説明

シート材給送装置及び記録装置

【課題】剛性の異なるシート材の高信頼分離を実現でき、メカサイズを小型化できるシート材給送装置及び記録装置を提供する。
【解決手段】複数の用紙を積層して支持する用紙カセット11と、用紙カセット11の支持面14に対して所定角度で傾斜した傾斜面51を備えて、該傾斜面51に当接した用紙を分離する分離傾斜部50と、用紙カセット11に支持された用紙のうち最上の用紙に接して回転駆動することにより、用紙を分離傾斜部50に向けて送り出すピックアップローラー16と、上記送り出す送出方向においてピックアップローラー16と対向する領域にある傾斜面51の一部に、該送出方向に用紙の一部を逃がす空間Sを形成する空間形成部60と、を有する給送装置2を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材給送装置及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙、布、フィルム等の各種のシート材に文字や画像等を記録する記録装置としては、例えば複写機、プリンター、ファクシミリ等が挙げられる。この種の記録装置においては、複数のシート材を積層して支持するスタック部(支持部)から1枚のシート材を分離して記録処理を行う記録部等へ給紙するシート材給送装置が設けられる。このシート材給送装置は、2枚以上のシート材が同時に給紙されてしまう重送(ダブルフィード、マルチフィード)を防止するべく、下記特許文献1に記載のように、シート材支持面に対して所定角度で傾斜する分離傾斜部を設け、ピックアップローラーでシート材を分離傾斜部に向かって送り出し、この分離傾斜部の傾斜面に当接したシート材に送出方向と逆方向の負荷(反力、摩擦力を含む)を作用させて、重なったシート材を分離する分離手段を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−11719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、記録処理を実施できるシート材の種類(材質、サイズ、厚さ等)は、多種多様になってきている。このため、スタック部に複数種のシート材を収容させ、共通の分離手段で複数種のシート材を分離させる形態が採られている。しかしながら、種類が異なるシート材は、その剛性が異なるため、従来の分離傾斜部ではその剛性に対応して、シート材の分離に適した負荷を作用させることが難しいという問題がある。
【0005】
一般に、普通紙等の剛性が低い用紙を重送させないためには、傾斜面の角度をきつくして分離傾斜部における負荷を上げなければならない。しかしながら、写真用紙、ハガキ等の剛性が高い用紙は、この傾斜角度で当接すると負荷(反力)が強く作用して、ピックアップローラーと用紙との間に滑りが生じて用紙送出が不可となる所謂ノンフィード現象が起こり易くなる。すなわち、写真用紙等においては、その剛性が高いために、分離傾斜部で座屈(撓み、曲げ)変形し難く、傾斜面に沿って送り出すことが難しいためである。
【0006】
一方、写真用紙等の剛性が高い用紙を適切に分離して送り出すために、傾斜面の角度を低くして分離傾斜部の負荷を下げる方法があるが、そうすると、今度は普通紙等に作用する負荷が下がり、分離傾斜部において分離に必要な負荷が得られずに重送されてしまう問題がある。また、写真用紙等の剛性が高い用紙を適切に分離して送り出すために、分離傾斜部とピックアップローラーの距離を離して用紙を変形し易くする方法があるが、そうすると、剛性の低い用紙においても変形し易くなり、分離傾斜部において分離に必要な負荷が得られずに重送されてしまう問題がある。また、これらの手段は、いずれもメカサイズが大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、剛性の異なるシート材の高信頼分離を実現でき、メカサイズを小型化できるシート材給送装置及び記録装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記課題を解決するため鋭意実験を重ねた結果、分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際の負荷(反力)がピックアップローラーの送出力(回転駆動力)が一定でもそのシート材の剛性により変化すること、及び、分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際の負荷(反力)がピックアップローラーの位置に応じて分布があること、を見出し、本発明に想到した。
すなわち、上記の課題を解決するために、本発明は、複数のシート材を積層して支持する支持部と、上記支持部の支持面に対して所定角度で傾斜した傾斜面を備えて、該傾斜面に当接した上記シート材を分離する分離傾斜部と、上記支持部に支持された上記シート材のうち最上のシート材に接して回転駆動することにより、上記シート材を上記分離傾斜部に向けて送り出すピックアップローラーと、上記送り出す送出方向において上記ピックアップローラーと対向する領域にある上記傾斜面の一部に、該送出方向に上記シート材の一部を逃がす空間を形成する空間形成部と、を有するシート材給送装置を採用する。
【0009】
このような構成を採用することによって、本発明では、分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際に負荷(反力)が最も高くなるピックアップローラーと対向する領域に、他の傾斜面よりも送出方向に逃げる空間を形成することで、その負荷が最も高くなる領域における負荷(反力)を低減することができる。このため、剛性が高いシート材を送り出した際のノンフィード現象が抑制される。
また、ピックアップローラーと対向する領域を送出方向に逃がすと、その領域においては、剛性が高いシート材の変形のための距離を長くとることができ、例えばシート材の曲げ半径を大きくして負荷を減らすことができる。また、分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際に、空間にシート材の一部が逃げると、その空間と傾斜面との境においてシート材の座屈変形あるいは波打ち変形が生じるため、その変形を起点として剛性が高いシート材が変形し易くなり、傾斜面に沿った送り出しが容易となる。さらに、傾斜面の一部に空間を形成することで剛性が高いシート材の負荷を低減することができるため、従来のように傾斜面とピックアップローラーとの距離を大きく取ったり、傾斜面の角度を低くしたりする必要も無く、メカサイズを小型化できる。
【0010】
また、本発明においては、上記空間の上記ピックアップローラーと同軸方向の空間幅は、上記ピックアップローラーの軸方向の幅に基づいて設定されているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際の負荷分布は、ピックアップローラーの軸方向の幅に基づいて変化するため、空間幅をピックアップローラーの軸方向の幅に基づいて設定することで、シート材に対して適切な負荷(反力)を作用させることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記空間の上記ピックアップローラーと同軸方向の空間幅は、上記シート材の剛性に基づいて設定されているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際の負荷は、シート材の剛性によって変化するため、空間幅をシート材の剛性に基づいて設定することで、シート材に対して適切な負荷(反力)を作用させることができる。
【0012】
尚、分離傾斜部の傾斜面の一部を逃がす空間を形成すると、剛性の高いシート材の負荷を下げることができるが、剛性の低いシート材の負荷にも若干の影響がある。このため、本発明は、剛性の異なるシート材の高信頼分離をより確実に実現すべく、以下の構成を採用する。
すなわち、本発明においては、上記空間形成部は、上記空間を形成する空間形成位置と、上記傾斜面と略同一面を形成する分離位置との間において移動自在な第2分離傾斜部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、空間形成位置と分離位置との間において移動可能な第2分離傾斜部を設けて、剛性の高いシート材が送り出されるときは、第2分離傾斜部を空間形成位置に位置させることでそのシート材に作用する負荷を低減させ、一方で、剛性の低いシート材が送り出されるときは、第2分離傾斜部を分離位置に位置させることでそのシート材と当接して負荷の低減を防止することができる。このため、剛性の高いシート材への影響を与えずに剛性の低いシート材の負荷を上げて、重送がより確実に生じ難い信頼性のある分離を実現できる。
【0013】
また、本発明においては、上記第2分離傾斜部は、上記送り出された上記シート材と上記傾斜面とが当接した際の反力が上記シート材の剛性に基づいて設定される所定の値より小さい場合に上記分離位置に位置し、上記反力が上記所定の値より大きい場合に上記空間形成位置に位置するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、第2分離傾斜部の移動のための閾値(所定の値)を分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際の反力により規定することで、実際にシート材が当接した際の反力に応じて、第2分離傾斜部が空間形成位置と分離位置との間において移動することができる。また、分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際の反力は、シート材の剛性によって変化するため、第2分離傾斜部の移動のための閾値をシート材の剛性に基づいて設定することで、第2分離傾斜部がシート材の剛性に応じて適切な位置に移動することができる。
【0014】
また、本発明においては、上記第2分離傾斜部を上記分離位置に向かって付勢する付勢装置を有し、上記第2分離傾斜部は、上記付勢に抗して上記分離位置から上記空間形成位置に移動するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、第2分離傾斜部は、常態で分離位置に向かって付勢されているため、剛性の低いシート材が送り出されても負荷が小さく、その位置で分離を実施するが、剛性の高いシート材が送り出されてくると負荷が大きく、付勢に抗して押し込まれ空間形成位置に移動し、その位置で負荷を低減する空間を形成する。
【0015】
また、本発明においては、上記空間が形成される一部を除く上記傾斜面の一部に設けられると共に、上記傾斜面よりも高い摩擦力を発現させる第2傾斜面を有する第3分離傾斜部を有し、上記第3分離傾斜部は、上記傾斜面よりも上記第2傾斜面が上記送出方向上流側に位置する第2分離位置と、上記傾斜面と上記第2傾斜面とが略同一面を形成する第3分離位置との間において移動自在に設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、第2分離位置と第3分離位置との間において移動可能で高い摩擦力を備える第3分離傾斜部を設けることで、剛性の低いシート材が送り出されるときは、第3分離傾斜部を第2分離位置に位置させることでそのシート材と当接して負荷(摩擦力)を増加させて分離性能を向上させ、一方で、剛性の高いシート材が送り出されるときは、第3分離傾斜部を第3分離位置に位置させることでそのシート材に作用する負荷の増加を抑制することができる。このため、剛性の高いシート材への影響を与えずに、剛性の低いシート材の負荷を上げて、重送がより確実に生じ難い信頼性のある分離を実現できる。
【0016】
また、本発明においては、上記第3分離傾斜部は、上記送り出された上記シート材と上記傾斜面とが当接した際の反力が前記シート材の剛性に基づいて設定される所定の値より小さい場合に上記第2分離位置に位置し、上記反力が上記所定の値より大きい場合に上記第3分離位置に位置するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、第3分離傾斜部の移動のための閾値(所定の値)を分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際の反力により規定することで、実際にシート材が当接した際の反力に応じて、第3分離傾斜部が第2分離位置と第3分離位置との間において移動することができる。また、分離傾斜部の傾斜面にシート材が当接した際の反力は、シート材の剛性によって変化するため、第3分離傾斜部の移動のための閾値をシート材の剛性に基づいて設定することで、第3分離傾斜部がシート材の剛性に応じて適切な位置に移動することができる。
【0017】
また、本発明においては、上記第3分離傾斜部を上記第2分離位置に向かって付勢する第2付勢装置を有し、上記第3分離傾斜部は、上記付勢に抗して上記第2分離位置から上記第3分離位置に移動するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、第2分離傾斜部は、常態で第2分離位置に向かって付勢されているため、剛性の低いシート材が送り出されても負荷が小さく、その位置で分離を実施するが、剛性の高いシート材が送り出されてくると負荷が大きく、付勢に抗して押し込まれ第3分離位置に移動し、その位置で負荷の増加を抑制する。
【0018】
また、本発明においては、上記送り出される際に上記シート材と当接する上記第2傾斜面の当接面は、上記傾斜面の所定角度よりも大きい角度で形成されているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、第2傾斜面の傾斜角度を大きくすることで、第3分離傾斜部は、高摩擦部材等を別途設けずとも高い摩擦力を発現させることができる。
【0019】
また、本発明においては、先に記載のシート材給送装置と、上記シート材給送装置により給送される上記シート材に対し記録処理を行う記録部と、を有する記録装置を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、剛性の異なるシート材の高信頼分離を実現できるため、重送による紙詰まりやノンフィードによるシート材の給送不良が生じることが無く、また、メカサイズを小型化できるため、設置スペースを小さくできる記録装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態におけるプリンターの用紙搬送経路を示す側断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態における給送装置の要部構成を示す平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態における給送装置の要部構成を示す斜視図である。
【図4】空間形成部を備えない分離傾斜部の傾斜面に、用紙が当接した際の用紙反力(水平方向成分)の桁位置における分布を示す図である。
【図5】専用紙(写真用紙)と普通紙の用紙剛性の違いを説明する図である。
【図6】本発明の第1実施形態における分離傾斜部に剛性が高い用紙(専用紙)が給紙される様子を模式的に示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態における給送装置の要部構成を示す平面図である。
【図8】本発明の第2実施形態における分離傾斜部に剛性が低い普通紙が給紙される様子を模式的に示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態における分離傾斜部に剛性が高い専用紙が給紙される様子を模式的に示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態における給送装置の要部構成を示す平面図である。
【図11】本発明の第3実施形態における第2傾斜面の構成を示す左側面図である。
【図12】本発明の第3実施形態における分離傾斜部に剛性が低い普通紙が給紙される様子を模式的に示す図である。
【図13】本発明の第3実施形態における分離傾斜部に剛性が高い専用紙が給紙される様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るシート材搬送装置及び記録装置の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態では、本発明に係る記録装置として、インクジェット式プリンター(以下、プリンターと称する)を例示する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態におけるプリンター1の用紙搬送経路を示す側断面図である。
なお、以下の説明においては、図1に示すように、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明することがある。水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
【0023】
以下、図1を参照しつつプリンター1の全体構成について概説する。尚、図1はプリンター1の用紙搬送経路上に配置されるローラーを図示する為に、ほぼ全てのローラーを同一面上に描いているが、その奥行き方向(Y軸方向)の位置は必ずしも一致しているとは限らない(一致している場合もある)。
【0024】
プリンター1は、給送装置(シート材給送装置)2を備え、当該給送装置2から被記録媒体としての用紙(シート材)Pを1枚ずつ給送し、記録手段(記録部)4においてインクジェット記録を行い、装置前方側(+X側)に設けられた図示しない排紙スタッカへ向けて排出する構成を備えている。またプリンター1は装置後部に両面ユニット7を着脱自在に備えており、最初に記録の行われた用紙Pの第1面に対し反対側の第2面が記録ヘッド42と対向するよう湾曲反転させ、これにより用紙Pの両面に記録が実行可能となっている。
【0025】
給送装置2は、用紙カセット(支持部)11と、ピックアップローラー16と、分離手段21と、を備えている。複数枚の用紙Pを積層状態で収容可能な用紙カセット11は、給送装置2の装置本体に対し、装置前方側から装着及び取り外し可能に構成されており、図示しないモータによって回転駆動されるピックアップローラー16は、揺動軸18を中心に揺動する揺動部材17に設けられ、用紙カセット11に収容された用紙と接して回転することにより、当該最上位の用紙Pを用紙カセット11から−X方向(送出方向)に送り出す構成となっている。
【0026】
用紙カセット11に収容された用紙先端と対向する位置には分離部材12が設けられており、給送されるべき最上位の用紙Pの先端が分離部材12に摺接しつつ下流側に進むことで、次位以降の用紙Pとの第1段階分離が行われる。分離部材12の下流側には、分離ローラー22と中間ローラー23とを備えて構成された、用紙Pの第2段階分離を行う分離手段21が設けられている。また、分離手段21の下流側には、中間ローラー23との間で用紙Pをニップして従動回転するアシストローラー27が設けられている。
【0027】
また、給送装置2は、搬送手段5と、排出手段6と、を備えている。搬送手段5は、図示を省略するモータによって回転駆動される搬送駆動ローラー35と、該搬送駆動ローラー35に圧接して従動回転するようガイド対向部37に軸支される搬送従動ローラー36とを備えて構成され、この搬送手段5により用紙Pが記録ヘッド42と対向する位置に向けて精密送りされる。
【0028】
搬送手段5より上流側のガイド対向部37には、用紙端検知センサ13が設けられる。用紙端検知センサ13は、用紙Pの先端及び後端の位置を検出するセンサであり、本実施形態では、機械的な機構によって用紙Pの端を検知するメカニカルセンサを用いている。より詳しくは、用紙端検知センサ13は、ガイド対向部37から第2搬送経路9(後述)上に突出すると共にY軸方向に延びる軸周りに回動可能なレバーを備えて、このレバーが用紙Pと接触したときの回動を検知することにより、用紙Pの端を検知する構成となっている。
【0029】
尚、給送装置2により給送される用紙Pのスキューは、搬送駆動ローラー35(第1搬送ローラー)と、その上流側の中間ローラー23(第2搬送ローラー)とを利用した食い付き吐き出し方式のスキュー取り制御により除去される。
【0030】
具体的には、用紙Pの先端を搬送駆動ローラー35と搬送従動ローラー36との間に食い付かせて順送方向(下流側)に所定量に送り出した後、上流側の中間ローラー23を順送方向に回転させている状態で搬送駆動ローラー35を逆転させ、用紙先端を搬送駆動ローラー35の逆送方向(上流側)に吐き出す。これにより用紙Pは中間ローラー23と搬送駆動ローラー35との間で撓んで、用紙P先端が搬送駆動ローラー35と搬送従動ローラー36とのニップ点に倣い、スキューが矯正される。
【0031】
続いて記録ヘッド42はキャリッジ40の底部に設けられ、当該キャリッジ40は主走査方向(Y軸方向)に延びるキャリッジガイド軸41にガイドされながら、図示を省略するモータによって主走査方向に往復動する様に駆動される。この記録ヘッド42は、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色に応じたインクを噴射可能な構成となっている。
【0032】
記録ヘッド42の下流側に設けられた排出手段6は、図示を省略するモータによって回転駆動される排出駆動ローラー44と、当該排出駆動ローラー44に接して従動回転する排出従動ローラー45とを備えて構成され、記録手段4によって記録の行われた用紙Pは、排出手段6により、装置前方側に設けられた図示を省略するスタッカへと排出される。
【0033】
また、給送装置2は、所定高さで用紙Pを搬送する第1搬送経路8と、第1搬送経路8よりも低い高さで用紙Pを搬送する第2搬送経路9と、第1搬送経路8と第2搬送経路9とが合流する合流部10と、を備えている。第1搬送経路8において用紙Pは、分離ローラー22、中間ローラー23、アシストローラー27によって搬送される。また、第2搬送経路9において用紙Pは、搬送駆動ローラー35、搬送従動ローラー36、排出駆動ローラー44、排出従動ローラー45によって搬送される。
【0034】
合流部10よりも下流側の第2搬送経路9(9A)は、記録ヘッド42に用紙Pを導く共通搬送経路を構成する。一方、合流部10よりも上流側の第2搬送経路9(9B)は、合流部10よりも上流側の第1搬送経路8と合流する用紙反転用搬送経路を構成する。
両面印刷の場合、第2搬送経路9Aを搬送されて第1面に記録の行われた用紙Pは、搬送手段5、排出手段6、のこれらによる逆送り動作によって、第1面に記録が実行された際に用紙後端となっていた側が先端となって、第2搬送経路9Bに誘い込まれ、分離ローラー22、中間ローラー23との間に誘導される。
【0035】
中間ローラー23は図示を省略するモータにより図1の時計回り方向に回転駆動されており、分離ローラー22、中間ローラー23との間に誘い込まれた用紙は、中間ローラー23とアシストローラー27との間を通って再び合流部10に到達し、第2搬送経路9Aを介して記録手段4に導かれ、以降同様に記録が実行される。
【0036】
尚、以上説明した用紙搬送経路中に設けられるピックアップローラー16、中間ローラー23、搬送駆動ローラー35、排出駆動ローラー44、のこれら回転駆動されるローラーは、全て共通の駆動モータにより回転駆動されるよう構成されている。
【0037】
次に、図2〜図6を参照して、本発明の第1実施形態に係る給送装置2の特徴的な構成について詳しく説明する。
図2は、本発明の第1実施形態における給送装置2の要部構成を示す平面図である。図3は、本発明の第1実施形態における給送装置2の要部構成を示す斜視図である。
【0038】
用紙カセット11の−X方向(送出方向)には、分離部材12を有する分離傾斜部50が設けられている。分離傾斜部50は、用紙カセット11の用紙Pを支持する支持面14に対して所定角度で傾斜した傾斜面51を有する。支持面14は、X‐Y平面上に延在して、用紙Pを積層して支持する構成となっている。本実施形態の用紙カセット11には、剛性の異なる用紙P(例えば普通紙、専用紙(写真用紙、往復ハガキ))が混在して複数スタックされる。
【0039】
傾斜面51は、用紙カセット11の土手部15及び土手部15に固定された分離部材12によって形成される。分離部材12は複数設けられ、Y軸方向において土手部15に沿って所定間隔をおいて並列して設けられている。分離部材12は、土手部15よりも高い摩擦力を用紙Pに対して発現させる高μ(摩擦係数)の樹脂材から形成されている。分離部材12及び土手部15は、略同一の傾斜角度を有する。尚、分離部材12により形成される傾斜面51は、土手部15により形成される傾斜面51よりも、送出方向上流側(+X側)に位置しており、用紙Pの分離は分離部材12によって行う構成となっている。尚、傾斜面51の支持面14に対する角度は、専用紙に対応する通常の分離傾斜角度よりも大きい角度(60度程度)に設定されている。
【0040】
用紙カセット11の−X方向(送出方向)には、分離傾斜部50の傾斜面51の一部に空間Sを形成する空間形成部60が設けられている。空間形成部60は、送出方向(X軸方向)においてピックアップローラー16と対向する領域にある一部に、−X方向に用紙Pの一部を逃がす空間Sを形成する。本実施形態の空間Sの−X側は、傾斜面51と略同一の角度の傾斜面52を有する第2土手部15aにより画成される。第2土手部15aにより形成される傾斜面52は、分離部材12及び土手部15により形成される傾斜面51よりも、送出方向下流側(−X側)に位置している。尚、本実施形態では第2土手部15aを備えるが、用紙Pの一部を当接し難くすることが目的であるため、その部位は完全な空間であってもよい。
【0041】
本実施形態の空間SのY軸方向における空間幅W1は、ピックアップローラー16の軸方向(Y軸方向)の幅W2及び用紙カセット11にスタックされる用紙Pの剛性に基づいて設定されている。以下、図4及び図5を参照して、空間Sの作用及び空間幅W1の長さについて説明する。
【0042】
図4は、空間形成部60を備えない分離傾斜部50の傾斜面51に、用紙Pが当接した際の用紙反力(水平方向成分)の桁位置における分布を示す図である。
図4における横軸は、ピックアップローラー16の軸方向中心位置(センター位置)から計測点までの用紙幅方向(Y軸方向、桁方向)の距離(mm)を示し、縦軸は、その計測点での用紙反力(N)を示す。また、図4では、JIS規格のA4サイズ(幅210mm×長さ297mm)の剛性の異なる用紙P、具体的には、普通紙、そして専用紙として写真用紙、往復ハガキの3種類の負荷分布を示している。尚、ピックアップローラー16による用紙Pの送出力(回転駆動力)は、一定である。
【0043】
図4に示すように、各用紙ともピックアップローラー16のセンター位置(0mm)での用紙反力が最も高く、センター位置から離れるほど用紙反力が小さくなっていることが分かる。したがって、用紙反力の用紙幅方向の分布は、センター位置を中心とするモノモーダルの分布となっている。すなわち、ピックアップローラー16と送出方向で対向する位置が用紙反力の最も大きくなる位置であることが分かる。
【0044】
また、図4に示すように、普通紙と専用紙の場合で、用紙反力の大きさ及び用紙反力の分布の傾斜の度合いが異なる。すなわち、専用紙の用紙反力は、センター位置において普通紙よりも大きく、そのセンター位置から離れるに従って急激に低下していることが分かる。一方、普通紙の用紙反力は、センター位置から離れるに従って低下はしているが、センター位置での用紙反力が専用紙よりも小さいために、専用紙の2つの場合と比べるとその低下は小さく且つ低下幅も微小で、用紙幅方向における用紙反力の変化は乏しいことが分かる。
【0045】
これらの用紙反力の違いは、普通紙の剛性が低く、専用紙の剛性が高いために生じる。すなわち、専用紙においては、その剛性が高いために、分離傾斜部50において当接した際に座屈(撓み、曲げ)変形し難く、傾斜面51に沿って送り出すことが難しいため用紙反力が大きくなる。一方、普通紙においては、その剛性が低いために、分離傾斜部50において当接した際に座屈(撓み、曲げ)変形し易く、傾斜面51に沿って送り出すことが容易であるため用紙反力が小さくなる。
【0046】
図5は、専用紙(写真用紙)と普通紙の用紙剛性の違いを説明する図である。
図5に示すように、両者の紙サイズはA4で同一である。しかし、専用紙と普通紙では、紙材が異なり、例えば写真用紙の場合は、その表面に画質や質感等を向上させるためのコート層が形成されているため、普通紙の場合よりも厚みが3倍程度大きい。
用紙Pの剛性を表す指標は、用紙Pのヤング率(E)と断面二次モーメント(I)との積(EI)で示される。図5に示すように、写真用紙は、普通紙に比べて紙の剛性が65倍程度あることが分かる。
【0047】
以上説明したように、分離傾斜部50の傾斜面51においては、図4に示すように、ピックアップローラー16と送出方向で対向する位置が用紙反力の最も大きくなる位置である。そして、剛性の低い普通紙では、剛性の高い専用紙と場合と比べると、用紙幅方向における用紙反力の変化は乏しく微小である。
したがって、本実施形態のように、ピックアップローラー16と送出方向で対向する領域にある傾斜面51を、送出方向に逃がして空間Sを形成すると、剛性の高い専用紙の負荷を大幅に低下させることができる。その一方で、剛性の低い普通紙の負荷の低下には、あまり影響がない。このため、本実施形態のように分離傾斜部50の傾斜面51を専用紙に対応する通常の分離傾斜角度よりも大きく、例えば普通紙にも対応できる分離傾斜角度に設定しても、剛性の高い専用紙のみの負荷を大幅に低下させてノンフィード現象を防ぐことが可能となる。
【0048】
尚、本実施形態では、この空間Sによる作用を十分に得るため、用紙反力の分布に影響を与えるピックアップローラー16の軸方向の幅W2と用紙Pの剛性とに基づいて、空間Sの空間幅W1を設定している。すなわち、ピックアップローラー16の幅W2が変化すると、用紙Pに対し力を作用させる領域が変化して、用紙反力の分布(特に用紙反力が大きい範囲)に影響を与える。ちなみに、図4での実験で用いたピックアップローラー、また、本実施形態におけるピックアップローラー16の幅W2は、28.2mmである。
【0049】
空間幅W1は、基本的には、図4に示すように、その幅を広くすればするほど専用紙の負荷を下げることができる。しかしながら、空間幅W1を広くしていくと、用紙Pが大きく撓み易くなる。このため、空間幅W1を広くしすぎると、給紙時の用紙Pの姿勢変化が大きくなってしまい、用紙Pが折れてしまう場合がある。この用紙折れが発生すると折れた場所において負荷となるため、空間Sの作用が薄くなる場合がある。
【0050】
これらのことから、本実施形態の空間Sの空間幅W1としては、20mm〜50mmの範囲が効果的であり、35mmが最も好ましい。尚、この値は、A4サイズの用紙幅(210mm)の場合のときの値である。このため、用紙幅が異なる(例えばJIS規格のA3等)場合、その用紙幅に応じて空間幅W1の値は変化する。
すなわち、空間Sの空間幅W1としては、用紙幅を100%として比で表すと、12%〜24%の範囲が効果的であり、17%が最も好ましい。
【0051】
また、ピックアップローラー16と送出方向で対向する領域に空間Sを形成すると次のような作用が得られる。
図6は、本発明の第1実施形態における分離傾斜部50に剛性が高い用紙P(専用紙)が給紙される様子を模式的に示す図である。
【0052】
図6に示すように、ピックアップローラー16の回転駆動により用紙Pが−X方向に送り出されて分離傾斜部50の傾斜面51に当接すると、その傾斜面51の一部に空間Sが形成されているため用紙Pの一部は空間Sに逃げ込む。
このように、ピックアップローラー16と対向する領域を送出方向(−X方向)に逃がすと、その領域においては、部分的に用紙Pの変形のための距離を長くとることができる。したがって、その領域においては、剛性の高い用紙Pの曲げ半径を大きくして負荷を減らすことができる。また、分離傾斜部50の傾斜面51に用紙Pが当接した際に、空間Sに用紙Pの一部が逃げると、その空間Sと傾斜面51との境において用紙Pの座屈変形あるいは波打ち変形が生じるため、その変形を起点として剛性が高い用紙Pが変形し易くなり、傾斜面51に沿った送り出しが容易となる。
このため、従来のように傾斜面51とピックアップローラー16との距離を大きく取ったり、傾斜面51の角度を低くしたりする必要も無く、メカサイズを小型化できる。
【0053】
したがって、上述の第1実施形態によれば、複数の用紙Pを積層して支持する用紙カセット11と、用紙カセット11の支持面14に対して所定角度で傾斜した傾斜面51を備えて、該傾斜面51に当接した用紙Pを分離する分離傾斜部50と、用紙カセット11に支持された用紙Pのうち最上の用紙Pに接して回転駆動することにより、用紙Pを分離傾斜部50に向けて送り出すピックアップローラー16と、上記送り出す送出方向においてピックアップローラー16と対向する領域にある傾斜面51の一部に、該送出方向に用紙Pの一部を逃がす空間Sを形成する空間形成部60と、を有する給送装置2を採用することによって、剛性の異なる用紙Pの高信頼分離を実現でき、メカサイズを小型化できる。
また、剛性の異なる用紙Pの高信頼分離を実現できるため、重送による紙詰まりやノンフィードによる用紙Pの給送不良が生じることが無く、また、メカサイズを小型化できるため、設置スペースを小さくできるプリンター1が得られる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0055】
図7は、本発明の第2実施形態における給送装置2の要部構成を示す平面図である。
上述したように分離傾斜部50の傾斜面51の一部を逃がす空間Sを形成すると、剛性の高い用紙Pの負荷を下げることができるが、剛性の低い用紙Pの負荷にも若干の影響がある。このため、第2実施形態の給送装置2は、剛性の異なる用紙Pの高信頼分離を確実に実現すべく、以下に説明する構成を備える。
【0056】
第2実施形態における空間形成部60には、図7に示すように、空間Sを形成する空間形成位置(図7において2点鎖線で示す)と、傾斜面51と略同一面を形成する分離位置(図7において実線で示す)との間において移動自在な第2分離傾斜部70が設けられている。第2分離傾斜部70は、ピックアップローラー16と送出方向で対向するセンター位置に配置される。第2分離傾斜部70は、傾斜面51,52と略同一の傾斜角度の傾斜面71を有して空間形成位置と分離位置との間をX軸方向で移動自在な第2分離部材72と、第2分離部材72を分離位置に向かって所定の付勢力で付勢するバネ部材(付勢装置)73とを有する。第2分離部材72は、傾斜面71が斜辺となる略直角三角形状を有するブロック材からなる。
【0057】
第2実施形態の第2土手部15aには、第2分離部材72をX軸方向において案内するガイド部74が設けられている。一方の第2分離部材72には、後方(−X方向)に延びる一対のストッパー75が設けられている。ストッパー75の先端部は、フック形状を有しており、第2分離部材72が分離位置に位置するときに、そのフック形状がガイド部74のY軸方向両側壁から突設した突起部77に係合することにより、第2分離部材72の+X方向の移動を規制する構成となっている。
【0058】
バネ部材73は、第2分離部材72とガイド部74との間に配置され、X軸方向に伸縮自在に設けられる。バネ部材73は、常態で、第2分離部材72に対し分離位置に向かう+X方向の所定の付勢力を与える構成となっている。本実施形態のバネ部材73の付勢力は、剛性の低い普通紙が給紙される場合には第2分離部材72が分離位置に位置し、剛性の高い専用紙が給紙される場合には第2分離部材72が専用紙に押し込まれて空間形成位置に位置するような値に設定されている。
【0059】
このバネ部材73の常態での付勢力は、例えば図4に示す用紙反力に基づいて設定される。本実施形態の第2分離部材72はセンター位置(0mm)に配置されるので、上記のように第2分離部材72を移動させるためには、その位置における普通紙の用紙反力の値と専用紙の用紙反力の値との間の値に、バネ部材73の付勢力を設定すればよい。ちなみに、本実施形態のバネ部材73の常態での付勢力は、例えば0.2N程度となるように設定されている。
【0060】
続いて、上記構成の第2分離傾斜部70の動作(作用)について、図8及び図9を参照して説明する。
図8は、本発明の第2実施形態における分離傾斜部50に剛性が低い普通紙P1が給紙される様子を模式的に示す図である。図9は、本発明の第2実施形態における分離傾斜部50に剛性が高い専用紙P2が給紙される様子を模式的に示す図である。
【0061】
図8に示すように、ピックアップローラー16の回転駆動により剛性の低い普通紙P1が−X方向に送り出されると、普通紙P1が分離傾斜部50の傾斜面51及び該傾斜面51と略同一面を形成する第2分離傾斜部70の傾斜面71に当接する。
第2分離部材72は、バネ部材73により+X方向に付勢されており、その付勢力はその位置での普通紙P1の負荷よりも大きく設定されているため、普通紙P1に押し込まれること無く、分離位置で待機する。分離位置に位置する第2分離部材72は、センター位置においてその傾斜面71で普通紙P1と当接して分離のための負荷を与える。このため、空間形成部60を設けることによる普通紙P1への負荷の低減を防止することができる。したがって、重送が生じ難い信頼性のある分離を実現できる。
【0062】
一方、図9に示すように、ピックアップローラー16の回転駆動により剛性の高い専用紙P2が−X方向に送り出されると、専用紙P2が分離傾斜部50の傾斜面51及び該傾斜面51と略同一面を形成する第2分離傾斜部70の傾斜面71に当接する。
第2分離部材72は、バネ部材73により+X方向に付勢されており、その付勢力はその位置での専用紙P2の負荷よりも小さく設定されているため、専用紙P2によって付勢に抗して押し込まれ、分離位置から空間形成位置に移動する。空間形成位置に位置する第2分離部材72は、第2土手部15aの傾斜面52と略同一面を形成し、空間Sを画成する。空間Sが形成されると、上述したように専用紙P2の負荷が低下し、変形しやすくなるため、ノンフィード現象が生じ難い信頼性のある給紙を実現できる。
なお、専用紙P2との当接が解除されると、第2分離部材72は、バネ部材73の付勢によって自動的に空間形成位置から分離位置に移動し、分離位置で次の給紙に備える。
【0063】
したがって、上述の第2実施形態によれば、空間形成部60は、空間Sを形成する空間形成位置と、傾斜面51と略同一面を形成する分離位置との間において移動自在な第2分離傾斜部70を有するという構成を採用することによって、剛性の高い専用紙P2が送り出されるときは、第2分離傾斜部70を空間形成位置に位置させることでその専用紙P2に作用する負荷を低減させ、一方で、剛性の低い普通紙P1が送り出されるときは、第2分離傾斜部70を分離位置に位置させることでその普通紙P1と当接して負荷の低減を防止することができる。このため、剛性の低い普通紙P1の負荷を上げて、重送がより確実に生じ難い信頼性のある分離を実現できる。
【0064】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0065】
図10は、本発明の第3実施形態における給送装置2の要部構成を示す平面図である。
第3実施形態の給送装置2は、剛性の異なる用紙Pの高信頼分離をより確実に実現すべく、以下に説明する構成を備える。
【0066】
第3実施形態では、図10に示すように、土手部15の傾斜面51の一部に設けられると共に、分離部材12の傾斜面51よりも高い摩擦力を発現させる第2傾斜面81を有する第3分離傾斜部80を備える。第3分離傾斜部80は、傾斜面51よりも第2傾斜面81が送出方向上流側(+X側)に位置する第2分離位置(図10において実線で示す)と、傾斜面51と第2傾斜面81とが略同一面を形成する第3分離位置(図10において2点鎖線で示す)との間において移動自在に設けられている。本実施形態の第3分離傾斜部80は、Y軸方向において、空間形成部60を挟んで設けられる分離部材12よりも外側に配置されており、+Y側に2つ−Y側に2つの計4つ設けられている。
【0067】
第3分離傾斜部80は、第2傾斜面81を有して第2分離位置と第3分離位置との間をX軸方向で移動自在な第3分離部材82と、第3分離部材82を第2分離位置に向かって所定の付勢力で付勢するバネ部材(第2付勢装置)83とを有する。第3分離部材82は、第2傾斜面81が斜辺となる略直角三角形状を有するブロック材からなる。
【0068】
第3実施形態の土手部15には、第3分離部材82をX軸方向において案内するガイド部84が設けられている。一方の第3分離部材82には、後方(−X方向)に延びる一対のストッパー85が設けられている。ストッパー85の先端部は、フック形状を有しており、第3分離部材82が第2分離位置に位置するときに、そのフック形状がガイド部84のY軸方向両側壁から突設した突起部87に係合することにより、第3分離部材82の+X方向の移動を規制する構成となっている。
【0069】
バネ部材83は、第3分離部材82とガイド部84との間に配置され、X軸方向に伸縮自在に設けられる。バネ部材83は、常態で、第3分離部材82に対し分離位置に向かう+X方向の所定の付勢力を与える構成となっている。本実施形態のバネ部材83の付勢力は、剛性の低い普通紙が給紙される場合には第3分離部材82が第2分離位置に位置し、剛性の高い専用紙が給紙される場合には第3分離部材82が専用紙に押し込まれて第3分離位置に位置するような値に設定されている。
【0070】
このバネ部材83の常態での付勢力は、例えば図4に示す用紙反力に基づいて設定される。上記のように第3分離部材82を移動させるためには、その位置における普通紙の用紙反力の値と専用紙の用紙反力の値との間の値に、バネ部材83の付勢力を設定すればよい。ちなみに、本実施形態のバネ部材83の常態での付勢力は、例えば0.2N程度となるように設定されている。
【0071】
図11は、本発明の第3実施形態における第2傾斜面81の構成を示す左側面図である。
図11に示すように、第2傾斜面81は全体で傾斜面51と略同一の傾斜角度を有するが、その斜面が、鋸歯形状、階段形状となっている。そのため、第2傾斜面81の摩擦係数は、傾斜面51の摩擦係数よりも高くなっている。具体的に、ピックアップローラー16により送り出される際に用紙Pと当接する第2傾斜面81の当接面81aは、傾斜面51の角度(例えば約60度)よりも角度θだけ大きい角度(例えば約70度)で形成されている。傾斜角度が大きくなると、用紙Pが当接した際の用紙反力を増加させることができる。
第3実施形態では、専用紙を分離する関係上、傾斜面51の傾斜角度を普通紙の分離に適した分離傾斜角度に設定できない場合に、その分の普通紙の負荷の低下を補うことを目的として、傾斜面51より高い摩擦力を発現させる第2傾斜面81を有する第3分離傾斜部80を備えている。
【0072】
続いて、上記構成の第3分離傾斜部80の動作(作用)について、図12及び図13を参照して説明する。
図12は、本発明の第3実施形態における分離傾斜部50に剛性が低い普通紙P1が給紙される様子を模式的に示す図である。図13は、本発明の第3実施形態における分離傾斜部50に剛性が高い専用紙P2が給紙される様子を模式的に示す図である。
【0073】
図12に示すように、ピックアップローラー16の回転駆動により剛性の低い普通紙P1が−X方向に送り出されると、普通紙P1が分離傾斜部50の傾斜面51の位置より手前側に位置する第3分離傾斜部80の第2傾斜面81に当接する。
第3分離部材82は、バネ部材83により+X方向に付勢されており、その付勢力はその位置での普通紙P1の負荷よりも大きく設定されているため、普通紙P1に押し込まれること無く、第2分離位置で待機する。第2分離位置に位置する第3分離部材82は、その位置において普通紙P1と当接し、当接面51aの作用により傾斜面51よりも大きな摩擦力を発現させて分離のための負荷を与える。このため、傾斜面51のみでは十分な負荷を得ることができない場合に、その負荷の低減を補うことができる。したがって、重送がより確実に生じ難い信頼性のある分離を実現できる。
【0074】
一方、図13に示すように、ピックアップローラー16の回転駆動により剛性の高い専用紙P2が−X方向に送り出されると、専用紙P2が分離傾斜部50の傾斜面51の位置より手前側に位置する第3分離傾斜部80の第2傾斜面81に当接する。
第3分離部材82は、バネ部材83により+X方向に付勢されており、その付勢力はその位置での専用紙P2の負荷よりも小さく設定されているため、専用紙P2によって付勢に抗して押し込まれ、第2分離位置から第3分離位置に移動する。第3分離位置に位置する第3分離部材82は、土手部15の傾斜面51と略同一面を形成すると共に当接面51aの少なくとも一部を傾斜面51よりも−X方向に逃がして、専用紙P2に対する負荷の増加を抑制する。
【0075】
次に、専用紙P2は、ピックアップローラー16の回転駆動により、分離傾斜部50の傾斜面51及び該傾斜面51と略同一面を形成する第2分離傾斜部70の傾斜面71に当接する。
第2分離部材72は、バネ部材73により+X方向に付勢されており、その付勢力はその位置での専用紙P2の負荷よりも小さく設定されているため、専用紙P2によって付勢に抗して押し込まれ、分離位置から空間形成位置に移動する。空間形成位置に位置する第2分離部材72は、第2土手部15aの傾斜面52と略同一面を形成し、空間Sを画成する。空間Sが形成されると、上述したように専用紙P2の負荷が低下し、変形しやすくなるため、ノンフィード現象が生じ難い信頼性のある給紙を実現できる。
なお、専用紙P2との当接が解除されると、第2分離部材72は、バネ部材73の付勢によって自動的に空間形成位置から分離位置に移動し、分離位置で次の給紙に備え、また、第3分離部材82は、バネ部材83の付勢によって自動的に第3分離位置から第2分離位置に移動し、第2分離位置で次の給紙に備える。
【0076】
したがって、上述の第3実施形態によれば、空間Sが形成される一部を除く傾斜面51の一部に設けられると共に、傾斜面51よりも高い摩擦力を発現させる第2傾斜面81を有する第3分離傾斜部80を有し、第3分離傾斜部80は、傾斜面51よりも第2傾斜面81が送出方向上流側に位置する第2分離位置と、傾斜面51と第2傾斜面81とが略同一面を形成する第3分離位置との間において移動自在に設けられているという構成を採用することによって、剛性の低い普通紙P1が送り出されるときは、第3分離傾斜部80を第2分離位置に位置させることでその普通紙P1と当接して負荷(摩擦力)を増加させて分離性能を向上させ、一方で、剛性の高い専用紙P2が送り出されるときは、第3分離傾斜部80を第3分離位置に位置させることでその専用紙P2に作用する負荷の増加を抑制することができる。このため、剛性の低い普通紙P1の負荷を上げて、重送がより確実に生じ難い信頼性のある分離を実現できる。
【0077】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0078】
例えば、上述の実施形態においては、第2分離傾斜部70及び第3分離傾斜部80は、バネ部材の付勢力により移動すると説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
例えば、バネ部材の代わりに、同等の弾性力を有するゴム部材等を用いてもよい。また、例えば、第2分離傾斜部70及び第3分離傾斜部80を、モータ等を備えるアクチュエーターで電気的に移動させる構成であってもよい。
【0079】
また、第2傾斜面81は、当接面81aの角度を傾斜面51よりも大きくして、負荷を高めると説明したが、例えば、第2傾斜面81に高い摩擦係数の別部材を設けて、負荷を高める構成であってもよい。
【0080】
尚、上述の実施形態においては、記録装置がインクジェットプリンターである場合を例にして説明したが、インクジェットプリンターに限られず、複写機及びファクシミリ等の装置であってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…プリンター(記録装置)、2…給送装置(シート材給送装置)、11…用紙カセット(支持部)、14…支持面、16…ピックアップローラー、50…分離傾斜部、51…傾斜面、60…空間形成部、70…第2分離傾斜部、73…バネ部材(付勢装置)、80…第3分離傾斜部、81…第2傾斜面、81a…当接面、83…バネ部材(第2付勢装置)、P…用紙(シート材)、P1…普通紙、P2…専用紙、S…空間、W1…空間幅、W2…幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシート材を積層して支持する支持部と、
前記支持部の支持面に対して所定角度で傾斜した傾斜面を備えて、該傾斜面に当接した前記シート材を分離する分離傾斜部と、
前記支持部に支持された前記シート材のうち最上のシート材に接して回転駆動することにより、前記シート材を前記分離傾斜部に向けて送り出すピックアップローラーと、
前記送り出す送出方向において前記ピックアップローラーと対向する領域にある前記傾斜面の一部に、該送出方向に前記シート材の一部を逃がす空間を形成する空間形成部と、を有することを特徴とするシート材給送装置。
【請求項2】
前記空間の前記ピックアップローラーと同軸方向の空間幅は、前記ピックアップローラーの軸方向の幅に基づいて設定されていることを特徴とする請求項1に記載のシート材給送装置。
【請求項3】
前記空間の前記ピックアップローラーと同軸方向の空間幅は、前記シート材の剛性に基づいて設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシート材給送装置。
【請求項4】
前記空間形成部は、前記空間を形成する空間形成位置と、前記傾斜面と略同一面を形成する分離位置との間において移動自在な第2分離傾斜部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシート材給送装置。
【請求項5】
前記第2分離傾斜部は、前記送り出された前記シート材と前記傾斜面とが当接した際の反力が前記シート材の剛性に基づいて設定される所定の値より小さい場合に前記分離位置に位置し、前記反力が前記所定の値より大きい場合に前記空間形成位置に位置することを特徴とする請求項4に記載のシート材給送装置。
【請求項6】
前記第2分離傾斜部を前記分離位置に向かって付勢する付勢装置を有し、
前記第2分離傾斜部は、前記付勢に抗して前記分離位置から前記空間形成位置に移動することを特徴とする請求項4または5に記載のシート材給送装置。
【請求項7】
前記空間が形成される一部を除く前記傾斜面の一部に設けられると共に、前記傾斜面よりも高い摩擦力を発現させる第2傾斜面を有する第3分離傾斜部を有し、
前記第3分離傾斜部は、前記傾斜面よりも前記第2傾斜面が前記送出方向上流側に位置する第2分離位置と、前記傾斜面と前記第2傾斜面とが略同一面を形成する第3分離位置との間において移動自在に設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のシート材給送装置。
【請求項8】
前記第3分離傾斜部は、前記送り出された前記シート材と前記傾斜面とが当接した際の反力が前記シート材の剛性に基づいて設定される所定の値より小さい場合に前記第2分離位置に位置し、前記反力が前記所定の値より大きい場合に前記第3分離位置に位置することを特徴とする請求項7に記載のシート材給送装置。
【請求項9】
前記第3分離傾斜部を前記第2分離位置に向かって付勢する第2付勢装置を有し、
前記第3分離傾斜部は、前記付勢に抗して前記第2分離位置から前記第3分離位置に移動することを特徴とする請求項7または8に記載のシート材給送装置。
【請求項10】
前記送り出される際に前記シート材と当接する前記第2傾斜面の当接面は、前記傾斜面の所定角度よりも大きい角度で形成されていることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のシート材給送装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のシート材給送装置と、
前記シート材給送装置により給送される前記シート材に対し記録処理を行う記録部と、を有することを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−148622(P2011−148622A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12985(P2010−12985)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】