説明

シンクロトロン振動周波数制御装置及びその制御方法

【課題】誘導加速セルにより、バリアー電圧をバンチの周回に同期して印加するシンクロトロン振動周波数制御装置及びその制御方法を提供すること。
【解決手段】シンクロトロン1は、バンチ3にバリアー電圧9を印加する誘導加速セル6と、誘導加速セル6を駆動するスイッチング電源5b、及びスイッチング電源5bのオン及びオフを制御するゲート信号パターン8aを生成するパターン生成器8b、ゲート信号パターン8aの基になるゲート親信号8cのオン及びオフを制御するデジタル信号処理装置8dからなるインテリジェント制御装置8より構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加速セルを用いたシンクロトロンに係り、誘導電圧の発生タイミングを制御することにより、シンクロトロン振動周波数を制御する装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンクロトロンには、高周波シンクロトロン、誘導加速セルを用いたシンクロトロンがある。図6に高周波加速空洞4による荷電粒子の加速原理を、図7に誘導加速セルによる荷電粒子の加速原理を示す。
【0003】
高周波シンクロトロン16は、入射機器により真空ダクト内に入射した陽子などの荷電粒子を、高周波シンクロトロン16を構成する偏向電磁石の磁場励磁パターンに同期した高周波加速空洞4によって高周波加速電圧を印加して、加速しながら荷電粒子を真空ダクト中のバンチ3が周回する設計軌道2を周回させる円形加速器である。
【0004】
一方、誘導加速セルを用いたシンクロトロンは、高周波シンクロトロン16と加速方法が異なり誘導加速セルによって誘導電圧を印加して加速する円形加速器である。
【0005】
図6(A)は、入射された陽子が数個のバンチ3として高周波シンクロトロン16の設計軌道2を周回している様子を示している。バンチ3は、高周波加速空洞4に到達すると、磁場励磁パターンに同期した高周波加速電圧を印加されることにより、所定のエネルギーレベルまで加速される。
【0006】
ここで、バンチ3とは、荷電粒子が位相安定性を受け、設計軌道2を周回する荷電粒子群のことをいう。
【0007】
また、荷電粒子とは元素の周期表のある種の元素が一定の正または負の電価状態にあるイオンおよび電子に始まる「電荷を持った粒子」の総称をいう。さらに、荷電粒子には化合物、タンパク質などの構成分子数の大きな粒子も含む。
【0008】
図6(B)は、バンチ3と印加される高周波加速電圧4bの関係を示している。横軸tは、高周波加速空洞4内の時間的変化を表している。縦軸vは、高周波4aの電圧値である。Vofsは、加速のある瞬間に偏向電磁石の磁場励磁パターンの傾き(時間変化率)から計算されたバンチ3の加速に必要な高周波加速電圧値4cである。
【0009】
加速に必要な電圧を偏向電磁石の磁場励磁パターンの傾き(時間的変化率)から計算された高周波加速電圧4bとしてバンチ3に印加する。高周波加速電圧4bは、バンチ3の加速に必要な電圧を与える機能と、バンチ3が進行軸方向に拡散することを防止する閉じ込め機能を併せ持っている。
【0010】
高周波シンクロトロン16でバンチ3を加速する場合には、この二つの機能が必ず必要である。この二つの働きをもつ高周波加速電圧4bの時間帯は限られており、高周波加速空洞4では、グレーで示した時間帯は加速に利用することができないことがこれまでに分かっている。
【0011】
特に閉じ込め機能を位相安定性と呼ぶことがある。ここで位相安定性とは、高周波加速電圧4bによって進行軸方向への収束力を受けて、個々の荷電粒子がバンチ3化し、そのバンチ3の中を荷電粒子の進行軸方向に往きつ戻りつしながら高周波シンクロトロン16の中を周回することをいう。
【0012】
図7に誘導加速セルによる荷電粒子の加速原理と、誘導電圧の種類について示した。誘導加速セルには、荷電粒子ビームを進行軸方向に閉じ込めるための誘導加速セル(以下、閉込用誘導加速セルという。)と、荷電粒子ビームを進行軸方向に加速するための誘導電圧を印加する誘導加速セル(以下、加速用誘導加速セルという。)がある。
【0013】
なお、閉込用誘導加速セルに代えて、バンチ3を進行軸方向に閉じ込めるために高周波加速空洞4を用いることもある。
【0014】
図7(A)は、閉込用誘導加速セルによるバンチ3の閉じ込めの様子を示している。閉込用誘導加速セルによってバンチ3に印加する誘導電圧をバリアー電圧9という。
【0015】
特に、バンチ頭部3dに印加するバンチ3の進行軸方向と逆向きの誘導電圧のことを負のバリアー電圧9aといい、その電圧値を負のバリアー電圧値9cという。
【0016】
また、バンチ尾部3eに印加するバンチ3の進行軸方向と同一方向の誘導電圧を正のバリアー電圧9bといい、その電圧値を正のバリアー電圧値9dという。
【0017】
これらによって、従来の高周波4aと同様にバンチ3に位相安定性を与えるものである。なお、横軸tは、加速用誘導加速セル内の時間的変化であり、縦軸vは、印加させるバリアー電圧値(図7(B)においては、加速用の誘導電圧値)である。
【0018】
図7(B)は、加速用誘導加速セルによるバンチ3の加速の様子を示している。加速用誘導加速セルによってバンチ3に印加する誘導電圧を加速用の誘導電圧17という。
【0019】
特に、バンチ頭部3dからバンチ尾部3eに至るバンチ3の全体に印加するバンチ3の進行軸方向の加速に必要な加速用の誘導電圧17のことを加速電圧17aという。
【0020】
また、加速用誘導加速セルにバンチ3が存在しない時間に、加速電圧17aと異極の加速用の誘導電圧17をリセット電圧17bという。このリセット電圧17bは、加速用誘導加速セルの磁気的飽和を回避するためのものである。
【0021】
これらバリアー電圧9、及び加速用の誘導電圧17によって、任意の荷電粒子を一台の加速器で誘導加速セルを用いたシンクロトロンを構成する偏向電磁石の磁場強度が許す任意のエネルギーレベル(以下、任意のエネルギーレベルという。)に加速することができると考えられている。
【0022】
さらに、誘導加速セルを使用することにより、従来の高周波シンクロトロン16で加速していたビーム長に比べて数倍から10倍の時間幅を持つ、1マイクロ秒もの長さをしたバンチ3(スーパーバンチ)を加速することも可能になると考えられている。
【非特許文献1】日本物理学会誌 vol.59,No.9(2004)p601−p610
【0023】
ここで、誘導加速セルとは、これまで作られてきた線形誘導加速器用の誘導加速空洞と原理的には同じ構造である。誘導加速セルは、内筒、及び外筒からなる2重構造で、外筒の内に磁性体が挿入されてインダクタンスを作る。バンチ3が周回する真空ダクトと接続された内筒の一部がセラミックなどの絶縁体でできている。
【0024】
磁性体を取り囲む1次側の電気回路にDC充電器からパルス電圧を印加すると、1次側導体には1次電流(コア電流)が流れる。この1次電流は1次側導体の周りに磁束を発生させ、1次側導体に囲まれた磁性体が励磁される。
【0025】
これによりトロイダル形状の磁性体を貫く磁束密度が時間的に増加する。このとき絶縁体を挟んで、導体の内筒の両端部である2次側の絶縁部にファラデーの誘導法則にしたがって誘導電場が発生する。この誘導電場が電場となる。この電場が生じる部分を加速ギャップという。従って、誘導加速セルは1対1のトランスであるといえる。
【0026】
誘導加速セルの1次側の電気回路にパルス電圧を発生させるスイッチング電源を接続し、前記スイッチング電源を外部からオン及びオフすることで、加速電場の発生を自由に制御することができる。
【0027】
図8にシンクロトロン振動と従来のシンクロトロン振動周波数の制御を示す。
【0028】
高周波シンクロトロン16における荷電粒子の進行軸方向の閉じ込めとその加速方式では、バンチ3を閉じ込めることができる位相空間領域の、特に進行軸方向(時間軸方向)が原理的に制限されることが知られている。
【0029】
具体的には高周波4aが負の電圧になる時間領域ではバンチ3は減速され、電圧勾配の極性が異なる時間領域では荷電粒子は進行軸方向に発散し、閉じ込められない。すなわち、概ね点線矢印の間を示す加速領域4dしかバンチ3の加速に使用することができない。
【0030】
加速領域4dでは、バンチ中心3cに常に一定の電圧である中心加速電圧3fを印加するように高周波4aの位相を移動制御することから、バンチ頭部3dに位置する荷電粒子は、バンチ中心3cよりエネルギーが大きく、より速く高周波加速空洞4に到達するため、バンチ中心3cが受ける中心加速電圧3fより小さい頭部加速電圧3gを受け減速する。
【0031】
一方、バンチ尾部3eに位置する荷電粒子は、バンチ中心3cよりエネルギーが小さく、遅く高周波加速空洞4に到達するため、バンチ中心3cが受ける中心加速電圧3fより大きい尾部加速電圧3hを受け加速する。加速中、粒子はこの過程を繰り返す。
【0032】
これが位相安定性といわれ、共鳴加速、強収束とともに、荷電粒子のシンクロトロン加速を可能にする3大原理の内の1つの機能である。
【0033】
このバンチ3が位相安定性を受けて、バンチ3を構成する荷電粒子がバンチ中心3cを点対称に加速方向の前後に回転することをシンクロトロン振動3iといい、そのときの荷電粒子の回転周波数をシンクロトロン振動周波数という。
【0034】
ここで閉じ込めとは、バンチ3を構成する荷電粒子が、必ず運動エネルギーのばらつきを持っているために必要となる機能である。運動エネルギーのばらつきは、バンチ3が設計軌道2を1周した後、同じ位置へ到達する時間の違いをもたらす。この時間差は閉じ込めを行わない限り、周回を重ねるごとに大きくなり、荷電粒子は設計軌道2の全体にわたって拡散してしまう。
【0035】
バンチ3の両端に正および負の誘導電圧が印加されるようにすると、エネルギーが不足して周回が遅れた粒子には正の誘導電圧によってエネルギーが与えられてエネルギー過剰な状態になり、エネルギーが過剰で周回が早まった荷電粒子には負の誘導電圧によってエネルギーが失われエネルギー不足な状態になる。
【0036】
これにより、周回が遅れた粒子は周回が早まり、逆に周回が速い粒子は周回が遅れ、結果としてバンチ3を進行軸方向のある領域に局在させることができる。この一連の働きをバンチ3の閉じ込めと呼ぶ。
【0037】
閉込用誘導加速セルの機能は、従来の高周波加速空洞4の閉じ込めの機能だけを分離したものと等価である。
【0038】
閉込用とは、入射装置より誘導加速セルを用いたシンクロトロンに入射された荷電粒子ビームを、誘導加速セルによる所定の極性の異なる誘導電圧よって別の誘導加速セルで誘導加速できるように一定の長さのバンチ3まで縮めたり、その他種々の長さのバンチ3に変える機能と、加速中のバンチ3に位相安定性を持たせる機能を有しているとの意味である。
【0039】
加速用とは、バンチ3を形成後に、バンチ3全体に加速用の誘導電圧17を与える機能を有しているとの意味である。
【0040】
従来の高周波シンクロトロン16において、バンチ3は高周波シンクロトロン16を構成する装置から設計する段階では予想できない高周波を受ける現象が知られている。この現象を外乱と呼ぶ。この外乱は、シンクロトロンを構成する各装置が発する電磁波であり、設置状態により、加速毎に常に決まった高周波周波数としてバンチ3に与えられる。
【0041】
たまたま、バンチ3のシンクロトロン振動3iの周波数と外乱の周波数が一致もしくは整数倍になると、シンクロトロン振動3iに共鳴を誘起し、荷電粒子が理想的エネルギーからずれ、バンチ3が進行軸方向に拡散し、高周波4aの加速領域4dの時間幅を超え、損失してしまう。同様に、荷電粒子ビームの加速に加速用誘導加速セルを用いた場合には、加速電圧17aの印加時間17cの長さを超え、損失してしまう。
【0042】
例えば、バンチ頭部3dの荷電粒子は、加速方向と逆向きの高周波加速電圧4bを受け、シンクロトロンの磁場励磁パターンに同期できなくなり、真空ダクト壁面に衝突して、消失する。
【0043】
荷電粒子の加速において、粒子の損出は加速効率が低下する問題だけでなく、如何なる荷電粒子であっても、高エネルギー状態であるから、真空ダクト壁面に衝突した付近を少なからず放射化する重大な問題を伴う。
【0044】
そこで、従来の荷電粒子の加速において、外乱による荷電粒子の損失を防止するため、高周波4aの振幅を変更することができる振幅変動装置16aによって、シンクロトロン振動周波数を制御し、外乱の周波数との同調を避けていた。
【特許文献1】特開平8−88100号報
【0045】
具体的には、通常の磁場励磁パターンに同期した高周波4aに対して、振幅増加4eした高周波4fに変動させ、さらに、位相移動4gをおこなった高周波4hをバンチ3に印加する。
【0046】
上述の様な制御を行うことにより、バンチ3の中心加速電圧3fを一定に保つことによって、磁場励磁パターンにバンチ3の周回周波数を同期させることができる。なお、単に振幅を変動させただけの高周波4fでは、バンチ中心3cに印加される中心加速電圧3fが変化し、磁場励磁パターンに同期させることはできない。
【0047】
加えて、バンチ頭部3dには、通常の高周波4aによって与えられた頭部加速電圧3gと逆向きの減速電圧4iが印加される。一方、バンチ尾部3eには、通常の高周波4aによって与えられた頭部加速電圧3gに対して、増加分4jが印加される。その結果、シンクロトロン振動3iが増すこととなる。
【0048】
従って、振幅変動装置16aによって、シンクロトロン振動3iを制御することにより、外乱周波数を避けることができた。よって、高周波加速空洞4による加速においては、荷電粒子の損出による放射化を防止することが可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0049】
しかしながら、誘導加速セルによる荷電粒子の加速を行う場合、閉込用誘導加速セルによる負のバリアー電圧値9c、及び正のバリアー電圧値9dを変更することは、回路上困難である。また、負のバリアー電圧値9c、及び正のバリアー電圧値9dはバンチ頭部3dとバンチ尾部3eにのみ印加され、その他の荷電粒子に対して印加させることができないため、従来の高周波シンクロトロン16で用いられていた電圧値を変更する方法を採用することは効果が薄い。
【0050】
また、当然に、振幅変動装置16aを必要とする従来の方法では、シンクロトロンの建設コストが高くなる点問題となる。
【0051】
そこで、本発明は誘導加速セルにより、誘導電圧をバンチ3の周回に同期して印加することのできるシンクロトロン振動周波数制御装置5、及びその制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0052】
本発明は、上記課題を解決するために、シンクロトロンにおいて、バンチ3の設計軌道2が中にある環状の真空ダクトに接続され、バンチ3にバリアー電圧9を印加する誘導加速セル6と、前記誘導加速セル6を駆動するスイッチング電源5b、及び前記スイッチング電源5bのオン及びオフを制御するゲート信号パターン8aを生成するパターン生成器8b、前記ゲート信号パターン8aの基になるゲート親信号8cを、前記真空ダクトの中にあるバンチモニター7からのバンチ3の通過の信号である通過シグナル7aによって、バンチ3の周回に同期させ、予め可変遅延時間計算機13aに与えられていたバリアー電圧9の中止パターン14にしたがって、一定のバンチ3の周回数にバリアー電圧9を中止するデジタル信号処理装置8dからなるインテリジェント制御装置8より構成されるシンクロトロン振動周波数を制御することを特徴とするシンクロトロン振動周波数制御装置5の構成とした。
【発明の効果】
【0053】
本発明は、以上の構成であるから以下の効果が得られる。振幅変動装置16aを必要としないから、安価でシンクロトロンを設置することができる。また、シンクロトロン振動周波数の可変幅が広がることにより、ビーム不安定性を回避することができる。
【0054】
従って、ビームロスが低減でき、ビームロスによる環境の放射化を防止することができる。高周波加速空洞4を用いることなく誘導加速セル6のみによって、荷電粒子を加速することが可能であるから、従来の加速器を利用して、加速する荷電粒子に制限されることなく、原理的に取り得る全ての荷電状態の荷電粒子を任意のエネルギー状態に加速することが容易にできることとなる。また、加速器の運転コストが低く抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
シンクロトロンにおいて、誘導加速セル6によってバンチ3に間欠的にバリアー電圧9を印加することを特徴とするシンクロトロン振動周波数の制御方法によって実現した。
【実施例1】
【0056】
以下に、添付図面に基づいて、本発明であるシンクロトロン振動周波数制御装置5及びその制御方法について詳細に説明する。
【0057】
図1は、本発明であるシンクトロン振動周波数制御装置を含む誘導加速セルを用いたシンクロトロンの概略図である。
【0058】
本発明であるシンクロトロン振動周波数制御装置5を利用した誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1は、真空ダクト内にある入射されたバンチ3が周回する設計軌道2と強収束を保証する偏向電磁石13h、収束電磁石などの装置によりなる。
【0059】
ここでは、従来の高周波加速空洞4を含む高周波加速装置によって高周波4aを制御する場合を示した。バンチ3のシンクロトロン振動周波数制御は、新たに組み込んだ、シンクロトロン振動周波数制御装置5により行う。
【0060】
シンクロトロン振動周波数制御装置5は、バンチ3が周回する設計軌道2が中にある真空ダクトに接続された、バンチ頭部3dに印加するバンチ3の進行軸方向3aと逆向きの誘導電圧である負のバリアー電圧9a、及びバンチ尾部3eに印加するバンチ3の進行軸方向3aと同一方向の誘導電圧を正のバリアー電圧9bであるバリアー電圧9を印加する誘導加速セル6、前記誘導加速セル6に伝送線5aを介してパルス電圧を与える高繰り返し動作可能なスイッチング電源5b、前記スイッチング電源5bに電力を供給するDC充電器5c、前記スイッチング電源5bのオン及びオフの動作をフィードバック制御するインテリジェント制御装置8、前記誘導加速セル6より印加された誘導電圧値を知るための誘導電圧モニター5dからなる。
【0061】
本発明であるインテリジェント制御装置8は、スイッチング電源5bのオン及びオフの動作を制御するゲート信号パターン8aを生成するパターン生成器8b、及び前記パターン生成器8bによるゲート信号パターン8aの生成のもと信号であるゲート親信号8cを計算するデジタル信号処理装置8dからなる。
【0062】
ゲート信号パターン8aとは、誘導加速セル6のバリアー電圧9を制御するパターンである。バリアー電圧9を印加する際に、負のバリアー電圧9aの印加時間17cと発生タイミング、及び正のバリアー電圧9bを印加する際に、正のバリアー電圧9bの印加時間17cと発生タイミングを決定する信号と、負のバリアー電圧9aおよび正のバリアー電圧9bの間の休止時間を決定するための信号である。従って、ゲート信号パターン8aは加速するバンチ3の長さにあわせて調節が可能である。
【0063】
パターン生成器8bは、ゲート親信号8cをスイッチング電源5bの電流路のオン及びオフの組み合わせへと変換する装置である。
【0064】
スイッチング電源5bは一般に複数の電流路を持ち、その各枝路を通過する電流を調整し、電流の方向を制御することで負荷(ここでは誘導加速セル6)に正と負の電圧を発生する(図2)。
【0065】
誘導加速セル6は、従来の閉込用誘導加速セルと同様な機能を有するものである。しかし、従来の閉込用誘導加速セルが、荷電粒子に位相安定性を与えるため、バンチ3の周回毎にバリアー電圧9を印加するのに対して、本発明を構成する誘導加速セル6は、他の閉じ込めの機能を有した装置と併用することで、閉込用としてのみ機能するのでは無く、シンクロトロン振動周波数制御を行うこともできる点相違する。
【0066】
図2はシンクロトロン振動周波数制御装置の等価回路である。シンクロトロン振動周波数制御装置の等価回路10は、DC充電器5cから常時給電を受けるスイッチング電源5bが、伝送線5aを経由して誘導加速セル6に繋がったものとして表すことができる。
【0067】
誘導加速セル6は誘導成分L、容量成分C、抵抗成分Rの並列回路で示す。並列回路の両端電圧がバンチ3が感じる負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bである。
【0068】
図2の回路状態は、第1スイッチ11a、及び第4スイッチ11dがゲート信号パターン8aによりオンになっており、バンクコンデンサー11に充電された電圧が誘導加速セル6に印加され、加速ギャップ6aにバンチ3を加速するための負のバリアー電圧9aが生じている状態である。
【0069】
次にオンになっていた第1スイッチ11a、及び第4スイッチ11dがゲート信号パターン8aによりオフになり、第2スイッチ11b、及び第3スイッチ11cがゲート信号パターン8aによりオンになって、前記加速ギャップ6aに前記誘導電圧と逆向きの正のバリアー電圧9bが生じるとともに、誘導加速セル6の磁性体の磁気的飽和をリセットする。
【0070】
そして、第2スイッチ11b、及び第3スイッチ11cがゲート信号パターン8aによりオフになり、第1スイッチ11a、及び第4スイッチ11dがオンになる。このような一連のスイッチング動作をゲート信号パターン8aにより繰り返すことで、バンチ3を閉じ込めること、及びシンクロトロン振動周波数を制御することが可能となる。
【0071】
前記、ゲート信号パターン8aは、スイッチング電源5bの駆動を制御する信号であり、バンチ3の通過シグナル7aを基に、デジタル信号処理装置8d及びパターン生成器8bからなるインテリジェント制御装置8でデジタル制御される。
【0072】
なお、バンチ3に印加された負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bは、回路中の電流値とマッチング抵抗12との積から計算された値と等価である。従って、誘導電圧モニター5dである電流計で、電流値を測定することで印加した負のバリアー電圧値9c、及び正のバリアー電圧値9dを知ることができる。
【0073】
そこで、電流計である誘導電圧モニター5dで得られる誘導電圧シグナル5eをデジタル信号処理装置8dにフィードバックし、次のゲート親信号8cの生成に利用することもできる。
【0074】
図3はデジタル信号処理装置の構成図である。デジタル信号処理装置8dは、可変遅延時間計算機13a、可変遅延時間発生器13c、オンオフ選択器13e及びゲート親信号出力器13gからなる。
【0075】
可変遅延時間計算機13aは、可変遅延時間13を決定する装置である。可変遅延時間計算機13aには、荷電粒子の種類に関する情報、磁場励磁パターンを基に計算される可変遅延時間13の定義式が与えられている。後述する可変遅延時間13を計算する一連の式(1)−式(6)、または必要な可変遅延時間パターンである。
【0076】
荷電粒子の種類に関する情報とは、加速する荷電粒子の質量と電価数である。上述したように、荷電粒子がバリアー電圧9から得るエネルギーは電価数に比例し、これによって得られる荷電粒子の速度は荷電粒子の質量に依存する。可変遅延時間13の変化は荷電粒子の速度に依存するため、これらの情報を予め与えておく。
【0077】
可変遅延時間13とは、バリアー電圧9の発生タイミングをバンチ3が誘導加速セル6を通過した時間に合わせるため、デジタル信号処理装置8dを用いて、バンチモニター7の通過シグナル7aの発生から負のバリアー電圧9aまたは、正のバリアー電圧9bを印加するまでの間を調整する時間のことである。
【0078】
具体的には、デジタル信号処理装置8dの内部で、バンチモニター7からの通過シグナル7aを受けてから、ゲート親信号8cの発生までの時間を制御する。
【0079】
可変遅延時間13であるΔtは、バンチ3が設計軌道2のいずれかに置かれたバンチモニター7から、誘導加速セル6に到達するまでの移動時間をt、バンチモニター7からデジタル信号処理装置8dまでの通過シグナル7aの伝達時間をt、及びデジタル信号処理装置8dから出力されたゲート親信号8cを基に誘導加速セル6で負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bを印加するまで要する伝達時間をtとすると次式(1)で求められる。
Δt=t−(t+t)・・・式(1)
【0080】
例えば、ある加速時間でのバンチ3の移動時間が1マイクロ秒であるとし、通過シグナル7aの伝達時間が0.2マイクロ秒、ゲート親信号8cが発生してから、負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bが発生するまでに要する伝達時間7dが0.3マイクロ秒であるならば、可変遅延時間13は、0.5マイクロ秒となる。
【0081】
Δtは、加速の経過とともに変化する。バンチ3の加速に伴ってtが加速の経過とともに変化するためである。従って、負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bをバンチ3に印加するためには、Δtをバンチ3の周回ごとに計算する必要がある。一方t及びtは、一端誘導加速セル6を用いたシンクロトロンを構成する各装置を設置すれば、一定の値である。
【0082】
は、バンチ3の周回周波数(fREV(t))、及びバンチモニター7から誘導加速セル6までのバンチ3が移動する設計軌道2の長さ(L)から求めることができる。また、実測してもよい。
【0083】
ここで、tをバンチ3の周回周波数(fREV(t))から求める方法を示す。Cをバンチ3が周回する設計軌道2の全長とすると、tは次式(2)によってリアルタイムで計算することができる。
=L/(fREV(t)・C)[秒]・・・式(2)
REV(t)は次式(3)によって求められる。
【0084】
REV(t)=β(t)・c/C[Hz]・・・式(3)
ここで、β(t)は相対論的粒子速度、cは光速(c=2.998×10[m/s])である。β(t)は次式(4)によって求められる。
【0085】
β(t)=√(1−(1/(γ(t)))[無次元]・・・式(4)
ここで、γ(t)は相対理論係数である。γ(t)は次式(5)によって求められる。
【0086】
γ(t)=1+ΔT(t)/E[無次元]・・・式(5)
ここで、ΔT(t)は加速電圧17aによって与えられるエネルギーの増加分、Eは荷電粒子の静止質量である。ΔT(t)は次式(6)によって求められる。
【0087】
ΔT=ρ・C・e・ΔB(t)[eV]・・・式(6)
ここで、ρは偏向電磁石13hの極率半径、Cはバンチ3が周回する設計軌道2の全長、eは荷電粒子が持つ電荷量、ΔB(t)は加速開始からのビーム偏向磁場強度の増加分である。
【0088】
荷電粒子の静止質量(E)、荷電粒子の電荷量(e)は、荷電粒子の種類によって異なる。
【0089】
上述の一連の可変遅延時間13(Δt)を求める式を定義式によって、可変遅延時間13(Δt)をリアルタイムに求める時は、定義式をデジタル信号処理装置8dの可変遅延時間計算機13aにあたえる。
【0090】
従って、可変遅延時間13は、バンチモニター7から誘導加速セル6の距離(L)、バンチ3が周回する設計軌道2の全長(C)が定まれば、バンチ3の周回周波数によって、一意に定まる。さらに、バンチ3の周回周波数も、磁場励磁パターンによって、一意に定まる。
【0091】
また、荷電粒子の種類、誘導加速セル6を用いたシンクロトロンの設定が定まれば、ある加速時点での必要な可変遅延時間13も一意に定まる。従って、バンチ3が、磁場励磁パターンに従って、理想的な加速をするとすれば、予め上記定義式に従って可変遅延時間13を計算しておくこともできる。
【0092】
上述のようにして与えられた可変遅延時間13は、デジタルデーターである可変遅延時間シグナル13bとして、可変遅延時間発生器13cに出力される。
【0093】
可変遅延時間発生器13cは、ある周波数を基準とするカウンターで、通過シグナル7aをデジタル信号処理装置8d内に一定時間保持したのち通過させる装置である。例えば、1kHzのカウンターであれば、カウンターの数値1000は、1秒と等価である。すなわち、可変遅延時間発生器13cに、可変遅延時間13に相当する数値を入力することで、可変遅延時間13の長さの制御を行うことができる。
【0094】
具体的には、可変遅延時間発生器13cは、前記可変遅延時間計算機13aによって出力された可変遅延時間13に相当する数値である可変遅延時間シグナル13bを基に、ゲート親信号8cの発生を可変遅延時間13に相当する時間の間停止する制御を行う。その結果、負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bの発生タイミングをバンチ3が誘導加速セル6に到達した時間に合わせることができることとなる。
【0095】
例えば、可変遅延時間計算機13aによって、150という数値の可変遅延時間シグナル13bを上記1kHzのカウンターである可変遅延時間発生器13cに出力した場合、可変遅延時間発生器13cは、0.15秒の間パルス13dの発生を遅らせる制御を行う。
【0096】
可変遅延時間発生器13cは、バンチモニター7からの通過シグナル7a、及び可変遅延時間計算機13aからの可変遅延時間シグナル13bを受けて、バンチモニター7を通過したバンチ3毎に、次回のバリアー電圧9を発生させるタイミングを計算して、オンオフ選択器13eに可変遅延時間13の情報であるパルス13dを出力する。
【0097】
ここで、通過シグナル7aとは、バンチ3がバンチモニター7を通過した瞬間にあわせて発生するパルスである。前記パルスはそれを伝送する媒体あるいはケーブルの種類によって、適切な強度を持つ電圧型、電流型、光型などがある。前記通過シグナル7aを得るためのバンチモニター7は、従来から高周波シンクロトロン16に使用されている陽子の通過を感知するモニターでよい。
【0098】
前記通過シグナル7aは、デジタル信号処理装置8dにバンチ3の通過タイミングを時間情報として与えるために用いられる。バンチ3の通過により、発生したパルスの立ち上がり部によって、設計軌道2でのバンチ3の進行軸方向3aでの位置が求められる。すなわち、通過シグナル7aは、可変遅延時間13の開始時間の基準である。
【0099】
オンオフ選択器13eは、バリアー電圧9を発生(オン)させるか、発生させない(オフ)か決定する装置である。
【0100】
例えば、ある瞬間に必要な負のバリアー電圧値9c(正のバリアー電圧値9d)が−0.5kV(0.5kV)である場合、1=パルス13fを発生させる、0=パルス13fを発生させないと定義する。
【0101】
−1.0kV(1.0kV)の一定値の負のバリアー電圧9a(正のバリアー電圧9b)を用いて、バンチ3が10周回する間に周回毎に負のバリアー電圧9a(または正のバリアー電圧9b)を印加する、しないを、[1、0、・・・、1]と表す。
【0102】
すると、1が5回、0が5回とすると、バンチ3が10周回の間に受けた平均的な負のバリアー電圧値(正のバリアー電圧値)は−0.5kV(0.5kV)となる。このようにして、オンオフ選択器13eが負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bをデジタル制御することが可能である。
【0103】
例えば、等価的なバリアー電圧値パターンとは、1秒間に負のバリアー電圧値9c(正のバリアー電圧値9d)を0Vから−1kV(1kV)まで変化させ、0.1秒間隔で制御する場合、等価的なバリアー電圧値パターンは、加速開始から0.1秒間は0kV、0.1〜0.2秒間は−0.1kV(0.1kV)、0.2〜0.3秒間は−0.2kV(0.2kV)・・・0.9〜1.0秒間は−1.0kV(1.0kV)とする等のデーターテーブルである。
【0104】
また、ある時間に必要な負のバリアー電圧値9c、または正のバリアー電圧値9dは、バンチ3の周回毎に、リアルタイムで計算することも可能である。ある時間に必要な負のバリアー電圧値9c、または正のバリアー電圧値9dをリアルタイムで計算する場合は、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1を構成する偏向電磁石13hからその時の磁場強度をビーム偏向磁場強度シグナル13iとして受け取り、予め計算する場合と同様な演算式により計算すればよい。
【0105】
上述のようにして与えられた加速中のある時間に必要な負のバリアー電圧値9c、または正のバリアー電圧値9dを基にして決定された、ゲート親信号8cの発生を制御するパルス13fをゲート親信号出力器13gに出力する。
【0106】
ゲート親信号出力器13gは、デジタル信号処理装置8dを通過した可変遅延時間13とバリアー電圧9のオンオフの両方の情報を含んだパルス13fをパターン生成器8bに伝達するためのパルス、すなわちゲート親信号8cを発生させる装置である。
【0107】
ゲート親信号出力器13gから出力されるゲート親信号8cであるパルスの立ち上がりが、バリアー電圧9の発生タイミングとして用いられる。また、ゲート親信号出力器13gは、オンオフ選択器13eから出力されるパルス13fを、パターン生成器8bに伝送する媒体あるいはケーブルの種類によって、適切なパルス強度を持つ電圧型、電流型、光型などに変換する役割を持っている。
【0108】
ゲート親信号8cは、通過シグナル7aと同様に、バンチ3の通過と負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bの発生タイミングを合わせるための可変遅延時間13を経過した瞬間にゲート親信号出力器13gから出力される矩形の電圧パルスである。パターン生成器8bはゲート親信号8cであるパルスの立ち上がりを認識することで動作を開始する。
【0109】
上述のようにしてなるデジタル信号処理装置8dは、バンチ3が周回する設計軌道2にあるバンチモニター7からの通過シグナル7aを基に、スイッチング電源5bの駆動を制御するゲート信号パターン8aの基となるゲート親信号8cをパターン生成器8bに出力する。つまりデジタル信号処理装置8dが誘導電圧のオン及びオフを制御しているといえる。
【0110】
リアルタイムで可変遅延時間13、必要な負のバリアー電圧値9c、または正のバリアー電圧値9dを計算することにより、何ら設定を変更することなく、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1の磁場励磁パターンに対応して、バンチ3の周回周波数に同期した負のバリアー電圧9a、または正のバリアー電圧9bを印加することが可能となる。
【0111】
また、可変遅延時間13を予め計算する場合には、可変遅延時間計算機13aの中の理想的な可変遅延時間パターン(図7)に対応する必要な可変遅延時間パターン(図7)、オンオフ選択器13eの中の等価的な加速電圧値パターンを、選択した荷電粒子、磁場励磁パターンに則した計算結果に書き換えるだけで、バンチ3の通過とバリアー電圧9の発生タイミングを常に合わせることができる。よって、任意の荷電粒子を任意のエネルギーレベルまで加速することが可能となる。
【0112】
以下、本発明であるシンクロトロン振動周波数制御装置5を用いて、シンクロトロン振動周波数の制御方法について説明する。
【0113】
図4はシミュレーション用のゲート信号パターンである。従来、閉込用誘導加速セルで印加させるバリアー電圧9は、荷電粒子の進行軸方向3aへの拡散防止のため、バンチ3の周回ごとに印加しなければならないと考えられていた。
【0114】
しかし、荷電粒子の閉じ込めの様子をシミュレーションする間に、間欠的にバリアー電圧9を印加しても、一定以上の回数のバリアー電圧9を確保すれば、一定時間バンチ3が拡散することなく閉じ込めることが可能であることが見出された。
【0115】
そこで、バンチ3が設計軌道2を100周回する間に、バリアー電圧9の印加する時間帯を変更した3種類のゲート信号パターン8aの中止パターン14を用いて、バンチ3の中の荷電粒子の周回周波数をシミュレーションを用いて解析した。なお、ここで示す3種類のゲート信号パターン8aの中止パターン14は、本発明の実施の一例である。その解析結果を図5に示す。
【0116】
図4の横軸(T)は、バンチ3の周回数3jである。縦軸のOnは、バリアー電圧9の発生を意味し、offは、バリアー電圧9の中止を意味する。
【0117】
ケース(1)14aは、バンチ3の周回数3j1−70周、及び81−90周まで毎回バリアー電圧9を印加し、バンチ3の周回数3j71−80周、及び91−100周までバリアー電圧9の発生を中止する。
【0118】
ケース(2)14bは、バンチ3の周回数3j1−80周まで毎回バリアー電圧9を印加し、バンチ3の周回数3j81−100周までバリアー電圧9の発生を中止する。
【0119】
ケース(3)14cは、バンチ3の周回数3j1−40周、及び51−90周まで毎回バリアー電圧9を印加し、バンチ3の周回数3j41−50周、及び91−100周までバリアー電圧9の発生を中止する。
【0120】
従って3種類のゲート信号パターン8aの中止パターン14は、バリアー電圧9の総印加回数(80回)は同一であるが、印加する位置(周回数)が異なる。すなわち、異なるパターンのバリアー電圧9を間欠的にバンチ3に印加することを意味する。
【0121】
図5は図3のシミュレーション解析結果である。図5のグラフは、シンクロトロン振動周波数スペクトラム15である。
【0122】
横軸は周波数(Hz)であり、縦軸は荷電粒子の分布を意味する。ケース(1)14a、ケース(2)14b、ケース(3)14cは、図3の3種類のゲート信号パターン8aに対応する。
【0123】
バンチ3を構成する荷電粒子は、全て同一のシンクロトロン振動周波数をもって存在しているのではなく、一定のシンクロトロン振動周波数範囲をもった集団として存在する。
【0124】
よって、バンチ3に存在する最も多いシンクロトロン振動周波数の荷電粒子が、バンチ3のシンクロトロン振動周波数と近似した性質を示す。
【0125】
そこで、荷電粒子の分布を比較することで、すなわち、バンチ3に存在する最も多いシンクロトロン振動周波数を比較することで、ゲート信号パターン8aの違いによるバンチ3のシンクロトロン振動周波数の変化との関係を確認することができる。
【0126】
ケース(1)14aのメディアンは350Hz、ケース(2)14bのメディアンは285Hz、ケース(3)14cのメディアンは310Hz付近である。
【0127】
この結果から、ゲート信号パターン8a、すなわちバリアー電圧9の発生タイミングを調整することで、シンクロトロン振動周波数を285Hzから350Hzまで制御することが可能であるといえる。
【0128】
したがって、外乱の周波数と共鳴しないように、シンクロトロン振動周波数を変更する制御ができることを意味する。よって、誘導加速セル6をシンクロトロンに組み込むだけで、外乱に起因するビームロスを削減することができ、環境の放射化を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明を含む誘導加速セルを用いたシンクロトロンの概略図である。
【図2】シンクロトロン振動周波数制御装置の等価回路である。
【図3】デジタル信号処理装置の構成図である。
【図4】シミュレーション用のゲート信号パターンである。
【図5】図3のシミュレーション解析結果である。
【図6】高周波加速空洞による荷電粒子の加速原理を示す図である。
【図7】誘導電圧による荷電粒子の加速原理を示す図である。
【図8】高周波によるシンクロトロン振動を説明する図である。
【符号の説明】
【0130】
1 シンクロトロン
2 設計軌道
3 バンチ
3a 進行軸方向
3c バンチ中心
3d バンチ頭部
3e バンチ尾部
3f 中心加速電圧
3g 頭部加速電圧
3h 尾部加速電圧
3i シンクロトロン振動
3j 周回数
4 高周波加速空洞
4a 高周波
4b 高周波加速電圧
4c 高周波加速電圧値
4d 加速領域
4e 振幅増加
4f 高周波
4g 位相移動
4h 高周波
4i 減速電圧
4j 増加分
5 シンクロトロン振動周波数制御装置
5a 伝送線
5b スイッチング電源
5c DC充電器
5d 誘導電圧モニター
5e 誘導電圧シグナル
6 誘導加速セル
6a 加速ギャップ
7 バンチモニター
7a 通過シグナル
8 インテリジェント制御装置
8a ゲート信号パターン
8b パターン生成器
8c ゲート親信号
8d デジタル信号処理装置
9 バリアー電圧
9a 負のバリアー電圧
9b 正のバリアー電圧
9c 負のバリアー電圧値
9d 正のバリアー電圧値
10 シンクロトロン振動周波数制御装置の等価回路
11 バンクコンデンサー
11a 第1スイッチ
11b 第2スイッチ
11c 第3スイッチ
11d 第4スイッチ
12 マッチング抵抗
13 可変遅延時間
13a 可変遅延時間計算機
13b 可変遅延時間シグナル
13c 可変遅延時間発生器
13d パルス
13e オンオフ選択器
13f パルス
13g ゲート親信号出力器
13h 偏向電磁石
13i ビーム偏向磁場強度シグナル
14 中止パターン
14a ケース(1)
14b ケース(2)
14c ケース(3)
15 シンクロトロン振動周波数スペクトラム
16 高周波シンクロトロン
16a 振幅変動装置
17 加速用の誘導電圧
17a 加速電圧
17b リセット電圧
17c 印加時間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンクロトロンにおいて、バンチにバリアー電圧を印加する誘導加速セルと、前記誘導加速セルを駆動するスイッチング電源、及び前記スイッチング電源のオン及びオフを制御するゲート信号パターンを生成するパターン生成器、前記ゲート信号パターンの基になるゲート親信号のオン及びオフを制御するデジタル信号処理装置からなるインテリジェント制御装置より構成されることを特徴とするシンクロトロン振動周波数制御装置。
【請求項2】
シンクロトロンにおいて、誘導加速セルによって、バンチに間欠的にバリアー電圧を印加することを特徴とするシンクロトロン振動周波数の制御方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−18757(P2007−18757A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196258(P2005−196258)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】