説明

シートベルト装置

【課題】ウェビング引出時でも高精度にボビンの回転状態を検出可能なシートベルト装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるシートベルト装置100は、ウェビングを巻き取るボビン106と、ボビン106の回転軸110に連結された略円板状の磁気ディスク126と、磁気ディスク126の周囲の外側に配置され磁気ディスク126の回転状態を検出する非接触式のホール素子130A、130Bとを備え、ホール素子130A、130Bは、磁気ディスク126の半径方向であって、ウェビングがボビン106から引き出される方向157と略直交する方向に配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに着座した乗員をウェビングによって拘束するシートベルト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に装備されるシートベルト装置は乗員拘束用のウェビングがリトラクタ内のボビン(ベルトリールまたはスピンドルとも呼ばれる)に巻回され、装着時にリトラクタから引き出されるようになっている。この種のシートベルト装置はボビンの一端に回転軸が突設され、その回転軸が巻取ばねによって回転付勢されるようになっている。
【0003】
近年、この種のシートベルト装置として、ボビンの回転軸にクラッチを介してモータを接続し、ウェビングの弛み取りや緊急引き込みをモータの動力で行うものが開発されている(例えば特許文献1および特許文献2)。
【0004】
このようなシートベルト装置は、ボビンに突設された回転軸にモータ動力を断接操作するクラッチが設けられ、クラッチと巻取ばねとの間に、ボビンの回転状態(回転方向や回転量、回転速度等)を検出する回転検出手段が設けられている。回転検出手段の検出結果は、モータ制御用のコントローラに出力される。
【0005】
回転検出手段は、円周方向の位置に応じて磁性の異なる磁性回転体(磁気ディスク)と、磁性回転体の回転に応じた磁気変化を検出するホール素子等の磁気センサとを含む。磁性回転体はボビンの回転軸上のクラッチと巻取ばね間位置に一体に取り付けられている。磁気センサは磁性回転体と非接触に配置されている。
【0006】
上記の構成において、ウェビングの引出や巻取に応じてボビンが回転すると、磁性回転体がボビンと一体に回転し、そのときの磁性回転体の周囲の磁気変化が非接触式の磁気センサに伝達され、回転状態が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−238866号公報
【特許文献2】特開2000−335368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のように、ウェビングはリトラクタから上方へ引き出される構成となっていることが多い。したがってウェビングを巻き取っているベルトリールは、ウェビングが引き出される間、引出方向である上方向への力を受ける。しかしベルトリールの回転軸にわずかでも遊びがあれば、ウェビング引出中に上方向への力を受けるベルトリールがわずかに上昇し、引出が終了すると重力によって下降して元に戻る。すなわちベルトリールのガタつきが生じる。
【0009】
このようなわずかなガタつきでも、磁性回転体(磁気ディスク)と、その周囲から半径方向に離れて設置されている非接触の磁気センサとの距離が変化する。これによって、仕様を逸脱するほどではないにせよ、ボビンの回転状態の検出精度に悪影響を及ぼす可能性があった。
【0010】
特許文献2によれば、センサエレメントの検出方向は、連結ディスク(磁性回転体)に対して垂直方向になっている。したがって、ガタつきが生じてもセンサエレメントと連結ディスクとの距離は変化せず、特許文献1のような検出精度への悪影響は生じない。しかし、連結ディスクの回転状態を精度よく検出するためには、多数のセンサエレメントを連結ディスクの周囲であって厚み方向(上記の垂直方向)に配置せざるを得ない。このような構成とした場合、装置の大型化、高コスト化は避けられない。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑み、ウェビング引出時でも高精度にボビンの回転状態を検出可能なシートベルト装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシートベルト装置の代表的な構成は、ウェビングを巻き取るボビンと、ボビンの回転軸に連結された略円板状の回転子と、回転子の周囲の外側に配置され回転子の回転状態を検出する非接触式のセンサとを備え、センサは、回転子の半径方向であって、ウェビングがボビンから引き出される方向と略直交する方向に配置されていることを特徴とする。
【0013】
上記構成において、ウェビングが上方向に引き出されるようにシートベルト装置を車体に設置すれば、ボビンの回転軸は略水平方向に延びることとなり、ボビンには上下のガタつきが生じる。しかし、ボビンのガタつきに影響されることなく、ウェビング引出時でも高精度にボビンの回転状態を検出可能となる。
【0014】
これは、本発明によれば、非接触のセンサを、ボビンの回転軸と実質的に等しい高さに設置することとなるからである。言い換えれば、本発明では、ウェビング引出方向と略90度の角度をなす水平方向(回転子の左右いずれか)にセンサが配置されている。そのため、ボビンが上下にガタついても、回転子とセンサとの距離の変化は小さく、ボビンの回転状態の検出精度に及ぼす影響はほとんどない。
【0015】
上記ボビンの回転軸は実質的に車長方向または車幅方向に延びていてよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ウェビング引出時でも高精度にボビンの回転状態を検出可能なシートベルト装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかるシートベルト装置の実施形態の分解図である。
【図2】図1のシートベルト装置の組立後の一部拡大図である。
【図3】図1のホール素子ケースの分解図である。
【図4】図2との比較例であるシートベルト装置を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
(シートベルト装置100)
図1は、本発明にかかるシートベルト装置100の実施形態の分解図である。図2は図1のシートベルト装置100の組立後の一部拡大図である。図2(a)は図1の磁性リング124の正面図であり、図2(b)は図1および図2(a)のA−A断面図である。シートベルト装置(リトラクタ)100は、ウェビングを巻き取るボビン(スピンドルまたはベルトリールとも称する)106(図2(b)参照)を含む。ボビン106はリトラクタフレーム(図示省略)に回転可能に支持され、ボビン106の回転軸110が外部に突出している。
【0020】
ボビン106の回転軸110は、図2に例示するように、動力伝達ユニット116に含まれるラッチリング108およびギヤ機構109に連結されている。ラッチリング108はギヤ機構109を介して、モータ118からの動力を断接され、モータ118に連動可能に接続されている。
【0021】
動力伝達ユニット116には、ボビン106の回転軸110に同軸に連結される回転軸120が突出して設けられている。動力伝達ユニット116内のラッチリング108は、モータ118が駆動されているときのみモータ118と回転軸120(ボビン106)とを接続状態にする。ラッチリング108はまた、モータ118が非駆動状態のときにモータ118と回転軸120(ボビン106)との接続を遮断するよう構成されている。ラッチリング108やギヤ機構109を収容する動力伝達ユニット116のケーシング122は樹脂材料によって形成されている。
【0022】
回転軸120の前端部には、略円板状の回転子として、外周に磁性リング124を備えた磁気ディスク(磁性回転体)126が連結されている。磁気ディスク126はラッチリング108を介してボビン106に常に連結されていて、ボビン106に忠実に連動してボビン106と等しい角速度で回転する。磁気ディスク126の軸心位置には連結軸128が突出している。磁性リング124は、図2(a)に例示するように、円周方向に沿ってN極/S極の異磁極が交互に現れるように着磁され、円周方向の位置に応じて磁性が異なっている。
【0023】
シートベルト装置100は巻取ばね134を備えている。巻取ばね134は、磁気ディスク126と一体の連結軸128に結合されていて、ボビン106をウェビング巻取方向に回転付勢する。巻取ばね134は、ゼンマイばねによって構成され、その内周端が連結軸128に結合される一方で、外周端がシートベルト装置100の前部カバー136の内壁に結合されている。この前部カバー136は後部カバー137と組み合わされ、内部空間に磁気ディスク126および巻取ばね134を収容する。
【0024】
図3は図1のホール素子ケース148の分解図である。略円弧状を呈する樹脂製のホール素子ケース148内には、一対のホール素子130A、130B(磁気センサ)を実装した基板141が保持されている。基板141にはその他、基板141に形成されるセンサ回路を外部とつなぐハーネス149、センサ回路を構成するツェナーダイオード151およびキャパシタ153、ハーネス149等をガイドするヨーク155等が実装される。このような基板141を備えるホール素子ケース148は、図1に例示するように、後部カバー137内のセンサ設置スペース146に配置される。
【0025】
したがって、図1のシートベルト装置100を組み立てると、図2(a)に模式的に示すように、磁気ディスク126の周囲の外側に、円周方向で離間した一対のホール素子130A、130Bが、磁気ディスク126と非接触に、しかし近接配置されることとなる。ホール素子130A、130Bは、磁気ディスク126の回転状態、すなわちボビン106の回転状態を検出する非接触式のセンサである。
【0026】
一対のホール素子130A、130Bは、基板141に実装される信号処理用のセンサ回路を介して図示しないコントローラに接続されている。このコントローラによってボビン106の回転状態が検出されるが、その原理については例えば特許文献1に記載の通りであり、省略する。
【0027】
(ホール素子130A、130Bの配置)
本実施形態の特徴は、ホール素子130A、130Bが、磁気ディスク126の半径方向であって、ウェビング(図示省略)がボビン106から引き出される方向157と略直交する方向(図2(a)における左側)に配置されていることである。本実施形態ではこのように磁気ディスク126の左側だけにホール素子130A、130Bが設けられているが、磁気ディスク126の右側だけに設けてもよいし、回転状態の検出精度を高めるために左右両側に設けてもよい。
【0028】
上記構成において、ウェビングが引き出される方向157方向が上方向であれば、ボビン106の回転軸110は略水平方向に延びることとなり、ボビン106には方向157に沿った上下のガタつきが生じる。しかし、ホール素子130A、130Bは、ボビン106のガタつきに影響されることなく、ウェビング引出時でも高精度にボビン106の回転状態を検出可能となる。
【0029】
これは、本実施形態によれば、非接触のホール素子130A、130Bを、ボビン106の回転軸110と実質的に等しい高さに設置することとなるからである。言い換えれば、本実施形態では、ウェビング引出方向157と略90度の角度をなす水平方向(磁気ディスク126の左右いずれか)にホール素子130A、130Bが配置されている。そのため、ボビン106が上下にガタついても、磁気ディスク126とホール素子130A、130Bとの距離D1の変化は小さく、ホール素子130A、130Bは磁気ディスク126からの磁力を安定して受けることができる。したがってボビン106の回転状態の検出精度に及ぼす影響はほとんどない。
【0030】
ホール素子130A、130Bはボビン106の回転状態を検出する原理上、円周方向で離間している必要がある。したがって、「略90度」と記載したように、ホール素子130A、130Bはいずれも、ウェビング引出方向157と厳密に90度の角度をなす水平方向に配置されるとは限らない。ホール素子130A、130Bのいずれもがウェビング引出方向157と90度±20度程度の角度をなす範囲に配置されていれば望ましい。
【0031】
図4は図2との比較例であるシートベルト装置10を例示する図である。本実施形態に比較すると、比較例のシートベルト装置10では、ウェビング引出方向157に沿った位置(磁気ディスク126の下方)にホール素子130A、130Bを配置している。この場合、磁気ディスク126の連結軸128と前部カバー136との間に遊びG1、G2があるため、ボビン106が上下にガタつくことにより、磁気ディスク126とホール素子130A、130Bとの距離D2が変化し、ボビン106の回転状態の検出精度に悪影響を及ぼす可能性がある。ウェビングが引き出される方向157、すなわちボビン106のガタつく重力方向に沿って磁気ディスク126とホール素子130A、130Bとが配置されているからである。
【0032】
ボビン106の回転軸110は実質的に車長方向または車幅方向のいずれに沿って延びていてもよい。前者の場合、ホール素子130A、130Bは磁気ディスク126の中心から見て車幅方向に配置される。後者の場合、ホール素子130A、130Bは磁気ディスク126の中心から見て車長方向(車両前後方向)に配置される。前者・後者のいずれの構成でもよいが、前者のように、回転軸が車長方向に延びていて、ウェビングの表裏面が車両左右を向いた状態のほうが好ましい。後者の場合、引き出されたウェビングを約90度捩じってスルーアンカ(図示省略)に通す必要が生じるからである。
【0033】
本実施形態ではホール素子130A、130Bを用いて、非接触式にスピンドルの回転状態を検出している。ただし磁気ディスク126の回転状態を検出する非接触式のセンサであれば、いかなる種類のセンサであっても、本実施形態を適用可能である。例えばRF−ID(ICタグ)、赤外線、光などの媒体や方式を用いたセンサが考えられる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0035】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、車両のシートに着座した乗員をウェビングによって拘束するシートベルト装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
100 …シートベルト装置
106 …ボビン
108 …ラッチリング
109 …ギヤ機構
110 …回転軸
116 …動力伝達ユニット
118 …モータ
122 …ケーシング
124 …磁性リング
126 …磁気ディスク
128 …連結軸
130A、130B …ホール素子
134 …巻取ばね
136 …前部カバー
137 …後部カバー
141 …基板
146 …センサ設置スペース
148 …ホール素子ケース
149 …ハーネス
151 …ツェナーダイオード
153 …キャパシタ
155 …ヨーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングを巻き取るボビンと、
前記ボビンの回転軸に連結された略円板状の回転子と、
前記回転子の周囲の外側に配置され該回転子の回転状態を検出する非接触式のセンサとを備え、
前記センサは、前記回転子の半径方向であって、前記ウェビングが前記ボビンから引き出される方向と略直交する方向に配置されていることを特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
前記ボビンの回転軸は実質的に車長方向または車幅方向に延びていることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−224166(P2012−224166A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92446(P2011−92446)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】