説明

シートベルトリトラクタ

【課題】 繰り返し作動させることができるシートベルトリトラクタを提供する。
【解決手段】 シートベルト巻取用のスプリング32の一端をスプリングケース32に連結し、該ケース32を超音波モータ24で回転させる。スプリングケース34をA1 方向に回すと巻取力が弱くなり、A2 方向に回すと巻取力が強くなる。車両衝突が予知されるときには超音波モータ24を高速で回転起動させる。慣性体360と爪保持リング310との間に位相差が生じ、爪保持リング310の周縁から爪330が突出し、リール20の内向き歯20Nに噛合する。これにより、超音波モータ24がリール20を直接に巻取方向に回転駆動する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は車両に設けられ、乗員を保護するためのシートベルト装置のリトラクタに関する。詳しくは、本発明は、乗員がシートベルトを装着しているときにはシートベルトが乗員にソフトに接触し、車両の衝突が予知されたときにはシートベルトを急速に引き締めるプリテンショナ機構を有するシートベルトリトラクタに関する。
【0002】
【従来の技術】シートベルト装置は、周知の通り、車両に設けられたリトラクタのリールからシートベルトを巻き出し、このシートベルトをトングによってバックルに係止し、これにより乗員を座席に拘束するようにしたものである。
【0003】このシートベルト装置においては、リトラクタから巻き出されたシートベルトは、常にリトラクタから巻取方向の張力を受けており、乗員にフィットするよう構成されている。
【0004】プリテンショナ付きのシートベルト装置においては、車両の衝突が検知された時にプリテンショナによってシートベルトを所定長さだけ急速に巻き取ってシートベルトで乗員を強く拘束する。
【0005】このプリテンショナは、シートベルト装置のリールから突設された被動軸を駆動装置によって回転駆動することによりシートベルト装置のリールをシートベルト巻取方向に回転させる。
【0006】このプリテンショナは、車両が平常時にあるときにはリールの自在な回転を阻止しないものであることが必要であり、上記の被動軸とプリテンショナ駆動装置との間には車両衝突検知時にのみ駆動力を駆動装置から被動軸へ伝達するためのクラッチ機構が設けられている。
【0007】上記の駆動装置としては、衝突発生を検知して火薬を点火し、発生したガス圧によって回転トルクを発生させるようにしたものがある(例えば米国特許第5,451,008号、ドイツ特許公開公報第4,444,775号、実開平7−5992号)。
【0008】また、スパイラルスプリングを動力源とした駆動装置も公知である(特開昭59−168860号公報)。
【0009】上記のクラッチ機構としては、リールシャフトの周囲に円筒状のロータを配置し、該リールシャフト外周面とロータ内周面との間に円柱状ピンを介在させ、ロータがシートベルト引締め方向に回動駆動されたときにロータ内周面に設けた斜面によってピンをシャフト外周面に押し付けるようにしたものが公知である(米国特許第4,750,685号、同4,423,846号)。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】プリテンショナの駆動動力源として火薬を用いたものは、プリテンショナが1回作動すると再使用することはできないという短所がある。
【0011】特開昭59−168860号のようにスパイラルスプリングを動力源としたものにあっては、プリテンショナが作動した場合、レンチ等の工具を用いて初期状態に復帰させ、再使用することができる(同号公報第6頁左下欄)。
【0012】しかしながらこの復帰作業を行うには車両からシートベルトリトラクタを取り出す必要があり、かなり不便である。
【0013】本発明は、繰り返しプリテンションをかけることができるシートベルトリトラクタを提供することを目的とする。
【0014】また、本発明は、シートベルトを乗員に緩みなくフィットさせることができ、しかも乗員に対する圧迫感も十分に小さいシートベルトリトラクタを提供することを目的とするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明のシートベルトリトラクタは、シートベルトを巻き取るためのリールと、該リールに一端が接続されており、該リールをシートベルト巻取方向に付勢しているスプリングと、該スプリングの他端が連結されており、該スプリングの付勢力を変化させる方向に動き得る可動部材と、該可動部材を動かして上記付勢力を変える超音波モータと、車両の衝突を予知する予知手段と、該予知手段が衝突を予知するときには該超音波モータの駆動力を該リールに直接的に伝達して該超音波モータによって該リールを直接的にシートベルト巻取方向に回転させ、該予知手段が衝突を予知していないときには該超音波モータの駆動力の該リールへの直接的な伝達を断つ動力伝達手段とを備えてなるものである。
【0016】かかるシートベルトリトラクタにおいては、車両の衝突を予知すると超音波モータによってリールをシートベルト引締め方向に回転させてプリテンションをかける。そして、衝突の可能性が無くなった場合には超音波モータを逆回転させてプリテンションを解放できる。このため繰り返しプリテンションをかけることができる。
【0017】なお、超音波モータはその作動音が小さい。また、作動時の駆動トルクが大きいため、強いプリテンションを得ることができる。この、超音波モータは、停止トルクがきわめて大きいため、停止状態保持用の部材が不要である。
【0018】本発明のシートベルトリトラクタにおいては、スプリングによる付勢力を検出し、この付勢力が目標値となるように付勢力を制御することができ、シートベルトを緩みなく乗員にフィットさせ、且つシートベルトによる圧迫感も十分に小さいものとすることができる。
【0019】本発明では、このシートベルトの張力調整とリールの緊急時巻取作動を1個の超音波モータで行うことができる。
【0020】本発明では、前記可動部材はスプリングを囲んでいるスプリングケースであり、該スプリングケースは、前記リールの軸心回りに回動可能とされていることが好ましい。
【0021】本発明では、前記付勢力検出手段は、前記リールの回転量を検出する手段と、前記スプリングケースの回転量を検出する手段と、検出されたこれらの回転量の差から付勢力を演算する手段とを備えてなることが好ましい。
【0022】本発明では前記超音波モータは、シャフト孔が貫通したロータを備えており、前記リールの端面の軸心位置から突出したリールシャフトが該シャフト孔に回動自在に通り抜けており、該リールシャフトの先端側の外周に前記スプリングが巻回されており、該スプリングを囲んでいる前記スプリングケースは、該リールシャフトが回動自在に通り抜けていると共に該超音波モータの該ロータに連結されているケースシャフトを備えており、該リールの端面と該超音波モータとの間に前記動力伝達手段が設けられていることが好ましい。
【0023】本発明では、前記動力伝達手段は、前記リールの端面に設けられた内向歯と、前記リールシャフトにそれぞれ回転可能に外嵌している爪保持リング及びリング状慣性体と、該爪保持リングに基端側が支持されており、先端側が該爪保持リングの外周から突出して前記内向歯に係合しうるように該基端側を中心として回動可能となっている爪と、該爪保持リングと該慣性体との周方向の位相差によって該爪を回動させるように該爪保持リングと該慣性体との間に設けられた回転作動手段と、該爪保持リングと該慣性体との間の周方向の位相差を解消する方向に該慣性体を付勢するように両者の間に設けられた付勢部材と、を備えてなり、該爪保持リングが前記超音波モータのロータに連結されていることが好ましい。
【0024】本発明では、前記回転作動手段は、前記爪と慣性体との一方に設けられた長孔よりなるガイド孔と、他方に設けられ該ガイド孔に係合しているガイドピンとからなることが好ましい。
【0025】本発明では、トングがバックルに係合したことを検出するトング係合検知手段を設けておき、シートベルト格納時のスプリングの付勢力をT1 とし、シートベルト引き出し後、トングがバックルに係合するまではスプリングの付勢力をT1よりも小さいT2 とし、トングがバックルに係合した後は、一旦スプリングの付勢力をT2 よりも高いT3 とし、その後、付勢力をT3 よりも低いT4 とし、トングがバックルに対し非係合状態となったときには、シートベルト格納完了まで、付勢力をT1 及びT3 のいずれよりも高いT5 とするのが好ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】第1〜3、6、7図は、本発明の実施の形態に係るシートベルトリトラクタの分解斜視図であり、第4図はシートベルトリトラクタの巻取機構部分の断面図、第5図は作動説明図、第8図は制御ブロック図である。なお、第2図は第1図の巻取機構の拡大図、第3図は回転速度応動型クラッチ装置の分解斜視図、第6図はロック機構の拡大図である。
【0027】フレーム10は平行な1対の側壁部12、14と、これら側壁部12、14を連絡する背板部16とを有している。このフレーム10内にシートベルト18を巻き取るためのリール20が設けられている。リール20は、側壁部12、14の開口12a、14aに挿通されている。
【0028】側壁部14の外側に該リール20の緊急時のロック機構22が設けられている。また、側壁部12の外側に、リール20をシートベルト巻取方向に付勢するスプリング機構26と、この付勢力を調節するための超音波モータ24が設けられている。リール20の一方の端面に内向歯20Nが周設されている。
【0029】このスプリング機構26の構成について次に説明する。
【0030】このスプリング機構26は、リール20をシートベルト巻取方向に付勢するスプリング32と、該スプリング32を囲むスプリングケース34とを備えている。スプリング32は、スパイラルスプリングよりなる。このスプリング32の中心端は第1のリールシャフト31(第4図)に対しブッシュ35を介して固定され、外周端はスプリングケース34に係止されている。なお、リールシャフト31は、リール20の端面の軸心部から軸心線方向に突設されている。
【0031】このリールシャフト31は、それぞれリング状の慣性体360及び爪保持リング310を通り、さらに、超音波モータ24のロータに貫設されたシャフト孔36を通り抜けている。リールシャフト31の先端は非円形となっており、前記ブッシュ35の非円形の中心孔35aが回転不能に装着されている。
【0032】なお、シャフト孔36は六角形であるが、リールシャフト31は断面真円形の丸棒状となっているため、シャフト孔36に対しリールシャフト31はフリーな状態で単に挿通されている。
【0033】スプリングケース34の外周面にラックが周設されている。ロータリエンコーダ37の入力軸に固着されたギヤ37aが該ラックに噛合している。
【0034】スプリングケース34の外側面から六角形のケースシャフト34cがリール20と同軸的に突設されている。このケースシャフト34cは、超音波モータ24のロータの六角形のシャフト孔36に挿入され、係合している。このケースシャフト34cとシャフト孔36とが係合することにより、スプリングケース34は超音波モータ24のロータ114(後述の第4図)と常に一体に回転する。
【0035】このスプリングケース34と超音波モータ24とはカバーケース33によって覆われている。
【0036】第4図の通り、超音波モータ24は、円形に配列された圧電素子列110及びこの圧電素子列110にほぼ密着する状態で設置された環状ステータ112及び中心がケースシャフト34cが嵌合した円形ロータ114から成る。
【0037】ロータ114は、皿形の環状スプリング116の付勢力によって環状ステータ112に押圧されている。
【0038】圧電素子列110に通電されていないときには、円形ロータ114は環状ステータ112に対し該スプリング116によって強く押し付けられて停止しており、ケースシャフト34cは該円形ロータ114を介して環状ステータ112に回転が阻止された状態となる。即ち、圧電素子列110に通電されていないと、スプリングケース34は回転不能である。
【0039】環状圧電素子列110に超音波信号が加えられると、環状圧電素子列110が当該超音波信号に応じて波状に歪曲し、ステータ112を介してロータ114を回転させる。
【0040】このロータ114の回転に伴うスプリングケース34の回転量がロータリエンコーダ37によって検出される。この検出信号は、後述のロータリエンコーダ107の検出信号と同様に制御ユニット120(第8図)に入力される。この制御ユニット120にはバックルスイッチ122の信号と、車間距離センサ124の信号も入力されている。この制御ユニット120は、これらの信号に基づいて超音波モータ24の作動を制御する。
【0041】なお、シートベルト18が引き出されるときには、リール20は矢印A1 方向に回転し、シートベルト18を巻き取るときには矢印A2 方向に回転する。
【0042】次に、前記慣性体360と爪保持リング310等よりなる回転角加速度応動型クラッチ装置300の構成について主として第3図及び第5図を参照して説明する。
【0043】爪保持リング310は、中心孔312を有した盤体部314と、この盤体部314の一方の盤面から突設された六角形の六角シャフト316と、該盤体部314の他方の盤面から突設された短い筒部318及び2本の支持ピン320と、該支持ピン320の周囲に設けられた爪収容用凹部322と、後述のストッパ片364収容用の凹部324等を備えている。筒部318及び六角シャフト316は盤体部314と同軸的に設けられ、前記中心孔312は該筒部318及び六角シャフト316を貫通している。
【0044】2個の爪収容用凹部322は、盤体部314の中心を挟んで直径方向に離れて位置している。この凹部322内に爪330が配置されている。該爪330の後端側に設けられたピン孔332に支持ピン320が挿入され、爪330の先端側が支持ピン320を中心として回動可能に支持されている。
【0045】この爪330は、その先端と後端との中ほどからガイドピン334が突設されている。
【0046】前記慣性体360は、その中心部に円形孔362を有したリング状のものである。その周縁近傍には、前記ストッパ片364が爪保持リング310へ向けて突設され、また該ガイドピン334が係合するガイド孔366が設けられている。このガイド孔366は、長孔よりなる。このガイド孔366は、その長手方向の一端366aが他端366bよりも慣性体360の中心に近接している。そのため、ガイド孔366の該一端366a側に位置していたガイドピン332が、該他端366a側に向って第3図矢印E1 方向にシフトすると、爪330の先端側がF1 方向に回動する。
【0047】この慣性体360は、中心孔362を爪保持リング310の筒部318に外嵌させて該爪保持リング310に対し同軸的に係合される。この際、ストッパ片364が凹部324内に収容される。
【0048】爪保持リング310に係合された慣性体360は、慣性体付勢バネ380によって第3図のG1 方向に付勢されている。この慣性体付勢バネ380は、直径方向に延在する2個の直棒部382、384を有したねじりコイルバネよりなる。一方の直棒部382は、爪保持リング310に設けられた径方向溝326に挿入されている。他方の直棒部384は、凹部324内に配置され、ストッパ片364に当接し、該ストッパ片364をG1 方向に付勢し、凹部324の径方向の段部324aに所要の押圧力で押し付けている。
【0049】前記の通り、六角シャフト316が超音波モータ24の六角形のシャフト孔36に係入しており、爪保持リング310は超音波モータ24のロータ114と常に一体に回転する。
【0050】ロータ114が停止しているときには、第5図(a)のようにバネ380の直棒部384によってストッパ片364が段部324aに押し付けられている。この場合、爪330のガイドピン334は、慣性体360のガイド孔366の一端366aに位置しており、爪330は爪収容用凹部322内に引込んでいる。
【0051】ロータ114が低速で起動(回転開始)した場合、ストッパ片364がバネ380の直棒部384に押されることによって慣性体360が回転開始するが、ロータ114の回転角加速度が小さいため、慣性体360はそのストッパ片364が段部324aに押し付けられたまま爪保持リング310と一体に回転する。
【0052】ロータ114が高速で起動した場合、慣性体360はストッパ片364がバネ380の直棒部384に押されることによって回転開始するが、ロータ114の回転角加速度が大きいため、慣性体360の回転角加速度がロータの回転角加速度よりも小さくなり、第5図(b)のようにストッパ片364が段部324aから離れるようになる。即ち、爪保持リング310と慣性体360との回転に位相差が生じる。
【0053】そうすると、爪330のガイドピン334が慣性体360のガイド孔366内をE1 方向に移動し、爪330の先端側がF1 方向に回動する。この結果、爪330の先端側が爪保持リング310の外周から突出し、第5図(c)のようにリール20の内向歯20Nに係合する。これにより、ロータ114の回転トルクが爪保持リング310及び爪330を介してリール20に伝達され、リール20はロータ114と共に回転する。
【0054】次に、ロック機構22の構成について主として第6図を参照して説明する。
【0055】リール20のリールシャフト31と反対側にリール20と同軸のラチェットホイル38が固定されており、このラチェットホイル38を貫通して第2のリールシャフト40がリール20と同軸的に突設されている。このリールシャフト40の付根側は大径の円形軸部40aとなっており、この円形軸部40aに隣接して角軸部40bが形成されている。この円形軸部40aにはタイプレート42の開口43とロックリング44の中心孔48が嵌合している。
【0056】このタイプレート42は次に述べるC字形状のスプリング50の一端を支持するものである。該タイプレート42の先端側に該開口43が設けられ、他端側に後述の開口64が設けられている。該開口64に挿通された軸ピン60によってタイプレート42の後端がフレーム側壁部14に支持されている。即ち、タイプレート42は、突出部40と軸ピン60との間に架設されたものとなっている。
【0057】前記C字形スプリング50の一端50aはタイプレート42の略中央部分に設けられた係止孔(スプリングハンガ)52に係止され、他端はロックリング44の係止孔(スプリングハンガ)54に係止されている。シャフト40を周るように該スプリングハンガ52、54間に架設された該スプリング50により、ロックリング44には矢印A2 方向に付勢力が与えられている。
【0058】ロックリング44には内歯56が設けられている。
【0059】フレーム10の側壁部14には、パウル58の基端側が、その開口58aに挿通された軸ピン60により枢着されている。このパウル58の先端はラチェットホイル38の外周面の歯に係合可能である。パウル58の中途部分には突出ピン62が突設されている。なお、前記の通り、軸ピン60にはタイプレート42の先端側の開口64も嵌合されている。この軸ピン60は、フレーム側壁部14の孔65に取り付けられている。
【0060】ロックリング44には、径方向に張り出す張出部66が一体的に設けられている。この張出部66は前記パウル58をC1 方向に回動させるためのものであり、該張出部66には、中心孔48に対して等半径位に延在する弧状の長孔70が設けられ、該長孔70にパウル58の突出ピン62が挿入されている。
【0061】ロックリング44の中心孔48を貫通してその外側に突出したリールシャフト40の角軸部40bに、フックリテーナ72の中心の角孔72aが嵌合されている。このフックリテーナ72の周縁部には、フック74を支持するための突部76、78が直径方向に対峙して突設されている。この突部76、78にフック74の孔80、82が挿入されており、これによりフックリテーナ72に対しフック74が突部76、78を結ぶ方向(B1 ,B2 方向)に直線的に往復動可能に支持されている。
【0062】このフックリテーナ72とフック74とのバネ係止部72b、74b間には圧縮コイルスプリング84が介装され、フック74は矢印B1 方向に付勢されている。なお、上記フック74の外周縁の一部には、前記ロックリング44の内歯56に係合可能な爪86が設けられている。また、フック74の外側面には連結ピン88が突設されている。
【0063】フック74は、通常時にあっては、圧縮コイルスプリング84に付勢されることにより矢印B1 方向にシフトした位置をとっており、この結果、爪86は内歯56から離脱している。
【0064】上記連結ピン88には、円板状のフライホイル90の外周縁近傍部分に設けられた係止孔92が嵌装されている。このフライホイル90には、全周にわたって外歯を有したギヤリング96が外嵌されている。フライホイル90の外周縁の切欠部90aには円弧状のスプリング98の折曲端部98aが装着されており、このスプリング98がギヤリング96の内周面に対し摺動自在に押し付けられ、これによりギヤリング96はフライホイル90に対して摩擦力を受けながら摺動回転可能とされている。
【0065】このギヤリング96の外周面の歯に係合するレバー102を有した加速度センサ100が前記フレーム側壁部14に取り付けられている。この加速度センサ100は、センサケース103内に傾転可能なウェイト104を収容し、センサケース103の上部にレバー102を回動可能に取り付けたものである。
【0066】所定値以上の加速度がウェイト104に加えられると、ウェイト104が傾き、このウェイト104に重なっていたレバー102が上方に押し上げられ、レバー102の先端がギヤリング96に係合する。この状態でシートベルト18が引き出されようとした場合、リール20の回転が次のようにして阻止される。
【0067】リール20が回転しようとすると、リール20の角形の角軸部40aと係合しているフックリテーナ72が第1,2図のA1 方向に回転する。このとき、フックリテーナ72の突部76、78が孔80、82に係合しているフック74もフックリテーナ72と共に矢印A1 方向に回転しようとする。ところが、フック74のピン88が係合しているフライホイル90の回転が停止している(即ち、停止したギヤリング96に対し円弧状スプリング98が押し付けられているため、フライホイル90は停止している。)ので、フック74はそのままの状態では回転できず、フックリテーナ72がA1 方向に回動した分だけフック74は矢印B2 方向にスライドし、爪86がロックリング44の内歯56と係合する。
【0068】この結果、フックリテーナ72及びフック74を介してロックリング44もリール20の回転にひきずられるようにして矢印A1 方向に回動する。そうすると、該ロックリング44の張出部66もA1 方向に回動し、該張出部66の長孔70に係合したピン62を有するパウル58が矢印C1 方向に回動する。これにより、パウル58の先端がリール20のラチェットホイル38に係合し、リール20が強固にロックされた状態となり、シートベルト18の引き出しが阻止される。
【0069】この緊急時ロック機構22はカバー106で覆われており、このカバー106はフレーム側壁部14に取り付けられている。
【0070】このカバー106の外側にロータリエンコーダ107が設置されている。このロータリエンコーダ107の入力軸107aは、リールシャフト40の先端の凹穴40dに係合されている。
【0071】このように構成されたシートベルトリトラクタにおいて、シートベルト18が引き出されていないときには、シートベルト18がトング自重で引き出されない程度のスプリング32付勢力が発生する位置にスプリングケース34が停止している。
【0072】シートベルト18の引き出しがロータリエンコーダ107によって検知されると、超音波モータ24はスプリング力を弱くするようにスプリングケース34をA1 方向に所定回数だけ回転させる。このスプリング力が弱い状態は、シートベルト18をシートベルトリトラクタから引き出してトングをバックルに装着するまで維持される。
【0073】このため、車両乗員は、シートベルトリトラクタからシートベルト18を引き出すときに殆ど抵抗力を受けることがなく、きわめて軽快にシートベルト18を引き出すことができる。
【0074】なお、このときのシートベルト18の引き出し量はロータリエンコーダ107によってリール20の回転量として検出されている。
【0075】トングをバックルに装着してバックルスイッチ122がONになると、超音波モータ24はスプリングケース34をスプリング32巻き締め方向に低速で所定回数だけ回転させ、スプリング32の巻取力を高める。このときの超音波モータ24の回転が低速であるため、該超音波モータ24の起動時の角加速度も小さい。このため、爪保持リング310に保持された爪は第5図(a)の状態のままとなり、爪保持リング310はリール20に対しフリーとなっている。従って、超音波モータ24はスプリングケース34のみを回転させ、スプリング32の巻取力のみが高められる。
【0076】スプリング32の巻取力が強められることにより、シートベルト18の緩みが除去され、シートベルト18が乗員にピッタリとフィットする。
【0077】このままでは乗員への圧迫感が強いので、次に、超音波モータ24によってスプリングケース34を所定回数だけスプリング32緩め方向(A1 方向)に回転させる。これにより、シートベルト18の圧迫感が低減ないし解消される。このときも、スプリングケース34のみが超音波モータ24によってA2 方向に回転する。爪保持リング310はリール20からフリーに回転する。
【0078】シートベルト18が装着された状態において、衝突が予測されるときには、超音波モータ24はスプリングケース34をA2 方向に急速に回転させる。そうすると、超音波モータ24の起動時の角加速度が大きいので、爪保持リング310に保持された爪330は、第5図(b)から(c)の状態となり、リール20に係合する。これにより、リール20が超音波モータ24によって直接的にA2 方向に回転され、シートベルト18が強力に巻き取られ、乗員がシートベルト18によって強力に拘束される。
【0079】なお、衝突の予測は、車間距離センサ124で検出される車間距離と、それを時間で微分して得られる車間距離の変化率とに基づいて行われる。この場合の車間距離とは、車両前方の車体や固定物体(例えばガードレール、立木、建物など)と車両との距離である。
【0080】衝突の危険性が解消したと制御ユニット120で演算されたときには、超音波モータ24がA1 方向に所要回数だけ回転され、再びシートベルト18が所定長さだけ送り出され、シートベルト18の圧迫感が低減ないし解消される。
【0081】バックルスイッチ122がOFFになると、超音波モータ24はスプリングケース34をスプリング32巻き締め方向(A2 方向)に回転させる。これにより、リール20は強力にかつ急速に回転し、シートベルト18が急速に巻き取られる。このときの超音波モータ24の回転も低速であり、起動時の角加速度は小さく、第5図(a)のように爪保持リング310はリール20からフリーに回転する。
【0082】上記実施の形態においては、慣性体360にガイド孔366を設け爪330にガイドピン334を設けているが、逆に爪330にガイド孔を設け慣性体360にガイドピンを設けても良い。
【0083】上記実施の形態においては、フレーム10にパウル58を軸支し、リール20に設けたラチェットホイル38に該パウル58を係合させているが、本発明では、リール20側にパウルを軸支し、孔28の内周面にラチェット歯を設け、パウルをこのラチェット歯に係合させるようにしても良い。
【0084】なお、本発明においては、火薬を動力発生源として用いた従来のプリテンショナを併用しても良い。この場合、車間距離センサ124が衝突を予知しなかった場合において実際の衝突が生じたときに火薬式のプリテンショナを作動させ、車間距離センサ124が衝突を検知し第2の超音波モータ224によってプリテンションをシートベルト18にかけた場合には、実際に衝突しても火薬式プリテンショナを作動させないようにしておくのが好ましい。
【0085】
【発明の効果】以上の通り、本発明によると、プリテンショナ機構を繰り返し作動させることができる。このプリテンショナ機構を超音波モータによって駆動させているため、作動時の騒音を低減できる。また、超音波モータに通電しないときの停止トルクが大きいので、クラッチをクラッチフリー状態に保持しておくための余分な機構が不要である。
【0086】本発明によると、超音波モータによって巻取スプリングの巻取力を調整し、シートベルト引き出し時にシートベルトを軽快に引き出すことができ、シートベルト装着時にはシートベルトを乗員にピッタリとフィットさせると共に乗員への圧迫感を軽減ないし解消し、その後トングをバックルから解離させたときにはシートベルトを強力かつすばやく巻き取ることが可能となる。
【0087】本発明では、プリテンショナ機構の作動と巻取スプリングの巻取力調節とを共通の1個の超音波モータによって行うことができるため、複数の超音波モータを用いる場合に比べシートベルトリトラクタを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るシートベルトリトラクタの分解斜視図である。
【図2】図1のプリテンショナ機構の拡大図である。
【図3】図1のクラッチ装置の拡大図である。
【図4】本発明に係るシートベルトリトラクタの断面図である。
【図5】本発明に用いられたクラッチ装置の作動説明図である。
【図6】図1のロック機構の拡大図である。
【図7】本発明に係るシートベルトリトラクタの斜視図である。
【図8】本発明における制御ブロック図である。
【符号の説明】
10 フレーム
12,14 側壁部
20 リール
24 超音波モータ
26 スプリング機構
31 第1のリールシャフト
32 巻取スプリング
33 カバーケース
34 スプリングケース
34c ケースシャフト
36 シャフト孔
37 ロータリエンコーダ
40 第2のリールシャフト
42 タイプレート
44 ロックリング
58 パウル
66 張出部
72 フックリテーナ
74 フック
76,78 突部
80,82 孔
90 ギヤリング
100 加速度センサ
104 凸部
107 ロータリエンコーダ
110 圧電素子列
112 環状ステータ
114 ロータ
120 制御ユニット
124 車間距離センサ
300 回転角加速度応動型クラッチ装置
310 爪保持リング
312 中心孔
316 六角シャフト
320 支持ピン
322 爪収容用凹部
324 凹部
330 爪
334 ガイドピン
360 慣性体
364 ストッパ片
366 ガイド孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シートベルトを巻き取るためのリールと、該リールに一端が接続されており、該リールをシートベルト巻取方向に付勢しているスプリングと、該スプリングの他端が連結されており、該スプリングの付勢力を変化させる方向に動き得る可動部材と、該可動部材を動かして上記付勢力を変える超音波モータと、車両の衝突を予知する予知手段と、該予知手段が衝突を予知するときには該超音波モータの駆動力を該リールに直接的に伝達して該超音波モータによって該リールを直接的にシートベルト巻取方向に回転させ、該予知手段が衝突を予知していないときには該超音波モータの駆動力の該リールへの直接的な伝達を断つ動力伝達手段とを備えてなるシートベルトリトラクタ。
【請求項2】 請求項1において、さらに、該スプリングにより生じる付勢力を検出する付勢力検出手段と、該付勢力検出手段で検出される付勢力が目標値となるように該超音波モータによって該可動部材を動かして付勢力を制御する付勢力制御手段と、を備えてなるシートベルトリトラクタ。
【請求項3】 請求項2において、前記可動部材はスプリングを囲んでいるスプリングケースであり、該スプリングケースは、前記リールの軸心回りに回動可能とされていることを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項4】 請求項3において、前記付勢力検出手段は、前記リールの回転量を検出する手段と、前記スプリングケースの回転量を検出する手段と、検出されたこれらの回転量の差から付勢力を演算する手段とを備えてなることを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項5】 請求項3又は4において、前記超音波モータは、シャフト孔が貫通したロータを備えており、前記リールの端面の軸心位置から突出したリールシャフトが該シャフト孔を回動自在に通り抜けており、該リールシャフトの先端側の外周に前記スプリングが巻回されており、該スプリングを囲んでいる前記スプリングケースは、該リールシャフトが回動自在に通り抜けていると共に該超音波モータの該ロータに連結されているケースシャフトを備えており、該リールの端面と該超音波モータとの間に前記動力伝達手段が設けられていることを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項6】 請求項5において、前記動力伝達手段は、前記リールの端面に設けられた内向歯と、前記リールシャフトにそれぞれ回転可能に外嵌している爪保持リング及びリング状慣性体と、該爪保持リングに基端側が支持されており、先端側が該爪保持リングの外周から突出して前記内向歯に係合しうるように該基端側を中心として回動可能となっている爪と、該爪保持リングと該慣性体との周方向の位相差によって該爪を回動させるように該爪保持リングと該慣性体との間に設けられた回転作動手段と、該爪保持リングと該慣性体との間の周方向の位相差を解消する方向に該慣性体を付勢するように両者の間に設けられた付勢部材と、を備えてなり、該爪保持リングが前記超音波モータのロータに連結されていることを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項7】 請求項6において、前記回転作動手段は、前記爪と慣性体との一方に設けられた長孔よりなるガイド孔と、他方に設けられ該ガイド孔に係合しているガイドピンとからなることを特徴とするシートベルトリトラクタ。
【請求項8】 請求項2ないし7のいずれか1項において、さらに、トングがバックルに係合したことを検出するトング係合検知手段が設けられており、前記付勢力制御手段は、シートベルト格納時のスプリングの付勢力をT1 とし、シートベルト引き出し後、トングがバックルに係合するまではスプリングの付勢力をT1 よりも小さいT2 とし、トングがバックルに係合した後は、一旦スプリングの付勢力をT2 よりも高いT3 とし、その後、付勢力をT3 よりも低いT4 とし、トングがバックルに対し非係合状態となったときには、シートベルト格納完了まで、付勢力をT1 及びT3 のいずれよりも高いT5 とすることを特徴とするシートベルトリトラクタ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図8】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate