説明

シリンジチェック部材及びそれを用いたクロマトグラフ用試料注入装置

【課題】 シリンジを外すことなく、定量的にシリンジの詰まり具合を評価することができるシリンジチェック部材を提供する。
【解決手段】 円筒形状のバイアル1の内部に入れられて用いられるシリンジチェック部材2であって、バイアル1の底面と同じ形状となる円板体2cと、円板体2cの上面に立設するように形成され、平面視で中心軸が円板体2cの中心と一致し、かつ、外径が円板体2cの外径よりも小さい円筒体2aとを有し、円板体2cの上面における円筒体2a内部の中心領域と円筒体2a外部の周縁領域とには、洗浄用溶媒として可溶性のインク3を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、分光分析装置等の分析装置において用いられるシリンジチェック部材及びそれを用いたクロマトグラフ用試料注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフで液体試料を分析する場合、ニードルを有するバレルとプランジャとを備えるシリンジで試料瓶(試料バイアル)内から一定量の液体試料を吸引した後、ニードルをガスクロマトグラフの試料気化室のセプタムに貫通させて、ガスクロマトグラフの試料気化室内に液体試料を注入するという操作が行われている。
また、ガスクロマトグラフで多数の液体試料を連続的に自動的に分析するために、分析対象である液体試料が入れられた多数(例えば、14個)の試料バイアルと、洗浄用溶媒が入れられた溶媒バイアルと、廃液が入れられる廃液バイアルとが一列に配置されるターレットを備えるガスクロマトグラフ用自動試料注入装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3は、ターレットを備えるガスクロマトグラフ用自動試料注入装置の概略構成の一例を示す正面図である。また、図4は、10μlシリンジの一例を示す断面図である。
ガスクロマトグラフ用自動試料注入装置101は、ガスクロマトグラフ9の上部に配置されており、試料注入装置10と制御部30とを備える。
制御部30は、CPU(図示せず)と入力部32と表示部33とを備え、ガスクロマトグラフ9とガスクロマトグラフ用自動試料注入装置101とを制御する。なお、制御部30は、ガスクロマトグラフ9とガスクロマトグラフ用自動試料注入装置101とにそれぞれ分離されて配置されていてもよい。そして、ガスクロマトグラフ9とガスクロマトグラフ用自動試料注入装置101との間は、伝送とリレー信号とでやりとりをすることとしてもよい。
試料注入装置10は、10μlシリンジ111と、シリンジ駆動部13と、ターレット12と、ターレット駆動部14と、シリンジ駆動部13とターレット駆動部14とが取り付けられた筐体15とを備える。
【0004】
10μlシリンジ111は、先端にニードル111aを有するバレル111bと、バレル111b内に摺動自在に嵌挿されたプランジャ111cとを備える。
シリンジ駆動部13は、10μlシリンジ111を筐体15に対して上下方向に移動させることが可能となっている。さらに、プランジャ111cをバレル111b内に押し入れたり、バレル111b内から引き出したりすることが可能となっている。
このような10μlシリンジ111とシリンジ駆動部13とによれば、液体試料をニードル111aからバレル111b内に吸引したり、バレル111b内の液体試料をニードル111aから排出したりすることができるようになっている。
ターレット12は、水平方向に長い平板形状をしており、ターレット12の上面には、バイアル1が収容されるための16個の穴が水平に一列に並ぶように形成されている。これにより、16個のバイアル1を一列に配置することができるようになっている。
【0005】
図5は、バイアル(シェル型)1の一例を示す斜視図である。バイアル1は、底面を有する円筒体1aであり、例えば、内径12mm、高さ45mmである。そして、円筒体1aは透明なガラスで作製されている。また、円筒体1aの上面の開口部には、プラスチック製のキャップ(蓋部材)1bが取り付けられるようになっている。キャップ1bは、逆さを向いた円錐形状のテーパ部が設けられている。これにより、10μlシリンジ111のニードル111aが上方からキャップ1bに押し込まれると、平面視で円筒体1aの中心軸と一致する部分に開口が形成されるようになっている。よって、10μlシリンジ111のニードル111aが、円筒体1aの中心軸と一致する位置に配置されることになる。テーパ部は、切りこみを入れたり、複数の三角形や台形状の断片を頂点に向かって配置することで形成されていてもよい。
【0006】
また、ガスクロマトグラフ9で多数の液体試料を連続的に自動的に分析するためには、一の液体試料を分析する際と、次の液体試料を分析する際との間に、10μlシリンジ111の内部を洗浄用溶媒(例えば、ヘキサン、メタノール、エタノール、アセトン等)で洗浄する必要がある。そのため、ターレット12の穴には、試料バイアル1だけでなく、洗浄用溶媒が入れられた溶媒バイアル1と、廃液(使用後の洗浄用溶媒)が入れられる廃液バイアル1とが配置されることになる。例えば、測定者は連続分析前には、ターレット12の第3穴〜第16穴に試料バイアル1を、第1穴に洗浄用溶媒バイアル1を、第2穴に廃液バイアル1を配置している。
ターレット駆動部14は、円板状体が回転することにより、ターレット12を筐体15に対して水平方向に移動させることが可能となっている。
このようなターレット12とターレット駆動部14とによれば、10μlシリンジ111の下方に試料バイアル1や溶媒バイアル1や廃液バイアル1の内のいずれか所望のバイアルがくるようにターレット12を移動させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−104241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、試料バイアル1内の液体試料を10μlシリンジ111に吸入する際や、ガスクロマトグラフ9の試料気化室9a内に液体試料を注入する際に、ニードル111aに物が詰まったり、ニードル111aが潰れたりすることがあった。
このとき、ニードル111aが完全に潰れてしまうと、液体試料を吸入することができないため、分析してもピークが検出されない。よって、測定者は測定結果からニードル111aが潰れていることを容易に把握することができる。
【0009】
一方、ニードル111aが少し潰れている場合には、分析するとピークが検出されるため、測定者はニードル111aが少し潰れていることを容易に把握することができない。少し潰れたニードル111aで試料気化室9a内に液体試料を注入すると、液体試料が斜めに排出され、試料気化室9a内の側面に液体試料がかかることになる。その結果、試料気化状態が一定に保たれず、ピーク面積等の再現性が悪くなるという問題点があった。よって、測定者は分析を行う前に10μlシリンジ111の詰まり具合を確認する必要があった。
【0010】
しかしながら、10μlシリンジ111の詰まり具合を確認するためには、試料注入装置10の所定の位置から10μlシリンジ111を取り外す必要があり、10μlシリンジ111を取り付けたり取り外したりする作業は面倒であった。また、10μlシリンジ111を目視で確認するため、10μlシリンジ111の交換が必要であるか否かの判断は、経験がない者にとって非常に難しかった。
そこで、本発明は、シリンジを外すことなく、定量的にシリンジの詰まり具合を評価することができるシリンジチェック部材及びそれを用いたクロマトグラフ用試料注入装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明のシリンジチェック部材は、円筒形状のバイアルの内部に入れて用いられるシリンジチェック部材であって、前記バイアルの底面と同じ形状となる円板体と、前記円板体の上面に立設するように形成され、平面視で中心軸が前記円板体の中心と一致し、かつ、外径が前記円板体の外径よりも小さい円筒体とを有し、前記円板体の上面における円筒体内部に位置する中心領域と円筒体外部に位置する周縁領域とには、シリンジを洗浄する洗浄用溶媒として可溶性のマーカー物質が塗布されるようにしている。
【0012】
本発明のシリンジチェック部材によれば、廃液バイアルの内部にシリンジチェック部材を入れる。そして、廃液バイアルの内部にシリンジから廃液が排出された際に、シリンジが正常であれば、円筒体内部の中心領域に塗布されたインク等のマーカー物質のみが滲むことになる。また、ニードルが少し潰れたり詰まったりしている場合には、廃液が斜めに排出されるので、円筒体外部の周縁領域に塗布されたインク等のマーカー物質が滲むことになる。さらに、ニードルが完全に潰れている場合には、廃液が排出されないので、円筒体内部の中心領域と円筒体外部の周縁領域とに塗布されたインク等のマーカー物質が滲まないことになる。これによって、シリンジの詰まり具合を、シリンジを外すことなく、誰でも定量的に評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のシリンジチェック部材によれば、シリンジを外すことなく、定量的にシリンジの詰まり具合を評価することができる。
【0014】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、上記の発明において、前記マーカー物質は、インクであり、円筒体内部に位置する中心領域と円筒体外部に位置する周縁領域との全面にドット模様で塗布されているようにしてもよい。
また、上記の発明において、平面視で前記円板体の中心と一致する開口が形成される蓋部材が、前記円筒形状のバイアルの上部に取り付けられるようにしてもよい。
【0015】
そして、本発明のクロマトグラフ用試料注入装置において、上述したようなシリンジチェック部材と、先端にニードルを有するバレルと、当該バレル内に摺動自在に嵌挿されたプランジャとを備えるシリンジと、前記シリンジを上下方向に移動させるとともに、前記プランジャを押し入れ又は引き出すことが可能なシリンジ駆動部と、分析対象である液体試料が入れられた試料バイアルと、洗浄用溶媒が入れられた溶媒バイアルと、廃液が入れられる廃液バイアルとが配置されるターレットと、前記ターレットを水平方向に移動させることが可能なターレット駆動部と、前記シリンジ駆動部及びターレット駆動部を制御する制御部とを備えるクロマトグラフ用試料注入装置であって、前記シリンジチェック部材は、前記廃液バイアルの内部に入れられるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】シリンジチェック部材の図。
【図2】シリンジチェック部材の使用方法の説明図。
【図3】ガスクロマトグラフ用自動試料注入装置の概略構成の一例を示す正面図。
【図4】10μlシリンジの一例を示す断面図。
【図5】バイアルの一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0018】
ガスクロマトグラフ用自動試料注入装置101は、ガスクロマトグラフ9の上部に配置されており、試料注入装置10と制御部30とを備える。
本発明では、10μlシリンジ111の詰まり具合を評価する際には、測定者によってシリンジチェック部材2が廃液バイアル1の内部に入れられて用いられることになる。
【0019】
図1は、シリンジチェック部材の図である。図1(a)は、シリンジチェック部材の斜視図であり、図1(b)は、シリンジチェック部材の平面図であり、図1(c)は、図1(b)に示すA−A線の断面図である。
シリンジチェック部材2は、円板体2cと、円板体2cの上面の中央部に立設するように形成された内側円筒体2aと、円板体2cの上面の外周部に立設するように形成された外側円筒体2bとを有する。そして、円板体2cと内側円筒体2aと外側円筒体2bとは、例えば、10μlシリンジ111を洗浄する洗浄用溶媒に溶けないプラスチックで作製されている。
【0020】
円板体2cは、バイアル1の底面と同じ形状となっている。例えば、外径12mmとなる。また、外側円筒体2bは、円板体2cの上面の外周部に立設するように形成されている。例えば、外径12mm、内径11mm、高さ(Hout)10mmとなる。
内側円筒体2aは、平面視で中心軸が円板体2cの中心と一致するように、円板体2cの上面の中央部に立設するように形成されている。例えば、外径6mm、内径5mm、高さ(Hin)8mmとなる。なお、内側円筒体2aの内径(φid)は、合格基準を設定する際に決定されるが、例えば、4mm以上6mm以下となっていることが好ましく、内側円筒体2aの高さは、合格基準を設定する際に決定されるが、例えば、5mm以上10mm以下となっていることが好ましい。
【0021】
そして、円板体2cの上面における内側円筒体2a内部に位置する中心領域と内側円筒体2a外部に位置する周縁領域との全面には、色(例えば、赤色等)の付いたインク3がドット模様に塗布されている。インク3は、洗浄用溶媒に可溶性であるものが用いられる。これにより、洗浄用溶媒がインク3に接触すると、インク3が滲むことになる。
【0022】
ここで、シリンジチェック部材2の使用方法について説明する。図2は、シリンジチェック部材2の使用方法を説明するための図である。
まず、測定者は、廃液バイアル1において円筒体1aの上面の開口部からキャップ1bを取り外して、円筒体1aの内部にシリンジチェック部材2を入れ、再び円筒体1aの上面の開口部にキャップ1bを取り付ける。次に、測定者は、廃液バイアル1をターレット12の第2穴に配置する。
そして、分析を行っている際に、廃液バイアル1の内部に10μlシリンジ111から廃液が排出されたときに、測定者は、内側円筒体2a内部の中心領域と内側円筒体2a外部の周縁領域とに塗布されたインク3の滲み具合を観察する。
【0023】
具体的には、10μlシリンジ111が正常であれば、図2(a)に示すように内側円筒体2a内部の中心領域に塗布されたインク3のみが滲むことになる。これによって、測定者は、ニードル111aが正常であると評価する。
また、ニードル111aが少し潰れたり詰まったりしている場合には、廃液が斜めに排出されるので、図2(b)に示すように内側円筒体2a内部の中心領域の一部と内側円筒体2a外部の周縁領域の一部とに塗布されたインク3が滲むことになる。これによって、測定者は、ニードル111aが少し潰れてしまっていると評価して、10μlシリンジ111を交換する。
さらに、ニードル111aが完全に潰れている場合には、廃液が排出されないので、図2(c)に示すように内側円筒体2a内部の中心領域と内側円筒体2a外部の周縁領域とに塗布されたインク3が滲まないことになる。これによって、測定者は、ニードル111aが完全に潰れてしまっていると評価して、10μlシリンジ111を交換する。
【0024】
以上のように、本発明のシリンジチェック部材2によれば、10μlシリンジ111を外すことなく、定量的に10μlシリンジ111の詰まり具合を評価することができる。
【0025】
<他の実施形態>
上述したガスクロマトグラフ用自動試料注入装置101において、10μlシリンジ111を用いるような構成を示したが、20μlシリンジや50μlシリンジ等の色々な容量のシリンジを用いるような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、多数の液体試料を分析するためのクロマトグラフ用試料注入装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 バイアル
2 シリンジチェック部材
2a 内側円筒体
2c 円板体
3 インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のバイアルの内部に入れて用いられるシリンジチェック部材であって、
前記バイアルの底面と同じ形状となる円板体と、
前記円板体の上面に立設するように形成され、平面視で中心軸が前記円板体の中心と一致し、かつ、外径が前記円板体の外径よりも小さい円筒体とを有し、
前記円板体の上面における円筒体内部に位置する中心領域と円筒体外部に位置する周縁領域とには、シリンジを洗浄する洗浄用溶媒として可溶性のマーカー物質が塗布されていることを特徴とするシリンジチェック部材。
【請求項2】
前記マーカー物質は、インクであり、円筒体内部に位置する中心領域と円筒体外部に位置する周縁領域との全面にドット模様で塗布されていることを特徴とする請求項1に記載のシリンジチェック部材。
【請求項3】
平面視で前記円板体の中心と一致する開口が形成される蓋部材が、前記円筒形状のバイアルの上部に取り付けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリンジチェック部材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のシリンジチェック部材と、
先端にニードルを有するバレルと、当該バレル内に摺動自在に嵌挿されたプランジャとを備えるシリンジと、
前記シリンジを上下方向に移動させるとともに、前記プランジャを押し入れ又は引き出すことが可能なシリンジ駆動部と、
分析対象である液体試料が入れられた試料バイアルと、洗浄用溶媒が入れられた溶媒バイアルと、廃液が入れられる廃液バイアルとが配置されるターレットと、
前記ターレットを水平方向に移動させることが可能なターレット駆動部と、
前記シリンジ駆動部及びターレット駆動部を制御する制御部とを備えるクロマトグラフ用試料注入装置であって、
前記シリンジチェック部材は、前記廃液バイアルの内部に入れられることを特徴とするクロマトグラフ用試料注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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