。なお、粉末の粒子径分布は、JIS R1629−1997に準拠した方法で測定することができる。
【0095】
シリコン塊を粉砕した後に酸溶液(第4の酸溶液)および塩基性溶液(第2の塩基性溶液)の少なくとも一方で洗浄する方法は特には限定されないが、たとえば、シリコン塊の粉砕後の粉末を酸溶液(第4の酸溶液)および塩基性溶液(第2の塩基性溶液)の少なくとも一方の溶液中に浸漬させて攪拌する方法などを用いることができる。
【0096】
<偏析工程>
また、ステップS4a〜ステップS7aのいずれかの工程の後に、ステップS10aに示すように、偏析によって金属を除去する工程(偏析工程)が行なわれることが好ましい。これにより、鉄などの金属成分を除去することができる。また、偏析工程においては、金属成分、砥粒および酸素からなる群から選択された少なくとも1種の不純物などを除去してもよい。なお、偏析によって金属成分を除去する方法は特に限定されないが、たとえば、従来から公知の一方向凝固または回転偏析などを用いることができる。
【0097】
以上、各工程について詳述したが、シリコン精製において、ステップS5a〜ステップS7aの各工程に関しては、行なっても行なわなくてもよい。また、行なう場合に、ステップS5a〜ステップS7aの工程全てを行なう必要はなく、たとえば、いずれか1つの工程を行なってもよい。各工程すべてを行なう場合には、図1に示す順番で行なうことが好ましいことは、上述の通りである。
【0098】
また、ステップS8a〜S10aの各工程に関しても、シリコン精製において、行なっても行わなくてもよい。また、行なう場合に、ステップS8a〜ステップS10aの工程全てを行なう必要はなく、たとえば、いずれか1つの工程を行なってもよい。各工程すべてを行なう場合に、各工程の順番は限定されないが、特に、ステップS10aの偏析工程を最後に行なうことが好ましい。また、ステップS8a〜S10aの各工程は、ステップS4a〜S7aのいずれの工程の後であってもよい。
【0099】
<作用>
上記のシリコン精製方法によれば、たとえば、以下の(a)〜(e)に示す種類の不純物の含有量を下記のように低減した高純度の精製シリコンを得ることができる。
(a)ボロン(B)の含有量(重量):0.3ppm以下
(b)リン(P)の含有量(重量):0.3ppm以下
(c)鉄(Fe)の含有量(重量):1ppm以下
(d)炭素(C)の含有量(重量):100ppm以下
(e)酸素(O)の含有量(重量):100ppm以下
本発明のシリコンの精製方法によって高純度の精製シリコンを得るためは、シリコン屑の回収工程、溶融前洗浄工程、溶融工程およびシリコン塊形成工程が行われ、特に、溶融工程において、シリコン溶湯形成工程と脱気工程とが行われることが重要である。これにより、シリコン屑中に、粒子径の小さなシリコン粉が含まれていた場合であっても、均一なシリコン溶湯を形成させることができる。さらに、シリコン溶湯からのシリコン酸化物およびシリコン炭化物の除去が効率的に行なわれるため、結果的に、上記のような高純度の精製シリコンを得ることができる。
【0100】
また、シリコン屑の回収工程、溶融前洗浄工程、溶融工程、およびシリコン塊形成工程の後に、第1の酸溶液による洗浄工程および第1の塩基性溶液による洗浄工程がこの順序で行なわれることが好ましい。
【0101】
なお、上記の各工程の前後には、他の工程が含まれていてもよいことは言うまでもない。他の工程の一例としては、溶融工程後かつシリコン塊の形成工程の前に行われる脱ボロン工程(酸化性ガスを用いたプラズマ精錬、スラグ法などの公知の方法による)を挙げることができる。
【0102】
また、本発明のシリコンの精製方法にアセトンなどの有機溶剤を用いて有機洗浄を行なう必要がないため、上記のような高純度の精製シリコンを低コストで得ることができる。
【実施例1】
【0103】
実施例1として、遊離砥粒を用いた切断を行った際に発生するシリコン屑を回収して、精製シリコンを調製した。以下、各工程を行った順に説明する。また、後述する比較例1では、溶融工程において脱気工程を行なわなかった以外は、実施例1と同様の工程を行なって、精製シリコンを調製した。
【0104】
<シリコン屑の回収工程>
砥粒として、#800(平均粒子径約14μm)〜#1200(平均粒子径約8μm)のグリーンカーボンSiCを用い、該砥粒にプロピレングリコールを基材としたクーラントを混合してスラリー化した。そして、マルチワイヤソーおよびスラリーを用いて、シリコンウエハの切断を行った。
【0105】
シリコンの切断加工の際に発生した廃液を回収し、遠心分離機を用いて、廃液から粒子径の大きいSiCやオイル成分を除去した。なお、遠心分離時の遠心力は3000Gとした。以上の方法によって回収されたシリコン屑について、不純物(ボロン、リン、鉄、炭素、酸素、およびオイル)の含有量を測定した。また、シリコン屑の密度(mg/cm3)を測定した。
【0106】
本工程後のシリコン屑中の不純物含有量の測定結果を表1の「回収工程後」に示す。表1において、B、P、Fe、C、Oはそれぞれボロン、リン、炭素、酸素を示す。
【0107】
【表1】

【0108】
シリコン屑におけるボロン、リン、鉄の含有量は、ICP質量分析計を用いて測定した。炭素、および酸素は、燃焼法を用いて測定した。具体的には、炭素の含有量は、試料を磁性るつぼに入れ、酸素気流中で該試料を高周波加熱炉で過熱溶解して酸素と反応させることによって、試料に含まれる炭素を二酸化炭素へ変化させ、この二酸化炭素濃度を赤外線で測定することによって算出した。酸素の含有量は、試料を黒鉛るつぼに入れ、He雰囲気中で該試料を加熱融解して炭素と反応させることによって、酸素を二酸化炭素へ変化させ、この二酸化炭素濃度を赤外線で測定することによって算出した。また、オイル成分は熱天秤法により測定した。具体的には、固形物熱重量測定器を用いて二次固形分を室温から500℃まで加熱した後の重量変化を測定した。
【0109】
表1に示すように、シリコン屑中のボロン、リン、鉄およびオイルの含有量は多かった。特に、クーラント由来のオイル成分が非常に多かった。なお、回収工程後の炭素、酸素の含有量について、炭素はSiCとオイル中の有機成分との分離が困難であり、酸素はシリコンの自然酸化膜とオイル成分および水分との分離が困難であったために、測定できなかった。
【0110】
<溶融前洗浄工程>
次に、回収工程により回収されたシリコン屑を、シリコン屑の重量:水の重量=(1:5)〜(1:10)で洗浄し、遠心分離機を用いて固液分離して、オイル分の除去を行った。オイル成分の除去性を高めるために、洗浄を2度行った。なお、遠心分離時の遠心力は300Gとした。遠心分離後のシリコン屑を、シリコン屑の重量:5%の希硫酸の重量=(1:5)で洗浄し、フィルタープレスを用いて固液分離した。そして、固液分離された固形分を乾燥させた後、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定し、さらに、密度および回収率を算出した。
【0111】
本工程後のシリコン屑中の不純物含有量の測定結果、密度および回収率を表1の「溶融前洗浄工程後」に示す。表1に示すように、溶融前洗浄工程を行うことにより、ボロン、リン、鉄およびオイル成分の効率的な除去が可能であることがわかった。特に、重金属類であるFeおよびオイル成分が多量に除去された。また、オイル成分が減少したことにより、シリコン屑中の炭素および酸素の測定が可能となった。なお、表1において、回収率とは、工程を行なう前のシリコン屑などの試料の重量に対する、工程を行なった後の試料の重量の割合を示す。
【0112】
<溶融工程>
次に、溶融前洗浄工程により洗浄されたシリコン屑を第1の圧力下で溶融して、シリコン溶湯を形成した(シリコン溶湯形成工程)後、シリコン溶湯を第2の圧力下に置き(脱気工程)、その後溶融シリコンと粘着性物質を分離した(出湯工程)。本工程は、図2に示すシリコン精製装置100を用いて行なわれた。以下、図2および図4を用いて具体的に説明する。
【0113】
(シリコン溶湯形成工程)
図2を参照し、まず、溶融前洗浄工程後のシリコン屑を投入口9から減圧容器8内に投入し、カーボン製の耐熱容器10内にシリコン屑を収容した。次に、減圧容器8内に、不活性ガスとしてアルゴンを導入して、耐熱容器10の周囲の雰囲気圧力が152Torr以上760Torr以下(第1の圧力)となるように調整し、さらに耐熱容器10内の温度を1600℃程度に調整して、シリコン屑を溶融させた。これにより、耐熱容器10内にシリコン溶湯が形成された。なお、溶湯はカーボン製の撹拌棒を用いて撹拌しながら形成させた。
【0114】
(脱気工程)
引き続き、加熱温度を保ったまま、耐熱容器10の周囲の雰囲気圧力が76Torr以上152Torr未満(第2の圧力)となるように減圧容器8内の減圧を行った。減圧の具体的な条件は、圧力の低減速度を38Torr/min以下とし、耐熱容器10の雰囲気圧力が100Torr程度となった段階で5分程度保持した。
【0115】
そして、脱気が終了した後、耐熱容器10の周囲の雰囲気圧力を456Torr程度に戻した。なお、本工程の間、溶湯から発生する酸化シリコン蒸気(SiO)による減圧容器8内の汚染を防ぐために、ブロワー18で酸化シリコン蒸気を吸引しながら、フィルター20で捕捉した。
【0116】
(出湯工程)
次に、図4に示すように、耐熱容器10を駆動部12を用いて傾動して第1収容部14に溶融シリコンを出湯させた。
【0117】
<シリコン塊形成工程>
溶融後、第1収容部14内に収容された溶融シリコンを冷却して、溶融シリコンを凝固させることによってシリコン塊を形成した。このようにして得られたシリコン塊について、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定した。また、回収されたシリコン塊の密度および回収率を算出した。
【0118】
その結果を表1の「溶融工程後」に示す。表1に示すように、上記溶融工程およびシリコン塊形成工程を行なうことによって、シリコン塊中の炭素および酸素の量が著しく低減されており、シリコン酸化物および砥粒の除去が効率的に行なわれたことがわかった。
【0119】
<第1の酸溶液および第1の塩基性溶液による洗浄工程>
形成されたシリコン塊を、5質量%のフッ化水素水溶液(25℃)中に浸漬させて撹拌しながら4時間洗浄を行なった。その後、3質量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)中に浸漬させて撹拌しながら1時間洗浄を行った。その後、シリコン塊に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水で洗い流した後に、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定した。また、回収されたシリコン塊の密度および回収率を算出した。
【0120】
その結果を表1の「溶融後洗浄工程後」に示す。表1に示すように、炭素および酸素の量を顕著に低減させることができた。また、ボロンおよび鉄もわずかに除去されることが確認された。
【0121】
<脱リン工程>
次に、溶融後洗浄工程を行った後のシリコン塊を耐熱容器10内に再収容して、1Torr以下の雰囲気圧力下で1650℃以上に加熱することによって、シリコン塊を溶解して溶融シリコンを作製した。そして、この状態で溶融シリコンを撹拌しながら10時間保持して、溶融シリコンからのリンの除去を行なった。その後、溶融シリコンを冷却して凝固させることにより、シリコン塊を作製し、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定した。また、密度および回収率を算出した。
【0122】
その結果を表1の「脱リン工程後」に示す。表1に示すように、本工程によりリンが効率的に除去されることがわかった。また、炭素含有量も低減しており、砥粒が効率的に除去されることが確認された。
【0123】
<偏析工程>
次に、脱リン工程後のシリコン塊を再度溶融させて溶融シリコンとした後に、金属不純物を除去するために、一方向凝固を行なった。具体的には、250kgのシリコンを溶融し、一方向凝固により、680mm角×高さ235mmのシリコン塊を得、このシリコン塊の上部30mm、側面各10mm、下部10mmをバンドソーにて切断、除去し、内部の660mm角×195mm(200kg)を太陽電池用シリコン原料とした。そして、上記と同様にして、太陽電池用シリコン原料のボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定した。また、密度および回収率を算出した。
【0124】
その結果を表1の「偏析工程後」に示す。表1に示すように、本工程により鉄が効率的に除去されることがわかった。一方向凝固を行う際、炭素濃度や、酸素濃度が高いと、特に融点の高いSiCを起点とした凝固が発生してしまうことがあるため、偏析による金属不純物除去が不十分になることがある。これに対し、実施例1におけるシリコン塊では、炭素濃度が既に十分に低いため、偏析による金属不純物除去が容易であることが分かる。
【0125】
すなわち、上記の実施例1のシリコン精製方法によって精製された精製シリコン中のボロンの含有量は0.20ppmであり、リンの含有量が0.20ppmであり、鉄の含有量が1ppm未満であり、炭素の含有量が100ppmであり、酸素の含有量が100ppmであった。
【0126】
表2に、比較例1の結果を示す。比較例1は、上述のように、溶融工程において脱気工程を行なわなかった以外は、実施例1と同様の工程によってシリコン精製を行なった。ただし、脱リン工程における保持時間は11時間とした。
【0127】
【表2】

【0128】
<実施例1と比較例1との比較>
(溶融工程について)
表1および表2を比較すると、実施例1における溶融工程後のシリコン塊の炭素量および酸素量は、比較例1におけるそれと比較して十分に低いことがわかった。これは、脱気工程によって、シリコン溶湯中に残存していた粒子径の小さなシリコン粉を溶融させることができ、シリコン溶湯が均一に形成され、結果的にシリコン溶湯内の溶融シリコンと、シリコン酸化物および砥粒(SiC)との分離性が向上したためと考えられる。
【0129】
また、実施例1における溶融工程後のシリコン塊の密度は、比較例1におけるそれと比較して大きいことがわかった。これは、脱気工程によって、シリコン溶湯中に存在していた気体が抜けたことによって、シリコン塊の密度が大きくなったものと考えられる。
【0130】
(溶融後洗浄工程について)
表1および表2を比較すると、実施例1における溶融工程後のシリコン塊の炭素量および酸素量は、比較例1のそれと比較して十分に低くなっているにも関わらず、溶融後洗浄工程によるシリコン塊の炭素量および酸素量の減少度合いは、比較例1と同程度か、それよりも大きかった。これは、実施例1のシリコン塊において、脱気工程を経ることによって、シリコンとシリコン酸化物およびシリコン炭化物との分離性が高まったために、シリコン酸化物とシリコン炭化物がシリコン塊の表面に局在化したものと考えられる。すなわち、シリコン酸化物とシリコン炭化物がシリコン塊の表面に局在化していることにより、洗浄による除去性能が向上したものと考えられる。
【0131】
(脱リン工程について)
脱リン工程に関し、上述のように、実施例1では保持時間が10時間であったのに対し、比較例1では、11時間の保持時間が必要であった。これは、溶融中に空孔からのガス抜けによる溶湯の飛び跳ね現象や酸素蒸発による圧力上昇が発生したことにより、保持時間の延長が必要となったためである。すなわち、比較例1に対し、実施例1は、リン除去の効率化、装置の損傷低減、装置の高寿命化を図ることができる。
【0132】
また、表1および表2を比較すると、脱リン工程後の回収率は、比較例1が90%であるのに対し、実施例1は92%であった。これは、比較例1において、上述の飛び跳ね現象が生じたためと考えられる。このことから、実施例1の方法によれば、シリコンの高い回収率を維持したまま、精製シリコンを得ることができることがわかった。
【0133】
(偏析工程について)
また、表1および表2を比較すると、偏析工程後の回収率は、実施例1が80%であるのに対し、比較例1では75%であった。比較例1のシリコン塊における炭素濃縮部が大きかったために、除去率が高まったためである。すなわち、偏析によって炭素がシリコン塊の上部に局在化するが、比較例1では、偏析前の溶融シリコンにおける炭素の含有量が多いために、炭素が高濃度に存在する部分が大きくなり、除去率が高まった。
【実施例2】
【0134】
実施例2として、固定砥粒を用いた切断を行った際に発生するシリコン屑を回収して、精製シリコンを調製した。以下、各工程を行った順に説明する。また、比較例2では、溶融工程において脱気工程を行なわなかった以外は、実施例2と同様の工程を行なって、精製シリコンを調製した。
【0135】
<シリコン屑の回収工程>
ワイヤーにダイヤモンドを付着させ、ダイヤモンドの剥離を抑制するためにめっきを施した固定砥粒ワイヤーを用いて切断を行った。これにプロピレングリコールを基材としたクーラントをかけながら、マルチワイヤソーを用いてシリコンウエハの切断を行った。
【0136】
シリコンの切断加工の際に発生したスラリの廃液を回収し、遠心分離機を用いて、スラリからオイル成分を除去した。なお、遠心分離時の遠心力は300Gとした。以上の方法によって回収されたシリコン屑について、不純物(ボロン、リン、鉄、炭素、酸素、およびオイル)の含有量を測定した。また、シリコン屑の密度(mg/cm3)を測定した。各成分の測定方法は、実施例1と同様である。
【0137】
本工程後のシリコン屑中の不純物含有量の測定結果を表3の「回収工程後」に示す。特に、クーラント由来のオイル成分が非常に多かった。また、固定砥粒ワイヤーであるため、砥粒成分である鉄の含有率が遊離砥粒から回収したシリコン屑と比較して少ないことが分かった(表1参照)。なお、回収工程後の炭素、酸素の含有量について、炭素とオイル中の有機成分との分離が困難であり、酸素はシリコンの自然酸化膜とオイル成分および水分との分離が困難であり、測定できなかった。
【0138】
【表3】

【0139】
<溶融前洗浄工程>
次に、回収工程により回収されたシリコン屑に対し、実施例1の溶融前洗浄工程と同様の方法で、洗浄を行なった。そして、実施例1と同様に、固液分離された固形分を乾燥させた後、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定し、さらに、密度および回収率を算出した。
【0140】
本工程後のシリコン屑中の不純物含有量の測定結果を表3の「溶融前洗浄工程後」に示す。表3に示すように、溶融前洗浄工程を行うことにより、ボロン、鉄およびオイル成分の効率的な除去が可能であることがわかった。特に、重金属類であるFeおよびオイル成分が多量に除去された。また、オイル成分が減少したことにより、シリコン屑中の炭素および酸素の測定が可能となった。炭素濃度は1000ppm程度であり、これはスライスワイヤーからのダイヤモンドの剥離、磨耗に起因しているものと考えられる。
【0141】
<溶融工程およびシリコン塊形成工程>
実施例1と同様の方法により、溶融工程(シリコン溶湯形成工程、脱気工程および出湯工程)を行ない、引き続き、実施例1と同様の方法により、シリコン塊形成工程を行なった。得られたシリコン塊について、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定した。また、回収されたシリコン塊の密度および回収率を算出した。
【0142】
その結果を表3の「溶融工程後」に示す。表3に示すように、上記溶融工程およびシリコン塊形成工程を行なうことによって、シリコン塊中の炭素および酸素の量が著しく低減されていることがわかった。表3から、固定砥粒ワイヤーで切断したシリコン屑を回収、溶融前洗浄、溶融したものは炭素濃度および酸素濃度が低いため、ここまでの工程で、十分に精製されたシリコン塊を得ることができることがわかった。
【0143】
また、シリコン塊形成工程後の回収率は70%であり、実施例1における溶融工程後の回収率(50%)よりも高かった。これは、固定砥粒を用いた切断を行った際に発生するシリコン屑は、遊離砥粒の場合と比較すると砥粒成分(炭素)が非常に少ないために砥粒成分の影響が小さく、シリコンとその他成分との分離性が良好となり、結果的に回収率が高くなるためと考えられる。
【0144】
<第1の酸溶液および第1の塩基性溶液による洗浄工程>
形成されたシリコン塊を用いて、実施例1と同様の方法により、第1の酸溶液による洗浄工程と、第1の塩基性溶液による洗浄工程とを行なった。その後、シリコン塊に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水で洗い流した後に、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定した。また、回収されたシリコン塊の密度および回収率を算出した。
【0145】
その結果を表3の「溶融後洗浄工程後」に示す。表3に示すように、炭素および酸素の量を顕著に低減させることができた。また、ボロンおよび鉄もわずかに除去されることが確認された。
【0146】
また、固定砥粒ワイヤーで切断したシリコン屑を回収、溶融前洗浄、溶融したものは炭素濃度および酸素濃度が低いため、ここまでの工程で、十分に精製されたシリコン塊を得ることができることがわかった。
【0147】
<脱リン工程>
次に、実施例1と同様の方法により、脱リン工程を行なった。ただし、保持時間は8時間とした。その後、溶融シリコンを冷却して凝固させることにより、シリコン塊を作製した後に、上記と同様にして、ボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定した。また、密度および回収率を算出した。
【0148】
その結果を表3の「脱リン工程後」に示す。表3に示すように、本工程によりリンが効率的に除去されることがわかった。また、炭素含有量も低減しており、砥粒が効率的に除去されることが確認された。
【0149】
<偏析工程>
次に、脱リン工程後のシリコン塊を再度溶融させて溶融シリコンとした後に、実施例1と同様の方法により、一方向凝固を行ない、太陽電池用シリコン減量を調製した。そして、上記と同様にして、太陽電池用シリコン原料のボロン、リン、鉄、炭素、酸素およびオイル成分の含有量を測定した。また、密度および回収率を算出した。
【0150】
その結果を表3の「偏析工程後」に示す。表3に示すように、本工程により鉄が効率的に除去されることがわかった。また、本工程により炭素も効率的に除去されることがわかった。
【0151】
すなわち、上記の実施例のシリコン精製方法によって精製された精製シリコン中のボロンの含有量が0.20ppmであり、リンの含有量が0.20ppmであり、鉄の含有量が1ppm未満であり、炭素の含有量が20ppmであり、酸素の含有量が100ppmであった。
【0152】
表4に、比較例2の結果を示す。比較例2は、上述のように、溶融工程において脱気工程を行なわなかった以外は、実施例2と同様の工程によって、シリコン精製を行なった。ただし、脱リン工程において、保持時間は8.5時間とした。
【0153】
【表4】

【0154】
<実施例2と比較例2との比較>
(溶融工程について)
表3および表4を比較すると、実施例2における溶融工程後のシリコン塊の炭素量および酸素量は、比較例2におけるそれと比較して十分に小さいことがわかった。これは、脱気工程によって、シリコン溶湯中に残存していた粒子径の小さなシリコン粉を溶融させることができ、シリコン溶湯が均一に形成され、結果的にシリコン溶湯内の溶融シリコンと、酸化シリコンおよび砥粒(C)との分離性が向上したためと考えられる。また、実施例2の溶融工程後のシリコン塊の純度は高く、溶融工程後のシリコン塊を精製シリコンとすることができる。
【0155】
また、実施例2における溶融工程後のシリコン塊の密度は、比較例2におけるそれと比較して大きいことがわかった。これは、脱気工程によって、シリコン溶湯中に存在していた気体が抜けたことによって、シリコン塊の密度が大きくなったものと考えられる。
【0156】
(溶融後洗浄工程について)
表3および表4を比較すると、実施例2における溶融工程後のシリコン塊の炭素量および酸素量は、比較例2のそれと比較して十分に低くなっているにも関わらず、溶融後洗浄工程によるシリコン塊の炭素量および酸素量の減少度合いは、比較例2と同程度か、それよりも大きかった。これは、実施例2のシリコン塊において、脱気工程を経ることによって、シリコンとシリコン酸化物およびシリコン炭化物との分離性が高まったために、シリコン酸化物とシリコン炭化物がシリコン塊の表面に局在化したものと考えられる。すなわち、シリコン酸化物とシリコン炭化物がシリコン塊の表面に局在化していることにより、洗浄による除去性能が向上したものと考えられる。
【0157】
(脱リン工程について)
脱リン工程に関し、上述のように、実施例2では保持時間が8時間であったのに対し、比較例2では、8.5時間の保持時間が必要であった。これは、溶融中に空孔からのガス抜けによる溶湯の飛び跳ね現象や酸素蒸発による圧力上昇が発生したことにより、保持時間の延長が必要となったためである。すなわち、比較例2に対し、実施例2は、リン除去の効率化、装置の損傷低減、装置の高寿命化を図ることができる。
【0158】
また、表3および表4を比較すると、脱リン工程後の回収率は、比較例2が92%であるのに対し、実施例2は93%であった。これは、比較例2において、上述の飛び跳ね現象が生じたためと考えられる。このことから、実施例2の方法によれば、シリコンの高い回収率を維持したまま、精製シリコンを得ることができることがわかった。
【0159】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、シリコン屑からシリコン精製する場合に、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0161】
9 投入口、10 耐熱容器、11 加熱部、12 駆動部、13 溶融部、14 第1収容部、15 第2収容部、16 搬送部、17 残留物回収部、18 ブロワー、19 排出管、20 フィルター、21 シリコン溶湯、22 溶融シリコン、23 シリコン酸化物、24 砥粒、25 粘着性物質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン屑から精製シリコンを得るシリコン精製方法であって、
前記シリコン屑を溶融してシリコン溶湯を形成する工程と、
前記シリコン溶湯から得られる溶融シリコンを凝固させてシリコン塊を形成する工程と、を含み、
前記シリコン溶湯を形成する工程は、前記シリコン屑を第1の圧力下で溶融してシリコン溶湯を形成する工程と、前記シリコン溶湯を前記第1の圧力よりも低い第2の圧力下で脱気する工程と、を含むシリコン精製方法。
【請求項2】
前記第1の圧力が152Torr以上760Torr以下であり、前記第2の圧力が76Torr以上152Torr未満である、請求項1に記載のシリコン精製方法。
【請求項3】
前記第1の圧力が380Torr以上760Torr以下である、請求項1または2に記載のシリコン精製方法。
【請求項4】
前記シリコン溶湯を形成する工程は、脱気されたシリコン溶湯を前記第1の圧力下に置く工程を含む請求項1から3のいずれかに記載のシリコン精製方法。
【請求項5】
前記第1の圧力から38Torr/min以下の速度で圧力を低下させて前記第2の圧力にする、請求項1から4のいずれかに記載のシリコン精製方法。
【請求項6】
シリコンの機械加工を行なった際に発生する廃棄物から前記シリコン屑を回収する工程をさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載のシリコン精製方法。
【請求項7】
前記シリコン屑が粒子径10μm以下のシリコン粉を含む、請求項1から6のいずれかに記載のシリコン精製方法。
【請求項8】
前記シリコン屑を溶融させる前に、前記シリコン屑を前洗浄する工程をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載のシリコン精製方法。
【請求項9】
前記シリコン精製方法において、
(1)前記シリコン塊を第1の酸溶液、第1の塩基性溶液のうちの少なくとも1つの溶液で洗浄する工程、
(2)前記シリコン塊からリンを除去する工程、
(3)前記シリコン塊から偏析によって金属を除去する工程、
(4)前記シリコン塊からリーチングによって金属を除去する工程、のうちの少なくとも1つの工程をさらに含む、請求項1から8のいずれかに記載のシリコン精製方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のシリコン精製方法によって精製された精製シリコンであって、
前記精製シリコン中のボロンの含有量が0.3ppm以下であり、リンの含有量が0.3ppm以下であり、鉄の含有量が1ppm以下であり、炭素の含有量が100ppm以下であり、酸素の含有量が100ppm以下である、精製シリコン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−111672(P2012−111672A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264598(P2010−264598)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】