説明

シート状物

【課題】回路基盤等のEMC対策として使用する際に、厚さをコントロールしているので必要以上にかさばらず、シート状であるので使用上や取扱も容易で、回路基盤の発熱に起因する発火も防ぐことのできる、電気的ノイズ抑制シート状物を提供する。
【解決手段】導電性繊維と非導電性繊維が互いにネットワーク構造を構成していることを特徴とする電気的ノイズ抑制シート状物であって、導電性繊維は繊維状カーボン、特にCNTを使用することが好ましい。また、導電性繊維は0.1〜80%含有され、表面固有抵抗値が0.001〜105Ω/□であって、厚さが10〜200μmであり、繊維状カーボンが非導電性繊維表面の20%以上を被覆していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的ノイズを抑制する効果を有するシート状物に関する。さらに詳しくは、電磁環境両立性(Electro Magnetic Compatibility:EMC)対策として好適に使用できる電気的ノイズ抑制シート状物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気的ノイズは、身の回りの電子・電気機器から発生しているもので、電気、電磁波を利用する機器に故障、誤動作、機能不全等の悪影響を与える可能性があり問題となっている。これらには、電子部品の内部に搭載されているCPU、LSI、周辺半導体等から放射される放射ノイズ、プリント配線基板の線路を伝わる伝導ノイズ、AC電源の周波数に同期した高周波成分、誘導性回路によるノイズ等がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、導電性材料から構成される層と、その上に順次積層された金属酸化物磁性体の微粉末と結合剤から構成される層と、金属磁性体の微粉末と結合剤から構成される層とを有する電磁波吸収材料が提案されている。この提案は、広い周波数帯域の電磁波を効率よく遮蔽あるいは吸収しようとする提案であるが、多層の構成であるが故にシート厚が厚いという欠点があった。特許文献2では、金属箔と電磁波吸収層を有する積層シートが提案されているが、この提案では電磁波の一部が乱反射して外部に漏れ出すという問題があった。特許文献3は、有機結合剤としてアクリルゴム中に軟磁性金属粉末を分散させ、難燃剤として水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムを配合した電磁波吸収シートが提案されている。しかしこの提案では、薄く燃えやすい軟磁性金属粉末を配合した組成物に難燃性を付与するために多量の難燃剤を必要とし、そのために電磁波吸収性が劣化してくるという問題があった。
【0004】
特許文献4では、プラスチックフィルムの表面に表面抵抗値が一定値以下の導電層を設けたカバーレイフィルムを貼り合わせた電磁波シールド用プリント配線板が提案されている。この提案は厚さも薄く、屈曲性に優れたものであったが、安価な熱可塑性フィルム素材を使用しているため耐熱性に劣り、該プリント配線板をハンダリフォローして電子部品の実装を行う際に該フィルム部分が溶融したり変形してプリント基板から剥離する、という問題があった。また、該カバーレイフィルム自体には導電性がないので、プリント配線基盤のアースと導電性金属薄膜層間で、ノイズに伴う電流のやりとりがないため、特に高周波のノイズを減少させる効果が劣っていた。また、特許文献5では、プラスチックフィルムの両面に金属薄膜を設けたプラスチックシートで、プリント配線基盤等の電磁気輻射源を包装して電磁波をシールドする方法が提案されている。この提案では、金属薄膜の厚さを1μm以上にしないと電磁波シールド性が発揮できないので、屈曲性に劣り、結果として屈曲部を有するプリント配線基盤等への適用が困難であった。
【0005】
一方、非特許文献1には、パソコンや携帯電話、あるいはプリント配線基盤から発せられる高周波電磁波ノイズをシールドするために、アルミニウムや銅からなる金属箔の片面に導電性、あるいは非導電性の粘着剤を使用した金属箔粘着テープを該配線基盤に貼り合わせて電磁波をシールドする方法が発表されている。しかし、この方法では金属箔の厚さを10μm以上にすることで電磁波シールド性の効果をあげられるが、耐屈曲性に劣り、また10μm以下に薄くすると電磁波シールドフィルムが破れやすくなるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−83994号公報
【特許文献2】特開平10−65384号公報
【特許文献3】特開2001−308583号公報
【特許文献4】特開2005−277262号公報
【特許文献5】特開2002−361770号公報
【特許文献6】特開昭58−16599号公報
【非特許文献1】伊藤健一、「ノイズ対策ハンドブック」、日刊工業新聞社発行、1994年8月30日出版、P199〜201
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、回路基盤等のEMC対策として好適に使用でき、電気的ノイズを抑制することが可能なシート状物を提供することを課題とする。具体的には、導電性繊維状と非導電性繊維が互いにネットワーク構造を構成しているシート状物であって、回路基盤等に使用しても容量を必要以上に増加させないように適度な厚さを有し、回路の発熱等があっても安全に使用することのできる難燃性を有した電気的ノイズ抑制シート状物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、導電性繊維と非導電性繊維が互いにネットワーク構造を構成していることを特徴とする電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、導電性繊維が繊維状カーボンであることを特徴とする請求項1に記載の電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、繊維状カーボンが、直径1000nm以下のカーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン(CNH)の任意の1種類以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0011】
本発明の請求項4に係る発明は、非導電性繊維が製紙用パルプ繊維であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0012】
本発明の請求項5に係る発明は、繊維状カーボンが0.1〜80質量%含有されており、かつ、温度23℃、相対湿度50%で24時間調湿後、同条件で表面固有抵抗(JIS K7190)を測定したとき、0.001〜1×10Ω/□であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0013】
本発明の請求項6に係る発明は、厚さが、10〜200μmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0014】
本発明の請求項7に係る発明は、繊維状カーボンが、非導電性繊維の表面の20%以上を被覆していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0015】
本発明の請求項8に係る発明は、湿式抄紙法により形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0016】
本発明の請求項9に係る発明は、難燃処理が施されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物である。
【0017】
本発明の請求項10に係る発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気的抑制シート状物を使用した電子回路基盤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、回路基盤等のEMC対策として使用する際に、厚さをコントロールしているので必要以上にかさばらず、シート状であるので使用上や取扱も容易で、回路基盤の発熱に起因する発火も防ぐことのできる、電気的ノイズ抑制シート状物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明では、導電性繊維と非導電性繊維が互いにネットワーク構造を形成していることが必要である。本発明では、導電性繊維と非導電性繊維がネットワーク構造を形成することで、導電性繊維と非導電性繊維の細かい隙間が形成され、その結果、最近問題視されている不要な電磁波によるノイズ(電磁波ノイズ)を吸収することで電気的ノイズ全体の抑制効果(ノイズカット効果)を有することが可能となる。このような構造にすることで電気的ノイズ抑制効果が現れる理由は定かではないが、本発明者らは、導電性繊維と非導電性繊維間の隙間がコンデンサの働きをし、高周波からなる不要な電気的ノイズを熱エネルギーに変換してしまうことが主たる理由ではないかと推測している。
【0020】
本発明では、主として回路基盤等に使用して電気的ノイズの内でも、特に電気・電子機器内部で発生する電気的ノイズを抑制し、これらが電気的ノイズとなる前に防止しようとするものである。
【0021】
電気的ノイズは、電流のON・OFFによるスイッチングにより発生すると考えられている。従って高周波が流れている電子回路では、配線のインダクタンス等によってノイズとなる不要な電気的ノイズが発生し、しかも電気的ノイズの放射量は周波数の自乗に比例して増大するので、パソコンのCPUのようにGHz領域におよぶクロック周波数を有するものは、電気的ノイズの主たる発生源となっている。
【0022】
電気的ノイズに対する手段としては、
(1)シールド
(2)反射
(3)バイパス
(4)吸収
といった4種類の方法が考えられる。さらに大きく分けると、シールドと吸収に分類できる。パソコンを例にとると、金属製の筐体で本体を構成しているのは、物理的な強度保持以外に不要な電気的ノイズの漏洩を防ぐ(シールド)ことを目的としている。しかし、金属製筐体もパソコン全体をカバーしているのではなく、しかも電源ケーブルや周辺機器を結ぶ接続ケーブルは不要な電気的ノイズを放出するアンテナになったりもしている。
【0023】
電気的ノイズ吸収とは、その表面で電気的ノイズとのインピーダンスマッチングを取り、内部に電気的ノイズを取り込むことが必要であり、電気的ノイズの周波数によっても異なってくる。これに対して電気的ノイズシールドとは、全く逆の構造であり、ほとんどの入射エネルギーが全面で反射されるような材料を選択し、透過エネルギーを小さくするので内部ではほとんど電気的ノイズを窮しない。
【0024】
本発明における電気的ノイズ抑制シート状物では、入射した電気的ノイズエネルギーの大部分をジュール熱に変換して吸収することが特徴である。そのメカニズムは、磁性体、誘電体、導電体が、電気的ノイズの構成要素である磁界波、電界波に対応し、シェルクノフの多重反射理論(空間に存在する固有インピーダンスを持って存在する電磁波に対して、極力インピーダンスマッチングを試みて電磁波吸収体内部に取り込み、電磁波吸収体内部で吸収特性を上昇させる。)によるものと考えられる。本発明のように誘電材料と磁性材料の混合された物質では、高密度に構成されたマイクロコンデンサーネットワークが構成され、電気的ノイズの照射に対応してマイクロコンデンサーの作用によって誘電損失効果が生じ、結果として熱エネルギー(ジュール熱)に変換されると考える。
【0025】
電気信号と電気的ノイズは本質的に同じものであるので、発生源の対応をしていないと取り返しがつかない状態になる。例えば、電流が流れる導体の近くに他の導体が存在すると、コンデンサ(浮遊容量)を生じて電圧が誘起され(静電結合)、高周波電流が流れると放射ノイズや伝導ノイズとなって機器に悪影響を与えるのである。
【0026】
電磁結合は磁界による誘導現象であり、交流が流れる回路のそばに別の回路が存在すると、ファラデーの電磁誘導の法則に従って発生する磁界の変化によって電流が流れる。電磁誘導によって誘起されるノイズ電圧は、磁界の時間的変動が激しいほど、両回路のループ面積が大きいほど、両回路が接近するほど大きくなる。上記したように、電子機器がノイズと無縁であることは不可能であり、発生するノイズ対策と侵入するノイズ対策の双方を図るEMC(Electro Magnetic Compatibility)という考え方が重要になってきた。
【0027】
また、交流電源からも、電源自体の電源電圧のゆらぎが原因となる交流電源のフリッカーノイズや、交流の周波数自体が原因となる、いわゆる「ハム」ノイズ、あるいは交流電源の周波数に同期した高周波成分が、交流電源ラインにいわば逆流して、同じ電源ラインから電源を取っているほかの電子機器に悪影響を与えるといったようなノイズもある。これは普通のレギュレータ電源(トランスで電圧を変換して整流回路から平滑回路と続くタイプの電源回路)でなく、スイッチング電源やインバータ電源、サイリスタ方式の電力制御回路などによって発生する。電源高調波ノイズは電源ラインを伝わってくるので、最も根源的な対策としては電気的に完全な分離とシールドを行うノイズカットトランス、ノイズキャンセラトランスなどと呼ばれるトランスによって、交流ラインの電力を供給しながら高調波・高周波帯域のノイズをカットしてしまうことが有効であるが、ノイズ対策だけのためにそれなりのコストがかかるという問題を有している。
【0028】
本発明に使用される導電性繊維について説明する。導電性繊維とは、導電性を有する繊維状物質全般を示し、例えば、繊維状カーボンとして炭素繊維(CF)、活性炭繊維、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン(CNH)といったもの、あるいはカーボンを練り込んだカーボンレーヨン、ポリピロールを練り込んだポリピロール繊維、各種の金属繊維やウイスカといったものが列挙できる。本発明では、導電性繊維としては繊維状カーボンが好ましい。繊維状カーボンとは、上記したようにCF、活性炭繊維、CNF,CNT,CNH等を総称しているが、その違いは直径に起因する物が大きい。CFや活性炭繊維ではその直径が約10μm以上であるが、CNFでは10〜1000nm、CNTやCNHでは1〜10nmである。本発明においては、CNF、CNTおよびCNHを総称して繊維状カーボンという。
【0029】
本発明に使用される非導電性繊維とは、導電性でない繊維状物質一般を示す。例えば、植物繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、無機繊維等をしめす。本発明では、湿式抄紙法を使用してシート状物を形成することが好ましいので、湿式抄紙法が適用できる繊維であればどれでも使用できる。例えば、植物性繊維としてセルロース繊維を挙げることができる。これには針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ(GP)等の木材パルプ繊維、楮、三椏、雁皮等の靱皮繊維、藁、竹、ケナフ、バガス等の非木材パルプ繊維、セルロース繊維を処理することにより得られるマイクロフィブリル化セルロース繊維、バイオセルロース繊維等がある。これらを応用したものとして、レーヨン繊維、その他表面処理したセルロース繊維、カルボキシルメチルセルロース繊維等がある。また植物性繊維以外の繊維としては、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の合成繊維、半合成繊維、合成パルプ、あるいはアルミナ繊維、シリケート繊維、アルミナシリケート繊維、ロックウール等の無機繊維等を単独であるいは必要に応じて適宜組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明では、非導電性繊維としてセルロース繊維を使用すると、効率的に繊維状カーボンがネットワーク構造を形成した状態で繊維表面に定着するので好ましい。その理由は定かではないが、セルロース繊維は親水性の水酸基を有する一方、C−H基に由来する疎水基も有しており、この親水基と疎水基を有していることにより、本来疎水性である繊維状カーボンを効率的に繊維状のネットワーク構造で被覆されるように製紙用繊維の表面に定着することが可能となると考えられる。また、セルロース繊維はカルボキシル基を有しているので、このカルボキシル基によっても繊維状カーボンが効率的に、製紙用繊維の表面にネットワーク構造を形成して定着すると考えられる。また、セルロース繊維は親水性の水酸基をもっていることから、湿式抄紙法でシートを形成する際に水分散性に優れるので好ましい。
【0031】
CNTは最も微細な繊維状カーボンの形態であり、その直径は最も小さいもので1nmといわれている。これはフラーレン(C60)分子1個の直径に相当し、炭素原子の幾何学的配置からしてこれ以下の細い繊維は存在しないことになる。CNTはこのフラーレン分子を輪切りにして、その半球2つを繋げるようにして連続させたもので、1枚のグラフェンシートを円筒状に巻いた構造のシングルウオールカーボンナノチューブ(SWCNT)と、これが同心円状に入れ子になった状態のマルチウオールカーボンナノチューブ(MWCNT)がある。本発明ではSWCNTとMWCNTのどちらを使用しても効果に差はでない。
【0032】
本発明で使用する繊維状カーボンは、形状が繊維状であるために互いに絡み合う傾向が強く、乾燥した粉体の状態では著しく凝集している。実使用にあたってはこれらの繊維状カーボンの分散体を作成する必要がある。分散によって繊維が切断される危険性があるが、これをクリアすれば、一般的なカーボンブラック等と比較しても非常に高い導電性を得ることが可能となる。しかし、CNTやCNHの分散はかなり困難である。その原因は、CNTやCNH表面の原子が配位的に不飽和であるため、隣接同士に配列して、ファン・デル・ワールス力で凝集しているからで、これらを溶液中で分散させるには、超音波処理により物理的に分散処理する方法とか、界面活性剤を使用してCNTやCNH表面の親溶媒性(特に親水性)を高める、あるいは同じ極性の電荷を有する分子どうしの斥力を利用したり、あるいはこれらの技術を組み合わせた各種の分散方法が提案されている。
【0033】
セルロース繊維を高圧下剪断力で解繊したマイクロフィブリル化セルロース(MFC)を使用すると、電気的ノイズ抑制特性は更に向上する。MFCは、セルロース繊維を処理することにより、数平均繊維長が0.05〜3mm、保水度が200ml以上にした微細繊維である。該繊維に繊維状カーボンのネットワーク構造が形成されることにより、通常のセルロース繊維と比較して、より緻密に、均一なネットワーク構造の構築が可能となる。さらに、マイクロフィブリル化セルロースは、パルプ繊維等のセルロース繊維に非常によく定着する。このため、マイクロフィブリル化セルロース、あるいはセルロース繊維とマイクロフィブリル化セルロースの混合物に繊維状カーボンを定着させると、極めて効果的に繊維状カーボンのネットワーク構造を形成することができるため、有効である。
【0034】
主体となる繊維にカルボキシルメチルセルロース繊維を使用することは、前述したカルボキシル基により繊維状カーボンの定着に有利なばかりでなく、その後の処理により繊維状カーボンのみのネットワーク構造形成が可能となる。カルボキシルメチルセルロース繊維は、セルロース誘導体の繊維であり、陰イオン性高分子電解質であるため親水性ではあるが水に不溶である。しかし、アルカリ金属化合物、アンモニア等のアルカリ性物質を含有する溶液に浸漬し、カルボキシルメチルセルロース繊維をアルカリ塩とすることで水溶性にすることが可能である。このため、一旦カルボキシルメチルセルロース繊維表面に繊維状カーボンのネットワーク構造を被覆した状態でシート化し、これをアルカリ性物質で水溶性にした後、水でカルボキシルメチルセルロース繊維を溶かし除去することにより、繊維状カーボンのみのネットワーク構造を得ることが可能となる。前述した通り、湿式抄紙法を用いれば、繊維状カーボンの表面に付着している界面活性剤は除去されるので、水素結合を阻害する要因となっている界面活性剤の影響を受けない繊維状カーボンのみのネットワーク構造を有するシート状物を形成することが可能となる。この際、繊維状カーボンのみのネットワーク構造は物理的強度が弱く、シート状物になったとしても直に崩れてしまう為、予め熱融着性繊維、その他の水に不溶な繊維を一部混ぜておくと、シート状物として取り扱うことができる。また、金属や高分子材料、硝子等の表面に該カルボキシルメチルセルロース繊維を使用した繊維状カーボン含有シートを貼り付け、その後、アルカリ性物質で処理することにより、これらの物質表面に繊維状カーボンのみのネットワーク構造を形成することが可能である。
【0035】
また、主体となる繊維としてレーヨン繊維を用いても、効率的にその繊維表面に繊維状カーボンのネットワーク構造を形成することができる。これも通常のセルロース繊維と同様、繊維中に親水基、疎水基の両方が存在しているため、繊維状カーボンが効率的にネットワーク構造を形成しながら繊維表面に定着するものと考えられる。
【0036】
繊維状カーボンの直径は1000nm以下であることが好ましい。直径が1000nmを超えると、非導電性繊維表面に繊維状カーボンの細かなネットワーク構造をとることが困難になるので好ましくない。さらに好ましくは直径が100nm以下の繊維状カーボンである。繊維状カーボンの直径がこの程度まで細くなると、電気的ノイズ抑制効果が飛躍的に向上する。その理由は定かではないが、非導電性繊維の表面に繊維状カーボンの微細なネットワーク構造が形成されることで、導電性繊維と非導電性繊維の間で一種のコンデンサ現象が発生していると推測している。コンデンサは、直流電流は通さずに電気を貯める働きをし、交流では周波数によって抵抗値の変化する抵抗として機能する。従って、本発明者らは、コンピュータのCPUから発生するような高周波に対しては抵抗として働き、熱エネルギーに変換することで電気的ノイズを抑制していると考えている。そのため、パルプ繊維のような非導電性繊維表面に繊維状カーボンの細かなネットワーク構造が形成され、さらにこの非導電性繊維がネットワーク構造をとるという2階層構造を形成することが好ましい。
【0037】
繊維状カーボンのネットワーク構造とは、製紙用繊維の表面に被覆された繊維状カーボンが互いに接触し、全体として連続している状態を指す。繊維状カーボンが連続して接触していることにより、電子の通り道を提供し、上記したような極めて有効な電気特性を醸し出すのである。繊維状カーボンが凝集体の状態であると、凝集体の中では電子は通るが、シート全体として考えた場合、電気を確実に通すことが難しくなるので好ましくない。また、部分的に繊維状カーボンが存在するということは、電気的ノイズ抑制シート状物として使用するような場合、電磁波、マイクロ波を効率的に熱エネルギーに変換できないため充分な効果を発揮することができないので好ましくない。
【0038】
本発明は湿式抄紙法で形成されたシート状物であることが好ましい。湿式抄紙法とは、紙や不織布を製造する際に一般的に使用される方法で、繊維を水に分散し、これに適宜必要な薬品を添加し、すき網を使用しシート化する方法である。まず、繊維状カーボンの分散液と非導電性繊維を接触させて、非導電性繊維表面に繊維状カーボンを被覆させ、さらにこの状態の非導電性繊維を水に分散させて定着させることにより、効率的に主体となる非導電性繊維の表面に繊維状カーボンが被覆された状態で、さらに非導電性繊維のネットワーク構造を形成することができる。
【0039】
界面活性剤を使用した繊維状カーボン分散液を使用して、本発明のように湿式抄紙法を使用しない場合には、界面活性剤が導電性繊維表面に作用して導電性繊維同士接触したネットワークの形成を阻害するので好ましくないが、湿式抄紙法を採用することで、水に分散させた状態で導電性繊維の表面に繊維状カーボンを被覆させたもの同士のネットワーク構造を形成し、さらには、これを脱水することにより、繊維状カーボン表面に存在している界面活性剤を除去することが可能となり、上記したような問題点が解決されるのである。この理由は、例えば乾式法によってシートを形成した場合、繊維状カーボン同士がネットワーク構造を形成しても、その表面に存在する界面活性剤が直接繊維状カーボン同士を接触することを阻害するためであると考えられる。湿式抄紙法を使用することで、繊維状カーボンのシート化と同時に界面活性剤を除去することが可能となり、界面活性剤による主体となる繊維の水素結合阻害要因を除くことが可能となるのである。
【0040】
湿式抄紙機としては、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機あるいはこれらのコンビネーション抄紙機といった、一般的な抄紙機を自由に選択することができる。
【0041】
湿式抄紙法でシートを形成する際、非導電性繊維の表面に繊維状カーボンのネットワーク構造を形成する方法は特に限定されない。例えば、硫酸バンドや、カチオン性定着剤、アニオン性定着剤等の電荷を調整する定着剤を使用し、非導電性繊維および繊維状カーボンの表面電荷を調整する方法も可能である。あるいは、水溶性高分子を使用し、繊維状カーボンを水溶性高分子に定着させてから主体となる非導電性繊維表面に定着させる方法もある。また、繊維状カーボンがある程度ネットワーク構造を形成する状態の電荷に調整してから、非導電性繊維に定着させる方法等もある。更に、繊維状カーボン自体に主体となる非導電性繊維に効率的に定着するように処理する方法もある。また、界面活性剤を使用した繊維状カーボンの分散品の場合、この界面活性剤の一部若しくはすべてに非導電性繊維と逆の荷電を持った界面活性剤を使用することにより、非導電性繊維の表面に効率的に繊維状カーボンのネットワーク構造を形成するといった方法がある。例えば、非導電性繊維をセルロース繊維とする場合、セルロース繊維表面がアニオン性であるためカチオン性界面活性剤を使用するのが有効である。これらの方法は、繊維状カーボンの性質、分散方法、主体となる繊維により適宜使い分ける必要がある。特に、セルロース繊維に界面活性剤を使用した繊維状カーボン分散液を使用する場合、定着剤として両性デンプンを使用するのが好ましい。その理由は定かではないが、両性デンプンが荷電を調整するとともに、何らかの作用によってセルロース繊維と繊維状カーボンの定着を促していると考えられる。
【0042】
繊維状カーボンのネットワーク構造で非導電性繊維表面を被覆した繊維で形成されたシート状物は、湿式抄紙法以外に繊維状カーボン分散液を含浸させる方法もある。非導電性繊維でシート状物を形成してから、該シート状物を繊維状カーボン分散液に浸し、該シート状物の内部まで繊維状カーボン分散液を浸透させ、繊維状カーボンのネットワーク構造を非導電性繊維表面に形成する方法である。この際、非導電性繊維表面に繊維状カーボンのネットワーク構造で被覆させるための方法は特に限定されない。例えば、繊維状カーボンが定着しやすいように主体となる非導電性繊維を処理し、これを使用してシート状物を形成し、それに繊維状カーボン分散液を含浸する方法がある。また、非導電性繊維表面をカチオン性にしておき、この非導電性繊維をシート化した後、繊維状カーボン自体をアニオン性に処理した分散液で含浸し、非導電性繊維表面に繊維状カーボンのネットワーク構造を形成する方法等がある。界面活性剤を使用した分散液の場合、アニオン性の界面活性剤を使用してもよい。また、繊維状カーボンの分散液を予め主体となる非導電性繊維に定着しやすいように処理してもよい。非導電性繊維に繊維状カーボンのネットワーク構造を形成する方法は、繊維状カーボンの性質、分散方法、繊維、含浸の条件により適宜使い分ける必要がある。
【0043】
湿式抄紙法や、シートに繊維状カーボンを含浸する方法によりえられた繊維状カーボン含有シート状物を加工処理し、更に性能を向上させることができる。例えば、界面活性剤を使用した繊維状カーボン分散液を使用した場合、この界面活性剤が溶解可能な溶剤で含浸処理する等の加工をすることにより、界面活性剤を除去し導電性を向上させることができる。
【0044】
本発明において、湿式抄紙法でシート状物を形成する場合、性能を損なわない範囲で、一般的な抄紙薬品を使用することができる。例えば、デンプンやグアーガム、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子紙力増強剤、ポリアクリルアミド、エポキシ変性ポリアミド、カチオン性ポリアミド、ビニルアミン系高分子等の高分子紙力増強剤、メラミン、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン等の湿潤紙力増強剤、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク等の填料、ロジンサイズ、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸ナトリウム、スチレンアクリル等のサイズ剤、消泡剤、歩留まり向上剤、硫酸バンド、カチオン化ポリアクリルアマイド、アニオン化ポリアクリルアマイド等の定着剤等が使用できる。さらに、必要に応じカーボンブラックを添加することもできる。
【0045】
本発明では、繊維状カーボンが0.1〜80質量%含有され、かつ温度23℃、相対湿度50%で24時間調湿後、同条件で表面固有抵抗(JIS K7194)を測定したとき、0.001〜1×10Ω/□であることが好ましい。繊維状カーボンの含有量が0.1質量%未満では、あるいは表面固有抵抗が1×10Ω/□以上になると、シート状物の表面固有抵抗が必要な値まで低下せず、電気的ノイズ抑制効果が劣るので好ましくない。逆に繊維状カーボンが80質量%を超える状態である場合や、表面固有抵抗値が0.001Ω/□未満まで下がると、表面固有抵抗値が下がりすぎ、シート状物が電気的ノイズの反射体となってしまい、電磁波シールド性は向上するが、電気的ノイズ全体としてみた場合の抑制効果は低下するので好ましくない。繊維状カーボンの含有量は、好ましくは0.5〜30質量%、表面固有抵抗は、好ましくは0.1〜1×10Ω/□である。繊維状カーボンと表面固有抵抗値の関係は、繊維状カーボンの種類や形態によって異なるので、必要に応じて適宜調整する必要がある。
【0046】
本発明では、電気的ノイズ抑制シート状物の厚さは10〜200μmであることが好ましい。より好ましくは30〜100μmである。厚さが200μmを超えると、電気的ノイズ抑制効果やシート状物の物理的強度は保たれるが、プリント基板等への応用の際に、体積が増加することによる設計上の問題や、フレキシブル性が減少するための自由度が減少するので好ましくない。また、厚さが10μm未満になると、物理的強度が低下するので使用上の問題が発生し、好ましくない。
【0047】
本発明では、繊維状カーボンが非導電性繊維表面の20%以上を被覆していることが好ましい。さらに好ましくは30%以上である。繊維状カーボンの非導電性繊維表面における被覆率が20%未満であると、シート状物中における繊維状カーボンのネットワークが不均一になりやすく好ましくない。非導電性繊維表面における繊維状カーボンの被覆率が20%を超えると、シート状物全体としてみた場合でも繊維状カーボンのネットワーク構造が形成され、さらに面積という2次元的な構成でなく、厚さ方向も加わって3次元的なネットワーク構造を形成するので好ましい。本発明のように導電性繊維と非導電性繊維が3次元的に絡みあったネットワーク構造を形成することで、従来のようにCNT等の導電性物質をゴムや合成樹脂に分散させて成形した素材や、あるいはこれらを塗料化して基材に塗布したものと比較すると、繊維間の隙間が多く見られることから誘電率が高くなり、コンデンサ的な能力も増大することで、高周波を中心とする電気的ノイズを効果的に抑制することが可能となると考えられる。
【0048】
本発明では、難燃処理を施すことが好ましい。本発明による電気的ノイズ抑制シート状物は、基本的に電気的ノイズを熱エネルギーとして放出する作用を有している。また、回路基盤自体も実際の使用条件下ではかなりの発熱を示す場合が考えられ、火災などの危険防止を目的として難燃処理を施すことが好ましい。難燃レベルとしては、UL94規格におけるV−0レベルが好ましい。この条件を満足することで、電子機器中でも安定して使用することが可能となる。難燃性を付与するには、難燃剤をシート状物に含浸したり塗工したりする方法と、難燃剤を抄紙時に混抄する方法があり、これらを併用してもかまわない。難燃剤の種類としては、有機系難燃剤としてペンタプロモジフェニルエーテル、オクタプロモジフェニルエーテル、デカプロモジフェニルエーテル、テトラピロモビズフェノールA、ヘキサプロモシクロドデカン等の臭素化合物、トリフェニルホスフェート等の芳香族リン酸エステル、ハロゲンを含むリン酸エステル、塩素化パラフィン等の塩素化合物、スルファミン酸グアニジン、硫酸グアニジン、リン酸グアニジン、ホウ酸グアニジン等のグアニジン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等がある。
【0049】
本発明では、上記したような電気的ノイズ抑制シート状物を適当な大きさにカットしたり、粘着剤加工をしたりしたものを、電子回路基盤や各種コード類に被覆することで、有害な電気的ノイズを効果的に抑制することができる。
【0050】
[実施例1]
導電性繊維としてポリピロール繊維を30質量%と、非導電性繊維としてポリエチレン繊維(繊維長1.2mm)を60質量%を混合してスラリーとし、バインダー繊維として融点が100℃であるポリエチレン繊維を10質量%添加し、湿式抄紙法により坪量が100g/m、厚さが190μmのシート状物を作成した。
【0051】
[実施例2]
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)50質量%、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)50質量%を水に分散させて叩解し、カナディアンスタンダードフリーネスによる叩解度が500mlのスラリーを調整した。このパルプスラリーの固形分70質量%に対して、活性炭繊維30質量%を混合、分散し、湿式抄紙法により坪量が100g/m、厚さが185μmのシート状物を作成した。
【0052】
[実施例3]
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)50質量%、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)50質量%を水に分散させて叩解し、カナディアンスタンダードフリーネスによる叩解度が500mlのスラリーを調整した。これとは別に、カーボンナノチューブ(MWCNT 直径20nm、繊維長2〜3μm)に両性界面活性剤として3−(N,N−ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、安定剤としてグリセロールを加え、乳鉢で20分間練り混合し、その後、カラギーナン、水を加え更に40分間乳鉢で練り、カーボンナノチューブの固形分濃度が2質量%の分散液を作成した。パルプスラリーにカーボンナノチューブの分散品を対固形分比で5質量%添加して混合し、両性デンプンを対固形分比で2質量%添加して混合し、パルプ繊維にカーボンナノチューブを定着させたスラリーを作成した。このスラリーを使用して、湿式抄紙法により坪量が100g/m、厚さが165μmのシート状物を作成した。
【0053】
[実施例4]
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)50質量%、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)50質量%を水に分散させて叩解し、カナディアンスタンダードフリーネスによる叩解度が500mlのスラリーを調整した。これとは別に、カーボンナノチューブ(MWCNT 直径20nm、繊維長2〜3μm)を実施例3と同様にして、カーボンナノチューブの固形分濃度が2質量%の分散液を作成した。パルプスラリーにカーボンナノチューブの分散品を対固形分比で5質量%添加して混合し、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂(商品名「WS−4024」)を対固形分比で2質量%添加して混合し、パルプ繊維にカーボンナノチューブを定着させたスラリーを作成した。このスラリーを使用して、湿式抄紙法により坪量が100g/m、厚さが170μmのシート状物を作成した。
【0054】
[実施例5]
パルプ繊維にカーボンナノチューブを定着させたスラリーに、難燃剤を対固形分比で13質量%添加したほかは実施例3と同様にして、坪量が100g/m、厚さが165μmのシート状物を作成した。
【0055】
[比較例1]
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)50質量%、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)50質量%を水に分散させて叩解し、カナディアンスタンダードフリーネスによる叩解度が500mlのスラリーを調整した。このスラリーにポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を対固形分比で2質量%添加して混合し、湿式抄紙法により坪量が100g/m、厚さが175μmのシート状物を作成した。
【0056】
[比較例2]
坪量が200g/m、厚さが318μmとしたほかは実施例3と同様にしてシート状物を作成した。
【0057】
[比較例3]
カーボンナノチューブの添加量が0.05質量%としたほかは実施例3と同様にして、厚さが160μmのシート状物を作成した。
【0058】
[比較例4]
カーボンナノチューブの添加量が85質量%としたほかは実施例3と同様にして、厚さが150μmのシート状物を作成した。
【0059】
実施例1〜5および比較例1〜4で得られたサンプルを使用して、以下のような評価試験を行い、その結果を表1〜表3に示した。
【0060】
[表面固有抵抗]
各サンプルをJIS P8111で示された条件下で1昼夜調湿後、同条件下で電気抵抗測定器(商品名「ハイレスタ MCP−HT450」、三菱化学(株)製造)を使用し、JIS K7194に従って四端子法にて測定した。評価は以下のとおりとし、○以上を合格とした。
◎ : 1×10−1〜1×10Ω/□
○ : 1×10〜1×10Ω/□
○ : 1×10−3〜1×10−1Ω/□
× : 1×10−3Ω/□未満
× : 1×10Ω/□以上
【0061】
[導電性繊維の被覆率]
電子顕微鏡を使用して実施例3と比較例3の各サンプルの表面写真を撮影(3000倍)し、画像中に占める導電性繊維の被覆面積を積算した。評価は以下のとおりとし、○以上を合格とした。結果を表3に示した。
◎ : 30%以上
○ : 20%以上〜30%未満
× : 20%未満
【0062】
[電気的ノイズ抑制効果]
電気的ノイズ抑制効果は、マイクロストリップラインのテストフィクチャーを用いて伝送損失によって評価した。マイクロストリップライン上に50μmのPETフィルムを介してテストサンプルを設置し、ベクトルネットワークアナライザによって100MHzと3GHzにおける入射波電圧(ei)と透過波電圧(et)を測定し、次式によって伝送損失を求めた。評価は以下のように行い、〇以上を合格とした。
dB=−20log|et/ei|
[100MHz]
◎ : 15dB以上
○ : 10〜15dB
△ : 8〜10dB
× : 8dB未満
[3GHz]
◎ : 20dB以上
○ : 10〜20dB
△ : 8〜10dB
× : 8dB未満
【0063】
[難燃性]
難燃性評価方法としてUL94規格のV0等級試験に則り、垂直燃焼試験を行った。試験方法は、垂直に保持した試料の下端に10秒間ガスバーナーの炎を接炎させ、燃焼が30秒以内に止まったならば、さらに10秒間接炎させる方法で行い、以下の条件を満たすものを合格とした。
(1)5個のサンプルに対する10回の接炎に対する総燃焼時間が50秒を超えない。
(2)固定用のクランプの位置まで燃焼するサンプルがない。
(3)サンプルの下方に置かれた脱脂綿を発火させる燃焼する粒子を落下させるサンプルがない。
(4)2回目の接炎の後、30秒以上赤熱を続けるサンプルがない。
【0064】
[厚さ]
JIS P8111の条件下で一昼夜調湿し、JIS P8118に準じて、厚さを測定した。
【0065】
[電源ノイズ抑制性能]
FR−4基盤に、エッチングによって銅箔による15mm×15mmの正方形状のパッチを作成した。パッチにベクトルネットワークアナライザを接続し、入射信号に対する反射信号の電圧比から反射係数を測定し、インピーダンスを求めた。50μmのPETフィルムを介して電気的ノイズ抑制シートを基板上に設置したときのインピーダンスの減少率を測定した。インピーダンスは周波数2GHzと6GHzで測定し、インピーダンスの減少率を以下のように評価した。〇以上を合格とした。
: 50%以上
〇 : 30〜50%
△ : 10〜30%
× : 10%未満
【0066】
表1 評価結果
【0067】
表2 難燃性の評価結果

【0068】
表3 被覆率の評価結果

【0069】
表1の結果から、実施例1〜5は全て表面固有抵抗値が設定の範囲内であり、電気的ノイズや電源ノイズの抑制効果が認められる。また、厚さも設定の範囲内であり、本発明の電気的ノイズ抑制シート状物を使用しても、設計上、特別の配慮が不要となっている。これに対して比較例1では導電性繊維が全く含まれていないために表面固有抵抗値が高く、電気的ノイズ抑制効果や電源ノイズ抑制効果が認められない。比較例2は表面固有抵抗値は設定の範囲内で電気的ノイズ抑制効果や電源ノイズ抑制効果も認められるが、厚さが厚いので使用に際しては配慮が必要である。比較例3では導電性繊維の配合量が不足しており、電気的ノイズ抑制効果や電源ノイズ抑制効果が認められない。比較例4では導電性繊維の配合量が多すぎるために表面固有抵抗値が低くなりすぎて、電気的ノイズ抑制シート状物が電気的ノイズの反射体となってしまい、電気的ノイズ抑制効果や電源ノイズ抑制効果が劣化する結果となっている。
【0070】
表2の結果から、難燃剤を処方した実施例5の電気的ノイズ抑制シート状物においては、UL94規格のV0等級に合格していることがわかる。
【0071】
表3の結果、および図1と図2の観察結果から、実施例においては非導電性繊維の表面の20%以上を導電性繊維(実施例3ではCNT)で被覆されていることがわかる。これに対して比較例3では導電性繊維の配合量が不足しているために非導電性繊維表面における導電性繊維の被覆率が著しく低くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明による、電気的ノイズ抑制シート状物は、回路基盤等のEMC対策として好適に使用でき、電気的ノイズを抑制することが可能で、厚さも適当であることから各種の回路基盤、電気機器等に好適に使用することができる。また、難燃剤を処方することで、電気機器に難燃性を付与することができ、安全に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例3における繊維表面を電子顕微鏡撮影した図である。
【図2】比較例3における繊維表面を電子顕微鏡撮影した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維と非導電性繊維が互いにネットワーク構造を構成していることを特徴とする電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項2】
導電性繊維が繊維状カーボンであることを特徴とする請求項1に記載の電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項3】
繊維状カーボンが、直径1000nm以下のカーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン(CNH)の任意の1種類以上であることを特徴とする、請求項2に記載の電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項4】
非導電性繊維が製紙用パルプ繊維であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項5】
繊維状カーボンが0.1〜80質量%含有されており、かつ、温度23℃、相対湿度50%で24時間調湿後、同条件で表面固有抵抗(JIS K7190)を測定したとき、0.001〜1×10Ω/□であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項6】
厚さが、10〜200μmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項7】
繊維状カーボンが、非導電性繊維の表面の20%以上を被覆していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項8】
湿式抄紙法により形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項9】
難燃処理が施されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気的ノイズ抑制シート状物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気的抑制シート状物を使用した電子回路基盤。

【図1】
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【図2】
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