説明

シートのクッション構造

【課題】構造が簡単でコスト低減を図ることができるシートのクッション構造を提供する。
【解決手段】パッド材20と、このパッド材20の表面側を被覆する表皮30とを備える。パッド材20は、水切り性を有する熱可塑性樹脂材からなる立体網状材120によって形成される。表皮30は、通気性を有するシート材130によって形成される。立体網状材120とシート材130とが成形型内で成形されることでパッド材20と表皮30とが所望とする形状に形成され、これと同時に一体状に溶融接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車、オートバイ、フォークリフト等の車両用シートとして用いられるシートのクッション構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートに採用されるシートのクッション構造は、パッド材と、このパッド材の表面側を被覆する表皮とを備えて構成されたものが知られている。
このようなシートのクッション構造において、パッド材が発泡ウレタンによって形成され、表皮が通気性を有するシート材によって形成されたものがある。
通気性を有するシート材によって表皮を形成することによって、着座時の蒸れを抑制することができる。
しかしながら、発泡ウレタンからなるパッド材が水分を吸収して加水分解することがあり、弾性力が低下して座り心地が悪くなる。
また、シートの弾発性や通気性を高めるために、パッド材を、熱可塑性樹脂材からなる連続線状体が、多数、それぞれループ状に曲げられ、かつ互いの接触部が融着された立体網状材(立体網状構造体)から形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3114879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シートのクッション構造においては、その中央部の座部が平らで両肩部が盛り上がった形状にパッド材が形成される場合がある。
この場合には、パッド材の座部と両肩部との境界部において表皮が浮き上がらないように、パッド材の座部と両肩部との境界部に吊り込み溝が形成され、表皮の一部には吊り込み溝に引き込まれる吊り込み部が形成される。
そして、パッド材の吊り込み溝内に表皮の吊り込み部を引き込んだ後、表皮の吊り込み部をホグリング等の止め部材によってワイヤー等に止着しなければならず、その作業に多くの手間や時間が必要となりコスト高となる。
【0005】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、構造が簡単でコスト低減を図ることができるシートのクッション構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、この発明の請求項1に係るシートのクッション構造は、パッド材と、このパッド材の表面側を被覆する表皮とを備えたシートのクッション構造であって、
前記パッド材は、水切り性を有する熱可塑性樹脂材からなる立体網状材によって形成され、
前記表皮は、通気性を有するシート材によって形成され、
前記立体網状材と前記シート材とが成形型内で成形されることで前記パッド材と前記表皮とが所望とする形状に形成され、これと同時に一体状に溶融接合されていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によると、通気性を有するシート材によって表皮が形成されることで、着座時の蒸れを抑制して座り心地を向上させることができる。
また、水切り性を有する熱可塑性樹脂材からなる立体網状材によってパッド材が形成されることで、パッド材の弾性力の低下を抑えて座り心地の悪化を防止することができる。
また、立体網状材とシート材とが成形型内で成形され、これら立体網状材とシート材によってパッド材と表皮とが所望とする形状に形成され、これと同時に一体状に溶融接合される。これによって、パッド材を形成した後、パッド材の表面を表皮によって覆う作業が不要となり、コスト低減に効果が大きい。
さらに、シートの座部に対応する部分が平らで両肩部が盛り上がった形状にパッド材が形成される場合においても、パッド材の吊り込み溝内表皮の吊り込み部を引き込んホグリング等の止め部材によって止着する作業が不要となり、コスト低減に効果が大きい。
【0008】
請求項2に係るシートのクッション構造は、請求項1に記載のシートのクッション構造であって、
パッド材と表皮との間には、熱可塑性樹脂フィルムが配設され、
前記熱可塑性樹脂フィルムの溶融によって前記パッド材と前記表皮とが前記熱可塑性樹脂フィルムを介して一体状に溶融接合されていることを特徴とする。
【0009】
前記構成によると、パッド材と表皮との間に配設された熱可塑性樹脂フィルムの溶融によって、パッド材と表皮とを接合不良なく良好に溶融接合することができ、表皮の浮き上がりを防止することができる。
【0010】
請求項3に係るシートのクッション構造は、請求項1に記載のシートのクッション構造であって、
パッド材と表皮との間には、前記パッド材よりも柔軟な弾性を有する立体織布、不織布等からなる中間層が配設され、
前記パッド材と前記表皮とが前記中間層を介して一体状に溶融接合されていることを特徴とする。
【0011】
前記構成によると、パッド材と表皮との間に配設された柔軟な弾性を有する中間層によって座り心地の向上を図ることができる。
【0012】
請求項4に係るシートのクッション構造は、請求項3に記載のシートのクッション構造であって、
パッド材と中間層との間、及び中間層と表皮との間には、それぞれ熱可塑性樹脂フィルムが配設され、
前記パッド材と前記中間層、及び前記中間層と前記表皮とが前記両熱可塑性樹脂フィルムを介してそれぞれ一体状に溶融接合されていることを特徴とする。
【0013】
前記構成によると、パッド材と中間層、及び中間層と表皮との間にそれぞれ配設された熱可塑性樹脂フィルムの溶融によって、パッド材と中間層、及び中間層と表皮とをそれぞれ接合不良なく良好に溶融接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施例1に係るシートのクッション構造を示す正断面図である。
【図2】同じくシートのクッション構造を構成するパッド材と、熱可塑性樹脂フィルムと、中間層と、熱可塑性樹脂フィルムと、表皮とが成形型装置の一対の成形型の間にセットされる前の状態を示す説明図である。
【図3】同じくパッド材と、熱可塑性樹脂フィルムと、中間層と、熱可塑性樹脂フィルムと、表皮とが成形型装置の一対の成形型によって所望とする形状に成形される状態を示す説明図である。
【図4】この発明の実施例2に係るシートのクッション構造を示す正断面図である。
【図5】この発明の実施例3に係るシートのクッション構造を示す正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0016】
この発明の実施例1を図1〜図3にしたがって説明する。
図1に示すように、この実施例1に係るシートのクッション構造は、パッド材20と、このパッド材20の表面(上面)に熱可塑性樹脂フィルム26を間に挟んで溶融接合された中間層25と、この中間層25の表面(上面)に熱可塑性樹脂フィルム28を間に挟んで溶融接合され、かつパッド材20の表面側を被覆する表皮30とを備えている。
【0017】
パッド材20は、熱可塑性樹脂材からなる連続線状体が、多数、それぞれループ状に曲げられ、かつ互いの接触部が融着された立体網状材(立体網状構造体)120から形成され、水切り性を有している。
また、パッド材20の裏面(下面)は、クッションフレーム5に取り付けられた支持ばね8に支承される。また、パッド材20の裏面の左右両側部には凹部20aがそれぞれ形成され、これら両凹部20aがクッションフレーム(パイプフレーム)5の上方から嵌込まれた状態で支持される。
また、この実施例1において、パッド材20の表面中央部の座部20bが平らで両肩部20cが盛り上がった形状に形成され、座部20bと両肩部20cとの境界部には溝部20dが形成されている。
【0018】
中間層25は、パッド材20よりも柔軟な弾性を有する立体織布、不織布等の中間層素材125からなり、通気性を有している。
また、中間層25は、パッド材20の全表面及び外周側部を覆うようにして熱可塑性樹脂フィルム26を間に挟んで溶融接合されている。
【0019】
表皮30は、織布、多孔シート材(多孔合成皮革、多孔天然皮革)等のシート材130からなり、通気性を有している。
また、表皮30は、中間層25の全表面及び外周側部を覆うようにして熱可塑性樹脂フィルム28を間に挟んで溶融接合されている。
また、表皮30の周縁端末部31には、複数のフック32が周方向に所定間隔を隔てって配設されている。
そして、表皮30の周縁端末部31の複数のフック32がクッションフレーム5に固定の係止部材6に係止されることで、クッションフレーム5にクッション構造が装着される。
【0020】
この実施例1に係るシートのクッション構造は上述したように構成される。
したがって、通気性を有するシート材130から表皮30が形成されることで、着座時の蒸れを抑制して座り心地を向上させることができる。
また、水切り性を有する立体網状材120からパッド材20が形成されることで、パッド材20の弾性力の低下を抑えて座り心地の悪化防止することができる。
また、シート材130と立体網状材120とが、次に説明する成形型装置の一対の成形型41、45内で成形され、パッド材20と表皮30とが所望とする形状に形成され、これと同時に一体状に溶融接合されることで、パッド材を所望とする形状に形成した後、パッド材の表面を表皮によって覆う作業が不要となり、コスト低減に効果が大きい。
さらに、座部20aが平らで両肩部20bが盛り上がった形状にパッド材20が形成される場合においても、パッド材20の吊り込み溝内に表皮の吊り込み部を引き込んでホグリング等の止め部材によって止着する作業が不要となり、コスト低減に効果が大きい。
【0021】
また、この実施例1において、パッド材20と表皮30との間に配設された柔軟な弾性を有する中間層25によって座り心地の向上を図ることができる。
さらに、パッド材20と中間層25、及び中間層25と表皮30との間にそれぞれ配設された熱可塑性樹脂フィルム26、28の溶融によって、パッド材20と中間層25、及び中間層25と表皮30とをそれぞれ接合不良なく良好に溶融接合することができる。
【0022】
次に、上述したように構成される実施例1に係るシートのクッション構造を製造する方法を図2と図3にしたがって説明する。
先ず、図2に示すように、クッション構造に対応するキャビティを分割構成する一対の成形型41、45を準備する。
また、一方(図2では上)の成形型41には、180℃程度の高温の蒸気(スーパーヒートスチーム)をキャビティ内に噴出する多数の噴出孔42が貫設され、他方(図では下)の成形型45には、キャビティ内に噴出された蒸気を排出する多数の排出孔46が貫設されている。
【0023】
そして、一対の成形型41、45が型開き位置に配置された状態で、成形型45上に、パッド材20に対応する立体網状材120と、熱可塑性樹脂フィルム26と、中間層25に対応する中間層素材125と、熱可塑性樹脂フィルム28と、表皮30に対応するシート材130とを順に積層してセットする。
その後、一対の成形型41、45を型締めする。この際、表皮30の周縁端末部31に相当するシート材130の周縁部131が、一対の成形型41、45のキャビティ周縁の型合面に保持される。
そして、一方の成形型41の多数の噴出孔42から高温の蒸気を噴出することによって、立体網状材120から所望とする形状に形成されたパッド材20と中間層25、及び中間層25と表皮30とが熱可塑性樹脂フィルム26、28の溶融によって接合される。これによって、実施例1で述べたクッション構造を容易に製造することができる。
【実施例2】
【0024】
次に、この発明の実施例2を図4にしたがって説明する。
図4に示すように、この実施例2に係るシートのクッション構造は、実施例1で述べた中間層25を用いることなく構成したものである。
すなわち、クッション構造は、実施例1と同様の立体網状材120からなるパッド材20と、このパッド材20の表面(上面)に、実施例1と同様の熱可塑性樹脂フィルム26を間に挟んで溶融接合され、かつパッド材20の表面側を被覆する実施例1と同様のシート材130からなる表皮30とを備えて構成される。
【0025】
したがって、この実施例2に係るクッション構造においては、通気性を有するシート材130から表皮30が形成されることで、着座時の蒸れを抑制して座り心地を向上させることができる。
また、水切り性を有する立体網状材120からパッド材20が形成されることで、パッド材20の弾性力の低下を抑えて座り心地の悪化防止することができる。
また、シート材130と立体網状材120とが、成形型装置の一対の成形型内で成形され、パッド材20と表皮30とが所望とする形状に形成されると同時に一体状に溶融接合される。これによって、パッド材を所望とする形状に形成した後、パッド材の表面を表皮によって覆う作業が不要となり、コスト低減に効果が大きい。
さらに、座部20bが平らで両肩部20cが盛り上がった形状にパッド材20が形成される場合においても、パッド材20の吊り込み溝内に表皮の吊り込み部を引き込んでホグリング等の止め部材によって止着する作業が不要となり、コスト低減に効果が大きい。
また、この実施例2において、パッド材20と表皮30との間に配設された熱可塑性樹脂フィルム26の溶融によって、パッド材20と表皮30とを接合不良なく良好に溶融接合することができる。
【実施例3】
【0026】
次に、この発明の実施例3を図5にしたがって説明する。
図5に示すように、この実施例3に係るシートのクッション構造は、座部を構成するネット部材425と、このネット部材425の表面の少なくとも左右部に熱可塑性樹脂フィルム426を間に挟んで溶融接合されかつ両肩部を構成するパッド材420と、このパッド材420の表面に熱可塑性樹脂フィルム428を間に挟んで溶融接合され、かつパッド材420の表面側を被覆する表皮430とを備えている。
【0027】
ネット部材425は、パッド材420よりも柔軟な弾性を有する立体織布からなり、通気性を有している。
パッド材420は、熱可塑性樹脂材からなる連続線状体が、多数、それぞれループ状に曲げられ、かつ互いの接触部が融着された立体網状材から形成され、水切り性を有している。
また、表皮430は、織布、多孔シート材(多孔合成皮革、多孔天然皮革)等のシート材からなり、通気性を有している。
さらに、表皮430の端末部431には、複数のフック432が周方向に所定間隔を隔てって配設されている。
そして、表皮430の端末部431の複数のフック432がクッションフレーム405に固定の係止部材406に係止されることで、クッションフレーム405にクッション構造が装着される。
【0028】
したがって、この実施例3に係るクッション構造においては、座部がネット部材425によって構成されることで、着座時の蒸れを抑制して座り心地を向上させることができる。
また、座部を構成するネット部材425及び両肩部を構成するパッド材420と表皮430とが、成形型装置の一対の成形型内で所望とする形状に形成されると同時に、熱可塑性樹脂フィルム426、428の溶融によって接合されることで、パッド材を所望とする形状に形成した後、パッド材の表面を表皮によって覆う作業が不要となり、コスト低減に効果が大きい。
【0029】
なお、この発明は前記実施例1〜3に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、溶融接合のための熱可塑性樹脂フィルムに変えて、表皮や中間層の繊維内に溶融接合可能な熱可塑性繊維を混入させてもこの発明を実施することができる。
また、熱可塑性樹脂フィルムに変えて、ホットメルト系接着剤を用いてもこの発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0030】
20 パッド材
25 中間層
26、28 熱可塑性樹脂フィルム
30 表皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド材と、このパッド材の表面側を被覆する表皮とを備えたシートのクッション構造であって、
前記パッド材は、水切り性を有する熱可塑性樹脂材からなる立体網状材によって形成され、
前記表皮は、通気性を有するシート材によって形成され、
前記立体網状材と前記シート材とが成形型内で成形されることで前記パッド材と前記表皮とが所望とする形状に形成され、これと同時に一体状に溶融接合されていることを特徴とするシートのクッション構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシートのクッション構造であって、
パッド材と表皮との間には、熱可塑性樹脂フィルムが配設され、
前記熱可塑性樹脂フィルムの溶融によって前記パッド材と前記表皮とが前記熱可塑性樹脂フィルムを介して一体状に溶融接合されていることを特徴とするシートのクッション構造。
【請求項3】
請求項1に記載のシートのクッション構造であって、
パッド材と表皮との間には、前記パッド材よりも柔軟な弾性を有する立体織布、不織布等からなる中間層が配設され、
前記パッド材と前記表皮とが前記中間層を介して一体状に溶融接合されていることを特徴とするシートのクッション構造。
【請求項4】
請求項3に記載のシートのクッション構造であって、
パッド材と中間層との間、及び中間層と表皮との間には、それぞれ熱可塑性樹脂フィルムが配設され、
前記パッド材と前記中間層、及び前記中間層と前記表皮とが前記両熱可塑性樹脂フィルムを介してそれぞれ一体状に溶融接合されていることを特徴とするシートのクッション構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−170621(P2012−170621A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35638(P2011−35638)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】