説明

シームレスベルトの矯正装置、およびシームレスベルトの矯正方法

【課題】シームレスベルトをPPS樹脂により押出成形で製造する際に、ベルト表面に発生するスジや凹凸を矯正する装置及び矯正方法を提供する。
【解決手段】シームレスベルト11の矯正装置12は、鏡面からなる内周面23を有し、該内周面23と間隔を隔ててシームレスベルト11を収容する有底筒状の本体21と、本体21に取り外し可能に設けられた蓋体41と、シームレスベルト11の上端部および下端部を鏡面23に固定する固定手段35と、本体21内に収容されたシームレスベルト11を鏡面23に押圧する押圧手段と、鏡面23を加熱する加熱手段71とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シームレスベルトをPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂により押し出し成形で製造する際に、シームレスベルト表面に発生するスジや凹凸を矯正するシームレスベルトの矯正装置、およびシームレスベルトの矯正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シームレスベルトの製造方法としては、遠心成型法と押し出し成形法とがある。遠心成型法では、主にポリイミド樹脂からシームレスベルトを形成する際、図7に示すように、円筒状型91を回転し、この円筒状型91の内周面上に、シームレスベルトの原材料として液状のポリイミド樹脂を、供給ノズル92を用いてスプレー塗布したり流し込んで供給する周知の遠心成型法により、均一な膜厚の無端状ベルトからなるシームレスベルトが形成されていた(特許文献1参照)。
【0003】
前記遠心成型法を用いず、PPS樹脂を押し出し成形してシームレスベルトを製造する方法もあるが、シームレスベルト表面にスジや凹凸が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−96551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来の問題点に鑑みてなされたもので、押し出し成形で製造されたPPS樹脂からなるシームレスベルトの表面に発生するスジや凹凸を矯正することができるシームレスベルトの矯正装置、およびシームレスベルトの矯正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係るシームレスベルトの矯正装置は、鏡面からなる内周面を有し、該内周面と間隔を隔ててシームレスベルトを収容する有底筒状の本体と、
該本体に取り外し可能に設けられた蓋体と、
前記シームレスベルトの上端部および下端部を前記鏡面に固定する固定手段と、
前記本体内に収容されたシームレスベルトを前記鏡面に押圧する押圧手段と
前記鏡面を加熱する加熱手段と、
を備えたものである。
【0007】
鏡面を加熱することで、押圧手段により鏡面に押圧された熱可塑性のシームレスベルトが軟化し、シームレスベルトの表面が内周面である鏡面に圧着する。これにより、鏡面の状態がシームレスベルトの表面に転写され、押し出し成形で発生したシームレスベルト表面のスジや凹凸が無くなり、鏡面状態にすることができる。ここで、鏡面状態とは、シームレスベルト表面のスジや凹凸の深さが1μm未満である状態をいう。
【0008】
前記固定手段は、空気の注入により膨張可能なOリングであることが好ましい。
Oリングは空気を注入すると膨張するため、Oリングが収縮した状態で本体内部にシームレスベルトを収容し、Oリングが膨張した状態で鏡面をシームレスベルトに固定し、鏡面とシームレスベルトとの間を密閉することができる。
【0009】
前記押圧手段は、前記本体内部の気圧を上げることで、前記鏡面に前記シームレスベルトを押圧することが好ましい。
これにより、シームレスベルトを均一に鏡面に押圧することができる。
【0010】
前記加熱手段は、前記鏡面を、前記シームレスベルトを軟化させる軟化温度よりも低い予熱温度で加熱した後、軟化温度まで加熱することが好ましい。
予熱温度で加熱することで、シームレスベルト全体を均等に軟化させ、シームレスベルトが押圧されて膨張することによる厚さムラや偏りによる皺の発生を防止することができる。
【0011】
前記本体に、外部と連通する連通孔と、前記内周面から前記連通孔に至るガイド溝とを設けることが好ましい。
これにより、シームレスベルトを鏡面に押圧したときに、鏡面とシームレスベルトとの間に溜まる空気を抜き、シームレスベルトの表面を均一に成形することができる。
【0012】
また、本発明は、前記課題を解決するための手段として、
シームレスベルトの矯正方法において、
前記シームレスベルトを円筒形状の金型の鏡面からなる内周面に沿って収容し、
前記シームレスベルトの上端部および下端部を前記鏡面に固定し、
前記シームレスベルトを中心から外方に向かって前記鏡面に押圧し、
前記鏡面を加熱するものである。
【0013】
鏡面を加熱することで、鏡面に押圧された熱可塑性のシームレスベルトが軟化し、シームレスベルトの表面が内周面である鏡面に圧着する。これにより、鏡面の状態がシームレスベルトの表面に転写され、押し出し成形で発生したシームレスベルト表面のスジや凹凸が無くなり、鏡面状態にすることができる。
【0014】
前記本体内部の気圧を上げることで、前記シームレスベルトを前記鏡面に押圧することが好ましい。
これにより、シームレスベルトを均一に鏡面に押圧することができる。
【0015】
前記鏡面を、前記シームレスベルトを軟化させる軟化温度よりも低い予熱温度で加熱した後、軟化温度まで加熱することが好ましい。
予熱温度で加熱することで、シームレスベルト全体を均等に軟化させ、シームレスベルトが押圧されて膨張することによる厚さムラや偏りによる皺の発生を防止することができる。
【0016】
前記シームレスベルトを前記鏡面に押圧する際、前記鏡面と該鏡面に押圧された前記シームレスベルトとの間に発生する空気を、前記本体外部に放出することが好ましい。
鏡面とシームレスベルトとの間に溜まる空気を放出することで、シームレスベルトの表面を均一に形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鏡面に熱可塑性のシームレスベルトを押圧し、かつ、鏡面を加熱するので、シームレスベルトが軟化し、シームレスベルトの表面が鏡面に圧着する。これにより、鏡面の状態がシームレスベルトの表面に転写され、押し出し成形で発生したシームレスベルト表面のスジや凹凸が無くなり、鏡面状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る実施形態のシームレスベルトの矯正装置を示す斜視図である。
【図2】図1のシームレスベルトの矯正装置の部分拡大断面図である。
【図3】図2のOリングの斜視図である。
【図4】押し出し成形され表面にスジが入った状態のシームレスベルトの斜視図である。
【図5】図1の矯正装置で表面を鏡面状態に加工されたシームレスベルトの斜視図である。
【図6】図5のシームレスベルトにおいてガイド溝の跡から外側を切り落としたシームレスベルトの斜視図である。
【図7】従来のポリイミド樹脂からシームレスベルトを形成する際に使用される円筒状型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0020】
図1に、本発明の実施形態に係るシームレスベルト11の矯正装置12を示す。この矯正装置12は、内部にシームレスベルト11を収容する本体21と、本体21に取り外し可能な蓋体41と、蓋体41を本体21に取り外し可能に支持する支持部材51と、本体21の内周面を加熱する加熱手段である加熱装置71とを備えている。
【0021】
シームレスベルト11は、厚さが50μmから300μmのチューブ状のベルトであり、例えば、転写ベルトとして使用される。
【0022】
本体21は、底体22を一体に設けた有底円筒形状の金型であり、内周面23が鏡面に形成されている。図2に示すように、本体21には、内周面23の周方向に形成されたガイド溝25と、このガイド溝25から本体21外部に至る連通孔26とが設けられている。ガイド溝25は、後述する固定手段である2つのOリング35の間であって、本体21の上側と下側の2カ所に設けられている。連通孔26は、ガイド溝25から半径方向外方に向かって伸びる孔であり、本体21の外部と内部とを連通している。また、本体21の上部には、後述するクランプ61と係合する係合溝28が周方向に設けられている。この本体21は、例えば1メガパスカルの内圧にまで耐えることができる。
【0023】
底体22には、底体22から上方に向かって伸びる円柱形状の突出部30が設けられている。底体22と突出部30との間には周方向に溝31が設けられており、この溝31にOリング35が嵌合されている。
【0024】
蓋体41は、本体21の上端面32と密着する円板形状の円板部42と、円板部42から下方に向かって突出する突出部43とから構成されている。図2に示すように、蓋体41には、円板部42と突出部43とを貫通する貫通孔44が形成されている。この貫通孔44により本体21外部から、押圧手段である高圧の空気を本体21内部に送り込むことができる。また、蓋体41は金属製である。更に、突出部43には周方向に溝45が設けられており、この溝45にOリング35が嵌合されている。
【0025】
Oリング35は、図3に示すように、内部が中空になっており空気の注入により膨張可能なリング部36と、このリング部36に空気を注入する注入弁37とから構成されている。リング部36は、例えば、0.8メガパスカルの内圧にまで耐えることができるものである。また、リング部36の外周面38には、周方向に複数の凹部39が形成されている。
【0026】
支持部材51は、鉛直方向に延びる基部52と、基部52から水平方向に延びる腕部53とから構成された公知の支持部材である。鉛直方向に位置調整可能な腕部53の円柱部54の下端が、蓋体41と連結されている。
【0027】
支持部材51により、本体21に取り付けられた蓋体41は、公知のクランプ61により本体21に固定される。クランプ61は、断面が凹形状であり、2つの半円状の環状部62が軸63周りに開閉する。環状部62は周壁64と、この周壁64の上端から中心に向かって伸びる上壁65と、周壁64の下端から中心に向かって伸びる底壁66とからなる。環状部62を開いた状態で、クランプ61を矢印A方向に移動させ、蓋体41および本体21とクランプ61の中心が一致する位置で環状部62を閉じる。これにより、クランプ61の上壁65が蓋体41の上面と係合し、底壁66が本体21の係合溝28と係合することで、蓋体41を本体21に固定する。
【0028】
加熱装置71は、本体21の外周面に巻かれた温水ジャケット72と、この温水ジャケット72内の水温を制御する温度制御装置73とから構成された公知の加熱装置である。温度制御装置73の内部で温水を加熱または冷却し、流入管74を介して矢印B方向に温水ジャケット72内に送る。この温水が温水ジャケット72内を循環し、本体21を介して鏡面23を加熱または冷却する。そして、温水は流出管75を介して矢印C方向に温水ジャケット72から温度制御装置73に戻される。ただし、加熱装置71に関しては、鏡面23を加熱する限り前記温水ジャケット72に限定されず、例えば、バンドヒータなどの面発熱体を本体21の外周面に巻き付けてもよい。
【0029】
続いて、前記構成からなるシームレスベルト11の矯正装置12の動作、すなわちシームレスベルト11の矯正方法の手順について説明する。
【0030】
図4に示すように、押し出し形成で製造されたシームレスベルト11の表面には、無数のスジ13が製造上、発生する。このスジ13の深さは、数μm程度である。
【0031】
このスジ13を矯正するために、まず本体21の内部にシームレスベルト11を収容する。このとき、底体22のOリング35は収縮しているので、Oリング35と鏡面23との間に間隔ができ、シームレスベルト11を本体21内に収容することができる。収容されたシームレスベルト11は鏡面23の内側に、鏡面23と所定の隙間を設けて配置される。次に、支持部材51により蓋体41を本体21に向かって移動し、円板部42の周縁を本体21の上端面32に密着させ、クランプ61により蓋体41を本体21に固定することで、本体21内部を密閉する。
【0032】
ここで、蓋体41に設けた図2のAに示す管から、注入弁37を通ってリング部36に空気を注入し、リング部36を膨張させる。すると、リング部36の外周面38がシームレスベルト11を鏡面23に押圧し、上下2つのOリング35の間において、鏡面23とシームレスベルト11との間の所定の隙間を密閉する。これにより、シームレスベルト11を鏡面23に固定することができる。
【0033】
次に、蓋体41の貫通孔44から、本体21内部に高圧の空気を送ることにより、本体21内部の圧力を高め、前記2つのOリング36の間において、シームレスベルト11の表面全体を鏡面23に押圧する。また、本体21にガイド溝25と連通孔26とを設けているので、シームレスベルト11を鏡面23に押圧したときに、シームレスベルト11と鏡面23との間に溜まる空気をガイド溝25から連通孔26を通って、外部に放出することができる。
【0034】
そして、温水ジャケット72により鏡面23を、予熱温度として、35〜70℃、例えば55℃まで加熱する。このプリヒートにより、シームレスベルト11全体を均等に温めることができる。従って、シームレスベルト11が本体21内部を高圧にすることにより、押圧されて膨張することに伴う厚さムラや偏りによる皺の発生を防止することができる。
【0035】
更に、所定の時間が経過すると、鏡面23をシームレスベルト11が軟化する温度、例えば90℃前後まで加熱する。この本加熱と前記プリヒートとを合わせて、例えば30分間、シームレスベルト11を加熱する。これにより、鏡面23に押圧された熱可塑性のシームレスベルト11が軟化し、シームレスベルト11の表面が鏡面23に圧着する。従って、鏡面23の状態がシームレスベルト11の表面に転写され、押し出し成形で発生したシームレスベルト11表面のスジ13や凹凸が無くなり、鏡面状態にすることができる。鏡面状態とは、具体的には、スジ13や凹凸の深さが1μm未満の鏡面のことをいう。
【0036】
本実施形態においては、本体21から加熱後のシームレスベルト11を取り出すと、図5に示すように、2つのOリング35に固定されていた部分76の間に、ガイド溝25の跡77が形成され、2つのガイド溝25の跡77に挟まれた部分78が鏡面に成形される。従って、ガイド溝25の跡77を含めて跡77から外側の部分を切り取ることで、図6に示す表面が鏡面状態に成形されたシームレスベルト11を得ることができる。
【0037】
ただし、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。
【0038】
前記予熱温度および軟化温度に関しては、シームレスベルト11の表面に鏡面状態を転写できる限り、特に限定されない。同様に、シームレスベルト11の加熱時間は、シームレスベルト11の表面に鏡面状態を転写できる限り、特に限定されない。
【0039】
また、本体21を常時、予熱温度である例えば55℃に維持する場合において、本体21内にシームレスベルト11を収容、固定し、シームレスベルト11の表面を鏡面23に押圧する。そして、鏡面23をシームレスベルト11が軟化する温度である、例えば90℃前後まで加熱し、鏡面23の状態がシームレスベルト11の表面に転写された後、予熱温度まで戻すことにより、連続運転ができるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
11 シームレスベルト
12 矯正装置
21 本体
23 内周面(鏡面)
25 ガイド溝
26 連通孔
35 Oリング(固定手段)
41 蓋体
71 加熱装置(加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡面からなる内周面を有し、該内周面と間隔を隔ててシームレスベルトを収容する有底筒状の本体と、
該本体に取り外し可能に設けられた蓋体と
前記シームレスベルトの上端部および下端部を前記鏡面に固定する固定手段と、
前記本体内に収容されたシームレスベルトを前記鏡面に押圧する押圧手段と
前記鏡面を加熱する加熱手段と、
を備えたことを特徴とするシームレスベルトの矯正装置。
【請求項2】
前記固定手段は、空気の注入により膨張可能なOリングであることを特徴とする請求項1に記載のシームレスベルトの矯正装置。
【請求項3】
前記押圧手段は、前記本体内部の気圧を上げることで、前記鏡面に前記シームレスベルトを押圧することを特徴とする請求項1又は2に記載のシームレスベルトの矯正装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、前記鏡面を、前記シームレスベルトを軟化させる軟化温度よりも低い予熱温度で加熱した後、軟化温度まで加熱することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシームレスベルトの矯正装置。
【請求項5】
前記本体に、外部と連通する連通孔と、前記内周面から前記連通孔に至るガイド溝とを設けたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシームレスベルトの矯正装置。
【請求項6】
シームレスベルトの矯正方法において、
前記シームレスベルトを円筒形状の金型の鏡面からなる内周面に沿って収容し、
前記シームレスベルトの上端部および下端部を前記鏡面に固定し、
前記シームレスベルトを中心から外方に向かって前記鏡面に押圧し、
前記鏡面を加熱することを特徴とするシームレスベルトの矯正方法。
【請求項7】
前記本体内部の気圧を上げることで、前記シームレスベルトを前記鏡面に押圧することを特徴とする請求項6に記載のシームレスベルトの矯正方法。
【請求項8】
前記鏡面を、前記シームレスベルトを軟化させる軟化温度よりも低い予熱温度で加熱した後、軟化温度まで加熱することを特徴とする請求項6又は7に記載のシームレスベルトの矯正方法。
【請求項9】
前記シームレスベルトを前記鏡面に押圧する際、前記鏡面と該鏡面に押圧された前記シームレスベルトとの間に発生する空気を、前記本体外部に放出することを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載のシームレスベルトの矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−284809(P2010−284809A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138144(P2009−138144)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】