説明

シンチレータ、放射線検出器、及びシンチレータの製造方法

【課題】容易に製造でき、且つ良好な位置分解能を実現できるシンチレータ、放射線検出器、及びシンチレータの製造方法を提供する。
【解決手段】シンチレータは、複数の光遮断面20を備えている。複数の光遮断面20は、第1の方向に沿って互いに間隔をあけて形成された複数の改質ライン22を有している。複数の改質ライン22は、結晶塊10の内部にレーザ光Lを照射することにより形成された複数の改質領域23からなる。複数の改質領域23は、第1の方向及び該第1の方向と交差する第2の方向に互いに重なり合うように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ、放射線検出器、及びシンチレータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3には、容易に製造でき、且つ高い位置分解能を実現できるシンチレータ、放射線検出器、及びシンチレータの製造方法が開示されている。特許文献1に記載された放射線検出器は、複数の改質領域を含むシンチレータと、シンチレータの表面と光学的に結合された複数の光検出器とを備える。複数の改質領域は、シンチレータとなる結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成される。
【0003】
特許文献2に記載されたシンチレータは、放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備える。結晶塊の内部には、複数の改質領域が形成されている。複数の改質領域は、所定の方向を長手方向とする細長形状を各々呈しており、結晶塊における該長手方向と交差する二次元方向に互いに間隔をあけて配置されている。
【0004】
特許文献3に記載されたシンチレータは、複数の散乱領域を有する。各散乱領域は、結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成され、結晶塊の内部において或る軸線と平行な2以上の面方向に沿って各々延在し互いに交差する2つ以上のクラックからなる。
【0005】
特許文献4には、レーザ技術を用いて検知器又は光ガイドを作成する方法が開示されている。特許文献4に記載された方法は、レーザ技術を用いてターゲット媒体内にマイクロボイドを形成することによりターゲット媒体を光学的に分断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−270971号公報
【特許文献2】特開2010−139375号公報
【特許文献3】特開2010−139383号公報
【特許文献4】特表2007−525652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PET装置(Positron Emission Tomography)には、例えば、図23に示される放射線検出器100が用いられている。この放射線検出器100は、複数のシンチレータセル111の間に反射材112を配置して形成されたシンチレータ110と、該シンチレータ110の端面110aに光学的に結合された光検出器120とを備えている。このような構造を有する放射線検出器100において、位置分解能を向上させるためには、個々のシンチレータセル111を小さくする必要がある。しかし、機械的な加工によりシンチレータセル111を製造するときには、加工可能なシンチレータセル111の大きさに限界がある。さらに、複数の小さいシンチレータセル111を組み立てる工程は、多くの時間を要し、製造コストが増加する。
【0008】
本発明は、上述した問題点を鑑みてなされたものであり、容易に製造でき、且つ良好な位置分解能特性を実現できるシンチレータ、放射線検出器、及びシンチレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明によるシンチレータは、放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備え、該結晶塊の表面と光学的に結合される光検出器又は位置検出型光検出器にシンチレーション光を提供するシンチレータであって、複数の光遮断面を備え、該複数の光遮断面のそれぞれは、当該光遮断面に沿った第1の方向に互いに間隔をあけて形成された複数の改質ラインを有し、複数の改質ラインは、結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成された複数の改質領域からなり、複数の改質領域は、各改質ラインにおいて第1の方向及び第1の方向と交差する第2の方向に互いに重なり合うように形成されていることを特徴とする。
【0010】
上述したシンチレータは、複数の光遮断面を備えている。このような構成により、シンチレータは、複数のシンチレータセルに分離される。複数の光遮断面のそれぞれは複数の改質ラインを有し、複数の改質ラインは、結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成された複数の改質領域からなる。従って、複数のシンチレータセルを作成するためにシンチレータを機械的に加工し、或いは複数のシンチレータセルを組み立てる必要がないので、上述したシンチレータによれば、複数のシンチレータセルを容易に製造することができる。また、上述したシンチレータでは、複数の改質領域が互いに重なり合うように形成されているので、複数の改質領域が互いに離れて形成される場合と比較して、複数の改質領域を密に形成することが可能になる。これにより、各光遮断面においてシンチレーション光をより効果的に遮断することができる。従って、或るシンチレータセルにおいて発生したシンチレーション光が、隣接するシンチレータセルへ漏れ出ることを抑制できるので、良好な位置分解能を実現できる。
【0011】
また、上述したシンチレータにおいて、複数の光遮断面は、第2の方向に互いに隣り合う第1の光遮断領域と第2の光遮断領域とを含み、第1の光遮断領域及び第2の光遮断領域のそれぞれは、複数の改質ラインを含み、第1の光遮断領域は、第1の方向にレーザ光を進行させることにより形成され、第2の光遮断領域は、第1の方向とは逆の方向にレーザ光を進行させることにより形成されていてもよい。このような構成によれば、第1の光遮断領域に含まれる改質ラインと、第2の光遮断領域に含まれる改質ラインとを、シンチレータの深さ方向に連続させることができる。従って、各光遮断面においてシンチレーション光を更に確実に遮断することができ、より良好な位置分解能を実現できる。
【0012】
また、本発明による放射線検出器は、上述した何れかのシンチレータと、結晶塊の表面と光学的に結合された光検出器又は位置検出型光検出器とを備えることを特徴とする。この放射線検出器は上記シンチレータを備えるので、容易に製造でき、且つ高い位置分解能を実現できる。
【0013】
また、本発明によるシンチレータの製造方法は、放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備え、該結晶塊の表面と光学的に結合される光検出器又は位置検出型光検出器にシンチレーション光を提供するシンチレータを製造する方法であって、結晶塊の内部において、第1の方向に互いに間隔をあけて複数の改質ラインを形成することにより、該複数の改質ラインを各々有する複数の光遮断面を形成する光遮断面形成工程を含み、光遮断面形成工程は、結晶塊の内部にレーザ光を照射して複数の改質領域を形成することにより改質ラインを形成する改質ライン形成工程を含み、改質ライン形成工程において、複数の改質領域が第1の方向及び第1の方向と交差する第2の方向に互いに重なり合うように該複数の改質領域を形成することを特徴とする。
【0014】
上述したシンチレータの製造方法では、複数の光遮断面を結晶塊の内部に形成する。これにより、シンチレータは、複数のシンチレータセルに分離される。複数の光遮断面のそれぞれは、複数の改質ラインを形成することにより形成され、複数の改質ラインは、結晶塊の内部にレーザ光を照射して複数の改質領域を形成することにより形成される。従って、複数のシンチレータセルを作成するためにシンチレータを機械的に加工し、或いは複数のシンチレータセルを組み立てる必要がないので、上述したシンチレータの製造方法によれば、複数のシンチレータセルを容易に製造することができる。また、上述したシンチレータの製造方法では、複数の改質領域を互いに重なり合うように形成するので、複数の改質領域を互いに離して形成する場合と比較して、複数の改質領域を密に形成することが可能になる。これにより、各光遮断面においてシンチレーション光をより効果的に遮断することができる。従って、或るシンチレータセルにおいて発生したシンチレーション光が、隣接するシンチレータセルへ漏れ出ることを抑制できるので、良好な位置分解能を実現できる。
【0015】
また、上述したシンチレータの製造方法では、光遮断面形成工程において、複数の改質ラインをそれぞれ含む第1の光遮断領域と第2の光遮断領域とを第2の方向に互いに隣り合うように形成し、第1の光遮断領域を形成する際に、第1の方向にレーザ光を進行させることにより複数の改質ラインを形成し、第2の光遮断領域を形成する際に、第1の方向とは逆の方向にレーザ光を進行させることにより複数の改質ラインを形成してもよい。このような製造方法によれば、第1の光遮断領域に含まれる改質ラインと、第2の光遮断領域に含まれる改質ラインとを、シンチレータの深さ方向に連続させることができる。従って、各光遮断面においてシンチレーション光を更に確実に遮断することができ、より良好な位置分解能を実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、容易に製造でき、且つ良好な位置分解能を実現できるシンチレータ、放射線検出器、及びシンチレータの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係るシンチレータの概観を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るシンチレータの光遮断面を説明するための図である。
【図3】第1実施形態に係るシンチレータを製造するための製造装置を説明するための図である。
【図4】第1実施形態に係るシンチレータを製造する工程を説明するためのフローチャートである。
【図5】第1実施形態に係るシンチレータを製造するための一工程を説明するための図である。
【図6】第1実施形態に係るシンチレータを製造するための一工程を説明するための図である。
【図7】第1実施形態に係るシンチレータを製造するための一工程を説明するための図である。
【図8】第1実施形態に係るシンチレータを製造するための一工程を詳細に説明するための図である。
【図9】第2実施形態に係るシンチレータを製造する工程を説明するためのフローチャートである。
【図10】第2実施形態に係るシンチレータを製造するための一工程を説明するための図である。
【図11】第2実施形態に係るシンチレータを製造するための一工程を説明するための図である。
【図12】(a)〜(c)は第2実施形態に係るシンチレータを製造する一工程を詳細に説明するための図である。
【図13】第1実施例に係る改質ラインを形成した様子を示す断面写真である。
【図14】(a)は第2実施例に係る光遮断面を形成した様子を示す断面写真であり、(b)は光遮断面を形成したシンチレータの位置分解能を評価するための写真である。
【図15】(a)は第3実施例に係る光遮断面を形成した様子を示す断面写真であり、(b)は光遮断面を形成したシンチレータの位置分解能を評価するための写真である。
【図16】(a)は第4実施例に係る光遮断面を形成した様子を示す断面写真であり、(b)は光遮断面を形成したシンチレータの位置分解能を評価するための写真である。
【図17】(a)は第5実施例に係る光遮断面を形成した様子を示す断面写真であり、(b)は光遮断面を形成したシンチレータの位置分解能を評価するための写真である。
【図18】(a)は第6実施例に係る光遮断面を形成した様子を示す断面写真であり、(b)は光遮断面を形成したシンチレータの位置分解能を評価するための写真である。
【図19】第7実施例に係る光遮断面を形成した様子を示す断面写真である。
【図20】(a)は第7実施例に係る光遮断面を形成した二次元シンチレータの写真であり、(b)は光遮断面を形成した二次元シンチレータの位置分解能を評価するための写真である。
【図21】(a)は第7実施例に係る光遮断面を形成した三次元シンチレータの写真であり、(b)は光遮断面を形成した三次元シンチレータの位置分解能を評価するための写真である。
【図22】三次元シンチレータと光検出器との配置を説明するための斜視図である。
【図23】従来の放射線検出器の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるシンチレータ、放射線検出器、及びシンチレータの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
本実施形態に係るシンチレータ、放射線検出器、及びシンチレータの製造方法の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る放射線検出器1の概観を示す斜視図である。本実施形態に係る放射線検出器1は、シンチレータ2のほか、シンチレータ2の端面10aと光学的に結合される複数の光検出器3を有している。
【0020】
シンチレータ2は、光検出器3にシンチレーション光を提供するための部材である。シンチレータ2は、ガンマ線などの放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊10により構成されている。この結晶塊10は、略直方体状の外形形状を有している。シンチレータ2は、結晶塊10に入射した放射線を吸収し、その線量に応じた強さのシンチレーション光を発生する。結晶塊10は、例えばBiGe12(BGO)、CeがドープされたLuSiO(LSO)、Lu2(1−X)2XSiO(LYSO)、GdSiO(GSO)、PrがドープされたLuAG(LuAl12)などのいずれかの結晶によって好適に構成される。
【0021】
複数の光検出器3は、例えば、光電子増倍管やアバランシェフォトダイオード(APD:Avalance Photo Diode)、あるいはMPPC(Multi‐Pixel Photon Counter)といった半導体光検出器により好適に構成される。また、複数の光検出器3は、位置検出型光検出器により構成されてもよい。なお、MPPCは、複数のガイガーモードAPDのピクセルから成るフォトンカウンティングデバイスである。本実施形態の放射線検出器1は、16個の光検出器3を備えており、結晶塊10の端面10aに取付けられている。これにより、16個の光検出器3は結晶塊10の端面10aと光学的に結合されている。より具体的には、結晶塊10の端面10aに取付けられた16個の光検出器3は、端面10aを縦4列、横4列の合計16箇所の正方形領域に分割したそれぞれの領域に配置され、一つの二次元半導体光検出器アレイを構成している。結晶塊10の内部において発生したシンチレーション光は、その発生位置に応じて各光検出器3へ配分され、各光検出器3からの出力比に基づいて、シンチレーション光の発生位置が特定される。
【0022】
ここで、本実施形態に係るシンチレータ2について詳細に説明する。図1に示されるように、シンチレータ2は、複数の光遮断面20と、複数の光検出器3が光学的に結合されている端面10aと、端面10aの反対側にある端面10bとを備えている。光遮断面20は、端面10b側から見て格子状に形成されている。シンチレータ2は、複数の光遮断面20により複数のシンチレータセル30に分離されている。なお、理解を容易にするため、図1及び図2には、XYZ直交座標系が示されている。本実施形態において、Z軸方向はシンチレータ2の深さ方向(第2の方向)であり、X軸方向及びY軸方向はシンチレータ2の深さ方向と直交する方向(第1の方向)である。
【0023】
図2は、シンチレータ2におけるXZ平面に平行な面で光遮断面20を切断した断面の一部を拡大した図である。図2に示されるように、光遮断面20は、複数の光遮断領域21から構成されている。各光遮断領域21は、シンチレータ2の深さ方向(Z軸方向)と直交する方向(X軸方向又はY軸方向)に延びるように形成されている。光遮断領域21を形成するとき、レーザ光は端面10bからシンチレータ2の深さ方向(Z軸方向)に沿って照射され、深さ方向(Z軸方向)と直交する方向(X軸方向又はY軸方向)に進行(スキャン)される。すなわち、光遮断領域21は、レーザ光の進行方向(X軸方向又はY軸方向)に延びるように形成されている。また、複数の光遮断領域21のそれぞれは、端面10bからの距離が互いに異なるように形成されており、深さ方向(Z軸方向)に互いに隣り合っている。
【0024】
複数の光遮断領域21のそれぞれは、複数の改質ライン22を含んでいる。これらの改質ライン22は、レーザ光の進行方向(X軸方向又はY軸方向)に互いに間隔をあけて形成されている。なお、一の改質ライン22の端部は、該改質ライン22と隣り合う他の改質ライン22の端部と連結されていてもよい。
【0025】
複数の改質ライン22のそれぞれは、複数の改質領域23によって構成されている。これらの改質領域23は、例えば、屈折率が周囲と異なる領域、光を散乱する領域、および回折型レンズを構成する領域のうち少なくとも一つの領域からなる。改質領域23は、シンチレータ2の深さ方向(Z軸方向)に互いに重なり合うように形成されている。さらに、改質領域23は、シンチレータ2の深さ方向(Z軸方向)と直交する方向(X軸方向又はY軸方向)に互いに重なり合うように形成されている。すなわち、シンチレータ2の深さ方向(Z軸方向)に対して直交する方向(X軸方向又はY軸方向)に進むに従って、改質領域23はシンチレータ2の端面10bに近づくように形成されている。なお、一の光遮断領域21の改質ライン22と、該光遮断領域21と隣り合う他の光遮断領域21の改質ライン22とは、シンチレータ2の深さ方向(Z軸方向)に対して傾く方向が互いに逆になるように形成されていてもよい。すなわち、一の光遮断領域21ではX軸の正方向に進むに従って端面10bに近づくように改質ライン22が形成され、該光遮断領域21と隣り合う他の光遮断領域21ではX軸の負方向に進むに従って端面10bに近づくように改質ライン22が形成されていてもよい。
【0026】
上述した光遮断面20は、以下に説明する方法により形成される。図3は、複数の光遮断面20を含むシンチレータ2を製造する一工程を説明するための図であり、この工程に使用されるレーザ加工装置200の構成を示している。
【0027】
レーザ加工装置200は、レーザ光Lを発生するレーザ光源201と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源201を制御するレーザ光源制御部202と、レーザ光Lの光路上に設けられたシャッタ203と、レーザ光Lの反射機能を有し且つレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー204と、ダイクロイックミラー204で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ205と、集光用レンズ205で集光されたレーザ光Lが照射される結晶塊10が載置される載置台207と、載置台207をX軸方向に移動させるためのX軸ステージ209と、載置台207をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ211と、載置台207をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ213と、これら3つのステージ209,211,213の移動を制御するステージ制御部215とを備える。
【0028】
なお、Z軸方向は、結晶塊10に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。したがって、Z軸ステージ213をZ軸方向に移動させることにより、結晶塊10の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また、この集光点PのX軸方向、Y軸方向への各移動は、結晶塊10をX軸ステージ209、Y軸ステージ211によりX軸方向、Y軸方向に移動させることによりそれぞれ行う。
【0029】
レーザ光源201はパルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザである。レーザ光源201に用いることができるレーザとして、この他、Yb:YAGレーザ、Yb:KGWレーザ、Nd:YVOレーザ、Nd:YLFレーザやチタンサファイアレーザがある。なお、結晶塊10の加工にはパルスレーザ光が好適である。
【0030】
パルスレーザ光としてはナノ秒パルスレーザ光等が挙げられる。ナノ秒のレーザパルスは、複数の改質領域23からなる改質ライン22を好適に形成できる。また、レーザ光をダブルパルス照射して改質領域を形成することもできる。
【0031】
レーザ加工装置200はさらに、載置台207に載置された結晶塊10を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源217と、ダイクロイックミラー204及び集光用レンズ205と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ219とを備える。ビームスプリッタ219と集光用レンズ205との間にダイクロイックミラー204が配置されている。ビームスプリッタ219は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源217から発生した可視光線はビームスプリッタ219で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー204及び集光用レンズ205を透過し、結晶塊10の被加工部位を照明する。
【0032】
レーザ加工装置200はさらに、ビームスプリッタ219、ダイクロイックミラー204及び集光用レンズ205と同じ光軸上に配置されたCCDカメラ221及び結像レンズ223を備える。被加工部位を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ205、ダイクロイックミラー204、ビームスプリッタ219を透過し、結像レンズ223で結像されてCCDカメラ221で撮像され、撮像データとなる。
【0033】
レーザ加工装置200はさらに、CCDカメラ221から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部225と、レーザ加工装置200全体を制御する全体制御部227と、モニタ229とを備える。撮像データ処理部225は、撮像データを基にして観察用光源217で発生した可視光の焦点を結晶塊10上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部215がZ軸ステージ213を移動制御することにより、可視光の焦点が結晶塊10に合うようにする。よって、撮像データ処理部225はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部225は、撮像データを基にして結晶塊10の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部227に送られ、全体制御部227で各種処理がなされ、モニタ229に送られる。これにより、モニタ229に拡大画像等が表示される。
【0034】
全体制御部227には、ステージ制御部215からのデータ、撮像データ処理部225からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部202、シャッタ203、観察用光源217及びステージ制御部215を制御することにより、レーザ加工装置200全体を制御する。よって、全体制御部227はコンピュータユニットとして機能する。
【0035】
レーザ加工装置200はさらに、集光用レンズ205に接続されたレンズ駆動部230を備える。レンズ駆動部230は、ピエゾ素子231とのこぎり波発生装置232とを含んでいる。のこぎり波発生装置232から所定の振幅と周波数とに設定された電圧がピエゾ素子231に印加される。ピエゾ素子231は、印加された電圧の振幅と周波数とに基づいて、集光用レンズ205をレーザ光Lの照射方向(Z軸方向)に駆動する。
【0036】
続いて、本実施形態に係るシンチレータ2の製造方法について説明する。図4は、上述したレーザ加工装置200を用いてシンチレータ2の結晶塊10を製造する方法を示すフローチャートである。
【0037】
まず、結晶塊10をレーザ加工装置200の載置台207上に載置する。そして、観察用光源217から可視光を発生させて結晶塊10を照明する。照明された結晶塊10の表面(例えば端面10b)をCCDカメラ221により撮像する。CCDカメラ221により撮像された撮像データは、撮像データ処理部225に送られる。この撮像データに基づいて、撮像データ処理部225は観察用光源217の可視光の焦点が結晶塊10の表面に位置するような焦点データを演算する。この焦点データは、ステージ制御部215に送られる。ステージ制御部215は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ213をZ軸方向に移動させる。これにより、観察用光源217の可視光の焦点が結晶塊10の表面に位置する(S101)。なお、撮像データ処理部225は、撮像データに基づいて結晶塊10の表面の拡大画像データを演算する。この拡大画像データは全体制御部227を介してモニタ229に送られ、これによりモニタ229に結晶塊10の表面の拡大画像が表示される。
【0038】
次に、改質予定点が結晶塊10の内部に設定される。この改質予定点は、複数の改質領域23を形成するためのレーザ光Lの集光点Pの目標位置となる点である。図5に示されるように、改質予定点24は、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)に沿って所定のピッチで設定されている。このピッチは、改質予定点24に改質領域23を形成したときに、隣り合う改質領域23が互いに重なり合うような距離に設定されている。この間隔をX軸方向の加工ピッチという。また、改質予定点24は、初期位置からレーザ光Lの照射面(端面10b)側に向かう方向に沿って所定のピッチで設定されている。このピッチは、改質予定点24に改質領域23を形成したときに、隣り合う改質領域23が互いに重なり合うような距離に設定されている。この間隔をZ軸方向の加工ピッチという。すなわち、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)に進むに従って、改質予定点24はレーザ光Lの照射面(端面10b)に近づくように設定されている。
【0039】
レーザ光Lの移動速度と、レーザのパルス幅と、集光用レンズ205を駆動させる周波数及び振幅とを所定の値に設定することにより、先に設定した改質予定点24の位置にレーザ光Lを照射して改質領域23を形成することができる。第1実施形態に係るシンチレータ2の製造方法の条件は、例えば、以下の通りである。
・レーザ光源…Nd:YAGレーザ 2次高調波
・レーザ波長…532[nm]
・レーザ周波数…10[kHz]
・レーザパルス幅…10[nsec]
・集光エネルギー…40〜90[μJ]
・スキャン速度…50[mm/sec]
・のこぎり波の周波数…500[Hz]
・ピエゾ素子の移動量…130[μm]
【0040】
続いて、図6に示されるように、結晶塊10の内部に改質領域23を形成するためのレーザ光Lの集光点Pが、結晶塊10の内部における一つの改質領域23の加工初期位置となるよう、X軸ステージ209、Y軸ステージ211及びZ軸ステージ213により結晶塊10を移動させる(S103)。この状態でシャッタ203を開いてレーザ光Lを照射し、改質予定点24におけるシンチレータ材料を改質(アモルファス化、または微小な亀裂を発生)させることによって、結晶塊10の内部に改質領域23を形成する。
【0041】
そして、X軸ステージ213により結晶塊10をX軸方向に一定速度で移動させると同時に、集光用レンズ205をレンズ駆動部230(図示せず)によりZ軸方向に所定の周波数と振幅とで駆動させる(S105)と、図7に示されるように、X軸方向を長手方向とする光遮断領域21が形成される(S107、改質ライン形成工程)。その後、レーザ光Lのシャッタ203を閉じる(S109)。
【0042】
この工程を図8を用いて詳細に説明する。集光用レンズ205が駆動されると、レーザ光Lの集光点Pの位置が変化する。すなわち、加工初期位置に改質領域23を形成したのち、所定時間が経過すると、レーザ光Lの集光点Pの位置は、X軸方向に所定距離R1だけ移動されると共に、端面10b側に距離D1だけ移動される。このときにレーザ光Lが照射されるため、該集光点Pの位置に改質領域23が形成される。
【0043】
続いて、他に形成すべき光遮断領域21があるときは、直前に形成した光遮断領域21よりも端面10b側に光遮断領域21を形成する(S111:YES)。レーザ光Lの集光点Pを当該改質領域23の加工初期位置となるよう、Z軸ステージ213により結晶塊10を移動させる(S113)。そして、直前に形成した光遮断領域21(第1の光遮断領域)の形成時におけるレーザ光Lの進行方向(第2の方向)とは逆の方向にレーザ光Lを進行させる。このとき、集光用レンズ205は、レンズ駆動部230により駆動される(S105)。これにより、X軸方向を長手方向とする光遮断領域21(第2の光遮断領域)が形成される(S107)。その後、レーザ光Lのシャッタ203を閉じる(S109)。以降、上述したステップS103ないしS113を繰り返すことによって、一の光遮断面20を形成することができる(光遮断面形成工程)。
【0044】
一の光遮断面20を構成する全ての光遮断領域21を形成し終えた後(S111:NO)、他に形成すべき光遮断面20があるときは、Y軸ステージにより結晶塊10をY軸方向へ所定距離だけ移動させ(S117)、上述したステップS103ないしS113を繰り返すことによって、XZ平面に沿う他の光遮断面20を形成する。なお、XY平面に沿う光遮断面20の全てを形成し終えると、次に、YZ平面に沿う光遮断面20を形成する。レーザ光Lの進行方向をY軸方向として、上述したステップS103ないしS117を繰り返すことによって、YZ平面に沿う複数の光遮断面20を形成する。このとき、レーザ光LはY軸方向に沿って進行(スキャン)される。そして、複数の光遮断面20の全てを形成し終えると(S117:No)、この工程を終了する。
【0045】
上述したように、レーザ光Lの集光によりその集光点Pで形成される改質領域23と、次のレーザ光Lの集光によりその集光点Pで形成される改質領域23とが、レーザ光Lのシンチレータ2に対する相対的なスキャン方向及びレーザスキャン方向に垂直で且つレーザ光Lの入射の方向(レーザ光Lの光軸方向)で互いに重なり合うようにレーザ光Lをシンチレータ2に対して相対的にスキャンし、これを繰り返すことで改質ライン22からなり、その改質ライン22に沿ってシンチレーション光を遮断する光遮断領域21を形成することが可能となる。
【0046】
次に、本実施形態に係るシンチレータ、放射線検出器及びシンチレータの製造方法の作用効果について説明する。本実施形態に係るシンチレータ2は、シンチレータ2を複数のシンチレータセル30に光学的に分離する光遮断面20を有している。この光遮断面20は複数の改質ライン22を含んで構成され、各改質ライン22の改質領域23は、シンチレータ2の内部にレーザ光Lを照射することにより形成される。従って、シンチレータを機械的に加工することにより複数のシンチレータセルを形成し、或いは複数のシンチレータセルを組み立てる必要がないので、本実施形態によるシンチレータ2は、容易に製造されることができる。
【0047】
また、シンチレータ内に光遮断面を構成する複数の改質領域が形成されると、微小な亀裂が発生するときがある。この亀裂が発生すると、内部応力が生じるため、シンチレータの強度が低下する。本実施形態によるシンチレータ2によれば、複数の改質領域23は、シンチレータ2の深さ方向(Z軸方向)及び該深さ方向と直交する方向(X軸方向又はY軸方向)に互いに重なり合うように形成されている。従って、微小な亀裂が発生して内部応力が生じても、改質領域23が重なり合っているため内部応力を緩和することが可能となる。従って、シンチレータ2の破損を抑制することができる。
【0048】
さらに、本実施形態に係るシンチレータ2によれば、上述したように改質領域23を形成することによりシンチレータ2の破損を抑制できる。そのため、複数の改質領域を互いに離して形成した場合と比較して、改質領域23を密に形成することが可能となる。これにより、光遮断面20においてシンチレーション光をより確実に遮断することができる。従って、一のシンチレータセル30において発生したシンチレーション光が、隣接するシンチレータセル30へ漏れ出ることを抑制できるので、更に良好な位置分解能を実現できる。
【0049】
また、本実施形態に係るシンチレータ2によれば、光遮断面20は複数の改質ライン22を含んで構成され、各改質ライン22の改質領域23は、シンチレータ2の内部にレーザ光Lを照射することにより形成される。これにより、シンチレータ2は複数のシンチレータセル30に分離される。これにより、本実施形態に係るシンチレータ2は、シンチレータを機械的に加工して複数のシンチレータセルを形成する場合と比較して、個々のシンチレータセル30を小さくすることが可能となるので、更に良好な位置分解能を実現できる。
【0050】
また、本実施形態では、第1の光遮断領域21を形成するときのレーザ光Lの進行方向と、該第1の光遮断領域21と隣り合う第2の光遮断領域21を形成するときのレーザ光Lの進行方向とは、互いに逆になっている。このようにして複数の光遮断領域21を形成することにより、第1の光遮断領域21に含まれる改質ライン22と、第2の光遮断領域21に含まれる改質ライン22とを、シンチレータ2の深さ方向に連続させることができる。これにより、内部応力をより効果的に緩和することが可能となるので、改質領域23を更に密に形成することが可能となる。従って、一のシンチレータセル30において発生したシンチレーション光が、隣り合うシンチレータセル30へ漏れ出ることをより確実に抑制できるので、更に良好な位置分解能を実現できる。
【0051】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るシンチレータの製造方法について説明する。なお、本実施形態に係るシンチレータ及び放射線検出器の構成は、上述した第1実施形態に係るシンチレータ2及び放射線検出器1の構成と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0052】
図9は、上述したレーザ加工装置200を用いてシンチレータ2の結晶塊10を製造する方法を示すフローチャートである。第1実施形態に係るシンチレータの製造方法では、ステップ105において、レーザ光Lのシャッタを開き、ステージをX軸方向又はY軸方向に一定速度で移動させると同時に、集光用レンズ205をZ軸方向に駆動させている。一方、本実施形態ではレーザ光Lのシャッタを開き、ステージをX軸方向又はY軸方向に一定速度で移動させる(S106)。すなわち、集光用レンズ205をZ軸方向に駆動させることなく、光遮断面20を形成する。
【0053】
まず、結晶塊10をレーザ加工装置200の載置台207上に載置する。そして、観察用光源217から可視光を発生させて結晶塊10を照明する。照明された結晶塊10の表面(例えば端面10b)をCCDカメラ221により撮像し、撮像データは撮像データ処理部225に送られる。この撮像データに基づいて、撮像データ処理部225は観察用光源217の可視光の焦点が結晶塊10の表面に位置するような焦点データを演算する。ステージ制御部215は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ213をZ軸方向に移動させる。これにより、観察用光源217の可視光の焦点が結晶塊10の表面に位置する(S101)。
【0054】
続いて、図10に示されるように、結晶塊10の内部に改質領域23を形成するためのレーザ光Lの集光点Pが、結晶塊10の内部における一つの改質領域23の加工初期位置となるよう、X軸ステージ209、Y軸ステージ211及びZ軸ステージ213により結晶塊10を移動させる(S103)。この状態でシャッタ203を開いてレーザ光Lを照射し、改質予定点24におけるシンチレータ材料を改質(アモルファス化、または微小な亀裂を発生)させることによって、結晶塊10の内部に改質領域23を形成する。そして、X軸ステージ213により結晶塊10をX軸方向に一定速度で移動させると(S106)、図11に示されるように、X軸方向を長手方向とする光遮断領域21が形成される(S107)。その後、レーザ光Lのシャッタ203を閉じる(S109)。
【0055】
集光点Pの位置を一定の深さに保ったままで改質領域23が形成される原理を、図12を用いて詳細に説明する。まず、図12(a)に示されるように、初期位置にレーザ光Lを照射し、改質領域23を形成する。これにより初期位置における改質領域23の近傍領域23aの加工閾値が低下する。次に、図12(b)に示されるように、初期位置における改質領域23に重なる位置に集光点Pを移動させ、レーザ光Lを照射する。既に形成された改質領域23においてレーザ光Lが散乱されるが、初期位置における改質領域23の近傍領域23aの加工閾値が低下しているため、集光点Pの上部で次の改質領域23が形成される。以下、この工程を繰り返すことでレーザ照射面側に向かうように連続した改質領域23を形成することができる。そして、図12(c)に示されるように、ある程度レーザ照射面側に改質領域23が形成されると、集光点Pの上部において改質領域23は形成されない。このときには、本来の集光用レンズ205の集光点P付近に改質領域23が形成される。
【0056】
続いて、他に形成すべき光遮断領域21があるときは、直前に形成した光遮断領域21よりも端面10b側に光遮断領域21を形成する(S111:YES)。レーザ光Lの集光点Pを当該改質領域23の加工初期位置となるよう、Z軸ステージ213により結晶塊10を移動させる(S113)。そして、直前に形成した光遮断領域21の形成時におけるレーザ光Lの進行方向と逆の方向にレーザ光Lを進行させる(S105)。これにより、X軸方向を長手方向とする光遮断領域21が形成される(S107)。その後、レーザ光Lのシャッタ203を閉じる(S109)。以降、上述したステップS103ないしS113を繰り返すことによって、一の光遮断面20を形成することができる。
【0057】
一の光遮断面20を構成する全ての光遮断領域21を形成し終えた後(S111:NO)、他に形成すべき光遮断面20があるときは、Y軸ステージにより結晶塊10をY軸方向へ所定距離だけ移動させ(S117)、上述したステップS103〜S111を繰り返すことによって、XZ平面に沿う他の光遮断面20を形成する。XY平面に沿う光遮断面20の全てを形成し終えると、次に、YZ平面に沿う光遮断面20を形成する。YZ平面に沿う光遮断面20は、レーザ光Lの進行方向をY軸方向として、上述したステップS103ないしS117を繰り返すことによって、YZ平面に沿う複数の光遮断面20を形成する。複数の光遮断面20の全てを形成し終えると(S117:No)、この工程を終了する。そして、第2実施形態に係るシンチレータの製造方法の条件は、例えば、以下の通りである。
・レーザ光源…Nd:YAGレーザ 2次高調波
・レーザ波長…523[nm]
・レーザ周波数…10[kHz]
・レーザパルス幅…10〜20nsec
・集光エネルギー…40〜90μJ
・スキャン速度…50[mm/sec]
【0058】
本実施形態のように、集光用レンズ205を駆動させずに光遮断面20を形成したシンチレータ2であっても、上述した第1実施形態に係るシンチレータ2の効果を好適に得ることができる。加えて、本実施形態に係るシンチレータの製造方法によれば、レンズ駆動部230を有しないレーザ加工装置200であっても、上述した光遮断面20を形成することができる。
【0059】
(第1実施例)
本発明者は、上述した第2実施形態に係るシンチレータの製造方法を用いてシンチレータ2を実際に作製した。図13は、図4に示したシンチレータの製造方法に従い、結晶塊10の内部に複数の改質ライン22を形成した様子を示す断面写真である。結晶塊10を構成する結晶は、LYSO結晶である。ここでは、シンチレータ2の深さ方向(Z軸方向)は一定とし、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)における加工ピッチをそれぞれ異なる4つの値に設定して、複数の改質ライン22を形成した。図13(a)は加工ピッチが50μmであり、図13(b)は加工ピッチが30μmであり、図13(c)は加工ピッチが15μmであり、図13(d)は加工ピッチが5μmである。加工ピッチが小さくなるほど、隣り合った改質領域23がレーザ光Lが照射された領域に影響を及ぼし、特に加工ピッチが5μmのときには斜め上方に延びる改質ライン22が形成されていることがわかった。
【0060】
(第2実施例)
図14(a)は、上述した第2実施形態に係るシンチレータの製造方法に従い、結晶塊10の内部に光遮断面20を形成した様子を示す断面写真である。ここでの加工ピッチは、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)が70μmであり、レーザ光Lの照射方向(Z軸方向)が30μmである。図14(b)は、図14(a)に示されるような光遮断面20を形成したシンチレータ2の位置分解能を示す写真である。図14(b)に示される写真は、シンチレータ2の端面10bを縦20列、横20列の領域に分離し、端面10aに位置検出型光電子増倍管を光学的に結合した放射線検出器1に対して、ガンマ線を端面10bに対して一様に照射して位置検出型光電子増倍管の出力を得ることにより得た。この図14(b)の写真に示すように、光点の間隔が広くなっている箇所が確認できる。この箇所には結晶の損傷が発生していると考えられる。結晶の損傷は、改質領域23を形成したときに生じた微小な亀裂に起因する内部応力が発生し、それぞれの改質領域23が重なり合って形成されていないために、該内部応力が緩和されず、結晶塊10に損傷が発生したと考えられる。
【0061】
(第3実施例)
図15(a)は、上述した第2実施形態に係るシンチレータの製造方法に従い、結晶塊10の内部に光遮断面20を形成した様子を示す断面写真である。ここでの加工ピッチは、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)が40μmであり、レーザ光Lの照射方向(Z軸方向)が30μmである。この図15(b)の写真に示すように、上述した第2実施例と同様に光点の間隔が広くなっている箇所が確認できる。従って、結晶塊10に損傷が発生していると考えられる。
【0062】
(第4実施例)
図16(a)は、上述した第2実施形態に係るシンチレータの製造方法に従い、結晶塊10の内部に光遮断面20を形成した様子を示す断面写真である。ここでの加工ピッチは、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)が70μmであり、レーザ光Lの照射方向(Z軸方向)が50μmである。この図16(b)の写真に示すように、光点は格子状に規則正しく配列されていないことがわかった。これは、光遮断面20において光を遮断する効果が低いためである。光遮断面20の効果が低い理由は、光遮断面20を構成する改質領域23が粗く形成されているためである。
【0063】
(第5実施例)
図17(a)は、上述した第2実施形態に係るシンチレータの製造方法に従い、結晶塊10の内部に光遮断面20を形成した様子を示す断面写真である。ここでの加工ピッチは、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)が40μmであり、レーザ光Lの照射方向(Z軸方向)が75μmである。この図17(b)の写真に示すように、光点はほぼ格子状に配置され、光点の間隔も略均一である。従って、第2実施例、第3実施例において確認されたような結晶塊10の内部の損傷は発生していないと考えられる。また、第4実施例において確認されたような光点の配置の歪も生じていないため、光遮断面20によるシンチレーション光の遮断も十分であると思われる。なお、図17(b)に示した光点の配列において、上から10行目のプロファイルの山と谷の比(Peak−to−Valley ratio)は2.4であった。
【0064】
(第6実施例)
図18(a)は、上述した第2実施形態に係るシンチレータの製造方法に従い、結晶塊10の内部に光遮断面20を形成した様子を示す断面写真である。ここでの加工ピッチは、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)が5μmであり、レーザ光Lの照射方向(Z軸方向)が75μmである。この図18(a)の断面写真に示すように、斜め上方に延びる改質ライン22が形成されていることがわかった。さらに、一の光遮断領域21を形成する改質ライン22の端部が、他の光遮断領域21を形成する改質ライン22の端部と連結されていることもわかった。また図18(b)の写真に示すように、複数の光点が規則正しく配列されており、良好な位置分解能特性を有していることがわかった。また、図18(b)に示した光点の配列において、上から10行目のプロファイルの山と谷の比(Peak−to−Valley ratio)は3.1である。これにより、上述した第5実施例によるシンチレータ2よりもより好適に光遮断面20はシンチレーション光を遮断できていることがわかった。従って、本実施例の加工ピッチの条件によれば、良好な位置分解能を実現できるシンチレータ2を製造できることがわかった。
【0065】
(第7実施例)
図19は、上述した第2実施形態に係るシンチレータの製造方法に従い、結晶塊10の内部に光遮断面20を形成した様子を示す断面写真である。結晶塊10を構成する結晶は、LYSO結晶である。ここでの加工ピッチは、レーザ光Lの進行方向(X軸方向又はY軸方向)が5μmであり、レーザ光Lの照射方向(Z軸方向)が75μmである。この図19の断面写真に示すように、斜め上方に延びる改質ライン22が好適に形成されていることがわかった。さらに、一の光遮断領域21を形成する改質ライン22の端部が、他の光遮断領域21を形成する改質ライン22の端部と連結されていることもわかった。
【0066】
図19に示されるような光遮断面20が形成された二次元シンチレータ51を作製した。図20(a)は、作成された二次元シンチレータ51の概観を示す写真である。図20(b)に示される写真は、二次元シンチレータ51の端面に位置検出型光電子増倍管を光学的に結合してシンチレーション光を読み出した様子を示す写真である。
【0067】
また、図19に示されるような光遮断面20が形成された三次元シンチレータ61を作製した。図21(a)は、作成された三次元シンチレータ61の概観を示す写真である。図21(b)は、図22に示される放射線検出器60のように、三次元シンチレータ61のそれぞれの端面に複数のMPPC62を光学的に結合してシンチレーション光を読み出した様子を示す写真である。
【符号の説明】
【0068】
1…放射線検出器、2…シンチレータ、3…光検出器、10…結晶塊、10a,10b…端面、20…光遮断面、21…光遮断領域、22…改質ライン、23…改質領域、L…レーザ光、P…集光点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備え、該結晶塊の表面と光学的に結合される光検出器又は位置検出型光検出器に前記シンチレーション光を提供するシンチレータであって、
複数の光遮断面を備え、該複数の光遮断面のそれぞれは、当該光遮断面に沿った第1の方向に互いに間隔をあけて形成された複数の改質ラインを有し、
前記複数の改質ラインは、前記結晶塊の内部にレーザ光を照射することにより形成された複数の改質領域からなり、
前記複数の改質領域は、各改質ラインにおいて前記第1の方向及び前記第1の方向と交差する第2の方向に互いに重なり合うように形成されていることを特徴とする、シンチレータ。
【請求項2】
前記複数の光遮断面は、前記第2の方向に互いに隣り合う第1の光遮断領域と第2の光遮断領域とを含み、
前記第1の光遮断領域及び前記第2の光遮断領域のそれぞれは、前記複数の改質ラインを含み、
前記第1の光遮断領域は、前記第1の方向に前記レーザ光を進行させることにより形成され、
前記第2の光遮断領域は、前記第1の方向とは逆の方向に前記レーザ光を進行させることにより形成されたことを特徴とする、請求項1に記載のシンチレータ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシンチレータと、
前記結晶塊の表面と光学的に結合された光検出器又は位置検出型光検出器とを備えることを特徴とする、放射線検出器。
【請求項4】
放射線の入射によりシンチレーション光を発生する結晶塊を備え、該結晶塊の表面と光学的に結合される光検出器又は位置検出型光検出器に前記シンチレーション光を提供するシンチレータを製造する方法であって、
前記結晶塊の内部において、第1の方向に互いに間隔をあけて複数の改質ラインを形成することにより、該複数の改質ラインを各々有する複数の光遮断面を形成する光遮断面形成工程を含み、
前記光遮断面形成工程は、前記結晶塊の内部にレーザ光を照射して複数の改質領域を形成することにより前記改質ラインを形成する改質ライン形成工程を含み、
前記改質ライン形成工程において、前記複数の改質領域が前記第1の方向及び前記第1の方向と交差する第2の方向に互いに重なり合うように該複数の改質領域を形成することを特徴とする、シンチレータの製造方法。
【請求項5】
前記光遮断面形成工程において、前記複数の改質ラインをそれぞれ含む第1の光遮断領域と第2の光遮断領域とを前記第2の方向に互いに隣り合うように形成し、
前記第1の光遮断領域を形成する際に、前記第1の方向に前記レーザ光を進行させることにより前記複数の改質ラインを形成し、
前記第2の光遮断領域を形成する際に、前記第1の方向とは逆の方向に前記レーザ光を進行させることにより前記複数の改質ラインを形成することを特徴とする、請求項4に記載のシンチレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図23】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−163368(P2012−163368A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22003(P2011−22003)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】