説明

シートベルト用リトラクタ

【課題】車両が2回連続して衝撃を受ける場合にシートベルトの安全性を向上させるとともに、コストの高騰を伴わずに所定の法規を充足することが可能なシートベルト用リトラクタを提供する。
【解決手段】リトラクタ200は、トレッドヘッド230がロックされ、スピンドル210がウェビング120を引き出す方向に回転すると、第1雄ねじ溝262および雌ねじ溝284の噛み合いによってトレッドヘッド230に向かって回転しながらスライドするスライドナット280と、雌ねじ溝284および第2雄ねじ溝294の噛み合いによってスライドナット280に向かってスライドするスライダ290と、を備え、トーションバー220は第1軸部分220Aより第2軸部分220Bのほうが捻り剛性が大きく、間隙270より遊び300が先に解消されてスライドナット280およびスライダ290が一体化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルトを巻き取るシートベルト用リトラクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両が衝突等による衝撃を受けると、シートベルト装置のウェビング(ベルト)を巻き取るリトラクタはロックされ、相当の力で引き出さない限りそれ以上のウェビングの引出を不能にする。一方、リトラクタに設けられたプリテンショナも作動し、乗員の上体が前傾する前にウェビングを巻き取ってウェビングの緩みを解消する。これによってウェビングが乗員の身体に密着し、シートベルトの拘束性能が高まる(例えば特許文献1)。
【0003】
衝突の衝撃で乗員の上体が前傾し、乗員の体重がウェビングにかかり、この力が上記の相当の力を超えると、リトラクタのロードリミッタ機構が作動し、わずかにウェビングを引き出させる。これによって、ウェビングから乗員の体に加わる負荷が軽減され、乗員は肋骨骨折などの傷害を負わないように保護される。かかるロードリミッタ機構が作動すると乗員の上体はある程度前傾する(例えば特許文献2)。
【0004】
前傾した乗員の上体は、衝撃の発生によって作動したエアバッグにも支持され、前方のステアリングホイール等に乗員の頭部がぶつからないよう、乗員は保護される(例えば特許文献3)。
【0005】
一方、シートベルト装置は、所定の法規の要件を充足する必要もある。近年の衝突安全に関する法規によれば、乗員の体型に関わらず、ある程度の安全性を確保することが必要とされる。特に、米国のFMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standards)によれば、5パーセンタイル成人女性(AF5%)と50パーセンタイル成人男性(AM50%)とで、それぞれ衝突試験時の安全性要件が異なる。前者には小さい拘束力を与えれば安全性要件をクリアできるが、後者では少なくともそれと同等以上の拘束力を与えなければ安全性要件をクリアできない。
【0006】
かかる要件を充足するため、適応型ロードリミッタ(LLA:Load Limiter Adaptive)が提案されている。適応型ロードリミッタは、乗員検知センサによって検知された乗員の体格に基づき、ウェビングから乗員の体に加わる負荷(荷重)を切り替える機構を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−173103号公報
【特許文献2】特開2004−210005号公報
【特許文献3】特開2009−012661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし車両は2回連続して衝突による衝撃を受ける場合がある。例えば車道と歩道とを隔てる縁石に車両が乗り上げた衝撃が1回目、車両が止まらずさらにガードレールに衝突した衝撃が2回目となる。しかし、1回目の衝撃で作動したロードリミッタ機構が作動の余地を残していることがある。この場合2回目の衝撃で乗員がウェビングに体重をかけると、ロードリミッタ機構が再び作動して、乗員の身体をさらに前傾させるおそれがある。
【0009】
一方、リトラクタのプリテンショナおよびエアバッグは、1回目の衝撃で作動し、再び作動することはできない。したがって2回目の衝撃の際、ロードリミッタ機構は、プリテンショナおよびエアバッグが機能しない状態で作動することとなる。かかる状態でロードリミッタ機構による乗員の上半身の前傾が生じると、乗員が危険にさらされるおそれがある。
【0010】
また、所定の法規を充足するための適応型ロードリミッタには、乗員の体格を検知する乗員検知センサや負荷の切替機構が必要とされる。これはコストの高騰を招く。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、車両が2回連続して衝撃を受ける場合に、2回目の衝撃でロードリミッタ機構が作動することによる乗員の上体の前傾を防止し、シートベルトの安全性を向上させるとともに、コストの高騰を伴わずに所定の法規を充足することが可能なシートベルト用リトラクタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシートベルト用リトラクタの代表的な構成は、ウェビングを巻き取るスピンドルと、捻り剛性が異なる第1軸部分、第2軸部分およびそれらを連結する中間部を含み、スピンドル内部に挿入され、第1軸部分の端部でスピンドルに結合されたトーションバーと、トーションバーの第2軸部分の端部に結合されたトレッドヘッドと、トレッドヘッドに結合され、スピンドル内部に突出した円筒形状を有し、外面に第1雄ねじ溝を有する雄ねじ部と、トレッドヘッドから間隙をおいてスピンドル内部に配置され、スピンドルに対して回転不能かつ摺動可能であり、雄ねじ部の第1雄ねじ溝に噛み合う雌ねじ溝を内面に有し、トレッドヘッドが所定のロック機構によって回転を停止されスピンドルがウェビングを引き出す方向に回転すると、第1雄ねじ溝および雌ねじ溝の噛み合いによってトレッドヘッドに向かって回転しながらスライドするスライドナットと、中間部に対して回転不能かつ摺動可能であり、遊びを残してスライドナットの雌ねじ溝に噛み合う第2雄ねじ溝を外面に有し、スライドナットがトレッドヘッドに向かって回転しながらスライドすると、雌ねじ溝および第2雄ねじ溝の噛み合いによってスライドナットに向かってスライドするスライダと、を備え、第1軸部分より第2軸部分のほうが捻り剛性が大きく、間隙より遊びが先に解消されてスライドナットおよびスライダが一体化することを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、ロードリミッタは以下のように作動する。以下、1回目および2回目の衝突を、それぞれ、1回目衝突および2回目衝突と呼ぶ。1回目衝突が起こると、ロック機構によってトレッドヘッドはフレーム(車体)に固定され、回転が停止する。乗員の上体が前傾する前にプリテンショナが作動し、ウェビングを巻き取って緩みを取る。乗員の上体が前傾してウェビングに負荷をかけると、スピンドルがウェビングを引き出す方向に回転しようとする。トーションバーのうち、スピンドルに結合された第1軸部分の端部を経由してトーションバーにトルクが伝達される。トーションバーはこのとき、第2軸部分の端部でトレッドヘッドに結合されているため、トーションバー全体にトルクがかかる。このトルクが第1軸部分の捻り剛性を超えると、第1軸部分が捻れる。これにより、1回目衝突時のロードリミットが行われる。
【0014】
第1軸部分が捻れることにより、ウェビングを引き出す方向にスピンドルは回転する。このスピンドルの回転によって、スライドナットがトレッドヘッドに向かって回転しながらスライドする。一方、中間部は、捻り剛性が大きいために依然として捻れない第2軸部分に結合されているため、トレッドヘッドに対して相対的に回転しない。したがって、スライダは、絶対的には静止しているが、回転するスライドナットに対して相対的に回転する。これにより、スライダはスライドナットに向かってスライドする。
【0015】
トレッドヘッド方向へスライドするスライドナットをスライダが追いかけることとなるが、トレッドヘッド・スライドナット間の間隙より、スライドナット・スライド間の遊びが先に解消され、スライドナット・スライドの両者は一体となる。これにより、スピンドルからスライドナットへ入力されていたトルクがスライダに伝達され、さらに中間部に入力される。つまりトーションバーのうち第2軸部分だけにスピンドルのトルクが入力される。これは、当初よりスピンドルからトルクを受けている第1軸部分と、新しくスピンドルからのトルクを受けることとなった中間部との間には、位相ずれは発生せず、第1軸部分にはトルクはかからないからである。
【0016】
以上の動作によって、ロードリミッタ機構は、1回目衝突に対して小さな捻り剛性F1を用意し、2回目衝突に対して大きな捻り剛性F2を用意する。すなわち、ロードリミッタ機構は、1回目衝突に比較して、2回目衝突の時のほうが、より大きなウェビング引出力に耐える。2回目衝突時には、ウェビングを引き出す相当に大きな力がリトラクタにかからない限り、ロードリミッタ機構が作用せず、ウェビングが引き出されない。
【0017】
言い換えれば本発明では、2回目衝突時には、ロードリミッタ機構の作動より乗員の拘束が優先される。2回目衝突時には、1回目衝突時に作動済みのプリテンショナやエアバッグが使えないからである。つまり本発明は、2回目衝突において、ウェビングの過剰な拘束力のせいで乗員が受ける軽度の傷害を回避するより、エアバッグ等が作動しないために乗員が受けるおそれのある、より重度の傷害を回避することを優先するものである。
【0018】
また本発明によれば、ロードリミッタ機構の作動の前半に用意する小さな捻り剛性F1によって、低い負荷領域で、5パーセンタイル成人女性の体格の乗員のエネルギーを吸収可能である。そして後半に用意する大きな捻り剛性F2によって、高い負荷領域で、50パーセンタイル成人男性の体格の乗員のエネルギーを吸収可能である。
【0019】
大きな捻り剛性F2が後半に提供されるため、50パーセンタイル成人男性の体格を有する乗員の移動量は大きくなる。しかしエアバッグと協働することにより、所定の法規にて要求される安全性を確保可能である。
【0020】
仮に、前半に大きな捻り剛性を提供し、後半に小さな捻り剛性を提供した場合、50パーセンタイル成人男性の体格の乗員の移動量は小さく抑えられる。しかし5パーセンタイル成人女性の体格の乗員の上体は実質的に移動できず、ロードリミッタが作用しない可能性があり、過剰に強い拘束力で拘束されてしまうおそれがある。したがって本発明のように、前半に小さな捻り剛性F1を提供し、後半に大きな捻り剛性F2を提供することが、乗員の体格に関わらず乗員の安全性を確保できる点で望ましい。
【0021】
さらに本発明によれば、負荷の切替は自動的に行われるので、従来の適応型ロードリミッタが行う乗員の体格の検知やそれに応じた負荷の切替を必要としない。したがって乗員検知センサや負荷の切替機構が不要であるから、コストも高騰しない。
【0022】
上記遊びが解消されると、一体化したスライドナットおよびスライダはスライドを継続し上記の間隙を解消してさらにトレッドヘッドと一体化可能であるとよい。
【0023】
2回目衝突において、仮に第2軸部分の捻り剛性を超えるほどの強いトルクが作用し、ウェビングが引き出されると、一体となったスライドナットおよびスライダが回転しながらトレッドヘッドに向かってスライドし、上記の間隙が解消される。これによってスライドナット・スライダはさらにトレッドヘッドと一体化する。これがストッパの役目を果たし、これ以上スピンドルはウェビングを引き出す方向に回転できないため、早期にウェビングの引出は停止する。
【0024】
かかるストッパによってロードリミッタ機構を強制的に停止してしまうため、乗員が2回目衝突時にウェビングから受ける衝撃は大きなものになるおそれがある。しかし、エアバッグ等が機能しない状態でロードリミッタ機構が作動すれば、乗員は頭部をステアリングホイール等にぶつけるなど、より重篤な傷害を引き起こすことが懸念される。本発明ではかかる事態を回避するものである。
【0025】
上記間隙の長さは遊びの長さより長いとよい。スライドナットの雌ねじ溝のピッチがすべて等しければ、間隙および遊びの長さが解消される速度は等しく、長さが短い遊びのほうが先に解消されるからである。
【0026】
上記雌ねじ溝は、雄ねじ部の第1雄ねじ溝に噛み合う部分より、スライダの第2雄ねじ溝に噛み合う部分のほうが、ピッチが大きいとよい。間隙および遊びの長さが等しければ、大きなピッチで噛み合う雌ねじ・スライダの第2雄ねじ溝の間に形成される遊びのほうが先に解消されるからである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、車両が2回連続して衝撃を受ける場合に、2回目の衝撃でロードリミッタ機構が作動することによる乗員の上体の前傾を防止し、シートベルトの安全性を向上させるとともに、コストの高騰を伴わずに所定の法規を充足することが可能なシートベルト用リトラクタを提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるシートベルト用リトラクタの実施形態が適用されるシートベルト装置の構成を例示する図である。
【図2】図1のシートベルト用リトラクタの組立図である。
【図3】図2のリトラクタの構成を例示する断面図である。
【図4】図3のリトラクタの1回目衝突直後の状態を例示する図である。
【図5】図4、図7および図8の状態にわたる、リトラクタに作用するトルクFとウェビングの引出長さLとの関係を模式的に示すグラフである。
【図6】図3の各要素に置換可能な、変形したスライドナット、スライダおよび遊びを例示する図である。
【図7】図4の次の段階として2回目衝突直後の状態を例示する図である。
【図8】図7の次の段階として2回目衝突時にロードリミットが行われた後の状態を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0030】
(シートベルト装置)
図1は、本発明によるシートベルト用リトラクタの実施形態が適用されるシートベルト装置の構成を例示する図である。シートベルト装置100は、車両の座席110の肩部近傍で下方のリトラクタ収納部112から到来するウェビング120を車体側から車内側へ折り返して摺動させるスルーアンカ130を備えている。本実施形態にかかるシートベルト用リトラクタ200はリトラクタ収納部112内に収納されていて、実際には見えないが、図1では破線で例示している。
【0031】
スルーアンカ130によって折り返されたウェビング120の端部にはアンカプレート140が縫合されている。図1ではアンカプレート140は固定されていないが、実際には、ボルト等によってドア150と座席110との間の車体下端部に取り付けられる。スルーアンカ130とアンカプレート140との中間には、ウェビング120が挿通するタングプレート160が設けられている。タングプレート160が車両中央部に取り付けられたバックル170と係合し、シートベルト装置100は装着状態となる。
【0032】
(リトラクタ)
図2は図1のシートベルト用リトラクタ200(以下単に「リトラクタ200」と呼ぶ)の組立図である。リトラクタ200は、ウェビング120をその外周面で巻き取るスピンドル210を備える。スピンドル210の内部は空洞となっていて、ここに、ロードリミッタとして利用されるトーションバー220が挿入される。トーションバー220は、捻り剛性が異なる第1軸部分220A、第2軸部分220Bおよびそれらを連結する中間部220Cを含む。トーションバー220は、第1軸部分220Aより第2軸部分220Bのほうが大径であり、捻り剛性が大きい。
【0033】
リトラクタ200は、トレッドヘッド230を備え、これは、トーションバー220の第2軸部分220Bの端部に結合されている。トーションバー220が回転すると、そのトルクを受けるトレッドヘッド230も回転する。トレッドヘッド230は、所定のロック機構が作動すると回転を停止し、トーションバー220の第2軸部分220Bの端部を固定する。トレッドヘッド230はスピンドル210には結合されていない。
【0034】
リトラクタ200のロック機構としては、公知の種々の構成を採用してよい。本実施形態の場合、ロック機構は、ロックドッグ240を用いて行われる。図示しない加速度センサが車両衝突等で所定値より大きい水平方向の加速度を検出すると、所定のカム機構により、ロックドッグ240のピン240Aが径方向外方に移動する。これによりロックドッグ240の歯部240Bが、間接的にリトラクタフレーム250(図3)に係合し、スピンドル210によるウェビング120の引き出し動作がロックされる。
【0035】
リトラクタ200はプリテンショナを有し、これはピニオン242によって行われる。ピニオン242の近傍に図示しない駆動装置があり、衝突事故が発生すると、乗員の上体が前傾する前に、ガスを発生させる。ガスによって所定の経路を通じてピニオン242の溝244内に複数の玉(不図示)が連続して入れられる。玉によってピニオン242が回転し、そのトルクがトーションバー220を介してスピンドル210に伝達され、スピンドル210はウェビング120を巻き取る。このようにしてプリテンショナが作動する。
【0036】
図3は図2のリトラクタ200の構成を例示する断面図であり、図3(a)はリトラクタ200の全体を例示する。図3におけるトーションバー220の右端、すなわち第1軸部分220Aの端部は、スピンドル210に結合されている。したがって、リトラクタ200の非ロック時にウェビング120が矢印252方向に引き出され、スピンドル210が回転すると、そのトルクが第1軸部分220Aの端部からトーションバー220に入力される。トーションバー220はスピンドル210に連れ回り、トーションバー220からトルクが入力されるトレッドヘッド230も回転する。
【0037】
(雄ねじ部)
リトラクタ200は、トレッドヘッド230に結合された雄ねじ部260を有する。雄ねじ部260は、トレッドヘッド230からスピンドル210内部に突出する。雄ねじ部260は、トーションバー220を内部に挿入可能な円筒形状を有し、外面に第1雄ねじ溝262を有する。
【0038】
(スライドナットおよびスライダ)
図3(b)は図3(a)の一部拡大図である。リトラクタ200はスライドナット280を備え、これは、トレッドヘッド230から間隙270をおいてスピンドル210内部に配置されている。スライドナット280は、スピンドル210に対して回転不能かつ摺動可能であり、一体的に回転する。スライドナット280は、図2に例示するように、トーションバー220が挿入される貫通孔282を有する。
【0039】
図3(b)に例示するように、スライドナット280は、雄ねじ部260の第1雄ねじ溝262に噛み合う雌ねじ溝284を内面に有する。スライドナット280は、スピンドル210に対して相対的に回転不能であり、スピンドル210に連れ回る。
【0040】
またリトラクタ200は、スライダ290を備え、これも図3に例示するようにスピンドル210内部に配置されている。スライダ290は図3(a)のようにスピンドル210に配置されていて、中間部220Cに対して回転不能かつ摺動可能である。スライダ290はスピンドル210に対しては何ら結合関係になく、回転も摺動も可能である。スライダ290は、図2に例示するように、トーションバー220が挿入される貫通孔292を有する。スライダ290は、図3(b)のように、遊び300を残してスライドナット280の雌ねじ溝284に噛み合う第2雄ねじ溝294を外面に有する。
【0041】
(通常時の動作)
通常時、ウェビング120が乗員によって引き出されると、スピンドル210はウェビング120を引き出す方向(矢印252方向)に回転する。トーションバー220およびこれに結合されたトレッドヘッド230は、スピンドル210に連れ回る。雄ねじ部260、スライドナット280およびスライダ290は、それぞれ、トレッドヘッド230、スピンドル210および中間部220C(トーションバー220)に結合されているから、これらも連れ回る。したがって通常時には、雄ねじ部260、スライドナット280およびスライダ290の相互位置関係は変化しない。
【0042】
(ロードリミッタ機構)
図4は図3のリトラクタ200の1回目衝突直後の状態を例示する図である。図4(a)はリトラクタ200の全体図であり、図4(b)は図4(a)の部分拡大図である。本実施形態にかかるリトラクタ200のロードリミッタ機構について、以下、説明する。1回目衝突が起こると、図2のロックドッグ240を用いたロック機構によって、図3のトレッドヘッド230はフレーム250(車体)に固定され、回転が停止する。乗員の上体が前傾する前に、ピニオン242によってプリテンション機能が作動し、ウェビング120を矢印352方向に巻き取って緩みを取る。また図示しないエアバッグも作動する。
【0043】
プリテンショナ作動後、乗員の上体が前傾してウェビング120に負荷をかけると、スピンドル210がウェビング120を引き出す方向(矢印252方向)に回転しようとする。
【0044】
図4に例示するように、トーションバー220のうち、スピンドル210に結合された第1軸部分220Aの端部を経由してトーションバー220にトルクFが伝達される。トーションバー220はこのとき、第2軸部分220Bの端部でトレッドヘッド230に結合されているため、一点鎖線矢印で示すように、トーションバー220全体にトルクFがかかる。
【0045】
図5は図4、後述の図7および図8の状態にわたる、リトラクタ200に作用するトルクFとウェビング120の引出長さとの関係を模式的に示すグラフである。トルクFが第1軸部分220Aの捻り剛性F1に達すると、第1軸部分220Aだけが捻れる。これにより、ウェビング120は引出長さL1から引出長さL2まで引き出される。ウェビング120が引き出されるため乗員の上体にかかる負荷は軽減され、1回目衝突時のロードリミットが行われる。
【0046】
第1軸部分220Aだけが捻れるのは、第1軸部分220Aの捻り剛性F1が第2軸部分220Bの捻り剛性F2より小さいからである。図4の状態では、トルクFはトーションバー220全体に作用するものの、F=F1となった段階では、捻り剛性F2を有する第2軸部分220Bは捻れない。
【0047】
図4において第1軸部分220Aが捻れることにより、ウェビング120を引き出す方向にスピンドル210は回転する。すると、スライドナット280もこれに連れ回る。このとき第1雄ねじ溝262および雌ねじ溝284の噛み合いによって、スライドナット280は、トレッドヘッド230に向かって回転しながらスライドする。第1雄ねじ溝262および雌ねじ溝284の噛み合いは、本実施形態では、右ねじ方向になされている。
【0048】
スライドナット280がトレッドヘッド230に向かって上記のように回転しながらスライドすると、スライダ290は、スピンドル210には連れ回らないので、見かけ上は静止し、絶対的には回転しない。しかしスライダ290は、静止しているがために、スライドナット280に対して相対的に回転することとなる。
【0049】
したがってスライダ290は、雌ねじ溝284および第2雄ねじ溝294の噛み合いによって、スライドナット280に向かってスライドする。これは、第1雄ねじ溝262および雌ねじ溝284の噛み合いが右ねじ方向なのに対し、雌ねじ溝284および第2雄ねじ溝294の噛み合いが逆の左ねじ方向だからである。
【0050】
ここで、リトラクタ200のトレッドヘッド230がロックされたときにスピンドル210がウェビング120を引き出す方向(矢印252方向)に回転した場合(ロードリミッタ作動時)のスライドナット280およびスライダ290の動きをまとめる。スライドナット280はトレッドヘッド230に向かって(図3(a)の左方向へ)回転しながらスライドする。スライダ290はスライドナット280に向かって(図3(a)の左方向へ)スライドする。このようにスライドナット280およびスライダ290は、あたかも追いかけっこをするように同方向へ移動し、それぞれ、間隙270、遊び300を解消する方向に移動する。
【0051】
(間隙・遊び)
本実施形態では、上記の追いかけっこにより、間隙270より遊び300が先に解消されることが特徴である。すなわち、スライドナット280がトレッドヘッド230に到達するより先に、スライダ290がスライドナット280に追いつく。
【0052】
これは、図4(b)に明示するように、間隙270の長さが遊び300の長さより長いことで実現されている。スライドナット280の雌ねじ溝284のピッチがすべて等しければ、間隙270および遊び300の長さが解消される速度は等しく、長さが短い遊び300のほうが先に解消されるからである。
【0053】
図6は図4のスライドナット280、スライダ290および遊び300とそれぞれ置換可能な、変形したスライドナット380、スライダ390および遊び400を例示する図である。この変形例では、スライドナット380は、雄ねじ部260の第1雄ねじ溝262に噛み合う雌ねじ溝284と、これよりピッチが大きく、スライダ390の第2雄ねじ溝394に噛み合う雌ねじ溝384とを有する。間隙270および遊び400の長さdが等しいので、大きなピッチで噛み合う雌ねじ384・スライダ390の第2雄ねじ溝394の間に形成される遊び400のほうが先に解消される。
【0054】
図7は図4の次の段階を例示する図であり、2回目衝突直後の状態を例示する図である。図7では、1回目衝突時のロードリミットによって、既に第1軸部分220Aが捻れ、遊び300が解消され、スライドナット280・スライダ290が一体となっている。スピンドル210からスライドナット280へ入力されていたトルクFは、スライドナット280と一体化したスライダ290にも伝達される。このトルクFはさらに中間部220Cに入力される。つまり図7の一点鎖線矢印に示すように、トーションバー220のうち第2軸部分220Bだけにスピンドル210のトルクFが入力される。これは、当初よりスピンドル210からトルクFを受けている第1軸部分220Aと、新しくスピンドル210からのトルクFを受けることとなった中間部220Cとの間には、位相ずれが発生しないからである。したがって第1軸部分220AにはトルクFがかからない。
【0055】
なお2回目衝突直後に、既にスライドナット280・スライダ290が一体となっているとは限らない。しかし2回目衝突時にトルクFが第1軸部分220Aの捻り剛性F1を超えれば、スライドナット280・スライダ290は一体となり、早晩、図7の状態となる。2回目衝突時にトルクFが捻り剛性F1すら超えなければ、ロードリミッタは作動しないので、ロードリミッタ作動によって乗員が受ける傷害について考慮するまでもない。
【0056】
(ロードリミッタの捻り剛性)
以上の動作によれば、図5に例示するように、ロードリミッタ機構は、1回目衝突に対して小さな捻り剛性F1を用意し、2回目衝突に対して大きな捻り剛性F2を用意する。すなわち、ロードリミッタ機構は、1回目衝突に比較して、2回目衝突の時のほうが、より大きなウェビング120の引出力に耐える。2回目衝突時には、ウェビング120を引き出す相当に大きな力がリトラクタ200にかからない限り、ロードリミッタ機構が作動せず、ウェビング120が引き出されない。
【0057】
言い換えれば本実施形態では、2回目衝突時には、ロードリミッタ機構の作動より乗員の拘束が優先される。2回目衝突時には、1回目衝突時に作動済みのプリテンショナやエアバッグが使えないからである。つまり本実施形態は、2回目衝突において、ウェビング120の過剰な拘束力のせいで乗員が受ける軽度の傷害を回避するより、エアバッグ等が作動しないために乗員が受けるおそれのある、より重度の傷害を回避することを優先し、これに成功した。
【0058】
また本実施形態によれば、ロードリミッタ機構の作動の前半に用意する小さな捻り剛性F1によって、低い負荷領域で、5パーセンタイル成人女性の体格の乗員のエネルギーを吸収可能である。そして後半に用意する大きな捻り剛性F2によって、高い負荷領域で、50パーセンタイル成人男性の体格の乗員のエネルギーを吸収可能である。
【0059】
大きな捻り剛性F2が後半に提供されるため、50パーセンタイル成人男性の体格を有する乗員の移動量は大きくなる。しかしエアバッグと協働することにより、所定の法規にて要求される安全性を確保可能である。
【0060】
仮に、前半に大きな捻り剛性を提供し、後半に小さな捻り剛性を提供した場合、50パーセンタイル成人男性の体格の乗員の移動量は小さく抑えられる。しかし5パーセンタイル成人女性の体格の乗員の上体は実質的に移動できず、ロードリミッタが作用しない可能性があり、過剰に強い拘束力で拘束されてしまうおそれがある。したがって本実施形態のように、前半に小さな捻り剛性F1を提供し、後半に大きな捻り剛性F2を提供することが、乗員の体格に関わらず乗員の安全性を確保できる点で望ましい。
【0061】
本実施形態によれば、50パーセンタイル成人男性の体格を有する乗員の場合、55km/h程度の正面衝突において、大径の第2軸部分220Bも捻られることになる。一方、5パーセンタイル成人女性の体格の乗員の場合には、55km/h程度の正面衝突において、小径の第1軸部分220Aだけが捻られることとなる。
【0062】
さらに本実施形態によれば、小さな捻り剛性F1から大きな捻り剛性F2に変化することによる負荷の切替は、自動的に行われる。したがって従来の適応型ロードリミッタが行う乗員の体格の検知やそれに応じた負荷の切替を必要としない。乗員検知センサや負荷の切替機構が不要であるから、コストも高騰しない。
【0063】
多くの場合、1回目衝突で車両は減速するため、2回目衝突のほうが衝撃は小さくなる。しかし、2回目衝突のほうが衝撃が大きくなる可能性もある。2回目衝突において、スピンドル210から加えられるトルクFが第2軸部分220Bの捻り剛性F2に達すると、図5に例示するように、第2軸部分220Bが捻れる。これにより、ウェビング120は引出長さL2から引出長さL3まで引き出される。ウェビング120が引き出されるため乗員の上体にかかる負荷は軽減され、2回目衝突時のロードリミットが行われる。
【0064】
(ストッパ)
図8は図7の次の段階を例示する図であり、2回目衝突時にロードリミットが行われた後の状態を例示する図である。2回目衝突時のロードリミットによりウェビング120が引き出されると、第2軸部分220Bが捻れ、一体となったスライドナット280およびスライダ290が回転しながらトレッドヘッド230に向かってスライドする。これにより、図8のように、間隙270が解消され、スライドナット280・スライダ290はさらにトレッドヘッド230と一体化する。これがストッパの役目を果たし、これ以上スピンドル210はウェビング120を引き出す方向に回転できない。したがって、早期にウェビング120の引出は停止する。図5にも例示するように、ウェビング120の引出長さLが所定の値L3になるとストッパが作用し、その後トルクFをいくら増大させても、ウェビング120の引出長さLは長くならない。
【0065】
既に述べたように、本実施形態では、2回目衝突に対して、より大きな捻り剛性F2を用意することで、エアバッグ等が作動しないために乗員が受けるおそれのある、より重度の傷害を回避することを優先している。それにも拘らずロードリミッタ機構が作動してしまった場合にも、図8のように、上記のストッパによって、ロードリミッタ機構を強制的に停止する。このように本実施形態は、大きな捻り剛性F2とストッパという、2重の措置によって、2回目衝突時に乗員が受けるおそれのある、より重篤な傷害を回避している。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0067】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、車両のシートベルトを巻き取るシートベルト用リトラクタに利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
100 …シートベルト装置、110 …座席、112 …リトラクタ収納部、120 …ウェビング、130 …スルーアンカ、140 …アンカプレート、150 …ドア、160 …タングプレート、170 …バックル、200 …リトラクタ、210 …スピンドル、220 …トーションバー、220A …第1軸部分、220B …第2軸部分、220C …中間部、230 …トレッドヘッド、240 …ロックドッグ、242 …ピニオン、250 …フレーム、260 …雄ねじ部、262 …第1雄ねじ溝、270 …間隙、280、380 …スライドナット、282、292 …貫通孔、284、384 …雌ねじ溝、290、390 …スライダ、294、394 …第2雄ねじ溝、300、400 …遊び

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングを巻き取るスピンドルと、
捻り剛性が異なる第1軸部分、第2軸部分およびそれらを連結する中間部を含み、前記スピンドル内部に挿入され、第1軸部分の端部で該スピンドルに結合されたトーションバーと、
前記トーションバーの第2軸部分の端部に結合されたトレッドヘッドと、
前記トレッドヘッドに結合され、前記スピンドル内部に突出した円筒形状を有し、外面に第1雄ねじ溝を有する雄ねじ部と、
前記トレッドヘッドから間隙をおいて前記スピンドル内部に配置され、該スピンドルに対して回転不能かつ摺動可能であり、前記雄ねじ部の第1雄ねじ溝に噛み合う雌ねじ溝を内面に有し、前記トレッドヘッドが所定のロック機構によって回転を停止され前記スピンドルがウェビングを引き出す方向に回転すると、第1雄ねじ溝および雌ねじ溝の噛み合いによって前記トレッドヘッドに向かって回転しながらスライドするスライドナットと、
前記中間部に対して回転不能かつ摺動可能であり、遊びを残して前記スライドナットの雌ねじ溝に噛み合う第2雄ねじ溝を外面に有し、該スライドナットが前記トレッドヘッドに向かって回転しながらスライドすると、該雌ねじ溝および第2雄ねじ溝の噛み合いによって該スライドナットに向かってスライドするスライダと、
を備え、
第1軸部分より第2軸部分のほうが捻り剛性が大きく、
前記間隙より前記遊びが先に解消されて前記スライドナットおよびスライダが一体化することを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
前記遊びが解消されると、前記一体化したスライドナットおよびスライダはスライドを継続し前記間隙を解消してさらに前記トレッドヘッドと一体化可能であることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
前記間隙の長さは前記遊びの長さより長いことを特徴とする請求項1または2に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
前記雌ねじ溝は、前記雄ねじ部の第1雄ねじ溝に噛み合う部分より、前記スライダの第2雄ねじ溝に噛み合う部分のほうが、ピッチが大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のシートベルト用リトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−105281(P2011−105281A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265714(P2009−265714)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】