説明

シート材搬送装置および画像形成装置

【課題】 カールを生じやすいシート材や剛性が弱いシート材を搬送する場合でも、プラテンに適正に吸着させることにより搬送精度の低下や搬送の動作不良を防止することができるシート材搬送装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】 搬送面に複数の吸引穴24を有するプラテン14と、吸引穴に吸着力を発生する吸引手段25、26と、プラテンの搬送上流から搬送下流へシート材1を搬送する搬送手段10、12と、を備える。吸引穴を開閉することにより吸着力を調整する吸引穴調整手段27(30)、28を備える。吸引穴調整手段は、シート材に対する吸着力が搬送方向と交差する方向に一様になる第1の設定と、シート材の搬送方向と交差する方向の両端部の吸着力が中間部よりも高くなる第2の設定に、選択的に制御可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材をプラテンに吸着した状態で搬送するシート材搬送装置、および該シート材搬送装置を用いる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写機などの画像形成装置においては、記録媒体や原稿などのシート材を搬送するシート材搬送装置が用いられている。画像形成装置には、インクジェット方式、熱転写方式、レーザービーム方式など、種々の画像形成方式が使用されている。また、シート材搬送装置として、画像を形成する際にプラテンの搬送面にシート材を吸着させながら搬送する構成のものがあり、特許文献1には、かかる構成のシート材搬送装置を用いる記録装置が開示されている。特許文献1のシート材搬送装置は、シート材の搬送方向と交差(通常では直交)する方向の幅寸法に応じて吸着力を発生するプラテン上の吸引エリアを変更する吸引エリア変更手段を備えている。吸引エリア変更手段を用いることにより、シート材の吸引性能の低下を防止し、記録ヘッドとシート材とを接触させずに搬送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−153604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の画像形成装置では、シート材の端部が跳ね上がりやすいカール特性を有するシート材に画像を形成する際、吸引効率を高めるとともに吸着力を高めてシート材のカール発生を防止している。これにより、記録ヘッドとシート材との接触を防止して良好な画像形成を実施可能にしている。しかしながら、従来例では、搬送方向の剛性が弱い(腰が弱い)シート材に同様の吸着動作を適用した場合、シート材がプラテン上で座屈して記録ヘッドと接触し、画像形成面が汚れることがある。また、画像形成が進行してシート材の座屈量が増加すると、シート材の端部が記録ヘッド等からなる画像形成部に衝突し、紙ジャムが発生したり、部品の破損を招くこともある。さらに、インク吸収能力が限界レベルに達したシート材に記録する場合、シート材裏面へのインク浸透によってシート材がプラテン面の形状をならってしまい、搬送抵抗が増加することで座屈が生じやすくなることもある。その場合、シート材に対して吸着による搬送抵抗も加わるため、シート材が搬送不能となる可能性もある。
【0005】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、カールを生じやすいシート材や剛性が弱いシート材を搬送する場合でも、プラテンに適正に吸着させることにより搬送精度の低下や搬送の動作不良を防止することができるシート材搬送装置および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、搬送面に複数の吸引穴を有するプラテンと、前記吸引穴に吸着力を発生する吸引手段と、前記吸引穴を開閉することにより前記吸着力を調整する吸引穴調整手段と、前記プラテンの搬送上流から搬送下流へシート材を搬送する搬送手段と、を備えたシート材搬送装置において、前記吸引穴調整手段は、シート材に対する前記吸着力が搬送方向と交差する方向に一様になる第1の設定と、シート材の搬送方向と交差する方向の両端部における吸着力が中間部における吸着力よりも高くなる第2の設定に、選択的に制御可能であることを特徴とする。
【0007】
別の本発明は、搬送面に複数の吸引穴を有するプラテンと、前記吸引穴に吸着力を発生する吸引手段と、前記吸引穴を開閉することにより前記吸着力を調整する吸引穴調整手段と、前記プラテンの搬送上流から搬送下流へシート材を搬送する搬送手段と、前記プラテンの搬送面上のシート材に画像を形成する画像形成手段と、を備えた画像形成装置において、前記吸引穴調整手段は、シート材に対する前記吸着力が搬送方向と交差する方向に一様になる第1の設定と、シート材の搬送方向と交差する方向の両端部における吸着力が中間部における吸着力よりも高くなる第2の設定に、選択的に制御可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カールを生じやすいシート材や剛性が弱いシート材を搬送する場合でも、プラテンに適正に吸着させることにより搬送精度の低下や搬送の動作不良を防止することができるシート材搬送装置および画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】画像形成装置のシート材搬送装置のプラテン構造の分解斜視図
【図2】プラテンと可動部材(吸引穴調整手段)の部分平面図
【図3】吸引穴調整手段の動作を示す部分平面図
【図4】プラテンの吸引穴の開閉状態を示す平面図とシート材の幅方向の吸着力の分布を示すグラフ
【図5】画像形成装置の別の実施形態に係るプラテン構造の分解斜視図
【図6】画像形成装置の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応部分を示すものである。
〔第1の実施形態〕
図6は画像形成装置の斜視図である。本実施形態では、画像形成装置がインクジェット方式の画像形成手段を備えたインクジェット記録装置である場合を例示する。インクジェット方式は、画像情報に基づいて記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して画像を記録する方式である。また、記録媒体であるシート材としてロール紙(連続紙)を使用する場合を例示する。ロール紙であるシート材1は、給紙部のロール支持ガイド2に解き出し可能に巻回されており、解き出されたロール紙は記録ヘッド8を有する画像形成部へ搬送される。記録ヘッド8は、装置本体に設置されたガイドシャフト9に沿って往復移動可能に支持されたキャリッジ6に搭載されている。装置本体には、シート材を搬送するための紙送りモータ13とキャリッジ6を駆動するためのキャリッジモータ3が設けられている。紙送りモータ13は、不図示のタイミングベルトを介してラインフィードローラ10を回転駆動し、これに押圧されて従動回転するピンチローラ12によって搬送力が付与される。
【0011】
ラインフィードローラ10の一端部にはエンコーダフィルム11が一体に設けられ、不図示のエンコーダセンサでエンコーダフィルム11のスリットを読み取ることにより回転量(搬送量)を制御する。キャリッジモータ3は、記録ヘッド8によりシート材1を主走査するためのモータであり、キャリッジ6を主走査方向Xに沿って移動させる。キャリッジモータ3の回転軸にはプーリ4が設けられており、プーリ4に張架されたタイミングベルト5にキャリッジ6が連結されている。キャリッジモータ3の正逆方向の回転により、キャリッジ6がガイドシャフト9に案内されてプラテン14の上方を平行に移動する。キャリッジ6上の記録ヘッド8のプラテン14と対向するフェイス面には、ブラックインクおよび各色カラーインクを吐出するための複数のノズル列が設けられており、各ノズル列はインクカートリッジ7から供給されたインクを画像情報に基づいて記録媒体(ロール紙)1に吐出することで画像を形成していく。
【0012】
キャリッジ6の往復移動による記録ヘッド8の主走査方向Xの動作と、ラインフィードローラ10によりロール紙1を所定量ずつ引き出しながら搬送する副走査方向Yの動作と、を交互に繰り返すことにより1頁分の画像を形成する。このように、画像形成装置には、キャリッジ6に搭載された記録ヘッド8により、プラテン14の搬送面上のシート材1に画像を形成する画像形成手段が設けられている。また、画像形成装置には、ラインフィードローラ10およびピンチローラ12を有し、シート材1をプラテン14の搬送上流側から搬送下流側へ搬送する搬送手段を備えたシート材搬送装置が設けられている。
【0013】
プラテン14の搬送下流側には記録されたシート材(ロール紙)1を切断するための切断手段が設けられており、この切断手段はロータリカッタ15とカッタ下ガイド16を有する。ロータリカッタ15は、シート材1上に1頁分の画像形成を完了するごとに、カッタ下ガイド16に搬送方向と交差する方向に形成されたガイド溝16aに沿って往復移動することにより、シート材1を所定長となる頁間で切断する。ロール紙の場合は、ロール紙の着脱の際にも切断が行われる。切断手段の搬送下流側に配される排紙部は、画像形成されたシート材1を装置本体外へ排出するための排紙ガイド17を有する。切断手段により切り離された記録済み部は排紙ガイド17に沿ってスタッカ部等へ落下する。
【0014】
キャリッジ6の移動範囲であって画像形成領域を外れた位置には、記録ヘッド8のインク吐出性能の維持回復を図るための回復部が設けられている。回復部は、キャップ22を記録ヘッド8に密着離間させるキャッピング装置20と、キャップ22に接続されたポンプユニット21と、記録ヘッド8のフェイス面を払拭するためのワイピング装置(不図示)などを備えている。画像形成を行わない待機状態になり、キャリッジ6が記録領域から非記録領域に移動すると、不図示のレバーにキャリッジ6が当接することでキャッピング装置20が上昇し、記録ヘッド8のノズルを密閉する。記録ヘッド8のノズルに目詰まりが生じないようにする場合や、インクカートリッジ7の交換を行った後に記録ヘッド8から強制的にインクを吐出させるクリーニング動作を行う場合には、記録ヘッド8のノズルを密閉した状態でポンプユニット21を作動させる。そして、ポンプユニット21からの負圧により、記録ヘッドのノズルからインクを吸い出す。これにより、ノズルの近傍に付着している異物が洗浄され、ノズル内の気泡や増粘インクがインクとともにキャップ22内に排出される。画像形成装置には、ユーザが装置の各種設定を指示するための入力パネル18を有する入力部や、装置周辺の環境情報を検知する環境検知手段23が設けられている。環境検知手段23としては、例えば温度または湿度を検出する温湿度検出手段(温度センサまたは湿度センサ)が使用される。環境検知手段23の検知情報に応じた出力信号により画像形成動作の最適化を図ることができる。
【0015】
画像形成装置の本体には、CPU、メモリおよびI/O回路等を備えたコントローラからなる制御手段50が設けられている。この制御手段50は、内部メモリに予め格納された制御プログラムに従い、駆動モータや各種装置の動作を制御する。これにより、シート材1に対する画像形成動作(給紙搬送動作や切断動作等を含む)を制御するとともに、画像データに基づいて記録ヘッド8の駆動を制御することにより、シート材1に画像を形成していく。また、制御手段50は、後述する吸引穴調整手段を含むシート材搬送装置の動作およびそのタイミングを制御する他、その他の画像形成装置の全体の動作およびそのタイミングを制御する。
【0016】
図1は画像形成装置のシート材搬送装置のプラテン構造の分解斜視図である。図2はプラテンと可動部材(吸引穴調整手段)の部分平面図である。図3は吸引穴調整手段の動作を示す部分平面図である。プラテン14は、負圧吸引力を用いてシート材を搬送面に吸着させる吸引式プラテン構造で構成されている。プラテン14の搬送面には、シート材を吸着するための複数の吸引穴24が所定の配列をなして形成されている。プラテン14には、各吸引穴24に吸着力を発生させるための吸引手段が設けられている。この吸引手段は、ファン25、ダクト26、プラテン14、可動部材27、駆動手段28などで構成されている。ファン25が回転することで一連の気流が形成され、ダクト26の内部に発生する負圧吸引力を吸引穴24を通してシート材の裏面に作用させることで、シート材をプラテン14に吸着する。そこで、可動部材27および駆動手段28は、シート材1に対する吸引穴24の吸着力を調整するための後述の吸引穴調整手段を構成している。可動部材27は、プラテン14の搬送面の反対側の面に沿ってスライド(移動)可能にダクト26内に収容された板状の部材であり、プラテン14の複数の吸引穴24を選択的に開閉可能な複数の吸引選択穴31が所定の配列をなして形成されている。
【0017】
この吸引穴調整手段は、所定領域の吸引穴24の一部または全部を開閉するものであり、駆動手段28により不図示のリンク機構を介して可動部材27を移動させる構成となっている。したがって、本実施形態に係るシート材搬送装置では、複数の吸引選択穴31を有する可動部材27をプラテン14に沿って移動させることにより、プラテン14の複数の吸引穴24を開閉する構成となっている。そして、プラテン14の複数の吸引穴24を選択的に開閉することにより、プラテン14上のシート材1に対する吸着力を制御可能に構成されている。
【0018】
図2(a)は搬送面に複数の吸引穴24を有するプラテン14の部分平面図であり、図2(b)はシート材1に対する吸着力を調整するための吸引穴調整手段の可動部材27の部分平面図である。図3は吸引穴調整手段の可動部材27の動作を示す部分平面図である。吸引穴調整手段の可動部材27には、プラテン14に形成された複数の吸引穴24を選択的に開閉するための複数の吸引選択穴31が所定配列をなして形成されている。そこで、複数の吸引穴24のうち、可動部材27の移動(位置)により吸引選択穴31と一致した吸引穴24aはダクト26内部と連通し、搬送面上のシート材を吸着する。一方、吸引選択穴31と一致しない吸引穴24bは、ダクト26内部から遮断され、シート材を吸着しない。
【0019】
図3(a)は吸引穴調整手段の開閉動作により全ての吸引穴24が開放(連通)しているプラテン14の状態を示す部分平面図であり、図3(b)は吸引穴調整手段の開閉動作により半数の吸引穴24が開放しているプラテン14の状態を示す部分平面図である。すなわち、図3(a)の全開状態から、装置本体に固定されたプラテン14に対して駆動手段28により可動部材27を図示右方向に距離pだけスライドすると、開状態であった吸引穴24aの一部が可動部材27によって塞がれて閉状態(吸引穴24b)になる。かかる構成の吸引穴調整手段によって、シート材を吸着可能な吸引穴24aのプラテン14の単位領域あたりの数が減少するように設定することができる。また、可動部材27を図3(b)から図3(a)へ逆方向に移動させることにより、シート材を吸着可能な吸引穴24aの単位領域あたりの数が増加するように設定することができる。
【0020】
図4(a)は吸引穴調整手段(その可動部材27)を移動させたときのプラテン14の吸引穴24の開閉状態を示す平面図であり、図4(b)は吸引穴調整手段を移動させたときのプラテン14の搬送面に作用する吸着力のシート材幅方向の分布を示すグラフである。図4において、Wはシート材の幅を示し、Lは吸引穴調整手段(可動部材27)により吸引穴24を開閉する領域を示す。可動部材27を移動させていない場合、全ての吸引穴24が開状態(24a)となり、シート材に対する吸着力Fはシート材の幅Wの全域においてa−b−e−fに示すように一様(ほぼ一定)になる。
【0021】
一方、可動部材27をシート材の幅方向(矢印X方向)に移動させると、シート材の両端部を除いた中間部である吸引穴開閉域Lにおいて、半数の吸引穴が開状態(24a)になるとともに残り半数の吸引穴が閉状態(24b)になる。このとき、シート材の両端部では、閉じられる吸引穴24がなく、吸着力を生じる吸引穴(24a)の数に変化がない。つまり、シート材の両端部のプラテン単位領域29bでは吸着力が高く維持され、中間部の単位領域29aでは吸着力が低下することになる。したがって、シート材の両端部を除く中間部ではシート材に作用する吸着力を低減するとともに、シート材の両端部では高い吸着力を作用させるように調整することができる。
【0022】
図4の構成では、吸引穴調整手段(可動部材27)を移動させることにより、グラフa−b−c−d−e−fで示すように、シート材に作用する吸着力をシート材両端部では高い値Fとし、シート材中間部では低い値0.5Fにするように設定することができる。つまり、本実施形態に係る吸引穴調整手段(27、28)は、シート材に対する吸着力が搬送方向と交差する方向に一様になる第1の設定と、シート材1の搬送方向と交差する方向の両端部における吸着力が中間部における吸着力よりも高くなる第2の設定に、選択的に制御可能に構成されている。このような構成によれば、カールを生じやすいシート材や剛性が弱いシート材を搬送する場合でも、プラテンに適正に吸着させることにより搬送精度の低下や搬送の動作不良を防止することができるシート材搬送装置および画像形成装置が提供される。なお、シート材両端部の吸着力を中間部より相対的に高い値にし、シート材中間部の吸着力を両端部より相対的に低い値にするような設定は、本実施形態に準じて種々の態様で実施できるものであり、本発明はこのような実施態様もその範囲内に含むものである。
【0023】
〔第2の実施形態〕
本実施形態は、シート材端部が跳ね上がりやすいカール特性を有するシート材や、シート材搬送方向Yへの剛性が低く腰が弱い各種のシート材に対して、より好適な吸引プラテンを備えたシート材搬送装置を提供するものである。このような性状を示すシート材としては、和紙や新聞紙の形態に類する薄くて坪量が比較的小さいシート材、あるいは布織紙などを例に挙げることができる。ところで、シート材端部のカールを防止する観点からは、プラテン14のシート材に対する吸着力を高く設定することを要請される。一方、剛性が低いシート材を使用する場合は、プラテンの搬送面上でのシート材の挫屈を防止するため、吸着力を低く設定することを要求される。また、剛性の低いシート材の場合は、吸着力によってシート材の搬送方向に加わる搬送負荷を低減することも要請される。そこで、本実施形態では、シート材1の種類(剛性や厚さなどの特性を含む)に応じて吸引穴調整手段の可動部材27により開閉される吸引穴24の数を設定することによって、シート材に対する吸着力を制御するように構成される。本実施形態のその他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0024】
すなわち、本実施形態では、可動部材27を移動してシート材の端部に対する吸着力をシート材の中間部に対する吸着力よりも高く設定するに際し、シート材の種類に応じて異なる吸着力をシート材の各部位(端部または中間部)に設定するように構成される。これによって、シート材をより適正にプラテン14に吸着させることができる。また、本実施形態によれば、シート材に対する吸着力を、吸着力による搬送方向への負荷が増加しないような値に設定することで、プラテンの搬送面上におけるシート材の挫屈を防止することも可能である。その結果、シート材の搬送精度の劣化や挫屈による紙詰まりを生じることなく、良好な画像形成を実現できる画像形成装置のシート材搬送装置が提供される。したがって、本実施形態によれば、一層効率よく、カールを生じやすいシート材や剛性が弱いシート材を搬送する場合でも、プラテンに適正に吸着させることにより搬送精度の低下や搬送の動作不良を防止することができるシート材搬送装置および画像形成装置が提供される。
【0025】
〔第3の実施形態〕
図5は本実施形態に係るシート材搬送装置のプラテン構造を示す分解斜視図である。本実施形態では、吸引穴調整手段の可動部材が複数の部分可動部材30で構成されている。この複数の部分可動部材30は、最大シート幅Wを有するシート材の幅方向全域にわたって順次隣接する状態で配置されている。そして、各部分可動部材30は、駆動手段28に対して不図示のリンク等によって連結され、それぞれが駆動手段28の動作に応じてシート材幅方向に沿ってプラテン14の裏面に沿ってスライド(移動)可能な構成になっている。かかる構成によれば、異なるシート材の幅に応じて、プラテン14のシート材に対する吸着力を設定することが可能になる。つまり、画像を形成するシート材の幅が異なる場合でも、それぞれのシート材の幅に応じて、シート材の両端部を除く中間部と対向する部位に位置する部分可動部材30を図3中の距離pだけスライドさせることにより、両端部では吸着力が高く、中間部では吸着力が低くなるような吸引穴24の開閉状態を設定することができる。したがって、シート材の幅が異なる場合でも、それぞれの幅に応じて、シート材に対する幅方向の吸着力の分布を、図4(b)のように両端部の吸着力が中間部よりも高くなるに設定することができる。
【0026】
本実施形態は、以上の点で第1の実施形態と相違し、その他の点では同じ構成を有する。したがって、本実施形態によれば、種々の異なる幅のシート材を使用するシート材搬送装置であって、画像形成を行うに際し、カールを生じやすいシート材や剛性が弱いシート材を搬送する場合でも、プラテンに適正に吸着させることにより搬送精度の低下や搬送の動作不良を防止することができる。
【0027】
〔第4の実施形態〕
記録ヘッド8で構成される画像形成手段の画像形成方式として、インクジェット方式、熱転写方式、レーザービーム方式、ワイヤドット方式、感熱方式など、種々の方式が実用化されている。ところで、シリアル記録方式の画像形成装置では、記録ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジの動作と、ロール紙を所定量ずつ引き出しながら副走査方向に搬送するラインフィードローラの動作と、を交互に繰り返すことにより画像を形成していく。例えば、インクジェット方式の画像形成装置においては、写真等の高品位画像や高濃度画像等をプリントする場合、ラインフィードローラ10の1回当たりシート材搬送量を小さくするとともに、シート材の同一箇所に記録ヘッドから複数回にわたるインク吐出(重ね打ち)を行う方法が採られる。多量のインクを吸収できるインク吸収層を有するコート紙の場合は、重ね打ちの回数も多くなるため、シート材がプラテンを通過するときの搬送時間も長くなる。その結果、プラテン上に長時間位置することでシート材のカールの成長が進行することになる。これを解消するために、インクを重ね打ちする過程でプラテン上におけるシート材のカールの成長を抑制または防止するための方策を実行する必要がある。したがって、良好な画像形成を実現するためには、シート材の種類や記録方式に応じて、吸引穴調整手段(その可動部材27または部分可動部材30)を移動させてプラテン吸着力分布を適正に設定する制御が要請される。
【0028】
そこで、本実施形態では、図1または図5のプラテン構造において、記録ヘッド8で構成される画像形成手段の画像形成方式に応じて吸引穴調整手段により開閉される吸引穴24の数を設定することにより、搬送面上のシート材に対する吸着力を制御するように構成される。各吸引穴24の開閉動作は、駆動手段28により可動部材27(図1)または部分可動部材30(図5)をプラテン14に沿ってスライドさせることにより行われる。本実施形態は、第1の実施形態または第3の実施形態と上記の点で相違するが、その他の点では同じ構成を有する。本実施形態によれば、画像形成方式が異なる画像形成装置のシート材搬送装置においても、画像形成を行うに際し、カールを生じやすいシート材や剛性が弱いシート材を搬送する場合でも、プラテンに適正に吸着させることにより搬送精度の低下や搬送の動作不良を防止することができる。
【0029】
〔第5の実施形態〕
シート材搬送装置によって搬送されるシート材は、温度や湿度などの周囲環境によってその特性(性質)が変化し、剛性が低下したり、カールが生じやすくなる場合がある。例えばフィルムコート紙など基材が帯電しやすいシート材は、低温環境など空気中の飽和水蒸気量が小さい環境で帯電しやすい状態となる。装置本体における画像形成動作においては、ロール状のシート材を繰り出すときに生じる剥離帯電や、シート材が搬送路内面と摺擦することで生じる搬送帯電などが発生する。そして、プラテン14や排紙ガイド17にシート材が静電気によって貼り付いてしまい、搬送精度が劣化したり、シート材がプラテンに貼り付いて座屈するなどの不都合が生じる。このような環境においては、プラテン吸着力を下げてシート材の搬送帯電を緩和させることにより、上記の不具合を効果的に防止することができる。したがって、良好が画像形成を実現すべく、プラテン14上におけるシート材のカールや浮きを抑制するためには、装置本体の周辺部の温度や湿度等の環境の条件に応じて、プラテン吸着力分布の設定を行うことを要請される。
【0030】
本実施形態では、温度または湿度などの周囲環境を検出するためのセンサ23(図6)からなる環境検出手段としての温湿度検出手段を備えている。そして、温湿度検出手段からの出力信号に応じて吸引穴調整手段の可動部材27(図1)または部分可動部材30(図5)により開閉される吸引穴24の数を設定することによって、シート材に対する吸着力を制御するように構成される。この場合の吸引穴24の数の設定(シート材に対する吸着力の強さおよび分布の設定)は、吸引穴調整手段の可動部材(27または30)の移動(スライド)によって行われる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、プラテン上にシート材を吸着させた状態に保ちながらシート材を搬送するシート材搬送装置、当該シート材搬送装置を用いる画像形成装置に係るものである。本発明の適応形態としての画像形成装置は、複写機、ファクシミリ、プリンタ、およびその複合形態などであるが、その内部にシート材搬送装置を具備するものであれば、かかる形態だけに限定されるものではない。
【0032】
なお、本発明における記録媒体としてのシート材としては、カット紙や連続紙(ロール紙等)などの形態に関わりなく種々のものを使用することができる。また、本発明は、シート材の材質として、紙、プラスチックフィルム、印画紙、不織布など、種々の材質を使用する場合にも同様に適用可能である。さらに、本発明は、画像形成装置であれば、記録ヘッドの数、使用するインクの種類や性状数などに関わらず、同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 シート材
6 キャリッジ
8 記録ヘッド
10 ラインフィードローラ
14 プラテン
23 環境センサ
24 吸引穴
25 ファン
26 ダクト
27 可動部材(吸引穴調整手段)
28 駆動手段
29a 吸着力が低いプラテン単位領域
29b 吸着力が高いプラテン単位領域
30 部分可動部材(吸引穴調整手段)
31 吸引選択穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送面に複数の吸引穴を有するプラテンと、
前記吸引穴に吸着力を発生する吸引手段と、
前記吸引穴を開閉することにより前記吸着力を調整する吸引穴調整手段と、
前記プラテンの搬送上流から搬送下流へシート材を搬送する搬送手段と、
を備えたシート材搬送装置において、
前記吸引穴調整手段は、シート材に対する前記吸着力が搬送方向と交差する方向に一様になる第1の設定と、シート材の搬送方向と交差する方向の両端部における吸着力が中間部における吸着力よりも高くなる第2の設定に、選択的に制御可能であることを特徴とするシート材搬送装置。
【請求項2】
前記吸引穴調整手段は、前記複数の吸引穴を選択的に開閉することによって前記吸着力を制御することを特徴とする請求項1に記載のシート材搬送装置。
【請求項3】
前記プラテンの複数の吸引穴の開閉は、複数の吸引選択穴を有する可動部材を前記プラテンに沿って移動させることにより行うことを特徴とする請求項2に記載のシート材搬送装置。
【請求項4】
シート材の種類に応じて前記吸引穴調整手段により開閉される前記吸引穴の数を設定することによって、前記吸着力を制御することを特徴とする請求項2または3に記載のシート材搬送装置。
【請求項5】
シート材の幅に応じて前記吸引穴調整手段により開閉される前記吸引穴の数を設定することによって、前記吸着力を制御することを特徴とする請求項2または3に記載のシート材搬送装置。
【請求項6】
温度または湿度を検出する温湿度検出手段を備え、前記温湿度検出手段からの出力信号に応じて前記吸引穴調整手段により開閉される前記吸引穴の数を設定することによって、前記吸着力を制御することを特徴とする請求項2または3に記載のシート材搬送装置。
【請求項7】
搬送面に複数の吸引穴を有するプラテンと、
前記吸引穴に吸着力を発生する吸引手段と、
前記吸引穴を開閉することにより前記吸着力を調整する吸引穴調整手段と、
前記プラテンの搬送上流から搬送下流へシート材を搬送する搬送手段と、
前記プラテンの搬送面上のシート材に画像を形成する画像形成手段と、
を備えた画像形成装置において、
前記吸引穴調整手段は、シート材に対する前記吸着力が搬送方向と交差する方向に一様になる第1の設定と、シート材の搬送方向と交差する方向の両端部における吸着力が中間部における吸着力よりも高くなる第2の設定に、選択的に制御可能であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
前記画像形成手段の画像形成方式に応じて前記吸引穴調整手段により開閉される前記吸引穴の数を設定することによって、前記吸着力を制御することを特徴とする請求項7に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−161833(P2011−161833A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28282(P2010−28282)
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】