説明

シールド工法用透水性裏込材の製造方法及び装置

【課題】高温環境下でも空隙形成材が過度に膨潤するのを防止できるように管理できるシールド工法用透水性裏込材の製造方法をえる。
【解決手段】シールドトンネル3内で、裏込基材に膨潤された空隙形成材9′を混入して透水性裏込材6を形成する際に、空隙形成材9′を冷却してその膨潤時の温度を冷却機15で管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法でシールドトンネルを構築する際に、シールドトンネルの外面に注入する透水性裏込材の製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルを地下に構築すると、場所によっては水脈をこのシールドトンネルで分断することがある。このようになると、シールドトンネルより下流側には水が供給されなかったり、或いは水の供給が制限される場合が生ずる。
【0003】
このような事態を回避するため、最近はシールドトンネルの外面に透水性裏込材を注入し、これを硬化させて多孔質被覆層とし、この多孔質被覆層の透水性を利用して水の供給を可能としている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−277164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空隙形成材としては、温度に左右される水溶性の繊維を使用することが一般的である。その使用方法は、水膨潤した空隙形成材を裏込基材に混入して透水性裏込材を形成し、この透水性裏込材をシールドトンネルの外面に層状に注入する。このようにすると、透水性裏込材の硬化後に透水性裏込材中の空隙形成材が消滅してその部分が空隙となり、多孔質被覆層となる。
【0005】
しかしながら、シールド工法でシールドトンネルを構築する際には、シールドトンネル坑内は30℃を超えるような温度となっている。このような高温下に空隙形成材がおかれると、該空隙形成材が過度に膨潤し、溶解を始める。したがって、過度に膨潤した空隙形成材を使用した場合、透水性裏込材が硬化する前に空隙形成材が溶解し、空隙の径が細くなり、場合によっては空隙ができず、多孔質被覆層を形成することが困難である。また、過度に膨潤された空隙形成材は、弾力性を失い、裏込基材との攪拌時に切れやすく、短くなった空隙形成材は空隙を連結させにくくなり、多孔質被覆層の透水性が低下してしまう。
【0006】
即ち、シールドトンネル坑内の高温環境下では、空隙形成材の膨潤状態が大きく変わってしまい、多孔質被覆層の品質に大きな影響を及ぼすため、シールドトンネル抗内のような高温環境下での製造管理が難しい問題点があった。
【0007】
また、品質が安定した多孔質被覆層を形成する透水性裏込材を製造するためには、空隙形成材と裏込基材の均一な練り混ぜが重要であるが、混入する空隙形成材と裏込基材の比重の違いにより均一な練り混ぜが難しい問題点があった。
【0008】
本発明の目的は、高温環境下でも空隙形成材が過度に膨潤するのを防止できるように管理できるシールド工法用透水性裏込材の製造方法及び装置を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、シールドトンネル内で安全性を確保して空隙形成材の冷却を行うことができるシールド工法用透水性裏込材の製造方法及び装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、シールドトンネル内でシールド機の掘進につれて移動が容易なシールド工法用透水性裏込材の製造装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、空隙形成材と裏込基材との比重が違つても両者を容易に混ぜることができるシールド工法用透水性裏込材の製造装置を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、ミキサーで形成された透水性裏込材を所要量ストックして注入ポンプに供給できるシールド工法用透水性裏込材の製造装置を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、シールドトンネル内での移動がより容易に行えるシールド工法用透水性裏込材の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成する本発明の構成を説明すると、下記のとおりである。
【0015】
請求項1に記載の透水性裏込材の製造方法は、シールドトンネルの構築時にその外面に注入する透水性裏込材の製造方法であって、
前記シールドトンネル内で、裏込基材に空隙形成材を混入して透水性裏込材を形成する際に、前記空隙形成材を冷却してその膨潤時の温度を管理することを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の透水性裏込材の製造方法は、請求項1において、前記空隙形成材の冷却は水冷により行うことを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の透水性裏込材の製造装置は、シールドトンネル内で移動可能な台車の上に、空隙形成材をストックする空隙形成材ストックタンクと、該空隙形成材ストックタンクから供給する前記空隙形成材を液と共に撹拌して膨潤させる膨潤アジテータと、該膨潤アジテータ内を冷却する冷却装置と、前記膨潤アジテータから供給される膨潤された前記空隙形成材と裏込基材とを混合して透水性裏込材を形成するミキサーと、該ミキサーで形成された前記透水性裏込材をシールドトンネルの外面に供給する注入ポンプとが積載されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の透水性裏込材の製造装置は、請求項3において、前記膨潤アジテータは内部の材料の流れを水平から垂直に変えつつ撹拌して排出する撹拌用ポンプを内蔵することを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の透水性裏込材の製造装置は、請求項3または4において、前記ミキサーで形成された前記透水性裏込材をストックして撹拌しつつ前記注入ポンプに供給する透水性裏込材アジテータが前記台車上に搭載されていることを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の透水性裏込材の製造装置は、請求項3乃至5のいずれか1項において、前記台車は複数台であって前述した各積載物を分散して積載していることを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の透水性裏込材の製造装置は、請求項3において、前記冷却装置は水冷式の冷却装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の透水性裏込材の製造方法では、シールドトンネル内で、裏込基材に空隙形成材を混入して透水性裏込材を形成する際に、空隙形成材を冷却してその水膨潤時の温度を低温に管理するので、シールドトンネル内の高温環境下でも空隙形成材が過度に膨潤するのを防止できる。このため過度に膨潤した空隙形成材の使用により空隙ができず、多孔質被覆層を形成することできなくなるのを防止でき、シールドトンネル内の高温環境下でもシールドトンネルの外面に安定して多孔質被覆層を形成することができる。
【0023】
空隙形成材の冷却を水冷により行うと、冷却材として可燃性の窒素ガス等を使用しないため、シールドトンネル内で安全性を確保して空隙形成材の冷却を行うことができる。
【0024】
本発明の透水性裏込材の製造装置では、シールドトンネル内で移動可能な台車の上に、空隙形成材をストックする空隙形成材ストックタンクと、該空隙形成材ストックタンクから供給する前記空隙形成材を液と共に撹拌して膨潤させる膨潤アジテータと、該膨潤アジテータ内を冷却する冷却装置と、膨潤アジテータから供給される膨潤された空隙形成材と裏込基材とを混合して透水性裏込材を形成するミキサーと、該ミキサーで形成された透水性裏込材をシールドトンネルの外面に供給する注入ポンプとが積載されているので、シールドトンネル内の高温環境下でも空隙形成材が過度に膨潤するのを防止しつつ最適な状態の透水性裏込材を形成してシールドトンネルの外面に供給することができる。
【0025】
膨潤アジテータが内部の材料の流れを水平から垂直に変えつつ撹拌して排出する撹拌用ポンプを内蔵すると、該膨潤アジテータ内の材料の流れを水平から垂直に変えることにより、空隙形成材と裏込基材は短時間で混ざり、高い透水性と適正な圧縮強度を持つ多孔質被覆層を形成する透水性裏込材を製造することができる。
【0026】
ミキサーで形成された透水性裏込材をストックして撹拌しつつ注入ポンプに供給する透水性裏込材アジテータを台車上に搭載しておくと、1回の供給する透水性裏込材の量を確保して安定して供給することができる。
【0027】
台車を複数台として各積載物を分散して積載すると、1台の台車上の積載物の重さが軽量化され、シールドトンネル内で移動を容易に行うことができる。
【0028】
冷却装置が水冷式の冷却装置であると、冷却材として可燃性の窒素ガス等を使用しないため、シールドトンネル内で安全性を確保して空隙形成材の冷却を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明のシールド工法用透水性裏込材の製造方法及び装置を実施するための最良の形態の一例を、図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明に係るシールド工法用透水性裏込材の製造装置の一例を示す概略縦断面図である。
【0031】
シールド工法では、シールド機1で地下を掘削しつつ、1区間のセグメント2を嵌め得る長さの掘削が終了すると、掘削した坑の内面にセグメント2をリング状に嵌めて固定することにより、シールドトンネル3を逐次構築する。セグメント2で1つのリングを構築する毎に、そのセグメント2と地山4との間のテールボイド5に透水性裏込材6を注入する。透水性裏込材6の注入が終了したら、シールド機1の周囲の油圧シリンダー7を伸長させて既設の固定状態のセグメント2を押圧しつつ、シールド機1を作動させて地山4を掘削する。
【0032】
本例のシールド工法用透水性裏込材の製造装置では、シールドトンネル3内で移動可能な1台の台車8の上に、水溶性の繊維等の空隙形成材9をストックしてコンベア10で供給する空隙形成材ストックタンク11と、該空隙形成材ストックタンク11のコンベア10と配管12aを経て供給される空隙形成材9を、配管12bから供給される液である清水と共に撹拌して膨潤させる膨潤アジテータ13と、該膨潤アジテータ13内を熱交換機14を経て冷却する冷却装置15とが積載されている。シールドトンネル3内で移動可能な他の1台の台車16の上に、膨潤アジテータ13から撹拌用ポンプ17で配管18を経て供給される膨潤された空隙形成材9′と、配管19を経て供給される裏込基材とを混合して透水性裏込材6を形成するミキサー21と、このミキサー21で形成された透水性裏込材6を撹拌しつつストックする透水性裏込材アジテータ22と、この透水性裏込材アジテータ22をシールドトンネル3の新しいセグメントリングの外面に配管23で供給する注入ポンプ20とが積載されている。裏込基材は、地上の地上作液プラント25で形成し、配管19でミキサー21に供給する。
【0033】
本例のシールド工法用透水性裏込材の製造方法では、シールドトンネル3内に台車8,16を引き込み、台車8上の空隙形成材ストックタンク11のコンベア10と配管12aを経て空隙形成材9を膨潤アジテータ13に、配管12bから供給される液である清水と共に供給し、撹拌して膨潤させる。この膨潤アジテータ13内を熱交換機14を経て台車8上の冷却装置15で例えば20℃に冷却し、膨潤された空隙形成材9′を形成する。
【0034】
次に、他の1台の台車16の上のミキサー21に、膨潤アジテータ13から膨潤された空隙形成材9′をポンプ17で配管18を経て供給する。また、ミキサー21には、配管19を経て裏込基材を地上作液プラント25から供給し、混合して透水性裏込材6を形成する。このミキサー21で形成された透水性裏込材6を透水性裏込材アジテータ22で撹拌しつつ所定量ストックする。この透水性裏込材アジテータ22内の透水性裏込材6を注入ポンプ20でシールドトンネル3の新しいセグメントリングの外面と地山4との間のテールボイド5に配管23で供給し、多孔質被覆層24をシールドトンネル3の外面に注入する。
【0035】
このようなシールド工法用透水性裏込材の製造方法では、シールドトンネル3内で、裏込基材に膨潤された空隙形成材9′を混入して透水性裏込材6を形成する際に、膨潤された空隙形成材9′を冷却装置15で例えば20℃に冷却してその膨潤時の温度を管理するので、シールドトンネル3内の例えば30℃を超える高温環境下でも空隙形成材9が過度に膨潤するのを防止できる。このため過度に膨潤した空隙形成材9′の使用により空隙ができず、多孔質被覆層24を形成することできなくなるのを防止でき、シールドトンネル3内の高温環境下でもシールドトンネル3の外面に安定して多孔質被覆層24を形成することができる。
【0036】
空隙形成材9の膨潤時間は膨潤温度に支配されるが、このシールド工法用透水性裏込材の製造装置は透水性裏込材6の製造時の温度を常温から0℃の範囲で任意に管理できるため、シールドトンネル3の施工サイクルの影響を受け易い膨潤時間にも容易に対応でき、多孔質被覆層24を形成する透水性裏込材6の製造が可能となる。
【0037】
撹拌翼によるかき混ぜでは、空隙形成材9と裏込基材は比重の違いから均一に混じらず分離してしまうが、撹拌用ポンプ17を組み合わせた膨潤アジテータ13により、該膨潤アジテータ13内の材料の流れを水平から垂直に変えることで、空隙形成材9と裏込基材は短時間で混ざり、高い透水性と適正な圧縮強度を持つ多孔質被覆層24を形成する透水性裏込材6を製造できる。
【0038】
多孔質被覆層24を形成し易い空隙形成材9の膨潤状態は、水膨潤時間と温度によって決定するが、その時間と温度は実験から知見を得ている。
【0039】
膨潤管理の目安は、膨潤水の温度を20℃に維持すると、膨潤時間は10〜20分である。
【0040】
空隙形成材9の混入率にもよるが、前述した膨潤管理を行うことにより以下の性能を持つ多孔質被覆層24を形成できる。
【0041】
透水係数 1.0×10−1〜10−4(cm/sec)
圧縮強度 1.0〜1.5(N/mm
温度制御は、膨潤アジテータ13内及び冷却液の吐出、排出部に設けた温度センサ
からの情報をもとに、ソフト(シーケンサによるプログラム)を用いて、ファジーに制御するシステムを採用している。
【0042】
空隙形成材9の膨潤について温度管理が必要な理由について説明する。現在使用されている空隙形成材9としての溶解性繊維は、たんぱく質を主成分とするゼラチン質の乾燥繊維が使用されている。この乾燥繊維は、水溶性またはアルカリ分解性という性質をもったものであり、その性質を利用し、所望の多孔質被覆層形成のための空洞へ注入した後に1〜2日を要して繊維が溶解することによって多孔質被覆層24を形成する。この繊維は水で膨潤させて使用するが、膨潤した繊維は時間の経過と共に膨潤が進行して劣化し始め、やがて完全に溶解する。膨潤し過ぎて劣化した繊維は、脆弱になり多孔質被覆層24を形成することが難しくなる。なお、繊維の溶解は水温とアルカリ(pH)の影響を受けるが、特に水温による影響が大きい。図2に示すように繊維が溶解する時間は水温によって大きく異なることが実験から判明した。
【0043】
透水性裏込材6を注入する前に繊維が溶解(劣化)せず、注入後に繊維が溶解するためには、透水性裏込材6の製造時の温度を管理して多孔質被覆層24を形成する繊維の状態を維持する必要がある。
【0044】
次に、透水性裏込材6の材料組成について説明する。透水性裏込材6は、A液とB液と空隙形成材9とからなる。A液は、固化剤と助剤と安定剤と水からなる。B液は急硬材からなる。空隙形成材9は膨潤した溶解性繊維で、温度管理が必要である。
【0045】
使用するために膨潤させた繊維の膨潤の進行(溶解)を抑制する唯一の方法は、温度管理することである。実施工においては、注入準備として事前に透水性裏込材6を練り合わせておく必要があり、繊維を溶解させないために温度管理を行わなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るシールド工法用透水性裏込材の製造装置の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明に使用する空隙形成材の一例である繊維が溶解する時間と水質と水温についての実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1 シールド機
2 セグメント
3 シールドトンネル
4 地山
5 テールボイド
6 透水性裏込材
7 油圧シリンダー
8 台車
9 空隙形成材
9′ 膨潤された空隙形成材
10 コンベア
11 空隙形成材ストックタンク
12a,12b 配管
13 膨潤アジテータ
14 熱交換機
15 冷却装置
16 台車
17 撹拌用ポンプ
18 配管
19 配管
20 注入ポンプ
21 ミキサー
22 透水性裏込材アジテータ
23 配管
24 多孔質被覆層
25 地上作液プラント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドトンネルの構築時にその外面に注入する透水性裏込材の製造方法であって、
前記シールドトンネル内で、裏込基材に空隙形成材を混入して透水性裏込材を形成する際に、前記空隙形成材を冷却してその膨潤時の温度を管理することを特徴とする透水性裏込材の製造方法。
【請求項2】
前記空隙形成材の冷却は水冷により行うことを特徴とする請求項1に記載の透水性裏込材の製造方法。
【請求項3】
シールドトンネル内で移動可能な台車の上に、空隙形成材をストックする空隙形成材ストックタンクと、該空隙形成材ストックタンクから供給する前記空隙形成材を液と共に撹拌して膨潤させる膨潤アジテータと、該膨潤アジテータ内を冷却する冷却装置と、前記膨潤アジテータから供給される膨潤された前記空隙形成材と裏込基材とを混合して透水性裏込材を形成するミキサーと、該ミキサーで形成された前記透水性裏込材をシールドトンネルの外面に供給する注入ポンプとが積載されていることを特徴とする透水性裏込材の製造装置。
【請求項4】
前記膨潤アジテータは内部の材料の流れを水平から垂直に変えつつ撹拌して排出する撹拌用ポンプを内蔵することを特徴とする請求項3に記載の透水性裏込材の製造装置。
【請求項5】
前記ミキサーで形成された前記透水性裏込材をストックして撹拌しつつ前記注入ポンプに供給する透水性裏込材アジテータが前記台車上に搭載されていることを特徴とする請求項3または4に記載の透水性裏込材の製造装置。
【請求項6】
前記台車は複数台であって前述した各積載物を分散して積載していることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の透水性裏込材の製造装置。
【請求項7】
前記冷却装置は水冷式の冷却装置であることを特徴とする請求項3に記載の透水性裏込材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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