説明

シールチェーン

【課題】信頼性の高いシール機能を長期に亘って維持するとともに、効率よく組み立てできるシールチェーンを提供すること。
【解決手段】ブシュ112、112の両端部を突出させて内プレート111、111に圧入してなる内リンク110と、隣接した前後2つの内リンク110のブシュ112内にそれぞれ遊嵌されたピン122、122の両端部を外プレート121、121に圧入してなる外リンク120と、内プレート111と外プレート121の間に配置されたシール機構130とを有し、シール機構130が、ブシュ112の突出端部112aに嵌着された固定リング131と、固定リング131に固着された環状の弾性リップ部材132とを備え、弾性リップ部材132が、ブッシュ112の突出端部112aを囲むように外プレート121の内面に当接するリップを備えているシールチェーン100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンとブシュとの間に封入された潤滑部材(例えば、潤滑油、グリース、固体潤滑材など)が外部へ漏れ出すのを防止するとともに、ピンとブシュとの間に外部から異物が侵入するのを防止するシールチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、粉塵雰囲気中の伝動及び搬送手段として、内プレートと外プレートの間にシール機構を配置して、ピン・ブシュ間に封入したグリース等の潤滑剤の飛散防止と外部からの異物の侵入を防止するようにしたシールチェーンが使用されており、このシール機構としては、Oリングのような環状の弾性シール部材が一般的に用いられているが、さらに、シール機能を改善するように、外プレート内面に当接する弾性シール部材を備えた剛性の内側シールリングをブシュに固定するとともに、その外側に半径方向に移動可能な剛性の外側シールリングを配置し、内側シールリングと外側シールリングの間にOリングのような弾性シール部材を介在させ、外側シールリングをOリングの弾性力で押圧して外プレートと摺接させ、内側シールリングによるシールと外側シールリングによるシールとで半径方向2段にシールするシール機構も提案されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平8−200452号公報
【特許文献2】特開2000−136848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上述したシール機構では、Oリング等の弾性シール部材は、フリーな状態で内プレートと外プレートまたは内側シールリングと外側シールリングのような相対的に回動する二つの部材間に配置しているため、これら二つの部材との接触部分でそれぞれ逆方向の摺動となり、そのため、Oリング等の弾性シール部材に剪断力が作用し、次第に劣化、破損して脱落することが多く、信頼性の高いシール効果を長期に亘って維持することは困難であるという問題がある。
【0004】
また、内プレートと外プレートとの間の狭い空間に、Oリング等の弾性シール部材を個々にフリーな状態で配置するため、取り付け位置やかじり防止等の諸条件を考慮しながらバランスよく取り付けるには手間がかかり、組み立て効率が悪く生産性が低いという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の技術的課題、すなわち、本発明の目的は、信頼性の高いシール機能を長期に亘って維持するとともに、効率よく組み立てできるシールチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本請求項1に係る発明は、一対のブシュの両端部を突出させて一対の内プレートに圧入してなる内リンクと、隣接した前後2つの内リンクの前記ブシュ内にそれぞれ遊嵌された2本のピンの両端部を一対の外プレートに圧入してなる外リンクと、前記内プレートと前記外プレートの間に配置されたシール機構とを有するシールチェーンにおいて、前記シール機構が、前記ブシュの突出端部に嵌着された固定リングと、該固定リングに固着された環状の弾性リップ部材とを備え、該弾性リップ部材が、前記ブッシュの突出端部を囲むように前記外プレート内面に当接するリップを有することにより、前記課題を解決したものである。
【0007】
本請求項2に係るシールチェーンは、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記固定リングが、前記弾性リップ部材を固着する環状の凹部を備えていることにより、前記課題を解決したものである。
【0008】
本請求項3に係るシールチェーンは、請求項1または請求項2に記載の発明の構成に加えて、前記固定リングが、前記弾性リップ部材を囲むように配置された異物侵入防止用リングを備えていることにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
本請求項4に係るシールチェーンは、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記固定リングが、同心円状に積層された複数の固定リングからなり、それぞれの固定リングに前記弾性リップ部材が固着されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0010】
本請求項5に係るシールチェーンは、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記リップが、同心円状に複数形成されていることにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
本請求項6に係るシールチェーンは、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記リップが、三角形状の断面を有することにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
本請求項7に係るシールチェーンは、請求項1乃至請求項5いずれかに記載の発明の構成に加えて、前記リップが、円弧状の断面を有することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシールチェーンは、一対のブシュの両端部を突出させて一対の内プレートに圧入してなる内リンクと、隣接した前後2つの内リンクの前記ブシュ内にそれぞれ遊嵌された2本のピンの両端部を一対の外プレートに圧入してなる外リンクと、前記内プレートと前記外プレートの対向面の間に配置されたシール機構とを有するので、ピンの外周面とブシュの内周面との間に封入された潤滑油の外部への漏出と、ピンの外周面とブシュの内周面との間に外部からの異物の侵入を防止できるとともに、以下のような本発明に特有の効果を奏するものである。
【0014】
すなわち、本請求項1に係るシールチェーンによれば、前記シール機構が、ブシュの突出端部に嵌着された固定リングと、固定リングに固着された環状の弾性リップ部材とを備え、弾性リップ部材が、ブッシュの突出端部を囲むように外プレート内面に当接するリップを有するので、摺動部分はリップのみとなって、剪断応力に基づく劣化が抑制されるとともに、ブシュ突出端部が外プレートと干渉し、一定以上の変形が防止されるので、シール機能を長期に亘って確実に維持できる。しかも、弾性リップ部材と固定リングは一体化しており、ブシュに圧入するだけで外プレートと内プレートの間にシール機構を簡単に配置できるので、効率よく組み立てでき、生産性が向上する。
【0015】
請求項2に係るシールチェーンによれば、請求項1に記載の発明が奏する効果に加えて、固定リングが、弾性リップ部材を固着する環状の凹部を備えているので、固着面積が広くなり、強固に固着することができるので、耐久性が向上する。
【0016】
本請求項3に係るシールチェーンによれば、請求項1または請求項2に記載の発明が奏する効果に加えて、固定リングが、弾性リップ部材の外周を囲むように配置された異物侵入防止用リングを備えているので、大きな粒子がシール機構の内部に侵入するのを阻止して、内部に配置している環状の弾性リップ部材の損傷を防止するとともに、横荷重、すなわち、チェーンの進行方向と直交する方向の荷重、によるリップ部の過剰な変形を防止して、シール機能を長期に亘って維持することができる。
【0017】
本請求項4に係るシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のの発明が奏する効果に加えて、固定リングが、同心円状に積層された複数の固定リングからなり、それぞれの固定リングに弾性リップ部材が固着されているので、多段のシールを容易に得ることができるとともに、内側の固定リングの外径と外側に積層する固定リングの内径を一サイズ大きいブシュの外径と同じにすると、外側の固定リングは、一サイズ大きいブシュのチェーンに対し互換性を有するので、有効に利用することができる。
【0018】
本請求項5に係るシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、リップが、同心円状に複数形成されているので、シールが半径方向多段となってシール機能が向上する。また、外側のリップを外プレートとに対する押し付け力を大きくとると、内側のリップの劣化が防止できるので、外側のリップが劣化や損耗によりシール効果が喪失してしても、内側のリップがシール機能を十分に発揮できるので長期に亘ってシール機能を有効に維持できる。
【0019】
本請求項6に係るシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、リップが、三角形状の断面を有するので、外プレートとの摺動抵抗が小さく、しかも、固定リングに向かって厚肉となって強度が高くなるので、耐久性が向上する。
【0020】
本請求項7に係るシールチェーンによれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の発明が奏する効果に加えて、リップが、円弧状の断面を有するので、横荷重により半径方向に変位しても外プレートとの接触面は常に円弧面であるので、安定して接触でき、確実なシール機能を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のシールチェーンは、一対のブシュの両端部を突出させて一対の内プレートに圧入してなる内リンクと、隣接した前後2つの内リンクのブシュ内にそれぞれ遊嵌された2本のピンの両端部を一対の外プレートに圧入してなる外リンクと、内プレートと外プレートの間に配置されたシール機構とを有し、シール機構が、ブシュの突出端部に嵌着された固定リングと、固定リングに固着された環状の弾性リップ部材とを備え、弾性リップ部材が、ブシュの突出端部を囲むように前記外プレート内面に当接するリップを有することにより、信頼性の高いシール機能を長期に亘って維持することができるとともに、シールチェーンの組み立てを効率よく行うことができれば、その具体的な態様は如何なるものであってもよい。
【0022】
すなわち、シールチェーンを構成するチェーン自体は、内プレートと外プレートの間にシール機構を配置できれば、ローラをブシュに外嵌したローラチェーンであってもブシュチェーンであってもよい。
【0023】
シール機構を構成する固定リングは、内プレートから突出したブシュにしまり嵌め等により強固に嵌着できれば、スチールのような金属やプラスチック等何れのものでも使用できる。また、複数の固定リングを同心円状に嵌め合わせて積層体としてもよい。
【0024】
環状の弾性リップ部材は、リップ自体で構成してもよく、固定リングへ固着する固着部とリップとで構成し、この固着部に直接、あるいは、連結部を介してリップを設けてもよい。また、これらリップ、固着部及び連結部は弾性材で成形され、弾性材としては、耐摩耗性、耐油性、耐熱性等の点から、ニトリルゴム(NBR)、ウレタンゴム(ポリウレタン)、クロロプレンゴム、フッ素ゴム(6フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン共重合体)等のゴム類が好ましい。また、リップは種々の形状を取り得るが、外プレート内面に当接する先端部を鋭角とした三角形状の断面や円弧状の断面とすると耐久性とシール効果に優れるので好ましい。
【0025】
固定リングに対する弾性リップ部材の固着手段は、強固に固着できれば如何なる手段も取り得るが、焼き付けや接着剤によるものが簡便で好ましい。弾性リップ部材の固着位置は、固定リングの外周面でも、外プレートとの対向面であってもよい。また、外プレート方向が開放した環状の凹部を形成し、この凹部に嵌挿固着してもよい。この凹部としては、断面形状で半円等の円弧状、四角形あるいは台形、すなわち、蟻溝状としてもよく、さらに、外プレート方向及び半径方向上部または下部が開放された段差部であってもよい。
【0026】
また、固着された弾性リップ部材の外周を囲むように、固定リングの外面の外周または固定リングの外周面に、異物侵入防止用リングを外プレート方向に突出するように設けてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。ここで、実施例1乃至実施例5は、三角形状の断面を有するリップを用いたものであり、実施例6乃至実施例9は、円弧状の断面を有するリップを用いたものである。
【0028】
まず、本発明の実施例1について、図1乃至図3を参照して説明する。図1は、シールチェーンの全体構造を説明する平面図であり、図2は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図3は、図1にAとして示したシール機構の拡大断面図である。
【0029】
本実施例のシールチェーン100は、図1に示すように、チェーンの長手方向と直交する方向に離間する一対の内プレート111、111と、この内プレート111に両端部を突出させて圧入した一対の円筒状のブシュ112と、ブッシュ112に遊嵌したローラ113とからなる内リンク110と、一対の内プレート111、111の外側でチェーンの長手方向と直交する方向に離間する一対の外プレート121、121と、ブシュ112内に遊嵌され一対の外プレート121、121に圧入したピン122とからなる外リンク120とが交互に連結され、内プレート111と外プレート121の間、すなわち、内プレート111と外プレート121の対向面間にシール機構130が配置されている。
【0030】
シール機構130は、図2に示すように、ブシュ112の突出端部112aに嵌着される固定リング131と、この固定リング131の外周面に固着された環状の弾性リップ部材132とで構成され、弾性リップ部材132は、先端部が半径方向外方に向いた三角形状の断面を有し、固定リング131に固着する部位を固着部132b、固定リング131から突出した突出部をリップ132aとして、弾性材で一体に成形されている。
【0031】
そして、シール機構130は、図3に示すように、固定リング131の内周面をブシュ112の突出端部112a外周面にしばり嵌めで嵌着し、ピン122を遊嵌したブシュの突出端部112aの外周を囲むように、リップ132aの先端を外プレート121の内面に当接させて内プレート111と外プレート121の間に配置している。
【0032】
このように、弾性リップ部材132は、固定リング131に固着されているので、リップ132aが当接する外プレート121のみと摺動し、剪断応力に基づく劣化が抑制され、シール機能を長期に亘って発揮できる。また、固定リング131と弾性リップ部材132とが一体となってシール機構130を構成しており、固定リング131をブシュ112に圧入させるだけで装着できのでるので、組み立て効率が向上して生産性を高めることができる。さらに、リップは、弾性材で成形されているので、三角形状の断面とあいまって、外プレートとの摺動抵抗が低く、横荷重によって容易に変形するので、シール機能が高められ、耐久性も向上する。
【0033】
次に、本発明の別の実施例2乃至5について図4乃至図11を参照して説明する。これら実施例2乃至5は、前述した実施例1とは、シール機構の形態のみが異なっており、その他の具体的な構成は同じであるから、実施例1のシールチェーン100と同一の部材に対応する200番台(実施例2)、300番台(実施例3)、400番台(実施例4)及び500番台(実施例5)の符号を付して重複する説明は省略する。
【0034】
図4及び図5は、本発明の実施例2を示したもので、図4は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図5は、内プレートと外プレートとの間に配置したシール機構の拡大断面図である。
本実施例のシール機構230は、図4に示すように、小径部231aと大径部231bとで形成された固定リング231と、これら小径部231aの外周面と大径部231bの外面とで形成させた段差状の凹部231cに嵌挿固着された環状の弾性リップ部材232とから構成され、弾性リップ部材232は、凹部231cに固着される四角形状の断面を有する固着部232bと、固着部232bの外周から外プレート方向に突出し、先端部が半径方向外方に向いた三角形状の断面を有するリップ232aとからなり、これら固着部232bとリップ232aは弾性材で一体成形されている。
【0035】
そして、シール機構は230は、図5に示すように、固定リング231をブシュ212の突出端部212a外周面にしばり嵌めで嵌着し、ブシュの突出端部212aの外周を囲むように、リップ232aの先端を外プレート221に当接させて内プレート211と外プレート221の間に配置している。
【0036】
このように、弾性リップ部材232は、段差状の凹部231cに固着されるので、固着面積が大きく強固に固着されるので耐久性が向上する。
【0037】
図6及び図7は、本発明の実施例3を示したもので、図6は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図7は、内プレートと外プレートとの間に配置したシール機構の拡大断面図である。
本実施例におけるシール機構330は、図6に示すように、小径部331aと大径部331bとで形成された固定リング331と、これら小径部331aの外周面と大径部331bの外面とで形成させた段差状の凹部331cに固着された環状の弾性リップ部材332とから構成され、弾性リップ部材332は、凹部331cに固着される四角形状の断面を有する固着部332bと、固着部332bの外面に同心円状に形成され、先端部が半径方向外方に向いた三角形状の断面を有する複数のリップ332aからなり、これらは弾性材で一体に成形されている。本実施例では、外側リップ332c、中間リップ332d、外側リップ332eの3つのリップが設けられている。
【0038】
そして、シール機構330は、図7に示すように、固定リング331の内周面をブシュ312の外周面にしばり嵌めで嵌着し、ブシュの突出端部312aの外周を囲んで半径方向に多段にシールするように、外側リップ部332c、中間リップ部332d、内側リップ部332eの先端を外プレート321の内面にそれぞれ当接させて内プレート311と外プレート321の間に配置している。
【0039】
このように、本実施例のシール機構330は、同心円状に形成された複数のリップ332c、332d、332eにより多段のシールを構成しているので、シール機能を著しく向上させることができる。また、外側のリップ332cが劣化や損傷によりシール機能を損なっても、内側のリップ332dがシール機能を発揮するので、長期に亘ってシール機能を維持できる。
【0040】
図8及び図9は、本発明の実施例4を示したもので、図8は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図9は、内プレートと外プレートの間に配置したシール機構の拡大断面図である。
本実施例のシール機構430は、図8に示すように、同心円状に積層した外側固定リング431a、中間固定リング431b、内側固定リング431cとからなる固定リング431と、これら固定リング431a、431b、431cの外面にそれぞれ固着された外側弾性リップ部材432a、中間弾性リップ部材432b、内側弾性リップ部材432cとからなる環状の弾性リップ部材432とで構成され、これら外側弾性リップ部材432a、中間弾性リップ部材432b、内側弾性リップ部材432cは、弾性材で成形され、先端部が半径方向外方に向いた断面三角形状のリップ自体からなり、同心円状に固定リング431a、431b、431cの外面から突出している。
【0041】
そして、シール機構400は、図9に示すように、固定リング431の内周面をブシュ412の外周面412aにしばり嵌めで嵌着し、ブシュの突出端部412aを囲んで半径方向に多段にシールするように、それぞれの弾性リップ部材432a、432b、432cの先端を外プレート421の内面に当接させて内プレート411と外プレート421の間に配置している。
【0042】
このように、これら環状の弾性リップ部材432a、432b、432cは、実施例3の複数のリップと同様に多段のシールを構成して、シール機能を向上させる。また、外側に積層する固定リング432a、432bの内径を一サイズ大きいブシュの外径に適合する大きさとすると、弾性リップ部材を固着した外側の固定リング432b、432cは、ブシュの外径の異なるチェーンに対し互換性を有するので、有効に利用することができる。
【0043】
図10及び図11は、本発明の実施例5を示したもので、図10は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図11は、内プレートと外プレートとの間に配置したシール機構の拡大断面図である。
本実施例のシール機構530は、図10に示すように、異物侵入防止用リング531aを備えた固定リング531と、固定リング531に固着された環状の弾性リップ部材532とから構成され、異物侵入防止用リング531aは、外プレート521方向に突出するように固定リング本体531bの外面の外周に一体に設けられ、弾性リップ部材532は、弾性材で成形され、先端部が半径方向外方に向いた断面三角形状のリップ自体からなり、異物侵入防止用リング531aの内側で、先端部が異物侵入防止用リング531aの端部から突出するように、固定リング本体531bの外面に固着されている。
【0044】
そして、シール機構530は、図11に示すように、固定リング531の内周面をブシュ512の外周面にしばり嵌めで嵌着し、ブシュの突出端部512aを囲むように、弾性リップ部材532の先端を外プレート521の内面に当接させて内プレート511と外プレート521の間に配置している。
【0045】
このように、本実施例のシール機構530は、固定リング531の外面の外周に、弾性リップ部材532を囲むように異物侵入防止用リング531aを備えているので、大きな粒子がシール機構の内部に侵入するのを阻止して、内部に配置している環状の弾性リップ部材532の損傷を防止しするとともに、横荷重によるリップの過剰な変形を防止して、シール機能を長期に亘って維持することができる。
【0046】
以上の実施例では、リップ部の断面形状を三角形としたものであるが、断面形状を円弧とした実施例6乃至9について図12乃至図19を参照して説明する。ここで、断面形状が円弧とは、円形、半円形、楕円形、半楕円形等、少なくとも外プレートに対する面が円弧面を備えているものを意味する。
なお、実施例6乃至9は、前述した実施例1とは、シール機構の形態のみが異なっており、その他の具体的な構成は同じであるから、実施例1のシールチェーン100と同一の部材に対応する600番台(実施例6)、700番台(実施例7)、800番台(実施例8)及び900番台(実施例9)の符号を付して重複する説明は省略する。
【0047】
図12及び図13は、本発明の実施例6を示したもので、図12は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図13は、内プレートと外プレートとの間に配置したシール機構の拡大断面図である。
本実施例のシール機構630は、図12に示すように、小径部631aと大径部631bとで形成された固定リング631と、小径部631aの外周面と大径部631bの外面とで形成された段差状の凹部631cに固着された環状の弾性リップ部材632とから構成され、弾性リップ部材632は、凹部631cに嵌合するる長方形の断面を有する固着部632bと、円形の断面を有するリップ632aと、半径方向外方に向き、リップ632aを固着部632bに連結する連結部632cとからなり、これらは弾性材で一体に成形されるとともに、連結部632cはリップ632aの径よりも小径、すなわち、薄肉としている。
【0048】
そして、シール機構は630は、図12に示すように、固定リング631をブシュ612の突出端部612a外周面にしばり嵌めで嵌着し、ブシュの突出端部612aを囲むように、リップ632aの先端を外プレート621の内面に当接させて内プレート611と外プレート621の間に配置している。
【0049】
このように、弾性リップ部材632は、リップ632aを断面円形としているので、外プレート621の内面との接触が安定し、確実なシール効果を発揮できる。また、加流後の離型時にリップ部のシール機能の低下となる接触部の破損を防止できるのでシールの不良率が改善され、生産性を高めることができる。さらに、リップ部と固着部とを接続する接続部は、リップの径よりも小径としているので、予めリップ部を外プレートに押圧するように取り付けることができ、横荷重下でのシール機能を確保できる。
【0050】
図14及び図15は、本発明の実施例7を示したもので、図14は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図15は、内プレートと外プレートとの間に配置したシール機構の拡大断面図である。
本実施例におけるシール機構730は、図14に示すように、外面に蟻溝状の凹部731aを同心円状に形成した固定リング731と、この凹部731aに固着された環状の弾性リップ部材732とから構成され、弾性リップ部材732は、凹部に嵌合する台形状の断面を有する固着部732bと、断面半円形のリップ732aから構成され、これらは弾性材で一体に成形されている。
【0051】
そして、シール機構730は、図15に示すように、固定リング731の内周面をブシュ712の外周面にしばり嵌めで嵌着し、ブシュの突出端部712aを囲むように、リップ732aの先端を外プレート721内面に当接させて内プレート711と外プレート721の間に配置している。
【0052】
このように、本実施例のシール機構730は、リップ732aを断面半円状にして、その固着部732bを蟻溝状の凹部731aに嵌合、固着させているので、弾性リップ部材732の強度を著しく向上させることができ、また、凹部731aの開口端部、すなわち、エッジ部を面取りすると変形時の応力集中を緩和して、固定リングに強固に密着できる。
【0053】
図16及び図17は、本発明の実施例8を示したもので、図16は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図17は、内プレートと外プレートの間に配置したシール機構の拡大断面図である。
本実施例のシール機構830は、図16に示すように、実施例7と同様に、外面に蟻溝状の凹部831aを同心円状に形成した固定リング831と、この凹部831aに固着された環状の弾性リップ部材832とから構成され、弾性リップ部材832は、凹部831aに嵌合するように台形状の断面を有する固着部832bと、半径方向上下に設けられた断面円形の2つのリップ832a、832aと、固着部832bとリップ832a、832aを連結する、半径方向外方及び内方に向いた連結部832c、832cとから構成され、これらは弾性材で一体に成形されている。
【0054】
そして、シール機構830は、図17に示すように、固定リング831の内周面をブシュ812の外周面812aにしばり嵌めで嵌着し、ブシュの突出端部812aを囲んで半径方向に2段にシールするように、それぞれのリップ832a、832aの先端を外プレート121の内面に当接させて内プレート811と外プレート821の間に配置している。
【0055】
このように、弾性リップ部材830は、半径方向2段のシールを構成して、シール機能を向上させる。また、リップ832a、832aと固着部832bとを連結する連結部832c、832cは、リップ832aの径よりも小径としているので、予めリップを外プレートに押圧するように取り付けることができ、横荷重下でのシール機能を確保できる。
【0056】
図18及び図19は、本発明の実施例9を示したもので、図18は、本実施例のシール機構を一部断面で示した斜視図であり、図19は、内プレートと外プレートとの間に配置したシール機構の拡大断面図である。
本実施例のシール機構930は、図18に示すように、小径部931aと大径部931bとで形成された固定リング931と、小径部931aの外周面と大径部931bの内面とで形成された段差状の凹部931cに固着された環状の弾性リップ部材932と、この弾性リップ部材932を囲むように固定リング931の外周にシマリ嵌めにより固着された異物侵入防止用リング933とから構成され、弾性リップ部材932は、長方形の断面を有する固着部932bと、固着部932bの外周部から半径方向外方に突出した連結部932cにより接続された円形の断面を有するリップ932aとから構成され、これらは、弾性材で一体に成形されている。また、リップ932aの一部が異物侵入防止用リング933の端部よりも突出するようにしている。
【0057】
そして、シール機構930は、図19に示すように、固定リング931の内周面をブシュ912の外周面にしばり嵌めで嵌着し、ブシュの突出端部912aを囲むように、リップ932aの先端を外プレート921の内面に当接させて内プレート911と外プレート921の間に配置している。
【0058】
このように、本実施例のシール機構930は、固定リング931の外周に異物侵入防止用リング933を備えているので、大きな粒子がシール機構の内部に侵入するのを阻止して、内部に配置している環状の弾性リップ部材932の損傷を防止するとともに、横荷重によるリップの過剰な変形を防止して、シール機能を長期に亘って維持することができる。
【0059】
以上、詳述したように、本発明のシールチェーンは、内プレートと外プレートの間に配置されたシール機構が、ブシュの突出端部に嵌着された固定リングと、該固定リングに固着された環状の弾性リップ部材とを備え、弾性リップ部材が、ブッシュの突出端部を囲むように外プレート内面に当接するリップを有しているので、信頼性の高いシール機能を長期に亘って維持できるとともに、シール機構を簡単に配置できるので、効率よく組み立てでき、生産性が向上するという、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施例1のシールチェーンの構造を説明する平面図。
【図2】本実施例1のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図3】図1にAで示したシール機構の拡大断面図。
【図4】本実施例2のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図5】本実施例2のシール機構の拡大断面図。
【図6】本実施例3のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図7】本実施例3のシール機構の拡大断面図。
【図8】本実施例4のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図9】本実施例4のシール機構の拡大断面図。
【図10】本実施例5のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図11】本実施例5のシール機構の拡大断面図。
【図12】本実施例6のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図13】本実施例6のシール機構の拡大断面図。
【図14】本実施例7のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図15】本実施例7のシール機構の拡大断面図。
【図16】本実施例8のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図17】本実施例8のシール機構の拡大断面図。
【図18】本実施例9のシール機構を一部断面で示した斜視図。
【図19】本実施例9のシール機構の拡大断面図。
【符号の説明】
【0061】
100 ・・・ シールチェーン
110 ・・・ 内リンク
111、211、311、411、511、611、711、811、911
・・・ 内プレート
112、212、312、412、512、612、712、812、912
・・・ ブシュ
112a、212a、312a、412a、512a,612a、712a、812a、912a ・・・ 突出端部
113、213、313、413、513、613、713、813、913
・・・ ローラ
120 ・・・ 外リンク
121、221、321、421、521、621、721、821、921
・・・ 外プレート
122、222、322、422、522、622、722、822、922
・・・ ピン
130、230、330、430、530、630、730、830、930
・・・ シール機構
131、231、331、431、531、631、731、831、931
・・・ 固定リング
132、232、332、432、532、632、732、832、932
・・・ 弾性リップ部材
132a、232a、332a、632a、732a、832a,932a ・・・ リップ
132b、232b、332b、632b、732b、832b、932b ・・・ 固着部
231a、331a、631a、931a ・・・ 小径部
231b、331b、631b、931b ・・・ 大径部
231c、331c、531c、631c、931c ・・・ 段差状凹部
332c ・・・ 外側リップ
332d ・・・ 中間リップ
332e ・・・ 内側リップ
431a ・・・ 外側固定リング
431b ・・・ 中間固定リング
431c ・・・ 内側固定リング
432a ・・・ 外側弾性リップ部材
432b ・・・ 中間弾性リップ部材
432c ・・・ 内側弾性リップ部材
531a、933 ・・・ 異物侵入防止用リング
531b ・・・ 固定リング本体
632c、832c、932c ・・・ 連結部
731a、831a ・・・ 蟻溝状凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のブシュの両端部を突出させて一対の内プレートに圧入してなる内リンクと、隣接した前後2つの内リンクの前記ブシュ内にそれぞれ遊嵌された2本のピンの両端部を一対の外プレートに圧入してなる外リンクと、前記内プレートと前記外プレートの間に配置されたシール機構とを有するシールチェーンにおいて、
前記シール機構が、前記ブシュの突出端部に嵌着された固定リングと、該固定リングに固着された環状の弾性リップ部材とを備え、該弾性リップ部材が、前記ブッシュの突出端部を囲むように前記外プレート内面に当接するリップを有することを特徴とするシールチェーン。
【請求項2】
前記固定リングが、前記弾性リップ部材を固着する環状の凹部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のシールチェーン。
【請求項3】
前記固定リングが、前記弾性リップ部材の外周を囲むように配置された異物侵入防止用リングを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシールチェーン。
【請求項4】
前記固定リングが、同心円状に積層された複数の固定リングからなり、それぞれの固定リングに前記弾性リップ部材が固着されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のシールチェーン。
【請求項5】
前記リップが、同心円状に複数形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のシールチェーン。
【請求項6】
前記リップが、三角形状の断面を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のシールチェーン。
【請求項7】
前記リップが、円弧状の断面形状を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のシールチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−107700(P2007−107700A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301996(P2005−301996)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】