説明

シリコーンゴム組成物

【課題】シリコーンゴムの硬化を抑制する手段を提供する。
【解決手段】本発明のシリコーンゴム組成物は、シリコーンゴムの少なくとも一部に、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩が分散されてなる。また、本発明は、シリコーンゴム前駆体と、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩とを混合し、得られた混合物を硬化する工程;またはシリコーンゴムを、液体状のビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩に浸潤させる工程を含む、シリコーンゴム組成物の製造方法を提供する。さらに、本発明は、上記製造方法で得られたシリコーンゴム組成物を医療器具に組み込む工程と、得られた医療器具を密封包装する工程と、密封包装された医療器具に放射線を照射する工程を含む、医療器具の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコーンゴム組成物に関する。より詳しくは、放射線滅菌が行われる医療器具に好適に使用されうるシリコーンゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、医療器具において、弾性材料や繊維材料として広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カテーテルやガイドワイヤなどの医療用長尺部材を生体内へ導入するときに使用される医療用管体導入具(イントロデューサ)が開示されている。当該イントロデューサは、筒状をなす本体と、本体の一端に設けられたキャップと、本体の筒内の通路上に位置し、本体とキャップとによって挟持される状態で固定された弁体とを有する。
【0004】
弁体は、その中心部にスリットを有し、当該スリットは、カテーテルなどが本体に挿入されたときは開いた状態、抜去されたときは閉じた状態となり、血液の流出を防止する。このように、カテーテルなどの挿入・抜去に伴って柔軟に開閉する必要がある弁体は、しなやかで適度な強度を有する弾性材料から構成され、弾性材料としては生体への毒性が低いなどの理由からシリコーンゴムが広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平2−949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような医療器具は、使用前に、器具の表面または内部に存在する微生物を殺滅または除去する滅菌処理を必要とする。滅菌方法としては、例えば、γ線滅菌や電子線滅菌などの放射線滅菌、酸化エチレンガス滅菌、および高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)などが挙げられる。このうち、処理時間が短く、連続的な処理が可能で、後処理も不要なことから、医療現場では放射線滅菌が好適である。
【0007】
しかしながら、シリコーンゴムを含む医療器具を放射線滅菌すると、シリコーンゴムが放射線照射により硬化してしまい、所望の弾性が損なわれてしまうという問題を有していた。
【0008】
そこで本発明は、シリコーンゴムの硬化を抑制する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その過程で、シリコーンゴムにビタミンEを添加することによって、シリコーンゴムの硬化を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のシリコーンゴム組成物は、シリコーンゴムの少なくとも一部に、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩が分散されてなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、シリコーンゴム前駆体と、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩とを混合し、得られた混合物を硬化する工程;またはシリコーンゴムを、液体状のビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩に浸潤させる工程を含む、シリコーンゴム組成物の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記製造方法で得られたシリコーンゴム組成物を医療器具に組み込む工程と、得られた医療器具を密封包装する工程と、密封包装された医療器具に放射線を照射する工程を含む、医療器具の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリコーンゴムの硬化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例および比較例のシリコーンゴム組成物について、滅菌前および滅菌後の硬度を測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい形態を説明する。
【0016】
<シリコーンゴム組成物>
本形態のシリコーンゴム組成物は、シリコーンゴムの少なくとも一部に、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩(以下、「ビタミンE等」とも称する)が分散されてなる点に特徴を有する。
【0017】
従来のシリコーンゴムは、γ線や電子線などの放射線の照射により硬化が起こり、弾性(しなやかさ)が失われてしまうという問題点を有していた。これは、以下のようなメカニズムによるものと考えられる。シリコーンゴムに放射線が照射されると、シリコーンゴム中で、シロキサン結合の開裂、置換基の引き抜き、置換基上の水素原子の引き抜きなどによりラジカルが発生する。そして、ラジカル同士が結合することにより、分子内架橋または分子間架橋が起こり、分子の運動が制限され、硬化してしまう。
【0018】
本発明者は、このようなシリコーンゴムの硬化を抑制するために、ラジカル捕捉能またはラジカル消去能を有する各種酸化防止剤の添加を試みた。その結果、樹脂の酸化防止剤として広く用いられているフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などでは所望の効果が得られなかったのに対して、生体における抗酸化剤として知られるビタミンE等を添加した場合では、著しい硬化抑制効果が得られ、また、添加による物性の変化も小さいことが分かり、当該知見に基づいて本発明を完成させた。
【0019】
なお、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載により定められるものであり、上記メカニズムによって限定されるものではない。よって、仮に他のメカニズムによって本発明の作用効果が生じているとしても、本発明の技術的範囲は何ら影響されることはない。以下、本形態のシリコーンゴム組成物の各構成要素について説明する。
【0020】
[シリコーンゴム]
本形態に係るシリコーンゴムは、ゴム状性質を有するポリシロキサンであれば特に制限はない。通常、シリコーンゴムは、シリコーンゴム前駆体であるポリシロキサンを架橋化することによって製造される。
【0021】
本形態に係るシリコーンゴムとしては、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン(A)と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)とを含むシリコーンゴム前駆体を架橋してなるものであることが好ましい。なお、以下において、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン(A)を「ポリシロキサン(A)」と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を「ポリシロキサン(B)」とも称する。
【0022】
上記アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン(A)は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するポリシロキサンである。アルケニル基の含有量は、ポリシロキサン(A)分子1モルに対して、0.005モル%以上であることが好ましく、0.001〜1モル%であることがより好ましい。
【0023】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、メタアリル基、ブテニル基、およびヘキセニル基などが挙げられる。このうちビニル基であることが好ましい。
【0024】
上記ポリシロキサン(A)は、アルケニル基以外にも、置換基(オルガノ基)を有していてもよく、例えば、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜8個のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜8個のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基等が挙げられる。
【0025】
炭素原子数1〜8個のアルキル基としては、例えば、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基などが挙げられる。このうち、メチル基であることが好ましい。
【0026】
炭素原子数1〜8個のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基およびオクチルオキシ基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、およびメチルフェニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基などが挙げられる。
【0027】
また、上記アルケニル基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはアラルキル基に置換されうる基としては、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボニル基、およびシアノ基などが挙げられる。
【0028】
なお、ポリシロキサン(A)は、直鎖状、分岐鎖状、または環状のいずれであっても構わない。また、これらは1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、ケイ素原子に結合する水素原子を少なくとも2個有するポリシロキサンである。該水素2個は、ポリオルガノシロキサン(A)のアルケニル基の二重結合に付加し、架橋構造を形成する。
【0030】
また、ポリシロキサン(B)は、水素原子以外に置換基(オルガノ基)を有していてもよく、置換基としては、上記ポリシロキサン(A)で例示したものと同様のものが挙げられる。なお、ポリシロキサン(B)は、直鎖状、分岐鎖状、または環状のいずれであっても構わない。また、これらは1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
シリコーンゴムを製造する際に使用されるポリシロキサン(A)およびポリシロキサン(B)の割合は特に制限はないが、ポリシロキサン(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、ポリシロキサン(B)に含まれるケイ素原子に結合する水素原子が0.5〜3.0モルとなるような割合とすることが好ましい。
【0032】
なお、本形態のシリコーンゴムは、シリコーンゴム前駆体であるポリシロキサンを架橋するための触媒をさらに含みうる。触媒は、特に制限はないが、白金系触媒であることが好ましく、具体的には、白金黒、シリカ担持白金、炭素担持白金、塩化白金酸、塩化白金酸アルコール溶液、白金/オレフィン錯体、白金/アルケニルシロキサン錯体、白金/β−ジケトン錯体、白金/ホスフィン錯体などが挙げられる。当該触媒は、シリコーンゴム前駆体の総量に対して、約0.1〜500ppm(Pt換算)となるように添加されうる。
【0033】
さらに、本形態のシリコーンゴムは、上記成分以外に、シリコーンゴムに硬度調節、耐熱性向上、増量剤のために無機質充填材が配合されうる。無機質充填材はシリコーンゴムに一般に使用される種々のものがあり、フュームドシリカ、沈澱シリカ、またはこれらの表面処理された微粉末シリカその他に珪藻土、石英、クレイ等の粉末が例示される。
【0034】
[ビタミンE等]
ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩(ビタミンE等)は、本形態のシリコーンゴム組成物において、ラジカル捕捉剤またはラジカル消去剤として架橋反応を抑制する、酸化防止剤としての機能を有する。
【0035】
上記ビタミンEとしては、例えば、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、およびδ−トコトリエノールなどが挙げられる。これらは光学活性体またはラセミ体のいずれであってもよい。また、これらのトコフェロールまたはトコトリエノール以外にも、酸化防止効果(抗酸化効果)を有するこれらの類縁体(クロマン環含有化合物など)も本形態におけるビタミンEとして使用可能である。
【0036】
上記ビタミンEの誘導体としては、上記ビタミンEの酢酸エステル体、ニコチン酸エステル体、リノール酸エステル体、およびコハク酸エステル体などが挙げられる。
【0037】
上記ビタミンEまたはその誘導体の塩としては、生理的に許容される塩であれば特に制限はなく、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、トリエタノールアミンやトリエチルアミンなどの有機アミン塩、アンモニウム塩、アルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸塩などが好ましく使用される。
【0038】
これらのビタミンE等のうち、酸化防止効果の観点から、α−トコフェロール、または酢酸α−トコフェロールを使用することが好ましく、α−トコフェロールを使用することがより好ましい。
【0039】
本形態のシリコーンゴムは、上記シリコーンゴムの少なくとも一部に上記ビタミンE等が分散されてなる。分散の形態は特に制限はなく、シリコーンゴム中の一部にビタミンEが局在化(例えばシリコーンゴムの表面部分に局在化)していてもよいし、シリコーンゴム全体に均一に分散されていてもよい。シリコーンゴム組成物の硬化抑制効果を高めるためには、シリコーンゴム全体に均一に分散されている形態であることが好ましい。
【0040】
本形態のシリコーンゴム組成物に含まれる、ビタミンE等の含有量は、シリコーンゴム組成物の性能を著しく低減させない範囲であれば特に制限はない。硬化抑制効果の観点からは、含有量の下限は、シリコーンゴムの全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.125質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上である。また、シリコーンゴム組成物の物性を維持する観点からは、含有量の上限は、シリコーンゴムの全質量に対して、好ましくは10.0質量%以下であり、より好ましくは2.0質量%以下である。
【0041】
本形態のシリコーンゴム組成物は、シリコーンゴムおよびビタミンE等の他に、必要により、本発明の効果を著しく阻害しない範囲において、各種添加物を含有してもよい。
【0042】
添加物としては例えば、架橋剤、充填材、紫外線吸収剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、熱安定化剤、抗酸化剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、老化防止剤、反応助剤、反応抑制剤、樹脂などが挙げられる。
【0043】
<シリコーンゴムの製造方法>
本形態のシリコーンゴムは、(1)シリコーンゴム前駆体と、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩とを混合し、得られた混合物を硬化する;または(2)シリコーンゴムを、液体状のビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩に浸潤させることにより製造することができる。
【0044】
上記(1)の方法では、まず、架橋前のシリコーンゴム前駆体、ビタミンE等、または必要により添加される添加剤などを所定量ずつはかり取り、これらを混合機などを用いて混合し、各成分が均一に分散されるようにする。混合機としては、例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダー、ローラミル、バンバリーミキサ、二本ロール、三本ロール、ホモジナイザー、ボールミルおよびビーズミルなどが使用される。また、混合するときの温度は特に制限はないが、ビタミンE等の酸化防止の観点から、0〜50℃で行うことが好ましい。必要により、ビタミンE等の酸化防止のために窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。そして、得られた混合物は、さらに必要により成形工程、硬化工程を経ることにより、所望の形状および物性(例えば弾性)を有するシリコーンゴム組成物となる。本方法は、シリコーンゴム組成物に含まれるビタミンE等の量を制御しやすいという点において優れている。
【0045】
一方、上記(2)の方法では、架橋後のシリコーンゴムを、液体状のビタミンE等に浸潤させて、シリコーンゴム内部にビタミンE等を導入する。本方法で使用するシリコーンゴムは、予め必要な添加剤が混合され、成形され、硬化処理されたシリコーンゴムを用いることが好ましい。言い換えると、本方法は、従来使用されてきた所望の形状および物性を有するシリコーンゴム部材をそのまま使用し、ビタミンE等を導入できるので、その点で(1)の方法よりも有利である。そして、このシリコーンゴムを液体状のビタミンEに浸潤させる。この浸潤の際、シリコーンゴムの全体がビタミンE等に接触しているようにすることが好ましい。また、浸潤の温度および時間は、シリコーンゴムのサイズや形状によって調節されるので一概にはいえないが、一般的に0〜150℃の温度で1〜500時間行うことにより、シリコーンゴム内に効果的にビタミンE等を導入することができる。特に、浸潤の温度を高めることによってビタミンE等の導入が促進される。また、本方法に使用するビタミンE等としては、融点が2.5〜3.5℃、沸点が200〜220℃であり、常温では液体であるα−トコフェロールを用いることが好ましい。必要により、ビタミンE等の酸化防止のために窒素等の不活性ガス雰囲気下で行っても良い。
【0046】
<医療器具>
上記シリコーンゴム組成物は、放射線照射による硬化が少ないことから、放射線滅菌処理される医療器具の弾性材料として好適に使用されうる。よって、上記シリコーンゴム組成物を含む医療器具もまた本発明の技術的範囲に含まれる。
【0047】
医療器具としては、以下に制限されないが、例えば、カテーテル;チューブ;カテーテルやガイドワイヤなどの長尺部材を生体内へ導入する際に使用されるイントロデューサ;人工心臓、血液回路、人工透析などの体液回路;注射針などが刺される針刺栓;薬液ビンのキャップなどが挙げられる。これらの医療器具において、シリコーンゴム組成物は、例えば、カテーテルのバルーン;イントロデューサの止血弁;体液回路のパッキンの弾性材料;各種器具のOリングやコネクターとして使用される。
【0048】
上記シリコーンゴム組成物を用いた弁体(止血弁)を有する医療器具は、電子線照射前後で硬度の変化が少ないので、弁体としての性能が電子線滅菌を行った場合でも維持される。例えば、シリコーンゴム組成物を含むスリットを備えた弁体の場合、通常は電子線照射によってスリットが張り付いて、弁体に挿入するダイレータの刺通抵抗や、カテーテルの挿入抵抗が高くなってしまうが、上述したような本形態のシリコーンゴム組成物を用いた場合、スリットの張り付きが抑制されてダイレータやカテーテルなどの医療器具の抵抗がエチレンガス滅菌をした場合と同等に維持されうる。さらに、電子線滅菌を行った場合でも柔軟性を維持できるので、弁体における液体の漏出もエチレンガス滅菌をした場合と同等に抑えることができる。
【0049】
なお、上記医療器具は、医療器具本体に本発明のシリコーンゴム組成物を組み込むこと以外は、従来と同様の方法を用いて製造される。
【0050】
<滅菌工程>
本発明によると、さらに、上記医療器具を密封包装した後、放射線を照射し滅菌する工程を含む、医療器具の製造方法が提供される。
【0051】
照射される放射線の線量は、対象製品により異なり特に限定されるものではないが、5〜100kGy、好ましくは、10kGy〜60kGyである。
【0052】
照射する放射線の種類は、電子線、γ線、またはX線などを用いることができる。このうち、工業的生産が容易であることから、電子加速器による電子線とコバルト−60からのγ線が好ましく、電子線がより好ましい。電子加速器は、比較的厚い部分を有する医療用具等の内側まで照射を可能とするために、加速電圧1MeV以上の中エネルギーから高エネルギー電子加速器を用いることが好ましい。
【0053】
電離放射線の照射雰囲気は、特に限定されないが、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行ってもよい。また、包材によって医療用具を密封した後に電離放射線を照射してもよく、その場合も包材内は空気や不活性ガスが充填されていてもよいし、真空状態であってもよい。照射時の温度はいずれであってもよいが、典型的には室温で行う。
【実施例】
【0054】
本発明の作用効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0055】
<シリコーンゴム組成物の調製>
[実施例1]
ミラブル型シリコーンゴム(ヌシルテクノロジー社 MED、またはダウコーニング社 SILASTIC)のA剤およびB剤、各100質量部を予め室温で練って柔らかくした。A剤100質量部にα−トコフェロール(DMS社)0.125質量部(シリコーンゴム全質量に対して0.125質量%)を添加して室温で混合した。次いで、これにB剤100質量部を加えさらに混合した。
【0056】
得られた混合物を、厚さが2mmとなるようにシート成形し、116℃で10分間熱処理することによって硬化し、シリコーンゴム組成物を調製した。
【0057】
[実施例2]
α−トコフェロールの添加量を0.5質量部(シリコーンゴムの全質量に対して0.5質量%)としたこと以外は、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0058】
[実施例3]
α−トコフェロールの添加量を2.0質量部(シリコーンゴムの全質量に対して2.0質量%)としたこと以外は、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0059】
[実施例4]
α−トコフェロールを添加せずに、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0060】
また、得られたシリコーンゴムについて、引張強度試験片を(ASTM D 638−97)に準じて作製した。また、引裂強度試験片を(ASTM D 624−00)に準じて作製した。
【0061】
得られた試験片をガラス容器に入れ、試験片が十分に覆われる量のα−トコフェロールを加え、ガラス容器に蓋をした。これを60℃のオーブン中で9日間静置することによって、シリコーンゴムをα−トコフェロールに浸潤させた。
【0062】
その後、試験片を取り出し、表面についたα−トコフェロールをふき取り、シリコーンゴム組成物の試験片を得た。
【0063】
当該シリコーンゴム組成物に含まれるα−トコフェロールの含有量を測定するために、得られた試験片の質量を浸潤前と比較したところ、シリコーンゴムに対してα−トコフェロールが1〜2質量%含まれていた。
【0064】
[比較例1]
α−トコフェロールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0065】
[比較例2]
ガラス容器にα−トコフェロールを加えなかったことを除いては、実施例4と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0066】
[比較例3]
α−トコフェロールに代えて、Irganox(登録商標)1076を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0067】
[比較例4]
α−トコフェロールに代えて、Irganox(登録商標)1076を用いたことを除いては、実施例2と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0068】
[比較例5]
α−トコフェロールに代えて、Irganox(登録商標)1076を用いたことを除いては、実施例3と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0069】
[比較例6]
α−トコフェロールに代えて、Irganox(登録商標)1076を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0070】
[比較例7]
α−トコフェロールに代えて、3,3−チオジプロピオン酸ジトリデシルを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0071】
[比較例8]
α−トコフェロールに代えて、3,3−チオジプロピオン酸ジトリデシルを用いたことを除いては、実施例2と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0072】
[比較例9]
α−トコフェロールに代えて、3,3−チオジプロピオン酸ジトリデシルを用いたことを除いては、実施例3と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0073】
[比較例10]
α−トコフェロールに代えて、3,3−チオジプロピオン酸ジトリデシルを用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0074】
[比較例11]
α−トコフェロールに代えて、Doverphos(登録商標)S−9228を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0075】
[比較例12]
α−トコフェロールに代えて、Doverphos(登録商標)S−9228を用いたことを除いては、実施例3と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0076】
[比較例13]
α−トコフェロールに代えて、活性炭(Nuchar(登録商標)RGC パウダー;Westvaco社製)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0077】
[比較例14]
α−トコフェロールに代えて、活性炭を用いたことを除いては、実施例2と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0078】
[比較例15]
α−トコフェロールに代えて、活性炭を用いたことを除いては、実施例3と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0079】
[比較例16]
α−トコフェロールに代えて、C60フラーレン(Nano−C社製)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0080】
[比較例17]
α−トコフェロールに代えて、C60フラーレン(Nano−C社製)を用いたことを除いては、実施例2と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0081】
[比較例18]
α−トコフェロールに代えて、C60フラーレン(Nano−C社製)を用いたことを除いては、実施例3と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0082】
[比較例19]
α−トコフェロールに代えて、硫酸バリウム(Alfa Aesar社製)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0083】
[比較例20]
α−トコフェロールに代えて、硫酸バリウム(Alfa Aesar社製)を用いたことを除いては、実施例2と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0084】
[比較例21]
α−トコフェロールに代えて、硫酸バリウム(Alfa Aesar社製)を用いたことを除いては、実施例3と同様の方法でシリコーンゴム組成物を調製した。
【0085】
<滅菌処理>
室温にて、10MeV電子加速器により電子線60kGyを照射した。
【0086】
<性能評価>
[硬度]
実施例1〜4および比較例1〜21で得たシリコーンゴム組成物について、ASTM D 2240−05(2005年7月発行)に準じて硬度を測定した。なお、測定にはDurometer A−2(Shore社製)を用いた。結果を図1に示す。
【0087】
図1のグラフによると、シリコーンゴムとα−トコフェロールとを混合することにより得た実施例1〜3のシリコーンゴム組成物は、α−トコフェロールを添加しなかった比較例1と比べて、電子線照射後の硬度の上昇が抑制され、その効果はα−トコフェロールの添加量が多くなるにつれてより顕著になることが示された。電子線照射前の硬度の変化は小さかった。また、シリコーンゴムをα−トコフェロールに浸潤することにより得た実施例4のシリコーンゴム組成物は、α−トコフェロールに浸潤しなかった比較例2と比べて、電子線照射後の硬度の上昇が抑制され、電子線照射前は硬度の変化が小さいことが示された。
【0088】
一方、Irganox1076を用いた比較例3〜6は、電子線照射後の硬度上昇の抑制効果が見られず、さらに添加量の増加と共に硬度が上昇してしまった。さらに、電子線照射前にも硬度の上昇が確認された。
【0089】
3,3−チオジプロピオン酸ジトリデシルを添加した比較例7〜10、Doverphos(登録商標)S−9228を添加した比較例11および12、活性炭を添加した比較例13〜15は、電子線照射前においてシリコーンゴムの強度が大きく低下するなど、物性が著しく変化してしまった。
【0090】
また、C60フラーレンを添加した比較例16〜18、硫酸バリウムを添加した比較例19〜21は、電子線照射による硬度上昇の抑制効果が見られなかった。
【0091】
[引張強度]
実施例1〜3および比較例1で得たシリコーンゴム組成物について、ASTM D 638−97(1998年4月発行)に準じて引張強度を測定した。弾性率は1000〜1500%間で算出した。なお、測定にはMiniBionix II model 858(MTS社製)を用いた。結果を下記表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1によると、実施例1〜3のシリコーンゴム組成物は、α−トコフェロールを添加しなかった比較例1と比べて、電子線照射後の引張強度の上昇が顕著に抑制されることが示された。さらに、その効果はα−トコフェロールの添加量が多くなるにつれてさらに大きくになった。
【0094】
[引裂強度]
実施例2〜3および比較例1で得られたシリコーンゴム組成物について、ASTM D 624−00(2000年7月発行)に準じて引裂強さを測定した。なお、測定にはMiniBionix II model 858(MTS社製)を用いた。結果を下記表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表2によると、実施例2〜3のシリコーンゴム組成物は、α−トコフェロールを添加しなかった比較例1と比べて、電子線照射後の引裂強さの低下が抑制されることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムの少なくとも一部に、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩が分散されてなる、シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
前記ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩の含有量が、前記シリコーンゴムの全質量に対して、0.1〜10.0質量%である、請求項1に記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項3】
前記ビタミンEが、α−トコフェロールである、請求項1または2に記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項4】
前記シリコーンゴムは、シリコーンゴム前駆体が架橋されてなるものであり、
前記シリコーンゴム前駆体は、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン(A)と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項5】
シリコーンゴム前駆体と、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩とを混合し、得られた混合物を硬化する工程を含む、シリコーンゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
シリコーンゴムを、液体状のビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩に浸潤させる工程を含む、シリコーンゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
前記1〜4のいずれか1項に記載のシリコーンゴム組成物、または請求項5もしくは6に記載の製造方法により得られるシリコーンゴム組成物を含む、医療器具。
【請求項8】
シリコーンゴム前駆体と、ビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩とを混合し、得られた混合物を硬化する;またはシリコーンゴムを、液体状のビタミンEもしくはその誘導体またはそれらの塩に浸潤させる工程と、
得られたシリコーンゴム組成物を医療器具に組み込む工程と、
得られた医療器具を密封包装する工程と、
密封包装された医療器具に放射線を照射する工程と、を含む医療器具の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−41522(P2012−41522A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125388(P2011−125388)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】