説明

シーミングチャックの劣化管理方法

【課題】スリップシームが発生するまでにシーミングチャックの寿命にどの程度の余裕があるかを把握できるシーミングチャックの劣化管理方法を提供する。
【解決手段】巻締加工にて缶蓋を接合し得る缶体21を有し、シーミングチャック10の保持力である嵌合トルクTaを測定できるとともに巻締加工中に与えられるトルクの最大値である負荷トルクTbを測定でき、かつその測定結果を無線送信し得るように構成された測定装置20を用意する。そして、測定装置20を巻締装置に投入して、巻締装置の稼働停止中に測定装置20を用いて嵌合トルクTaを、巻締装置の稼働中に負荷トルクTbをそれぞれ取得し、嵌合トルクTaと負荷トルクTbとの差分δTに基づいてシーミングチャック10の劣化状態を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は缶蓋と缶胴とを巻き締める巻締装置に設けられたシーミングチャックの劣化管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
缶蓋の外周縁部と缶胴の上縁部とを重ね合わせて巻き締めて缶蓋と缶胴とを接合する巻締装置が知られている。こうした巻締装置は、缶蓋の外周縁部と缶胴の上縁部とを重ね合わせた状態で、缶蓋をシーミングチャックで保持しつつこれら外周縁部と上縁部とを第1シーミングロールで巻き締めて、その巻き締めで得られた巻締部を更に第2シーミングロールで押し潰して仕上げることが一般的である。
【0003】
こうした巻締加工では缶蓋を保持するシーミングチャックに負荷が繰り返し作用するため巻締装置の稼働時間の経過とともにシーミングチャックの摩耗等の劣化が進行し、缶蓋の保持力が僅かずつ低下する。シーミングチャックによる缶蓋の保持力が限界まで低下するとシーミングロールからの負荷に耐えられずに缶蓋が滑ってスリップシームが発生する。スリップシームが発生すると巻締部の押し潰しが不十分となるため、缶蓋と缶胴との密封が不完全な不良品が発生する。
【0004】
このような事情に鑑みて、従来は巻締装置を運用する際にスリップシームの発生を未然に防止すべくシーミングチャックを定期的に交換していた。しかし、シーミングチャックはスリップシームが発生するまでには十分に余裕があると見込まれる期間で一律に交換している。そのため、シーミングチャックの寿命が十分に残っている段階で交換している場合が多々あると考えられ、巻締装置の運用が非効率的なものとなっていた。かといって、単純に交換期間を延ばしただけでは、交換期間内にシーミングチャックの劣化が限界に達する危険がある。
【0005】
シーミングチャックの保持力を管理する方法として、巻締装置の加工対象と同様な構成の缶体が上部に接続された測定装置と、その缶体と組み合わされる缶蓋とを巻締装置に投入し、その測定装置の缶体と缶蓋とが巻締加工されている段階で巻締装置を停止させ、その停止状態でシーミングチャックと缶蓋とを強制的に滑らせたときのトルクを測定装置を使用して測定することにより、シーミングチャックの保持力、換言すればシーミングチャックと缶蓋との嵌合トルクを測定する方法が知られている(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2〜4が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−156510号公報
【特許文献2】特開平1−140032号公報
【特許文献3】実開平1−84834号公報
【特許文献4】特開平4−65642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法は、巻締装置を停止した状態でシーミングチャックと缶蓋とを強制的に滑らせた時のシーミングチャックの保持力の最大値を測定できる。しかし、スリップシームは巻締装置の稼働時にシーミングチャックに与えられる負荷が限界を超えた場合に起こるので、その負荷が分からなければシーミングチャックの絶対的な保持力を測定しても、スリップシームが発生するまでにシーミングチャックの寿命にどの程度の余裕があるかを把握することができない。
【0008】
そこで、本発明は、スリップシームが発生するまでにシーミングチャックの寿命にどの程度の余裕があるかを把握できるシーミングチャックの劣化管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシーミングチャックの劣化管理方法は、缶蓋(101)の外周縁部(101a)と缶胴(100)の上縁部(100a)とを重ね合わせた状態で、前記缶蓋をシーミングチャック(10)で保持しつつ前記外周縁部と前記上縁部とにシーミングロール(5)を押し当てて巻締加工を行う巻締装置(1)に適用されるシーミングチャックの劣化管理方法において、前記シーミングチャックが前記缶蓋を保持する際の保持力である嵌合トルク(Ta)を、前記シーミングチャックが前記缶蓋を保持した状態で前記巻締装置の稼働を停止させて取得する工程(図7の工程A)と、前記巻締加工中に前記シーミングチャックに負荷されるトルクの最大値である負荷トルク(Tb)を、前記巻締装置の稼働中に取得する工程(図7の工程B)と、を備え、前記各工程で取得した前記嵌合トルク及び前記負荷トルクの差分に基づいて前記シーミングチャックの劣化状態を判断するものである。
【0010】
この劣化管理方法によれば、巻締加工中にシーミングチャックに負荷されるトルクの最大値である負荷トルクを取得し、シーミングチャックの劣化状態がシーミングチャックの絶対的な保持力である嵌合トルクと負荷トルクとの差分に基づいて判断される。そのため、シーミングチャックの劣化状態の判断を行う際に、スリップシームが発生するまでの余裕を考慮に入れることができる。
【0011】
本発明の劣化管理方法の一態様においては、前記嵌合トルクを取得する工程と、前記負荷トルクを取得する工程とを1セットとしたトルク測定工程を前記巻締装置の所定の稼働時間毎に繰り返し行うとともに、前記トルク測定工程毎に得られる前記差分に基づいて前記劣化状態を判断してもよい。この態様によれば、トルク測定工程を繰り返すほど、工程毎に得られる嵌合トルク、負荷トルク及び差分の各標本数が増えるので、スリップシームの発生までの余裕をより正確に把握することができる。これにより、シーミングチャックの劣化状態の判断が正確になる。
【0012】
本発明の劣化管理方法の一態様においては、前記巻締装置を用いて前記巻締加工にて前記缶蓋を接合し得る缶体(21)を有し、前記嵌合トルクを測定できるとともに前記巻締加工中に前記負荷トルクを測定でき、かつその測定結果を無線送信し又は記憶し得るように構成された測定装置(20)を用意し、前記嵌合トルクを取得する工程及び前記負荷トルクを取得する工程のそれぞれの工程で、共通の前記測定ユニットを前記巻締装置に投入することによって前記嵌合トルク及び前記負荷トルクのそれぞれを取得してもよい。この態様によれば、共通の測定装置を巻締装置に投入することによって嵌合トルク及び負荷トルクをそれぞれ取得できるので、測定装置に固有の測定誤差が嵌合トルク及び負荷トルクの差分を得る際に相殺される。これにより、シーミングチャックの劣化状態の判断が更に正確なものとなる。
【0013】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0014】
以上に説明したように、本発明の劣化管理方法によれば、シーミングチャックの劣化状態がシーミングチャックの絶対的な保持力である嵌合トルクと負荷トルクとの差分に基づいて判断されるため、シーミングチャックの劣化状態の判断を行う際に、スリップシームが発生するまでの余裕を考慮に入れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一形態に係る劣化管理方法が適用される巻締装置が組み込まれた缶飲料製造ラインの一部を示した図。
【図2】図1の製造ラインに含まれる巻締装置の範囲IIを拡大して示した図。
【図3】巻き締めを行う前の缶胴のフランジ及び缶蓋のカール部を示す図。
【図4】第1シーミングロールで巻締部が形成された状態を示す図。
【図5】巻き締めが完了した缶胴のフランジ及び缶蓋のカール部を示す図。
【図6】劣化管理方法に使用する測定装置を示した図。
【図7】劣化管理方法の各工程を説明する説明図。
【図8A】図7の工程Aで得られるトルクの時間的変化を示した図。
【図8B】図7の工程Bで得られるトルクの時間的変化を示した図。
【図8C】図7の各工程を繰り返して得られたデータを整理した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の一形態に係る劣化管理方法の説明を行う前提として、図1に示された巻締装置1について説明する。巻締装置1は、図3に示したように缶胴100の上縁部としてのフランジ100aと缶蓋101の外周縁部としてのカール部101aとを重ね合わせて巻き締め、これにより缶胴100に缶蓋101を接合する装置である。図1に示したように、巻締装置1は、軸線回りに回転可能なシーミングターレット2と、シーミングターレット2の外周に等間隔で設けられる複数のリフタープレート3と、各リフタープレート3の上方にそれぞれ設けられるシーミングチャック10(図2参照)及びノックアウトパッド(不図示)と、リフタープレート3毎に設けられて缶胴100に缶蓋101を巻き締める第1シーミングロール4及び第2シーミングロール5とを備えている。この巻締装置1は、まず缶胴100のフランジ100aと缶蓋101のカール部101aとを第1シーミングロール4で巻き締めて巻締部110(図4参照)を形成し、次にその巻締部110を第2シーミングロール5で押し潰すことにより巻き締めを完了させる(図5参照)。この方法は一般に二重巻き締めと称される。第2シーミングロール5は本発明に係るシーミングロールに相当する。
【0017】
リフタープレート3は、上下方向に移動可能なようにシーミングターレット2に設けられている。各リフタープレート3には、上部に缶蓋101が被せられた缶胴100が載置される。シーミングチャック10及びノックアウトパッドは、リフタープレート3と対向するように設けられている。ノックアウトパッドは、リフタープレート3の上昇時に缶胴100及び缶蓋101を上から押さえるために設けられている。シーミングチャック10は、リフタープレート3が上昇して所定の位置に達した際に缶蓋101の内部に挿入されるように設けられている。このようにリフタープレート3が上昇してリフタープレート3に載置された缶胴100の底部をリフタープレート3が押し、かつシーミングチャック10が缶蓋101の内部に挿入されて缶蓋101を上から押さえることにより、シーミングチャック10及びリフタープレート3にて缶胴100及び缶蓋101を上下方向から挟み込んで把持することができる。
【0018】
図3に示したように、缶蓋101は、センターパネル102、チャックウォールラジアス103、チャックウォール104、及びカール部101aを備えている。センターパネル102は、缶蓋101の中央部分に設けられており、ほぼ平坦である。チャックウォールラジアス103は、センターパネル102の外周に設けられている。図に示したようにこのチャックウォールラジアス103は、下方に凹んでいる。チャックウォール104は、チャックウォールラジアス103の外周に設けられ、チャックウォールラジアス103から径方向外側、かつ上方に延びている。そして、チャックウォール104の外周にカール部101aが設けられている。
【0019】
図2及び図3に示したように、シーミングチャック10は、リップ部11、凹部12及びウォール部13を備えている。凹部12とウォール部13とは、シーミングチャック10の外周面10aに設けられている。リップ部11は、シーミングチャック10が缶蓋101の内部に挿入された際にチャックウォールラジアス103の内部に入り込み、その外周面及び下端がチャックウォールラジアス103の内周面とそれぞれ接触する。これによりリップ部11を缶蓋101の下端101bと接触させることができる。図4に示したように、凹部12は、巻締部110が形成された缶蓋101の内部にシーミングチャック10が挿入された際に缶蓋101との間に空間が生じるように、即ち缶蓋101から離間するように形成されている。ウォール部13は、巻締部110が形成された缶蓋101の内部にシーミングチャック10が挿入された際にチャックウォール104のうち缶蓋101の上端101cとなる部分と接するように形成されている。そのため、巻締部110が形成された缶蓋101の内部にシーミングチャック10を挿入すると、第2シーミングロール5を接触させる前の状態においてリップ部11とウォール部13とが缶蓋101と接触する。従って、これらリップ部11及びウォール部13の2箇所で缶蓋101を保持できる。
【0020】
第1シーミングロール4及び第2シーミングロール5は、それぞれシーミングチャック10及びリフタープレート3で把持されている缶胴100と接触する接触位置と缶胴100から離間する離間位置との間で移動可能なように設けられている。第1シーミングロール4の外周には、重ね合わされたフランジ100aとカール部101aとを途中まで巻き締めるためのグルーブ4aが設けられている。第2シーミングロール5の外周には、第1シーミングロール4によって途中まで巻き締められたフランジ100aとカール部101aとを押しつぶして巻き締めを完了させるグルーブ5aが設けられている。
【0021】
巻締装置1による缶胴100と缶蓋101との巻き締めは次の通り行われる。上述したように、リフタープレート3には、上部に缶蓋101が被せられた缶胴100が載置される。その後、まずリフタープレート3が上昇し、缶蓋101内にシーミングチャック10が挿入される。これによりリフタープレート3及びシーミングチャック10にて缶胴100及び缶蓋101を把持することができる。
【0022】
次に、第1シーミングロール4が接触位置に移動してフランジ100a及びカール部101aを巻き締める。これにより、図4に示したように缶胴100及び缶蓋101に巻締部110が形成される。その後、第1シーミングロール4が離間位置に移動し、続いて第2シーミングロール5が接触位置に移動する。そして、図5に示したように第2シーミングロール5の押し込み量を徐々に増加させながら巻締部110の回りを相対回転させて巻締部110を押し潰してフランジ100aとカール部101aとの巻き締めを完了する。これにより、巻締部110の厚さが所定寸法に仕上げられる。その後、第2シーミングロール5が離間位置に移動し、続いてリフタープレート3が下降する。そして、巻き締めが完了した缶が巻締装置1から排出される。
【0023】
このように巻締装置1はその稼働中に缶蓋101を保持するシーミングチャック10に負荷が繰り返し作用するため、稼働時間の経過とともにシーミングチャック10の摩耗等の経年劣化が進行して缶蓋101の保持力が僅かずつ低下する。その保持力が第2シーミングロール5からの負荷に耐えられなくなると、缶蓋101が滑ってスリップシームが発生する。そこで、シーミングチャック10の劣化状態を把握するため、巻締装置1の運用において以下に説明する劣化管理方法が適用される。
【0024】
本形態の劣化管理方法を行う際には図6に示した測定装置20が使用される。測定装置20はシーミングチャック10による缶蓋101の保持力(嵌合トルク)と巻締装置1の稼働時においてシーミングチャック10に負荷されるトルクの最大値である負荷トルクとをそれぞれ測定できる。測定装置20は、その全長H及び外径Dが巻締加工前の缶胴100の高さ及び外径と同じ大きさに設計されていて、巻締装置1に投入して缶蓋101を接合する巻締加工に供することができる。
【0025】
測定装置20は缶胴100を模した缶体21と、缶体21の下部に配置され嵌合トルク及び負荷トルクを測定可能な測定ユニット22とを備えている。缶体21の上部形状は缶胴100と同一形状に形成されている。缶体21はアダプタ23を介して測定ユニット22に連結される。アダプタ23は缶体21の底部24を挟む内側部材25と外側部材26とを備えており、内側部材25及び底部24を貫くようにボルト27が外側部材26の雌ねじ28にねじ込まれることにより缶体21に固定されている。外側部材26の下面には周方向に並ぶ複数個(本形態では3個)の取付孔29が形成されている。測定ユニット22の上面には取付孔29の各位置に対応する上向きの突起部30が形成されている。缶体21と測定ユニット22とはこの突起部30がアダプタ23の取付孔29に嵌め込まれることにより周方向に位置ずれなく連結される。
【0026】
測定ユニット22は、中心に貫通孔31aが形成された基台31と、基台31の貫通孔31aに取付軸32aが嵌め込まれることによって基台31に対して中心線CLの回りに回転自在に取り付けられた負荷リング32と、負荷リング32の上部に設けられてアダプタ23と連結されるワークベース33と、中心線CLの方向に延びていて負荷リング32とワークベース33とを連結するセンサ部34とを備えている。負荷リング32はその外周に後述の専用工具を噛み合わせるための複数の工具孔35が形成されている。
【0027】
センサ部34は一端がワークベース33に他端が負荷リング32にそれぞれ結合されたセンサ軸36を有している。センサ軸36の外周面には図示しない一組の歪みゲージが設けられている。負荷リング32とワークベース33との間にトルクが作用してセンサ軸36がねじられると、その外周面に設けられた歪みゲージによってねじり歪みの大きさに対応した信号が出力される。その出力信号は不図示の電子回路に入力され、トルク信号に換算されてその電子回路から出力される。電子回路から出力されたトルク信号は測定ユニット22の内部スペースに設けられた無線通信ユニット40を介して無線送信される。なお、電子回路はワークベース33の裏面側スペースに設けられた出力端子41に接続されている。従って、電子回路から出力されるトルク信号を出力端子41を介して外部へ取り出すこともできる。
【0028】
本形態の劣化管理方法では、測定装置20を巻締装置1に投入して嵌合トルクと負荷トルクとをそれぞれ取得する。具体的には、図7に示した手順でこれらのトルクを取得する。まず、巻締装置1に投入された測定装置20に対して第2シーミングロール5が押し当てられて、その第2シーミングロール5による押し込み量が最大となったタイミングで巻締装置1の稼働を停止する。そして、第2シーミングロール5を図7の矢印方向に移動させて測定装置20の缶体21から離した状態とする。
【0029】
次に、工程Aでは、専用工具45を準備し、その専用工具45を負荷リング32の工具孔35に噛み合わせた状態で、作業者がシーミングチャック10に滑りを生じさせるまでアーム45aを矢印の向きに操作して負荷リング32を回転させる。その操作に応じて測定装置20から出力されるトルク信号を不図示の受信装置で受信する。これにより、専用工具45による操作に対する応答としてトルクの時間的変化が得られる。図8Aはその時間的変化の一例を示している。この図から明らかなように、トルクの時間的変化、つまりトルク波形は作業者による専用工具45の操作に応じてシーミングチャック10が滑り出す時点t1でトルクが最大となる。その最大値はシーミングチャック10による缶蓋101の保持力を意味し、その最大値を嵌合トルクTaとして取得する。
【0030】
工程Aが終了すると、嵌合トルクTaの測定に供した測定装置20を回収し、一定期間経過後に巻締装置1の稼働を開始させる。次に、工程Bでは、稼働中の巻締装置1に測定装置20を投入して測定装置20に対して巻締加工させる。そして、その際に測定装置20から送信されたデータ、つまり測定装置20に対する巻締加工中のトルク信号を受信し、これを時間について展開してトルク波形を得る。例えば、図8Bに示したトルク波形が得られ、その波形の最大値を負荷トルクTbとして取得する。
【0031】
工程A及び工程Bを1セットとしたトルク測定工程は、巻締装置1の所定の稼働時間毎に繰り返し行われる。この稼働時間は適宜定められ、例えば1000時間毎に嵌合トルクTa及び負荷トルクTbをそれぞれ取得する。そして、その都度、嵌合トルクTaと負荷トルクTbとの差分を算出する。これらのデータをグラフとしてまとめると、図8Cに示したようになる。この図から理解できるように、シーミングチャック10の保持力は稼働時間の経過とともに僅かずつ低下するため、嵌合トルクTaは測定毎に低下する。一方、負荷トルクTbにはばらつきが少なく、シーミングチャック10の保持力の範囲内で巻締加工が行われていることが分かる。
【0032】
嵌合トルクTaに関して回帰直線Laを求めると、その回帰直線Laは右下がりの直線となる。同様に、負荷トルクTbに関して回帰直線Lbを求めると、その回帰直線Lbは略水平の、換言すればトルクの値が略一定の直線となる。これら回帰直線La、Lbの交点Xは、第2シーミングロール5にて与えられる加工時の負荷がシーミングチャック10の保持力の限界に達したことを意味する。つまり、これら直線La、Lbが交わる時点txがスリップシームの発生時点として推定される。このことから、嵌合トルクTaと負荷トルクTbとの差分δTは、スリップシームの発生までのトルクの余裕を意味する。よって、その差分δTの大きさを基準とすることによりシーミングチャック10の劣化状態を判断できる。
【0033】
本形態では、差分δTが閾値δTthに達した時点tcをシーミングチャック10の交換時期として運用している。巻締装置1は多数のシーミングチャック10を有しており、各シーミングチャック10の劣化は均一に進行せずにある程度のばらつきがある。従って、閾値δTthは、当該ばらつきに対応する余裕期間Sを見込んで設定されている。
【0034】
このように、本形態の劣化管理方法によれば、シーミングチャック10の劣化状態がシーミングチャック10の絶対的な保持力である嵌合トルクTaと加工時に生じる負荷トルクTbとの差分δTに基づいて判断されるため、シーミングチャック10の劣化状態の判断を行う際にスリップシームが発生するまでの余裕を考慮に入れることができる。
【0035】
本形態では、図7の工程A及び工程Bを含むトルク測定工程を繰り返しているので、この工程を繰り返すほど、工程毎に得られる嵌合トルクTa、負荷トルクTb及び差分δTの各標本数が増えて、図8Cに示した各回帰直線La、Lbの信頼度が高まる。そのため、スリップシームの発生までの余裕をより正確に把握することができるので、シーミングチャック10の劣化状態の判断が正確になる。
【0036】
また、本形態では、共通の測定装置20を巻締装置1に投入することによって嵌合トルクTa及び負荷トルクTbをそれぞれ取得できるので、測定装置20に固有の測定誤差が嵌合トルクTa及び負荷トルクTbの差分δTを得る際に相殺される。これにより、シーミングチャック10の劣化状態の判断が更に正確なものとなる。
【0037】
本発明は上記形態に限定されず、種々の形態にて実施できる。上記形態では、共通の測定装置20を使用して嵌合トルクTa及び負荷トルクTbをそれぞれ取得しているが、これらのトルクを他の方法で取得してもよい。例えば、測定装置20を使用して、嵌合トルクTaのみを取得し、負荷トルクTbについては巻締装置1に内蔵させたトルクセンサなどの検出手段を利用して取得することも可能である。
【0038】
上記形態では、嵌合トルクTa及び負荷トルクTbを取得するにあたり、測定装置20との無線通信によってトルク信号を受信しているが、嵌合トルクTaの取得については測定装置20との無線通信ではなく出力端子41にケーブルを接続してトルク信号を受信することもできる。また、測定装置20に設けた無線通信ユニット40の代わりに測定データを保持できるデータロガーを設けるとともに、図7の工程Bにおいて巻締加工済の測定装置20を回収して測定データを取得するようにして本発明を実施することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 巻締装置
5 第2シーミングロール(シーミングロール)
20 測定装置
21 缶体
10 シーミングチャック
100 缶胴
100a フランジ(上縁部)
101 缶蓋
101a カール部(外周縁部)
Ta 嵌合トルク
Tb 負荷トルク
δT 差分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶蓋の外周縁部と缶胴の上縁部とを重ね合わせた状態で、前記缶蓋をシーミングチャックで保持しつつ前記外周縁部と前記上縁部とにシーミングロールを押し当てて巻締加工を行う巻締装置に適用されるシーミングチャックの劣化管理方法において、
前記シーミングチャックが前記缶蓋を保持する際の保持力である嵌合トルクを、前記シーミングチャックが前記缶蓋を保持した状態で前記巻締装置の稼働を停止させて取得する工程と、前記巻締加工中に前記シーミングチャックに負荷されるトルクの最大値である負荷トルクを、前記巻締装置の稼働中に取得する工程とを備え、
前記各工程で取得した前記嵌合トルク及び前記負荷トルクの差分に基づいて前記シーミングチャックの劣化状態を判断することを特徴とするシーミングチャックの劣化管理方法。
【請求項2】
前記嵌合トルクを取得する工程と、前記負荷トルクを取得する工程とを1セットとしたトルク測定工程を前記巻締装置の所定の稼働時間毎に繰り返し行うとともに、前記トルク測定工程毎に得られる前記差分に基づいて前記劣化状態を判断することを特徴とする請求項1に記載の劣化管理方法。
【請求項3】
前記巻締装置を用いて前記巻締加工にて前記缶蓋を接合し得る缶体を有し、前記嵌合トルクを測定できるとともに前記巻締加工中に前記負荷トルクを測定でき、かつその測定結果を無線送信し又は記憶し得るように構成された測定装置を用意し、前記嵌合トルクを取得する工程及び前記負荷トルクを取得する工程のそれぞれの工程で、共通の前記測定ユニットを前記巻締装置に投入することによって前記嵌合トルク及び前記負荷トルクのそれぞれを取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の劣化管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【公開番号】特開2012−96250(P2012−96250A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244225(P2010−244225)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)