説明

シートベルトガイドアンカーおよびこれを備えたシートベルト装置

【課題】シートベルトに付着するごみ等の異物を自動的に除去してシートベルト自体の摺動性の低下を抑制する製造コストの安価なシートベルトガイドアンカーを提供する。
【解決手段】金属プレート8の被覆樹脂9におけるシートベルト摺動部9bの乗員側摺動部9b2には、第1湾曲面9cと、第1湾曲面9cと異なる湾曲面でかつ第1湾曲面9c
より凹んだ第2湾曲面9dとの間に、段差9eが設けられる。段差9eと第1湾曲面9cとの角部は、シートベルト4に付着する異物を除去する異物除去部9fとされる。シートベルトの巻取時にシートベルトが異物除去部9fを摺接することで、異物除去部9fによりシートベルト4に付着する異物が自動的に除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばピラー等の車体に支持され、シートベルト装置のシートベルトを乗員のショルダーの方へガイドするシートベルトガイドアンカーおよびこれを用いたシートベルト装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車両シートに付設されているシートベルト装置は、衝突時等の車両に大きな減速度が作用した場合のような緊急時に、シートベルトで乗員を拘束するようになっている。このようなシートベルト装置には、例えば車体のピラー等に支持され、シートベルトを摺動可能にガイドするシートベルトガイドアンカーを備えたシートベルト装置が種々提案されている。
【0003】
この種のシートベルトガイドアンカーには、シートベルトの巻取りおよび引出しを良好に行うようにするために、シートベルトとシートベルトガイドアンカーとの間の摺動性を良好にすることが求められる。そこで、従来、シートベルトガイドアンカーのシートベルト摺動部を低摩擦に形成したシートベルトガイドアンカーが種々提案されている。
【0004】
従来のこのようなシートベルトガイドアンカーとして、インサート金具のシートベルト挿通孔形成部分を被覆樹脂で被覆するとともに、低摩擦材からなるスリップピースを被覆樹脂のシートベルト摺動部分に設けたシートベルトガイドアンカーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載のシートベルトガイドアンカーによれば、シートベルトとシートベルトガイドアンカーとの間の摩擦がスリップピースにより低減されるので、良好な摺動性を得ることができる。しかし、特許文献1に記載のシートベルトガイドアンカーでは、インサート成形された被覆樹脂とは別部品であるスリップピースを用いる必要がある。このため、部品点数が多くなり、その分製造コストが高くなる。
【0005】
一方、従来の他のシートベルトガイドアンカーとして、前述と同様にシートベルトとシートベルトガイドアンカーとの間の低摩擦を得るために、インサート金具を被覆する被覆樹脂の表面にごみが付着するのを抑制するために、この被覆樹脂の表面にめっき処理を施したシートベルトガイドアンカーが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に記載のシートベルトガイドアンカーによれば、めっき処理により被覆樹脂の表面へのごみの付着が抑制されるので、被覆樹脂の経時劣化を抑制し、良好な摺動性を比較的長期に維持することが可能となる。また、特許文献1に記載のようなスリップピースを用いないので、部品点数を削減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−135967号公報。
【特許文献2】特許第4248104号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のシートベルトガイドアンカーでは、めっき処理を用いているので、製造工数が多く製造コストが高いという問題がある。しかも、めっき処理の後処理を行う必要があるため、製造工数が更に多くなり、後処理のコストを含めて製造コストが更に高くなる。
【0008】
また、特許文献1および2に記載のシートベルトガイドアンカーでは、いずれも、インサート金具の被覆樹脂自体の摺動性については考慮されているものの、シートベルト自体の摺動性については考慮されていない。すなわち、シートベルト装置の使用により、シートベルトの表面にはごみ等の異物が付着するため、シートベルト自体の摺動性が低下するという問題がある。
【0009】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであって、その目的は、シートベルトに付着するごみ等の異物を自動的に除去してシートベルト自体の摺動性の低下を抑制し、しかも安価に製造することのできるシートベルトガイドアンカーおよびシートベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するために、本発明のシートベルトガイドアンカーは、金属プレートと、前記金属プレートの少なくともシートベルト摺動対応部を被覆してベルト挿通孔を形成する被覆樹脂とを少なくとも有し、シートベルトが前記ベルト挿通孔に挿通されて前記シートベルトをガイドするシートベルトガイドアンカーにおいて、前記被覆樹脂のシートベルト摺動部に、前記シートベルトに付着する異物を除去する異物除去部が設けられていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明のシートベルトガイドアンカーは、前記シートベルト摺動部の表面が、第1の湾曲面、前記第1湾曲面と異なる湾曲面でかつ前記第1湾曲面より凹んだ第2の湾曲面、および前記第1湾曲面と前記第2湾曲面との間の形成された段差を有し、前記段差が、前記被覆樹脂のシートベルト摺動部の表面に前記ベルト挿通孔に沿って延設されており、前記異物除去部が、前記段差と前記第1湾曲面との角部により形成されることを特徴としている。
【0012】
更に、本発明のシートベルトガイドアンカーは、前記段差が、前記シートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面、前記シートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面、およびシートベルトリトラクタ側摺動部の表面の少なくとも1つに形成されていることを特徴としている。
【0013】
更に、本発明のシートベルトガイドアンカーは、前記段差が2つの段差からなり、これらの段差が互いに所定間隔を置いて平行またはほぼ平行に前記シートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面、前記シートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面、およびシートベルトリトラクタ側摺動部の表面の少なくとも1つに形成されていることを特徴としている。
【0014】
更に、本発明のシートベルトガイドアンカーは、前記段差が2つの段差からなり、一方の段差が前記シートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面、前記シートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面、およびシートベルトリトラクタ側摺動部の表面のいずれか1つに形成されているとともに、他方の段差が前記シートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面、前記シートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面、およびシートベルトリトラクタ側摺動部の表面のいずれか他の1つに形成されていることを特徴としている。
【0015】
更に、本発明のシートベルトガイドアンカーは、前記被覆樹脂のシートベルト摺動部の表面に、凹溝が前記ベルト挿通孔に沿って延設され、前記段差は前記凹溝の側壁によって形成されていることを特徴としている。
【0016】
一方、本発明のシートベルト装置は、乗員に装着されるシートベルトと、前記シートベルトを引き出し可能に巻き取るとともに、前記緊急時に作動して前記シートベルトの引出
しを阻止するシートベルトリトラクタと、前記シートベルトリトラクタから引き出されたシートベルトを乗員の方へガイドするシートベルトガイドアンカーと、前記シートベルトガイドアンカーを通過した前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、車体または車両シートに設けられ、前記タングが離脱可能に係止されるバックルとを少なくとも備えるシートベルト装置において、前記シートベルトガイドアンカーが、前述の本発明のシートベルトガイドアンカーのいずれか1つであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
このように構成された本発明のシートベルトガイドアンカーによれば、シートベルトの巻取りおよび引出し時に、シートベルトが被覆樹脂のシートベルト摺動部を摺接しながら移動する。このとき、被覆樹脂に設けられた異物除去部によりシーベルトの面が擦すられる。これにより、シートベルトの面に付着するごみ等の異物を異物除去部により除去することができる。しかも、シートベルトの巻取りおよび引出し時に、シートベルトに付着するごみ等の異物が異物除去部により自動的に除去されるので、シートベルトの特別な異物除去作業を行うことなく、シートベルト自体の摺動性の低下を抑制することが可能となる。
【0018】
特に、異物除去部が、被覆樹脂のシートベルト摺動部の表面にベルト挿通孔に沿って延設された段差とシートベルト摺動部の表面との角部により形成されることで、異物除去部によるシートベルトの異物除去効果をより一層大きくすることができる。しかも、段差を挟む第1および第2の湾曲面において、第2の湾曲面が第1湾曲面より凹んでいるので、シートベルトが第2の湾曲面から第1湾曲面へ移動する際、シートベルトは異物除去部でより効果的に擦られ、異物除去部による異物除去効果がより一層大きくなる。更に、2つの段差を設けることで、2つの異物除去部を構成することができる。したがって、これらの2つの異物除去部により、異物除去効果が一層効果的に大きくなる。
【0019】
その場合、異物除去部が被覆樹脂のシートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面に設けられることで、シートベルトの巻取り時に異物除去部によりシートベルトの異物をより効果的に除去することができる。また、異物除去部が被覆樹脂のシートベルト摺動部のシートベルトリトラクタ側摺動部の表面に設けられることで、シートベルトの引出し時に異物除去部によりシートベルトの異物をより効果的に除去することができる。更に、異物除去部が被覆樹脂のシートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面に設けられることで、シートベルトの折り返し部であるベルト挿通孔対向摺動部で、異物除去部によるシートベルトの擦りがより強くなる。これにより、シートベルトの巻取り時および引出し時の少なくとも一方で異物除去部によりシートベルトの異物を更に効果的に除去することができる。
【0020】
更に、この異物除去部による異物除去は、シートベルトリトラクタによるシートベルトの巻取り時あるいは乗員によるシートベルトの引出し時の少なくとも一方の時において常時自動的に行うことができる。したがって、シートベルト装置の使用によるシートベルト自体の摺動性の低下を抑制することができる。その結果、シートベルトとシートベルトガイドアンカーとの間の摺動性をより一層長期にわたって良好に維持することが可能となり、シートベルトの巻取りおよび引出しをスムーズに行うことができる。
【0021】
特に、異物除去部による異物除去が常時自動的に行われることで、シートベルトに付着する異物が付着後それほど時間が経っていなく、その付着力が比較的小さい場合が多い。これにより、異物除去部による異物除去効果をより一層効果的に発揮させることが可能となる。
【0022】
更に、異物除去部を構成するために、被覆樹脂に異なる湾曲面により形成される段差を
形成しているだけであるので、樹脂のモールド成形時に異物除去部を被覆樹脂と一体に簡単に形成することができる。したがって、シートベルトガイドアンカーの製造コストを低減できる。特に、本発明のシートベルトガイドアンカーでは、被覆樹脂の表面にめっき処理が施す必要はなくまた低摩擦材であるスリップピースを設けることはないので、製造工数および部品点数をともに削減でき、製造コストを更に一層低減できる。
【0023】
一方、本発明のシートベルト装置によれば、本発明のシートベルトガイドアンカーを備えるので、シートベルトの巻取りおよび引出しをスムーズに行うことができる。したがって、乗員によるシートベルトの取扱操作性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかるシートベルトガイドアンカーの実施の形態の一例を備えたシートベルト装置を模式的に示す図である。
【図2】この例のシートベルトガイドアンカーを示し、(a)は正面図、(b)は(a)におけるIIB−IIB線に沿う断面図、(c)は(b)におけるIIC部の部分拡大図である。
【図3】(a)および(b)は、それぞれ、本発明のシートベルトガイドアンカーの実施の形態の他の例を示す、図2(b)と同様の断面図である。
【図4】(a)ないし(c)は、それぞれ、本発明のシートベルトガイドアンカーの実施の形態の更に他の例を示す、図2(b)と同様の断面図である。の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明にかかるシートベルトガイドアンカーの実施の形態の一例を備えたシートベルト装置を模式的に示す図である。以下の説明で、上、下はともに、シートベルトガイドアンカー5が車体に取り付けた状態での上、下をいう。
【0026】
図1に示すように、この例のシートベルト装置1は、シートベルトリトラクタおよびシートベルトガイドアンカーを用いた従来公知の三点式シートベルト装置と同様に、車両シート2近傍の車体に固定されたシートベルトリトラクタ3、このシートベルトリトラクタ3から引き出されるとともに先端のベルトアンカー4aが車体の床あるいは車両シート2に固定されるシートベルト4、シートベルトリトラクタ3から引き出されたシートベルト4を乗員のショルダーの方へガイドするシートベルトガイドアンカー5、このシートベルトガイドアンカー5からガイドされてきたシートベルト4に摺動自在に支持されたタング6、車体の床あるいは車両シート2に固定されかつタング6が係脱可能に挿入係合されるバックル7から構成されている。
【0027】
図2(a)ないし(c)に示すように、この例のシートベルトガイドアンカー5は、例えば鋼製の金属プレート8および樹脂モールドにより金属プレート8を部分的に被覆する被覆樹脂9を備えている。金属プレート8は従来公知のシートベルトガイドアンカーの金属プレートと同様であり、シートベルト4が挿通される比較的細長い略U字状のベルト挿通孔8aおよびシートベルトガイドアンカー5を車体に取り付けるための円形または略円形の取付孔8bを有する。
【0028】
被覆樹脂9は、従来公知のシートベルトガイドアンカーの金属プレートの被覆樹脂と同様の樹脂からなり、取付孔8bおよびこの取付孔8bの周縁部8b1を除く金属プレート
8の部分を樹脂モールドにより被覆している。その場合、被覆樹脂9の表面には、特許文献2に記載のようなめっき処理は施されていない。被覆樹脂9のベルト挿通孔8a形成部分を被覆する被覆樹脂9の部分には、正面視略U字状の細長いベルト挿通孔9aが形成されている。
【0029】
図2(b)に示すように、この例のシートベルトガイドアンカー5の被覆樹脂9には、従来と同様にベルト挿通孔9aに挿通されたシートベルト4が摺動するシートベルト摺動部9bが設けられている。このシートベルト摺動部9bは、ベルト挿通孔9aに対向するベルト挿通孔対向摺動部9bl、乗員側摺動部(図2(b)において左側摺動部)9b2、およびシートベルトリトラクタ側摺動部(図2(b)において右側摺動部)9b3から構
成されている。その場合、ベルト挿通孔対向摺動部9bl、乗員側摺動部9b2の一部、およびシートベルトリトラクタ側摺動部9b3は、ベルト挿通孔9aの直線部9a1と直交または略直交する断面で1つの連続した第1湾曲面9cで形成されているとともに、乗員側摺動部9b2の他部は、同断面で第1湾曲面9cとは異なる他の1つの連続した第2湾曲
面9dで形成されている。
【0030】
そして、図2(c)に示すように乗員側摺動部9b2の第2湾曲面9dは、同図に二点
鎖線で示す第1湾曲面9cの連続した仮想湾曲面9c1よりも図2(c)において下側に
凹むように形成される。したがって、第1湾曲面9cと第2湾曲面9dとの境界には、段差9eが形成されている。この段差9eは、図2(a)に示すようにベルト挿通孔9aに沿って正面視略U字状に形成されている。また、段差9eと乗員側摺動部9b2の一部と
の角部は尖ったエッジに形成されて、シートベルト4におけるシートベルトガイドアンカー5のシートベルト摺動部9b側の面4bに付着するごみ等の異物を除去する異物除去部9fを構成している。
【0031】
この例のシートベルトガイドアンカー5によれば、図2(c)に点線で示すようにシートベルト4がベルト挿通孔対向摺動部9bl、乗員側摺動部9b2、およびシートベルトリトラクタ側摺動部9b3に摺動可能に当接する(図2(c)には、シートベルトリトラク
タ側摺動部9b3については図示省略されている)。その場合、シートベルト4は段差9
eの近傍位置では乗員側摺動部9b2の他部から部分的に離間して異物除去部9f、乗員
側摺動部9b2の一部、およびベルト挿通孔対向摺動部9blに当接するようになる。そして、シートベルト4は異物除去部9fのエッジで若干折り曲げられる。
【0032】
したがって、シートベルト4の装着後、装着解除のためタング6をバックル7から外すと、引き出されたシートベルト4は、従来のシートベルト装置と同様にシートベルトリトラクタ3に巻き取られる。このシートベルト4の巻取り時に、シートベルト4は図2(c9)に点線矢印で示すように乗員側摺動部9b2の他部、異物除去部9f、乗員側摺動部
9b2の一部、ベルト挿通孔対向摺動部9bl、およびシートベルトリトラクタ側摺動部9b3の各表面を摺接しながら移動する。
【0033】
これにより、シーベルト4の面4bを異物除去部9fのエッジで擦すり、シートベルト装置1の使用によりこの面4bに付着するごみ等の異物を異物除去部9fにより除去することができる。その場合、ベルト挿通孔対向摺動部9blと反対側に位置する第2湾曲面
9dがベルト挿通孔対向摺動部9bl側に位置する第1湾曲面9cより凹んでいるので、
シートベルト4が第2湾曲面9dから第1湾曲面9cへ移動する際、シートベルト4が異物除去部9fでより効果的に擦られ、異物除去部9fによる異物除去効果がより一層大きくなる。
【0034】
更に、異物除去部9fによる異物除去はシートベルトリトラクタ3によるシートベルト4の巻取り時に常時自動的に行うことができる。したがって、シートベルト装置1の使用によるシートベルト4自体の摺動性の低下を抑制することができる。その結果、シートベルト4とシートベルトガイドアンカー5との間の摺動性をより一層長期にわたって良好に維持することが可能となり、シートベルト4の巻取りおよび引出しをスムーズに行うことができる。
【0035】
特に、異物除去部9fによる異物除去が常時自動的に行われることで、シートベルト4に付着する異物が付着後それほど時間が経っていなく、その付着力が比較的小さい場合が多い。これにより、異物除去部9fによる異物除去効果をより一層効果的に発揮させることが可能となる。
【0036】
また、異物除去部9fを被覆樹脂9に第1湾曲面9cと第2湾曲面9dとから形成される段差9eで構成しているので、モールド成形時に異物除去部9fを一体に簡単に形成することができる。したがって、シートベルトガイドアンカー5の製造コストを低減できる。特に、この例のシートベルトガイドアンカー5では、被覆樹脂9の表面にめっき処理が施されていないとともにスリップピースを設けていないので、製造工数および部品点数をともに削減でき、製造コストを更に一層低減できる。
【0037】
一方、この例のシートベルト装置1によれば、この例のシートベルトガイドアンカー5を備えていてシートベルト4の巻取りおよび引出しをスムーズに行うことができるので乗員によるシートベルト4の取扱操作性を向上することができる。
この例のシートベルトガイドアンカー5とシートベルト装置1の他の構成および他の作用効果は、従来公知のシートベルトガイドアンカーおよびシートベルト装置と同じである。
【0038】
図3(a)および(b)は、それぞれ、本発明のシートベルトガイドアンカーの実施の形態の他の例を示す、図2(b)と同様の断面図である。
前述の図2(b)に示す例では、被覆樹脂9に形成された段差9eが乗員側摺動部9b2に形成されているが、図3(a)に示す例のシートベルトガイドアンカー5では、段差
9つまり異物除去部9fはベルト挿通孔対向摺動部9blに設けられている。したがって
、ベルト挿通孔対向摺動部9blの一部とシートベルトリトラクタ側摺動部9b3とにより連続した1つの湾曲面からなる第1湾曲面9cが形成される。また、ベルト挿通孔対向摺動部9blの他部と乗員側摺動部9b2とにより連続した他の1つの湾曲面からなる第2湾曲面9dが形成される。その場合、第1および第2湾曲面9c,9dの大小関係は、前述
の例と同じである。この例のシートベルトガイドアンカー5の他の構成、および作用効果は、図2(b)に示す例と実質的に同じである。
なお、段差9eつまり異物除去部9fは、ベルト挿通孔対向摺動部9blと乗員側摺動
部9b2との境界部に設けることもできる。
【0039】
図3(b)に示す例のシートベルトガイドアンカー5では、図2(b)に示す例において乗員側摺動部9b2に設けられた段差9eの他に、更に他の1つの段差9e2が乗員側摺動部9b2の他部に設けられている(なお、図3(b)には、前述の例の段差9eを符号
9e1で示す。以下、同じである。)。この段差9e2は前述の例の段差9eとほぼ同じ形状でかつ段差9e1と所定間隔を置いて平行に形成されている。したがって、段差9e2により、前述の例の第2湾曲面9dが、連続した1つの湾曲面である第2湾曲面9dと、この第2湾曲面9dとは異なる連続した他の1つの湾曲面である第3湾曲面9gとに分割構成されている。その場合、第3湾曲面9gが第2湾曲面9dより凹んで形成されている。そして、段差9e2と第2湾曲面9dとの角部が、異物除去部9fと同様のもう1つの異
物除去部9f2とされている(なお、図3(b)には、前述の例の異物除去部9fを符号
9f1で示す。以下、同じである。)。
【0040】
この例のシートベルトガイドアンカー5によれば、2つの異物除去部9f1,9f2を設
けているので、前述の例よりも大きな異物除去効果を得ることができる。この例のシートベルトガイドアンカー5の他の構成、および作用効果は、図2(b)に示す例と実質的に同じである。
【0041】
図4(a)ないし(c)は、それぞれ、本発明のシートベルトガイドアンカーの実施の形態の更に他の例を示す、図2(b)と同様の断面図である。
前述の図2(b)に示す例では、被覆樹脂9に形成された段差9eが乗員側摺動部9b2のみに形成されているが、図4(a)に示す例のシートベルトガイドアンカー5では、
図2(b)に示す段差9e1の他に、更に他の1つの段差9e3がベルト挿通孔対向摺動部9blに設けられている。すなわち、図2(b)に示す例の第1湾曲面9cが、段差9e3により第1湾曲面9cと第4湾曲面9hとに分割構成されている。そして、この例の第1湾曲面9cはベルト挿通孔対向摺動部9blの一部と乗員側摺動部9b2の一部とで構成され、また、第4湾曲面9hはベルト挿通孔対向摺動部9blの他部とシートベルトリトラ
クタ側摺動部9b3とで構成されている。この例の第4湾曲面9hは第2湾曲面9dを構
成する1つの連続した湾曲面の一部で形成されているが、必ずしもこれに限定されることはない。したがって、この例では段差9e1による異物除去部9fの他に、段差9e3により、この異物除去部9fと同様のもう1つの異物除去部9iが形成されている。
【0042】
2つの段差9e1,9e3は、図4(a)において金属プレート8のシートベルト摺動対
応部8cに関し左右対称に設けられる。これにより、2つの段差9e1,9e3は図4(a
)において互いに逆向きに形成される。したがって、前述の図2(b)に示す例の場合と同様にシートベルトリトラクタ3によるシートベルト4の巻取り時に、一方の異物除去部9fによりシートベルト4に付着する異物が自動的に除去されるとともに、シートベルト4の引出し時にシートベルト4に付着する異物が他方の異物除去部9iにより自動的に除去される。したがって、前述の図2(b)に示す例よりも大きな異物除去効果を得ることができる。この例のシートベルトガイドアンカー5の他の構成および他の作用効果は、図2(b)に示す例と実質的に同じである。
【0043】
図4(b)に示す例のシートベルトガイドアンカー5では、図2(b)に示す例の段差9eに代えて、図2(a)に示す段差9eと正面視ほぼ同形状の凹溝9jが乗員側摺動部9b2に段差9eと同様に設けられている。そして、被覆樹脂9のシートベルト摺動面は
、1つの連続した湾曲面である第1湾曲面9cで形成されている。すなわち、ベルト挿通孔対向摺動部9bl、乗員側摺動部9b2、およびシートベルトリトラクタ側摺動部9b3
が、この第1湾曲面9cで形成されている。
【0044】
凹溝9jの一方の側壁で段差9e1が形成され、凹溝9jの他方の側壁で段差9e3が形成される。そして、一方の段差9e1と乗員側摺動部9b2との角部に1つの異物除去部9fが形成され、他方の段差9e3と乗員側摺動部9b2との角部に1つの異物除去部9iが形成される。
【0045】
この例のシートベルトガイドアンカー5によれば、前述の図4(a)に示す例と同様にシートベルト4の巻取り時に、一方の異物除去部9fによりシートベルト4に付着する異物が除去されるとともに、シートベルト4の引出し時にシートベルト4に付着する異物が他方の異物除去部9iにより除去される。また、各異物除去部9f,9iによりシートベルト4から除去された異物は、凹溝9j内に貯留(収容)される。したがって、シートベルト4から除去された異物が、シートベルト4の摺動時にシートベルト4に再び付着するのを抑制することができる。これにより、更に大きな異物除去効果を得ることができる。この例のシートベルトガイドアンカー5の他の構成および他の作用効果は、図2(b)に示す例と実質的に同じである。
【0046】
図4(c)に示す例のシートベルトガイドアンカー5では、図4(b)に示す例の凹溝9jが図2(b)に示す例の段差9eの位置、つまり図2(b)に示す例の第1湾曲面9cと第2湾曲面9dとの間に設けられている。そして、第2湾曲面9dが第1湾曲面9c
より凹んでいるので、凹溝9jの段差9e1と第1湾曲面9cとの角部に異物除去部9f
が形成されるが、凹溝9jの段差9e3と第2湾曲面9dとの角部には異物除去部は形成
されない。
【0047】
この例のシートベルトガイドアンカー5によれば、第2湾曲面9dが第1湾曲面9cより凹んでいるので、シートベルト4の巻取り時に異物除去部9fによりシートベルト4がより強く擦られるので、異物除去効果が図4(b)に示す例に比べてより大きくなる。また、シートベルト4の引出し時には異物除去はほとんど行われない。したがって、この例では、シートベルト4の巻取り時にシートベルト4の異物が効果的に除去可能となる。この例のシートベルトガイドアンカー5の他の構成および他の作用効果は、図4(b)に示す例と実質的に同じである。
【0048】
なお、本発明のシートベルトガイドアンカーおよびシートベルト装置は、前述の例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で、種々設計変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のシートベルトガイドアンカーおよびシートベルト装置は、金属プレートを被覆樹脂で被覆して形成され、シートベルトリトラクタから引き出されたシートベルトを乗員のショルダーの方へガイドして乗員にフィットさせるシートベルトガイドアンカー、およびこのシートベルトガイドアンカーを備え、シートベルトガイドアンカーでガイドされたシートベルトで乗員を拘束するシートベルト装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…シートベルト装置、2…車両シート、3…シートベルトリトラクタ、4…シートベルト、5…シートベルトガイドアンカー、6…タング、7…バックル、8…金属プレート、8a…ベルト挿通孔、8b…取付孔、8c…シートベルト摺動対応部、9…被覆樹脂、9a…ベルト挿通孔、9b…シートベルト摺動部、9bl…ベルト挿通孔対向摺動部、9b2…乗員側摺動部、9b3…シートベルトリトラクタ側摺動部、9c…第1湾曲面、9d…
第2湾曲面、9e,9e1,9e2…段差、9f,9f1,9f2,9i…異物除去部、9g…第
3湾曲面、9h…第4湾曲面、9j…凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属プレートと、前記金属プレートの少なくともシートベルト摺動対応部を被覆してベルト挿通孔を形成する被覆樹脂とを少なくとも有し、シートベルトが前記ベルト挿通孔に挿通されて前記シートベルトをガイドするシートベルトガイドアンカーにおいて、
前記被覆樹脂のシートベルト摺動部に、前記シートベルトに付着する異物を除去する異物除去部が設けられていることを特徴とするシートベルトガイドアンカー。
【請求項2】
前記シートベルト摺動部の表面は、第1の湾曲面、前記第1湾曲面と異なる湾曲面でかつ前記第1湾曲面より凹んだ第2の湾曲面、および前記第1湾曲面と前記第2湾曲面との間の形成された段差を有し、
前記段差は、前記被覆樹脂のシートベルト摺動部の表面に前記ベルト挿通孔に沿って延設されており、
前記異物除去部は、前記段差と前記第1湾曲面との角部により形成されることを特徴とする請求項1に記載のシートベルトガイドアンカー。
【請求項3】
前記段差は、前記シートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面、前記シートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面、およびシートベルトリトラクタ側摺動部の表面の少なくとも1つに形成されていることを特徴とする請求項2に記載のシートベルトガイドアンカー。
【請求項4】
前記段差は2つの段差からなり、これらの段差は互いに所定間隔を置いて平行またはほぼ平行に前記シートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面、前記シートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面、およびシートベルトリトラクタ側摺動部の表面の少なくとも1つに形成されていることを特徴とする請求項2に記載のシートベルトガイドアンカー。
【請求項5】
前記段差は2つの段差からなり、一方の段差は前記シートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面、前記シートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面、およびシートベルトリトラクタ側摺動部の表面のいずれか1つに形成されているとともに、他方の段差は前記シートベルト摺動部の乗員側摺動部の表面、前記シートベルト摺動部のベルト挿通孔対向摺動部の表面、およびシートベルトリトラクタ側摺動部の表面のいずれか他の1つに形成されていることを特徴とする請求項2に記載のシートベルトガイドアンカー。
【請求項6】
前記被覆樹脂のシートベルト摺動部の表面に、凹溝が前記ベルト挿通孔に沿って延設され、前記段差は前記凹溝の側壁によって形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1に記載のシートベルトガイドアンカー。
【請求項7】
乗員に装着されるシートベルトと、前記シートベルトを引き出し可能に巻き取るとともに、前記緊急時に作動して前記シートベルトの引出しを阻止するシートベルトリトラクタと、前記シートベルトリトラクタから引き出されたシートベルトを乗員の方へガイドするシートベルトガイドアンカーと、前記シートベルトガイドアンカーを通過した前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、車体または車両シートに設けられ、前記タングが離脱可能に係止されるバックルとを少なくとも備えるシートベルト装置において、
前記シートベルトガイドアンカーが、請求項1ないし6のいずれか1に記載されたシートベルトガイドアンカーであることを特徴とするシートベルト装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−25806(P2011−25806A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172947(P2009−172947)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】