説明

シートクッション及び車両用シート

【課題】簡単且つ軽量な構成であり、着座感が良好なシートクッション及び車両用シートを提供する。
【解決手段】シートクッションは、着座フレームと、着座フレーム上に載置されたクッションパッド2aと、着座フレーム及びクッションパッド2aを被覆する表皮材2bと、を備えている。着座フレームは、前後方向に延在する一対のサイドフレームと、一対のサイドフレームの前端に架設される板状フレーム12と、を備え、板状フレーム12の後端部12eは、後端部12eからSAE J−826による3次元マネキンのヒップポイントHまでの高さをα、後端部12eからヒップポイントHまでの前後方向の距離をβとし、βに対するαの比をα/βとするとき、0.73≦α/β≦1.09となるように備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッション及び車両用シートに係り、特に振動特性が良好であり、着座感に優れたシートクッション及び車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用シートにおいて、乗員の殿部及び大腿部を支持する着座部(シートクッション)は、着座フレームにクッションパッドを載置し、表皮材(トリムカバー)を被覆することにより形成されている。そしてこのようなシートクッションにおいて、乗員の着座感を良好にするため、種々の提案が成されている。
【0003】
着座感に影響する因子としては、乗員に対するシートクッションの追従性(フィット感)や、車両走行時の振動特性等が挙げられる。特に振動特性は、長時間にわたって着座する乗員に対して影響しやすい。
【0004】
自動車や電車等の車両は、その走行時、床面において振動が生じる。この時の振動が車両用シートに伝達されると、シートクッションが低周波(3〜4Hz程度)で振動する。その結果、シートクッションに着座した乗員の身体が共振するため、着座感が損なわれることがある。
【0005】
これに対し、車両走行時、シートクッションで発生する低周波数領域における振動を低減し、シートクッションの着座感を良好にする技術として、シートサスペンション装置を設ける技術が提案されているが、その構成が複雑であり、大型化するという問題点があった。
【0006】
さらに、共振を緩和する技術として、パンフレームを備え、そのパンフレームにおいて、乗員の殿部に相当する位置に複数のSばねを架設する技術が知られている。このような構成とすることにより、シートクッションは、Sばね及びクッションパッドの弾性変形に起因して、乗員の身体に追従しやすく、且つ良好なクッション性を得ることができる。その結果、車両の走行に伴って車体から伝達される振動を和らげることができる。
【0007】
このようなパンフレームにSばねを架設した構成のシートクッションに関し、特許文献1には、乗員の殿部に相当する位置において凹状の尻部収納部を形成することにより、空気室を備えたシートクッションが開示されている。このシートクッションにおいて、空気室は、パンフレームと、パンフレーム上に載置されるクッションパッド(特許文献1では、「シートパッド」と記載されている)との間に形成される空間であり、空気室に連通するオリフィスがパンフレームの壁面に形成されている。
【0008】
上記構成により、特許文献1に開示されたシートクッションは、クッションパッドの圧縮変形に伴い、空気室からの空気の流出が良好に行われ、シートクッション自体が振動を減衰させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−117346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1で開示されたシートクッションは、乗員の殿部に相当する位置において、Sばねがパンフレームに架設された構成であることから、クッションパッドが乗員の身体に追従しやすい。そして、Sばねを空気室の上方に架設する構成であることから、サスペンション装置等を別途備えることなく、振動を減衰させることが可能である。
【0011】
しかし、特許文献1のシートクッションは、着座フレームとしてのパンフレームが、着座フレームの全面に亘って設けられており、乗員の大腿部だけでなく、殿部に相当する部分まで配設される必要があることから、重量が大きいという不都合がある。したがって、シートクッション自体の構成を簡単且つ軽量な構成とすると共に、乗員に対して高い追従性を備え、着座感をさらに改良したシートクッションが望まれていた。
【0012】
本発明の目的は、簡単且つ軽量な構成であると共に、良好な振動特性を備えることにより、着座感が良好なシートクッション及び車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は、本発明のシートクッションによれば、着座フレームと、該着座フレーム上に載置されたクッションパッドと、前記着座フレーム及び前記クッションパッドを被覆する表皮材と、を備えたシートクッションであって、前記着座フレームは、前後方向に延在する一対のサイドフレームと、該一対のサイドフレームの前端に架設される板状フレームと、を備え、該板状フレームの後端部は、該後端部からSAE J−826による3次元マネキンのヒップポイントまでの高さをα、前記後端部から前記ヒップポイントまでの前後方向の距離をβとし、該βに対する前記αの比をα/βとするとき、0.73≦α/β≦1.09となるように備えられていること、により解決される。
【0014】
このように、本発明のシートクッションは、サイドフレームに横架される板状フレーム(パンフレーム)を備えている。そして、この板状フレームは、その後端部が3次元マネキンのヒップポイントに対して上記の位置関係となるように配設されている。
板状フレームの後端部が上記位置に配設されるため、本発明のシートクッションは、着座フレームの全面においてパンフレームを用い、乗員の大腿部から殿部までの位置をパンフレームとするシートクッションと比較して、極めて軽量にすることができる。
しかし、パンフレームの面積を小さくしただけでは、着座フレームの軽量化は可能となるものの、パンフレームが乗員を支持する範囲が十分でなく、振動特性が悪化するおそれがある。
これに対し、本発明のシートクッションは、パンフレームの後端部を上記位置に配設することで、振動特性が良好であり、且つ軽量なシートクッションを提供することができるものである。
より詳述すると、本発明のシートクッションは、パンフレームの後端位置を上記構成とすることにより、パンフレームが上記以外の構成のシートクッションにおいて、車両から伝達される振動に対して共振倍率が従来のものよりも低減され、さらに共振周波数が高くなっている。その結果、乗員の身体の共振域からシートクッションの共振周波数がシフトするため、車両からの振動が乗員に伝達されにくくなる。したがって、本発明のシートクッションは、軽量化可能であるだけでなく、振動特性が向上し、良好な着座感を乗員に与えることができる。
【0015】
このとき、請求項2のように、前記αは85〜105mmの範囲、前記βは96〜116mmの範囲であると好ましい。
このように、板状フレームの後端部を上記範囲に配設することにより、さらに振動特性が向上する。
【0016】
また、このとき、請求項3のように、前記着座フレームは、前記板状フレームの後方側に、前記一対のサイドフレームに架設されると共に前記クッションパッドに当接する前方弾性部材と、該前方弾性部材と所定距離離間して配設されると共に前記クッションパッドに当接する後方弾性部材と、をさらに備えてなると好適である。
このように、板状フレームの後方において、弾性部材を左右方向に架設することにより、乗員の殿部が弾性部材によって支持される。その結果、共振倍率がさらに低減され、また、共振周波数を高くすることができる。したがって、車両からの振動に対する振動特性がさらに良好になり、乗員は共振による疲れを感じにくくなる。その結果、着座感が良好なシートクッションとすることができる。
また、弾性部材を備えることにより、クッションパッドが弾性部材に支持される。その結果、乗員の着座時、弾性部材によって乗員の殿部に対してクッションパッドが追従しやすくなるため、着座感を向上させることができる。
そして、クッションパッドの追従性を向上させるために、特別な装置を用いることなく、軽量な弾性部材を用いているため、本発明のシートクッションは、重量が増加することなく、好適である。
【0017】
また、前記課題は、本発明の車両用シートによれば、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシートクッションと、シートバックとを備えたこと、により解決される。
【0018】
このように、本発明の車両用シートは、上記のように軽量且つ簡単な構成で、着座感の良好なシートクッションを備えている。したがって、全体として軽量で、且つ着座感の良好な車両用シートとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、パンフレームが着座フレームの全面に亘って配設されたシートクッションよりも、極めて軽量且つ簡単な構成で振動特性を向上させることができる。パンフレームを単純に小さくしただけでは、シートクッションの軽量化はできるものの、振動特性が低下するおそれがあったが、請求項1の発明によれば、乗員の着座時、車体からの振動に対して乗員の身体が共振しにくくなるため、快適な着座感が得られるシートクッションを提供することができる。
請求項2の発明によれば、さらに振動特性が向上するため、良好な着座感のシートクッションとすることができる。
請求項3の発明によれば、板状部材だけでなく、弾性部材をさらに備えることにより、振動特性をさらに向上させることができる。また、弾性部材によってクッションパッドを支持することにより、クッションパッドがより乗員に対して追従しやすくなるため、より着座感を向上させることができる。そして、特別な装置を用いることなくクッションパッドの追従性を高めるため、シートクッションの重量が増加することがない。
請求項4の発明によれば、上記シートクッションを備えているので、軽量且つ簡単な構成で、振動特性に優れ、着座感の良好な車両用シートとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用シートの概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る着座フレームの概略斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るシートクッション上に乗員が着座した状態の説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る弾性部材の構成を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る板状フレームの構成を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例及び比較例に係るシートクッションにおける着座形状を示すグラフ図である。
【図7】本発明の実施例及び比較例に係るシートクッションにおける坐骨圧力の大きさを示すグラフ図である。
【図8】本発明の実施例及び比較例に係るシートクッションの共振倍率を示すグラフ図である。
【図9】本発明の実施例及び比較例に係るシートクッションの荷重特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることはもちろんである。また、本明細書において、車両とは、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物、地上以外を移動する航空機や船舶など、シートを装着できる移動用のものをいうものとする。また通常の着座荷重とは、着座するときに生じる着座衝撃、乗物の急発進によって生じる加速時の荷重などを含むものである。
さらに、本明細書における方向を示す用語に関し、図1のように各方向を定義する。すなわち、左右方向とは、車両用シートの幅方向を示し、着座した乗員から見て左側を左方向、着座した乗員から見て右側を右方向とする。また、前方向とは、着座した乗員から見て前方を指すものであり、後方向とは、着座した乗員から見て後方を指すものである。
【0022】
また、本明細書中において「ヒップポイント」、「H点」とは、アメリカSAE規格 J−826(伊藤精機株式会社製SAE−3DM型)による3次元マネキンの胴部と大腿部とを結ぶ回転中心点をいうものである。さらに、「坐骨結節」とは、乗員の骨盤の最も下方に位置する部分である。
【0023】
図1乃至図5は本発明の実施形態に係るもので、図1は車両用シートの概略斜視図、図2は着座フレームの概略斜視図、図3はシートクッション上に乗員が着座した状態の説明図、図4は弾性部材の構成を示す説明図、図5は板状フレームの構成を示す説明図であり、図6乃至図9は本発明の実施例及び比較例に係るシートクッションに係るもので、図6は着座形状を示すグラフ図、図7は坐骨圧力の大きさを示すグラフ図、図8は共振倍率を示すグラフ図、図9は荷重特性を示すグラフ図である。
【0024】
図1乃至図5を参照して、実施形態に係る車両用シートSについて説明する。
車両用シートSは、図1で示すように、シートバックS1(背部)、シートクッションS2、ヘッドレストS3より構成されており、シートバックS1及びシートクッションS2はシートフレームにクッションパッド1a,2aを載置して、表皮材1b,2bで被覆されている。なお、ヘッドレストS3は、頭部の芯材(不図示)にパッド材3aを配して、表皮材3bで被覆して形成される。また符号20は、ヘッドレストS3を支持するヘッドレストピラーである。
【0025】
車両用シートSのシートフレームは、シートバックS1を構成するシートバックフレーム(不図示)、シートクッションS2を構成する着座フレームFから構成されている。
シートバックS1は、シートバックフレームに、上述のようにクッションパッド1aを載置して、クッションパッド1aの上から表皮材1bにより覆われており、乗員Cの背中を後方から支持するものである。
【0026】
シートクッションS2は、着座フレームFに、上述のようにクッションパッド2aを載置して、クッションパッド2aの上から表皮材2bによって覆われており、乗員Cを下方から支持する構成となっている。着座フレームFは脚部(不図示)で支持されており、この脚部には、インナレールが取り付けられ、車体フロアに設置されるアウタレールとの間で、前後に位置調整可能なスライド式に組み立てられている。
また着座フレームFの後端部は、リクライニング機構(不図示)を介してシートバックフレーム(不図示)と連結されている。
【0027】
本実施の形態において、着座フレームFは、図2で示すように、略矩形状の枠体となっており、左右方向に離間したサイドフレーム11,11と、サイドフレーム11,11の前方側(前端)に架設される板状フレームとしてのパンフレーム12と、サイドフレーム11,11の後方側に配設される連結部材としてのメンバーパイプ13と、サイドフレーム11,11に架設される前方弾性部材としての前方スプリング14と、後方弾性部材としての後方スプリング15とを備えている。
なお、パンフレーム12及びメンバーパイプ13はいずれもサイドフレーム11,11に架設されるものであり、サイドフレーム11,11を連結する。
【0028】
2本(一対)のサイドフレーム11は、着座フレームFの幅を構成するため、左右方向に離間して配設され、前後方向に延在するように配設されている。そして、一対のサイドフレーム11,11の後方側にメンバーパイプ13が取着され、メンバーパイプ13によって一対のサイドフレーム11,11が連結される。
【0029】
また、パンフレーム12は、一対のサイドフレーム11,11の前方側に固着接合され、パンフレーム12によってもまた、一対のサイドフレーム11,11が連結される。より詳細には、パンフレーム12の左右方向の端部は、それぞれ、サイドフレーム11,11にそれぞれ設けられたフランジ11b,11bに固定されている。
【0030】
パンフレーム12は、主として乗員Cの大腿部を支持するように、その上面がほぼ平坦な略矩形形状に形成された金属製のフレームである。なお、図2に示すように、パンフレーム12の上面には、後面衝突時のサブマリン現象や、着座時の位置ずれを抑制するために凸部12dが設けられていても良い。
【0031】
そして、パンフレーム12は、図3に示すように、前方端部が下方に折曲された前方折曲部12aと、後方端部が下方に折曲された後方折曲部12bを備えている。また、前方折曲部12aと後方折曲部12bとの間には、上面がほぼ平坦であり、後方に向かって若干下方に傾斜した支持面12cが備えられている。なお、この支持面12cの左右方向の端部は、それぞれサイドフレーム11,11のフランジ11b,11bに固定される(図2参照)。
【0032】
パンフレーム12の前方折曲部12aの端部(下方端部)には、表皮材2bの端部が係止される。なお、表皮材2bと前方折曲部12aとの係止手段は、トリムコード等、公知の手法が用いられる。
【0033】
パンフレーム12の後方折曲部12bよりも後方には、前方スプリング14及び後方スプリング15が配設される。前方スプリング14及び後方スプリング15は、サイドフレーム11,11間に横架されており、前方スプリング14及び後方スプリング15の両端部は、サイドフレーム11,11に設けられた係止部11c,11cにそれぞれ係止される。係止部11cは、サイドフレーム11に設けられており、前後方向に離間して二つの孔が形成されており、その孔によって挟まれる部分がサイドフレーム11の内側に向かって膨出するように構成されている。そして、一方の孔から前方スプリング14または後方スプリング15の端部を差し込み、膨出した部分にスプリングの一部を沿わせたのち、端部を他方の孔に挿通させている。
【0034】
このように、前方スプリング14及び後方スプリング15の端部は、前後方向に沿って当接する膨出面を備えた係止部11cによって支持されている。
【0035】
前方スプリング14及び後方スプリング15は、着座フレームFを真上から見たとき(すなわち、平面視)、互いに所定距離(前方スプリング14の後端から後方スプリング15前端まで、約50〜70mm程度)離間し、延在方向が略平行となるように配設されている。
【0036】
また、前方スプリング14と後方スプリング15との間(所定距離離間した空間)において、乗員Cの坐骨結節Pに相当する位置が支持されるように構成される。すなわち、前方スプリング14及び後方スプリング15は、少なくとも坐骨結節Pの位置の下方に配設されない程度に、互いに離間して配設される。
【0037】
前方スプリング14及び後方スプリング15は、波状(ジグザグ形状)等に形成された線状の部材であり、主として乗員Cの殿部を支持する。そして、前方スプリング14及び後方スプリング15の端部はそれぞれサイドフレーム11,11に軸支されており、前方スプリング14及び後方スプリング15の上方にクッションパッド2aが載置される。
【0038】
前方スプリング14及び後方スプリング15の波形形状を含む平面(波形形状によって構成される平面)は、それぞれ、水平方向に対して若干傾斜して配設される。以下において、その傾斜角度について詳細に説明する。
【0039】
(前方スプリング14及び後方スプリング15の傾斜角度)
図4には、前後方向に切断した状態のシートクッションS2の断面図の一部拡大図と、その説明を示す。なお、図4において、左側はシートクッションS2の前方側、右側はシートクッションS2の後方側を示す。
図4に示すように、前方スプリング14及び後方スプリング15は、それぞれの波形形状によって構成される面が、水平方向(水平面X)に対して傾斜して配設されている。そして、前方スプリング14は後方側が下方に傾斜して(後傾して)配設されており、後方スプリング15は、前方側が下方に傾斜して(前傾して)配設されているか、または水平に配設されている。
【0040】
換言すると、前方スプリング14は、クッションパッド2aに当接して該パッドを支持する面(クッションパッド2aとのパッド当接面14a)を水平面Xに対して後傾するように配設されており、後方スプリング15は、クッションパッド2aに当接して該パッドを支持する面(クッションパッド2aとのパッド当接面15a)を水平面Xに対して前傾するように、または水平面Xと平行となるように配設されている。
【0041】
この時、図4に示すように、前方スプリング14の波形形状によって構成される面(クッションパッド2aとのパッド当接面14a)が、水平面Xに対して成す角度のうち、小さい方の角度(鋭角)の大きさをθとし、後方スプリング15の波形形状によって構成される面(クッションパッド2aとのパッド当接面15a)が、水平面Xに対して成す角度のうち、小さい方の角度(鋭角)の大きさをθとすると、角度θとθは、互いに異なる角度に設定されている。
【0042】
この角度θ及びθは、一般的な体格の乗員Cの殿部形状(より詳細には、座面に対して傾斜している角度θ′及びθ′:θ′は乗員Cの坐骨結節Pと、坐骨結節Pから前方に80mm離れた位置の乗員Cの殿部とを通る線と水平面Xとが成す角度であり、θ′は乗員Cの坐骨結節Pと、坐骨結節から後方に80mm離れた位置の乗員Cの殿部とを通る線と水平面Xとが成す角度である)に依存して設定されると好ましく、本発明において、θ>θである。より詳細には、I=θ/θとするとき、0≦I≦0.18とする(より詳細には、パッド当接面15aが水平である場合においてI=0であり、それ以外の場合において0<I≦0.18である。)と好ましい。
【0043】
このような構成の前方スプリング14及び後方スプリング15を備えることにより、シートクッションS2は、乗員Cの殿部の形状により追従しやすくなるため、乗員Cは、良好なフィット感を得ることができる。また、前方スプリング14及び後方スプリング15が所定距離離間しているため、前方スプリング14と後方スプリング15との間(所定距離離間した部分)において乗員Cの坐骨結節Pを支持することができる。その結果、坐骨圧力を低減し、より着座感の良好なシートクッションS2とすることができる。
【0044】
さらに具体的には、θ=17〜21°、θ=0〜3°とすると好適である。このようにθの値は、クッションパッド2aの撓みを考慮し、さらに、前方に配設されたパンフレーム12と前方スプリング14の前端との高さが大きく異なることがないように設定される。θの値を上記値よりも大きく、または小さくすると、乗員Cはパンフレーム12と前方スプリング14との境界部分における段差を感じてしまい、着座感が低下するが、θの値を上記値とすることにより、着座感が良好なシートクッションS2とすることができる。なお、θの値は、前方スプリング14自体が撓むことを考慮し、19°とすると最適である。
【0045】
さらに、θの値は、上記値よりも大きな値とするとクッションパッド2aを薄くしなければならないため、乗員Cの殿部が後方スプリング15に当接しやすくなり、着座感が低下するが、θの値を上記値とすることにより、クッションパッド2aの厚みを確保することができ、乗員Cは、着座時に底つき感を感じることが無く、好適である。なお、θの値は、クッションパッド2aの厚みを確保するため、0°とすると最適である。
【0046】
さらに、上記構成の前方スプリング14及び後方スプリング15を備えることにより、クッションパッド2aの撓み分をスプリングの伸張により吸収することができるため、より着座感が向上する。
【0047】
なお、前方弾性部材及び後方弾性部材として、それぞれSばねによって構成された構成を説明したが、例えば、所定幅を有する帯状に形成されたゴム等の弾性部材を前方弾性部材及び後方弾性部材として用いてもよい。帯状の弾性部材を用いた場合、その上面は、水平方向に対して傾斜して配設される。すなわち、前方に配設される弾性部材の上面と水平面Xとが成す角度のうち、小さい方の角度(鋭角)をθ、後方に配設される弾性部材の上面と水平面Xとが成す角度のうち、小さい方の角度(鋭角)をθ、と定義し、θ及びθが上記値を満たすように弾性部材が配設される。
【0048】
(前方スプリング14及び後方スプリング15の効果)
上述のように、前方スプリング14が水平面Xに対して後傾しており、後方スプリング15が水平面Xに対して前傾した(または水平に配設された)構成であるため、本発明のシートクッションS2は、乗員Cに対して追従性が高く、良好なフィット感を呈する。
【0049】
また、前方スプリング14及び後方スプリング15を上記構成とすることにより、本発明のシートクッションS2は、他の緩衝部材を別途備えることなく、良好なクッション性を備え、振動を減衰させることができる。
【0050】
さらに、本発明のシートクッションS2において、前方スプリング14と後方スプリング15とが互いに所定距離離間して配設されているため、着座時に最も座圧が高い坐骨結節部直下の圧力(坐骨圧力)を低減することができる。
【0051】
したがって、上記のように、本発明のシートクッションS2は、良好なフィット感を呈し、振動を減衰させることが可能であり、さらに坐骨圧力を低下させることが可能であるため、乗員Cに対して極めて良好な着座感を与えることができる。また、本発明のシートクッションS2は、部品点数を増加させることなく、簡単且つ軽量な構成であるため、車両に対してシートクッションS2(車両用シートS)を組み付ける際、作業効率が良好になり、好適である。
【0052】
(パンフレーム12の構造)
図5には、シートクッションS2を前後方向に切った状態の断面図と、その説明を示す。なお、図5において、左側はシートクッションS2の前方側、右側はシートクッションS2の後方側を示す。
図5に示すように、パンフレーム12の支持面12cの後端部12e(すなわち、支持面12cと後方折曲部12bとの境界部)は、3次元マネキンのヒップポイントHの位置を基準にしてその位置が決定される。
【0053】
パンフレーム12の後端部12eは、図5のように、後端部12eからヒップポイントHまでの高さ(鉛直方向の距離)をα、後端部12eとヒップポイントHとの前後方向の距離(ただし、ヒップポイントHは後端部12eの後方に位置する)をβとしたとき、βに対するαの比、すなわちα/βが0.73≦α/β≦1.09の関係を満たすように備えられていると好ましい。
【0054】
パンフレーム12の後端部12eを上記のような位置に設けると、車両走行時の振動特性が向上し、さらに着座時の異物感を感じることが無く、良好な着座感を得ることができる。なお、このとき、「振動特性が向上する」とは、共振倍率が低減すること、及び共振周波数が大きくなることを示す。振動特性については、以下に詳述する。
【0055】
上記α、βの値に関し、より詳細には、α=85〜105mm、β=96〜116mm程度であると好ましい。α、βがそれぞれこの範囲となるようにパンフレーム12をサイドフレーム11,11に取り付けると、振動特性が向上する。
αが105mmを超える場合や、βが116mmを超える場合には、振動特性を向上させることができず、また、αが85mmよりも小さい場合や、βが96mmよりも小さい場合には、着座時に殿部において底つき感や異物感を感じやすくなるため、着座感が低下する。
【0056】
上記のように、3次元マネキンのヒップポイントHに対してパンフレーム12の後端部12eの位置を上記範囲内に設置することにより、元来重量の大きいパンフレームを、全面に架け渡した構成と比較して、パンフレーム面積を小さくすることができる。その結果、着座フレームFの軽量化が可能となるだけでなく、車両走行時の振動特性や、乗員Cが感じる着座感を向上させることができる。
【0057】
さらに、パンフレーム12の後端部12eを上記範囲内に設置し、さらに前方スプリング14及び後方スプリング15を上記構成のように設置することにより、本発明のシートクッションS2は、振動特性が向上するだけでなく、乗員Cの身体(殿部)に対してクッションパッド2aが追従しやすく、さらに坐骨圧力が低減するため、乗員Cに対して極めて良好な着座感を与えることができる。また、クッションパッド2aの追従性を向上させる構成として複雑な装置を備えることがないため、重量が増加することがない。
【0058】
(実施例及び比較例)
以下、図6乃至図9を参照して本発明の実施例及び比較例について説明する。
なお、図6乃至図9中、「実施例」は本発明の実施形態のシートクッションS2であり、上記θを19°,θを0°としている。また、α=95mm,β=106mmである。
「比較例」は、本発明の前方スプリング14及び後方スプリング15の替わりに4本のSバネを前後方向に架設したものである。また、「比較例」は、パンフレームが実施例と比較すると前後方向において小さく(すなわち、βが116mmよりも大きく)、また、パンフレームの後端部からヒップポイントHまでの高さが大きい(すなわち、αが105mmよりも大きい)ものである。具体的には、α=115mm、β=153mmである。
【0059】
図6は、乗員C(被験者)が着座した際のシートクッションS2の着座形状(高さ方向の変位量)を示すグラフ図である。横軸をシートクッションS2の前後方向、縦軸をシートクッションS2の上面(乗員が当接する面)の高さ方向における変位量として、乗員Cの身体(殿部)に対する追従性(フィット感)を示している。なお、図6中の符号Pは、乗員Cの坐骨結節Pの位置を示している。
【0060】
本測定は、ステンレステープ(厚さ=0.4mm、幅=40mm)をシートクッションS2の前後方向に張り渡し、被験者がシートクッションS2上に着座した状態で、歪みゲージ式荷重計測器(ミネベア株式会社製)を用いて測定を行うことにより、着座形状比較を行った。なお、この時の被験者は、40人の体型(殿部形状)の平均値に最も近い乗員とした。
【0061】
その結果、坐骨結節Pの位置において、実施例と比較例とでは同じ変位量である一方、シートクッションS2の前端及び後端において、本発明の実施例の方が、より変位が小さく、乗員Cを支持していることが示された。したがって、本発明のシートクッションS2は、乗員Cに対する高い追従性、すなわちフィット感を備えていることが確認された。
【0062】
したがって、クッションパッド2aを支持する弾性部材を前後方向に架設した構成のシートクッションよりも、前方スプリング14及び後方スプリング15を左右方向に架設し、さらに前方スプリング14を後傾させ、後方スプリング15を前傾させることにより、クッションパッド2aを乗員Cに対して追従させやすくなることが示された。
【0063】
前方スプリング14のパッド当接面14a及び後方スプリング15のパッド当接面15aが水平面Xと成す角度θを19°,θを0°とすることにより、坐骨結節Pの前後において、乗員の殿部を良好に支持することが可能であることが示された。
【0064】
図7は、乗員Cが着座した際のシートクッションS2における坐骨圧力を示すグラフ図である。本測定は、クッションパッド2a(表皮材2b)上(より詳細には、坐骨結節Pに相当する部分)にセンサを取り付け、衣服圧計(株式会社エイエムアイ・テクノ製)を用いて被験者が着座した状態の圧力を計測することにより行った。
【0065】
その結果、実施例の坐骨圧力は、比較例の坐骨圧力と比較して顕著に小さいことが示された。したがって、前方スプリング14及び後方スプリング15を左右方向に架設し、互いに離間して配設することにより、着座感に大きな影響を与える坐骨圧力が低減できることが確認された。
一方、弾性部材を前後方向に架設した比較例では、坐骨結節の部分を避けて弾性部材を配設することができないため、坐骨圧力を低減することが難しい。したがって、本発明のシートクッションS2は、前方スプリング14及び後方スプリング15を所定距離離間して配設し、坐骨結節Pをその離間した部分に位置させることができるため、着座感が向上する。
【0066】
図8は、シートクッションS2の強制加振試験(振動特性試験)の結果を示すグラフ図である。横軸は周波数、縦軸は共振倍率(伝達率)を示している。
本測定は、JASO B407−87 「6.4 振動試験」の項に基づいて行った。
【0067】
その結果、実施例のシートクッションS2は、共振倍率が低下していると共に、周波数が高周波数側へシフトしており、さらに共振点が乗員Cの身体の共振域から大きくシフトしていることが確認された。
一方、パンフレームが前後方向において比較的小さく形成されている(すなわち、パンフレームの後端部がヒップポイントHから遠い位置に備えられている)比較例では、共振倍率が高く、さらに共振点を乗員Cの身体の共振域からシフトすることが難しい。
【0068】
したがって、本発明のシートクッションS2は、パンフレーム12の後端部12eの位置を上記構成とすることにより、振動特性が向上する。すなわち、本発明のシートクッションS2は、シートの共振点を乗員Cの身体の共振域からシフトさせることができ、さらに共振倍率も低減可能である。その結果、本発明のシートクッションS2は、車両走行時の共振を緩和する効果が高く、良好な着座感を備えることができる。
【0069】
また、比較例のシートクッションでは、着座フレームにおいて備えられた弾性部材は左右方向に架設されており、さらにその本数が4本であるが、本発明のシートクッションS2は、弾性部材の数を低減してその架設方向を前後方向としたため、より振動特性が向上したものと予想される。
【0070】
図9は、シートクッションS2の荷重撓み試験(荷重特性試験)の結果を示すグラフ図である。横軸はシートクッションS2の変位量、縦軸はシートクッションS2に対して加えられた荷重を示している。
本測定は、JASO B407−87 「6.1 荷重試験」の項に基づいて行った。
【0071】
その結果、実施例のシートクッションS2は、静的着座(通常の着座)領域の荷重範囲において、比較例のシートクッションと同程度の硬さを維持するが、振動着座領域の荷重範囲において、比較例のシートクッションよりも硬くなることが示された。
【0072】
したがって、本発明のシートクッションS2は、パンフレーム12の後端部12eの位置を上記構成とすることにより、高荷重に対する硬度が高い。その結果、本発明のシートクッションS2は、振動特性が向上し、良好な着座感を備えることができる。
【0073】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態では、具体例として、自動車のフロントシートの着座フレームFについて説明したが、これに限らず、後部座席の着座フレームについても、同様の構成を適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0074】
C 乗員(3次元マネキン)
H ヒップポイント(H点)
P 坐骨結節
S 車両用シート
S1 シートバック
S2 シートクッション
S3 ヘッドレスト
F 着座フレーム
X 水平面
1a,2a,3a クッションパッド(パッド材)
1b,2b,3b 表皮材
11 サイドフレーム
11b フランジ
11c 係止部
12 パンフレーム(板状フレーム)
12a 前方折曲部
12b 後方折曲部
12c 支持面
12d 凸部
12e 後端部
13 メンバーパイプ(連結部材)
14 前方スプリング(前方弾性部材)
14a パッド当接面
15 後方スプリング(後方弾性部材)
15a パッド当接面
20 ヘッドレストピラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座フレームと、該着座フレーム上に載置されたクッションパッドと、前記着座フレーム及び前記クッションパッドを被覆する表皮材と、を備えたシートクッションであって、
前記着座フレームは、前後方向に延在する一対のサイドフレームと、該一対のサイドフレームの前端に架設される板状フレームと、を備え、
該板状フレームの後端部は、該後端部からSAE J−826による3次元マネキンのヒップポイントまでの高さをα、前記後端部から前記ヒップポイントまでの前後方向の距離をβとし、該βに対する前記αの比をα/βとするとき、0.73≦α/β≦1.09となるように備えられていることを特徴とするシートクッション。
【請求項2】
前記αは85〜105mmの範囲、
前記βは96〜116mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のシートクッション。
【請求項3】
前記着座フレームは、前記板状フレームの後方側に、前記一対のサイドフレームに架設されると共に前記クッションパッドに当接する前方弾性部材と、該前方弾性部材と所定距離離間して配設されると共に前記クッションパッドに当接する後方弾性部材と、をさらに備えてなることを特徴とする請求項1または2に記載のシートクッション。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシートクッションと、シートバックとを備えたことを特徴とする車両用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−213514(P2012−213514A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80770(P2011−80770)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】