説明

シード粒子、ビニル系重合体およびこれらの製造方法

【解決手段】本発明のビニル系重合体の製造方法は、水性媒体中において、カルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基または水酸基のいずれかの極性基を有する反応開始剤の存在下に、モノマー成分100重量部に対して0.5重量部以下の量の乳化剤を用いて、カルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基または水酸基のいずれかの極性基を有する極性基含有モノマーを反応させて、シード粒子の表面近傍にモノマーに由来する極性基および反応開始剤に由来する極性基が偏在して存在する平均粒子径が0.05〜15μmの範囲内にあるシード粒子を調製した後、該シード粒子が分散している水
性媒体にビニルモノマーを添加して、該ビニルモノマーをシード粒子に吸収させて、該ビニル系モノマーを重合させ、該シード粒子が膨張するように重合させて得られる重合体粒子の表面に前記膨張したシード粒子の表面に偏在していた前記モノマーに由来する極性基および反応開始剤に由来する極性基を少なくとも三種類存在させたビニル系重合体を水性媒体中で製造する方法であり、該ビニル重合体の次式で表わされる重合安定性(%)が0.08〜0.31の範囲内あり、かつ平均粒子径が0.1〜35μmの範囲内にある。


【効果】本発明の方法により得られたビニル系重合体は、含有される乳化剤が著しく少ないので、優れた耐水性、耐候性、透明性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己分散性のシード粒子を用いてビニル系重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系重合体を製造する方法に、予めシード粒子を製造し、このシード粒子をビニル系モノマーを含有する水性媒体中に分散させて重合を行う方法がシード重合として知られている。このシード重合では、シード粒子および重合させるビニル系モノマー成分を水性媒体に安定に分散させるために多量の分散剤(あるいは乳化剤)を使用する必要があった。特にシード粒子は、通常一定の粒子径を有しており、こうしたシード粒子を水性媒体に安定に分散させるためには、多量の分散剤あるいは乳化剤を使用する必要がある。
【0003】
ここで使用される分散剤あるいは乳化剤は、界面活性剤の一種であり、このような分散剤あるいは乳化剤を多量に使用すると、得られるビニル系重合体に分散剤あるいは乳化剤が残留し、こうして残留した分散剤あるいは乳化剤は得られるビニル系重合体の特性に重大な影響を与える。特に、こうした分散剤あるいは乳化剤は、界面活性剤の一種であることから、得られるビニル系重合体の耐水性、耐候性、透明性に重大な影響を与える。
【0004】
このような分散剤あるいは乳化剤は、ビニル系重合体を製造した後に除去することも可能であるが、こうした分散剤あるいは乳化剤を除去するためには、複数の工程と多量の溶媒が必要であり、こうした方法は、工業的な方法としては適していない。
【0005】
本発明者は、分散剤あるいは乳化剤なしでは水性媒体中に安定に分散させにくい従来のシード粒子とは異なり、表面に特定の極性基が存在する特定粒子径のシード粒子は、自己分散性を有すると共に、このような自己分散性を有するシード粒子とビニル系モノマーを水性媒体に分散させてビニル系重合体の重合を行うとシード粒子がビニル系モノマーを吸収し膨張するようにして重合が進行するため、成長した粒子の表面に上記特定の極性基が存在し、これにより成長した粒子も水性媒体中に安定に分散しているとの知見を得て本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、本発明は、こうした技術的背景のもとに創作されたものであり、従来のシード粒子よりも分散安定性がよい新規なシード粒子を提供することを目的としている。
そして、本発明は、シード粒子を用いてビニル系重合体を製造する方法提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水性媒体中において、カルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の極性基を有する反応開始剤および/またはこれらの基を形成可能な反応開始剤の存在下に、モノマー成分100重量部に対して0.5重量部以下の量の乳化剤を用いて、カルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の極性基を有する極性基含有モノマーを反応させて、シード粒子の表面近傍にモノマーに由来する極性基および反応開始剤に由来する極性基が偏在して存在する平均粒子径が0.05〜15μm
の範囲内にあるシード粒子を調製した後、
該シード粒子が分散している水性媒体にビニルモノマーを添加して、該ビニルモノマーをシード粒子に吸収させて、該ビニル系モノマーを重合させ、該シード粒子が膨張するよ
うに重合させて得られる重合体粒子の表面に前記膨張したシード粒子の表面に偏在していた前記モノマーに由来する極性基および反応開始剤に由来する極性基を少なくとも三種類存在させて、水性媒体中でビニル系重合体を製造する方法であり、該ビニル重合体が、次式で表わされる重合安定性(%)が0.08〜0.31の範囲内あり、かつ平均粒子径が0.1〜35μmの範囲内にあることを特徴とするビニル系重合体の製造方法にある。
【0008】
【数2】

【0009】
ただし、上記式において、濾過に共したエマルジョン量は1kgであり、凝集物量は該エマルジョンを200メッシュの金網で濾過したときの金網上の凝集物量である。
本発明において、上記極性基含有モノマーが、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸を含むものであることが好ましい。
【0010】
本発明で使用するシード粒子は、水性媒体中に、カルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の極性基を有する極性基含有モノマーを含むモノマー成分並びにカルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の極性基を有する反応開始剤および/またはこれらの基を形成可能な反応開始剤を分散させて重合させることにより製造することができる。但し、極性基含有モノマーの極性基と反応開始剤からの極性基を合わせて少なくとも2種類とする。
【0011】
本発明のビニル系重合体は、水性媒体中に、カルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の極性基を有する極性基含有モノマーを含むモノマー成分並びにカルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の極性基を有する反応開始剤および/またはこれらの基を形成可能な反応開始剤を分散させ重合させて少なくとも2種類の極性基を有する平均粒子径0.05〜15μmのシード粒子を得る工程、上記
工程で得られたシード粒子が分散している水性媒体にビニル系モノマーを添加して、該ビニル系モノマーを取り込みながら(共)重合させる工程を少なくとも備えた重合工程を経て製造される。
【0012】
本発明で使用するシード粒子は、特定の極性基が表面に存在すると共に特定の粒子径を有しており、このシード粒子は水性媒体に安定に分散する。このシード粒子の表面に存在する極性基は、モノマー由来の極性基と重合開始剤由来の極性基とがある。このように極性基を有するシード粒子を用いることにより、シード粒子が水性媒体に自己分散するために、このシード粒子を用いることにより、シード粒子を分散させるための分散剤(乳化剤)を積極的に用いることなく水性媒体に分散させて、このシード粒子にビニル系モノマーを吸収させながら重合を行い、ビニル系重合体を製造することができる。
【0013】
ビニル系重合体は、シード粒子がビニル系モノマーを吸収しながら、シード粒子が成長するように重合することにより生成され、生成したビニル系重合体の粒子の表面には依然として極性基が存在し、生成したポリマー粒子が安定に水性媒体中に分散する。
【0014】
そして、得られる重合体粒子の表面に前記膨張したシード粒子の表面に偏在していた前記モノマーに由来する極性基および反応開始剤に由来する極性基を少なくとも三種類存在させて、水性媒体中に、得られるビニル系重合体を、次式で表わされる重合安定性(%)が0.31以下、好ましくは0.08〜0.31の範囲内になるように、安定に分散されている平均粒子径が0.1〜35μmの範囲内にある重合体粒子である。
【0015】
【数3】

【0016】
重合安定性(%)=(凝集物量/濾過に供したエマルジョンの全固形物量)×100
ただし、上記式において、濾過に共したエマルジョン量は1kgであり、凝集物量は該エマルジョンを200メッシュの金網で濾過したときの金網上の凝集物量である。
【0017】
従って、本発明のビニル系重合体は、分散剤(乳化剤)の含有量は微量であり、このビニル系重合体は耐水性、耐候性、透明性に優れている。
【発明の効果】
【0018】
本発明のビニル系重合体は、含有される乳化剤が著しく少ないので、優れた耐水性、耐候性、透明性を示す。
このように乳化剤の含有率を低くできるのは、出発物質として自己分散性を有するように表面に極性基が存在する特定の平均粒子径を有するシード粒子を使用しているからであり、従来のように表面に極性基を有していないシード粒子を使用したり、本発明で規定するシード粒子の平均粒子径から逸脱するシード粒子を使用したのでは、ビニル系モノマーの乳化に多量の乳化剤を必要としたり、重合中の安定性に影響を与えるため、本発明のように優れた耐水性、耐候性、透明性を有するビニル系重合体を製造することはできない。
【0019】
このように本発明のビニル系重合体は耐水性、耐候性、透明性に優れていることから、粘着剤、接着剤、塗料用添加剤、スペーサー、各種マット化剤等の用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明で使用するシード粒子、その製造方法、このシード粒子を用いたビニル系重合体の製造方法およびこうして得られたビニル系重合体について、製造方法に沿って具体的に説明する。
【0021】
本発明で使用される表面に極性基が存在しているシード粒子としては、(メタ)アクリル酸エステルと、この(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能であって、かつ極性基を有するモノマーと、さらに必要により他のモノマーとを水に分散させて重合させた共重合体、スチレン、メチルスチレン等のスチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能であって、かつ極性基を有するモノマーと、さらに必要により他のモノマーとを水に分散させて重合させた共重合体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマーと、このビニルエステル系モノマーと共重合可能であって、かつ極性基を有するモノマーと、さらに必要によっては他のモノマーとを水に分散させて重合させた共重合体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン含有モノマーと、このハロゲン含有モノマーと共重合可能であって、かつ極性基を有するモノマーと、さらに必要によっては他のモノマーとを水に分散させて重合させた共重合体を挙げることができる。但し、上記モノマー群に促われることはなく、カルボキシル基、スルホネート基などが導入できる重合体であればよい。特に本発明では(メタ)アクリル酸エステルと、この(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能であって、かつ極性基を有するモノマーと、さらに必要により他のモノマーとを水に分散させて重合させた共重合体が好ましい。
【0022】
このような(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デカニル(メタ)アクリレート、ウンデカニル(メタ)アクリレート、ドデカニル(メタ)
アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびイソノニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0023】
この(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能であって、かつ極性基を有するモノマーは、極性基としてカルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基、水酸基を少なくとも一つ有すると共に、(メタ)アクリル酸エステルと共重合するエチレン性二重結合を有する化合物が好ましい。このような極性基含有モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸アマイド、ジメチルアミド(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたはその塩等を挙げることができる。
【0024】
本発明で使用されるシード粒子の表面には極性基が存在していることが必要であり、この極性基が上記極性基を含有するモノマーに由来するものである場合には、極性基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸等が好ましい。
【0025】
さらに、本発明で使用するシード粒子には、その他のモノマーとして、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等を共重合して架橋させてもよい。
【0026】
本発明で使用するシード粒子は、上記のようなモノマーを水性媒体に分散させ共重合させることにより得られる。上記のモノマーを水性媒体に分散させる際には、強制的機械混合により、上記モノマーを水性媒体に微分散することもできるが、乳化剤として界面活性剤を使用することもできるし、さらに水溶性ポリマーを使用することもできる。ここで乳化剤として使用される界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および反応性界面活性剤を挙げることができる。特に本発明ではアニオン系界面活性剤および/または反応性界面活性剤を用いることが好ましい。ここで反応性界面活性剤は、親水性基と親油性基とを有すると共に、反応性基を有しており、反応前にはモノマー等を水性媒体に分散する乳化剤として作用し、反応の進行に伴って、この反応性乳化剤はモノマーとして作用して他のモノマーと反応してシード粒子を形成し、同時に極性基の導入にも寄与することもある。
【0027】
シード粒子を製造する際には、反応開始剤を使用する。本発明において、シード粒子の表面には極性基が存在していることが必要であり、この極性基は、上記極性基を含有するモノマーに由来する場合と反応開始剤に由来する場合とがある。反応開始剤に由来する極性基をシード粒子の表面に存在させるために使用される反応開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、4,4'-アゾビス-4-シアノバレリアン酸、2,2'-アゾビ
ス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド等を使用することができる。これらの中でもスルフォ
ネート基をシード粒子の表面に存在させる場合には、反応開始剤として過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムを使用することが好ましい。さらに、反応開始剤として過硫酸塩を使用する場合には、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤を併用してもよい。
【0028】
上記のモノマーおよび反応開始剤を水性媒体に微分散させた後、常法により乳化重合することによりシード粒子を製造することができる。そして、このシード粒子が自己分散性を有するように表面に極性基を存在させるためには、極性基を有しないビニル系モノマーを通常は80〜99.9重量部、好ましくは92〜98重量部、極性基含有モノマーを通
常は0.1〜20重量部、好ましくは2〜8重量部で使用し、さらに反応開始剤は、上記
モノマーの合計量100重量部に対して、通常は0.05〜3重量部、好ましくは0.1〜0.5重量部の量で使用する。
【0029】
そして、シード粒子を製造する際の(メタ)アクリル酸エステルあるいはスチレン等のシード粒子を形成するベースモノマーと極性基含有モノマーとの配合重量比を約99.9:0.1〜80:20にすることにより、水性媒体に対する分散安定性の高いシード粒子を製造することができる。またさらに、分散剤あるいは乳化剤である界面活性剤を使用する場合、これらの使用量はできるだけ少なくすることが好ましく、上記モノマーの合計量100重量部に対して0.01〜0.5重量部の量で使用する。但し、反応性界面活性剤(反応性乳化剤)は、反応後にはシード粒子内に取り込まれて界面活性剤としての機能がほとんどなくなるので、通常の乳化剤よりも多量に使用することができる。なお、反応性乳化剤は、他の乳化剤と組み合わせて使用することもできる。
【0030】
こうして得られるシード粒子の平均粒子径は、0.05〜15μmの範囲内にあること
が必要であり、さらに0.2〜10μmの範囲内にあることが好ましく、0.3〜5μmの範囲内にあることが特に好ましい。
【0031】
このシード粒子は、上記のように微細粒子であるにも拘わらず、表面に極性基が存在するので、水性媒体に安定に分散する。通常、この水性媒体中におけるシード粒子の含有率(不揮発分)は40〜70重量%程度に調整される。
【0032】
こうしてシード粒子を製造すると、極性基含有モノマーに由来する極性基あるいは反応開始剤に由来する極性基がシード粒子の表面に偏在して存在するため(即ち、中心部よりもシード粒子の表面近傍における極性基の含有率が高いため)、この極性基によってシード粒子が水性媒体に対して良好な親和性を有するようになりシード粒子の水性媒体に対する分散安定性が確保される。
【0033】
こうして得られたシード粒子を含有するエマルジョンは、そのまま次の工程で使用することもできるし、得られたシード粒子を含有するエマルジョンに新たに水性媒体を加えて濃度調整をした後次の工程で使用することもできるし、さらにシード粒子を分離して必要により精製した後新たな水性媒体に再分散して使用することもできる。
【0034】
次いで、本発明では上記のようにして得られたシード粒子を含有するエマルジョンに、ビニル系モノマーを分散させる。ここで使用されるビニル系モノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デカニル(メタ)アクリレート、ウンデカニル(メタ)アクリレート、ドデカニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アマイド、ジメチルアミドメタアクリレート、ジメチルアミドアクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレート、アクリルアマイド、N-メチロールアクリルアマイド、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートおよびジシクロペンタニル(メタ)アクリレートのようなアクリル系モノマー、酢酸ビニル、スチレン、ジビニルベンゼン、エチレン、クロトン酸、プロピオン酸ビニル、α-メチルス
チレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のふっ素含有モノマー、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の珪素含有モノマー等を挙げることができる。
【0035】
本発明では、シード粒子を含有するエマルジョンに、上記ビニル系モノマーを配合して重合させる際には反応開始剤を使用する。本発明では、反応開始剤として、過酸化物使用することが好ましい。ここで使用される過酸化物の例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジアルキルパーエステル等を挙げることができる。
【0036】
本発明において、表面に極性基が存在するシード粒子に配合するビニル系モノマーは、シード粒子100重量部に対して、通常は20〜5000重量部の範囲内の量で配合する。さらに、反応開始剤は、ビニル系モノマー100重量部に対して0.01〜5重量部、
好ましくは0.1〜2重量部の量で配合する。
【0037】
そして、本発明では、上記ビニル系モノマーおよび反応開始剤を水に分散させた後、この分散液を、表面に極性基が存在するシード粒子を含有するエマルジョンに配合して重合させているが、このビニル系モノマーおよび反応開始剤を、乳化剤を使用しないで強制撹拌して水に分散させるか、あるいは、極微量の乳化剤を加えて乳化させる。乳化剤を使用する場合、得られる本発明のビニル系重合体における乳化剤の量が、0.5重量%以下の
量、最適には0.3重量%以下の量になるように使用される。なお、乳化剤を使用する場
合に、ここで使用される乳化剤には特に制限はなく、上記ビニル系モノマーおよび反応開始剤の混合物を乳化できるようなHLB値を有するようにアニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤の中から適宜選定することができる。また、ここで使用する乳化剤として、上述の反応性乳化剤を使用することもできる。反応性乳化剤は、反応後は乳化剤としての機能がほとんどなくなるので、反応性乳化剤を使用する場合には、上記の値よりも多く用いても得られるビニル系重合体の耐水性が低下しにくい。
【0038】
本発明において、このように乳化剤の量が微量で足りるのは、出発原料として、自己分散性を有するシード粒子を使用しているからである。そして、このような自己分散性を有するシード粒子を使用し、極微量の乳化剤を使用するかあるいは乳化剤を使用しないで重合を行うことにより、本発明のビニル系重合体は格段に優れた耐水性、耐候性、透明性を示す。
【0039】
上記のような成分の重合法は、ビニル系樹脂の製造に通常採用されている方法を用いることができ、反応装置内に上記原料を仕込み、反応系内の空気をチッソガスのような不活性ガスで置換した後、反応液を50〜100℃程度の温度に加熱して1〜10時間の反応時間で反応させることができる。
【0040】
このように反応させると、シード粒子にビニル系モノマーが吸収され、シード粒子が膨張するように反応する。そして、通常は、シード粒子の100重量部に対してビニル系モノマーを20〜5000重量部の量で反応させる。こうして得られるビニル系重合体は、通常は0.1〜35μmの範囲内の平均粒子径を有する。
【0041】
本発明の方法では、得られる重合体粒子の表面に前記膨張したシード粒子の表面に偏在していた前記モノマーに由来する極性基および反応開始剤に由来する極性基を少なくとも三種類存在させて、水性媒体中に、得られるビニル系重合体を、次式で表わされる重合安定性(%)が0.31以下、好ましくは0.08〜0.31の範囲内になるように、安定に分散されている。
【0042】
【数4】

【0043】
ただし、上記式において、濾過に共したエマルジョン量は1kgであり、凝集物量は該エ
マルジョンを200メッシュの金網で濾過したときの金網上の凝集物量である。
なお、本発明の方法で製造されるの重合体粒子の表面に偏在する極性基には、モノマーに由来する極性基と、反応開始剤に由来する極性基とがあり、同一の極性基であっても、その由来が異なれば、異なるものとして識別される。例えばモノマーに由来するカルボキシル基、モノマーに由来するスルホネート基、重合開始剤に由来するスルホネート基が存在する場合、スルホネート基には、モノマーに由来するスルホネート基と、重合開始剤に由来するスルホネート基とがあるが、本発明においては、これらは別の極性基とする。従って、上記のような極性基を有する重合体粒子の表面には、三種類の異なる極性基が存在することになる。
【0044】
このようにして製造されたビニル系重合体は、通常のビニル系樹脂などと同様に使用することができる。本発明のビニル系重合体における乳化剤の含有率は多くとも2重量%であり、従来の水性媒体中で製造されるものと比較すると、1/10程度以下の乳化剤で安定して重合できる。ビニル系重合体の耐水性等は、樹脂自体の構造によるよりも、樹脂に含有される乳化剤のような親水性物質によって影響を受けることが多い。そして、本発明のビニル系重合体のように乳化剤の含有率が2重量%以下であるので、乳化剤による耐水性、耐候性、透明性の低下はほとんど見られない。
【0045】
本発明のビニル系重合体は、含有される乳化剤が著しく少ないので、優れた耐水性、耐候性、透明性を示す。
このように乳化剤の含有率を低くできるのは、出発物質として自己分散性を有するように表面に極性基が存在する特定の平均粒子径を有するシード粒子を使用しているからであり、従来のように表面に極性基を有していないシード粒子を使用したり、本発明で規定するシード粒子の平均粒子径から逸脱するシード粒子を使用したのでは、ビニル系モノマーの乳化に多量の乳化剤を必要としたり、重合中の安定性に影響を与えるため、本発明のように優れた耐水性、耐候性、透明性を有するビニル系重合体を製造することはできない。
【0046】
このように本発明のビニル系重合体は耐水性、耐候性、透明性に優れていることから、粘着剤、接着剤、塗料用添加剤、スペーサー、各種マット化剤等の用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0047】
次に本発明の実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定的に解釈されるべきではない。
〔合成例1〕
<シードポリマーAの合成例>
容量2リットルの4口フラスコに、水360gおよび過硫酸カリウム3.6gを計量し
て仕込んだ。この4口フラスコの口にはそれぞれ、ジムロート、温度計、窒素ガス吹き込み管、滴下ロートが備えられている。
【0048】
この4口フラスコの窒素ガス導入管から窒素ガスを導入して、容器内の空気を窒素ガスで置換してパージした。別の容器に、水300gを計量して入れ、この水に乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ6gを投入して溶解させ、さらにこの溶液にアクリル
酸24g、tert-ブチルアクリルアミドスルホン酸(商品名;TBAS−Q)、日東化学
工業(株)製)24g、アクリロニトリル36g、アクリル酸ブチル1116g、n-ドデシルメルカプタン0.5gを加えてたモノマー乳化液を調製した。
【0049】
先に計量しておいた4つ口フラスコ中の反応液を75℃に昇温し、上記のようにして調製したモノマー乳化液を3時間かけて滴下し、その後、温度を80℃に昇温して重合反応を行った。
【0050】
得られたエマルジョンAの不揮発分は62.2重量%、得られたシードポリマーA粒子
の平均粒子径は0.52μmであった。また、このエマルジョンAに含有される乳化剤量は、シードポリマー100重量部に対して0.5重量部であった。
【0051】
このシードポリマーAの表面には、モノマーに由来するカルボキシル基、スルホネート基、重合開始剤に由来するスルホネート基が存在していた。
〔合成例2〕
<シードポリマーBの合成例>
容量2リットルの4口フラスコに、水360g、過硫酸カリウム3.6gを計量して仕
込んだ。この4口フラスコの口にはそれぞれ、ジムロート、温度計、窒素ガス吹き込み管、滴下ロートが備えられている。
【0052】
この4口フラスコの窒素ガス導入管から窒素ガスを導入して、容器内の空気を窒素ガスで置換してパージした。別の容器に、水300gを計量して入れ、この水に乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ6gを投入して溶解させ、さらにこの溶液にアクリル酸24g、アクリルアミド24g、アクリロニトリル36g、アクリル酸ブチル1116g、n-ドデシルメルカプタン0.5gを加えてたモノマー乳化液を調製した。
【0053】
先に計量しておいた4つ口フラスコ中の反応液を75℃に昇温し、上記のようにして調製したモノマー乳化液を3時間かけて滴下し、その後、温度を80℃に昇温して重合反応を行った。
【0054】
得られたエマルジョンBの不揮発分は62.5重量%、粒子の平均粒子径は0.59μm
であった。また、このエマルジョンBに含有される乳化剤量は、シードポリマー100重量部に対して0.5重量部であった。
【0055】
このシードポリマーBの表面には、モノマーに由来するカルボキシル基、アミド基、重合開始剤に由来するスルホネート基が存在していた。
〔合成比較例1〕
<シードポリマーCの合成例>
容量2リットルの4口フラスコに、水360g、過硫酸カリウム3.6gを計量して仕
込んだ。この4口フラスコの口にはそれぞれ、ジムロート、温度計、窒素ガス吹き込み管、滴下ロートが備えられている。
【0056】
この4口フラスコの窒素ガス導入管から窒素ガスを導入して、容器内の空気を窒素ガスで置換してパージした。別の容器に、水300gを計量して入れ、この水に乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ6gを投入して溶解させ、さらにこの溶液にアクリル酸48g、アクリロニトリル36g、アクリル酸ブチル1116g、n-ドデシルメルカプタン0.5gを加えてたモノマー乳化液を調製した。
【0057】
先に計量しておいた4つ口フラスコ中の反応液を75℃に昇温し、上記のようにして調製したモノマー乳化液を3時間かけて滴下し、その後、温度を80℃に昇温して重合反応を行った。
【0058】
得られたエマルジョンCの不揮発分は62.8重量%、粒子の平均粒子径は0.68μm
であった。また、このエマルジョンCに含有される乳化剤量は、シードポリマー100重量部に対して0.5重量部であった。
【0059】
このシードポリマーCの表面には、モノマーに由来するカルボキシル基、重合開始剤に
由来するスルホネート基が存在していた。
〔合成例3〕
合成例1において、モノマー乳化液の組成を、アクリル酸24g、2-ヒドロキシエチ
ルアクリレート24g、アクリロニトリル36g、アクリル酸ブチル1116gとした以外は同様にして重合反応を行った。
【0060】
得られたエマルジョンDの不揮発分は62.4重量%、粒子の平均粒子径は0.73μm
であった。このシード粒子Dの表面には、モノマーに由来するカルボキシル基、水酸基、重合開始剤に由来するスルホネート基が存在していた。
〔比較合成例1〕
合成例1において、モノマー乳化液の組成を、アッシドホスホオキシエチルメタクリレート48g、アクリロニトリル36g、アクリル酸ブチル1116gとした以外は同様にして重合反応を行った。
【0061】
得られたエマルジョンEの不揮発分は62.9重量%、粒子の平均粒子径は0.71μm
であった。このシード粒子Eの表面には、モノマーに由来するりん酸基、重合開始剤に由来するスルホネート基が存在していた。
〔比較合成例2〕
合成例1において、モノマー乳化液の組成を、アクリル酸ブチル1200gにした以外は同様にして重合反応を行おうとしたが、モノマー滴下1時間後にフラスコ全体が凝集し、重合が不可能となった。
〔比較合成例3〕
合成例1において、モノマー乳化液の組成を、アクリル酸ブチル1200gにし、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ24gに変えた以外は同様にして重合反応を行った。
【0062】
得られたエマルジョンFの不揮発分は63.5重量%、粒子の平均粒子径は0.61μm
であった。このシード粒子Fの表面には、重合開始剤に由来するスルホネート基が存在していた。
〔実施例1〕
容量2リットルのフラスコに、上記合成例1で得られたシード粒子分散液(エマルジョンA)240gと水50gを仕込み、これに反応開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド5gを加え、この反応装置内の空気を窒素ガスで置換しながら30分間撹拌した。
【0063】
これとは別にイソブチルアクリレート816g、アクリル34g、さらに連鎖移動剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5gとを溶解し、さらにこれに水300gとドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ2.5gを加えて撹拌し、乳化液を調製した。
【0064】
こうして得た乳化液を上記のフラスコに投入して、さらに30分撹拌しながらフラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、反応液を72℃にして、この温度で5時間保持して、本発明のビニル系重合体を製造した。得られたビニル系重合体の重合安定性、重合率、平均粒子径及びこのビニル系重合体の含有する乳化剤の量を次に示す。
【0065】
なお、本発明において、重合安定性は、得られたエマルジョン1kgをとり、200メッシュの金網で濾過したときの金網上の凝集物量を求め次の計算式により求めた。
【0066】
【数5】

【0067】
〔実施例2〜5、比較例1,2,3〕
シード粒子分散液およびモノマーの種類及び量を次表1に示す配合にした以外は、実施
例1と同様にしてビニル系重合体を製造した。
【0068】
【表1】

【0069】
註) 上記表1において、
「BA」はブチルアクリレートであり、
「VAc」はビニル酢酸である。
【0070】
また、それぞれの配合量は「g」である。
*部分的に凝集物が発生し、濾過が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のビニル系重合体は耐水性、耐候性、透明性に優れていることから、粘着剤、接着剤、塗料用添加剤、スペーサー、各種マット化剤等の用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中において、カルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の極性基を有する反応開始剤および/またはこれらの基を形成可能な反応開始剤の存在下に、モノマー成分100重量部に対して0.5重量部以下の量の乳化剤を用いて、カルボキシル基、スルホネート基、リン酸基、アミド基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の極性基を有する極性基含有モノマーを反応させて、シード粒子の表面近傍にモノマーに由来する極性基および反応開始剤に由来する極性基が偏在して存在する平均粒子径が0.05〜15μmの範囲内に
あるシード粒子を調製した後、
該シード粒子が分散している水性媒体にビニルモノマーを添加して、該ビニルモノマーをシード粒子に吸収させて、該ビニル系モノマーを重合させ、該シード粒子が膨張するように重合させて得られる重合体粒子の表面に前記膨張したシード粒子の表面に偏在していた前記モノマーに由来する極性基および反応開始剤に由来する極性基を少なくとも三種類存在させて、水性媒体中でビニル系重合体を製造する方法であり、該ビニル重合体が、次式で表わされる重合安定性(%)が0.08〜0.31の範囲内あり、かつ平均粒子径が0.1〜35μmの範囲内にあることを特徴とするビニル系重合体の製造方法;
【数1】

(ただし、上記式において、濾過に共したエマルジョン量は1kgであり、凝集物量は該エマルジョンを200メッシュの金網で濾過したときの金網上の凝集物量である。)。
【請求項2】
上記極性基含有モノマーとして、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸を含むことを特徴とする請求項第1項記載のビニル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−88437(P2008−88437A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332349(P2007−332349)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【分割の表示】特願平10−161874の分割
【原出願日】平成10年6月10日(1998.6.10)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】