説明

シリコーン組成物、それらの製造法及びシリコーンエラストマー

【課題】非晶質−結晶質相転移温度に相当する-50〜-40℃の温度範囲で、その熱膨張係数と弾性率の変化が相対的に小さく、かつ、硬化後のべとつきや収縮などの無い、チップスケールパッケージの封入剤などへの使用に適したシリコーン組成物を提供する。
【解決手段】(A)1分子当たり平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン100重量部;(B)数平均分子量が2,000〜5,000であり、かつR32R4SiO1/2単位とSiO4/2単位とを含む有機ポリシロキサン樹脂であって、各Rが独立して脂肪属不飽和基を含まない一価炭化水素基及び一価ハロゲン化炭化水素基から選択され、R4がR3及びアルケニル基から選択され、またR32R4SiO1/2単位のSiO4/2単位に対するモル比が0.6:1〜1.1:1であり、樹脂中に平均2.5〜7.5モル%のアルケニル基を含む有機ポリシロキサン樹脂75〜150重量部;(C)成分(A)及び(B)中のアルケニル基1個当たり1〜3個のケイ素に結合した水素原子を供給できる量の1分子当たり平均3個以上のケイ素に結合した水素原子を有する有機水素ポリシロキサン;(D)基材に対する組成物の接着を生じさせる量の接着促進剤;及び(E)組成物を硬化させる量のヒドロシリル化触媒、を含むシリコーン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコーン組成物、更に詳細には、特定の分子量を有する有機ポリシロキサン樹脂を臨界濃度で含む付加硬化性シリコーン組成物に関する。また、本発明はこれら組成物の製造法及びその組成物から製造されるシリコーンエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン製品は、それらが持つ低α粒子発生、優れた耐湿性、優れた電気絶縁性、熱安定性及び高度のイオン純度などのユニークな性質により、電気及びエレクトロニクス産業で広く使用されている。特に、シリコーン封入剤は、周囲における湿気、UV照射、オゾン、気候に対する保護を与えることによって、電子器具の信頼性の改善のために使用されている。さらに、半導体パッケージング、すなわちチップスケール又はチップサイズパッケージにおける最近の進歩により、高性能シリコーン封入剤に対する大きな需要をもたらしている。
【0003】
ポリジメチルシロキサンポリマーと有機ポリシロキサン樹脂とを含む硬化性シリコーン組成物は、当分野において良く知られている。これらの組成物においては、典型的に100重量部のポリジメチルシロキサンポリマーにつき最高50重量部の有機ポリシロキサン樹脂を用いている。また、ヒドロシリル化、過酸化物、湿気、縮合、照射などの幾つかの硬化システムが知られている。
【0004】
しかしながら、このような組成物から生産されるシリコーンエラストマーは、それらの非晶質−結晶質相転移に相当する温度範囲(典型的には-50〜-40℃)で、熱膨張係数と弾性率が数倍も増大するのが通常である。そのため、従来のシリコーン組成物では、それらをチップスケールパッケージの封入剤として極低温で使用することは不適当であった。熱サイクルにおいて非晶質−結晶質転移を超えると、シリコーン封入剤の熱膨張と収縮、及び基質とシリコンダイ間の熱膨張係数の違いにより、チップスケールパッケージ中での応力が増加する。熱的に誘発された応力は、半田接合部及びリード線などの半導体パッケージの重要な構成部分に損害を与え、半導体パッケージなどの信頼性を著しく損なう。
【0005】
硬化生成物の熱膨張係数を減少させるために、シリカやアルミナのような無機充填剤が通常シリコーン組成物に添加される。このような充填剤は、シリコーンエラストマーと比較して熱膨張係数が非常に小さいので、エラストマーの熱膨張を全体として減少させる。しかしながら、充填剤はシリコーン組成物の粘性を増大するので、その結果として、しばしば加工性を悪化させる。
【0006】
シリコーン組成物の弾性率を制御するさまざまのアプローチが文献に報告されている。例えば、硬化性シリコーン組成物から製造されたエラストマーの弾性率を制御するのに非官能性シリコーン油が使われる。しかしながら、シリコーン油は、硬化後移行を起こし、組成物の収縮や周りの物質の汚染を引き起こす傾向がある。
【0007】
また、反応性のシリコーン油が、硬化シリコーンゴムの弾性率を低下させるためにシリコーン組成物中に使用されてきている。例えば、米国特許5,216,104では、(A)1分子当たり、少くとも2つのアルケニル基を含む有機ポリシロキサン、(B)1分子当たり、平均1つのアルケニル基を持つ有機ポリシロキサン、(C)1分子当たり、ケイ素に結合した水素原子を少くとも2個持つ有機水素ポリシロキサン、(D)白金触媒並びに随意的に有機ポリシロキサン樹脂を含む、付加型硬化性シリコーンゴム組成物を開示している。また、この特許では、シリコーンゴム組成物は、硬化により、それと接触しても他材料を汚染せず、また収縮により変形せず、硬化段階で組成物の接着を損なわない低弾性率シリコーンゴムを提供し得ることを開示している。米国特許5,216,104と異なり、本発明の組成物は、1分子当たり平均1つのアルケニル基を持つ有機ポリシロキサンを必要としない。また、この特許では、有機ポリシロキサン樹脂における分子量の限定、樹脂のポリマーに対する割合及び本発明の接着促進剤を開示していない。
【0008】
有機ポリシロキサン樹脂はまた、シリコーン組成物の中で硬化生成物の弾性率を制御するのに使用されている。例えば、米国特許5,705,587では、(A)(a)シラノール末端ブロック化ジオルガノポリシロキサン及び(b)一つの分子鎖末端がシラノールで保護され、他末端がトリアルキルシロキシで保護されたジオルガノポリシロキサンからなるジオルガノポリシロキサン;(B)アルコキシ官能性シラン;(C)有機ポリシロキサン樹脂;(D)硬化触媒;及び、(E)少くとも2つのカルボキシル基を含むジオルガノポリシロキサンからなる室温硬化性シリコーンエラストマーを開示している。この特許でも、前述の組成物が加硫前において優れた作業性を有し、硬化して低弾性率、高伸び率のシリコーンエラストマーを生成することを述べている。しかし、米国特許5,705,587では、ポリジオルガノシロキサンポリマー、有機ポリシロキサン樹脂、ポリマーに対する樹脂の割合、本発明の有機水素ポリシロキサンとヒドロシリル化触媒については触れていない。
【0009】
米国特許5,373,078では、(A)1分子につき平均2個のアルケニル基を持つ液体ポリオルガノシロキサン、(B)1分子当たり少くとも3個のケイ素に結合した水素原子を持つ液体有機水素ポリシロキサン、(C)ヒドロシリル化触媒 、及び(D)液体MQ有機シロキサン樹脂を含む硬化性有機シロキサン組成物が開示されている。この特許もまた、液体MQ樹脂が硬化性組成物の粘度を下げ、かつ、組成物から調製される硬化エラストマーの弾性率を硬化エラストマーの他の物性を実質上損なうことなく低下させることを述べている。しかしながら、米国特許5,373,078は、有機ポリシロキサン樹脂、樹脂のポリマーに対する割合及び本発明の接着促進剤については述べていない。
【0010】
また、欧州特許0767216では、(A)有機シリコーン樹脂、(B)主に直鎖状シリコーン流体、及び(C)1分子当たり3個以上の官能基を持つ所定量の架橋剤からなる、所定使用温度で高強度と靱性を示す湿気−硬化型、付加−硬化型シリコーン樹脂/流体アロイ組成物が開示されている。欧州特許0767216では、架橋された(A)及び(B)からの生成物は、無機充填剤を含まない時、剪断損失弾性率(shear loss modulus)(G")は106Pa以上であり、損失係数が、O.10以上であることを述べている。しかし、欧州特許EPO767216の明細書では、さらにそのような組成物が成形及び押し出し製品の製造に有用であることを述べているが、本発明の接着促進剤については触れていない。
【0011】
米国特許5,756,598には、(A)1分子当たり平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン、(B)1分子当たり、平均2個以上の、ケイ素に結合した水素原子を有する有機水素シロキサン、(C)白金族触媒及び(D)1分子当たり平均2個以上のアルケニル基を持つ樹脂状有機シロキサン共重合体を含む、シリコーンエラストマーに硬化可能な有機シロキサン組成物が開示されている。この特許もまた、前述の組成物が改良されたウィープ(weep)特性を有するシリコーンエラストマーに硬化できることを述べている。しかし、米国特許5,756,598は、本発明の特徴とする、樹脂のポリマーに対する割合については述べていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5216104号明細書
【特許文献2】米国特許第5705587号明細書
【特許文献3】米国特許第5373078号明細書
【特許文献4】欧州特許第0767216号明細書
【特許文献5】米国特許第5756598号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、特定範囲の数平均分子量を持つ有機ポリシロキサン樹脂を臨界濃度で含むシリコーン組成物を硬化することにより、広い温度範囲において、種々の基材に対する優れた接着性、並びに低い熱膨張係数及び貯蔵弾性率を有するエラストマーが生成することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明のシリコーン組成物は、(A)1分子当たり平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン100重量部;(B)数平均分子量が2,000〜5,000であり、かつR32R4SiO1/2単位とSiO4/2単位とを含む有機ポリシロキサン樹脂であって、各R3が独立して脂肪属不飽和基を含まない一価炭化水素基及び一価ハロゲン化炭化水素基から選択され、R4がR3及びアルケニル基から選択され、またR32R4SiO1/2単位のSiO4/2単位に対するモル比が0.6:1〜1.1:1であり、樹脂中に平均2.5〜7.5モル%のアルケニル基を含む有機ポリシロキサン樹脂75〜150重量部;(C)成分(A)及び(B)中のアルケニル基1個当たり1〜3個のケイ素に結合した水素原子を供給できる量の1分子当たり平均3個以上のケイ素に結合した水素原子を有する有機水素ポリシロキサン;(D)基材に対する組成物の接着を生じさせる量の接着促進剤;及び(E)組成物を硬化させる量のヒドロシリル化触媒を含む。
【0015】
また、本発明は、前記した組成物の反応生成物を含むシリコーンエラストマーにも関する。
【0016】
さらに、本発明は、前記した成分(A)から(E)を含むマルチパート(multi-part)シリコーン組成物に関する。ただし、ポリジオルガノシロキサンも有機ポリシロキサン樹脂も、有機水素ポリシロキサン及びヒドロシリル化触媒と同じ部分には共に存在しない。
【0017】
本発明のシリコーン組成物の製造方法は、前記成分(A)〜(E)を混合する工程を含む。
【0018】
また、本発明は、半導体チップ、支持基材、半導体チップを支持基材につなぐ少なくとも一つの部品及び前記シリコーン組成物を含むチップスケールパッケージの提供にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のシリコーン組成物は、種々の用途で必要とされるレオロジー特性を有する。例えば、本発明の組成物はシリコンチップ又はダイ周辺又は下部への迅速な流動性を示し、特に、高い処理量の封入工程における使用に適している。特に、その組成物の粘性は充分に低く、半導体素子の急速かつ完全な充填を確実に行うことができ、潜在気泡も回避し得る。本発明の組成物は、作業可能な粘度とするために有機溶媒で希釈する必要がない。その結果、この無溶媒組成物は、溶媒系シリコーンにつきものの健康及び環境上の危険を避けることができる。さらに、この無溶媒組成物は、硬化時において、通常、溶媒系シリコーン組成物よりも収縮が生じにくい。
【0020】
本発明の硬化シリコーン組成物はまた、チップスケールパッケージで一般に使用されている材料を始めとして、金属、 ガラス、シリコン、二酸化ケイ素、セラミックス、ゴム及びプラスチックなどの広範の材料に対し、非常に優れた接着性を持っている。特に、硬化組成物はチップスケールパッケージで使用されている屈曲性支持材料、特にポリイミドテープに対し優れた接着性を示す。
【0021】
さらに、本発明のシリコーン組成物は硬化により、その低熱膨張と低弾性率で示されるように、温度範囲-65℃〜150℃で優れた熱安定性と屈曲性を持つエラストマーを形成する。特に、本発明の硬化組成物は、典型的には、温度範囲-50〜-40℃で300μm/m℃の熱膨張係数を有する。また、-65℃の貯蔵弾性率の、20℃の貯蔵弾性率に対する比率は、典型的には5未満である。低熱膨張と低弾性率の結果、本発明のエラストマーは、低温においても最小の寸法変化と優れた屈曲性を示す。この屈曲性シリコーンエラストマーは、シリコンダイと基材間の熱膨張係数の違いにより、半導体パッケージ中の繊細な導線及び半田接続上における熱誘発応力を軽減する。
【0022】
さらにまた、このシリコーン組成物は、RAM用途で必要とされる高度の放射線的純度(低アルファ線粒子放射);低レベルイオン不純物濃度(例えば、ナトリウム、カリウム、塩素イオン);及び低誘電率、損失係数などの優れた電気的性質を有している。本発明の組成物は特に、チップスケール又はチップサイズ半導体パッケージの封入剤として有用である。
【0023】
本発明の構成要素(A)は、1分子当り平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を持つポリジオルガノシロキサンである。適当なアルケニル基は、2〜6個の炭素原子を含み、これらの基としてビニル、アリル及びヘキセニルが例示されるが、これらに限定されない。成分(A)のアルケニル基は、末端に位置しても、末端以外のところに懸垂して(pendant)位置してもよく、またその両方に位置していても良い。成分(A)の残りのケイ素に結合した有機基は、独立して、脂肪族不飽和基を含まない一価炭化水素及び一価ハロゲン化炭化水素基から選択される。これら基は、典型的には、1〜8個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有し、メチル、エチル、プロピル及びブチルなどのアルキル;フェニルなどのアリール;並びに3,3,3-トリフルオロプロピルなどのハロゲン化アルキルなどで例示される基であるが、これらに限定されない。典型的には、成分(A)の有機基の50%以上はメチル基である。
【0024】
成分(A)の構造は、典型的には直鎖であるが、三官能性シロキサン単位の存在により分岐鎖を有することもある。成分(A)の25℃における粘度は、分子量及び構造により変化するが、典型的には0.5〜100 Pa・s、好ましくは1〜 50 Pa・sであり、さらに好ましくは2〜 30 Pa・sである。
【0025】
成分(A)は、好ましくは、一般式R2R12SiO(R12SiO)nSiR12R2で表されるポリジオルガノシロキサンである。ここで、各R1は、独立して、先に定義したような脂肪族不飽和基を含まない一価炭化水素基及び一価ハロゲン化炭化水素基から選択される。R2は先に定義したアルケニルであり、nは成分(A)の25℃での粘度が先に引用した範囲の入るような値である。好ましくは、R1はメチル、R2はビニルである。
【0026】
構成要素(A)は、単独のポリジオルガノシロキサン又は粘度の異なる2種以上のポリジオルガノシロキサン混合物であっても良い。例えば、構成要素(A)は、25℃で40〜100Pa・sの粘度を持つ第一ポリジオルガノシロキサンと、25℃で1〜10Pa・sの粘度を持つ第二ポリジオルガノシロキサンの混合物を含む。好ましい態様としては、構成要素(A)は、25℃で45〜65Pa・sの粘度を持つ第一ポリジオルガノシロキサンと、25℃で1.8〜2.4Pa・sの粘度を持つ第二ポリジオルガノシロキサン10〜50重量%、好ましくは25〜35重量%からなる。この実施態様では、低粘度ポリジオルガノシロキサンは、液体組成物の流動性と硬化シリコーン生成物の耐溶剤性の両方を改善している。
【0027】
本発明で有用なポリジオルガノシロキサンの具体的な例には、ViMe2SiO(Me2SiO)nSiMe2Vi、ViMe2SiO(Me2SiO)0.92n(MePhSiO)0.08nSiMe2Vi、ViMe2SiO(Me2SiO)0.98n(MeViSiO)0.02nSiMe2Vi、ViMePhSiO(Me2SiO)0.92n(MePhSiO)0.08nSiMePhVi、Me3SiO(Me2SiO)0.95n(MeViSiO)0.05nSiMe3、PhMeViSiO(Me2SiO)nSiPhMeViなど(ここで、Me、Vi及びPhは、それぞれ、メチル、ビニル及びフェニルを意味し、nは先に定義したものである。)が含まれるが、これらに制限されない。好ましいポリジオルガノシロキサンは、ジメチルビニルシロキシ−末端ポリジメチルシロキサンである。
【0028】
対応するハロシラン類の加水分解及び縮合又は環状ポリジオルガノシロキサン類の平衡化などのような、本発明の組成物の成分(A)の製造法は、この技術分野では良く知られている。
【0029】
本発明の成分(B)は、本質的にR32R4SiO1/2シロキサン単位とSiO4/2シロキサン単位からなる有機ポリシロキサン樹脂である。ここでR3は、独立して、脂肪族不飽和基を持たない一価炭化水素及び一価ハロゲン化炭化水素から選択され、R4はR3及びアルケニルから選択される。成分(B)中の脂肪族不飽和基を含まない一価炭化水素及び一価ハロゲン化炭化水素及びアルケニル基は、成分(A)で定義したものと同一である。典型的には、R3基の50%以上、好ましくはすべてがメチル基である。また、R4の好ましいアルケニル基はビニル基である。
【0030】
29Si核磁気共鳴(29Si NMR)分光分析で測定される、R32R4SiO1/2のSiO4/2に対するモル比は0.6〜1.1、好ましくは0.9〜1.1である。M/Q比は、成分(B)中のM単位総数のQ単位総数に対する比率を意味し、以下に説明する存在ネオペンタマーからの寄与を包含している。
【0031】
成分(B)は、HOSiO3/2単位(TOH単位)を含んでおり、このHOSiO3/2単位は、有機ポリシロキサン樹脂のケイ素に結合したヒドロキシル基の量の源となっている。29Si NMR分光分析で測定された成分(B)のケイ素に結合したヒドロキシル基含有量は、樹脂全重量基準で、通常は2重量%未満、好ましくは1重量%未満である。
【0032】
また、成分(B)は、2.5〜7.5モル%、さらに好ましくは4.0〜6.5モル%のアルケニル基を有している。ここでは、樹脂中のアルケニル基のモル%は、樹脂中のアルケニル含有シロキサン単位モル数の樹脂中シロキサン単位モル総数に対する比率を100倍としたものとして定義される。樹脂中のシロキサン単位のモル総数には、前述したM、Q及びTOH単位が含まれる。樹脂のアルケニル含有量が2.5モル%未満の時、硬化組成物は柔軟でべとつくようになり、-65℃での貯蔵弾性率の20℃での貯蔵弾性率に対する比率は増加する。樹脂のアルケニル含有量が7.5モル%より大きくなると、貯蔵弾性率G'の増加から明らかなように、硬化組成物は硬く、脆くなる。
【0033】
成分(B)は、単独の有機ポリシロキサン樹脂又は2種類以上の有機ポリシロキサン樹脂の混合物からなる。例えば、成分(B)は、6.0 モル%のビニル基を持つ第一樹脂とビニル基を持たない樹脂50重量%との混合物であってもよい。このような有機ポリシロキサンは、平均3.0モル%のビニル基を含むようになり、成分(A)に対して必要とされるアルケニル含有量と合致している。
【0034】
成分(B) はまた、式(R3SiO)4Siを有するネオペンタマー有機ポリシロキサンからなる少量の低分子量材料を実質的に含んでいてもよい。この低分子材料は、Daudt等の方法に従った樹脂製造時における副生成物である。さらに、成分(B)は、少量のジオルガノシロキサンを含むことができる。
【0035】
成分(B)は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定し、かつ、ネオペンタマーピークを測定から除外したとき、2,000〜5,000、好ましくは2,000〜4,000、さらに好ましくは2,000〜3,000の数平均分子量を持つ。この分子量測定において、MQ樹脂における狭いフラクションをGPC装置のキャリブレーションに用いた。ここで、それらフラクションの絶対分子量は最初に蒸気相オスモメトリーなどの方法で決定される。
【0036】
好ましい有機ポリシロキサン樹脂は、2,500の数平均分子量を持ち、(CH3)2CH2=CHSiO1/2のシロキサン単位、(CH3)3SiO1/2シロキサン単位及びSiO4/2シロキサン単位を含む。ここで、SiO4/2単位に対する(CH3)2CH2=CHSiO1/2単位及び(CH3)3SiO1/2単位の組合せのモル比は1.0であり、さらにこの樹脂には6.Oモル%のビニール基が含まれる。
【0037】
本発明の組成物における成分(B)の濃度は、加硫前の粘度に関連して重要であり、また、その後の加硫によって達成される物性、特に熱膨張と弾性率にとっても重要である。成分(B)の濃度は、成分(A)100重量部につき、75〜150重量部、好ましくは90〜125重量部である。成分(B)の濃度が75重量部未満の場合は、-50〜-40℃の熱膨張係数及び-65℃での貯蔵弾性率は、20℃の時のそれらと比べ、著しく増加する。150重量部より大きい場合には、未硬化組成物の粘度は、商業的な封入工程で有用とされる速度では流動しなくなる程度にまで増大してしまう。
【0038】
本発明の成分(B)は、アルケニル含有末端ブロッキング剤を用いた、米国特許3,627,851及び米国特許3,772,247によって改良された、米国特許2,676,182のシリカヒドロゾルキャッピング方法により生成された樹脂共重合体を処理することで製造できる。
【0039】
簡単に説明すると、本発明の有機ポリシロキサン樹脂を製造するために、Daudt等方法の改良方法を用いた。この改良方法においては、シリカ粒子の過度の成長を避け、好ましい分子量Mnを持つ有機ポリシロキサンを得るために、ケイ酸ナトリウム溶液の濃度、及び/又はケイ酸ナトリウム中のケイ素−ナトリウム比、及び/又は中和化ケイ酸ナトリウム溶液をキャッピングする前の時間を、Daudt等により開示された値より一般的に低い値に限定することを含んでいる。好ましいケイ酸塩濃度は、一般には40〜120、好ましくは60〜100、最も好ましくは75グラム/リットルに限定される。中和されたシリカヒドロゾルは、好ましくは、イソプロパノールのようなアルコールを用いて安定化し、中和後できるだけ速やかに、好ましくは30秒以内に、(CH)3SiO1/2シロキサン単位でキャップする。使用に適したケイ酸ナトリウムは、式Na20・xSiO2で表され、式中のxは2〜3.5の値を有する。得られた共重合体は、2〜3重量%のヒドロキシル基を含む。
【0040】
ケイ素に結合したヒドロキシル基を2重量%未満含む本発明の樹脂は、Daudt等の改良方法で得られた生成物とアルケニル含有シラザン、シロキサンまたはシランとを、最終生成物中に2.5〜7.5モル%のアルケニル基が含まれるように反応させることによって製造できる。アルケニル含有末端ブロッキング剤は、当業者には既知のものであり、米国特許4,584,355、4,591,622及び4,585,836の中で例示されている。
【0041】
成分(A)の粘度が5から100Pa・sの範囲で増大するにつれ、加工可能な組成物を得るためには、有機ポリシロキサン樹脂濃度を上述した範囲内に減少させる必要があることが理解されるであろう。また、有機ポリシロキサン樹脂のアルケニル含有量が2.5〜7.5モル%の範囲で増加するにつれ、満足な接着性を有するシリコーンエラストマーを得るために樹脂濃度を減少させることが必要となる。
【0042】
本発明の成分(C)は、1分子当たり平均3個のケイ素に結合した水素原子を持つ有機水素ポリシロキサンであり、そして、ケイ素原子につき平均1個以下のケイ素に結合した水素原子を持つ。ケイ素に結合した水素原子は、有機水素ポリシロキサンの末端に位置しても、末端以外のところに懸垂して位置してもよく、またその両方に位置していても良い。また、成分(C)は、単独重合体であっても共重合体であってもよい。有機水素ポリシロキサンの構造は、直鎖、分岐鎖又は環状鎖とすることができる。成分(C)におけるシロキサン単位として、HR52SiO1/2、R53SiO1/2、HR5SiO2/2、R52SiO2/2、HSiO3/2、R5SiO3/2及びSiO4/2単位が含まれる。前述の式で、各R5は先に成分(A)で定義したように、独立して、脂肪族不飽和を持たない一価炭化水素及び一価のハロゲン化炭化水素基から選択される。典型的には、成分(C)での有機基の少くとも50%、好ましくは実質的に全てがメチルである。成分(C)は、単独の有機水素ポリシロキサンであっても、異なる2種以上の有機水素ポリシロキサンの混合物であっても良い。
【0043】
好ましい有機水素ポリシロキサンは、(i)1分子当たり平均5個のメチル水素シロキサン単位と3個のジメチルシロキサン単位を有し、且つ0.7〜0.8重量%のケイ素に結合された水素原子含有量を有するトリメチルシロキシ末端ジメチルシロキサン−メチル水素シロキサン、及び(ii)1.4〜1.75重量%のケイ素に結合した水素含有量及び0.02〜0.04Pa・sの粘度を有する、成分(C)の全重量基準で10.4重量%のトリメチル末端ポリメチル水素シロキサンを含む。
【0044】
本発明の組成物における成分(C)濃度は、成分(A)及び(B)中のアルケニル基当たり、ケイ素に結合した水素原子を1〜3個供給する。
【0045】
本発明の組成物での使用に適した有機水素ポリシロキサン及びその調製方法は、当分野において良く知られている。
【0046】
成分(A)、(B)と(C)の相容性を確保するには、各成分での主な有機基は同じものであることが望ましい。この有機基は、メチル基であることが好ましい。
【0047】
本発明の成分(D)は、一般に電子器具の組立に使用される基材、例えば、シリコン;二酸化ケイ素と窒化ケイ素のようなパッシベーションコーティング;ガラス;銅や金のような金属;セラミック;及びポリイミドのような有機樹脂へのシリコーン組成物の下塗の必要がない(unprimed)強い接着をもたらす接着促進剤である。成分(D)は、それが本発明の組成物に可溶性であり、硬化生成物の物性、特に熱膨張係数及び貯蔵弾性率に対して悪影響を及ぼさないならば、シリコーン組成物で使われている典型的な接着促進剤のいずれでもよい。成分(D)は、単独の接着促進剤又は異なる2種以上の接着促進剤の混合物であっても良い。
【0048】
本発明の組成物における成分(D)の濃度は、接着促進剤と基質材料の性質に基づいて広範囲に変更できる。好ましくは、成分(D)の濃度は、ポリイミド上の硬化組成物の剥離接着強度を、接着促進剤なしの同じ組成物の剥離接着強度に比べて少なくとも50 %増にできるような量である。一般的には、接着促進剤は、本発明の組成物の0.01〜10重量%である。しかしながら、成分(D)の最適濃度は、通常の実験により容易に決定できる。
【0049】
本発明による好ましい接着促進剤としては、非制限的であるが、(i)1分子当たり、平均1個以上のケイ素に結合したアルケニル基と平均1個以上のケイ素に結合したヒドロキシル基とを有するポリシロキサン、及び(ii)エポキシ含有アルコキシシランからなる接着促進剤が含まれる。ポリシロキサン(i)は、平均1分子につき15個未満のケイ素原子、好ましくは、3〜15のケイ素原子を持つ。成分(i)中において、ケイ素に結合した有機基は、独立して、7個未満の炭素原子を有する一価アルキル基、フェニル及び2〜6個の炭素原子を持つアルケニル基から選択される。適当な一価アルキル基として、メチル、エチル、プロピル及びブチルが例示され、好ましくは、一価のアルキル基はメチルである。アルケニル基の例には、ビニル、アリル、2-プロペニル及び6-ヘキセニルが含まれるが、好ましいアルケニル基は、ビニルである。
【0050】
ポリシロキサン(i)でのケイ素に結合したヒドロキシルとケイ素に結合したアルケニル基は、ポリシロキサンの末端に位置しても、末端以外のところに懸垂して(pendant)位置してもよく、またその両方に位置していても良い。また、ポリシロキサン(i)は、単独重合体か共重合体であっても良い。これらポリシロキサンの構造は、直鎖、分岐鎖又は環状である。成分(i)のシロキサン単位として、CH2=CHSiO1.5、C6H5SiO1.5、HOSiO1.5、R6(CH2=CH)SiO、R6(HO)SiO1.5、R6(C6H5)SiO、(C6H5)2SiO、(C6H5)2(CH=CH)SiO、(C6H5)(HO)SiO、(CH2=CH)(OH)SiO、(HO)R62SiO0.5、(CH2=CH)R62SiO0.5、(HO)(CH2=CH)R6SiO0.5及び(HO)(C6H5)R6SiO0.5が含まれる。ここでR6は、先に定義したように、7個未満の炭素原子を有する一価のアルキル基である。ポリシロキサン(i)は、単独のポリシロキサンであっても異なる2種以上のポリシロキサンの混合物であっても良い。好ましくは、ポリシロキサン(i)は、ジオルガノシロキサン単位がメチルビニルシロキサン及びジメチルシロキサン単位であるヒドロキシル末端ポリジオルガノシロキサンである。そのようなポリシロキサンとそれらの調製の方法は、当分野において良く知られている。
【0051】
エポキシ含有アルコキシシラン(ii)は、少くとも1つのエポキシを含む有機基と少くとも1つのケイ素に結合したアルコキシ基とを含む。エポキシ含有アルコキシシラン(ii)中のアルコキシ基は、典型的には、5個未満の炭素原子を有しており、メトキシ、エトキシ、プロポキシ及びブトキシが例示される。メトキシ基が好ましいアルコキシ基である。好ましくは、エポキシ含有有機基は以下の構造式を有する。
【0052】
【化1】

【0053】
【化2】

【0054】
【化3】

【0055】
式中、各Yは、独立して、1個か2個の炭素原子を持つアルキル基、aは0、1又は2、b及びcはそれぞれ0又は1、R7は12個以下の炭素原子を有する二価炭化水素基である。好ましくは、Rは飽和脂肪族炭化水素基、アリーレン基、及び式-R8(OR8)dOR8-(式中、R8は二価の2〜6個の炭素原子を有する飽和脂肪族炭化水素基、dは0〜8)で表される二価の基である。
【0056】
エポキシ含有アルコキシシランの残りのケイ素に結合した有機基は、独立して、7個未満の炭素原子を有する一価炭化水素基、7個未満の炭素原子を有する一価フッ素化アルキル基から選択される。一価炭化水素基として、メチル、エチル、プロピル、ヘキシルなどのアルキル基;ビニルなどのアルケニル基;及びフェニルなどのアリール基が例示される。適当なフッ素化アルキル基の例として、3,3,3-トリフルオロプロピル、β-(パーフルオロエチル)エチル及びβ-(パーフルオロプロピル)エチルのようなパーフルオロアルキルが挙げられる。
【0057】
エポキシ含有アルコキシシラン(ii)の構造は、直鎖、分岐鎖、又は環状でも良い。シラン(ii)は単独のシラン化合物でも異なる2種類以上のシラン化合物の混合物でも良い。好ましいエポキシ含有アルコキシシラン(ii)は、モノ(エポキシオルガノ)トリアルコキシシランであり、特に好ましいエポキシ含有アルコキシシランは、グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。このようなシランの製造法は、当分野において良く知られている。
【0058】
前述した接着促進剤の2つの成分は、どちらか別々に又は混合物として、本発明の組成物に添加できる。このような組成物はまた、典型的には、周囲条件下で保存した時に通常生成する、ヒドロキシ含有ポリシロキサン及びアルコキシシランの反応生成物の一種以上を、最高10重量%で含んでいる。
【0059】
本発明の好ましい接着促進剤の具体的な例として、2.25〜4重量%のケイ素に結合したヒドロキシル基及び27.5重量%のビニル基を有するヒドロキシル末端ポリメチルビニルシロキサン43.5重量%、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン50重量%、及びヒドロキシ末端ポリメチルビニルシロキサンとグリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応生成物6.5重量%の混合物が挙げられる。接着促進剤類は、米国特許4,O87,585に開示されている。
【0060】
本発明における好ましい接着促進剤には、次式で表される平均的構造
【化4】


を有する有機ケイ素化合物も含まれる。ここで、R9は脂肪族不飽和を持たない一価炭化水素基、R10はアルケニル、xは0〜10、yは0〜10、zは0〜10であり、y+zの合計は1以上である。また、Pは次の式
【化5】


を有する。ここで、R11は二価の有機基である。適当なR9基は一般的には1〜6個の炭素原子を含み、メチル、エチル、プロピル及びブチルで例示される。好ましくは、R9はメチル基である。R10基は、典型的には、2〜6個の炭素原子を持ち、ビニル、アリル、1-プロペニル及びイソプロペニルで例示される。好ましいR10基はビニル基である。R11の例として、メチレン、エチレン、プロピレン、フェニレン、クロロエチレン、フルオロエチレン、-CH20CH2CH2CH2-、-CH2CH20CH2CH2-、-CH2CH20CH(CH3)CH2-及び-CH20CH2CH20CH2CH2-が挙げられる。好ましいR11基は-CH20CH2CH2CH2-である。接着促進剤におけるこれまでのものが、特に、米国特許4,082,726に例示されている。ヒドロキシ末端ジオルガノシロキサンとエポキシ含有アルコキシシランから、これらの有機ケイ素化合物を合成する方法は、当分野において良く知られている。
【0061】
本発明における従う好ましい接着促進剤の具体的な例として、次式化合物
【化6】


及びそれらの混合物が例示される。ここで、Pは次の構造を有する。
【化7】

【0062】
本発明の成分(E)は、白金族金属又はそれらの金属を含む化合物を含み、成分(A)、(B)と成分(C)との付加反応を促進するヒドロシリル化触媒である。これら金属として、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムが挙げられる。ヒドロシリル化反応におけるこれらの触媒の高活性触媒作用という点から、白金及び白金化合物が好ましい。好ましい白金触媒の種類として、米国特許3,419,593においてWillingによって開示された、塩化白金水素酸とある種のビニル含有オルガノシロキサン化合物との錯体が挙げられる。この類の触媒で特に好ましい触媒は、塩化白金水素酸と1,3-ジエテニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの反応生成物である。
【0063】
ヒドロシリル化触媒を本発明の組成物を硬化させるのに十分な量で組成物中に存在させる。典型的には、成分(E)の濃度は、成分(A)、(B)及び(C)を合わせた100万重量部当たり、白金族金属が0.1〜1000、好ましくは1〜500、さらに好ましくは1〜50重量部である。白金族金属が0.1ppmより少ないと硬化速度は非常に遅い。また、白金族金属を1000ppmより多く使用しても、それほどの硬化速度の増加は見られず、経済的でない。
【0064】
成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)の混合物は室温でも硬化を開始する。より長い作業時間、すなわち「ポットライフ」を得るため、適当な抑制剤を本発明の組成物に添加して、周囲条件下での触媒活性を妨害又は抑制することができる。これら白金触媒抑制剤は、室温での本発明組成物の硬化を遅滞させるが、高温での本発明の組成物の硬化を妨げない。本発明において効果的であるためには、白金触媒抑制剤は組成物に可溶性でなければならない。適当な白金触媒抑制剤としては、3-メチル-3-ペンテン-1-イン及び3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-インのような様々な「エン−イン」システム;3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール及び2-フェニル-3-ブチン-2-オールのようなアセチレン性アルコール;周知のジアルキル、ジアルケニル及びジアルコキシアルキルフマレートやマレートのようなマレート及びフマレート;シクロビニルシロキサン;及びベンジルアルコールなどが含まれる。
【0065】
アセチレン性アルコールは、ヒドロシリル化反応において高活性を示すので、好ましい抑制剤の種類である。本発明の組成物においては、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オールが特に好ましい抑制剤である。これら抑制剤を含む組成物を実用的速度で硬化を行うためには、70℃以上に加熱する必要がある。
【0066】
本発明組成物中の白金触媒抑制剤量は、高温での硬化の阻害や過度の硬化時間延長をもたらすことなく、室温での組成物の硬化を妨げるのに十分な量である。この濃度は、使用する抑制剤、ヒドロシリル化触媒の性質と濃度及び有機水素ポリシロキサンの性質に応じて、幅広く変更される。
【0067】
ある場合には、白金族金属モル当たり1モルの抑制剤濃度で十分な貯蔵安定性と硬化速度が得られる。またある場合には、白金族金属モル当たり、最高500モル又はそれ以上の抑制剤濃度が必要とされる。一般的には、抑制剤は白金族金属モル当たり、1〜100モル使用される。所定組成物中の特定抑制剤の最適濃度は、通常の実験で容易に決定できる。
【0068】
本発明の組成物は、さらに、無機充填剤を含んでいても良い。本発明の組成物における使用に適した充填剤は、高度の放射線的純度、低熱膨張係数を有し、ナトリウム、カリウム及び塩化物などのイオン性不純物レベルが低く、また、含水量も低レベルのものである。好ましい充填剤として、溶融シリカ(溶融石英)、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどが挙げられる。溶融シリカは、α−粒子線放射に特に敏感なランダムアクセスメモリ(RAM)デバイスの封入用組成物において特に適した充填剤である。
【0069】
充填剤の平均粒径は、通常、2〜25μm、好ましくは2〜10μmである。平均粒径が2μm未満の場合、組成物の粘度が従来の封入工程で使用するには高くなり過ぎる。平均粒径が25μmより大きくなる場合には、比較的小さな寸法の半導体デバイスから除外される。また、大きな充填剤粒子は懸濁液中に留まらず、むしろ沈降する傾向がある。
【0070】
充填剤粒子形状は重要な問題ではないが、球形粒子の場合には一般的に他の形状の粒子を用いた時よりも組成物粘度の上昇は小さくなるため、球形粒子であることが好ましい。
【0071】
本発明の組成物中の充填剤濃度は、成分(A)100重量部に対して、通常、10〜300重量部である。しかしながら、充填剤は、制御応力粘度計を用い剪断速度0.1sec-1で測定した25℃における硬化前の組成物粘度が60Pa・sを越える量で使用すべきではなく、このような粘度においては、その組成物を従来の封入方法で使用するには粘度が高すぎるという問題が発生する。成分(A)100重量部に対して10〜300重量部の範囲で無機充填剤濃度を増加させるとき、加工可能な組成物を得るためには、成分(B)の濃度を前述範囲内で減少させる必要が生じる。
【0072】
本発明の組成物は、通常、成分(A)〜(E)を混合し、必要に応じて充填剤及び/又は抑制剤を加えて調製される。これらの混合は、練り、ブレンディング、攪拌などのこの技術分野で既知の技術を用い、バッチ又は連続工程のいすれかで行われる。成分及び最終組成物粘度により特有の装置が決められる。好ましくは、ヒドロシリル化触媒は、組成物の早期加硫を防ぐため30℃以下で最後に添加され、適切な作業時間を確保するようにする。
【0073】
また、本発明の組成物は、成分(A)〜(E)を2以上の部分にしたマルチ−パート組成物であってもよい。このマルチ−パート組成物は、ポリジオルガノシロキサン、有機ポリシロキサン樹脂のいずれもが、有機水素ポリシロキサン及びヒドロシリル化触媒と一緒に同じパートに存在しないならば、いくつものパートを含んでいてもよい。このような組成物を調製する典型的方法としては、ポリジオルガノシロキサンの部分、有機ポリシロキサン樹脂の部分、接着促進剤、ヒドロシリル化触媒及び充填剤又は添加物を一緒に混合して、パートAを調製し、ポリジオルガノシロキサンと樹脂、有機水素ポリシロキサン及び白金触媒抑制剤という残りの部を一緒に混合して、パートBを調製する。好ましくは、等重量である各々のパッケージが混合され、本発明のワンパート(one part)組成物となるように各成分はパッケージされる。
【0074】
本発明の組成物は、空気及び湿気にさらすことを避けるため密封容器に保存される。本発明のワンパート組成物は、硬化封入生成物の性質を変化させることなく、室温で数週間も保存できる。しかしながら、その混合物を0℃より低く、好ましくは、-30〜-20℃で保存することにより、本発明の組成物の保存期限を数ヶ月にまで延ばすことができる。前述したマルチパート組成物の個々の密封パッケージは、それらを混合して製造される組成物の性能を損なうことなく、周囲条件下で6ヶ月以上も保存可能である。
【0075】
本発明の組成物は70〜200℃、好ましくは100〜150℃において適当な時間加熱することで、硬化可能となる。例えば、この組成物は通常150℃、1時間で硬化できる。
【0076】
一般的には、本発明の組成物は、さらに、シリコーン組成物の配合において一般的に使用される、抗酸化剤、顔料、安定剤及び充填剤などの少量の付加的成分を、それらの成分が硬化生成物の物性、特に熱膨張係数及び貯蔵弾性率に悪影響を及ぼさない範囲内で包含することができる。本発明の組成物においては、カーボンブラックは好ましい顔料である。
【0077】
本発明の組成物は、チップスケールパッケージの封入剤として特に有用である。本命明細書中での用語「チップスケール」は規格J-Std-012中の、「Implementation of Flip Chip and Chip Scale Technology」1ページ(1996年、1月)で、Electronic Industries Association and the Institute for Interconnecting and Packaging Electronic Circuitsにより提起された定義に従う。この文書のセクション1.2では、チップスケール技術を次の用に定義している。「チップスケール技術」は、チップの取り扱い、試験及びチップ組立の容易さを促進するために強固に作られた半導体チップ構造物として分類される。チップスケール技術は、最小サイズ、元のダイサイズ面積のわずか1.2Xという共通の属性を有し、かつ直接表面に搭載可能である。
【0078】
本発明のチップスケールパッケージには、半導体チップ、支持基材、半導体チップを基材に接続する少なくとも一つの部材、及び前述したシリコーン組成物が含まれる。本発明のチップスケールパッケージに使用される半導体チップには、何ら制限は無い。支持基材は、本質的に剛性、半剛性又は柔軟性のいずれの材料であっても良い。しかしながら、通常、支持基材は柔軟な誘電体フィルムからなる。好ましくは、その誘電体フィルムはポリイミドのようなポリマー材料である。チップを基材に接続する部材は通常、ワイヤー導線及び半田接続を含む。
【0079】
本発明によるチップスケールパッケージとしては、例えば、 T. Chungが「Updates on Worldwide Chip Scale Packaging (II)」で開示した屈曲性インターポーズ型チップスケールパッケージが例示されるが、これに限られるわけではない。米国特許5,659,952及び5,663,106には、封入材料を含む好ましいチップスケールパッケージが開示されている。
【実施例】
【0080】
以下の実施例は、本発明の組成物をさらに詳しく説明するためになされるもので、特許請求の範囲において記載される本発明を制限するものとして解釈すべきものではない。実施例において記載される全ての部数及びパーセンテージは、重量基準になっている。次の方法と材料を実施例で使用した。
【0081】
硬化性組成物を、2枚のテフロン(登録商標)ライニング(Teflon-lined)アルミ板の間で、圧力10,000Kg、室温で2分間圧縮成形することで、厚さ1.9mmの硬化シリコーン組成物を調製した。次いで、アルミ板を熱圧プレスに移し、圧力10,000Kg、温度150℃において15分間保持した。そのアルミ板を直ちに熱圧プレスから取り出し、オーブン中、150℃で1時間保持した。その後室温まで冷却し、硬化組成物をダイアセンブリーから注意深く取り出した。
【0082】
有機ポリシロキサン樹脂の数平均分子量(Mn)を、35℃のVarian TSK 40OO+2500カラム、1mL/minのクロロホルム相、屈折率検出器を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した。MQ樹脂の分子量分布の狭いフラクションを用いて、GPC装置のキャリブレーションを行った。
【0083】
ポリマー又は硬化性組成物の粘度は、25mm径の平行プレート試験片取り付け具を備えたRheometrics SR-500O制御−応力レオメーターを用いて測定した。試料厚さは1mmであり、装置は25±1℃の定常剪断モードで操作した。応力を直線的に0〜100Paまで5分間かけて上昇させ、100 Paで1分間保持し、しかる後、直線的に0まで5分かけて低下させた。組成物の最大粘度を剪断速度0.1sec-1と1sec-1において測定した。
【0084】
硬化組成物の熱膨張係数は、TA Instruments TMA 2940熱機械的解析装置で測定した。8mm径で厚さ1.9mmの試料を-155℃で平衡化させ、しかる後、温度を5℃/分の速度で20℃まで上昇させた。熱膨張係数は、-50〜-40℃域での温度対寸法変化曲線の割線(secant)を試料厚さで除する計算で求めた。
【0085】
硬化組成物の貯蔵弾性率(G′)は、Rheometrics Dynamic Analyzer RDA IIを用いて測定した。この装置を、周波数10ラジアン/秒のねじれ長方形バーモード(torsional rectangular bar mode)で操作した。長さ36mm、幅12.7mm、厚さ1.9mmの寸法を有する試料を-85℃で20分間保持し、しかる後、昇温速度3℃/分で50℃まで昇温した。貯蔵弾性率を-65℃及び20℃で測定した。
【0086】
硬化試料の引張り強さと伸び率は、ASTM D 412Cに従って、C型ダイを備えたMonsanto T2000引っ張り試験機を用いて測定した。引っ張り強度及び伸び測定は、試料を完全に破壊させるまで実施した。
【0087】
硬化試料の硬度は、A型デュロメーター装置で測定した。それぞれが1.9mm厚さの3個の硬化試料を垂直に積み重ね、最上面の硬度を測定した。
【0088】
ポリイミド基材上の硬化組成物の剥離接着性は、Monsanto T2000引っ張り試験機で測定した。硬化性組成物を、それぞれ厚さ0.05mm、幅12.7mmの2枚の四角いポリイミドフィルム間(間隙0.20mm)に入れた。その積層物を150℃のオーブン中で1時間かけて硬化させ、しかる後、室温まで冷却した。硬化組成物からポリイミドフィルムを除去するのに必要な力を、剥離角度180°、剥離速度5.1cm/分で測定した。ある試料の剥離接着強度は、1回の剥離期間中に読みとった複数の値を平均して求める。示された値は、同様にして調製した3試料の平均剥離強度の値である。
【0089】
ポリマーブレンド:平均重合度(DP)830、25℃での粘度55Pa・sのジメチルビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン75重量%と、平均重合度(DP)434、25℃での粘度2Pa・sのジメチルビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン25重量%。
【0090】
樹脂: (CH3)2CH2=CHSiO1/2シロキサン単位、(CH3)3SiO1/2シロキサン単位及びSiO4/2シロキサン単位からなり、(CH3)2CH2=CHSiO1/2単位と(CH3)3SiO1/2単位との和のSiO4/2単位に対するモル比が1.0であり、かつ6.0モル%のビニル基を含むMnが2,500の有機ポリシロキサン。
【0091】
架橋剤 A: 1分子当たり平均5個のメチル水素シロキサン単位と3個のジメチルシロキサン単位を有し、ケイ素に結合した水素含有量が0.7〜0.8重量%であるトリメチルシロキシ末端ジメチルシロキサン−メチル水素シロキサン。
【0092】
架橋剤 B: ケイ素に結合した水素含有量が1.4〜1.75重量%で、粘度が0.02〜0.04Pa・sであるトリメチルシロキシ末端ポリメチル水素シロキサン。
【0093】
接着促進剤: 2.25〜4重量%のケイ素に結合したヒドロキシル基と27.5重量%のビニル基を有するヒドロキシル末端ジメチルビニルシロキサン43.5重量%、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン50重量%及びヒドロキシル末端ポリメチルビニルシロキサンとグリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応生成物6.5重量%からなる混合物。
【0094】
抑制剤: 3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール。
【0095】
触媒: 1,3-ジエテニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの白金錯体。
【0096】
顔料: カーボンブラック。
【0097】
実施例1
100部のポリマーブレンド、100部の樹脂、19.0部の架橋剤A、2.2部の架橋剤B、4.8部の接着促進剤、2.4部の顔料及び0.2部の抑制剤を混合して、本発明のシリコーン組成物を調製した。触媒(0.01部)をこの混合物に加え、さらに2分間攪拌を続けた。組成物の粘度は剪断速度0.1sec-1で18.1Pa・s、剪断速度1.0sec-1で12.7Pa・sであった。硬化組成物の物性を表1に示す。
【0098】
比較例1
シリコーン組成物を実施例1で述べた方法で調製した。成分の濃度は、100部のポリマーブレンド、33.3部の樹脂、8.2部の架橋剤A、0.95部の架橋剤B、3.2部の接着促進剤、1.6部の顔料、0.16部の抑制剤、及び0.01部の触媒とした。この組成物の粘度は、剪断速度0.1sec-1で25.9Pa・s、剪断速度1.0sec-1で20.3Pa・sであった。この硬化組成物の物性を表1に示す。
【0099】
比較例2
シリコーン組成物を実施例1で述べた方法で調製した。成分の濃度は、100部のポリマーブレンド、66.7部の樹脂、13.6部の架橋剤A、1.6部の架橋剤B、4.0部の接着促進剤、2.0部の顔料、0.20部の抑制剤、及び0.01部の触媒とした。この組成物の粘度は、剪断速度0.1sec-1で17.2Pa・s、剪断速度1.0sec-1で12.9Pa・sであった。この硬化組成物の物性を表1に示す。
【0100】
比較例3
接着促進剤を含まないシリコーン組成物を実施例1で述べた方法で調製した。この組成物の成分濃度は、100部のポリマーブレンド、100部の樹脂、15.1部の架橋剤A、1.8部の架橋剤B、2.4部の顔料、0.24部の抑制剤、及び0.01部の触媒とした。この組成物の粘度は、剪断速度0.1sec-1で15.6 Pa・s、剪断速度1.0sec-1で14.7Pa・sであった。この硬化組成物の物性を表1に示す。
【0101】
実施例2
抑制剤を混合した後に平均粒径4.5±0.5ミクロンの溶融シリカを添加した以外は、実施例1と同じ組成でシリコーン組成物を調製した。この組成物の粘度は、剪断速度0.1sec-1で64.6Pa・s、剪断速度1.0sec-1で27.0Pa・sであった。この硬化組成物の物性を表1に示す。
【0102】
比較例4
溶融シリカ濃度を238重量部にした以外は、実施例2の組成と同じシリコーン組成物を調製した。この組成物の粘度は剪断速度0.1sec-1で379.3Pa・s、剪断速度1.0sec-1で91.0Pa・sであった。この硬化組成物の物性を表1に示す。
【0103】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)〜(E)を含むシリコーン組成物。
(A)1分子当たり平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン100重量部;
(B)数平均分子量が2,000〜5,000であり、かつR32R4SiO1/2単位とSiO4/2単位とを含む有機ポリシロキサン樹脂であって、各R3が独立して脂肪属不飽和基を含まない一価炭化水素基及び一価ハロゲン化炭化水素基から選択され、R4がR3及びアルケニル基から選択され、またR32R4SiO1/2単位のSiO4/2単位に対するモル比が0.6:1〜1.1:1であり、樹脂中に平均2.5〜7.5モル%のアルケニル基を含む有機ポリシロキサン樹脂75〜150重量部;
(C)成分(A)及び(B)中のアルケニル基1個当たり1〜3個のケイ素に結合した水素原子を供給できる量の1分子当たり平均3個以上のケイ素に結合した水素原子を有する有機水素ポリシロキサン;
(D)基材に対する組成物の接着を生じさせる量の接着促進剤;及び
(E)組成物を硬化させる量のヒドロシリル化触媒
【請求項2】
アルミナ、窒化ほう素、窒化アルミニウム及び溶融シリカから選択される無機充填剤をさらに含む請求項1記載の組成物。
【請求項3】
以下の成分(A)〜(E)を混合することを含むシリコーン組成物の製造方法。
(A)1分子当たり平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン100重量部;
(B)数平均分子量が2,000〜5,000であり、かつR32R4SiO1/2単位とSiO4/2単位とを含む有機ポリシロキサン樹脂であって、各R3が独立して脂肪属不飽和基を含まない一価炭化水素基及び一価ハロゲン化炭化水素基から選択され、R4がR3及びアルケニル基から選択され、またR32R4SiO1/2単位のSiO4/2単位に対するモル比が0.6:1〜1.1:1であり、樹脂中に平均2.5〜7.5モル%のアルケニル基を含む有機ポリシロキサン樹脂75〜150重量部;
(C)成分(A)及び(B)中のアルケニル基1個当たり1〜3個のケイ素に結合した水素原子を供給できる量の1分子当たり平均3個以上のケイ素に結合した水素原子を有する有機水素ポリシロキサン;
(D)基材に対する組成物の接着を生じさせる量の接着促進剤;及び
(E)組成物を硬化させる量のヒドロシリル化触媒

【公開番号】特開2011−252175(P2011−252175A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204538(P2011−204538)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【分割の表示】特願平11−305635の分割
【原出願日】平成11年10月27日(1999.10.27)
【出願人】(590001418)ダウ コーニング コーポレーション (166)
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING CORPORATION
【Fターム(参考)】