説明

シリコーン被覆を備えたバイオリアクター

本発明の主題は、水性培養基中で光合成生物を培養するためのバイオリアクターであり、前記バイオリアクターの培養基と接触するリアクター部材及び/又はリアクター内部構造は、完全に又は部分的にシリコーン層により被覆され、前記シリコーン層の表面は、水に対して少なくとも100゜の接触角を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着生を抑制する被覆を備えたバイオリアクター、バイオリアクターに着生を抑制する被覆を備える方法、バイオリアクターに着生を抑制する被覆を備えるためのシリコーンの使用に関する。
【0002】
大規模工業での光合成微生物(微細藻類、藍色細菌、紅色細菌)の経済的培養は、今までに光の供給、モノセプティック(monoseptisch)培養並びにスケールアップの問題点が解決されていなかった。大規模に光合成微生物を培養するための普遍的な標準システムは、今までに提供されていなかった。10000種を越える代表的な光合成微生物の中で、今日単に数ダースの種が大量に製造され、その際、前記光合成微生物は、大抵は開放型の汚染が生じかねない系中で生産されている。試験規模で閉鎖型リアクター中で製造される光合成微生物の培養条件は、今日まで長期間にわたり一定に保持できない、それというのも培養期間中で生じる光合成微生物はリアクター壁部に付着し、このことが、培養基中へ導入される光量の変動を引き起こし、並びに培養基の変動しやすい混合を生じさせるためである。藻類付着は、培養の間のストレス条件(例えば剪断)により頻繁に引き起こされ、この原因は微生物の制御できない成長条件(例えば光、Open-Pond型リアクター並びに閉鎖型リアクターの場合の温度)又は光合成生物による有用物質(例えばアスタキサンチン、ベータ−カロテン)の生産の誘導であることができる。
【0003】
WO 2008/055190 A2からは、藻類を培養するための閉鎖型のフォトバイオリアクターが公知である。材料として、ガラス又はプラスチック、例えばポリエチレン、PET、ポリカーボネートが使用される。DE 10 2005 025 118 A1では、バイオリアクターの表面から微生物を超音波を用いて剥離させることが記載されている。US 2003/0073231 A1及びUS 2007/0048848 A1では、この付着を機械的手段、例えばブラシを用いて除去している。これは、この場合に、任意にスケールアップできない比較的手間のかかる方法である。DE 44 16 069 A1には、バイオリアクターの照明のために使用される光ファイバーは平滑な表面を備えていることが推奨されている。US 2008/0311649 A1は、藻類の沈着を抑制するために、管型バイオリアクター中で藻類を含む媒体の流量速度を高めることを提案している。この場合、培養パラメータを流動速度に関してもはや無関係に調節できないことが欠点である。
【0004】
WO 2008/132196 A1では、海洋分野において、特に金属又はコンクリートの被覆のために、例えば船体、ブイ、海上掘削基地の被覆のために、架橋性ポリオルガノシロキサン−ポリオキシアルキレン−コポリマーを防汚被覆として推奨している。更に、この刊行物中では、着生を抑制するために船体をシリコーン樹脂で被覆することが記載されているGB 1307001が議論されていて、かつ船体をシリコーンゴムで被覆することが記載されているUS 3702778が議論されている。WO 2008/132196 A1からは、両方の場合に、比較的高い流動速度の場合にだけ船体への着生の有効な抑制が達成されることが推知される。水中建造物への繁茂を抑制するために、WO 01/94487 A2は、シラノール末端を有するシリコーン及びアルコキシ官能化シロキサンをベースとするガラス状の相互侵入高分子網目を2つの分離可能な薬剤(この薬剤の少なくとも一つがガラスマトリックスにグラフトする)と一緒に適用することを推奨している。シリコーン被覆は、この文献中では、海洋分野においては不安定であり、この被覆は頻繁に更新しなければならないという欠点を有することが記載されている。Biofouling, 2007, 23(1), 55-62には、船体に所定のパターンでシリコーンベースの防汚塗料を塗布することが推奨されている。シリコーンだけを含有する塗料は、内部着生を抑制しないと記載されている。WO 2008/145719 A1では、透明なLEDプラスチック成形品をフォトリアクターの照明のために使用している。有利に、このためには、LEDがシリコーン成形品中に埋め込まれている成形品が使用される。
【0005】
この背景から、培養基と接触するリアクター部分に微生物が繁茂することを十分に抑制し、かつ場合により繁茂が生じても著しい手間をかけずに除去できるように、微生物を培養するためのバイオリアクターを改善するという課題が生じた。この解決策は、生成物品質に不利に影響を及ぼさず、スケールアップ可能であり、かつ培養のために必要なプロセスパラメータに対して普遍的に使用可能であることが好ましい。
【0006】
本発明の主題は、水性培養基中で光合成生物を培養するためのバイオリアクターであり、前記バイオリアクターの培養基と接触するリアクター部材及び/又はリアクター内部構造体は、完全に又は部分的にシリコーン層により被覆され、前記シリコーン層の表面は、水に対して少なくとも100゜の接触角を有する。
【0007】
このバイオリアクターは、光合成マクロ生物又は光合成微生物の培養のために適している。光合成生物とは、この場合、光及び二酸化炭素、又は場合により更に他の炭素供給源を成長のために必要とする生物を表す。光合成マクロ生物の例は、マクロ藻類、植物、蘚類、植物細胞カルチャーである。光合成微生物の例は、光合成細菌、例えば紅色細菌及び藍色細菌を含めた光合成微細藻類である。有利に、このバイオリアクターは、光合成微生物の培養のため、特に有利に光合成微細藻類の培養のために利用される。
【0008】
このバイオリアクターは、それぞれ任意の形状を有する、閉鎖型リアクターであるか又は開放型リアクターであることができる。開放型リアクターの場合には、例えば槽、又は「開放型貯水池(open ponds)」又は「水路型貯水池(raceway ponds)」を使用することができる。バイオリアクターとして、閉鎖型リアクターが有利である。この閉鎖型のバイオリアクターは、例えばプレート型バイオリアクター、管型バイオリアクター、(気泡)塔型バイオリアクター又はチューブ型バイオリアクターであることができる。
【0009】
プレート型バイオリアクターは、縦型又は傾斜型に配置された長方形のプレートからなり、多数のプレートが大きなリアクター系のために連結されている。管型バイオリアクターは、垂直又は水平又は任意の角度で配置されていてもよい管系からなり、この管系は極めて長くてもよく、有利に数百キロメートルまでであることができる。この培養基は、この場合、前記管系を通して、有利にポンプ又はエアリフト原理を用いて供給される。カラム型バイオリアクターは、培養基が充填されている閉鎖された円筒形容器からなる。このタイプのバイオリアクターの場合には、空気と二酸化炭素とからなる混合物又は二酸化炭素が導通され、この場合、上昇気泡塔を培養基の混合のために用いる。ホース型リアクターは、任意の長さの唯一のホース又は任意の長さの多数のホースからなるリアクター系である。
【0010】
これらのバイオリアクターは、有利に透明又は半透明の材料から製造される。透明な材料とは、400nm〜1000nmのスペクトル範囲内の光の少なくとも80%を透過する材料であると解釈される。半透明な材料とは、400nm〜1000nmのスペクトル範囲内の光の少なくとも50%を透過する材料であると解釈される。例えば、ガラス又はプラスチック、例えばポリメチルメタクリラート(プレキシガラス)、ポリエステル、例えばPET、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル。不透明なフォトバイオリアクターの場合には、上記のプラスチック、鋼又は特殊鋼を使用することもできる。リアクター容量は任意に選択することができる。
【0011】
リアクター部材とは、リアクター底部及びリアクター蓋部を含めたリアクター壁部並びに培養基中でストラクチャ付与するエレメント、例えばバッフルであると解釈される。このリアクター壁部には、管型リアクター、プレート型リアクター及びホース型リアクターの場合に、管、プレート及びホースに相当する。
【0012】
このバイオリアクターは、リアクター内部構造体を備えている。例えば、装填及び栄養素補給のために供給管を備え、生成物分離及び排出のために排出管を備えている。冷却及び加熱のために、このバイオリアクターは、場合により加熱装置/冷却装置、例えば熱交換器を備えていてもよい。更に、このバイオリアクターは、更に混合のために撹拌装置及びポンプを有していてもよい。このバイオリアクターは、多様に人工照明のための装置を備えている。リアクター装置のための他の例は、運転監視のための測定装置及び制御装置である。
【0013】
バイオリアクターに着生を抑制する被覆を備えるために適したシリコーンは、このシリコーン塗膜の表面が水に対して少なくとも100゜の接触角を有する限り、例えば縮合架橋するシリコーン(シリコーンゴム)、付加架橋するシリコーン(シリコーンゴム)、シリコーンハイブリッドポリマー、シリコーン樹脂及び/又はシリコーンゲルである。透明又は半透明なシリコーンが有利である。透明なシリコーンとは、このシリコーンの塗膜が、10μmの層厚を有する被覆として、400nm〜1000nmのスペクトル範囲内の光の少なくとも80%を透過するシリコーンであると解釈される。半透明なシリコーンとは、このシリコーンの塗膜が、10μmの層厚を有する被覆として、400nm〜1000nmのスペクトル範囲内の光の少なくとも50%を透過するシリコーンであると解釈される。
【0014】
縮合架橋するシリコーンゴム系は、
a) 縮合可能な末端基を有するオルガノポリシロキサン、
b) 場合により1分子当たり少なくとも3つの、ケイ素に結合した加水分解可能な基を有する有機ケイ素化合物、並びに
c) 縮合触媒
を含有する。
【0015】
縮合反応により架橋する、適切な架橋するシリコーンゴムは、室温で架橋する1成分系、いわゆるRTV−1−シリコーンゴムである。RTV−1−シリコーンゴムは、室温で触媒の存在で縮合しながら架橋する、縮合可能な複数の末端基を有するオルガノポリシロキサンである。最もよく使用されるのは、n>2の鎖長を有するR3SiO[−SiR2O]n−SiR3構造のジアルキルポリシロキサンである。このアルキル基Rは、同じ又は異なることができ、一般に1〜4個のC原子を有し、場合により置換されていてもよい。このアルキル基Rは、部分的に他の基により置き換えられていてもよく、有利に場合により置換されているアリール基により置き換えられていてもよく、この場合、アルキル−(アリール)基Rは部分的に、縮合架橋することができる基、例えばアルコール基(アルコキシ系)、アセタート基(酢酸系)、アミン基(アミン系)又はオキシム基(オキシム系)により置き換えられている。この架橋は、適当な触媒、例えばスズ触媒又はチタン触媒を用いて接触される。
【0016】
縮合反応により架橋する、適切な架橋するシリコーンゴムは、室温で架橋する2成分系、いわゆるRTV−2−シリコーンゴムである。RTV−2−シリコーンゴムは、数箇所ヒドロキシ基で置換されたオルガノポリシロキサンの、ケイ酸エステルの存在での縮合架橋により得られる。架橋剤として、アルコキシ基(アルコキシ系)、オキシム基(オキシム系)、アミン基(アミン系)又はアセタート基(酢酸系)を有するアルキルシランも使用することができ、前記アルキルシランは適切な縮合触媒、例えばスズ触媒又はチタン触媒の存在で、ヒドロキシ基末端のポリジアルキルシロキサンと架橋する。
【0017】
RTV−1及びRTV−2シリコーンゴム中に含まれるポリジアルキルシロキサンの例は、n>2の鎖長を有する式(OH)R2SiO[−SiR2O]n−SiR2(OH)のポリジアルキルシロキサンであり、前記式中、アルキル基Rは同じ又は異なることができ、前記基Rは上記の意味を表す。有利に、ポリジアルキルシロキサンは末端OH基を有し、前記OH基はケイ酸エステル又はアルキルシラン/スズ(チタン)触媒の系と室温で架橋する。
【0018】
RTV−1及びRTV−2シリコーンゴム中に含まれる加水分解可能な基を有するアルキルシランの例は、式RaSi(OX)4-aのアルキルシランであり、前記式中、a=1〜3(有利に1)、XはR′(アルコキシ系)、C(O)R′(酢酸系)、N=CR′2(オキシム系)又はNR′2(アミン系)の意味を表し、その際、R′は、1〜6個の炭素原子を有する一価の炭化水素基を表す。
【0019】
付加架橋性シリコーンゴム系は、
a) 脂肪族炭素炭素多重結合を有する基を有する有機ケイ素化合物、
b) 場合により、Si結合水素原子を有する有機ケイ素化合物、又はa)及びb)の代わりに、
c) 脂肪族炭素炭素多重結合を有する基及びSi結合水素原子を有する有機ケイ素化合物、
d) Si結合水素の脂肪族多重結合への付加を促進する触媒及び
e) 場合により、室温でSi結合水素の脂肪族多重結合への付加を遅延する薬剤を含有する。
【0020】
適切な付加架橋可能なシリコーンゴムは、室温で架橋する1成分系、いわゆる付加架橋性RTV−1−シリコーンゴム、室温で架橋する2成分系、いわゆる付加架橋するRTV−2−シリコーンゴム又は室温で架橋する多成分系である。この架橋反応は、カチオンにより相応する触媒を用いて、又はラジカルによりペルオキシドを用いて、又は放射線、特にUV線を用いて又は熱により開始させることができる。
【0021】
付加架橋するRTV−2−シリコーンゴムは、エチレン性不飽和基、有利にビニル基で複数箇所置換されたオルガノポリシロキサンの、SiH基で複数箇所置換されたオルガノポリシロキサンとの、白金触媒の存在での、Pt触媒による接触架橋により得られる。
【0022】
有利に、前記成分の1つは、R3SiO[−SiR2O]n−SiR3構造のジアルキルポリシロキサンからなり、前記式中、n>0であり、基Rは上記の意味を有する。一般に、Rは、1〜4個のC原子を有するアルキル基であり、その際、前記アルキル基は完全に又は部分的にアリール基、例えばフェニル基により置き換えられていてもよく、末端基Rの1つの一端又は両端は、重合可能な基、例えばビニル基により置き換えられている。同様に、シロキサン鎖中の基Rは部分的に、末端基の基Rと組み合わせても、重合可能な基に置き換えることができる。有利に、(CH2=CH2)R2SiO[−SiR2O]n−SiR2(CH2=CH2)構造のビニル末端ブロックされたポリジメチルシロキサンが使用される。
【0023】
第2の成分は、Si−H−官能性架橋剤を含有する。通常使用されるポリアルキルヒドロゲンシロキサンは、ジアルキルポリシロキサンと、一般式R″3SiO[−SiR2O]n−[SiHRO]m−SiR″3で示されるポリアルキルヒドロゲンシロキサンとからなるコポリマーであり、前記式中、m≧0、n≧0及び、少なくとも2つのSiH基が含まれていなければならず、その際、R″はH又はRの意味を有することができる。従って、側基に及び末端にSiH基を有する架橋剤が存在し、R″=Hの、末端にだけSiH基を有するシロキサンも、鎖長延長のために使用される。架橋触媒として、少量の白金有機化合物が含まれている。
【0024】
最近では、更に、特別な白金錯体又は白金/抑制剤系を熱により及び/又は光化学により活性化し、それにより架橋反応を触媒することによって、記載された付加反応によって架橋する特別なシリコーンゴムを市場で入手することができる。
【0025】
適切な材料は、シリコーンハイブリッドポリマーでもある。シリコーンハイブリッドポリマーは、有機ポリマーブロック、例えばポリウレタン、ポリ尿素又はポリビニルエステルと、一般に上記特徴のポリジアルキルシロキサンをベースとするシリコーンブロックとの共重合体又はグラフト共重合体である。例えば、熱可塑性シリコーンハイブリッドポリマーは、EP 1412416 B1及びEP 1489129 B1に記載されていて、前記文献のこれに関する開示は本発明の主題でもある。この種のシリコーンハイブリッドポリマーは、熱可塑性樹脂シリコーンエラストマー(TPSE)ともいわれ、市場で入手できる。適切な材料は、WO 2006/058656に記載されたような(縮合により又は放射線により)架橋したシリコーンヒドリド材料でもあり、これに関する記載は、本願発明の一部である(参照により組み込まれる)。
【0026】
シリコーン樹脂は、同様に、透明又は半透明な被覆を製造するために適切な材料である。一般的には、このシリコーン樹脂は、高度に架橋した有機シリコーン網目を構築する一般式Rb(RO)cSiO(4-b-c)/2の単位を含み、前記式中、bは0、1、2又は3であり、cは0、1、2又は3であり、但し、b+c≦3であり、Rは、これについて前記した意味である。シリコーン樹脂は、溶剤不含で、溶剤含有で、又は水性系として使用することができる。更に、官能化された、例えばエポキシ基又はアミン基で官能化されたシリコーン樹脂も使用できる。
【0027】
同様に、シリコーンゲルは、透明な又は半透明な被覆を製造するために適切な材料である。シリコーンゲルは、触媒の存在で室温で架橋する2種のキャスティング可能な成分から製造される。これらの成分の1つは、一般に、R3SiO[−SiR2O]n−SiR3構造のジアルキルポリシロキサンからなり、前記式中、n≧0であり、Rは前記の意味において、アルキル基中で一般に1〜4個のC原子を有し、その際、アルキル基は完全に又は部分的にアリール基、例えばフェニル基により置き換えられていてもよく、末端基Rの1つの一端又は両端には重合可能な基、例えばビニル基により置き換えられている。同様に、部分的に、シロキサン鎖中の基Rは、末端基の基Rと組み合わせて、重合可能な基により置き換えられていてもよい。有利に、(CH2=CH2)R2SiO[−SiR2n−SiR2(CH2=CH2)構造のビニル末端ブロックされたポリジメチルシロキサンが使用される。
【0028】
この第2の成分は、Si−H官能性架橋剤を含有する。通常使用されるポリアルキルヒドロゲンシランは、ジアルキルポリシロキサンと、一般式R″3SiO[−SiR2O]n−[SiHRO]m−SiR″3で示されるポリアルキルヒドロゲンシロキサンとからなるコポリマーであり、前記式中、m≧0、n≧0、但し、少なくとも2つのSiH基が含まれていなければならず、その際、R″は、H又はRを有することができる。従って、側基の及び末端のSiH基を有する架橋剤が存在し、末端にSiH基だけを有するR″=Hのシロキサンも、鎖長延長のために使用される。架橋触媒として、少量の白金有機化合物が含まれる。これらの成分の混合により架橋反応が開始され、ゲルが形成される。この架橋反応は、熱の作用により及び/又は電磁線、有利にUV線により促進させることができる。
【0029】
シリコーン、シリコーン化学、式及び適用特性についての詳細な概要は、例えばWinnacker/Kuechler著、「Chemische Technik: Prozesse und Produkte, 5巻: Organische Zwischenverbindungen, Polymere」, 1095-1213頁, Wiley-VCH Weinheim (2005)に記載されている。
【0030】
微生物の繁茂の阻止又は抑制のために重要なのは、シリコーン被覆の表面のモルホロジーである。この表面のモルホロジーは、この表面の水に対する接触角によって決定される。本発明によるこの接触角は、シリコーン材料の本発明による選択により調節される。接触角を高める他の手段、例えば表面の粗面化(例えば、いわゆるロータス効果の模倣のため)については、有利に行わない。このような粗面化は、つまり光合成微生物の培養を妨害しかねない。100゜〜120゜の接触角を有する表面が有利であり、100゜〜115゜の接触角を有する表面が特に有利であり、100゜〜113゜の接触角を有する表面が更に特に有利である。シリコーン被覆の表面の水に対する接触角の測定は、当業者に公知の方法、例えばDIN 55660-2により、市場で入手可能な、接触角の測定のための測定機器、例えばKruess社から得られる接触角測定システムを使用して行うことができる。
【0031】
培養基と接触するリアクター部材、特にリアクター壁部の内側は、完全に又は部分的に、有利に完全に上記のシリコーンにより被覆される。有利な実施態様の場合に、このリアクター内部構造体は完全に又は部分的にシリコーンで被覆されている。このシリコーンは、液体の形で、純物質の形で、溶液の形で、又は水性エマルションの形で塗布される。有利に、被覆のために塗布されるべき液体の粘度は10mPas〜300000mPasである。
【0032】
これらのシリコーンには、海洋の防汚系において通常なような被覆から露出することができる添加剤を混入しない。この塗布は、通常の技術を用いて、有利に刷毛塗り、スプレー塗布、浸漬塗布、ブレード塗布、流延塗布により行うことができる。この場合、浸漬塗布及びスプレー塗布が特に有利である。管の被覆のためにも、他の方法、例えばスポンジ塗布、スピンコーティング、押出、クロスヘッド押出も適用することができ、並びに平面のためには、更にロール塗布、ローラ塗布、キスロール塗布も適用することができる。
【0033】
この塗布は、有利に、リアクター部材又はリアクター内部構造体に直接、プライマー層の塗布なしに行う。一般に、この被覆の厚さは、10nm〜1000μm、有利に1μm〜100μmである。場合により、被覆されるべきリアクター部材は、シリコーンの付着を改善するために、例えばコロナ処理により、前処理することができる。場合により、このシリコーンは定着のために通常の添加剤又は機械特性の改善のために通常の充填剤を含有することができる。上記添加剤は、有利に最大で、シリコーン被覆が透明又は半透明であるような量で使用される。
【0034】
場合により、被覆された表面に付着する生物は、培養サイクルの間に、水、エタノールH22の吹き付けにより、更に機械的に手間をかけずに除去することができる。
【0035】
本発明による、シリコーンで被覆されたフォトバイオリアクターは、生じる光合成生物の沈着を最小化するため、培養基の流動条件は一定に保たれ、成長のために理想的な光入射量を培養されるべき生物の最大の成長に調節し続けられる。更に、個々の培養サイクルの間の並びに培養すべき光合成生物の交換の際の洗浄コストの最小化が達成される。これにより、短い停止時間及びわずかな洗浄コストに基づく本質的な経済的利点が生じる。
【0036】
例えば船体の被覆のために使用されるような慣用のシリコーン含有の防汚被覆と比べて、本発明により使用されるシリコーンは、この被覆から放出される放出物質(例えばシリコーン油)を使用しないことを特徴とする。更に、防汚被覆の場合に使用された配合物の改善された付着及び機械特性のために中間層(下地)の塗布を行わなくてもよい。相応するシリコーン材料の使用により、少なくとも100゜の値の水に対する接触角を実現することは、一方で、シリコーン表面上での水の付着を低減し、他方で、水中に溶けた材料、例えば藻類培養の間のストレス刺激により生じた物質を、表面から遠ざける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性培養基中で光合成生物を培養するためのバイオリアクターにおいて、前記バイオリアクターの培養基と接触するリアクター部材及び/又はリアクター内部構造体は、完全に又は部分的にシリコーン層により被覆されていて、前記シリコーン層の表面は、水に対して少なくとも100゜の接触角を有する、バイオリアクター。
【請求項2】
前記バイオリアクターが閉鎖型リアクターであることを特徴とする、請求項1記載のバイオリアクター。
【請求項3】
前記バイオリアクターが、プレート型バイオリアクター、管型バイオリアクター、(気泡)塔型バイオリアクター又はホース型バイオリアクターであることを特徴とする、請求項1記載のバイオリアクター。
【請求項4】
前記バイオリアクターは、透明又は半透明の材料から製造されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のバイオリアクター。
【請求項5】
前記リアクター部材及び/又はリアクター内部構造体は、透明又は半透明のシリコーン層で被覆されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のバイオリアクター。
【請求項6】
前記シリコーン層は、縮合架橋するシリコーンエラストマー、付加架橋するシリコーンエラストマー、シリコーンハイブリッドポリマー、シリコーン樹脂及びシリコーンゲルを有する群からなる1種以上のシリコーンを含有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のバイオリアクター。
【請求項7】
着生を抑制する被覆をバイオリアクターに備える方法において、前記バイオリアクターの培養基と接触するリアクター部材及び/又はリアクター内部構造体を、完全に又は部分的に、シリコーン層で被覆し、前記シリコーン層の表面は、水に対して少なくとも100゜の接触角を有する、着生を抑制する被覆をバイオリアクターに備える方法。
【請求項8】
着生を抑制する被覆をバイオリアクターに備えるための、塗膜として塗布されたシリコーンの表面が水に対して少なくとも100゜の接触角を有するシリコーンの使用。

【公表番号】特表2013−500735(P2013−500735A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523351(P2012−523351)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061491
【国際公開番号】WO2011/015655
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】